薬の副作用に関わる薬剤誘導性エンハンサーを網羅的に解析した論文が掲載されました
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東京都医学総合研究所の川路英哉センター長らの研究グループは、2025年4月29日、薬の副作用に関わる薬剤誘導性エンハンサーを網羅的に解析した論文を、科学雑誌Nature Communicationsに発表しました。これにあわせて、同研究所は同日付でプレスリリースをおこないました。
薬の効果や副作用には個人差があり、その一因として遺伝的な要因が関与していることが知られています。これまで、タンパク質をコードする領域内の遺伝子多型と薬剤応答性の関係に着目した研究が数多く実施されてきました。一方、タンパク質をコードしないゲノム領域(非コード領域)にも遺伝子発現を調節するプロモーターやエンハンサーといった機能領域(シス制御エレメント)があり、この中には体質や疾患と相関する一塩基多型が多く存在していることが近年明らかにされつつあります。川路英哉センター長らは、メッセンジャーRNAやエンハンサー領域由来RNA (enhancer RNA、eRNA) の転写開始点を一塩基単位で網羅的に測定し、その結果を元にシス制御エレメントを同定する研究を行ってきました。
本研究では、肝細胞において薬剤により活性化される核内受容体PXR(Pregnane X Receptor)が結合する新しいエンハンサーを発見し、これらが薬剤応答遺伝子の遺伝子発現を上昇させることを明らかにしています。これにより、薬剤の摂取をきっかけにエンハンサーが遺伝子発現を活性化し、薬剤代謝酵素UGT1A1や、ビタミンD不活性化酵素CYP24A1、ビタミンD代謝関連遺伝子群の発現に影響を与えるTSKUといった遺伝子の発現変化を引き起こす、新しい分子メカニズムが明らかになりました。一部の薬剤の副作用としてビタミンD欠乏が起きることが報告されていましたが、その分子的機序を示唆する初めての知見となると、本研究のプレスリリースでは述べています。
今回報告されたシス制御エレメントはすべて、CAGE(Cap Analysis of Gene Expression)法を用いてヒト肝細胞モデルを網羅的に測定したデータと、これを効果的に処理することで高感度にシス制御エレメントを抽出するアルゴリズムCREate法によって同定されました。川路英哉センター長が研究分担者として参画し開発しているデータベース「fanta.bio」では、公開されているCAGEデータをCREate法で解析し、さまざまな細胞におけるシス制御エレメントを網羅的に同定し収載しています。今回の研究成果は、薬剤応答の新しい分子的機序を明らかにしただけでなく、遺伝子発現制御における非コード領域のシス制御領域の重要性を示す実例として、さらにfanta.bioで公開されているシス制御領域情報の信頼性という観点において重要です。fanta.bioが、統合的な転写制御データ基盤として、シス制御領域の生物学的役割や疾患などとの関係を解明する研究に大きく貢献することが期待されます。
本研究の詳細は、論文「Drug-induced cis-regulatory elements in human hepatocytes affect molecular phenotypes associated with adverse reactions」、およびプレスリリース「薬の副作用メカニズムに関わる新たなゲノム制御領域を発見 -ヒト肝細胞における薬剤誘導性エンハンサーを網羅的に解析-」 をご覧ください。
fanta.bio は統合化推進プログラムの研究開発課題「統合的な転写制御データ基盤の構築 」(研究代表者 理化学研究所 粕川雄也 チームディレクター)の一環として構築されています。
関連リンク
- 論文「Drug-induced cis-regulatory elements in human hepatocytes affect molecular phenotypes associated with adverse reactions」| Nature Communications
- プレスリリース「薬の副作用メカニズムに関わる新たなゲノム制御領域を発見 -ヒト肝細胞における薬剤誘導性エンハンサーを網羅的に解析-」(2025年4月29日) | 東京都医学総合研究所
- CREate法
- fanta.bio
- 統合的な転写制御データ基盤の構築 - 採択課題 | NBDCサイト
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