マルチモーダルな質量分析データ解析を可能にするMS-DIAL 5の開発と脂質構造と局在の網羅的解析の論文が掲載されました
- その他
- ファンディング
- 統合化推進プログラム
東京農工大学 グローバルイノベーション研究院の津川裕司教授らの研究グループは、2024年11月28日、脂質の多様性プロファイリング、脂質構造の異性体識別、脂質局在の可視化が可能な質量分析データ解析プログラム「MS-DIAL 5」の論文をNature Communicationsに掲載しました。東京農工大学、JST、慶應義塾大学、理化学研究所およびフランス分子細胞薬理学研究所は同日付でプレスリリースをおこない、その中で本研究の内容を紹介しています。
脂質分子は細胞膜の構成成分であり、細胞内外の物資輸送やタンパク質機能など様々な生体反応において重要な役割を担っています。脂質代謝研究においては質量分析と呼ばれる手法が広く用いられており、近年、目的に応じてさまざまな質量分析法が生み出されていますが、これらから得られる多様な形式のデータを効率良く解析するためのプログラムがなく、データの解析が脂質代謝研究の大きなボトルネックとなっていました。
本研究において、津川教授らは、生体内の脂質研究において必須とされている、(1)脂質多様性を網羅的にプロファイリングするノンターゲットリピドミクス、(2)脂質構造の異性体を識別する構造リピドミクス、(3)脂質分子の局在を可視化する空間リピドミクスと呼ばれる3つの分析手法によって得られたデータの円滑な解析を可能にする質量分析データ解析プログラム「MS-DIAL 5」を開発しました。特に、構造リピドミクス手法で用いられる新たなMS/MS法の1つ electron activated dissociation (EAD) 法のスペクトル解析を可能にしたことと、空間リピドミクスデータの解析環境を整備したことが特徴です。
また、動物の視機能維持に重要とされる超長鎖多価不飽和脂肪酸 (VLC-PUFA) をアシル基として含むホスファチジルコリンの構造解析を目的とし、マウスの目に含まれる脂質成分をEAD法で分析し、「MS-DIAL 5」で解析したところ、従来法では識別できなかった250種類の異性体情報を含む、618種類のユニークな脂質構造情報を同定しました。また、目に含まれるVLC-PUFAの多くは二重結合を6個含むオメガ3脂肪酸であること、そしてVLC-PUFAがホスファチジルコリンの特定の箇所に選択的に濃縮されることなどを示しました。
本研究の詳細は、プレスリリース「複雑かつ多様な脂質代謝を解明する情報解析技術―マルチモーダル質量分析により脂質構造と局在を紐解くー」および論文「MS-DIAL 5 multimodal mass spectrometry data mining unveils lipidome complexities」をご覧ください。
「MS-DIAL 5」の開発の一部は、統合化推進プログラムの研究開発課題「次世代低分子マススペクトルデータベース シン・マスバンクの構築」の一環として実施されました。本課題では、ユーザー主導で高品質な実測マススペクトルをMassBankに保存していく体制の構築を目指し、生データリポジトリ MB-POSTと予測マススペクトルを収載するMassBank in silicoの開発等を主軸に、生体由来の低分子マススペクトルデータの利活用を志向した研究基盤の整備を進めています。