生命の脂質多様性をより短時間で解析する手法の開発 -Shin-MassBank への貢献-
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東京農工大学 津川 裕司 准教授らの研究グループは、これまでの3分の1の時間で生命の脂質多様性を捉えることができる解析手法を報告しました。
近年、生体中の脂質の総体(リピドーム)を解析する研究が注目を集めています。脂質は生体内のエネルギー源となっているだけでなく、細胞膜の構成成分となっているほか、脂溶性ホルモンや炎症に関連する分子として、さまざまな生体応答において重要な役割を果たしています。 それらの脂質分子を包括的に捉えるノンターゲットリピドミクス解析では、液体クロマトグラフィータンデム質量分析(LC-MS/MS)という技術を用いて生体サンプル中の脂質構造を明らかにしますが、従来の方法では1検体につき1時間以上もの測定時間を要していました。
津川准教授らは、ある一種類の脂質分子から構造解析に適した精度の高いMS/MSスペクトルを取得できるDDA法と、脂質分子の種類を問わず網羅的にMS/MSスペクトルを取得するDIA法を組み合わせることで、検出感度を維持しながら解析時間を従来法の最大3分の1に高速化する「Hybrid MS法」を考案しました。本解析法により多種多様なたくさんのサンプルの解析が可能になり、新たな脂質の発見が進むことで、脂質代謝を介した生体応答の深い洞察に貢献するものと期待されます。
詳細は、2024年1月12日付のプレスリリース「生命の脂質多様性をより短時間で解析する手法の開発」および論文「Using data-dependent and independent hybrid acquisitions for fast liquid chromatography-based untargeted lipidomics」をご覧ください。
本研究の一部は統合化推進プログラムの研究開発課題「次世代低分子マススペクトルデータベース シン・マスバンクの構築」の一環として実施されました。本課題では、ユーザー主導で高品質な実測マススペクトルをMassBankに保存していく体制の構築を目指し、生データリポジトリ MB-POSTと予測マススペクトルを収載するMassBank in silicoの開発等を主軸に、生体由来の低分子マススペクトルデータの利活用を志向した研究基盤の整備を進めています。
本課題における今回の研究成果の直接的な関与として、津川准教授は、ヒト血液脂質由来の低分子MS生データのMassBankへの登録、in silico 解析で予測した脂質データのMassBank in silico への適用などを考えているほか、将来、本解析手法を用いた高品質なデータがシン・マスバンクへと集約され、公開・利活用されていくことを期待するとコメントしています。