国立研究開発法人 科学技術振興機構

希少遺伝性疾患の診断精度を向上させる、仮想遺伝子パネルの新たな設計・自動選択手法

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2025年2月27日

ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)は、2025年2月19日、仮想遺伝子パネルの設計に関する論文 がBMC Medical Informatics and Decision Making誌に掲載されたと発表しました。希少・難治性疾患における診断精度向上への寄与が期待されると述べています。

希少疾患は患者数がきわめて少ない疾患のことです。希少疾患の多くは遺伝性であることから患者のゲノム解析は診断を助ける有力なツールですが、データの解釈には高い専門性と時間を要します。そこで、ゲノム解析データの解釈を容易にするために、「仮想遺伝子パネル」と呼ばれる、疾患ごとの関連遺伝子のリストが用いられます。英国の「PanelApp」では350疾患の仮想遺伝子パネルを開発し、提供しています。しかし、希少疾患は10,000件近くが知られており、カバー率は十分とは言えません。また、どの仮想遺伝子パネルを用いるかの選択を誤ると診断がつかない恐れもあります。

本論文は、仮想遺伝子パネルの新たな設計手法および自動選択手法を報告するものです。これらの手法の開発にはDBCLSが取り組んできたナレッジグラフ、オントロジーの知見、技術が応用されています。まず、国際的な疾患名語彙集であるMONDOをベースにしたナレッジグラフを用いて9,998件のヒト疾患分の仮想遺伝子パネルを構築 (PubCaseFinder RDF | RDF Portal ) したうえで、ナレッジグラフに記述されている疾患間の関係性に基づいて、利用する仮想遺伝子パネルを自動変更するアルゴリズムを構築しました。本手法を用いることで、希少疾患の診断精度や効率の向上への貢献が期待できるとしています。

本研究開発を通じて構築した仮想遺伝子パネルは、DBCLSが提供する PubCaseFinder の「[PanelSearch] (https://pubcasefinder.dbcls.jp/panelsearch)」から利用できます。PanelSearchでは、ヒトの希少・遺伝性疾患に関連する遺伝子パネルデータを検索できます。遺伝疾患の原因遺伝子の一覧を閲覧したり、逆に遺伝子から関連疾患を探すことができます。

本研究の一部は、ライフサイエンスデータベース統合推進事業における基盤技術開発プロジェクトの一環として実施されました。

図1:「PubCaseFinder RDF 」の概略。Med2RDF-ontology により、疾患は「med2rdf:Disease 」、遺伝子は 「med2rdf:Gene 」クラスのインスタンスとして定義された。遺伝子と疾患の関連は、Semantics Science Integrated Ontology (SIO) によって定義された 「sio:SIO_000983 」クラスのインスタンスとして定義された。

図2:「PanelSearch」のトップ画面。ヒトの9,998疾患に関連する仮想遺伝子パネルを検索し、利用できる。

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