国立研究開発法人 科学技術振興機構

TogoIDの新たな論文が公開 ID変換の概念を拡張し、データセット間の複雑な生物学的関係の記述を容易に

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2025年1月16日

ライフサイエンス統合データベースセンター(DBCLS)が開発・提供するID変換サービス「TogoID 」の論文が、2025年1月8日、Journal of Biomedical Semanticsから公開 されました。本論文はTogoIDの特徴、これまでの運用実績、ユースケースに加え、2024年9月に新規実装された機能を紹介し、TogoIDがバイオインフォマティクスのためのより強力なツールになっていると述べています。

生命現象の解明や創薬研究にあたっては様々なカテゴリーのデータベースに散在する生物学データの統合解析が必要不可欠です。しかし、生物学においては、同じ遺伝子やタンパク質に対してさまざまな別名や異なる識別子 (ID) が付けられていることがしばしばあり(例えば、乳がんに関係するERBB2遺伝子には、HER2、CD340、HER-2/neuといったたくさんの「別名」が存在します)、異なるデータベースを統合して解析しようとする際、同じ名前や同じ体系のIDに付け直す必要があるため、その読み替え作業には大変な労力を要していました。

TogoIDはこうしたID変換を効率化するためのツールで、2021年に公開を開始しました。2024年12月現在、国内外73のデータベースに由来する105のデータセットを対象としています。2024年9月には、1) 一対のデータセット間で複数の異なる生物学的な関係性を区別したID対応関係を取得できるようにするとともに、2) あるIDが各データベースにおいてどのように表記されているか("ラベル")を表示する機能、3) 利用者が入力したラベルからIDへと変換する機能を実装し、TogoID ver. 2.0 としてリリースしています。

今回公開された論文では、データセット間での生物学的な関係性の区別につき、GlyTouCanに登録されている糖鎖と UniProtに登録されているタンパク質の情報を対応付けるケースを例に挙げ、「糖鎖」と「その糖鎖が結合しているタンパク質」、あるいは「糖鎖」と「その糖鎖の糖転移反応をつかさどる酵素」などを区別し、網羅できるようになったとしています。この機能は、データセット間の関係を定義するのに TogoID が従来から整備していたオントロジー (TogoID Ontology ) を用いることで実現されました。従来の「ID変換」は遺伝子やタンパク質等の異なるID間での単純なマッピングであって、今回実装した生物学的な関係性に基づくマッピングはID変換の概念を拡張するものと論文内で強調しています。また、これらの生物学的関係性に基づく対応を取る上での課題やどこまでその関係性を拡張すべきかといった論点に言及しつつも、生命科学研究におけるデータ統合の有益性を鑑み、調査・拡張を進めていくと宣言しています。

IDに対応するラベルの表示は、TogoIDがサポートする105個のデータセットのうちラベルとして適切な文字列のある65個を対象に実装したと述べています。この表示機能にはDBCLSが別途開発する Grasp を用いています。Grasp は SPARQLエンドポイントに対し、GraphQLでの検索が可能なAPIを提供するミドルウェアです。なお、RDFデータやSPARQLエンドポイントが提供されていないデータベースについては独自に簡易なRDFデータを作成しており、RDF Portal上で利用可能だと述べています。

ラベルからIDへの変換は、利用者が入力したラベルをTogoID内部でIDへ変換する機能です。多くの研究論文内で遺伝子の名称だけが記述され、IDのないためにデータの再解析の障害のひとつになっている現状が、この機能を実装する動機だったとしています。利用者の入力を支援し、TogoIDでの処理を容易にするため、スペルのバリエーションや同義語、スペル・ミスに対応する機能も有しています。こうした入力支援には、DBCLSが別途開発する「PubDictionaries 」を利用したとしています。PubDictionariesは辞書のリポジトリで、ラベルとIDとを対応付けた辞書を作成し、PubDictionariesにアップロードして、同サービスのAPIを用いてラベルからIDへ変換しているとのことです。TogoID用の辞書はPubDictionaries にて閲覧可能です。

詳細は、研究論文「Expanding the concept of ID conversion in TogoID by introducing multi-semantic and label features 」をご覧ください。

また、これら新機能を含むTogoIDの使用方法について、2024年12月19日付でチュートリアル動画が公開されています。あわせてご参照ください。

TogoIDは、ライフサイエンスデータベース統合推進事業における基盤技術開発プロジェクトの一環として開発・提供されています。

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