【統合化推進プログラム】2022年度の新規採択研究開発課題を決定しました
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統合化推進プログラムにおいて、6件の研究開発課題を決定しました。
今回、本プログラムの研究開発提案を2021年12月15日(水)から2022年1月31日(月)までの間に公募したところ、14件の応募がありました。研究総括が研究アドバイザーなどの協力のもと書類選考と面接選考を実施し、新規研究開発課題を選定しました。
各研究開発課題は2022年4月1日より開始し、最長5年間にわたって実施します。なお、第5年次に実施する事後評価の結果に基づき、研究開発期間を最長5年間延長する場合があります。
採択課題一覧は以下の通り。
研究開発課題 | 対象とする主なデータベース | 研究代表者(所属機関・役職) | 概要 |
---|---|---|---|
バイオイメージングデータのグローバルなデータ共有システムの構築 | SSBDデータベース | 大浪 修一 (理化学研究所 チームリーダー) | バイオイメージングデータと生命動態定量データの統合データベースである「SSBDデータベース」を、日本の全ての生命科学研究者が利活用し、かつ日米欧などの国際連携に基づく国際的データ共有基盤として再構築する。また、情報科学的な画像解析手法の開発・共有促進プラットフォームの構築、持続的な運用と発展を可能にするためのシステム開発を実施する。 |
細胞ごとの多様な活性やゲノム変異・多型との関連を探索できるシスエレメント・データベースの開発 | シスエレメント・データベース(仮) | 粕川 雄也 (理化学研究所 チームリーダー) |
シスエレメントを総合的・網羅的に閲覧可能な統合データベースを開発する。具体的には、エンハンサー・プロモーターなどのシスエレメント領域を網羅的に収集し、細胞ごと・状態ごとの活性情報を付加する。また、近傍にあるゲノム変異・多型情報と関連付ける。これらをゲノム-たんぱく質相互作用・オープンクロマチン・メチローム情報と統合する。個人ゲノム・疾患ゲノムの解釈を含むゲノム科学の展開のみならず、急速に広がりつつある一細胞発現解析のより効果的な活用の基盤を目指す。 |
ヒトゲノム・病原体ゲノムと疾患・医薬品をつなぐ統合データベース | KEGG MEDICUS | 金久 實 (京都大学 特任教授) |
ゲノムと疾患や医薬品を分子ネットワークで統合した「KEGG MEDICUS」を拡張し、ヒトゲノムおよびウイルスその他の病原体ゲノムの情報を社会で活用するための基盤データベースとして高度化する。より多くの疾患とネットワークの対応付け、収録データの高品質化とともに、いまだ機能が解明されていない遺伝子・たんぱく質を多く含むウイルスゲノムについて知識を広く体系化する。 |
異分野融合を志向した糖鎖科学ポータルのデータ拡充と品質向上 | GlyCosmos Portal | 木下 聖子 (創価大学 副所長) |
糖鎖科学情報と他のオミクス情報とを統合した「GlyCosmos Portal」を高度化し、微生物、植物、プロテオミクスなどとの異分野融合を推進する。具体的には、リポジトリシステムを拡充し、新規にレクチンマイクロアレイや微生物関連糖鎖情報および糖鎖関連パスウェイデータを受け入れる。また、リポジトリの登録データをキュレーションして公開する仕組みを構築する。 |
蛋白質構造データバンクのデータ駆動型研究基盤への拡張 | PDBj | 栗栖 源嗣 (大阪大学 教授) |
日米欧の国際組織wwPDBの枠組みのもと、構造生物学の基盤データベースである「PDB」(蛋白質立体構造データバンク)と「BMRB」(NMR実験情報データバンク)の日本拠点をさらに効率化して安定的に構築するとともに、AI構造予測技術に対応するためにデータ登録システムの拡張と機械学習用選抜データセットの公開に取り組む。また、立体構造中の分子ポケット情報を自動アノテーションして公開する。 |
マイクロバイオーム研究を先導するハブを目指した微生物統合データベースの特化型開発 | MicrobeDB.jp | 森 宙史 (国立遺伝学研究所 准教授) |
微生物統合データベース「MicrobeDB.jp」について、既存データの更新は高効率化して維持しつつ、国際的に隆盛を極める微生物叢(マイクロバイオーム)研究に特化した国際的なデータハブとして再構築する。具体的には、微生物の表現型やメタゲノム由来のゲノムなどの新しいデータを統合化するとともに、マイクロバイオーム関連のデータ検索・解析機能を大幅に強化し、自由度の高い検索・データ取得を実現する。 |
研究総括による今回の公募の総評は以下の通り。
統合化推進プログラムは、生命科学の情報基盤としてのデータベースの統合化に取り組んできました。統合化の究極の目的は、生命科学分野におけるデータサイエンス(バイオデータサイエンス)の健全な発展を促すことにあります。今年度からの新規公募では、多種多様な公共データの再利用に基づく「公共データ駆動的」な研究を支えるデータベースの整備・統合を見据えた課題の提案を募りました。
その結果、生命科学の多様な分野から14件の応募があり、以下の観点に沿って9名のアドバイザーと外部評価者の協力を得ながら、厳正かつ公平に選考を進めました。
- 国際基準のデータ基盤構築に向けて国際連携による統合を目指すデータベース。
- 利用者による知識発見・課題解決を支援する機能に特徴のあるデータベース。
- 研究ニーズや実験技術の新しい動向に対応するためのデータベース。
- 国際的プレゼンスを持ちさらなる高度化や機能拡張を目指すデータベース。
書類選考では、各提案内容について搭載するデータの網羅性や形式および構造的な観点から公共データベースとしての価値について審査を行った上で、国際性や利用者ニーズを考慮して10件を面接対象に選定しました。これらの10件については、オンライン形式による面接選考を行い、最終的に6件の提案を採択しました。
具体的には、国際連携の実績の上に分野の新潮流を捉えつつ幅広いユーザー層の開拓を目指すたんぱく質構造と糖鎖に関する提案を採択しました。昨今、国際連携の気運が急速に高まりつつあるバイオイメージングデータの共有に関しても、その一翼を担う実力を備えた提案を採択しました。これらのデータベースには、国際連携の中で応分の貢献を担うのみならず先導的役割を果たすことを期待しています。また、国際的に突出した水準や独自性という観点から、病原体ゲノム情報の統合によってすでに定評あるパスウェイデータベースの機能拡張と社会的有用性の向上を目指す提案を採択しました。さらに、独自の存在感を持つデータベースへの成長が期待できる課題として、ヒトの健康のみならず地球環境・エネルギー問題の鍵ともなるマイクロバイオーム研究への特化を目指す微生物データベースに関する提案と、基礎科学・応用科学両面における重要性と日本独自の貢献が大きい遺伝子発現制御機構の研究分野に関する提案を採択しました。
一方、残念ながら不採択となった課題の中にも、潜在的なユーザー数が多い分野に関する提案や利用者ニーズを明確に意識した提案が複数ありました。しかし、上記の観点や採択方針、既存データベースや他の提案に対する優位性などを考慮すると、限られた予算の中では不採択とせざるを得ませんでした。また、提案内容が現行の予算規模や研究期間にそぐわない提案も散見されました。それらは、将来性を感じさせる魅力的な内容を含みながらも萌芽的な構想段階に留まっている提案や、逆に成熟が進んで新規開発要素が希薄化しつつあるような提案です。改めてデータベースのライフステージに応じた支援の必要性を痛感させられました。なお、データの網羅性という点では、特定の研究室や研究機関のデータを主要な対象とする提案が散見された点に懸念が残りました。今後の公募の際には、公共データの利活用に基づくバイオデータサイエンスへの貢献というプログラムの趣旨を十分に勘案した上で、優れた構想に基づくユニークな提案が数多く寄せられることを期待しています。