生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_多剤耐性真菌に有効な抗真菌剤
出願番号:2014079325
年次:2015
IPC分類:A61K 31/60,A61K 31/198,A61P 43/00,A61P 17/00,A61P 31/10,A01N 37/40,A01N 25/00,A01N 37/46,A01P 3/00,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

小堂 直彦 JP 2015199682 公開特許公報(A) 20151112 2014079325 20140408 多剤耐性真菌に有効な抗真菌剤 学校法人近畿大学 000125347 田中 光雄 100081422 山崎 宏 100084146 冨田 憲史 100122301 笹倉 真奈美 100170520 小堂 直彦 A61K 31/60 20060101AFI20151016BHJP A61K 31/198 20060101ALI20151016BHJP A61P 43/00 20060101ALI20151016BHJP A61P 17/00 20060101ALI20151016BHJP A61P 31/10 20060101ALI20151016BHJP A01N 37/40 20060101ALI20151016BHJP A01N 25/00 20060101ALI20151016BHJP A01N 37/46 20060101ALI20151016BHJP A01P 3/00 20060101ALI20151016BHJP C12N 15/09 20060101ALN20151016BHJP JPA61K31/60A61K31/198A61P43/00 121A61P17/00 101A61P31/10A01N37/40A01N25/00 101A01N37/46A01P3/00C12N15/00 A 5 OL 17 4B024 4C086 4C206 4H011 4B024AA11 4B024CA04 4B024CA20 4B024DA12 4B024EA04 4B024GA11 4C086AA01 4C086AA02 4C086DA17 4C086MA02 4C086MA04 4C086MA10 4C086MA63 4C086NA05 4C086ZA90 4C086ZB35 4C086ZC75 4C206AA01 4C206AA02 4C206JA59 4C206MA02 4C206MA04 4C206MA11 4C206MA83 4C206ZA90 4C206ZB35 4C206ZC75 4H011AA01 4H011AA02 4H011AA03 4H011BA02 4H011BB06 4H011BC06 4H011DF04 本発明は、サリチル酸を有効成分として含む多剤耐性真菌に有効な抗真菌剤、およびサリチル酸の抗真菌作用を増強する方法に関する。 真菌類は、ヒト、動物および植物に感染して、様々な疾患をもたらすことが知られている。真菌の感染による真菌症としては、例えば、アスペルギルス症、カンジダ症、クリプトコックス症、白癬(水虫、たむし、およびしらくも等)、マラセチア症、スポロトリコーシス、黒色真菌感染症、接合菌症、コクシジオイデス症、ヒストプラスマ症などが知られており、その病巣部位または組織によって、表在性真菌症、深部皮膚真菌症および深在性真菌症に大別される(非特許文献1参照)。このうち最も発生頻度が高い疾患は白癬である。一方、深在性真菌症の発生頻度はそれほど高くないが、重篤なものが多く、近年、その発生率が増加している。 真菌類は、ウイルスや細菌と異なり、進化学的にヒトなどの高等真核生物と近縁であり、真菌が備える生命機構やそれに関与する蛋白質がかなり共通する。そのため、創薬のターゲットとなりうる部位が少なく、抗真菌剤の開発は困難を極める。現在上市される抗真菌剤も、細胞壁や細胞膜のごく限られた違いをターゲットとして、限られた数があるにすぎない(非特許文献2〜3参照)。 サリチル酸は、角質軟化作用や抗真菌作用を有することが知られ、白癬、皮膚カンジダ症、癜風等の治療薬として、主に外皮用薬として使用されている。また、植物の胴枯れ病の病原菌Eutypa lataに対して抗真菌作用を示すことが知られている(非特許文献4)。しかしながら、サリチル酸の抗真菌効果は弱く、アゾール系、アリルアミン系、ベンジルアミン系等の他の抗真菌剤の方がより有効である。現在、白癬治療薬の薬効成分としては、塩酸テルビナフィン、塩酸ブテナフィン、塩酸アモロルフィン、またはアゾール系成分(ラノコラゾール、ミコナゾール、ネチコゾール、クロトリマゾール等)が主に用いられている。 抗菌剤、抗ウイルス剤、抗原虫剤等の化学療法剤を用いる治療においては、化学療法剤の多用により耐性病原体が出現し、その薬剤を用いて治療を継続することができなくなることが知られている(非特許文献2〜3参照)。特に、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)等の多剤耐性菌の出現は、深刻な問題となっている。真菌症治療においては、個々の薬剤に対する耐性菌出現の報告は頻繁にあるが(例えば、非特許文献5)、現在のところ重大な多剤耐性真菌出現の報告はない。しかし、近年、糖尿病、エイズ、臓器移植、抗癌剤治療に係る免疫低下した患者が増加したことにより、真菌症に罹患する患者が増加の一途をたどっている。したがって、抗真菌剤の使用が増加することにより、病原性真菌が薬剤耐性を獲得する確率も飛躍的に高まっている。今後出現が予測される多剤耐性真菌は、限られた抗真菌薬しかない現状で、人類にとって大変な脅威となるであろう。化学と生物 Vol.42,No.12,2004モダンメディア 56巻6号2010[真菌]119医学のあゆみ Vol.209,No.9,2004.5.29Plant Physiol. Biochem. 40 (200), 1051-1060日本化学療法学会雑誌 2013,Vol.61,No.2,pp.149−156 したがって、新規な抗真菌剤の開発が求められるだけでなく、多剤耐性真菌にも対応することができる抗真菌剤を開発する必要がある。しかしながら、上記のとおり、新薬の開発は極めて困難であるので、今後将来にわたり、上市された既存の抗真菌剤を有効に使用することも必要である。また、多剤耐性真菌の出現を防ぐためにも、同一の抗真菌剤の多用を回避することが重要である。そのため、本発明は、サリチル酸のような薬効の弱い既存の抗真菌剤の有効利用を目的とした。 本発明者は、サリチル酸とN−アセチルシステインを添加した培地で真菌類を培養したところ、全く意外なことに、N−アセチルシステインの添加量を上げるにしたがって、真菌類のサリチル酸に対する感受性が高まることを見出した。さらに、驚くべきことに、サリチル酸とN−アセチルシステインを混合した抗真菌剤が、発明者が作成した多剤耐性変異株においても抗真菌効果を示すことを見出した。かくして、本発明が完成された。 すなわち、本発明は、(1)サリチル酸を有効成分として含み、さらにN−アセチルシステインを含む、多剤耐性真菌用抗真菌剤、(2)多剤耐性真菌がアゾール系抗真菌剤を含む抗真菌剤に対して耐性がある、上記(1)記載の多剤耐性真菌用抗真菌剤、(3)多剤耐性真菌がサリチル酸を含む抗真菌剤に対して耐性がある、上記(1)または(2)記載の多剤耐性真菌用抗真菌剤、(4)サリチル酸を有効成分として含み、さらにN−アセチルシステインを含む、抗真菌作用を有する農薬、および(5)サリチル酸と共にN−アセチルシステインを用いることを特徴とする、サリチル酸の抗真菌作用を増強する方法を提供する。 本発明によると、サリチル酸にN−アセチルシステインを加えるだけという非常に簡便な方法によって、サリチル酸の抗真菌作用を増強することができる。本発明によれば、サリチル酸の抗真菌作用を高めることができるので、本発明の抗真菌剤は、今までサリチル酸によって十分な治療効果が得られなかった真菌症に対しても使用することができる。さらに、本発明によれば、サリチル酸の利用を増やすことにより、他の抗真菌剤の使用を減らすことができ、それらの薬剤に対する耐性真菌の出現または多剤耐性真菌の出現を抑えることが期待できる。また、本発明の抗真菌剤は、驚くべきことに、多剤耐性真菌に対しても抗真菌効果を示す。サリチル酸およびN−アセチル−L−システイン含有培地中における出芽酵母の増殖結果を示す図である。図中、NACはN−アセチル−L−システインを示す。サリチル酸およびN−アセチル−L−システイン含有培地中における出芽酵母の増殖結果を示す図である。図中、NACはN−アセチル−L−システインを示し、SAはサリチル酸を示す。サリチル酸およびN−アセチル−L−システイン含有培地中におけるカンジダの増殖結果を示す図である。図中、NACはN−アセチル−L−システインを示す。 サリチル酸は、古来から鎮痛薬として使用されており、抗真菌剤としては、白癬の治療薬として、主に外皮用薬として使用されている。サリチル酸は、医薬品としてすでに認可されている安価な化合物であり、重篤な副作用も報告されていない。本発明において使用されるサリチル酸としては、サリチル酸、ならびにサリチル酸の塩、エステル、誘導体、および類似体が含まれる。サリチル酸の塩またはエステルとしては、好ましくは、医薬上許容される塩またはエステル、獣医学上許容される塩またはエステル、あるいは農業上許容される塩またはエステルが使用され、例えば、サリチル酸ナトリウム、サリチル酸メチル、サリチル酸エチル等が挙げられる。サリチル酸の誘導体としては、例えば、アセチルサリチル酸、クロロサリチル酸、例えば、3−クロロサリチル酸、4−クロロサリチル酸、3,5−ジクロロサリチル酸等が挙げられる。サリチル酸の類似体としては、安息香酸、クロロ安息香酸、例えば、3−クロロ安息香酸、4−クロロ安息香酸、3,4−ジクロロ安息香酸、3,5−ジクロロ安息香酸、メトキシ安息香酸、例えば、2−メトキシ安息香酸、3−メトキシ安息香酸、4−メトキシ安息香酸、アミノ安息香酸、例えば、2−アミノ安息香酸、ブロモ安息香酸、例えば、2−ブロモ安息香酸、ヨード安息香酸、例えば、2−ヨード安息香酸、サリチルアルデヒド、2−ヒドロキシ−5−メトキシベンズアルデヒド等が挙げられる。本発明において、好ましくはサリチル酸が使用される。 本発明において、N−アセチルシステインとしては、L型またはD型のいずれを使用してもよい。N−アセチル−L−システインは、主に、去痰剤や高カロリー輸液成分として使用されている。N−アセチル−L−システインは、医薬品としてすでに認可されている安価な化合物であり、重篤な副作用も報告されていない。 本発明の抗真菌剤は、有効成分としてのサリチル酸と、N−アセチルシステインとを混合することによって製造することができる。例えば、本発明の抗真菌剤は、常法にしたがい、適当な基剤に、サリチル酸およびN−アセチルシステインを混合することによって製造する。基剤としては、所望の剤形に適当な当該分野で通常使用されるものを使用すればよく、例えば、プロピレングリコール、1,3−ブチレングリコール、グリセリン、エタノール等のアルコール類、マクロゴール類、アジピン酸ジイソプロピル、セタノール、スクワラン、中鎖トリグリセライド、カルボキシビニルポリマー、メチルセルロース、エチルセルロース、ワセリン、パラフィン、シリコン、植物油等の油脂、ミツロウ、ラノリン等が挙げられる。本発明の抗真菌剤は、さらに、適宜、賦形剤、抗酸化剤、界面活性剤、安定化剤等の添加剤を含んでいてもよい。 本発明の抗真菌剤の剤形としては、特に限定されないが、例えば、液剤、ローション剤、乳剤、チンキ剤、軟膏剤、クリーム剤、水性ゲル剤、油性ゲル剤、エアゾール剤、パウダー剤等の外用製剤、注射剤、および錠剤、液剤、粉末剤等の内服製剤が挙げられる。治療対象となる真菌症の種類にもよるが、本発明の抗真菌剤は、好ましくは外用製剤として製剤化される。 本発明の抗真菌剤中のサリチル酸の含有量は、特に限定されず、所望の抗真菌効果が達成されるように適宜決定することができる。例えば、本発明の抗真菌剤は、サリチル酸を0.1重量%〜10重量%、好ましくは0.2重量%〜10重量%、より好ましくは0.5重量%〜10重量%含んでいてもよい。 本発明の抗真菌剤中のN−アセチルシステインの含有量は、特に限定されず、所望の抗真菌効果が達成されるように適宜決定することができる。例えば、本発明の抗真菌剤は、N−アセチルシステインを0.1重量%〜30重量%、好ましくは0.2重量%〜30重量%、より好ましくは0.5重量%〜30重量%含んでいてもよい。 本発明の抗真菌剤中に含まれるサリチル酸およびとN−アセチルシステインの配合比は、特に限定されず、所望の抗真菌効果が達成されるように適宜決定することができる。例えば、本発明の抗真菌剤中に含まれるサリチル酸およびN−アセチルシステインの配合比は、1:1〜1:200、例えば1:1〜1:100、好ましくは1:2〜1:50、より好ましくは1:2〜1:10、さらに好ましくは1:2〜1:5のモル比であってもよい。N−アセチルシステインの配合量を増やすことにより、サリチル酸の薬効がより増強した抗真菌剤を得ることができる。 また、本発明の抗真菌剤は、有効成分としてサリチル酸を含む既存の薬剤に、N−アセチルシステインを混合することによって製造することもできる。かかる既存のサリチル酸含有薬剤としては、例えば、サリチル酸配合ワセリン、例えば、10%サリチル酸ワセリン軟膏、イオウ・サリチル酸チアントール軟膏等が挙げられる。既存のサリチル酸含有薬剤に添加するN−アセチルシステインの量は、特に限定されず、所望の抗真菌効果が達成されるように適宜決定すればよい。 かくして製造された本発明の抗真菌剤は、N−アセチルシステインを含まない場合と比べて、サリチル酸の抗真菌作用が増強される。本発明の抗真菌剤の投与量は、投与対象となる個体、対象疾患、対象真菌等によって異なり、所望の抗真菌効果が達成されるように当業者により適宜決定することができる。 本発明の抗真菌剤が効果を奏する真菌としては、例えば、ツボカビ門;クモノスカビ属、ケカビ属などの接合菌門;子嚢菌門;クリプトコッカス属(例えば、Cryptococcus neoformans等)、マラセチア属(例えば、Malassezia furfur等)、さび病菌などの担子菌門;白癬菌(例えば、Trichophyton rubrum、Trichophyton mentagrophytes等)、スポロトリックス属、黒色真菌などの不完全菌;酵母などが挙げられる。子嚢菌門としては、白癬菌(例えば、Trichophyton rubrum、Trichophyton mentagrophytes等)、スポロトリックス属(例えば、Sporothrix schenkii等)、アスペルギルス属、ニューモシスチス属(例えば、Pneumocystis jirovecii等);カンジダ属(例えば、Candida albicans、Candida grabrata等)、サッカロマイセス属(例えば、Saccharomyces cerevisiae等)などの出芽酵母、シゾサッカロマイセス属などの分裂酵母などの酵母;アオカビ、コウジカビ、アカパンカビなどのカビ;アミガサタケ、トリュフなどのキノコ、ユーティパ(Eutypa)属、いもち病菌、うどんこ病菌などが挙げられる。本発明の抗真菌剤は、好ましくは、子嚢菌門の真菌、担子菌門の真菌、および不完全菌に有効である。本発明の抗真菌剤は、多剤耐性真菌だけでなく、単剤耐性真菌、および野生株(各種薬剤感受性真菌)に対しても抗真菌効果がある。 本発明において、「抗真菌効果」(本明細書において、「抗真菌作用」ともいう)は、真菌の増殖を抑制する静菌的作用または真菌を死滅させる殺菌的作用を有することをいう。静菌とは、一定濃度のある薬剤下で、真菌が生存はしているが増殖できない状態を指す。殺菌とは、一定濃度のある薬剤下で、真菌が完全に死滅する状態を指す。抗真菌効果を示す薬剤を抗真菌剤という。薬剤の抗真菌効果は、その薬剤を菌に投与したときの菌の増殖度を測定することによって確認することができる。 「耐性」とは、菌がある薬剤に対して抵抗力を示すことをいう。たとえば、ある菌の変異株および野生株に対して抗真菌剤を投与したとき、変異株の増殖度が野生株に比して高い場合に、その変異株はその抗真菌剤に対して「耐性」を有するといえる。 菌の増殖度の測定は、後述の実施例において記載するスポット・アッセイによって行うことができる。あるいは、日本医真菌学会の「酵母の抗真菌薬感受性試験法」(Jpn.J.Med.Mycol.,Vol.51,153−163,2010)、またはClinical and Laboratory Standards Institute(CLSI)のM38−A2法(National Committee for Clinical Laboratory Standards: Reference method for broth dilution antifungal susceptibility testing of filamentous fungi: Approved standard M38-A2. CLSI, Wayne, PA, USA, 2002)に基づいて行ってもよい。 本発明において、「多剤耐性」とは、複数の抗真菌剤に対して耐性を示すことをいう。かかる複数の抗真菌剤は、同じ系に分類される薬剤であってもよいし、異なる系に分類される薬剤であってもよい。抗真菌剤としては、アムホテリシンB(AMPH−B)、オリゴマイシン、ナイスタチンなどのポリエン系の抗真菌剤;フルシトシン(5−FC)などのピリミジン誘導体の抗真菌剤;アゾール系およびその他のエルゴステロール合成阻害薬である抗真菌剤;ミカファンギン、カスポファンギン、アニデュラファンギンなどのキャンディン系の抗真菌剤;サリチル酸、ヨードチンキ、エキサラミドなどのサリチル酸系の抗真菌剤などが挙げられる。エルゴステロール合成阻害薬である抗真菌剤としては、例えば、ビホナゾール、ブトコナゾール、クロミダゾール、クロトリマゾール、クロコナゾール、エコナゾール、フェンチコナゾール、ケトコナゾール、イソコナゾール、ミコナゾール、ネチコナゾール、オモコナゾール、オキシコナゾール、セルタコナゾール、スルコナゾール、チオコナゾール、ラノコナゾール、フルコナゾール、テルコナゾール、ヘキサコナゾール、イサブコナゾール、イトラコナゾール、ポサコナゾール、ボリコナゾールイトラコナゾール、ボリコナゾールなどのアゾール系の抗真菌剤、およびアモロルフィン、ブテナフィン、テルビナフィンなどが挙げられる。また、抗真菌剤としては、4−ニトロキノリン1−オキシド(4−NQO)などの化学発癌剤、リベロマイシンA、セルレニン、アルテスネート、シクロヘキシミドなどの抗生物質なども挙げられる。さらに、抗真菌剤としては、2−フェニルフェノール、マンコゼブ、チアベンダゾール、ベノミル、イマザリルなどの農薬または動物用抗真菌剤も挙げられる。このうち、アムホテリシンB、フルシトシン、ミコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、およびミカファンギンは、日本で深在性真菌症治療薬として使用されている。なお、ポリエン系、およびエルゴステロール合成阻害薬の抗真菌剤は、細胞膜構成成分であるエルゴステロールを創薬のターゲットとする。また、キャンディン系の抗真菌剤は、細胞壁を創薬のターゲットとする。 菌類が単剤耐性を獲得する原因としては、例えば、その薬剤の創薬のターゲットとなる因子の突然変異が考えられる。突然変異によっては、同じ因子をターゲットとする全ての薬剤に対して耐性を付与する場合と、一部の薬剤に対して耐性を付与する場合がある。さらに、菌類が薬剤耐性を獲得する原因の一つとして、薬剤排出ポンプと呼ばれるタンパク質が変異導入によって菌類内で過剰に発現し、抗菌剤が菌類内部から外部に排出される現象が知られている(例えば、MICROBIOLOGY AND MOLECULAR BIOLOGY REVIEWS,Sept.2006,p.583-604、METHODS IN ENZYMOLOGY,VOL.400 phase ii conjugation enzymes and transport systems)。薬剤排出ポンプは、生物において高度に保存された膜輸送体であり、その発現量を制御する一連の転写因子が存在することが知られている。これらの薬剤排出ポンプは基質特異性がゆるく、同一ポンプにおいても複数の薬剤が排出される。出芽酵母の薬剤排出ポンプとしては、Azr1p、Sng1p、Flr1p、Snq2p、Yor1p、Pdr10p、Pdr5p、Pdr15p、Pdr12pなどが挙げられる。薬剤排出ポンプをコードする遺伝子の発現を制御する転写因子に機能獲得性突然変異(優性の形質)が生じると、発現制御している薬剤排出ポンプ群を恒常的に強発現する。薬剤排出ポンプ群が強発現することで、細胞内に侵入した多種類の薬剤が速やかに細胞外へ排出されて多剤耐性形質を示すこととなる。出芽酵母の場合、この転写因子としては、たとえば、Yrm1p、Yrr1p、Pdr1p、Pdr3pなどが挙げられる。転写因子Yrm1pは、薬剤排出ポンプAzr1p、Sng1p、Flr1p、Snq2p、Yor1pの発現を制御する。転写因子Yrr1pは、薬剤排出ポンプAzr1p、Sng1p、Flr1p、Snq2p、Yor1pの発現を制御する。転写因子Pdr1pは、薬剤排出ポンプSnq2p、Yor1p、Pdr5p、Pdr15pの発現を制御する。転写因子Pdr3pは、薬剤排出ポンプSnq2p、Yor1p、Pdr5p、Pdr15pの発現を制御する。個々の詳細な遺伝子情報、DNA配列、アミノ酸配列は、Saccharomyces GENOME DATABASE(www.yeastgenome.org)などの公知のデータベースにより得ることができる。 本発明の抗真菌剤は、例えば、エルゴステロール合成阻害薬である抗真菌剤、ポリエン系の抗真菌剤、キャンディン系の抗真菌剤、ベノミルおよびイマザリルなどの農薬または動物用抗真菌剤、4−NQOなどの化学発癌剤、あるいはリベロマイシンA、セルレニン、アルテスネート、シクロヘキシミドなどの抗生物質に対して耐性がある真菌に対して抗真菌効果を示す。例えば、本発明の抗真菌剤は、ミコナゾール、ケトコナゾール、クロトリマゾール、イソコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、ブテナフィン、テルビナフィン、イマザリル、セルレニン、アルテスネート、シクロヘキシミド、アムホテリシンB、カスポファンギン、4−NQO、ベノミル、またはリベロマイシンAに対して耐性がある真菌に対して抗真菌効果を示す。また、本発明の抗真菌剤は、サリチル酸に対して耐性がある真菌に対して抗真菌効果を示す。 さらに、本発明の抗真菌剤は、エルゴステロール合成阻害薬である抗真菌剤、ポリエン系の抗真菌剤、キャンディン系の抗真菌剤、ベノミルおよびイマザリルなどの農薬または動物用抗真菌剤、4−NQOなどの化学発癌剤、およびリベロマイシンA、セルレニン、アルテスネート、シクロヘキシミドなどの抗生物質から選択される1以上、好ましくは2以上を含む抗真菌剤に対して耐性がある多剤耐性真菌に対して、抗真菌効果を示す。また、本発明の抗真菌剤は、例えば、Yrr1p、Pdr1p、Pdr3pなどの転写因子の機能獲得性突然変異による多剤耐性真菌に対して抗真菌効果を示す。例えば、本発明の抗真菌剤は、転写因子Pdr1pおよび/またはPdr3pの機能獲得性突然変異による多剤耐性真菌に対して抗真菌効果を示す。本発明の抗真菌剤は、例えば、ミコナゾール、ケトコナゾール、クロトリマゾール、イソコナゾール、フルコナゾール、イトラコナゾール、ボリコナゾール、ブテナフィン、およびテルビナフィン、イマザリル、セルレニン、アルテスネート、シクロヘキシミド、アムホテリシンB、カスポファンギン、4−NQO、ベノミル、およびリベロマイシンAから選択される1以上、好ましくは2以上を含む抗真菌剤に対して耐性がある多剤耐性真菌に対して抗真菌効果を示す。例えば、本発明の抗真菌剤は、2以上のアゾール系抗真菌剤に対して耐性がある多剤耐性真菌に対して、抗真菌効果を示す。さらに、本発明の抗真菌剤は、サリチル酸を含む抗真菌剤に対して耐性がある多剤耐性真菌に対しても、抗真菌効果を示す。 本発明の抗真菌剤は、上記の本発明の抗真菌剤が効果を奏する真菌が原因となる真菌症の治療において効果を奏する。かかる真菌症としては、限定するものではないが、例えば、ムコール症、クリプトコッカス症、スポロトリックス症、アスペルギルス症、ニューモシスチス肺炎、白癬(例えば、足白癬、手白癬、体部白癬、股部白癬、水虫、たむし、およびしらくも等)、カンジダ症(例えば、皮膚カンジダ症)、癜風等が挙げられる。また、立ち枯れ病、いもち病、うどんこ病、さび病などの植物の真菌症も挙げられる。 本発明の抗真菌剤は、ヒトおよび動物の真菌症の治療のための医薬または動物薬として用いることができる。さらに、本発明の抗真菌剤は、植物の真菌感染に対して農薬として使用することができる。また、本発明の抗真菌剤は、洗剤、医療用洗剤、化粧品、シャンプー、ボディーソープ、洗顔料、ニキビ肌用の化粧品または洗顔料等の成分として使用することができる。 さらに、本発明は、本発明の抗真菌剤を対象に投与することを特徴とする、真菌症、特に上記の真菌症を治療する方法を提供する。また、本発明においては、サリチル酸を有効成分として含む抗真菌剤とN−アセチルシステインを含む剤とを別々に製剤化し、これらの製剤を真菌症の治療において併用することもできる。したがって、本発明は、さらに、サリチル酸を有効成分として含む抗真菌剤とN−アセチルシステインとを対象に投与することを特徴とする、真菌症、特に上記の真菌症を治療する方法を提供する。またさらに、本発明は、真菌症、特に上記の真菌症の治療における、サリチル酸とN−アセチルシステインとの組み合わせの使用を提供する。 さらに、本発明は、サリチル酸と共にN−アセチルシステインを用いることを特徴とする、サリチル酸の抗真菌作用を増強する方法を提供する。例えば、本発明は、既存のサリチル酸含有抗真菌剤に適量のN−アセチルシステインを添加することによる、サリチル酸の抗真菌作用を増強する方法を提供する。さらに、本発明は、サリチル酸の抗真菌作用を増強するための、N−アセチルシステインの使用を提供する。この場合、サリチル酸およびN−アセチルシステインの使用量は、特に限定されず、所望の抗真菌効果が達成されるように適宜決定することができる。例えば、サリチル酸およびN−アセチルシステインは、1:1〜1:200、例えば1:1〜1:100、好ましくは1:2〜1:50、より好ましくは1:2〜1:10、さらに好ましくは1:2〜1:5のモル比で使用してもよい。サリチル酸に対するN−アセチルシステインの使用量を増やすにしたがって、サリチル酸の抗真菌作用に対する増強効果が高くなる。 さらに、本発明は、抗真菌剤の製造のための、サリチル酸およびN−アセチルシステインの使用を提供する。 以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。実験手法: 以下の実施例において、出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)の野生株(BY4742株)、その派生株であるsng1欠損株および3種類の多剤耐性変異株(yrr1−52株、pdr1−3株、pdr3−11株)、ならびびカンジダ(Candida albicans、およびCandida grabrata)を、サリチル酸およびN−アセチル−L−システインを含有するYPD培地中で培養し、スポット・アッセイ法により感受性試験を行った。 下記の試験例1にしたがって、yrr1−52株、pdr1−3株、およびpdr3−11株を作成した。yrr1−52株、pdr1−3株、およびpdr3−11株は、各々、転写因子Yrr1pの遺伝子を変異させた株、転写因子Pdr1pの遺伝子を変異させた株、および転写因子Pdr3pの遺伝子を変異させた株である。変異の詳細は、下記の表に示すとおりである。これらの変異株は各々、その転写因子が制御する種々の遺伝子の発現が亢進することにより、その遺伝子産物である薬剤排出ポンプ群を強発現し、複数の抗真菌剤に対して耐性を示す多剤耐性株であることが分かった。転写因子Yrr1pが制御している薬剤排出ポンプ群にはSng1pが含まれ、Sng1pは、サリチル酸の細胞外排出を担う薬剤排出ポンプであることが分かった。 sng1欠損株は、薬剤排出ポンプSng1pをコードする遺伝子を欠損させた変異株であり、この薬剤排出ポンプを発現しない株である。 なお、以下の試験例および実施例において、出芽酵母の分子遺伝学的実験手法は、以下の実験書に基づいて行った。・D.C.Amberg,D.J.Burke,and J.N.Strathern,Methods in yeast genetics:a Cold Spring Harbor Laboratory course manual,ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York 2005.・水野貴之、バイオ実験イラストレイテッド7 使おう酵母 できるTwo Hybrid、秀潤社. また、分子生物学実験の各種方法は、以下のマニュアルを用いて行った。・J.Sambrook,E.F.Fritsch,and T.Maniatis,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,2nd ed.,Cold Spring Harbor Laboratory Press,New York 1989.試験例1.出芽酵母変異株の入手:(1)BY4742株: BY4742株は、文部科学省ナショナルバイオリソースプロジェクト[National Bio−Resource Project(NBRP)]「酵母」より購入した。(2)sng1欠損株: sng1欠損株は、Open Biosystems,Inc.(USA)より購入した。(3)yrr1−52株、pdr1−3株、pdr3−11株: YCplac111(NBRPより購入)プラスミドに各々の突然変異型遺伝子を連結した各構築物を、各遺伝子欠損酵母株(yrr1欠損株、pdr1欠損株、pdr3欠損株)に導入して、上記の突然変異株を得た。なお、yrr1欠損株、pdr1欠損株、pdr3欠損株は、Open Biosystems,Inc.(USA)より購入した(これらは全てBY4742派生株である)。変異導入用の各構築物の構築方法を以下に記す。a.YCplac111にyrr1−52突然変異遺伝子を連結した構築物(YCp−yrr1−52): 「バイオ実験イラストレイテッド7 使おう酵母 できるTwo Hybrid」に記すガラス・ビーズを用いたゲノムDNA抽出法により、突然変異を有するKinSal052株(論文未発表)からゲノムDNAを抽出した。なお、KinSal052株は、Yrr1pの616番目のSerがPheに置換する変異を有する。このDNAを鋳型にして、PCRを行うことにより、突然変異yrr1コード領域とその上流・下流を含むDNAを増幅した。使用したプライマーは、5’−AATGGATCCTACTGGCAGAAATCATAGTG−3’(配列番号1)と5’−AACGGATCCAGTGGGCTTGCCAAAATCT−3’(配列番号2)である。これらのプライマーの5’末端側には制限酵素BamHI認識配列を付加した。東洋紡のKOD−FX DNAポリメラーゼを用いて、その添付文書に記す通りにPCR反応を行い、PCR反応溶液を作製した。PCR反応は、アプライドバイオシステムズのGeneAmp PCR System 2400を用いた。PCRプログラムは、95℃2分に続き、95℃30秒と55℃30秒と68℃3分を30サイクル行った。反応終了後、反応溶液をキアゲン社の「QIAquick PCR Purification Kit」を用いて増幅断片の精製を行った。増幅断片とベクターは制限酵素BamHIで消化を行い、実験マニュアルに記すようにライゲーションと大腸菌に形質転換を行うことにより、構築物(YCp−yrr1−52)を得た。本構築物のyrr1欠損株への導入は、実験書に記す酢酸リチウム法により行った。そして、YCplac111プラスミドのロイシン要求性マーカーを指標にして組換え体を選択し、yrr1−52株を取得した。b.YCplac111にpdr1−3突然変異遺伝子を連結した構築物(YCp−pdr1−3): 本構築物もYCp−yrr1−52の場合と同様の方法によって取得した。pdr1−3株は、Pdr1pの815番目のアミノ酸がPheからSerに置換した変異株である。以下、YCp−yrr1−52の場合との変更点を記す。PCRに使用したゲノムDNAは、BY4742株から取得した。このDNAを鋳型にして、まず野生型PDR1遺伝子を増幅した。使用したプライマーは、フォワード・プライマーが5’−AAATGGATCCTGGAAACCCGATCAGCATAC−3’(配列番号3)であり、この5’末端側には制限酵素BamHIの認識配列を新たに付加した。そして、リバース・プライマーは5’−ATTTAGTCGACGTTTCGGAGCCAATGATTCT−3’(配列番号4)であり、これも5’末端側に制限酵素SalIの認識配列を新たに付加した。PCR反応は上記と同様に行い精製を行った。プラスミドへの連結も使用した制限酵素以外は同様に行い、大腸菌に形質転換を行うことにより、野生型PDR1構築物を作製した(YCp−pdr1)。つづいて突然変異型pdr1遺伝子を作製するために、上記構築物YCp−PDR1を鋳型にしてPCRを行った。それに用いたリン酸基を付加したプライマーは、フォワード・プライマーが5’−CCTGACAATCGTCACTCGTA−3’(配列番号5)であり、リバース・プライマーが5’−GAAGAAAAAGCTCTTGTATA−3’(配列番号6)である。PCR条件も上記と基本的に同様であるが、プログラムを以下の通りとした。すなわち、94℃で2分のあと、94℃30秒と55℃30秒と68℃11分を30サイクル行った。反応溶液を精製後、増幅産物のみを用いてセルフ・ライゲーション(自己環状化)を行って、大腸菌に形質転換を行うことで、構築物(YCp−pdr1−3)を得た。c.YCplac111にpdr3−11突然変異遺伝子を連結した構築物(YCp−pdr3−11): 本構築物はYCp−pdr1−3と同様に、2段階のPCRにより作製した。pdr3−11株は、Pdr3pの957番目のアミノ酸がGlyからAspに置換した変異株である。一回目のPCRは、BY4742株のゲノムDNAを鋳型にして、フォワード・プライマー(5’−AAAAGGATCCGCTGGCGTGGCACATAACTG−3’[配列番号7])とリバース・プライマー(5’−AAATTGTCGACTTCCTCATTCCGTTTTATAT−3’[配列番号8])を用いて増幅を行った。これらのプライマーにも制限酵素BamHIとSalIの認識配列を新たに付加した。二回目のPCRには、一回目のPCRに基づき構築されたYCp−pdr3を鋳型に、フォワード・プライマー(5’−TGACCTGACTGATTTATATC−3’[配列番号9])とリバース・プライマー(5’−TCACTGCTGACAAACTCCTC−3’[配列番号10])を用いて増幅を行った。この増幅産物をセルフ・ライゲーションし、大腸菌に形質転換することにより、構築物(YCp−pdr3−11)を得た。実施例1.出芽酵母の薬剤感受性試験(スポット・アッセイ法): 試験例1によって入手した酵母を用いて、以下のようにして薬剤感受性試験を行った。(1)酵母終夜培養希釈液の調製:a. 出芽酵母BY4742野生株と試験例1で得たその派生変異株を、クリーンベンチ内でYPD固形培地に植菌した。培地を30℃に設定した培養器内で3日程度保温して、コロニーを形成させた。次に、クリーンベンチ内で、各々の株のコロニー1つを滅菌した竹串でかきとり、試験管内の1mlのYPD液体培地に移植した。その試験管を同様に30℃の培養器内で24時間以上振とう培養を行った。b. 培養が終了した試験管を用いて、クリーンベンチ内で以下の操作を行った。まず、滅菌したサンプルチューブに0.9mlのPBSを加え、それを一株につき5本用意した。良く撹拌した液体培養から0.1mlをマイクロピペットで取り出し、用意した一本のチューブに加えて混合した。この操作により、10倍希釈液を作製した。さらに、この希釈液から0.1ml取り出し、新しいチューブへ移し混合することで、さらに原液の100倍希釈液を作製した。この操作を繰り返して、最終的に5本の希釈系列(10倍、100倍、・・・)を各株で作製した。(2)各薬剤を含有するYPD固形培地の作製: 種々の濃度のサリチル酸(以下、SAともいう)およびN−アセチル−L−システイン(以下、NACともいう)を含有する試験用固形培地は、以下のようにして作製した。サリチル酸およびN−アセチル−L−システインは、和光純薬工業株式会社より購入した。各々の薬剤をDMSOで溶解したストック溶液を作製した。メディウム瓶にYPDと最終濃度2%になるように寒天末を加えて、オートクレーブ滅菌を行った。終了後、培地はウォーター・バスで65℃に保温した。クリーンベンチ内で、30mlの培地を滅菌ピペットで取り出し、滅菌済のカップへ移した。そこへ、目的の最終濃度(サリチル酸0mM、2.5mM、3.5mM、5mM、7.5mM、10mM、12.5mM、および15mM、ならびにN−アセチル−L−システイン0mM、15mM、および30mMからなる計24通りの組み合わせ)となるように、各薬剤のストック溶液をマイクロピペットを用いて加えて、十分に混合を行った。そして、滅菌シャーレに本液体を注ぎ、クリーンベンチ内で固化させると共に十分に乾燥を行った。(3)スポット・アッセイの実施: 各種薬剤を含む固形培地をクリーンベンチ内に並べて、各株の液体培養の希釈系列をスポットした。スポットする際は、液体培養の入ったチューブを十分に攪拌したのち、マイクロピペットで10μlずつ固形培地の数ミリ上方から培地上に滴下を行った。全ての培養希釈系列を滴下して乾燥を行い、シャーレのふたをして、30℃の培養器で2日間培養を行った。コロニー形成したシャーレは、野生株、多剤耐性株、排出ポンプ遺伝子欠損株の生育状況を観察するとともに、写真撮影を行った。(4)結果 結果を図1および図2に示す。 図1から明らかなように、野生株では、サリチル酸単独の場合、15mMサリチル酸で完全に死滅したが、N−アセチル−L−システインを併用すると、15mM NAC+10mM SAおよび30mM NAC+5mM SAで完全に死滅した。したがって、N−アセチル−L−システインを併用することにより、N−アセチル−L−システインの濃度依存的に出芽酵母のサリチル酸感受性が高まることが分かった。また、サリチル酸を含む薬剤に対する多剤耐性株であるSNG1強発現株(yrr1−52株)では、サリチル酸単独の場合、15mMサリチル酸下でも増殖したが、N−アセチル−L−システインを併用すると、15mM NAC+12.5mM SAおよび30mM NAC+7.5mM SAで完全に死滅した。したがって、多剤耐性菌においても、N−アセチル−L−システインを併用することにより、N−アセチル−L−システインの濃度依存的にサリチル酸感受性が高まることが分かった。また、図1から明らかなように、sng1欠損株は野生株と比べてサリチル酸感受性が高いが、その感受性は、N−アセチル−L−システインの併用によりさらに高まった。 さらに、図2から明らかなように、pdr1−3株およびpdr3−11株においても、同様に、N−アセチル−L−システインを併用することにより、N−アセチル−L−システインの濃度依存的に、そのサリチル酸感受性が高まることが分かった。 発明者の研究において、転写因子Pdr1pまたはPdr3pが発現制御している薬剤排出ポンプは、少なくとも、リベロマイシンA、ベノミル、4−NQO、カスポファンギン、アムホテリシンB、フルコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、クロトリマゾール、ミコナゾール、イソコナゾール、ボリコナゾール、ブテナフィン、テルビナフィン、イマザリル、セルレニン、アルテスネート、およびシクロヘキシミドの細胞外排出に関与することが分かった。したがって、サリチル酸の抗真菌作用は、少なくとも、リベロマイシンA、ベノミル、4−NQO、カスポファンギン、アムホテリシンB、フルコナゾール、イトラコナゾール、ケトコナゾール、クロトリマゾール、ミコナゾール、イソコナゾール、ボリコナゾール、ブテナフィン、テルビナフィン、イマザリル、セルレニン、アルテスネート、およびシクロヘキシミドのうち1以上の薬剤に対して耐性のある真菌または多剤耐性真菌に対して有効であることが分かる。さらに、かかるサリチル酸の抗真菌作用は、N−アセチル−L−システインの併用により増強される。実施例2.カンジダの薬剤感受性試験(スポット・アッセイ法): カンジダ株Candida albicans(NBRC1393)(以下、「C.albicans」という)およびCandida grabrata(NBRC0622)(以下、「C.grabrata」という)を独立行政法人製品評価技術基盤機構(NITE)より入手した。これらのカンジダ株を実施例1と同様に培養し、終夜培養希釈液を調製した。さらに、実施例1と同様の方法で、サリチル酸およびN−アセチル−L−システインを含有するYPD固形培地を作製した。但し、サリチル酸の最終濃度は、0mM、0.25mM、0.50mM、0.75mM、1mM、2mMおよび3mMとし、N−アセチル−L−システインの最終濃度は、0mM、15mMおよび30mMとした。これらの希釈液および培地を用いて、実施例1と同様の方法で、スポット・アッセイを行った。 結果を図3に示す。いずれの株も5mMサリチル酸で死滅した(データを示さず)。図3から明らかなように、C.albicansは、15mM NAC+2mM SAおよび30mM NAC+0.75mM SAで完全に死滅した。C.grabrataは、15mM NAC+3mM SAおよび30mM NAC+2mM SAで完全に死滅した。したがって、カンジダでも、出芽酵母と同様、サリチル酸とN−アセチル−L−システインとの併用による抗真菌作用の増強効果が示された。 本発明によれば、サリチル酸の抗真菌作用を高めることができるので、本発明の抗真菌剤は、今までサリチル酸によって十分な治療効果が得られなかった真菌症に対しても使用することができる。また、本発明の抗真菌剤は、サリチル酸以外の抗真菌剤に対して耐性を有する真菌または多剤耐性真菌に対して有効に使用することができる。また、本発明の抗真菌剤は、サリチル酸を含む抗真菌剤に対する多剤耐性真菌に対しても、有効に使用することができる。さらに、本発明によれば、サリチル酸の利用を増やすことにより、他の抗真菌剤の使用を減らすことができ、それらの薬剤に対する耐性真菌の出現または多剤耐性真菌の出現を抑えることが期待できる。 サリチル酸を有効成分として含み、さらにN−アセチルシステインを含む、多剤耐性真菌用抗真菌剤。 多剤耐性真菌がアゾール系抗真菌剤を含む抗真菌剤に対して耐性がある、請求項1記載の多剤耐性真菌用抗真菌剤。 多剤耐性真菌がサリチル酸を含む抗真菌剤に対して耐性がある、請求項1または2記載の多剤耐性真菌用抗真菌剤。 サリチル酸を有効成分として含み、さらにN−アセチルシステインを含む、抗真菌作用を有する農薬。 サリチル酸と共にN−アセチルシステインを用いることを特徴とする、サリチル酸の抗真菌作用を増強する方法。 【課題】サリチル酸を有効成分として含む多剤耐性真菌に有効な抗真菌剤、およびサリチル酸の抗真菌作用を増強する方法を提供すること。【解決手段】本発明は、サリチル酸を有効成分として含み、さらにN−アセチルシステインを含む、多剤耐性真菌用抗真菌剤、および農薬、ならびにサリチル酸と共にN−アセチルシステインを用いることを特徴とする、サリチル酸の抗真菌作用を増強する方法を提供する。【選択図】なし配列表


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