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タイトル:再公表特許(A1)_新菌株、該新菌株を用いた根頭がんしゅ病防除剤及び/又は植物種子発芽率向上剤
出願番号:2011076336
年次:2014
IPC分類:C12N 1/20,A01P 3/00,A01N 63/00,A01N 63/02,A01P 21/00,C12R 1/01


特許情報キャッシュ

川口 章 井上 幸次 小暮 篤史 森脇 明弘 高垣 真喜一 JP WO2012067127 20120524 JP2011076336 20111115 新菌株、該新菌株を用いた根頭がんしゅ病防除剤及び/又は植物種子発芽率向上剤 岡山県 591060980 クミアイ化学工業株式会社 000000169 松本 久紀 100097825 川口 章 井上 幸次 小暮 篤史 森脇 明弘 高垣 真喜一 JP 2010256945 20101117 C12N 1/20 20060101AFI20140415BHJP A01P 3/00 20060101ALI20140415BHJP A01N 63/00 20060101ALI20140415BHJP A01N 63/02 20060101ALI20140415BHJP A01P 21/00 20060101ALI20140415BHJP C12R 1/01 20060101ALN20140415BHJP JPC12N1/20 AA01P3/00A01N63/00 FA01N63/02 AA01P21/00C12N1/20 AC12R1:01 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN 再公表特許(A1) 20140512 2012544269 23 4B065 4H011 4B065AA01X 4B065AC20 4B065CA47 4B065CA53 4H011AA01 4H011AB03 4H011BB21 4H011DA15 4H011DC11 本発明は、新菌株、該新菌株を有効成分とする根頭がんしゅ病防除剤及び/又は植物種子発芽率向上剤、該新菌株を用いた根頭がんしゅ病防除方法及び/又は植物種子発芽率向上方法に関する。 根頭がんしゅ病は、主に土壌中に生息する細菌である病原性リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)(異名:アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))、リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)(異名:アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes))、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)(異名:アグロバクテリウム・ヴィティス(Agrobacterium vitis))(以下、これらリゾビウム・ラジオバクター、リゾビウム・リゾゲネス及びリゾビウム・ヴィティスを総称して、根頭がんしゅ病菌という。)が、木本・草本の双子葉植物に感染し、「根頭がんしゅ」と呼ばれるがんしゅ(癌腫)を形成することにより、植物体を衰弱・枯死させる植物病の一種である。この根頭がんしゅ病は、日本国内においては、主に果樹や花卉に発生していることから、特に、果樹および花卉の農業生産現場や公園等の桜管理にとって、深刻な被害をもたらす植物病である。 根頭がんしゅ病では、病原性リゾビウム・ラジオバクター、リゾビウム・リゾゲネス及びリゾビウム・ヴィティスのいずれもがTi(tumor−inducing)プラスミドを保有しており、かかる保有するTi(tumor−inducing)プラスミドの一部(T−DNA領域)が、植物細胞核DNAに形質転換されることにより腫瘍化が誘導される。一度腫瘍が形成されると、根頭がんしゅ病菌を除去しても腫瘍は増殖を続け、植物の衰弱・枯死を引き起こす。従って、現状の技術では、植物が根頭がんしゅ病を一度発病してしまうと、治療することは困難である。そのため、根頭がんしゅ病に関しては、植物が根頭がんしゅ病菌に感染しないように予防措置をとることが重要である。 このような根頭がんしゅ病菌の感染に対する予防措置としては、従来、根頭がんしゅ病菌に汚染された土壌に対して、土壌全体を加熱滅菌したり、クロルピクリン剤や臭化メチル剤等の土壌殺菌剤を用いて土壌を薫蒸消毒したり、根頭がんしゅ病菌がグラム陰性であるため、グラム陰性細菌用抗生物質で当該土壌を処理したりすることがなされてきた。しかし、このような方法では、当該土壌に含まれる、根頭がんしゅ病菌以外の有用土壌細菌も殺菌・除去されてしまうので、当該土壌の土質が改悪される。このように改悪された土壌を、本来の植物栽培に適した土壌に回復させるには、有機肥料の投与等が必要である。そのため、多大な経費・労力と、多時間とを要するという問題が生じる。さらに、土壌殺菌剤を用いた土壌の薫蒸消毒では土壌殺菌剤の毒性がきわめて高く、作業者および周辺住民の健康を害する危険性がある。 そこで、上記の方法に代わる方法として、近年、非病原性菌を生物農薬として用いる拮抗的防除方法が提案されている。特許文献1には、シュードモナス・プチダ(Pseudomonas putida)A株(FERM P−20879)、シュードモナス属細菌(Pseudomonas sp.)B株(FERM P−20880)、シュードモナス属細菌(Pseudomonas sp.)C株(FERM P−20881)、シュードモナス属細菌(Pseudomonas sp.)D株(FERM P−20882)、シュードモナス・アルカリジーナス(Pseudomonas alcaligenes)E株(FERM P−20883)、エンテロバクター(Enterobacter)属細菌H株(FERM P−20886)、フラボバクテリア(Flavobacterium)属細菌F株(FERM P−20884)、およびステノトロフォモナス(Stenotrophomonas)属細菌G株(FERM P−20885)を根頭がんしゅ病に対する拮抗細菌として用いる方法が開示されている。 非特許文献1において、ラネルア・アクアティリス(Rahnella aquatilis)HX2株を拮抗細菌として用いる方法が記載されている。 特許文献2において、非病原性アグロバクテリウム・ヴィティス(Agrobacterium vitis)F2/5(pT2TFXK)株を拮抗細菌として用いる方法が記載されている。 そして、非特許文献2において、非病原性リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)VAR03−1株を拮抗細菌として用いる方法が記載されている。 また、非特許文献3には、非病原性アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)K84株を生物農薬として用いる拮抗的防除方法が開示されている。特開2007−300903号公報米国特許第7141395号明細書Chen,F.et al.,Biological control of grape crown gall by Rahnella aquatilis HX2.Plant Disease 91:957−963(2007)Kawaguchi,A.,Studies on the diagnosis and biological control of grapevine crown gall and phylogenetic analysis of tumorigenic Rhizobium vitis.Journal of General Plant Pathology 75:462−463(2009)Nicholas C.McClure et al.,Construction of a Range of Derivative of the Biological Control Strain Agrobacterium rhizogenes K84:a Study of Factors Involved in Biological Control of Crown Gall Disease.Appl.Environ.Microbiol.64:3977−3982(1998) 拮抗微生物による根頭がんしゅ病防除手段として、上記の生物的手段が種々提案されているが、そのほとんどは研究段階に留まり、実用化されていない。 これは、これら拮抗微生物による防除手段の多くが、根頭がんしゅ病防除効果が実験室内での実験において確認されたに留まり、農業生産上最も重要な自然環境下における実際の作物生産現場での安定的な防除効果を認めた事例がほとんどないことによると考えられる。 例えば、特許文献1において、個々の拮抗細菌株の拮抗能力には非常にばらつきがあり、これら拮抗細菌の混合培養物を用いる方法は、実用段階で培養物の性質および品質を安定的に保つ生産方法について課題がある。また、実施例において、実験室内で防除効果を確認した植物が根頭がんしゅ病による被害が農業上全く問題となっていないタバコのみであることもまた、本技術を適用できる植物の範囲について大きな問題を残している。 非特許文献3において、非病原性アグロバクテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)K84株は既に実用化されているが、ブドウで発生する根頭がんしゅ病には全く防除効果がないという大きな問題がある。それは、ブドウに感染する根頭がんしゅ病菌であるリゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)に対して、K84株はまったく抗菌活性を持たないためである。ブドウは醸造用、生食用として世界的に非常に重要な果樹であり、根頭がんしゅ病はブドウに対し、深刻な被害をもたらすため、現在なお大きな農業生産上の問題を抱えている。さらにK84株の抗菌活性に感受性を示さない菌株が自然界に多く存在しており、防除効果が低下する事例が既に存在している。 非特許文献1において、ラネルア・アクアティリス(Rahnella aquatilis)HX2株はブドウ根頭がんしゅ病に対して発病を抑制する効果を示すが、ブドウ以外の植物に対する防除効果が未知であり、本技術を適用できる植物の範囲について大きな問題を残している。 これに対し、非特許文献2において、非病原性リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)VAR03−1株はブドウ根頭がんしゅ病だけでなく、他の植物の根頭がんしゅ病に対しても防除効果を示す事例があるが、実際の生産現場で防除効果が認められたのはブドウのみであることから、現在においてなお、実用性について課題を残している。 特許文献2において、Trifolitoxin(TFX)という抗菌物質を合成する外来遺伝子を遺伝子組み換え技術により人工的に導入した遺伝子組み換え生物アグロバクテリウム・ヴィティスF2/5(pT2TFXK)株を作出し、根頭がんしゅ病に対する拮抗細菌として用いる方法が開示されている。しかし、実施例において、実際に多く発病する部分である根や地際の主幹部位に対する防除効果を示しておらず、また、ブドウ以外の植物についても防除効果は未知であり、実用性に乏しい。さらに、遺伝子組み換え生物を自然界で使用することには、生態系に著しい混乱を招くことが懸念される。 そこで、本発明は、実際の作物生産現場において安定的な根頭がんしゅ病防除効果を発揮し、生物農薬として使用可能な非病原性菌を提供することを目的とする。さらには、安定的な根頭がんしゅ病防除効果を発揮するだけでなく、他の植物育種に有用な機能も併せ持った、実用性の高い高機能非病原性菌を提供することも目的とする。 本発明の本発明者らは、根頭がんしゅ病防除効果を発揮する生物農薬としての新規な非病原性菌を見いだすべく、根頭がんしゅ病の防除に有効な微生物を鋭意探索した結果、ブドウ中から分離された非病原性リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)に属する新規の菌株が、根頭がんしゅ病の防除に顕著な効果を示すことを見いだし、また実際の作物生産現場の試験でも高い防除効果を発揮すること、及び、植物種子発芽率向上効果も示すことを確認して、本発明を完成するに至った。 即ち、本発明の第1の新規菌株は、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−1菌株(FERM BP−11426)である。 そして、本発明の第2の新規菌株は、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−2菌株(FERM BP−11427)である。 さらに、本発明の第3の新規菌株は、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−3菌株(FERM BP−11428)である。 本発明は、根頭がんしゅ病防除剤及び/又は植物種子発芽率向上剤も提供する。 本発明の根頭がんしゅ病防除剤及び/又は植物種子発芽率向上剤(以下、「本剤」ということもある。)は、ARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株よりなる群より選ばれる1又は2以上の菌体および/または菌体の培養物を有効成分として含有することを特徴とする。 本発明は、根頭がんしゅ病防除方法及び/又は植物種子発芽率向上方法も提供する。 本発明の根頭がんしゅ病防除方法及び/又は植物種子発芽率向上方法(以下、「本方法」ということもある。)は、本剤を植物あるいは植物種子に接触させるステップを含んでなることを特徴とする。ARK−1菌株による根頭がんしゅ病の発病抑制効果を示す図(図面代用写真)である。図1のAは、病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27株のみをブドウ苗木に接種した結果を示し、矢印で示すようにがんしゅ形成が認められた。図1のBは、ARK−1菌株の菌液と病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27の菌液との混合物をブドウ苗木に接種した結果を示し、がんしゅの形成は認められなかった。ARK−1菌株による根頭がんしゅ病の発病抑制効果を示す図(図面代用写真)である。図2のAは、汚染土壌にブドウ苗木をそのまま定植したものを6か月後に掘り起こしたブドウ苗木の写真であり、矢印で示すようにがんしゅ形成が認められた。図2のBは、ブドウ苗木の根をあらかじめARK−1の菌液に浸漬した後に汚染土壌に定植したものを6か月後に掘り起こしたブドウ苗木の写真であり、がんしゅ形成が認められなかった。 本発明の新規な菌株は、非病原性リゾビウム・ヴィティスARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株である(以下、これらの菌株をそれぞれ「ARK−1菌株」、「ARK−2菌株」及び「ARK−3菌株」ともいう。)。 そして、本剤は、上記ARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株よりなる群より選ばれる1又は2以上の菌体および/または菌体の培養物を有効成分として含有することを特徴とする根頭がんしゅ病防除剤及び/又は植物種子発芽率向上剤である。 さらに、本方法は、本剤を植物あるいは植物種子に接触させるステップを含んでなる、根頭がんしゅ病防除方法及び/又は植物種子発芽率向上方法である。 本発明のARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株のいずれも、岡山県内で栽培されているブドウ(品種:ピオーネ)から分離されたものである。 ARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株のいずれも、以下に示す細菌学的性質を有する。(a)形態 (1)細菌の形:桿状 (2)細菌の大きさ:0.7〜0.9×1.2〜1.7μm (3)多形性:なし (4)運動性:あり (5)胞子の有無:なし (6)グラム染色性:陰性(b)生育状況 PSA平板培地(後述)での培養:コロニーは円形で大きさは直径1〜2mm、周縁形は全縁、粘性あり、光沢はあるが、培養後7日以上経過すると光沢は消失する。(c)生理学的性質 (1)3―ケトラクトースの生成:陽性 (2)リトマスミルクでの培養:リトマスを還元してアルカリ性を示す (3)オキシダーゼ活性:陽性 (4)生長素要求性:陽性 (5)D−1培地:生育 (6)Roy−Sasser培地:生育 (7)2%NaCl培地:生育 (8)エリトリトールの利用:陰性 (9)メレジトースの利用:陰性 (10)エタノールの利用:陰性 (11)酒石酸の利用:陽性 (12)マロン酸の利用:陽性 (13)クエン酸の利用:陽性 (14)アルブチンの分解:陰性 (15)アルギニンの分解:陽性 (16)最適生育pHおよび温度の範囲:pH6〜8、温度25〜30℃ 以上の特徴をバージェイズ・マニュアル・オブ・システマティック・バクテリオロジー(Bergeys Manual of Systematic Bacteriology)およびジャーナル・オブ・システマティック・エンバイロンメンタル・マイクロバイオロジー(Journal of Systematic Environmental Microbiology)2001年51号を参照して近縁菌種を検索した結果、本菌株はリゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)の特徴と一致した。 遺伝学的性質は以下の如くである。ARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株の各菌株について16SrRNAの塩基配列1473ベースペア(bp)を解読し、国立遺伝学研究所(DDBJ)のホームページ上の検索サイト「ブラスト(BLAST)」で近縁菌種の相同性検索を行った結果、登録されているリゾビウム・ヴィティスの16SrRNAの塩基配列と100%一致した。 植物に対する病原性については以下の如くである。 ARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株、病原性既知のリゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)それぞれをPSA平板培地(後述)で27℃、48時間培養し、生じたコロニーに爪楊枝の先端を刺し入れて菌を付着させた。そして、その先端をトマト、バラ、ブドウ、リンゴ、ナシ、モモの茎に突き刺して接種し、25℃〜35℃のビニルハウス内で静置し、発病の有無を確認した。 その結果、病原性既知のリゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)は約9割(89.7%)発病が確認されたが、ARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株のいずれも発病は見られず、ARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株のいずれも病原性は認められなかった。 以上の細菌学的性質、遺伝学的性質、植物に対する病原性の結果から、これらARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株を、それぞれリゾビウム・ヴィティスに属する非病原性の菌株と同定し、リゾビウム・ヴィティスARK−1菌株(Rhizobium vitis ARK−1)(発明者が付した識別のための表示:Rhizobium vitis ARK−1)、リゾビウム・ヴィティスARK−2菌株(Rhizobium vitis ARK−2)(発明者が付した識別のための表示:Rhizobium vitis ARK−2)、リゾビウム・ヴィティスARK−3菌株(Rhizobium vitis ARK−3)(発明者が付した識別のための表示:Rhizobium vitis ARK−3)と命名した。これらARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株は、茨城県つくば市東1−1−1 つくばセンター中央第6に住所を有する独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに2010年(平成22年)10月14日付で上記名称で寄託された後、2011年(平成23年)10月31日付けで国際寄託に移管されており、その受託番号は、ARK−1菌株はFERM BP−11426であり、ARK−2菌株はFERM BP−11427であり、そしてARK−3菌株はFERM BP−11428である。 ARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株のいずれも、分離菌株の保存は、グルタミン酸ナトリウム1g/L(Lは単位リットルを示す。以下同様。)、スキムミルク10g/L、蒸留水1000mLの分散媒に懸濁後、−80℃で凍結し凍結物(以下、「凍結保存物」ということもある)とすることで保存できる。そして、使用にあたっては、菌株を含む凍結保存物を解凍後、PSA(Potato sucrose agar)培地(以下、PSAともいう)に植え、25℃〜30℃で静置培養することができる。なお、PSAは、じゃがいも300gの煎汁、Ca(CO3)2・4H2O 0.5g、Na2HPO4・12H2O 2.0g、ペプトン5.0g、サッカロース20g及び寒天20gを蒸留水1000mLに溶解させ調製できる。また、PSAはPSA試験管斜面培地又はPSA平板培地のいずれとされてもよい。 ARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株のいずれも、培養に使用することのできる培地としては、上述のPSA以外にも本菌株が増殖し得るものであれば任意のものでよい。例えば、培地に用いる炭素源としては、グルコース、サッカロース、デンプン、デンプン糖化液、糖蜜等の糖類、クエン酸等の有機酸など、窒素源としては、アンモニア、硫安、燐安、塩安、硝安等のアンモニウム塩や硝酸塩が適宜使用される。無機塩としては、リン酸、カリウム、マグネシウム、マンガン等の塩類、例えばリン酸二水素カリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸マンガン、硫酸第一鉄などがあげられる。また微量有機栄養素としてビタミン、アミノ酸、核酸関連物質等は菌の生育上特に必要ではないが、これらを添加したり、ペプトン、肉エキス、酵母エキス、大豆粕等の有機物を添加してもよい。さらに、必要に応じて消泡剤等の種々の添加剤を添加することもできる。 ARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株のいずれも、培養は好気的条件下に、例えば通気撹拌や振盪培養法又は固体培養法等によって培養することができる。培養条件は特に限定はないが、温度は25〜30℃、pHは6〜8、培養時間は24〜72時間の範囲とされてもよい。 以上のように培養した非病原性リゾビウム・ヴィティスARK−1菌株、非病原性リゾビウム・ヴィティスARK−2菌株、及び非病原性リゾビウム・ヴィティスARK−3菌株は、それぞれ培養物から分離することなく培養物の状態で本剤の有効成分として利用することができる。また、上記培養物から、通常の方法、例えば膜分離又は遠心分離等の処理によって上記各菌体を分離し、菌体の状態で本剤の有効成分として利用することもできる。更には、上記培養物又は分離した菌体を凍結乾燥、スプレードライ等の方法によって乾燥した乾燥物の状態で本剤の有効成分として利用することもできる。又、本剤は、上記培養物または菌体そのものからなるものであってもよいが、通常、農薬製剤の慣用的な方法等に従って各種の添加物と共に各種の剤型に製剤化した状態で用いることもできる。かかる剤型としては、例えば粒剤、乳剤、水和剤、フロアブル剤等が挙げられる。 本剤は、ARK−1菌株、ARK−2菌株又はARK−3菌株をそれぞれ単独で含有するものであってもよいし、また2種以上の菌株を任意に組み合わせて含有するものであってもよい。本剤に含まれるARK−1菌株、ARK−2菌株又はARK−3菌株の割合(菌濃度)は、本剤が植物を根頭がんしゅ病から防除する効果を発揮する限り、特に制限されないが、例えば、本剤100gあたり上記菌株の菌(総数)を1×109〜1×1011個の範囲で含有するものを例示することができる。 このように調製した非病原性リゾビウム・ヴィティスARK−1菌株、非病原性リゾビウム・ヴィティスARK−2菌株、非病原性リゾビウム・ヴィティスARK−3菌株の培養物又は分離した菌体を有効成分とする本剤によれば、これを植物体(種子を含む)又は土壌に適用することにより農園芸作物を根頭がんしゅ病から防除することができ、種子発芽率向上も図ることができる。なお、本発明において「防除」とは、対象とする植物が根頭がんしゅ病菌に感染することを防止することにより、当該植物が根頭がんしゅ病に罹患しがんしゅが形成されることを回避することを意味する。 本剤は、植物にがんしゅ形成を促す病原性を有するリゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)(異名:アグロバクテリウム・ツメファシエンス(Agrobacterium tumefaciens))、リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)(異名:アグロバクテリウム・リゾゲネス(Agrobacterium rhizogenes))、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)(異名:アグロバクテリウム・ヴィティス(Agrobacterium vitis))等の根頭がんしゅ病菌により植物に引き起こされる根頭がんしゅ病の防除に顕著な効果を示す。対象とする植物の種類は特に制限されないが、具体的にはリンゴ、バラ、スモモ、オウトウなどのバラ科植物;キクなどのキク科植物;ブドウなどのブドウ科植物;トマトなどのナス科を例示することができる。本剤のうち、ARK−1菌株を有効成分とする本剤は上記植物のいずれに対しても高い根頭がんしゅ病防除効果を発揮する。ARK−3菌株を有効成分とする本剤もまた、上記植物のいずれに対しても根頭がんしゅ病防除効果を発揮する。ARK−2菌株を有効成分とする本剤は、上記植物のうち、特にバラ、ブドウ及びトマトに対して根頭がんしゅ病防除効果を発揮する。 本剤の施用法は、前述の使用形態(製剤の剤型等)に応じて、作物によって適宜選択されてよいが、例えば地上液剤散布、植物を菌液に浸漬する処理、土壌灌注処理などがある。 本剤を液剤として調製して使用する場合、それに含まれるARK−1菌株、ARK−2菌株又はARK−3菌株の菌濃度は、所望の防除結果が得られるものであればよく、何ら限定されるものではないが、あまり菌濃度が少ないと十分な結果が得られず、逆にあまり菌濃度を多くしても菌が無駄になることがあるので、例えば、1.0×107個/mL〜1.0×109個/mLの範囲で適宜調整することができる。 本剤の施用量は適用作物、剤型等によって異なるため、一概には規定できないが、例えば、本剤を土壌に灌注する場合には、ブドウやリンゴなどの果樹類であれば樹木1本あたり50L〜100Lとしてもよく、処理は定植前の定植を予定している位置または定植後の株元が好ましい。また、植物を本剤に浸漬する処理では、特に限定されるものではないが、例えば、定植前の樹木の根を、根が十分に浸かる量の本剤に1時間〜24時間漬け込むようにしてもよく、それよりも小さい草本植物の苗の根であれば、10分間〜1時間漬け込むようにしてもよい。種子の場合は、本剤に10分間〜2時間種子を漬け込むか、種子を土壌に播種した後に種子表面に本剤を散布(土壌灌注処理)する方法でもよい。 以下、本発明の実施例について述べるが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではなく、本発明の技術的思想内においてこれらの様々な変形が可能である。 下記実験例及び実施例において使用する「ARK−1菌株」、「ARK−2菌株」及び「ARK−3菌株」は、2002年に岡山県浅口市金光町で栽培したブドウから分離したリゾウム・ヴィティスに属する菌株であり、それぞれ「リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−1菌株(受託番号:FERM BP−11426)」、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−2菌株(受託番号:FERM BP−11427)及びリゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−3菌株(受託番号:FERM BP−11428)」として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センターに国際寄託されている。これらの細菌学的性質、遺伝学的性質及び病原性は前述の通りである。実験例1:(根頭がんしゅ病発病抑制効果) ARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株のそれぞれを、PSA平板培地で3日間培養した後、各菌体を滅菌蒸留水に懸濁して菌濃度1.0×107個/mLの菌液(a)を作成した。また、比較例として、非病原性アグロバテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)K84株、及び非病原性リゾビウム・ヴィティスVAR06−32株についてもPSA平板培地で3日間培養した後、各菌体を滅菌蒸留水に懸濁して菌濃度1.0×107個/mLの菌液(a)を作成した。ブドウ根頭がんしゅ病菌である病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27株をPSA平板培地で3日間培養した後、菌体を滅菌蒸留水に懸濁して菌濃度1.0×107個/mLの菌液(b)を調製した。 本発明の菌(ARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株)又は比較例の菌(非病原性アグロバテリウム・ラジオバクターK84株、非病原性リゾビウム・ヴィティスVAR06−32株)を含む菌液(a)と、リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27の菌液(b)と、を体積比にて1対1の割合で混合したもの5種を接種源とした。なお、対照として、リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27の菌液(b)も接種源として用いた。その接種源(合計6種)に爪楊枝の先端を浸し、一接種源当たり7〜10株のブドウ(品種:ネオ・マスカット、1年生苗木)に該先端を突き刺して接種した。1株のブドウあたり茎の7〜10か所に接種した。接種したブドウ苗木は温室内で3か月静置した後、接種部位のがんしゅ形成の有無を評価した。 評価の結果を、病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27株のみを接種した無処理区(対照)、アグロバテリウム・ラジオバクター(Agrobacterium radiobacter)K84株(比較例)、非病原性リゾビウム・ヴィティスVAR06−32株(比較例)の結果とともに、表1に示す。なお、病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27株のみを接種した無処理区(対照)のブドウ苗木の写真を図1のAに示し(矢印で示すようにがんしゅ形成が認められた)、ARK−1菌株の菌液を混合したものを接種したブドウ苗木の写真を図1のBに示した。表1は、上記の試験を3回反復して行い、その平均値を算出したものである。表1の防除価は以下の数式により算出した。 防除価=100×(無処理区の発病率−非病原性菌株と混合して接種した区の発病率)/(無処理区の発病率)。 表1に示す如く、本発明の菌株であるARK−1菌株、ARK−2菌株、及びARK−3菌株は、ブドウ根頭がんしゅ病菌である病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27株のみを接種した無処理区及び比較例の菌株を接種した区と比較して根頭がんしゅ病の発病率が顕著に低く、根頭がんしゅ病に対して高い防除効果を認めた。なかでも、ARK−1菌株は、高い防除効果を認めた。実施例1:(本剤の製造例) まず、PS(Potato sucrose)培地を調製した。じゃがいも300gの煎汁、Ca(CO3)2・4H2O 0.5g、Na2HPO4・12H2O 2.0g、ペプトン5.0g及びサッカロース20gを蒸留水1000mLに溶解させオートクレーブ滅菌しPS培地(以下、「PS」ともいう。)を調製した。このように調製したPS培地に、ARK−1菌株、ARK−2菌株、及びARK−3菌株を各々別々に接種し(いずれも、前述の凍結保存物を解凍し、その一白金耳量(2mg)を接種した。)、30℃で48時間、100rpmで振とう培養し、各菌株を生きた状態で含有する生菌体含有培養液(本剤)を得た。実験例2:(阻止円形成による評価) 上記実施例1で製造した3種類の生菌体含有培養液(本剤)をそれぞれ浸み込ませた直径8mmのペーパーディスクを、シャーレ内部のPSA平板培地の上に置いて27℃で24時間培養した。24時間の培養後、そのシャーレのふたの内側に直径9cmの濾紙を敷き、クロロホルムをその濾紙に1mL滴下してふたを戻して30分間室温で燻蒸した後、濾紙を外して60分間静置しクロロホルムをそのシャーレ内部から完全に蒸発除去した。その後、予め表2に記載する各種根頭がんしゅ病菌株をPSA平板培地で3日間培養した後、滅菌蒸留水に懸濁して作成しておいた菌濃度1.0×108個/mLの各菌液を、上記で作製した各培地に、1枚(シャーレ1個)当たり2mLの割合でスプレーで噴霧して接種し、27℃で48時間培養後、ペーパーディスク周辺の形成される阻止円の大きさを測定した。その結果、表2に示すとおり、ARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株は供試した全ての根頭がんしゅ病菌株に対して、その増殖を抑制した。実験例3:(ブドウ根頭がんしゅ病の防除例・浸漬処理) 実施例1で製造したARK−1菌株、ARK−2菌株、及びARK−3菌株の各生菌体含有培養液を用いて、岡山県農林水産総合センター農業研究所の敷地内にある野外の圃場において圃場試験を実施した。なお、上記各生菌体含有培養液は水道水で希釈して菌濃度を1.0×109個/mLに調整し、これを本剤として用いた。ブドウ根頭がんしゅ病菌株である病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27株、病原性リゾビウム・ヴィティスMAFF211674株、病原性リゾビウム・ヴィティスMAFF211676株、病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−60株、及び病原性リゾビウム・ヴィティスVAT07−1株をそれぞれPSA平板培地で27℃、24時間前培養した。これらの菌体を全て一つのPS培地に入れて27℃で48時間、100rpmで振とう培養し、各処理区(1.1m2)あたり、上記で得られた培養物20Lを土壌に混和して汚染圃場とした。ブドウ(品種:ピオーネ、2年生苗木)の根を束ねて全長の1/2の位置で切断し、根部を菌濃度1.0×109個/mLの本剤に浸漬して1時間静置した後、1処理区あたり4本を定植した。各処理区6反復で試験し、定植6か月後に全株を掘り起こして、がんしゅが形成されている株数の全株数に対する割合を発病株率として、それから防除価を以下の数式で算出した。なお、無処理区とは、本剤で浸漬処理をしないで定植したブドウを意味する。 防除価=100×(無処理区の発病株率−処理区の発病株率)/(無処理区の発病株率)。 その結果、表3に示すとおり、本剤(ARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株)で浸漬処理することにより、ブドウ根頭がんしゅ病の発病株率が無処理区と比べて著しく減少し、ブドウ根頭がんしゅ病に対して極めて高い防除効果が得られた。 なお、無処理区(対照)の汚染土壌にブドウ苗木をそのまま定植したものを6か月後に掘り起こしたブドウ苗木の写真を図2のAに示し(矢印で示すようにがんしゅ形成が認められた)、ブドウ苗木の根をあらかじめARK−1の菌液に浸漬した後に汚染土壌に定植したものを6か月後に掘り起こしたブドウ苗木の写真を図2のBに示した(がんしゅ形成が認められない)。実験例4:(ブドウ根頭がんしゅ病の防除例・土壌灌注処理) 実施例1で製造したARK−1菌株、ARK−2菌株、及びARK−3菌株の各生菌体含有培養液を用いて、岡山県農林水産総合センター農業研究所の敷地内にある温室において試験を実施した。なお、上記各生菌体含有培養液は水道水で希釈して菌濃度を1.0×108個/mLに調整し、これを本剤として用いた。ブドウ根頭がんしゅ病菌株である病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−27株、病原性リゾビウム・ヴィティスMAFF211674株、病原性リゾビウム・ヴィティスMAFF211676株、病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−60株、病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−68株、病原性リゾビウム・ヴィティスG−Ag−80株、病原性リゾビウム・ヴィティスVAT07−1株、及び病原性リゾビウム・ヴィティスAt−90−23株、をそれぞれPSA平板培地で27℃、24時間前培養した。これらの菌体を全て一つのPS培地に入れて27℃で48時間、100rpmで振とう培養し、土壌を300g詰めた直径9cmビニルポット(植木鉢)あたり、上記で調製した培養物100mLを土壌に混和して汚染土とした。ブドウ(品種:ネオ・マスカット、1年生苗木)を1ポットに1本定植した後、本剤を1ポットあたり50mL灌注した。各処理区60ポットで試験し、定植4か月後に全株を掘り起こして、がんしゅが形成されている株数の全株数に対する割合を発病株率として、それから防除価を以下の数式で算出した。 防除価=100×(無処理区の発病株率−処理区の発病株率)/(無処理区の発病株率)。 その結果、表4に示すとおり、本剤(ARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株)を土壌に灌注することにより、ブドウ根頭がんしゅ病の発病株率が無処理区と比べて著しく減少し、ブドウ根頭がんしゅ病に対して極めて高い防除効果が得られた。実験例5:(リンゴ根頭がんしゅ病の防除例・浸漬処理) 実施例1で製造したARK−1菌株、ARK−2菌株、及びARK−3菌株の各生菌体含有培養液を用いて、岡山県農林水産総合センター農業研究所の敷地内にある野外の圃場において圃場試験を実施した。なお、上記各生菌体含有培養液は水道水で希釈して菌濃度を2.0×108個/mLに調整し、これを本剤として用いた。リンゴ根頭がんしゅ病菌株に属する病原性リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)ARAT001株、病原性リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)ARAT002株、病原性リゾビウム・リゾゲネスNEAR8株、病原性リゾビウム・リゾゲネスNEAR11株、及び病原性リゾビウム・リゾゲネスNEARNo.9 3/2株をそれぞれPSA平板培地で27℃、24時間前培養した。これらの菌体を全て一つのPS培地に入れて27℃で48時間、100rpmで振とう培養し、各処理区(6.0m2)あたり100Lを土壌に混和して汚染圃場とした。リンゴ(品種:フジ、2年生苗木)の根を束ね、根部を菌濃度2.0×108個/mLの本剤に浸漬して1時間静置した後、1処理区あたり11本を定植した。各処理区3反復で試験し、定植6か月後に全株を掘り起こして、がんしゅが形成されている株数の全株数に対する割合を発病株率として、それから防除価を以下の数式で算出した。 防除価=100×(無処理区の発病株率−処理区の発病株率)/(無処理区の発病株率)。 その結果、表5に示すとおり、本剤(ARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株)で浸漬処理することにより、リンゴ根頭がんしゅ病の発病株率が無処理区と比べて著しく減少し、リンゴ根頭がんしゅ病に対して極めて高い防除効果が得られた。実験例6:(バラ根頭がんしゅ病の防除例・浸漬処理) 実施例1で製造したARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株の各生菌体含有培養液を用いて、岡山県農林水産総合センター農業研究所の敷地内にある温室において実施した。なお、上記の各生菌体含有培養液は水道水で希釈して菌濃度を5.0×108個/mLに調整し、これを本剤として用いた。リンゴ根頭がんしゅ病菌株である病原性リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)ARAT001株、病原性リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)ARAT002株、病原性リゾビウム・リゾゲネスNEAR8株、病原性リゾビウム・リゾゲネスNEAR11株、及び病原性リゾビウム・リゾゲネスNEARNo.9 3/2株をそれぞれPSA平板培地で27℃、24時間前培養した(なお、リンゴ根頭がんしゅ病菌はバラにも強い病原性を有するため、ここではリンゴ根頭がんしゅ病菌を供試した。)。これらの菌体を全て一つのPS培地に入れて27℃で48時間、100rpmで振とう培養し、土壌を600g詰めた直径15cmビニルポットあたり、上記培養物200mLを土壌に混和して汚染土とした。バラ(品種:ローテローゼ、1年生苗木)の根を束ねて全長の1/2の位置で切断し、根部を菌濃度5.0×108個/mLの本剤に浸漬して24時間静置した後、1処理区あたり15本を定植した。なお、1本を1ポットに定植し、1処理区を15ポットにて形成した。各処理区3反復で試験し、定植6か月後に全株を掘り起こして、がんしゅが形成されている株数の全株数に対する割合を発病株率として、それから防除価を以下の数式で算出した。 防除価=100×(無処理区の発病株率−処理区の発病株率)/(無処理区の発病株率)。 その結果、表6に示すとおり、本剤で浸漬処理することにより、バラ根頭がんしゅ病の発病株率が無処理区と比べて著しく減少し、バラ根頭がんしゅ病に対して極めて高い防除効果が得られた。実験例7:(トマト根頭がんしゅ病の防除例・浸漬処理) 実施例1で製造したARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株の各生菌体含有培養液を用いて、岡山県農林水産総合センター農業研究所の敷地内にある温室において試験を実施した。なお、各生菌体含有培養液を水道水で希釈して菌濃度を5.0×108個/mLに調整したものを、本剤として用いた。リンゴ根頭がんしゅ病菌株である病原性リゾビウム・ラジオバクター(Rhizobium radiobacter)ARAT001株、病原性リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)ARAT002株、病原性リゾビウム・リゾゲネスNEAR8株、病原性リゾビウム・リゾゲネスNEAR11株、及び病原性リゾビウム・リゾゲネスNEARNo.9 3/2株をそれぞれPSA平板培地で27℃、24時間前培養した(なお、リンゴ根頭がんしゅ病菌はトマトにも強い病原性を有するため、ここではリンゴ根頭がんしゅ病菌を供試した。)。これらの菌体を全て一つのPS培地に入れて27℃で48時間、100rpmで振とう培養し、土壌を300g詰めた直径9cmビニルポットあたり、上記培養物100mLを土壌に混和して汚染土とした。トマト(品種:桃太郎8、実生、発芽4週間後)の根を束ねて全長の1/2の位置で切断し、根部を菌濃度5.0×108個/mLの本剤に浸漬して10分間静置した後、1処理区あたり40本を定植した。なお、1本を1ポットに定植し、1処理区を40ポットにて形成した。各処理区3反復で試験し、定植3か月後に全株を掘り起こして、がんしゅが形成されている株数の全株数に対する割合を発病株率として、それから防除価を以下の数式で算出した。 防除価=100×(無処理区の発病株率−処理区の発病株率)/(無処理区の発病株率)。 その結果、表7に示すとおり、本剤で浸漬処理することにより、トマト根頭がんしゅ病の発病株率が無処理区と比べて著しく減少し、トマト根頭がんしゅ病に対して極めて高い防除効果が得られた。実験例8:(モモ根頭がんしゅ病の防除例・浸漬処理) 実施例1で製造したARK−1菌株、ARK−3菌株の各生菌体含有培養液を用いて、岡山県農林水産総合センター農業研究所の敷地内にある野外の圃場において圃場試験を実施した。なお、上記各生菌体含有培養液は水道水で希釈して菌濃度を2.5×108個/mLに調整し、これを本剤として用いた。モモ根頭がんしゅ病菌株に属する病原性リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)Pch−Ag−2株をPSA平板培地で27℃、24時間前培養した。この菌体をPS培地に入れて27℃で48時間、100rpmで振とう培養し、各処理区(4.2m2)あたり100Lを土壌に混和して汚染圃場とした。モモ(品種:白鳳、2年生苗木)の根を束ね、根部を菌濃度2.5×108個/mLの本剤に浸漬して1時間静置した後、1処理区あたり13本を定植した。各処理区3反復で試験し、定植6か月後に全株を掘り起こして、がんしゅが形成されている株数の全株数に対する割合を発病株率として、それから防除価を以下の数式で算出した。 防除価=100×(無処理区の発病株率−処理区の発病株率)/(無処理区の発病株率)。 その結果、表8に示すとおり、ARK−1菌株またはARK−3菌株を有効成分とする本剤で浸漬処理することにより、モモ根頭がんしゅ病の発病株率が無処理区と比べて著しく減少し、モモ根頭がんしゅ病に対して高い防除効果が得られた。とりわけARK−1菌株は極めて高い防除効果を示した。実験例9:(ナシ根頭がんしゅ病の防除例・浸漬処理) 実施例1で製造したARK−1菌株、ARK−2菌株、ARK−3菌株の各生菌体含有培養液を用いて、岡山県農林水産総合センター農業研究所の敷地内にある温室において実施した。なお、上記の各生菌体含有培養液は水道水で希釈して菌濃度を2.5×108個/mLに調整し、これを本剤として用いた。ナシ根頭がんしゅ病菌株である病原性リゾビウム・リゾゲネス(Rhizobium rhizogenes)P−Ag−1株およびP−Ag−6株をそれぞれPSA平板培地で27℃、24時間前培養した。これらの菌体を全て一つのPS培地に入れて27℃で48時間、100rpmで振とう培養し、各処理区(4.2m2)あたり100Lを土壌に混和して汚染圃場とした。ナシ(品種:豊水、2年生苗木)の根を束ね、根部を菌濃度2.5×108個/mLの本剤に浸漬して1時間静置した後、1処理区あたり13本を定植した。各処理区3反復で試験し、定植6か月後に全株を掘り起こして、がんしゅが形成されている株数の全株数に対する割合を発病株率として、それから防除価を以下の数式で算出した。 防除価=100×(無処理区の発病株率−処理区の発病株率)/(無処理区の発病株率)。 その結果、表9に示すとおり、本剤で浸漬処理することにより、ナシ根頭がんしゅ病の発病株率が無処理区と比べて著しく減少し、ナシ根頭がんしゅ病に対して高い防除効果が得られた。とりわけARK−1菌株は極めて高い防除効果を示した。実験例10:(種子発芽率向上例) 岡山県内で栽培されていたブドウ(品種:ピオーネ)中から分離したリゾビウム・ヴィティスARK−1菌株、ARK−2菌株およびARK−3菌株をポテト・デキストロース液体培地で27℃、2日間培養し、遠心分離機により培養菌体のみを得た。これを蒸留水にて108個/mLに調整した。 市販されているミツバ、パセリ、ニガウリの種子を前記の手法で調製した菌液に60分間浸漬し、浸漬種子を得た。この種子を育苗培土に播種し、温室内で育苗した。播種2週間後に発芽率を調査した。なお、比較例としては、各種種子を水道水に60分間浸漬したものを用いた(実験例10−1)。 また、市販されているミツバ、パセリ、ニガウリの種子を育苗培土に播種し、覆土する前に培土および種子表面に実施例1で調製した菌液を500mL/m2の割合で土壌灌注処理した。土壌灌注処理後、覆土を行い、温室内で育苗し、播種2週間後に発芽率を調査した。なお、比較例としては、水道水を500mL/m2の割合で土壌灌注処理したものを用いた(実験例10−2)。 何れの試験も、発芽率は子葉が地上部において完全に展開しているものを発芽とみなして、以下の式(1)により算出した。 発芽率(%)=(発芽数/播種数)×100。 その結果、表10に示すとおり、リゾビウム・ヴィティスARK−1菌株、ARK−2菌株およびARK−3菌株を培養して得られた菌体を未発芽の種子に作用させることは、植物種子の発芽率を向上させることが示された。 以上述べたように、本発明の新規な微生物ARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株のいずれも根頭がんしゅ病に対して極めて優れた防除効果を示した。 また、本発明に係わる微生物ARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株のいずれも冷凍保存でき、使用にあたりその一部を取り出して容易に増殖できるので、取り扱いが簡単である。 また、本発明に係わる微生物ARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株のいずれも自然界に存在する非病原性リゾビウム・ヴィティスに属するものであり、安全性に優れ、環境への影響が少ない。 以上の通り、本発明に係わる非病原性リゾビウム・ヴィティスARK−1菌株、ARK−2菌株及びARK−3菌株はいずれも根頭がんしゅ病に対して高い防除効果を示すことから、根頭がんしゅ病の防除剤として、農業分野および園芸分野で広く適用できる。 そしてさらに、本発明のリゾビウム・ヴィティスARK−1菌株、ARK−2菌株およびARK−3菌株は、根頭がんしゅ病防除作用だけでなく植物種子発芽率向上作用を併せ持つことから、一度適用するだけで2つの効果を期待することができる。このような効果は農作物生産において、コスト削減と作業簡易化に役立つ。また、本発明の菌株は自然界から分離されたことから、環境や生態系に悪影響を及ぼすことはなく、安全性が高いという利点がある。 本発明を要約すれば次のとおりである。 すなわち本発明は、実際の作物生産現場において安定的な根頭がんしゅ病防除効果や植物種子発芽率向上効果を発揮し、生物農薬等として使用可能な非病原性菌を提供することを目的とする。 そして、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−1菌株(FERM BP−11426)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−2菌株(FERM BP−11427)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−3菌株(FERM BP−11428)よりなる群より選ばれる1又は2以上の菌体および/または菌体の培養物を有効成分とすることで、根頭がんしゅ病防除剤、及び/又は、植物種子発芽率向上剤等を提供できる。さらに、当該剤を植物あるいは植物種子に接触させるステップを含んでなる、根頭がんしゅ病防除方法及び/又は植物種子発芽率向上方法も提供できる。 本発明において国際寄託されている微生物の受託番号を下記に示す。(1)リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−1菌株(FERM BP−11426)。(2)リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−2菌株(FERM BP−11427)。(3)リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−3菌株(FERM BP−11428)。 リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−1菌株(FERM BP−11426)。 リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−2菌株(FERM BP−11427)。 リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−3菌株(FERM BP−11428)。 請求項1に記載のARK−1菌株、請求項2に記載のARK−2菌株及び請求項3に記載のARK−3菌株よりなる群より選ばれる1又は2以上の菌体および/または菌体の培養物を有効成分として含有することを特徴とする根頭がんしゅ病防除剤。 請求項4に記載の根頭がんしゅ病防除剤を植物に接触させるステップを含んでなる、根頭がんしゅ病防除方法。 請求項1に記載のARK−1菌株、請求項2に記載のARK−2菌株及び請求項3に記載のARK−3菌株よりなる群より選ばれる1又は2以上の菌体および/または菌体の培養物を有効成分として含有することを特徴とする植物種子発芽率向上剤。 請求項6に記載の植物種子発芽率向上剤を植物種子に接触させるステップを含んでなる、植物種子発芽率向上方法。 要約 課題 実際の作物生産現場において安定的な根頭がんしゅ病防除効果や植物種子発芽率向上効果を発揮し、生物農薬等として使用可能な非病原性菌を提供する。 解決手段 本発明は、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−1菌株(FERM BP−11426)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−2菌株(FERM BP−11427)、リゾビウム・ヴィティス(Rhizobium vitis)ARK−3菌株(FERM BP−11428)である。また、これら3菌株よりなる群より選ばれる1又は2以上の菌体および/または菌体の培養物を有効成分として含有することを特徴とする根頭がんしゅ病防除剤、及び/又は、植物種子発芽率向上剤である。さらには、本剤を植物あるいは植物種子に接触させるステップを含んでなる、根頭がんしゅ病防除方法及び/又は植物種子発芽率向上方法である。 選択図 図1


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