生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_大脳白質異常を伴う点頭てんかんの検出方法
出願番号:2009146055
年次:2011
IPC分類:C12Q 1/68,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

松本 直通 才津 浩智 JP 2011000064 公開特許公報(A) 20110106 2009146055 20090619 大脳白質異常を伴う点頭てんかんの検出方法 公立大学法人横浜市立大学 505155528 谷川 英次郎 100088546 松本 直通 才津 浩智 C12Q 1/68 20060101AFI20101203BHJP C12N 15/09 20060101ALI20101203BHJP JPC12Q1/68 AC12N15/00 A 5 2 OL 17 4B024 4B063 4B024AA11 4B024AA20 4B024BA80 4B024CA02 4B024CA09 4B024CA20 4B024DA03 4B024EA04 4B024GA11 4B024GA18 4B024HA11 4B024HA20 4B063QA13 4B063QA17 4B063QA19 4B063QQ02 4B063QQ08 4B063QQ42 4B063QQ43 4B063QQ79 4B063QQ91 4B063QR08 4B063QR32 4B063QR35 4B063QR40 4B063QR42 4B063QR55 4B063QR56 4B063QR62 4B063QS25 4B063QS28 4B063QS36 4B063QS39 4B063QX02 本発明は、大脳白質異常を伴う点頭てんかんの検出方法に関する。 点頭てんかん(West症候群)はシリーズ形成性のスパズムと脳波上のヒプスアリスミアがよく知られており、発生率は出生数1000に対して0.16-0.42と多い疾患である。脳形成異常、染色体異常、周産期低酸素性脳障害などが原因として知られているが、これらの明らかな原因が特定されない特発性のものがあり遺伝的な素因が想定される(非特許文献1)。 現在までのところ、点頭てんかんの責任遺伝子としては、家系例の解析からX染色体上に位置する2つの遺伝子ARX (aristaless related homeobox), CDKL5 (cyclin-dependent kinase-like 5) が報告されている(非特許文献2、3)。孤発例においても、男児においてARX変異(非特許文献4、5)が、女児においてCDKL5変異(非特許文献6)が報告されている。しかしながら、これらの報告された責任遺伝子変異で原因が説明できない症例が多数残されていた。 点頭てんかんのうち、白質容量の減少や髄鞘化遅延といった大脳白質異常を伴うタイプは、3-phosphoglycerate dehydrogenase欠損症などの代謝異常症、およびPEHO syndrome(progressive encephalopathy with edema, hypsarrhythmia and optic atrophy syndrome)で報告がある。代謝異常症に関しては生化学的検査で診断可能であるが、PEHO syndromeのような生化学的な異常の認められない白質異常を伴う点頭てんかん症例のほとんどは原因不明であり、簡便に確定診断可能な指標も知られていない。Kato, M., A new paradigm for West syndrome based on molecular and cell biology. Epilepsy Res, 2006. 70 Suppl 1: p. S87-95.Stromme, P., et al., Mutations in the human ortholog of Aristaless cause X-linked mental retardation and epilepsy. Nat Genet, 2002. 30(4): p. 441-5.Weaving, L.S., et al., Mutations of CDKL5 cause a severe neurodevelopmental disorder with infantile spasms and mental retardation. Am J Hum Genet, 2004. 75(6): p. 1079-93.Kato, M., et al., Polyalanine expansion of ARX associated with cryptogenic West syndrome. Neurology, 2003. 61(2): p. 267-76.Guerrini, R., et al., Expansion of the first PolyA tract of ARX causes infantile spasms and status dystonicus. Neurology, 2007. 69(5): p. 427-433.Bahi-Buisson, N., et al., Key clinical features to identify girls with CDKL5 mutations. Brain, 2008: p. awn197. 従って、本発明の目的は、大脳白質異常を伴う点頭てんかんを診断できる新規な手段を提供することにある。 本願発明者らは、鋭意研究の結果、大脳白質異常を伴う新生児〜乳児期発症の難治性てんかんの女児症例において第9番染色体上の微細欠失を同定した。次いで、該欠失領域中に存在するα-IIスペクトリン(α-II spectrin; SPTAN1)に着目して、新生児〜乳児期発症の難治性てんかん患者67名において変異解析を行なった結果、大脳白質異常を伴う点頭てんかん症例2例において健常者には認められないアミノ酸変異を見出し、本願発明を完成した。 すなわち、本発明は、生体から分離した試料に対して行なう方法であって、SPTAN1遺伝子が欠失しているか否か及び/又は異常型SPTAN1をコードする遺伝子が存在するか否かを指標とする、大脳白質異常を伴う点頭てんかんの検出方法を提供する。 本発明により、大脳白質異常を伴う点頭てんかんの確定診断に有用な新規な手段が提供された。本発明の方法で指標とするSPTAN1遺伝子は、生化学的な異常の見られない白質異常を伴う点頭てんかん患者で見つかった初めての責任遺伝子である。本発明によれば、PEHO syndromeのような生化学的検査で診断できないタイプの疾患も含めて該疾患を確定的に遺伝子診断することが可能になり、遺伝子治療を含めた治療の個別化・至適化が期待される。該遺伝子自体は、細胞構造の維持と膜タンパクの局在化に関わることが既に明らかになっているので、この疾患の病態生理の解明が一気に進み、この作用点をターゲットにした創薬展開を含め、有効な管理・治療法の開発につながると考えられる。症例1でのGeneChip Human Mapping 250K NspI array (Affymetrix)の結果を示す。コピー数解析はCNAG2.0を用いて行った。Log2(症例と対照健常人とのプローブ蛍光強度の比)の値を縦軸に、9番染色体長腕9q33.3-34.11領域における、短腕のテロメア末端からの距離を横軸に示す。9q33.3-34.11にLog2値がマイナスを示す約2.25Mbの微細欠失領域を認めた。この欠失領域にあるSPTAN1遺伝子の変異解析を、新生児〜乳児期発症の難治性てんかん症例67例で行った。(A) SPTAN1遺伝子は合計57エキソンからなり、エキソン50とエキソン53において変異を認めた。これらの変異は、両親のゲノムDNAには見られないde novo変異であることを確認した。(B)多種間でのα-II spectrinアミノ酸の保存性を示す。実施例で同定された変異は、高度に保存されたアミノ酸で起こった欠失あるいは重複であった。(C)α-II spectrinは22個のドメイン構造を持つ。ドメイン10と22は、それぞれSH3、EF handドメインである。残りはトリプルへリックス構造のspectrin repeatからなる。αとβ spectrinのダイマー形成に必要なドメインを両矢印で示す。変異は、αとβ spectrinのダイマー形成に必要なドメインに位置していた。大腸菌内で発現させた組み換え蛋白質によるα-II/β-II spectrinダイマーの解析。(A) GST pull downの結果を示す。正常型(GST-WT)、変異GST-α-II spectrin(GST-Del及びGST-Dup)ともに、β-II spectrinとダイマーを形成した。(B)円二色性融解実験によるα-II/β-II spectrinダイマーの安定性の解析。変異GST-α-II spectrin(Del及びDup)は正常型(WT)と比較してβ-II spectrinとの結合が弱く(50−60℃での変化)、かつα-II/β-II spectrinダイマーの熱安定性が低下していることが分かった(70−80℃での変化)。マウス初代培養大脳神経細胞での正常および変異α-II/β-II spectrinダイマーの発現パターンを示す。(A) 内在性のα-II spectrin、(B)β-II spectrinの局在を示す。それぞれα-II spectrin抗体、β-II spectrin抗体を用いて免疫染色した。(C) EGFP抗体とα-II spectrin抗体での2重染色の結果を示す。EGFP−α-II spectrin (WT)は、両抗体で同様の発現パターンを示した。2種類の変異α-II spectrin(EGFP-E2207delおよびEGFP-R2308_M2309dup)は細胞内での凝集が観察された(矢印)。(D) EGFP抗体とβ-II spectrin抗体での2重染色の結果を示す。変異α-II spectrinと同様にβ-II spectrinも凝集しており(矢印)、これら2つの凝集は一致することから、α-II/β-II spectrinダイマーが凝集していることが明らかとなった。 本発明の大脳白質異常を伴う点頭てんかんの検出方法は、生体から分離した試料に対して行なう方法であり、SPTAN1遺伝子が欠失しているか否か及び/又は異常型SPTAN1をコードする遺伝子が存在するか否かを指標として、該生体が上記点頭てんかんを罹患しているか否か又は発症するおそれがあるか否かを判断する。下記実施例にある通り、該点頭てんかん患者の中には、SPTAN1遺伝子を完全に欠失している者又は異常型SPTAN1をコードする変異SPTAN1遺伝子を有する者が認められ、これらの遺伝子異常は健常者には認められない。従って、(1)SPTAN1遺伝子が欠失しているか否か、(2)異常型SPTAN1をコードする遺伝子が存在するか否か、の少なくともいずれかを調べることにより、上記点頭てんかんを検出することができる。 SPTAN1(α-II spectrin)は公知のタンパク質であり、細胞構造の維持と膜タンパクの局在化に関わることが既に明らかになっている。すなわち、α-II spectrinは細胞骨格タンパク質の一つであり、β spectrinとヘテロダイマーを形成する。このヘテロダイマーは、更にもう一組が結合してヘテロテトラマーを形成し、細胞膜の裏打ちをすることによって、細胞膜の安定性を保っている(Bennett, V. and J. Healy, Organizing the fluid membrane bilayer: diseases linked to spectrin and ankyrin. Trends Mol Med, 2008. 14(1): p. 28-36.)。ヒトにおいては、配列表の配列番号174に示すSPTAN1遺伝子ゲノム配列から2種類のバリアントmRNAが生成される。これらのバリアントの配列はGenBankにアクセッション番号NM_001130438(バリアント1)及びNM_003127(バリアント2)として登録されている。バリアント1及び2のcDNA配列を配列表の配列番号1及び3に、アミノ酸配列を配列番号2及び4にそれぞれ示す。配列番号117〜173は、SPTAN1遺伝子の各エクソン及びその前後300bpのイントロンの領域を抜粋して示したものである。各配列中のエクソン、コード領域及びUTR領域の位置を下記表1に示す。バリアント1は57のエクソン(エクソン1〜57)でコードされる2477残基のタンパク質、バリアント2は56のエクソン(エクソン1〜36、38〜57)でコードされる2472残基のタンパク質である。なお、表中、「301-410nt」という表記は、該当する配列番号中の第1番目の塩基から数えて301番目の塩基から410番目の塩基までの領域を表す。 本発明において、「正常型SPTAN1」としては、野生型SPTAN1である上記2種類のバリアントが挙げられるが、これらの他にも、該バリアントと同様の生理活性を示す天然の変異体が存在すればそれらも包含される。一方、「異常型SPTAN1」とは、SPTAN1の天然の変異体であって、SPTAN1としての活性が変化又は消失したものをいう。SPTAN1としての活性とは、具体的には、例えばβ spectrinと細胞内で安定にダイマー形成する活性等が挙げられる。そのような異常型SPTAN1の例としては、実施例で同定された少数のアミノ酸の欠失変異及び挿入(重複)変異が挙げられるが、これらのほかにも、例えば、短縮型の(truncated)SPTAN1、活性に重要な領域内でアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入が生じたSPTAN1等の天然の変異体が存在すれば、それらも包含される。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、単に「SPTAN1」と言った場合には、文脈からそうではないことが明らかな場合を除き、正常型SPTAN1と異常型SPTAN1との両者を包含するものとする。また、本明細書及び特許請求の範囲において、野生型配列とは異なる配列を有するSPTAN1遺伝子又はタンパク質は、全て「変異型」と表現される。 異常型SPTAN1の発現をもたらす変異の具体例としては、SPTAN1中のaa1875-2315の領域内でのアミノ酸変異が挙げられる。この領域は、αとβ spectrinのダイマー形成に必要なドメイン18〜21に対応する領域である。図2Cに示す通り、α-II spectrinは22個のドメイン構造を持ち、ドメイン10と22がそれぞれSH3、EF handドメイン、残りはトリプルへリックス構造のspectrin repeatからなるが、このうちのドメイン18〜21が上述の通りαとβ spectrinのダイマー形成に必要な領域である。下記実施例で同定された2症例でのSPTAN1変異は、SPTAN1コード領域中の6619-6621ntの塩基(エクソン50内)の欠失によるaa2207のグルタミン酸の欠失、及びコード領域中の6923-6928ntの塩基(エクソン53内)が重複することによるaa2308-2309のArg-Metの重複(すなわち、aa2309とaa2310との間にArg-Metが挿入)であり、いずれも上記したaa1875-2315の領域内でのアミノ酸変異に該当するが、いずれの変異体も、ヘテロダイマーを安定に形成できない異常型であることが下記実施例で確認されている。アミノ酸の変異とは、具体的には、1個以上のアミノ酸の置換、欠失及び/又は挿入(重複も包含する)である。 なお、上記した変異の位置は、野生型SPTAN1の1つであるバリアント1のcDNA配列及びアミノ酸配列、すなわち配列番号1及び2を基準として表したものである。「SPTAN1中のaa1875-2315の領域」とは、配列番号2中の第1875番アミノ酸〜第2315番アミノ酸の領域及びこれに対応する変異型配列中の領域を指す。「コード領域中の6619-6621ntの塩基」とは、配列番号1中の第6619番塩基〜第6621番塩基の領域及びこれに対応する変異型配列中の領域を指す。野生型SPTAN1配列とは異なる配列を有する変異型のSPTAN1配列において、いずれの塩基ないしはアミノ酸が上述の位置に相当するかは、当業者には明らかである。具体的には、例えばSPTAN1コード領域中の6619ntの塩基の場合であれば、BLASTやCLUSTAL W等の周知のプログラムを用いて、適宜ギャップを挿入しながら、基準となる配列番号1に示す野生型SPTAN1のcDNA配列と変異型SPTAN1のcDNA配列とを整列化させ、この整列化配列の中で、野生型SPTAN1のcDNA配列中の6619ntと並ぶ位置にある塩基が、該変異型SPTAN1遺伝子における6619ntに相当する塩基である。アミノ酸の場合も同様である。 ドメイン18〜21は、上述の通りβ spectrinとのヘテロダイマー形成に重要な領域であり、従って、この領域内での変異であれば、通常、異常型SPTAN1を生じると考えられる。SPTAN1における変異が異常型SPTAN1を生じる変異であるか否かを具体的に確認する方法としては、例えば、下記実施例に記載されるように、公知の円二色性融解実験により結合の強さ(50〜60℃での変化)及びダイマーの熱安定性(70〜80℃での変化)を確認する方法を挙げることができる。野生型SPTAN1と比較してβ spectrinとの結合が弱く、かつヘテロダイマーの熱安定性が低下している場合、変異型SPTAN1は異常型であると考えられる。あるいは、培養大脳神経細胞内で変異型SPTAN1を一過的に発現させ、免疫染色によりSPTAN1の凝集の有無を調べてもよい。下記実施例に記載されるように、白質異常を伴う点頭てんかん患者で同定された異常型SPTAN1は、野生型SPTAN1のような細胞膜への均一な分布を見せず、細胞内で凝集する。凝集が見られた場合、変異型SPTAN1は異常型であると考えられる。 異常型SPTAN1をコードする遺伝子が存在すれば、正常型のアリルが存在していても、該生体は白質異常を伴う点頭てんかんを発症している又は発症するおそれがあると考えられる。生体から分離した試料を用いて、(1)SPTAN1遺伝子が欠失しているか否か、(2)異常型SPTAN1をコードする遺伝子が存在するか否か、の少なくともいずれかを調べる方法としては、例えば、以下に記載するとおり、ゲノムDNA試料を解析する方法やmRNA試料を解析する方法が挙げられる。また、生体から分離したタンパク質試料について、SPTAN1タンパク質が欠失しているか否かや、異常型SPTAN1タンパク質が存在するか否かを調べることによっても、SPTAN1遺伝子の欠失や異常型SPTAN1をコードする遺伝子の存在を調べることができる。これらの方法のうち、本発明の方法としては、ゲノムDNA試料を用いてSPTAN1遺伝子の欠失や異常型SPTAN1をコードする遺伝子の存在を調べる方法が好ましい。 ゲノムDNA試料を用いて実施する方法としては、例えば以下の(ア)〜(エ)の方法を挙げることができるが、これらに限定されない。(ア) in situハイブリダイゼーション法 対象生体から細胞を採取し、染色体標本試料を調製する。SPTAN1遺伝子領域と特異的にハイブリダイズするDNAを標識してプローブを作製し、該プローブを上記染色体標本とハイブリダイズさせる。プローブからのシグナルの有無を調べることにより、SPTAN1遺伝子の欠失を検出することができる。DNAの標識は、特に限定されないが、通常、ラジオアイソトープ又は蛍光色素(Cy5、Cy3、FITC等)を用いて行なわれ、蛍光色素がより一般的に用いられている。蛍光標識プローブを用いる場合、この手法はFISH法と呼ばれる。SPTAN1遺伝子領域と特異的にハイブリダイズするDNAプローブは、当業者であれば、配列表の配列番号174に示すSPTAN1遺伝子ゲノム配列を参照して容易に調製することができる。具体的には、例えば配列番号174中の所望の領域を増幅できるプライマーを調製し、正常なSPTAN1遺伝子を含むゲノムDNAを鋳型としてPCRを行なうことにより、プローブに用いるDNAを得ることができる。また、SPTAN1遺伝子領域を含むBACクローン等のクローンを標識してプローブとして用いることもできる。ヒトゲノムDNAを含むBACクローン等のクローンは市販もされており、入手は容易である。プローブに用いるDNAは、SPTAN1遺伝子のコード領域の全領域をカバーするものであってもよいし、コード領域の一部のみをカバーするものであってもよい。(イ) サザンハイブリダイゼーション法 対象生体から得たゲノムDNA試料を任意の制限酵素で切断後、アガロースゲル等で電気泳動し、メンブレンにDNAを転写する。このメンブレン上で、SPTAN1遺伝子領域と特異的にハイブリダイズするDNAを標識して調製したDNAプローブをハイブリダイズさせる。検出されるバンドの有無を調べることにより、SPTAN1遺伝子の欠失を検出することができる。また、例えば点変異のような変異であっても、制限酵素部位に変化を生じる変異である場合には、検出されるバンドのサイズが変化するため、該方法で検出し得る。プローブの標識は、特に限定されないが、通常、ラジオアイソトープやジゴキシゲニン等のハプテンを用いて行なわれる。ここでプローブとして用いるDNAの調製方法等は(ア)における説明と同様である。(ウ) ヘテロ二本鎖の検出による遺伝子変異スクリーニング de novoで生じる点変異等の突然変異は通常ヘテロ接合体の形で見られるため、ゲノムDNA試料を熱変性後に再会合させることにより、正常型DNAと変異DNAとがハイブリダイズしたヘテロ二本鎖が生じる。ヘテロ二本鎖は、(1)非変性ポリアクリルアミドゲル中で異なる移動度を示す、(2)ミスマッチ部分の塩基は化学物質や酵素による切断を受けやすい、(3)変性の際に異なる変性温度を示す、といった特性を有する。これらの特性を利用してヘテロ二本鎖を検出する方法がこの分野において公知であり、変異の検査方法として実用化もされている。具体的には、例えば、変性高速液体クロマトグラフィー(dHPLC)を用いてヘテロ二本鎖を検出する方法や、下記実施例でも用いられているHigh Resolution Melt法が知られている。High Resolution Melt法とは、二本鎖DNAに高密度で結合する蛍光色素(SYTO(登録商標)9, LC Green(登録商標), EvaGreen(商標)等)を用いて、二本鎖DNAの融解(熱変性)の過程を蛍光強度の変化としてとらえ、ヘテロ二本鎖を検出する方法である。すなわち、二本鎖DNAに高密度で結合する蛍光色素を用いて二本鎖DNAを染色すると、該二本鎖DNAを融解(熱変性)させたとき、二本鎖が解離した部位から蛍光色素が脱落するため、二本鎖DNAからの蛍光シグナルの量が減少する。従って、そのような蛍光色素を用いることで、二本鎖DNAの熱変性の過程を蛍光強度の変化として視覚的にとらえることができる。温度−蛍光のデータを高密度で取得し解析することで、ヘテロ二本鎖の検出を迅速に高感度で行うことができる。本発明においても、正常型SPTAN1を発現できない変異型遺伝子が存在するか否かを調べる手法として、これらの公知の方法を用いることができる。ヘテロ二本鎖を検出するこれらの方法は、点変異等のごく少数の塩基の変異を検出する方法として特に好ましい方法である。本発明においてHigh Resolution Melt法を用いる場合には、使用するプライマーは、当業者であれば、配列番号118〜173に示されるコード領域を含むエクソン及びその近傍のイントロンの塩基配列、又は配列番号174に示すSPTAN1遺伝子のゲノム配列を参照して容易に調製可能であり、例えば下記実施例で用いられている配列番号5〜116に示される塩基配列から成るプライマーを好ましく用いることができる。(エ) 塩基配列解析 遺伝子変異を詳細に調べるためには、塩基配列の解析を行なうことが望ましい。対象生体ゲノムDNA上のSPTAN1遺伝子の塩基配列を決定し、これを野生型SPTAN1遺伝子配列と比較することにより、変異を詳細に同定できる。決定した塩基配列は、例えばSeqScape (登録商標) 等の公知のソフトウェアを用いて解析することにより、変異の検出やプロファイリングを容易に行うことができる。 上記した(ア)〜(エ)の方法は、適宜組み合わせて行なうことができる。例えば、まず(ア)及び/又は(イ)により、ゲノムDNA試料中にSPTAN1遺伝子領域が存在するかどうかを調べる。存在する場合には(エ)を行なってSPTAN1遺伝子領域中の変異の有無を調べる。(ウ)により塩基配列を決定すべき領域を絞り込んで(エ)を行なうとより効率的に検査が可能である。 また、mRNA試料を用いて本発明を実施する方法としては、例えば以下に述べる方法が挙げられるが、これらに限定されない。SPTAN1のmRNAの有無は、例えば、配列番号1又は3に示す塩基配列を基に作製したプローブやプライマーを用いてノーザンハイブリダイゼーション法やRT-PCR法を行なうことで容易に調べることができる。SPTAN1のmRNAが検出されない場合にはSPTAN1遺伝子が欠失していると判断され、白質異常を伴う点頭てんかんが検出されたと判断できる。また、mRNA試料から逆転写反応により得たcDNAの塩基配列を上記(エ)に述べたように解析することで、変異を詳細に同定することができる。SPTAN1のcDNAに対して上記(ウ)の方法を行なっても差し支えない。ノーザンハイブリダイゼーションやRT-PCR自体は周知の常法であり、当業者であれば配列番号1又は3に示す塩基配列をもとに容易にプローブやプライマーを作製することができる。 以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。(材料と方法)<症例> 白質異常を伴う新生児〜乳児期発症の難治性てんかん女児症例(症例1)で9q33.3-q34.11にかけての微細欠失を認めた。新生児〜乳児期発症の難治性てんかん症例67名に対してSPTAN1遺伝子の変異解析を行い、大脳白質異常を伴う点頭てんかん症例2名に変異を認めた(症例2、3)。変異の同定された症例の変異および臨床所見は表3(後掲)に示す。<GeneChip Human Mapping 250K NspI array> 末梢血白血球よりゲノムDNAを採取し、実験手順はAffymetrix社の手順に従った。コピー数解析はCNAG2.0を用いて行った(Nannya, Y., et al., A robust algorithm for copy number detection using high-density oligonucleotide single nucleotide polymorphism genotyping arrays. Cancer Res, 2005. 65(14): p. 6071-9.)。<変異解析> 末梢血白血球よりゲノムDNAを採取。ゲノムDNAをGenomiphi version 2 (GE healthcare)にて全ゲノム増幅したDNAを用いて変異解析を行った。SPTAN1遺伝子(エクソン1-57)のタンパク翻訳領域のエクソン(2-57)およびエクソン−イントロン境界における変異解析はHigh resolution melt 法を用いて行った。これは、蛍光色素二本鎖DNAに結合する蛍光色素を用いてPCR産物の融解(熱変性)の過程を蛍光強度の変化としてとらえ、温度−蛍光のデータを高密度で取得し解析することで、ヘテロ二本鎖の検出を迅速に高感度で行う方法である。リアルタイムPCRおよび引き続いてのHigh resolution melt 解析はRoterGene-6200HRM (Corbett Life Science) を用いて12μlの反応系で行った。反応液は、1×ExTaq buffer, 0.2 mM each dNTP, 0.2μM each primer, 1μl DMSO, 1μl LCGreen Plus (Idaho Technology), 0.25 U Ex TaqHS polymerase (TAKARA)の組成である。反応条件は、95℃1minの熱変性後、95℃10秒−アニーリング20秒−伸長20秒のサイクルとし、サイクル数はリアルタイムPCRをモニターして適宜決定した。用いたプライマーのシークエンスと反応温度を表2に示す。 High resolution melt 解析でヘテロ二本鎖と判定したサンプルに関しては、ExoSAP-IT (GE healthcare)でPCR産物を精製後、BigDye Terminator chemistry version 3 (Applied Biosystems)を用いてサイクルシークエンス反応を行った。反応物はSephadex G-50 (GE healthcare) とMultiscreen-96 (Millipore)を用いてゲル濾過にて精製し、ABI Genetic Analyzer 3100 (Applied Biosystems)でシークエンスを得た。得られたシークエンスは、SeqScape version 2.1.1 software (Applied Biosystems)を用いて変異の有無について解析を行った。変異が認められたサンプルに関しては、ゲノムDNAを鋳型とした変異解析を再度行い、ゲノムDNA上での変異を確認した。<円二色性融解実験> 大腸菌BL21株において、野生型および各変異型(p.E2207del及びp.R2308_M2309)のα-II spectrinタンパク質(aa1445-2447の領域)をpGEX6P-3 (GE Healthcare)ベクターを用いてglutathione S-transferase (GST)融合タンパク質として発現させた。また、野生型β-II spectrinタンパク質(aa1-1139の領域、配列番号175)をpET-24a (Novagen)を用いてHisタグ融合タンパク質として発現させた。α-II spectrinタンパク質はGlutathione Sepharose High Performance (GE Healthcare)カラム、HiTrap Q HP (GE Healthcare)カラムおよびSuperdex-200 (GE Healthcare) カラムを用いて精製した。円二色性融解実験前には、human rhinovirus 3C proteaseを用いてGSTタグを切断後、Glutathione Sepharose 4B (GE Healthcare)カラムを用いて精製した。β-II spectrinタンパク質はHisTrap HP (GE Healthcare)カラムおよびSuperdex-200 (GE Healthcare) カラムを用いて精製した。α-IIおよび β-II spectrinタンパク質 はそれぞれ1.7μMでダイマーを形成させ、J725 spectropolarimeter (Jasco)を用いて円二色性融解実験を行った。Spectrinダイマーの楕円率の変化は222 nmで測定し、0.75 K/分 の温度変化速度で解析を行った。<α-II spectrinの一過性発現系による細胞内局在の確認> 胎生14-15日目のマウス胎児より大脳皮質を採取し、0.05%トリプシン処理後パスツールピペットで分散させ培養した大脳神経細胞中で、α-II spectrin発現ベクターを一過的に発現させ、野生型(配列番号2)及び各変異型(p.E2207del及びp.R2308_M2309)のα-II spectrinの細胞内局在を調べた。発現ベクターに組み込むα-II spectrinコード配列は、正常人リンパ芽球由来のcDNAを鋳型としたPCRにより作製した。変異の導入はKOD-Plus- Mutagenesis kit (Toyobo)を用いて行い、また、Flagタグを付加したプライマーを用いたPCRにより、C末端にFlagタグを付加したインサートも作製した。FlagタグのインサートをpCIG(Megason, S.G. and McMahon, A.P. A mitogen gradient of dorsal midline Wnts organizes growth in the CNS. Development, 2002. 129: p.2087-98.)に、あるいはFlagタグを付加していないインサートをpCAG-EGFP-C1(pEGFP-C1 (Clontech)のEGFP遺伝子とmultiple cloning siteをCAG promoterベクターに組み込んで作製)に組み込んで発現ベクターを構築した。これをAmaxa mouse neuron nucleofector kit (Lonza)を用いて大脳神経細胞に導入して一過的に発現させた。EGFP、Flag又はα-II spectrinに対する抗体(市販品)を用いて蛍光免疫染色を行ない、一過性発現させたタグ付加α-II spectrinの細胞内局在を観察した。さらに、β-II およびβ-III spectrinに対する抗体(市販品)も用いて内在性のβ-II及びβ-III spectrinの局在も調べた。(結果) GeneChip Human Mapping 250K NspI array (Affymetrix)を用いて全ゲノムのコピー数解析を行い、白質異常を伴う新生児〜乳児期発症の難治性てんかん女児症例(症例1)で9q33.3-q34.11にかけての微細欠失を同定した(図1)(Tohyama, J., et al., Early onset West syndrome with cerebral hypomyelination and reduced cerebral white matter. Brain Dev, 2008. 30(5): p. 349-55.及びSaitsu, H., et al., De novo mutations in the gene encoding STXBP1 (MUNC18-1) cause early infantile epileptic encephalopathy. Nat Genet, 2008. 40(6): p. 782-8.)。白血球染色体標本を用いた蛍光 in situ hybridization法により、約2.25Mbの欠失が症例のみに存在し、両親では欠失が認められないことを確認した。すなわち、症例で認められた染色体微細欠失はde novo変異(新生突然変異)であり、白質異常を伴う新生児〜乳児期発症の難治性てんかんの原因となっている可能性が強く示唆された。 この欠失領域には、ゼブラフィッシュで神経髄鞘化への関与が明らかになっていたα-II spectrin (SPTAN1)遺伝子が位置していた。そこで、新生児〜乳児期発症の難治性てんかん症例67例でSPTAN1の変異解析を行った。その結果、大脳白質異常を伴う点頭てんかん症例2例で異なるヘテロ接合性の変異を認めた:症例2がc.6619_6621del, アミノ酸p.E2207del変異(すなわち、cds中の6619nt-6621ntの欠失によりaa2207グルタミン酸が欠失する変異), 症例3がc.6923_6928dup, アミノ酸p.R2308_M2309dup変異(すなわち、cds中の6923nt-6928ntの重複によりaa2308-2309のアルギニン-メチオニンが重複する変異)で、翻訳タンパク質において1アミノ酸欠損あるいは2アミノ酸重複を来す変異であった(図2A)。これらの変異は対照250名に認められず、両親のゲノムDNAには見られないde novo変異であることを確認した。変異の同定された症例の変異および臨床所見を表3に示す。 α-II spectrinは細胞骨格タンパク質の一つであり、β spectrinとヘテロダイマーを形成する。このヘテロダイマーは、更にもう一組が結合してヘテロテトラマーを形成し、細胞膜の裏打ちをすることによって、細胞膜の安定性を保っている(Bennett, V. and J. Healy, Organizing the fluid membrane bilayer: diseases linked to spectrin and ankyrin. Trends Mol Med, 2008. 14(1): p. 28-36.)。同定された変異は、多種間で高度に保存されたアミノ酸で起こった変異であり(図2B)、αとβ spectrinのダイマー形成に必要なドメインに位置していた(図2C)。 次いで、症例で見られたSPTAN1変異の生物学的意義について検討を行うため、大腸菌内で発現させたα-II spectrin(野生型、欠失変異型(Del)及び重複変異型(Dup))とβ-II spectrinを精製し、α-IIとβ-II spectrinのダイマー形成能を解析した。GST pull down(図3A)および分析ゲル濾過(データ省略)の2つの解析方法のどちらにおいても、変異α-II spectrin(Del及びDup)は正常型(WT)と同様に、β-II spectrinとダイマーを形成した。しかしながら、α-II/β-II spectrinダイマーの安定性について、円二色性融解実験により解析したところ、変異α-II spectrinは正常型と比較してβ-II spectrinとの結合が弱く、かつα-II/β-II spectrinダイマーの熱安定性が低下していることが分かった(図3B)。これらの所見は、変異によりタンパク質の高次構造が変化していることを示唆している。 次いで、マウス初代培養大脳神経細胞に対する一過性発現系を用いて検討を行った。N末端にEGFPタグを付加した野生型α-II spectrinの発現ベクターを作成し、EGFPあるいはα-II spectrinに対する抗体を用いた蛍光免疫染色により細胞内局在を検討したところ、EGFP-α-II spectrin(図4C、EGFP-WT)は、内在性のα-II spectrin(図4A)と同様の発現パターンを示した。興味深いことに、症例で認められた2種類の変異についてそれぞれ発現ベクターを作成したところ、一部の細胞で変異α-II spectrinの凝集が認められた(図4C及び4D)。β-II spectrinに対する抗体を用いて内在性のβ-II spectrinやβ-III spectrinの局在も調べたところ、変異α-II spectrinを発現させた神経細胞では、β-II spectrinやβ-III spectrin(データ省略)も凝集しており、α-II spectrinの凝集と一致していた(図4C及び4D)。このことから、大脳白質異常を伴う点頭てんかん症例で認められた変異は、α-II/β-II spectrinおよびα-II/β-III spectrinダイマーの凝集を引き起こし、細胞膜の安定性や細胞膜蛋白質の局在に影響を及ぼすことが示唆された。C末端にFlagタグを付加したα-II spectrinの発現ベクターでも、同様の結果が得られた。 生体から分離した試料に対して行なう方法であって、SPTAN1遺伝子が欠失しているか否か及び/又は異常型SPTAN1をコードする遺伝子が存在するか否かを指標とする、大脳白質異常を伴う点頭てんかんの検出方法。 正常型SPTAN1は配列表の配列番号2又は4に示されるアミノ酸配列から成る請求項1記載の方法。 前記試料がゲノムDNAである請求項1又は2記載の方法。 前記異常型SPTAN1は、配列番号2に示す野生型SPTAN1のアミノ酸配列中のaa1875-2315の領域内に変異を有する請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。 前記変異は、野生型SPTAN1中のaa2207のグルタミン酸が欠失する変異、又は野生型SPTAN1中のaa2308-2309のアルギニン-メチオニンが重複する変異である請求項4記載の方法。 【課題】大脳白質異常を伴う点頭てんかんを診断できる新規な手段を提供すること。【解決手段】本発明の大脳白質異常を伴う点頭てんかんの検出方法は、生体から分離した試料に対して行なう方法であって、SPTAN1遺伝子が欠失しているか否か及び/又は異常型SPTAN1をコードする遺伝子が存在するか否かを指標とする。【効果】本発明によれば、PEHO syndromeのような生化学的検査で診断できないタイプの疾患も含めて該疾患を確定的に遺伝子診断することが可能になり、遺伝子治療を含めた治療の個別化・至適化が期待される。【選択図】図2配列表


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