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タイトル:特許公報(B2)_乳糖不耐症を改善するための乳酸菌
出願番号:2008522516
年次:2012
IPC分類:C12N 1/20,C12Q 1/06,A23L 1/30,C12Q 1/34,A61K 35/74,A61P 1/00


特許情報キャッシュ

齋藤 忠夫 北澤 春樹 川井 泰 伊藤 裕之 JP 5054687 特許公報(B2) 20120803 2008522516 20070621 乳糖不耐症を改善するための乳酸菌 一般財団法人糧食研究会 000173968 国立大学法人東北大学 504157024 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 齋藤 忠夫 北澤 春樹 川井 泰 伊藤 裕之 JP 2006175897 20060626 20121024 C12N 1/20 20060101AFI20121004BHJP C12Q 1/06 20060101ALI20121004BHJP A23L 1/30 20060101ALI20121004BHJP C12Q 1/34 20060101ALI20121004BHJP A61K 35/74 20060101ALI20121004BHJP A61P 1/00 20060101ALI20121004BHJP JPC12N1/20 AC12Q1/06A23L1/30 ZC12Q1/34A61K35/74 AA61P1/00 C12N 1/20 A23L 1/30 A61K 35/74 A61P 1/00 C12Q 1/06 C12Q 1/34 BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) Science Direct Wiley InterScience CiNii 国際公開第2005/030229(WO,A1) 国際公開第2006/059408(WO,A1) 特開平07−255467(JP,A) 特開昭63−185373(JP,A) 日蓄会報(1992)Vol.63, No.12, p.1276-1289 日本畜産学会大会講演要旨集(2002)Vol.100th, p.3 Zhao,J.Z.et al., "Lactobacillus mucosae 16S ribosomal RNA gene, partial sequence", [online], 30-AUG-2003, [平成24年4月13日検索], インターネット<URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AY339174>,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AY339174 Kozyavkin,S.A. et al., "Lactobacillus gasseri strain ATCC 33323 16S ribosomal RNA gene, complete sequence", [online], 01-JUL-2002, [平成24年4月13日検索], インターネット<URL:http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AF519171>,URL,http://www.ncbi.nlm.nih.gov/nuccore/AF519171 6 IPOD NITE BP-242 IPOD NITE BP-243 IPOD NITE BP-241 JP2007062522 20070621 WO2008001676 20080103 21 20100317 山本 匡子 本発明は、乳糖不耐症を改善するのに有用な乳酸菌とその利用に関する。 「乳糖不耐症」は、摂取した乳中のラクトース(乳糖)の消化不良が原因で、下痢や腹痛などの不快な消化器症状を容易に生じる体質である。この乳糖不耐症は、一般的には加齢に伴って顕著になると考えられているが、乳幼児期にも認められる。乳糖不耐症の症状を軽減するためには、ラクトースを含む製品の摂取を避ける必要があるが、良好なカルシウム源である乳製品を摂取できないことは、例えば高齢者の骨粗鬆症のリスクを高め、栄養面でも大きな障害となる。骨粗鬆症は高齢化が急速に進む我が国を脅かす最大の疾病の一つであり、高齢者の骨粗鬆症リスクを低減させる意味で、乳製品の積極的な摂取を促すことは殊に重要である。 ラクトースは、通常、小腸内層の細胞で産生されるラクトース分解酵素によって分解され、吸収される。一方、乳酸菌等の様々な微生物がラクトース分解酵素を産生し、ラクトースを分解することが知られている。生きた乳酸菌や酵母を含むヨーグルトや乳酸菌飲料は、ラクトースの一部が分解されているため乳糖不耐症の症状を比較的起こしにくいと考えられており、さらに、それらの継続的な経口摂取によって腸内でそれらの菌が徐々に増殖し、腸内のラクトース分解能が増大する結果、乳糖不耐症自体の改善にもつながるとされている。 以前から、乳酸菌のラクトース代謝には、β-ガラクトシダーゼ(β-gal)およびフォスフォ-β-ガラクトシダーゼ(P-β-gal)という2種類のラクトース分解酵素が関与することが知られているが、さらに本発明者らにより、乳酸菌が有するフォスフォ-β-グルコシダーゼ(P-β-glc)という3つ目のラクトース分解酵素の存在も明らかにされた(非特許文献1)。これらラクトース分解酵素の活性が高い乳酸菌は、乳糖不耐症の症状軽減に効果的と考えられる。しかし非腸管系乳酸菌の中には、高いラクトース分解活性を有するものがあるが、一般的にヒト腸管内で生育できないものもあると認識されている。このような乳酸菌では、ヒト腸管内で持続的にラクターゼの産生ができず、経口摂取した分以上のラクターゼ活性を望めないと考えられる(非特許文献2)。従って、乳酸菌の経口投与により乳糖不耐症を改善するためには、ラクターゼ活性が高いだけでなく、ヒト腸内で持続的にラクトースを分解できる乳酸菌が必要であるが、そのような乳酸菌の探索はまだあまり進んでいない。 ところで、腸管系乳酸菌の中には腸管付着性の高い菌が存在することが知られている。そのような腸管付着性の高い菌を探索する方法として、例えば、ヒト腸管ムチンへの結合能を測定することにより、ヒトの各血液型に適合した腸管付着性の高い乳酸菌をスクリーニングする方法がある(特許文献1)。この方法は、乳酸菌がヒトに初期感染し腸管へ定着するためには腸上皮細胞表面に接着することが不可欠であると考えられていること、高橋らの大腸ムチン(RCM)を用いた乳酸菌スクリーニングの報告[大腸ムチン(RCM)をコートしたポリスチレンビーズを用いてラクトバチルス・アシドフィルスグループ乳酸菌株をスクリーニングしたところ、そのRCMに強く結合した乳酸菌株由来の表層タンパク質(SLP)がヒト大腸粘液層にも結合したとの報告。非特許文献3など]、ヒト大腸ムチンを構成する糖鎖の化学構造がABO式血液型により異なるとの報告(例えば、非特許文献4)等に基づいて構築されたものである。しかし、各血液型に適合した乳酸菌の探索以外の用途へのこのスクリーニング方法の適用は、まだほとんどなされていない。特開2004−101249号公報齋藤忠夫、伊藤敞敏、舘野義男、山崎由紀子、ヒト腸管起源のLactobacillus gasseri(ガセリ菌)におけるラクトース資化系の新経路の発見、生物工学会誌、 (2001)、79(6)、pp.172-173Marteau P, Minekus M, Havenaar R, Huis in't Veld JH、Survival of lactic acid bacteria in a dynamic model of the stomach and small intestine: validation and the effects of bile.、J Dairy Sci、(1997) 80(6)、pp.1031-1037Takahashi N, Saito T, Ohwada S, Ota H, Hashiba H, Itoh T、"A new screening method for the selection of Lactobacillus acidophilus group lactic acid bacteria with high adhesion to human colonic mucosa."、Biosci Biotechnol Biochem、(1996)、60(9)、pp.1434-1438天野純子、消化管ムチン上の血液型糖鎖構造−細菌感染のメカニズム解明に向けて、生化学、社団法人日本生化学会、(1999) 71(4)、pp.274〜277 本発明は、乳糖不耐症を改善する能力を有する乳酸菌を提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、一部のラクトバチルス属乳酸菌においては腸管付着性およびラクトース分解酵素活性が共に増強されうることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。 すなわち、本発明は以下を包含する。[1] ラクトバチルス属乳酸菌から腸管付着性およびラクトース分解酵素活性が共に増強された菌を選抜することを特徴とする、乳糖不耐症の改善能を有する乳酸菌をスクリーニングする方法。 この方法では、その菌の選抜において、ヒトA型腸管ムチン、ヒトB型腸管ムチン、およびヒトO型腸管ムチンのうち少なくとも1つに対する乳酸菌の結合能を表面プラズモン共鳴解析を用いて測定し、その結合能を示すRU値が100 RU以上である菌を腸管付着性が増強された菌として選抜することが、より好ましい。 この方法において、選抜される菌で増強されるラクトース分解酵素活性は、好ましくは、β-ガラクトシダーゼ、フォスフォ-β-ガラクトシダーゼ、およびフォスフォ-β-グルコシダーゼのうち少なくとも1つのラクターゼ活性である。 この方法において、好適には、スクリーニングを行うラクトバチルス属乳酸菌は、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、またはラクトバチルス・ムコサエ(Lactobacillus mucosae)である。[2] 上記[1]の方法により得られる、腸管付着性およびラクトース分解酵素活性が共に増強された乳酸菌。[3] ラクトバチルス・ガセリ OLL2836株(受託番号NITE BP-241)、ラクトバチルス・ガセリ OLL2948株(受託番号NITE BP-242)、およびラクトバチルス・ムコサエ OLL2848株(受託番号NITE BP-243)のうちのいずれかである乳酸菌。[4] 上記[3]の乳酸菌を少なくとも1つ含有する乳糖不耐症改善剤。 この乳糖不耐症改善剤としては、ラクトバチルス・ガセリ OLL2836株(受託番号NITE BP-241)、ラクトバチルス・ガセリ OLL2948株(受託番号NITE BP-242)、およびラクトバチルス・ムコサエ OLL2848株(受託番号NITE BP-243)の3つの乳酸菌を少なくとも含有するものがより好適である。[5] 上記[3]の乳酸菌を少なくとも1つ含有する飲食品。 この飲食品としては、ラクトバチルス・ガセリ OLL2836株(受託番号NITE BP-241)、ラクトバチルス・ガセリ OLL2948株(受託番号NITE BP-242)、およびラクトバチルス・ムコサエ OLL2848株(受託番号NITE BP-243)の3つの乳酸菌を少なくとも含有するものがより好適である。 この飲食品としては、乳児用食品、幼児用食品、授乳婦用食品、高齢者用食品、病者用食品、保健機能食品、サプリメント、発酵乳、または乳酸菌飲料が好ましい。 この飲食品は、とりわけ、乳糖不耐症改善用の飲食品として好適である。 本発明のスクリーニング方法によれば、乳糖不耐症の改善に役立つ乳酸菌株を効率良く選抜することができる。また本発明の乳酸菌株を用いれば、乳糖不耐症の改善に有用な薬剤や様々な飲食品を製造することができる。 本明細書は本願の優先権主張の基礎となる日本国特許出願第2006-175897号の開示内容を包含する。図1は、腸管付着性が高い代表的な菌株についてのP-β-gal活性試験の結果を示す。図2は、腸管付着性が高い代表的な菌株についてのP-β-glc活性試験の結果を示す。図3は、腸管付着性が高い代表的な菌株についてのβ-gal活性試験の結果を示す。 以下、本発明を詳細に説明する。1. 乳糖不耐症の改善能を有する乳酸菌のスクリーニング方法 本発明は、ラクトバチルス属乳酸菌から、腸管付着性およびラクトース分解酵素活性が共に増強された菌を選抜することにより、乳糖不耐症の改善能を有する乳酸菌をスクリーニングする方法に関する。 本発明の方法においてスクリーニングに供する「ラクトバチルス属乳酸菌」とは、通常の分類学的手法に従ってラクトバチルス属(Lactobacillus)またはラクトバチルス属に属するいずれかの細菌種に分類される細菌を意味する。その分類学的手法は特に限定されず、既知のラクトバチルス属菌の分類に用いられてきた従来の形態学的分類法や生理・生化学的性状に基づく分類法を包含するが、例えば菌種未同定の細菌については、16S rDNA配列、特にそのV3領域の塩基配列を用いた相同性解析に基づく分子系統学的分類法を用いることが、分類を明確にする上でより好ましい。ラクトバチルス属乳酸菌に属する細菌種の具体例としては、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus、またはLactobacillus delbrueckii subsp. bulgaricus)、ラクトバチルス・デルブレッキー(Lactobacillus delbrueckii、またはLactobacillus delbrueckii subsp. delbrueckii)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトバチルス・カゼイ(Lactobacillus casei)、ラクトバチルス・プランタラム(Lactobacillus plantarum)、ラクトバチルス・ブレビス(Lactobacillus brevis)、ラクトバチルス・ブフネリ(Lactobacillus buchneri)、ラクトバチルス・ファーメンタム(Lactobacillus fermentum)、ラクトバチルス・ヘルベティカス(Lactobacillus helveticus)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・ジョンソニー(Lactobacillus johnsonii)、ラクトバチルス・サリバリウス(Lactobacillus salivarius)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・ムコサエ(Lactobacillus mucosae)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明の方法では、ラクトバチルス属乳酸菌として、腸管系乳酸菌が好ましく、とりわけラクトバチルス・ガセリおよびラクトバチルス・ムコサエが好ましい。本方法においてスクリーニングに供する「ラクトバチルス属乳酸菌」は、複数種のラクトバチルス属乳酸菌細胞を含む細胞集団または細胞混合物であってもよいし、ラクトバチルス属乳酸菌の個別の菌株の集合であってもよい。 本発明では、以上のようなラクトバチルス属乳酸菌について、腸管付着性およびラクトース分解酵素活性を測定し、それらが共に増強されている菌を選抜する。 ここで「腸管付着性」とは、被験体の腸上皮細胞表面への乳酸菌の結合能を言う。本発明に係る乳酸菌の腸管付着性の測定には、典型的には、ヒトA型腸管ムチン、ヒトB型腸管ムチン、およびヒトO型腸管ムチンのうち少なくとも1つの腸管ムチンに対する乳酸菌の結合能を測定し、得られた測定値を、腸管付着性を示す値として用いることができる。腸管ムチンに対する乳酸菌の結合能の測定は、例えば特許文献1および国際出願WO2006/067940に記載の表面プラズモン共鳴解析を利用した方法によって行うことができる。表面プラズモン共鳴解析を用いる場合には、腸管ムチンに対する乳酸菌の結合能を示すRU値が100 RU以上である菌を、腸管付着性が増強された菌として選抜乳酸菌株の候補とすることが好ましい。 この腸管ムチンへの結合能のアッセイ系を、以下にさらに具体的に説明する。まず、血液型別のヒト腸管ムチンを調製するため、各血液型(A型、B型、およびO型)のヒト腸管から表層部分を採取し、塩酸グアニジン等の可溶化剤を用いてゲルろ過を行い、タンパク質吸収(280nmの吸光度)と中性糖含量が高いことを目安にして目的の画分を採取し、精製する。このゲルろ過精製の詳細については、例えば、Purushothaman S. S. et al, "Adherence of Shigella dysenteriae 1 to Human Colonic Mucin." Curr. Miorobiol., 42(6), p.381-387 (2001)に記載されたヒト大腸ムチンの精製方法を参考にすることができる。精製後、抗血液型抗原抗体を用いて、調製したヒト腸管ムチンに血液型抗原が発現していることを確認することが、より好ましい。具体例として、実施例に記載の方法を挙げることができる。血液型抗原としては、市販の糖鎖プローブ(例えば、生化学工業製)あるいはネオグリコプロテイン・Blood Group A Trisaccaride-BSA(例えば、Calbiochem社)やネオグリコプロテイン・B1ood Groop B Trisaccaride-BSA(例えば、Calbiochem社)などを用いることができ、それを抗原として、当業者に公知の各種抗体作製法により抗血液型抗原抗体を作製することができる。 本発明のスクリーニング方法では、ヒトA型腸管ムチン、ヒトB型腸管ムチン、ヒトO型腸管ムチンのそれぞれのヒト腸管ムチンをプローブとして表面プラズモン共鳴スペクトル解析を行うことにより、それらヒト腸管ムチンに対する乳酸菌の結合能を測定することができる。表面プラズモン共鳴スペクトル解析には、バイオセンサー(生体分子間相互解析装置)であるBIACOREシステム(BIACORE社)、例えばBIACORE1000を用いることができる。 BIACOREシステムとは、表面プラズモン共鳴スペクトル(SPR)の原理に基づき、生体分子の相互作用(結合および解離)を、標識を用いることなく、リアルタイムでモニターする解析装置である。具体的には、リガンド(以降、プローブともいう)とアナライト間の分子間相互作用を測定する。本発明においては、アナライトとして乳酸菌を、リガンドとしてヒト大腸ムチン(A型、B型、O型)をそれぞれ用いた。表面プラズモン共鳴の原理については詳細な解説書が多数刊行されている。この装置で用いる原理を簡単に説明すれば、金膜上で物質を結合/解離させて、その結合/解離による金膜上の質量変化に伴う反射光の屈折率の変化を測定することにより、金膜上に結合した物質の量を算出するというものである。より具体的には、該装置では、センサーチップと呼ばれる金膜が貼られたガラス基板が、試料や試薬を流す流路の途中にその流れに曝露されるように設置されており、その流路に試料等を流しながら、センサーチップに760nmの偏光をプリズム等でくさび型に集光させ、金膜上で反射させて、その反射光の屈折率をモニターすると、金膜上の物質の結合量の変化に比例して、表面プラズモン共鳴スペクトルの角度の変化が示される。そこでBIACOREシステムでは、まずプローブを流路に流して予めセンサーチップの金膜上にプローブを固定化し、次いでプローブが結合していない部位をブロッキングした後、そのプローブとの結合/解離反応を調べるべき物質(アナライト)を流路に流しつつ、経時的に反射光の屈折率をモニターすることにより、その変化量から、プローブとアナライトとの結合量を算出することができる。このシステムでは、表面プラズモン共鳴スペクトルの角度0.1°の変化を1000レゾナンスユニット(RU)と定義し、レゾナンスユニットを単位とする値(RU値)に基づいて反射光の屈折率の変化を表す。ここで1レゾナンスユニット(RU)はセンサーチップ表面上での1pg/1mm2の質量変化に相当する。すなわち、センサーチップ上の金膜への物質の結合量は、物質の結合前(添加前)の時点と結合完了時点のRU値の差から算出できる。BIACOREシステムを用いれば、プローブ(本発明では各ヒト腸管ムチン)とアナライト(本発明では乳酸菌)との結合量をセンサーチップ1mm2当たりの質量変化(pg)、すなわちRU値として求めることができ、その結合量(RU値)がプローブへのアナライトの結合能に相当する。 なおBIACOREシステムで使用されうるセンサーチップには、該センサーチップに固定化する物質(プローブ)、固定化方法、使用目的などに応じていくつかの種類があり、例えば、最もスタンダードなCM5(ガラス面に金膜(典型的には50nm)が貼られ、その表面上にカルボキシルメチルデキストラン層(典型的には100nm)を備える。このカルボキシルメチルデキストラン層の持つカルボキシル基、およびリガンドの持つアミノ基、チオール基、アルデヒド基またはカルボキシル基を介してリガンド(プローブ)をセンサーチップに固定化する)以外にも、CM4、CM3、C1、SA、NTA、L1、HPAなどがある。 本発明においてセンサーチップに腸管ムチンをプローブとして固定化するには、例えばBIACOREシステムのメーカー使用説明書に従って実施すればよい。固定化方法は、例えば、物理的吸着による方法または共有結合による吸着であってもよい。一例として、センサーチップとしてCM5(BIACORE社)を用いる場合には、まず、N-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル-カルボジイミド塩酸塩(EDC)およびN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)を1:1で混合した混合試薬(EDC/NHS)を流路に流し、センサーチップ上のカルボキシルメチルデキストラン中のカルボキシル基を活性化させた後、固定化用酢酸バッファー(pH4.O)にヒト腸管ムチン溶液(A-HCM、B-HCM、O-HCMのそれぞれを別個に使用)を加えた混合溶液を調製してさらに流路に流し、アミン・カップリング反応により、ヒト腸管ムチンをセンサーチップ上のカルボキシル基に共有結合させる。さらにエタノールアミン塩酸塩-NaOH(pH8.5)を用い、プローブが結合していないセンサーチップ上のカルボキシル基部位をブロッキングして、腸管ムチン(HCM)固定化センサーチップとすることも好ましい。本発明において、センサーチップへのHCM固定化量は特に限定されないが、1000〜2000RUであるのが好ましい。 次いで、乳酸菌菌体を含む試料(アナライト溶液)を流路に流し、各HCM固定化センサーチップ上のHCM(プローブ)と、アナライト溶液中の乳酸菌菌体(アナライト)との結合量を算出する。限定するものではないが、この解析に使用できるBIACORE1000の測定条件の一例を下記に示す。 ランニング緩衝液:HBS-EPバッファー(pH7.4) アナライト溶液(サンプル)の添加量:20μl 流速:3μl/分 反応温度:25℃ 再生溶液:1Mグアニジン塩酸塩溶液 5μl このような測定で得られた結合/解離曲線に基づき、アナライト結合後のRU値からアナライト結合前のRU値を差し引いたRU値を、アナライトである乳酸菌とプローブである各腸管ムチンとの1mm2当たりの結合量(pg)、すなわちその乳酸菌の腸管ムチンへの結合能を示す値として用いることができる。本発明では、乳酸菌の腸管ムチンへの結合能が、ヒトA型腸管ムチン、B型腸管ムチン、O型腸管ムチンのうち少なくとも1つに対して100 RU以上の値を示した場合、「腸管付着性が増強された」または「腸管付着性が高い」と判断することとする。 なおRU値は、BIACOREシステムでの測定条件により変化しうる。本方法における温度条件は、例えば、20〜40℃、好ましくは、20〜30℃、より好ましくは23〜28℃である。また、本方法における好ましいアナライト溶液(サンプル)の濃度は0.1〜0.5mg/mL、本方法における好ましい流速は3〜10μl/分である。上記範囲であれば、上記諸条件を変化させてもRU値に変動はないため、腸管付着性が高いかどうかを「100 RU」を基準として判断できる。さらに、アナライト溶液の濃度等の諸条件を上記範囲外に変化させた場合でも、上記条件におけるRU値に換算した場合に100 RUと同等の結合能が示される場合には、その乳酸菌の腸管付着性は増強されている。さらに本発明のスクリーニング方法では、RU値が高い菌ほど腸管付着性が高く、すなわち通常の乳酸菌よりも腸管付着性が増強されていると言うことができる。本発明では、少なくとも1つのヒト腸管ムチンに対する結合能として100 RU以上、より好ましくは300 RU以上、特に好ましくは1000 RU以上のRU値を示す乳酸菌を、腸管付着性が増強された菌として選抜することが好ましい。 さらに、本発明のスクリーニング方法では、上記ラクトバチルス属乳酸菌について、β-ガラクトシダーゼ(β-gal)、フォスフォ-β-ガラクトシダーゼ(P-β-gal)、およびフォスフォ-β-グルコシダーゼ(P-β-glc)のうち少なくとも1つのラクトース分解酵素のラクターゼ活性(ラクトース分解酵素活性)の測定を行って、該活性が増強されている菌株を選抜する。 具体的には、Fisher法に従って、凍結乾燥菌体を0.05Mリン酸緩衝液に懸濁し、それをトルエン-アセトン混液(1:9(v/v))を加えて激しく撹拌し、その懸濁液に、β-galのラクターゼ活性測定用であればo-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド(ONPGal)を、P-β-galのラクターゼ活性測定用であればo-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド-6-ホスフェート(ONPGal-6P)を、あるいはP-β-glcのラクターゼ活性測定用であればo-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド-6-ホスフェート(ONPGlc-6P)を添加したリン酸緩衝液を加えて、37℃で15分間反応させる。反応後、0.5M 炭酸ナトリウム溶液を加えて反応を停止させ、遠心分離(6,000×rpm、10分間、4℃)により菌体成分を除去し、上清の405nmにおける吸光度を、吸光光度計(例えばMultiskan MS-UV(Labsystems、Helsinki、Finland))を用いて測定する。1分間に遊離するo-ニトロフェノール(ONP)1μmolを1ユニットとして定義し、活性値に換算する。その活性値から、菌体1mg当たりの活性値および培養上清に含まれるタンパク質1mg当たりの活性値をそれぞれ算出する。 なおタンパク質の定量には、例えばBCA法に基づくMicro BCA Protein Assay Reagent Kit(Pierce、Rockford、Illinois、U.S.A)を用い、2時間反応後、540nmでの吸光度を吸光光度計(例えば、Multiskan MS-UV)を用いて測定することができる。検量線はウシ血清アルブミン(BSA)を用いて作成すればよい。その検量線に基づいて上清中に含まれるタンパク質の量を算出できる。 以上のようにして算出した、β-gal、P-β-gal、およびP-β-glcのそれぞれについての菌体1mg当たりの活性値および培養上清に含まれるタンパク質1mg当たりの活性値から、該ラクターゼ活性が特に高い(通常の乳酸菌よりもラクトース分解酵素活性が増強されている)乳酸菌を選抜することができる。 限定するものではないが、例えばβ-galのラクターゼ活性(本発明ではβ-gal活性とも呼ぶ)が、培養上清中のタンパク質1mg当たり15ユニット以上、好ましくは100ユニット以上である菌株を選抜することが特に好ましい。またP-β-galのラクターゼ活性(本発明ではP-β-gal活性とも呼ぶ)については、培養上清中のタンパク質1mg当たり15ユニット以上、好ましくは45ユニット以上を示す菌株を選抜することが特に好ましい。さらにP-β-glcのラクターゼ活性(本発明ではP-β-glc活性とも呼ぶ)については、培養上清のタンパク質1mg当たり25ユニット以上、好ましくは50ユニット以上を示す菌株を選抜することが特に好ましい。 本発明の方法では、以上のようにして、上記ラクトバチルス属乳酸菌(より好ましくはラクトバチルス・ガセリ菌またはラクトバチルス・ムコサエ菌)について腸管付着性およびラクトース分解酵素活性をそれぞれ測定し、その結果、腸管付着性とラクトース分解酵素活性が共に増強された乳酸菌株を、効率良く選抜することができる。本発明は、そのようにして選抜された乳酸菌株にも関する。こうして得られたラクトバチルス属乳酸菌は、腸管内で良好に増殖し、定着し、ラクトース(乳糖)を非常に効率良く分解できる能力を保持するため、乳糖不耐症の改善に大変有用である。本発明において「乳糖不耐症の改善」とは、ラクトースを含む飲食品(乳製品など)を摂取する際に、乳糖不耐症の不快な消化器症状(腹痛、下痢、おなかのゴロゴロ感など)が現れる頻度を低減させるかもしくは発症を完全に阻止すること、または症状の重篤度を軽減することを意味する。また「乳糖不耐症の改善能」は、乳酸菌がそのようにして乳糖不耐症を改善することができる能力を言う。 本発明では、このようなスクリーニング方法を用いることにより、腸管付着性とラクトース分解酵素活性が共に顕著に増強された3菌株のラクトバチルス属乳酸菌を、実際に取得することができた。それら3つの乳酸菌は、ラクトバチルス・ガセリ OLL2836株(以降、OLL2836株ともいう)、ラクトバチルス・ガセリ OLL2948株(以降、OLL2948株ともいう)、およびラクトバチルス・ムコサエ OLL2848株(以降、OLL2848株ともいう)である。これらの乳酸菌株は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センターに寄託された。これらの寄託に関する情報は、以下の通りである。(1)寄託機関名:独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(2)寄託機関の連絡先:日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8(3)寄託日(原寄託日):平成18年(2006年)6月9日付(4)受託番号および受領番号: ・ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)OLL2836株: 受託番号NITE BP-241(原寄託の受領番号NITE AP-241) ・ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)OLL2948株: 受託番号NITE BP-242(原寄託の受領番号NITE AP-242)、 ・ラクトバチルス・ムコサエ(Lactobacillus mucosae)OLL2848株: 受託番号NITE BP-243(原寄託の受領番号NITE AP-243)。 寄託したこれらOLL2836株、OLL2948株、およびOLL2848株は、以下の表1に示す性質を有する。 表1中のLactobacilli MRS Broth(MRS培地;例えば、Difco, Ref. No.288160)は、これらの乳酸菌株の培養に好適に使用可能な培地である。MRS培地の典型的な組成を表2に示す。 表1に示す3つの菌株は、乳糖不耐症の改善能が特に高いと考えられ、本発明において特に有利に使用することができる。2. 本発明に係る乳酸菌を含有する乳糖不耐症改善剤 本発明に係る乳酸菌は、経口投与により、生存した状態で腸に届き、腸に定着し、強力なラクトース分解酵素活性を発揮することができ、その結果として乳糖不耐症を改善することができる。また本発明に係る乳酸菌を用いて製造される発酵物では、高いラクトース分解活性によりラクトース(乳糖)の分解率が向上している。 従って本発明は、上記スクリーニング方法を用いて得られる、腸管付着性とラクトース分解酵素活性が共に顕著に増強されたラクトバチルス属乳酸菌(本発明に係る乳酸菌)を含有する、乳糖不耐症改善剤にも関する。この本発明の乳糖不耐症改善剤は、乳糖不耐症を示しているかまたはその疑いがある被験体に対して投与することにより、乳糖不耐症を改善する効果が得られ、すなわち、乳糖不耐症の不快な消化器症状(腹痛、下痢、おなかのゴロゴロ感など)が現れる頻度を低減させるかもしくは発症を完全に阻止し、または乳糖不耐症の症状の重篤度を軽減することができる。本発明の乳糖不耐症改善剤は、乳糖不耐症の発症予防効果も有する。 本発明の乳糖不耐症改善剤は、本発明に係る乳酸菌を少なくとも1つ(1菌株以上)含有する。本発明の乳糖不耐症改善剤は、本発明に係る乳酸菌として、ラクトバチルス・ガセリ OLL2836株(受託番号NITE BP-241)、ラクトバチルス・ガセリ OLL2948株(受託番号NITE BP-242)、およびラクトバチルス・ムコサエ OLL2848株(受託番号NITE BP-243)から選択される少なくとも1つを含有することが好ましい。特に好適な実施形態では、本発明の乳糖不耐症改善剤は、少なくとも、ラクトバチルス・ガセリ OLL2836株(受託番号NITE BP-241)、ラクトバチルス・ガセリ OLL2948株(受託番号NITE BP-242)、およびラクトバチルス・ムコサエ OLL2848株(受託番号NITE BP-243)の3つの乳酸菌をいずれも含有する。この3つの乳酸菌を組み合わせて含有する乳糖不耐症改善剤は、A型、B型、O型のいずれの血液型抗原を有する腸管ムチンにも結合できるため、広範な被験体に対して有効である。 本発明の乳糖不耐症改善剤は、本発明に係る乳酸菌の精製菌体を含む組成物でもよいし、当該乳酸菌を用いて製造された発酵物、培養物、またはそれらの濃縮物を含む組成物でもよい。本発明の乳糖不耐症改善剤に含まれる本発明に係る乳酸菌は、生菌体であっても死菌体であってもよく、湿潤菌であっても乾燥菌であってもよい。しかし、より好ましい実施形態では、本発明の乳糖不耐症改善剤は、本発明に係る乳酸菌を生存状態で含有する組成物である。本発明の乳糖不耐症改善剤は、限定するものではないが、液体状、ゲル状、粉末状、顆粒状、固形状、カプセル状、またはタブレット状等の任意の形態であってよい。 本発明の乳糖不耐症改善剤は、適量を添加することにより、乳糖不耐症改善作用を飲食品や医薬組成物に付与することができる。本発明の乳糖不耐症改善剤は、有効成分としての本発明に係る乳酸菌またはその培養物、発酵物、もしくはそれらの濃縮物等に加えて、医薬製剤上許容される担体または添加物を含有していてもよい。このような担体および添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶剤、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン、マンニトール、ソルビトール、カルボキシメチルセルロース、医薬添加物として許容される界面活性剤などの他、リポゾームなどの人工細胞構造物などが挙げられる。使用される添加物は、製剤の剤形に応じて適宜または組み合わせて選択される。 本発明の乳糖不耐症改善剤は、経口的または非経口的(例えば、胃内投与や腸内投与など)に投与することができるが、特に経口的に投与することが好ましい。経口的に投与される本発明の乳糖不耐症改善剤は、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤などの固形製剤、ジェル剤、あるいは液剤、懸濁剤、シロップ剤などの液体製剤等の剤形であってよい。液体製剤として用いる場合には、本発明の乳糖不耐症改善剤を使用する際に再溶解させることを意図した乾燥物として供給してもよい。 上記剤形のうち経口用固形製剤は、薬学上一般に使用される結合剤、賦形剤、滑沢剤、崩壊剤、湿潤剤などの添加剤を含有してもよい。また、経口用液体製剤は、薬学上一般に使用される安定剤、緩衝剤、矯味剤、保存剤、芳香剤、着色剤などの添加剤を含有してもよい。 本発明の乳糖不耐症改善剤の投与量は、投与対象の年齢および体重、投与経路、投与回数により異なり、当業者の裁量によって広範囲に変更することができる。例えば、経口的に投与する場合には、本発明の乳糖不耐症改善剤に含まれる本発明に係る乳酸菌の投与量は、1〜1000mg/kg/dayが適当である。本発明の乳糖不耐症改善剤は、単回投与でもよいが、6〜8時間の間隔で反復的に投与してもよい。 本発明の乳糖不耐症改善剤を投与する対象は、限定するものではないが、好ましくはヒト、家畜、愛玩動物、実験(試験)動物等を含む哺乳動物である。さらに、乳糖不耐症であるかその疑いがある乳幼児期、成人期、高齢期の哺乳動物も本発明の被験体として好ましく、また加齢もしくは病気などによりラクトース分解能が低下した哺乳動物や、乳糖不耐症の遺伝的素因または環境的素因を有する哺乳動物が、本発明の乳糖不耐症改善剤を投与する被験体としてより好ましい。本発明の乳糖不耐症改善剤は、副作用の心配が少ないことから、継続的に利用する上で非常に有用に用いることができる。3. 本発明に係る乳酸菌を含有する飲食品 本発明は、上記スクリーニング方法を用いて得られる腸管付着性とラクトース分解酵素活性が共に顕著に増強されたラクトバチルス属乳酸菌を含有する、飲食品にも関する。本発明の飲食品は、限定するものではないが、特に乳糖不耐症改善用の飲食品であることが特に好適である。「乳糖不耐症改善用」とは、乳糖不耐症を示しているかまたはその疑いがある被験体を投与対象とし、乳糖不耐症の不快な消化器症状(腹痛、下痢、おなかのゴロゴロ感など)が現れる頻度を低減させるかもしくは発症を完全に阻止すること、または乳糖不耐症の症状の重篤度を軽減することを目的としていることを意味する。 本発明において「飲食品」とは、限定するものではないが、飲料、食品および機能性食品を包含する本発明に係る乳酸菌を含有する飲食品の種類は、特に限定されない。例えば本発明に係る乳酸菌を含む飲料として、発酵乳(ヨーグルトなど)、乳酸菌飲料、乳飲料(コーヒー牛乳、フルーツ牛乳など)、お茶系飲料(緑茶、紅茶およびウーロン茶など)、果物・野菜系飲料(オレンジ、りんご、ぶどうなどの果汁や、トマト、ニンジンなどの野菜汁を含む飲料)、アルコール性飲料(ビール、発泡酒、ワインなど)、炭酸飲料および清涼飲料等の飲料を例示することができる。各種飲料の製造法等については、既存の参考書、例えば「最新・ソフトドリンクス」(2003)(株式会社光琳)等を参考にすることができる。 本発明に係る乳酸菌を含有する食品は、特に限定されず、生鮮食品であってもよいし加工食品であってもよいが、特に好適な食品として、本発明に係る乳酸菌を生きたまま腸まで届けることが可能な発酵乳や乳酸菌飲料が挙げられる。本発明に係る乳酸菌を含有する食品は、ヨーグルトやチーズ等の乳製品・発酵乳の製造用のスターターであってもよい。 また、本発明に係る乳酸菌を含有する飲食品として、機能性食品はとりわけ好ましい。本発明の「機能性食品」は、生体に対して一定の機能性を有する食品を意味し、例えば、特定保健用食品(条件付きトクホ[特定保健用食品]を含む)および栄養機能食品を含む保健機能食品、特別用途食品、栄養補助食品、健康補助食品、サプリメント(例えば、錠剤、被覆錠、糖衣錠、カプセルおよび液剤などの各種剤形のもの)および美容食品(例えばダイエット食品)などのいわゆる健康食品全般を包含する。本発明の機能性食品はまた、コーデックス(FAO/WHO合同食品規格委員会)の食品規格に基づく健康強調表示(Health claim)が適用される健康食品を包含する。 本発明の機能性食品として好ましいより具体的な例には、病者用食品、妊産婦・授乳婦用粉乳、乳児用調製粉乳、高齢者用食品等の特別用途食品がある。本発明に係る乳酸菌は、温和な働きで徐々に腸内環境を改善し、腸内でのラクトース分解能を向上させ、乳糖不耐症を改善し、その症状をも軽減することができるため、体力の弱い乳幼児の乳糖不耐症の治療のための乳幼児用調製粉乳または液体調製乳における使用(例えば、通常の乳幼児用調製乳の原料に添加すればよい)や、授乳婦用粉乳等の妊婦用または授乳婦用食品ならびに体力の低下した高齢者や病者の乳糖不耐症の治療のための高齢者用食品および病者用食品における使用は特に好適である。 本発明の好適な機能性食品としては、さらに、先天的または後天的要因で乳糖不耐症を示す被験体のための乳幼児用サプリメント、妊産婦・授乳婦用サプリメント、高齢者用サプリメントおよび病者用サプリメントが挙げられる。 本発明に係る乳酸菌を含有する機能性食品の好ましい例として、保健機能食品が挙げられる。保健機能食品制度は、内外の動向、従来からの特定保健用食品制度との整合性を踏まえて、通常の食品のみならず錠剤、カプセル等の形状をした食品を対象として設けられた。この制度の下、保健機能食品は、特定保健用食品(個別許可型)と栄養機能食品(規格基準型)の2種類の類型からなる。さらに、条件付きトクホ[特定保健用食品]等の新たな類型も含まれる。 本発明の機能性食品は、本発明に係る乳酸菌を腸内に導入し定着させ、腸内のラクトース分解能を(好ましくは持続的に)向上させ、その結果として乳糖不耐症を改善する効果を有することが好ましい。本発明の機能性食品は、乳糖不耐症の改善以外の用途を第一目的とするものでもよい。本発明の機能性食品(好ましくは、特定保健用食品または条件付きトクホ[特定保健用食品])は、腸内のラクトース分解能を向上させ、それにより乳糖不耐症またはその症状を改善する効果について、記載または表示したものであってよい。そのような記載または表示は、保健機能食品制度において定められた規定に基づいて表示承認されたものでありうる。例えば本発明の機能性食品においては、「おなかの調子を整えたい方に適する」「おなかの調子を良好に保つ」「腸内環境を整える」「牛乳に弱い方に適する」などの記載が考えられるが、これらに限定されない。 本発明の機能性食品は、錠剤、顆粒剤、散剤、丸剤、カプセル剤などの固形製剤、液剤、懸濁剤、シロップ剤などの液体製剤、あるいはジェル剤などの製剤の形状であってもよいし、通常の飲食品の形状(例えば、発酵乳、飲料、粉状茶葉、菓子など)であってもよい。 本発明に係る乳酸菌の飲食品への配合量は特に限定されず、場合に応じて様々であってよい。具体的な配合量は、飲食品の種類や求める味や食感を考慮して、当業者が適宜定めることができる。しかし通常は、本発明に係る乳酸菌の総量が、0.001〜100重量%、特に0.1〜100重量%となるような配合量が適当である。 本発明に係る乳酸菌は、当業者が利用可能である任意の適切な方法によって、飲食品に含有させればよい。例えば、本発明に係る乳酸菌を、飲食品の原料中に直接混合してもよい。本発明に係る乳酸菌は、飲食品に塗布、被覆、浸透または吹き付けてもよい。本発明に係る乳酸菌は、飲食品中に均一に分散させてもよいし、偏在させてもよい。本発明に係る乳酸菌を入れたカプセルなどを調剤してもよい。本発明に係る乳酸菌を、可食フィルムや食用コーティング剤などで包み込んでもよい。また本発明に係る乳酸菌に適切な賦形剤等を加えた後、錠剤などの形状に成形してもよい。本発明に係る乳酸菌を含有させた飲食品はさらに加工してもよく、そのような加工品も本発明の範囲に包含される。さらに、本発明に係る乳酸菌を用いて製造した乳発酵物を含有する飲食品は、特に好ましい。いずれにせよ、本発明の飲食品は、限定するものではないが、本発明に係る乳酸菌を生きた状態で含有することがとりわけ好ましい。 本発明の飲食品の製造においては、飲食品に慣用的に使用されるような各種添加物を使用してもよい。添加物としては、限定するものではないが、発色剤(亜硝酸ナトリウム等)、着色料(クチナシ色素、赤102等)、香料(オレンジ香料等)、甘味料(ステビア、アステルパーム等)、保存料(酢酸ナトリウム、ソルビン酸等)、乳化剤(コンドロイチン硫酸ナトリウム、プロピレングリコール脂肪酸エステル等)、酸化防止剤(EDTA二ナトリウム、ビタミンC等)、pH調整剤(クエン酸等)、化学調味料(イノシン酸ナトリウム等)、増粘剤(キサンタンガム等)、膨張剤(炭酸カルシウム等)、消泡剤(リン酸カルシウム)等、結着剤(ポリリン酸ナトリウム等)、栄養強化剤(カルシウム強化剤、ビタミンA等)等が挙げられる。さらに、オタネニンジンエキス、エゾウコギエキス、ユーカリエキス、杜仲茶エキス等の機能性素材をさらに添加してもよい。 本発明の飲食品は、本発明に係る乳酸菌を少なくとも1つ(1菌株以上)含有する。本発明の飲食品は、本発明に係る乳酸菌として、ラクトバチルス・ガセリ OLL2836株(受託番号NITE BP-241)、ラクトバチルス・ガセリ OLL2948株(受託番号NITE BP-242)、およびラクトバチルス・ムコサエ OLL2848株(受託番号NITE BP-243)から選択される少なくとも1つを含有することが好ましい。特に好適な実施形態では、本発明の飲食品は、少なくとも、ラクトバチルス・ガセリ OLL2836株(受託番号NITE BP-241)、ラクトバチルス・ガセリ OLL2948株(受託番号NITE BP-242)、およびラクトバチルス・ムコサエ OLL2848株(受託番号NITE BP-243)の3つの乳酸菌をいずれも含有する。この3つの乳酸菌を組み合わせて含有する飲食品は、A型、B型、O型のいずれの血液型抗原を有する腸管ムチンにも結合できるため、広範な被験体に対して有効である。 本発明の飲食品を摂取または投与する被験体は、限定するものではないが、好ましくは、ヒト、家畜(ブタ、ウマなど)、愛玩動物(イヌ、ネコなど)、実験(試験)動物(マウス、ラットなどの齧歯動物やウサギなど)を含む哺乳動物である。さらに、乳糖不耐症であるかその疑いがある乳幼児期、成人期、高齢期の哺乳動物も本発明の被験体として好ましく、また加齢もしくは病気などによりラクトース分解能が低下した哺乳動物や、乳糖不耐症の遺伝的素因または環境的素因を有する哺乳動物も、本発明の飲食品を摂取または投与する被験体として好ましい。 以下、実施例を用いて本発明をさらに具体的に説明する。但し、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。[実施例1] 供試乳酸菌の培養および調製 以下で用いる供試乳酸菌としては、明治乳業株式会社から提供を受けたヒト由来乳酸菌株、米国American Type Culture Collection(ATCC)、理化学研究所微生物系統保存施設(JCM)、農林水産省畜産試験場(NIAI)、および英国National Collections of Food Bacteria(NCFB)より入手した乳酸菌株、ならびに本発明者らにより幼児糞便より変法LBSアガーを用いて分離した乳酸菌株の合計104株を使用した。これら供試乳酸菌には、ラクトバチルス・ブルガリカス(Lactobacillus bulgaricus)、ラクトバチルス・アシドフィルス(Lactobacillus acidophilus)、ラクトコッカス・ラクティス(Lactococcus lactis)、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、ラクトバチルス・クリスパタス(Lactobacillus crispatus)、ラクトバチルス・ジョンソニー(Lactobacillus johnsonii)、およびラクトバチルス・ムコサエ(Lactobacillus mucosae)に属する様々な菌株の他、菌種未同定の株が含まれていた。なお、菌株名にOLLまたはMEPと記載された菌株は、明治乳業株式会社保有菌株を示す。 各供試乳酸菌の菌体を、滅菌した10%(w/v)スキムミルク培地(雪印乳業株式会社、札幌)中に分散し、使用するまでディープフリーザー中で-80℃下に保存した。 培養においては、各菌株は、MRS培地(Difco、Detroit, MI, USA)で3回、継代培養(37℃、24時間)した後、MRSL培地(2%グルコースをラクトースに置換したMRS培地)で2回継代培養(37℃、24時間)した。次いで、得られた菌体培養液を新たに調製したMRSL培地に1%接種し、その後37℃で18時間培養した。こうして調製した本培養液を遠心分離(6,000×g、20分間、4℃)して集菌した菌体を、0.05Mリン酸緩衝液(pH6.8)で洗浄後、蒸留水に懸濁し、その後凍結乾燥を行った。[実施例2] 腸管付着性株の選抜 上記の供試乳酸菌株の中から、本発明者らによって開発された腸管ムチンへの結合能を調べるアッセイ系を用いて、腸管付着性の高い(RU値が100以上)菌株を選抜した。使用したアッセイ系については国際出願WO2006/067940にも詳細に記載されている。 具体的には、ヒトA型腸管ムチン、ヒトB型腸管ムチン、ヒトO型腸管ムチンのそれぞれに対する乳酸菌の結合能を、バイオセンサーBIACORE1000(BIACORE社)を用いて表面プラズモン共鳴スペクトル解析を行うことにより、測定した。1.アナライト溶液の調製 まず各菌株を、起菌後、MRS培地にて3回継代し、37℃で12時間培養した後、1.5ml容チューブに500μl分注した。この培養液を遠心分離(6,000rpm、4℃、10分)し、上清を除去して得た菌体をPBSバッファー(pH7.2)中で2回洗浄後、蒸留水に懸濁し、凍結乾燥した。本菌体をHBS-EPバッファー(0.01M HEPES(pH7.4)、0.15M NaCl、3mM EDTA、0.005% Surfactant P20)を用いて0.1mg/ml濃度に調製し、アナライト溶液とした。2.ヒト腸管ムチン(HCM)の調製およびHCM固定化センサーチップの作製 ヒト腸管ムチンの調製およびセンサーチップヘの固定化を行った。ヒトA型腸管(血液型A型のヒト由来の大腸)、ヒトB型腸管(血液型B型のヒト由来の大腸)、およびヒトO型腸管(血液型O型のヒト由来の大腸)は、東北大学大学院医学系研究科より、標本採取試料として分譲を受けた。なお、この試料採取は、東北大学大学院医学系研究科の倫理委員会を経て実施し、また患者の同意を得て行われたものである。それら腸管の大腸正常部位から、粘液ムチン層を表層掻き取り法で採取した。粘液ムチン層は、Folch溶媒(クロロホルム-メタノール混液(2:1(v/v));J. Folch et al., :J. Biol. Chem. (1957) 226, p.497-500)およびジエチルエーテルにより脱脂後乾燥させ、4M塩酸グアニジン溶液により37℃で2時間抽出した。次いで、この抽出物についてゲルろ過により精製を行った。ゲルろ過精製法は、Purushothaman S. S. et al, "Adherence of Shigella dysenteriae 1 to Human Colonic Mucin." Curr. Miorobiol., 42(6), p.381-387 (2001)に記載されたヒト大腸ムチンの精製方法に基づき実施した。移動層は4M塩酸グアニジン溶液、ゲルろ過クロマトグラフィー用のカラムはToyopearl HW-65F(90cm×2.6cm, Tosoh. Tokyo. Japan)を用いた。得られたカラム抽出液について、中性糖をフェノール硫酸法(反応後に490nmの吸光度を測定する)で、タンパク質を280nmの吸光度を測定し、その結果、タンパク質吸収(280nmの吸光度)があり、かつ中性糖含量の最も高いピークを選択し、さらにゲルろ過クロマトグラフィーにおける分子量約200万以上を目安として大腸ムチン画分を分取した。こうして得られた精製物を、由来するヒトの血液型に対応して、それぞれヒトA型腸管ムチン、ヒトB型腸管ムチン、ヒトO型腸管ムチンとした。以下、それらのヒト腸管ムチン(human colon mucin:HCM)のうち、A型腸管ムチンをA-HCM、B型腸管ムチンをB-HCM、O型腸管ムチンをO-HCMと呼ぶことがある。得られた各HCMについては、それぞれの血液型のヒト血液型基質抗原性を抗原抗体反応により確認した。 以上のようにして得られた各HCMのBIACORE用センサーチップヘの固定化は、バイオセンサーBIACORE1000(BIACORE社)において、アミンカップリング法により行った。まず、予めカルボキシメチルデキストラン基を導入したセンサーチップCM5(BIACORE社)に対して、75.0mg/mlのN-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル-カルボジイミド塩酸塩(EDC)50μ1および11.5mg/mlのN-ヒドロキシスクシンイミド(NHS)50μlを混合した混合試薬(EDC/NHS)を流し、カルボキシメチルデキストラン中のカルボキシル基を活性化させた。次いで、120μlの固定化用酢酸バッファー(10mM、pH4.O)に、上記で精製されたいずれかのHCM溶液(A-HCM、B-HCM、O-HCM)を30μl加えた混合溶液を調製して流し、アミン・カップリング反応によりHCMをセンサーチップ上のカルボキシル基に共有結合させた。さらに、1M エタノールアミン塩酸塩-NaOH(pH8.5)を用いて、プローブが結合していないセンサーチップ上の部位の残存活性基のブロッキングを行った。ランニングバッファーとしてはHBS-EPバッファーを用いた。EDC/NHS導入前とエタノールアミン溶液添加後のレポートポイントの差として示されるHCM固定化量は、1000〜2000 RUとした。こうして得られたHCM固定化センサーチップを、次に、上記アナライト溶液の試験に用いた。3.表面プラズモン共鳴スペクトル解析 バイオセンサーBIACORE1000(BIACORE社)をさらに用いて、各HCM固定化センサーチップ上のHCMと、上記アナライト溶液中の乳酸菌菌体との結合量を解析した。この解析に使用したBIACORE1000の測定条件を下記に示す。 ランニング緩衝液:HBS-EPバッファー(pH7.4) アナライト溶液(サンプル)の添加量:20μl 流速:3μl/分 反応温度:25℃ 再生溶液:1Mグアニジン塩酸塩溶液 5μl BIOACOREシステムによる解析においては、アナライトとプローブとの結合量(相互作用)は、レゾナンスユニット(RU)を単位とした値で表される。1レゾナンスユニット(RU)とは、センサーチップの表面上1mm2当たりに物質1pgが結合したことを意味する。すなわち、この解析で得られた結合/解離曲線に基づき、結合後のRU値から結合前のRU値を差し引いた値が、アナライトである各乳酸菌とプローブである各腸管ムチンとの1mm2当たりの結合量に相当する。この結合量は、その乳酸菌と各腸管ムチンとの結合能に相当する。 この解析の結果、少なくとも1つの腸管ムチンに対する結合能として100 RU以上の値を示した菌株を、供試乳酸菌104株の中から選抜した。選抜された菌株では、腸管付着性が他の平均的な乳酸菌株よりも増強されている(腸管付着性が高い)と言える。選抜された菌株の代表例およびその解析結果を、図1〜3に示す。[実施例3] P-β-glc活性の測定に用いるONPGlc-6Pの合成および精製 以下では、腸管付着性が高く、かつ高いラクトース分解酵素活性をも有する菌株をさらに選抜することを試みた。そこで本実施例では、まず、その活性測定に用いるONPGlc-6Pの調製を行った。1.ONPGlc-6Pの化学合成 フォスフォ-β-グルコシダーゼ(P-β-glc)活性の測定に用いるo-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド-6-ホスフェート(o-Nitrophenyl-β-D-glucopyranoside 6-phosphate;ONPGlc-6P)は、HengstenbergとMorseの合成方法(Hengstenberg, W. and M.L.Morse、Synthesis of o-Nitrophenyl-beta-D-galactopyranoside 6-phosphate, Carbohydr. Res、10、 pp.463-465 (1969))の改良法に従って化学合成した。具体的には、まず、o-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド(ONPGlc、Sigma、St. Louis、USA)の0.9gを、予め氷上で冷却してから混合した54μl蒸留水と840μlのオキシ塩化リンを含むリン酸トリメチル7.5mlに溶解した。次いで本混合液を氷上で5時間撹拌しながら反応させた。反応後、氷片(蒸留水)を加え、濃アンモニア水を滴下しながらpHメーターを用いて溶液を中和(pH7.0)し、反応を停止させた。2.ONPGlc-6Pの精製 上記で反応を停止させた溶液について、ロータリーエバポレーター(東京理科機械、東京)を用いて40℃での濃縮乾固を繰り返すことにより、反応で生じたo-ニトロフェニル(ONP)を除去した。次いで、濃縮した反応液を活性炭(50g)と混合し、4℃下で2時間静置することにより、化学合成されたONPGlc-6Pおよび未反応のONPGlcを活性炭に吸着させた後、それを20倍量の蒸留水(2L)で洗浄し、脱塩を行った。活性炭に吸着したONPGlc-6Pの溶出は、ピリジン:水:エタノール混液(1:1:1(v/v)、600ml)を用いて行った。溶出液は40℃下でのロータリーエバポレーターで濃縮を繰り返し、ピリジンの除去を行った。続いて、調製ペーパークロマトグラフィー(PPC)に供した。すなわち、PPC用濾紙(Whatman、3MM、46×57cm、Maidstone、England)上に、100μlマイクロピペットを用いて上記の粗精製ONPGlc-6Pを直線状に塗布し、展開溶媒としてブタノール:ピリジン:水(6:4:3(v/v/v))を用いて上昇法で単展開させた。2日間を要する展開終了後、ドラフトチャンバー内でその濾紙を乾燥させてから、UVトランスイルミネーター(302nm、フナコシ、東京)を用いてONPGlc-6PおよびONPGlcのバンドを確認し、ONPGlc-6Pのバンドのみを切り出した。切り出した濾紙を蒸留水に浸し、一晩、4℃で撹拌することで、ONPGlc-6Pの抽出を行った。抽出後、濾紙を除去し、水層をロータリーエバポレーターで濃縮した後、混在している反応副産物を、蒸留水を移動相とするTOYOPEARL HW40Sカラム(2.6φ×90cm、東ソー、東京)を用いたゲルろ過により除去した。ゲルろ過後、各溶出画分を薄層クロマトグラフィー(TLC、Silicagel 60、10×10cm、Merck、Darmstadt、Germany)を用いてONPGlc-6P画分を回収した。TLCの展開溶媒には、ブタノール:2−プロパノール:水(3:12:4(v/v/v))を用いて単展開した。風乾後、5%(v/v)硫酸-メタノール溶液を薄層板に均等に噴霧し、150℃に加温した乾燥器(Yamato、東京)内で3分間加熱して検出した。回収したONPGlc-6P画分の凍結乾燥を行い、精製ONPGlc-6Pとした。この精製品については、TLCにより純度を確認し、1H-NMRにより構造の確認を行った。[実施例4] β-gal、P-β-galおよびP-β-glc活性の測定 実施例1で調製した供試乳酸菌104株について、Fisher法を用いて、β-gal、P-β-galおよびP-β-glcのラクターゼ活性の測定を行った。すなわち、各菌株について、凍結乾燥菌体0.5mgを0.05Mリン酸緩衝液(pH6.8)1.0mlに懸濁し、トルエン-アセトン混液(1:9(v/v))50μlを加えて3分間激しく撹拌した。この懸濁液25μlに、o-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド(ONPGal)、o-ニトロフェニル-β-D-ガラクトピラノシド-6-ホスフェート(ONPGal-6P)または上記で調製したo-ニトロフェニル-β-D-グルコピラノシド-6-ホスフェート(ONPGlc-6P)を含む0.05Mリン酸緩衝液(pH6.8)100μlを加えて、37℃で15分間反応させた。反応後、0.5M 炭酸ナトリウム溶液125μlを加えて反応を停止させ、遠心分離(6,000×rpm、10分間、4℃)により菌体成分を除去し、上清の405nmにおける吸光度をMultiskan MS-UV(Labsystems、Helsinki、Finland)を用いて測定した。1分間に遊離するo-ニトロフェノール(ONP)1μmolを1ユニットとして定義し、該ユニットを単位として、菌体1mg当たりの活性値および培養上清に含まれるタンパク質1mg当たりの活性値をそれぞれ算出した。 なお、タンパク質の定量には、BCA法に基づくMicro BCA Protein Assay Reagent Kit(Pierce、Rockford、Illinois、U.S.A)を用い、2時間反応後、540nmでの吸光度をMultiskan MS-UVを用いて測定した。検量線はウシ血清アルブミン(BSA)を用いて作成し、そこからタンパク質の量を算出した。図1〜3には、実施例2で選抜された菌株の代表例についてのラクターゼ活性測定の結果を示している。[実施例5] 乳酸菌株の選抜 上記実施例において示された腸管付着性およびβ-gal、P-β-galおよびP-β-glc活性の測定結果に基づき、腸管付着性が高く、かつラクターゼ活性も高い乳酸菌株の選抜を行った。その結果、腸管付着性が高く、かつβ-gal、P-β-galおよびP-β-glcのうちいずれかのラクターゼ活性について顕著に高い活性を示す菌株として3つの乳酸菌株(OLL2836株、OLL2948株、およびOLL2848株)が選抜された(図1〜3)。一方で、ラクターゼ活性が比較的高い乳酸菌株の多くは、腸管付着性が低い(A型、B型、O型のいずれのヒト腸管ムチンに対してもRU値が100 RU未満)ために排除される結果となった。 図1〜3に示す通り、OLL2836株は46.576 ユニット/mgタンパク質のP-β-gal活性を示し、OLL2948株は50.194 ユニット/mgタンパク質のP-β-glc活性を示し、OLL2848株は107.090 ユニット/mgタンパク質のβ-gal活性を示したが、これらの活性値は、腸管付着性が高い他の乳酸菌株と比較してもそれぞれかなり高い値であった。しかもこれらの菌株は、腸管付着性を示すRU値についても、かなり高い値を示した。具体的には、OLL2836株はヒトB型腸管ムチンおよびヒトO型腸管ムチンに対してとりわけ強い結合能を示し、OLL2948株およびOLL2848株はヒトA型腸管ムチンに対して特に強い結合能を示した。 以上の結果から、これらの乳酸菌株について、それぞれ単独で、腸管内に定着して持続的にラクトースを分解する効果が期待できることに加え、当該3菌株を組み合わせて用いることにより、いずれの血液型の被験体においても高いラクトース分解効果を得られるであろうことが示された。 OLL2836株、OLL2948株およびOLL2848株については、さらに菌種同定試験を行い、OLL2836株およびOLL2948株がラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)、OLL2848株がラクトバチルス・ムコサエ(Lactobacillus mucosae)に属する菌として、それぞれ同定した(後述の実施例を参照)。この3つの乳酸菌株については、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2−5−8)に、2006年6月9日(原寄託日)付で寄託申請がなされ、受託された。この寄託申請に係る受領番号は、OLL2836株がNITE AP-241、OLL2948株がNITE AP-242、OLL2848株がNITE AP-243であり、また寄託番号はそれぞれNITE P-241、NITE P-242、NITE P-243である。これらの寄託菌株は、2007年3月27日付けでプダペスト条約に基づく寄託(国際寄託)に移管され、2006年6月9日を原寄託日として受託された。それら国際寄託番号は、OLL2836株がNITE BP-241、OLL2948株がNITE BP-242、OLL2848株がNITE BP-243である。これら菌株の菌類学的性質は、上述の表1の通りであることが確認された。 以上のように、本発明のスクリーニング方法を用いることにより、腸管付着性が高く、かつラクターゼ活性も高い乳酸菌株を取得できることが示された。さらに、β-gal、P-β-galおよびP-β-glcについてラクターゼ活性を測定し、その3種のラクトース分解酵素のそれぞれについて顕著に高い活性を示した菌株を選抜し、得られた菌株を組み合わせることにより、広範な被験者に適用できる非常に有用な乳酸菌の組み合わせも取得することができた。本発明の方法で得られる乳酸菌株は、腸管内に定着して持続的にラクトースを低減することができる有用なプロバイオティック乳酸菌株として乳糖不耐症の改善に効果的に使用できると考えられる。[実施例6] 菌種同定 実施例5で選抜された3つの乳酸菌株 OLL2836株、OLL2948株およびOLL2848株について、菌種の同定を行った。同定は、V3領域の増幅・配列決定に基づく16S rDNA塩基配列解析によって行った。以下ではOLL2848株およびOLL2948株で行った同定試験を例として記載するが、OLL2836株についても基本的に同様にして同定がなされた。1.ダイレクトPCR法による選抜株の16S rDNA断片の検出 OLL2848株およびOLL2948株を、MRS培地で上述の通り継代培養した後、ダイレクトPCRを行った。0.6ml容マイクロチューブにミリQ水を4μlずつ分注し、これに、滅菌楊枝を用いて掻き取った菌体をそれぞれ懸濁した。この懸濁液に、Taq DNAポリメラーゼ(TaKaRa、京都)、10×PCRバッファー、dNTP Mix(TaKaRa、京都)、一組のプライマーを加えてPCR反応液とした。一組のプライマーとしては、ユニバーサルプライマー27F(5'-GAGTTTGATCCTGGCTCAG-3'、配列番号1)、および518R(5'-ATTACCGCGGCTGCTGG-3'、配列番号2)を用いた。PCR条件は、〔95℃10分間、55℃3分間、72℃1分間〕を1サイクル、〔95℃30秒間、55℃30秒間、72℃30秒間〕を39サイクル、および〔72℃1分間〕1サイクルとして、行った。2.アガロースゲル電気泳動 以上のPCR反応により増幅したDNA断片を、次に電気泳動にかけた。電気泳動は、泳動ゲルに2%アガロースゲルを、泳動バッファーには1×TBEバッファー(90mM Tris-ホウ酸、2mM EDTA、pH8.0)を用い、100Vの定電圧下で行った。泳動装置は、Mupid-2(コスモバイオ、東京)を用いた。分子量マーカーは、100b DNAラダー(TaKaRa、京都)を用いた。泳動後のゲルの染色は、エチジウムブロマイド(EB)溶液(0.5μg/ml)に10分間浸すことにより行った。3.アガロースゲルからのDNA抽出 アガロースゲル電気泳動および染色後のゲルに、UVトランスイルミネーターTRANSILLMINATOR TM-20(フナコシ薬品株式会社、東京)でUVを照射し、目的のDNA断片を確認して、切り出した。DNA断片精製キットMagExtractor(TOYOBO、大阪)によりDNAを抽出した。すなわち、切り出したアガロースゲルを1.5ml容チューブに移した後、400μlの吸着液を加え、55℃に加温して完全に溶解させた。次いで、その反応液に15μlの磁性ビーズを加えて撹拌した後、1分間室温で放置した。遠心分離(6,000 rpm、5秒間、4℃)した後、上清を除去し、500μlの洗浄液を加え撹拌した。再び遠心分離(6,000 rpm、5秒間、4℃)した後、1mlの75%エタノールを加え撹拌して、遠心分離(15,000rpm、1分間、4℃)した後、上清を除去した。15μlの蒸留水を加え撹拌した後、遠心分離(15,000 rpm、1分間、4℃)により回収した上清を精製DNA溶液とした。4.DNA配列の決定および相同性解析 精製したDNAについて、プライマー27F(5'-GAGTTTGATCCTGGCTCAG-3’、配列番号3)を用い、塩基配列決定を行った。塩基配列決定はオペロン・バイオテクノロジー株式会社にて行った。こうしてOLL2848株について決定された16S rDNAのV3領域の塩基配列を配列番号4として、OLL2948株について決定された16S rDNAのV3領域の塩基配列を配列番号5として示した。これらの塩基配列について、日本DNAデータバンク(DDBJ)のウェブ上でプログラムBLASTNにより相同性解析を行った。 その結果、OLL2848株のV3領域の塩基配列は、ラクトバチルス・ムコサエ(Lactobacillus mucosae)のV3領域の配列との間で99.6%の相同性を示した。一方、OLL2948株のV3領域の塩基配列は、ラクトバチルス・ガセリ(Lactobacillus gasseri)のV3領域の配列との間で99.2%の相同性を示した。このことから、OLL2848株はラクトバチルス・ムコサエ、OLL2948株はラクトバチルス・ガセリにそれぞれ属する乳酸菌として同定された。 本発明の方法は、乳糖不耐症の改善に有用な乳酸菌株を効率よく選抜するために用いることができる。本発明の方法により得られる乳酸菌株は、患者に簡便に投与でき、かつ乳糖不耐症を持続的に改善できる薬剤や機能性食品等の有効成分として有利に使用することができる。 配列番号1〜3の配列はプライマーである。 本明細書で引用した全ての刊行物、特許および特許出願の全体を参照により本明細書に取り入れるものとする。 ラクトバチルス・ガセリ OLL2836株(受託番号NITE BP-241)、ラクトバチルス・ガセリ OLL2948株(受託番号NITE BP-242)、およびラクトバチルス・ムコサエ OLL2848株(受託番号NITE BP-243)のうちのいずれかである、腸管付着性およびラクトース分解酵素活性が共に増強された乳酸菌。 請求項1に記載の乳酸菌を少なくとも1つ含有する乳糖不耐症改善剤。 ラクトバチルス・ガセリ OLL2836株(受託番号NITE BP-241)、ラクトバチルス・ガセリ OLL2948株(受託番号NITE BP-242)、およびラクトバチルス・ムコサエ OLL2848株(受託番号NITE BP-243)の3つの乳酸菌を含有する、請求項2に記載の乳糖不耐症改善剤。 請求項1に記載の乳酸菌を少なくとも1つ含有する飲食品。 ラクトバチルス・ガセリ OLL2836株(受託番号NITE BP-241)、ラクトバチルス・ガセリ OLL2948株(受託番号NITE BP-242)、およびラクトバチルス・ムコサエ OLL2848株(受託番号NITE BP-243)の3つの乳酸菌を含有する、請求項4に記載の飲食品。 乳児用食品、幼児用食品、授乳婦用食品、高齢者用食品、病者用食品、保健機能食品、サプリメント、発酵乳および乳酸菌飲料からなる群から選択される、請求項4または5に記載の飲食品。配列表


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