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タイトル:特許公報(B2)_細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソームおよびその製造方法
出願番号:2004117262
年次:2011
IPC分類:A61K 47/36,A61K 9/127,A61K 47/24,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

阿部 正彦 酒井 秀樹 大竹 勝人 大久保 貴広 後藤 俊弘 JP 4669665 特許公報(B2) 20110121 2004117262 20040412 細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソームおよびその製造方法 阿部 正彦 598069939 独立行政法人産業技術総合研究所 301021533 中尾 俊輔 100081282 伊藤 高英 100085084 小野 信夫 100086324 阿部 正彦 酒井 秀樹 大竹 勝人 大久保 貴広 後藤 俊弘 20110413 A61K 47/36 20060101AFI20110324BHJP A61K 9/127 20060101ALI20110324BHJP A61K 47/24 20060101ALI20110324BHJP C12N 15/09 20060101ALN20110324BHJP JPA61K47/36A61K9/127A61K47/24C12N15/00 A A61K 47/36 A61K 9/127 A61K 47/24 C12N 15/09 特表平11−508871(JP,A) 特開平07−089874(JP,A) 特開昭58−049311(JP,A) 特開昭59−210013(JP,A) 国際公開第00/028972(WO,A1) 国際公開第02/013782(WO,A1) 特表平04−505319(JP,A) 特表2002−508020(JP,A) 特表平10−509459(JP,A) 国際公開第02/032564(WO,A1) 特開2003−119120(JP,A) 特開2003−321398(JP,A) 特開平02−500360(JP,A) 特開平09−071542(JP,A) 特表2002−540077(JP,A) 特表2003−528131(JP,A) 12 2005298407 20051027 14 20070215 岩下 直人 本発明は、細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソームおよびその製造法に関し、更に詳細には、高い生体適合性と生分解性を併せ持ち、医用生体材料や医薬品分野の他、遺伝子運搬体として利用することのできる細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソーム(以下、単に「ポリカチオン修飾リポソーム」という)およびその製造法に関する。 リポソームは、天然由来の界面活性剤であるリン脂質が水中で自己組織化することにより形成する二分膜の閉鎖小胞体である。リポソームは医薬品・香粧品の基材として応用が盛んに試みられているが、近年では特に遺伝子運搬体として応用する研究に注目が集まっている。すなわち、リポソームの内水相は、外界と隔離された小胞であるため、内包した物質を特定の部位に運搬することができ、かつ血清中に含まれる核酸分解酵素に代表される遺伝子分解成分からも保護できるため、遺伝子運搬体として注目されているのである。 生体内に遺伝子を導入する際に、リポソームは安全な運搬体であると言えるが、具体的に遺伝子運搬体として使用するには、まず、リポソ−ム内に遺伝子を封入するかまたはリポソームと遺伝子間における静電的引力を利用して、リポソームは遺伝子との複合体を形成する。次いで、リポソーム二分子膜と細胞膜とが融合を起こすことで遺伝子が細胞に取り込まれ、核内に到達することにより遺伝子の発現が起こる。 ところで、一般に、細胞表面および遺伝子は負に帯電していることが知られているが、このリポソームの表面を正に帯電させたカチオン性リポソームを用いると、負に帯電した遺伝子の捕捉力が強くなるため、より強固なリポソーム−遺伝子複合体を形成し、遺伝子運搬体としてより好ましいものが得られる。また、このようなカチオン性リポソームを使用すると、負に帯電した細胞表面との静電引力が働くため、リポソームと細胞との膜融合が起こりやすくなる。 このように、リポソームに対するカチオン種の導入は、リポソームを遺伝子運搬体と用いる上で、極めて有用であると言える。しかしながら、カチオン性界面活性剤やカチオン性リン脂質は、細胞毒性が強いものが多く、これを導入したカチオン性リポソームをイン・ビボ(in vivo)で応用することは困難であった。 従って、細胞毒性の問題がなく、遺伝子運搬体として使用可能なカチオン性リポソームの提供が求められており、このようなカチオン性リポソームの提供が本発明の課題である。 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を行った結果、リポソームにカチオン性多糖類、特にキチンを脱アセチル化することで得られるキトサンを作用させることにより、細胞毒性の問題のないポリカチオン修飾リポソームが得られることを見出し、本発明を完成した。 すなわち本発明は、両性リン脂質とアニオン性リン脂質をそれらのモル比で、9.5:0.5ないし4:6で混合したものからなるリン脂質であるリポソームの表面を、カチオン性多糖類で修飾してなるポリカチオン修飾リポソームを提供するものである。 また本発明は、両性リン脂質とアニオン性リン脂質をそれらのモル比で、9.5:0.5ないし4:6で混合したものからなるリン脂質であるリポソームの溶液を、カチオン性多糖類の酸性液中に滴下することを特徴とするポリカチオン修飾リポソームの製造法を提供するものである。 更に本発明は、二酸化炭素の臨界点より高い温度および/または圧力下で、両性リン脂質とアニオン性リン脂質をそれらのモル比で、9.5:0.5ないし4:6で混合したものからなるリン脂質、カチオン性多糖類および二酸化炭素を含む混合流体中に、リポソーム中に封入すべき物質を含む水相を加えることを特徴とするポリカチオン修飾リポソームの製造法を提供するものである。 本発明によれば、ジパルミトイルフォスファチジルコリン(DPPC)等のリン脂質リポソーム水溶液とカチオン性多糖類水溶液とを混合することで、リポソーム二分子膜表面をカチオン性多糖類で修飾したポリカチオン修飾リポソームが調製される。 また、DPPCのような両性リン脂質とジパルミトイルフォスファチジルグリセリル(DPPG)のようなアニオン性リン脂質とを混合することで、高い保持効率を有する両性リン脂質/アニオン性リン脂質リポソームが得られ、しかもこのものは負電荷を有するため、静電的相互作用により、効率良くポリカチオン修飾リポソームが得られる。 さらに、超臨界逆相蒸発法を適用することで、一段階でポリカチオン修飾リポソームの調製が可能となった。 本発明のポリカチオン修飾リポソームは、主な構成成分がリン脂質であるリポソームの表面を、カチオン性多糖類で修飾したものである。 リポソームを修飾するために用いるカチオン性多糖類としては、キトサン、ポリガラクトサミン等の天然カチオン性多糖類の他、デキストラン、セルロース、β−(1,3)−グルカン等の多糖類に合成的にカチオン基を導入したものが挙げられる。このうち、キトサンは、次の式、で表される化合物である。 このものは、N−アセチル−2−アミノ−2−デオキシ−D−グルコピラノースがβ(1‐4)結合した直鎖型の天然高分子化合物であるキチンを脱アセチル化することで得られるものであり、例えば、キトサン1000(生化学工業(株)製)などとして市販されているものである。このものは、制癌作用、血圧上昇抑制作用、コレステロール減少作用など、様々な化学的・生物学的機能を有するが、水、アルカリ、アルコール、有機溶媒に不溶で、弱酸性溶液にのみ溶解する。そして、弱酸性溶液中において、キトサンのアミノ基がアンモニウム化し、陽イオン性高分子(ポリカチオン)を形成する。 本発明において、カチオン性多糖類によりリポソームを修飾し、ポリカチオン修飾リポソームを得るための方法としては、例えば次の方法が挙げられる。(1)公知の方法により、主な構成成分がリン脂質であるリポソームの溶液(以下、「リ ポソーム液」という)を調製し、これをカチオン性多糖類の酸性液中に滴下し、ポリ カチオン修飾リポソームを得る(2)二酸化炭素の臨界点より高い温度および/または圧力下で、リン脂質、カチオン性 多糖類および二酸化炭素を含む混合流体中に、リポソーム中に封入すべき物質を含む 水相を加え、その後減圧し、二酸化炭素を除去してポリカチオン修飾リポソームを得 る。 第一の方法により、ポリカチオン修飾リポソームを得るには、まず、公知方法で封入すべき物質を含む水相を封入したリポソームを製造することが必要である。この方法としては、超音波処理法、界面活性剤除去法、有機溶媒注入法、凍結融解法、逆相蒸発法等が挙げられるが、例えば、バンガム(Bangham)法等によることが好ましい。 また、上記リポソームを形成するために用いる脂質としては、ジパルミトイルフォスファチジルコリン(DPPC)、ジラウロイルホスファチジルコリン(DLPC)、ジミリストイルホスファチジルコリン(DMPC)、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、ジオレオイルホスファチジルコリン(DOPC)等のホスファチジルコリンや、大豆レシチン(SBL)、卵黄レシチン(EYL)等のリン脂質あるいは非イオン性の両親媒性分子等が用いられる。 上記脂質には、更に必要により、適当な物質、例えばコレステロール、α−コレスタノール、β−コレスタノール、コレスタン、コレステロールエステル等の膜安定化物質として働くコレステロール類や、ジセチルホスフェイト等の荷電物質を加えることができる。 更に、上記脂質として、両性リン脂質とアニオン性リン脂質を混合して用いることにより、アニオン性リポソームとすることができ、カチオン性多糖類による修飾がより容易となる。すなわち、例えば、フスファチジルコリンのような脂質(両性リン脂質)と、例えば、ジパルミトイルフォスファチジルグリセリル(DPPG)等のフォスファチジルグリセリル、ジパルミトイルフォスファチジルエタノールアミン等のフォスファチジルエタノールアミン、ジパルミトイルフォスファチジン酸等のフォスファチジン酸のようなアニオン性リン脂質を適切な比率、例えば、それらのモル比で、4:6以上、好ましくは、9.5:0.5、特に好ましくは、9:1〜7.5:2.5で用いることにより、アニオン性リポソームを得ることができき、このアニオン性リン脂質自体の静置分散安定性および内包物の保持性も高いものである。そして、このもの自体アニオン性であるから、カチオン性多糖類の酸性水溶液を作用させた場合の反応性が高く、より好ましい性質のポリカチオン修飾リポソームが得られる。 一方、第一の方法において、リポソームの修飾に用いるカチオン性多糖類酸性溶液の例としては、キトサンを2ないし2000ppmの濃度、好ましくは5ないし200ppmの濃度で含み、そのpHが3以下、好ましくは、pH2ないし3の水溶液が挙げらる。このようなキトサン濃度およびpHであれば、キトサンは溶解し、しかも当該溶液中において、キトサンのアミノ基がアンモニウム化し、リポソームの被覆に適する陽イオン性高分子(ポリカチオン)が形成される。 上記したカチオン性多糖類酸性溶液によるリポソームの修飾は、カチオン性多糖類酸性溶液中に、撹拌下、前記のようにして調製したリポソームを滴下し、十分に混合した後、冷暗所に12時間程度静置し、更に固液分離したのち、精製水ないし緩衝液に再分散することにより行われる。このうち、冷暗所での静置ないし再分散の工程は、繰り返して行っても良い。このカチオン性多糖類の酸性溶液によるリポソームの修飾にあたっては、リポソームを形成する脂質と、キトサン等のカチオン性多糖類が、それらの重量比で、1:0.00005〜1:0.005、更には、1:0.0001〜1:0008、特に、1:0.0003〜1:0.0006とすることが好ましい(なお、両性リン脂質とアニオン性リン脂質とを混合したアニオン性リポソームの場合は、リポソームを形成する脂質とキトサン等のカチオン性多糖類との重量比が、1:0.00013〜1:0.0025、更には、1:0.00022〜1:00167、特に、1:0.00028〜1:0.00135とすることが好ましい)。 また、第二の方法は、二酸化炭素の超臨界条件を達成できる装置を用い、この装置のセル部分にリン脂質、カチオン性多糖類および二酸化炭素を含む混合物を入れ、これに、二酸化炭素の臨界点以上の圧力および温度をかけて超臨界流体とし、この中にリポソーム中に封入すべき物質を含む水相を加え、その後減圧し、二酸化炭素を除去することにより製造される。 この超臨界逆相蒸発法のために使用される装置の一例としては、その構成を図1に示すものが挙げられる。図中、1は体積可変型耐圧セル、2はピストン、3は撹拌子、4は二酸化炭素ボンベ、5はスクリューポンプ、6は真空ポンプ、7は圧力計、8は液体クロマトグラフィー用ポンプ、9は液だめ、10は電子秤である。 図1の装置では、まず、真空ポンプ6により空気を吸引した体積可変型耐圧セル1の空間内部に、リン脂質、カチオン性多糖類等のリポソーム構成成分を入れ、次いで二酸化炭素ボンベ4から、スクリューポンプ5を介して二酸化炭素を注入する。この際、体積可変型耐圧セル1の空間中には、撹拌子3が入れてあり、これにより、リポソーム構成成分と二酸化炭素は撹拌される。 更に、体積可変型耐圧セル1中のピストン2により、セル1の空間を圧縮することにより、内部の圧力が高まり、二酸化炭素の超臨界に到達する。具体的には、60℃程度の温度、300barの圧力で、超臨界状態となる。この状態では、二酸化炭素は気体から超臨界流体に変わり、リポソーム構成成分を溶解する。 このような状態の体積可変型耐圧セル1の空間内に、液だめ9から、液体クロマトグラフィー用ポンプ8を介して、リポソーム中に封入すべき物質を含む水相(以下、「封入液」という)を添加する。 そして、電子秤10により、所定量の封入液を封入したことを確認した後、圧力を下げ、体積可変型耐圧セル1の空間中から二酸化炭素を放出することにより、ポリカチオン修飾リポソーム液を得ることができる。 第二の方法によりポリカチオン修飾リポソームを得るに当たって使用される脂質としては、第一の方法において使用したものが挙げられ、両性リン脂質とアニオン性リン脂質を混合して用いることがより好ましいことも同様である。なお、第二の方法における両性リン脂質とアニオン性リン脂質の混合割合は、それらのモル比で、4:6以上、更には、9.5:0.5、特に、9:1〜7.5:2.5とすることが好ましい。 また、第二の方法において用いられるカチオン性多糖類は、酸性溶液でなく、固形の状態のものを使用することができる。この理由は、超臨界逆相蒸発法では、超臨界条件下で添加する封入液中に二酸化炭素が飽和溶解するため、そのpHは3.0付近の弱酸性となる。したがって、超臨界二酸化炭素と水が共存する状態では、キトサン等のカチオン性多糖類は水中に溶解すると考えられる。そして更に、二酸化炭素を排出することにより封入液(水)のpHは中性にとなるため、二酸化炭素の排出操作により、水中に溶解しているキトサン等のカチオン性多糖類がリポソーム表面上に析出するためであると考えられる。 第二の方法において、混合流体中に加えるキトサン等のカチオン性多糖類の量は、2から55ppm、さらには10から40ppmであることが好ましく、リポソームを形成する脂質とキトサン等のカチオン性多糖類の重量比としては、1:0.00005〜1:0.005、更には、1:0.0001〜1:0008、特に、1:0.0003〜1:0.0006とすることが好ましい(なお、両性リン脂質とアニオン性リン脂質とを混合したアニオン性リポソームの場合は、リポソームを形成する脂質とカチオン性多糖類との重量比が、1:0.001〜1:0.007、更には、1:0.00125〜1:0065、特に、1:0.0015〜1:0.006とすることが好ましい)。 かくして得られるポリカチオン修飾リポソームは、カチオン化のために使用されるカチオン性多糖類が様々な化学的・生物学的機能を有しながら安全性が高いものであるため、内部に遺伝子を封入し、これを目的の細胞まで運ぶ遺伝子運搬体として利用されるものである。特に、両性リン脂質とアニオン性リン脂質を混合したアニオン性リポソームを使用した場合には、リポソームの二分子膜表面は正に帯電し、負電荷を有するDNAの内包率の向上、および負電荷を有する細胞膜との融合が起こりやすくなることが期待される。 また、それのみに限らず、医薬品等の生理活性物質を目的の細胞まで運ぶためにも利用することができ、新しい医薬として利用可能なものである。 以下、実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら制約されるものではない。 実 施 例 1 ポリカチオン修飾リポソームの製造(1):(1)バンガム(Bangham)法に従い、下記方法でリポソームを調製した。リポソームの主要構成成分であるリン脂質としては、2本のアルキル鎖とも飽和結合のみからなり、それぞれの鎖長が16の飽和リン脂質である、L−α−ジパルミトイルフォスファチジルコリン(L-α-dipalmitoyl phosphatidylcholine;DPPC、純度99.6%、日本油脂(株)製)を用いた。 具体的には、溶媒であるクロロホルム 1ml中に、脂質として0.05mmolとなる量のDPPCを取り、クロロホルムを窒素気流により除去して形成する脂質薄膜に、5mlの注射用蒸留水(大塚製薬(株)製)を添加し、撹拌により外力を加え、リポソームを得た。(2)キトサン修飾リポソームの調製は、以下の手順で行なった。まず、塩酸(和光純薬(株)製)を用いてpH3.0に調整したキトサン水溶液(濃度:20ppm)中に、上記(1)により調製したリポソームを、種々の組成で滴下し、約500rpmで撹拌することにより混合した。これを冷暗所で12時間静置することで安定化した。上澄みを3000rpmの遠心分離により除去後、除去上澄み液と同量のリン酸緩衝化生理食塩水(ダルベッコリン酸緩衝化生理食塩末(和光純薬(株)製、組成;塩化ナトリウム、塩化カリウム、無水リン酸水素二ナトリウム、無水リン酸水素二カリウム)を注射用蒸留水に溶解することにより調製した等張溶液(pH7.4)/PBS)を添加し、ボルテックス・ミキサー(voltex mixer)により再分散させた。これを再度、冷暗所で12時間静置し、同様に上澄みを除去、PBSを添加、再分散させた。この過程を3回繰り返し、最後に注射用蒸留水で分散させることで、キトサン修飾リポソームを調製した。(3)図2に、リポソーム溶液とキトサン溶液の合計容量中のキトサン溶液の比(以下、「キトサン比」という)と、得られたキトサン修飾DPPCリポソームのζ電位の測定結果の関係を示す。この結果から、DPPCリポソーム単独でのζ電位が約−4mVであるのに対し、これをキトサンを修飾することにより大きく正に帯電することが分かった。調製したキトサン修飾DPPCリポソーム水溶液の目視観察からも、ζ電位が最大値であるキトサン比が0.2(リポソーム溶液とキトサン溶液の比としては8:2)において、静置分散安定性は最も良好であった。しかし、キトサン水溶液がよりリッチな領域では、リポソーム表面のζ電位は再び減少した。このことは、キトサンが過剰な条件下では、リポソーム表面へのキトサン修飾が起こらないことを示すと考えられる。 これより、キトサン修飾DPPCリポソームを得る場合のDPPCリポソーム水溶液とキトサン水溶液の混合比は、ζ電位が最大である比とすればよいことがわかる。 参 考 例 1 アニオン性リポソームの製造: DPPCに、2本のアルキル鎖とも鎖長16の飽和鎖であり、親水頭部に負電荷を有するアニオン性リン脂質、L−α−ジパルミトイルフォスファチジルグリセロール( L-α- dipalmitoyl phosphatidylglycerol(DPPG、純度99.8%、日本油脂(株)製)を種々のモル割合で混合して脂質とし、以下、実施例1(1)と同様にしてアニオン性リポソームを調製した。このアニオン性リポソームについて、脂質全体に占めるDPPGの比(以下、「アニオン脂質比」という)と、調製してから24時間放置後の外観の関係を調べた。この結果を図3に示す。 この結果から明らかなように、DPPC単独では静置分散安定性が低く、凝集・沈降による2相分離が視察された。これに対し、DPPCにDPPGを混合することにより、リポソーム水溶液の静置分散安定性が飛躍的に向上することが分かった。両性リン脂質であるDPPCとアニオン性であるDPPGが混合された結果、リポソームの二分子膜表面が負に帯電したためと考えられる。そして、負に帯電したリポソーム表面間で静電反発が起こり、リポソームの凝集が抑制されていることが示唆された。 このDPPGのモル分率が0.1〜0.6で調整した水溶液の静置分散安定性は極めて良好であり、調整後6ヶ月が経過しても、この分散状態を保持していた。これに対し、DPPGのモル分率が0.7以上になると、DPPC/DPPGリポソームの外観はほぼ無色透明となった。また、DPPGのモル分率が0.7〜1.0で調整した水溶液は、粘性を示した。これより、DPPGがリッチな領域ではリポソームを形成しないことが示唆された。 参 考 例 2 アニオン性リポソームの保持効率試験: 参考例1の結果に基づき、リポソームの形成を確認するため、DPPC/DPPG2成分系水溶液について保持効率測定を行なった。このDPPC/DPPG2成分系水溶液は、水溶液中にD(+)−グルコースを加え、DPPC/DPPG2成分系リポソーム中の含量から、アニオン脂質比と保持効率の関係を調べた。保持効率(%)は、リポソーム内水相のグルコースを系全体のグルコース量で割り、これに100を掛けた値で示した。この結果を図4に示す。 この図から明らかなように、DPPCにDPPGを添加することにより、保持効率は大きく変化した。特に、アニオン脂質比(DPPGのモル分率)が0.2でDPPGを添加したときに保持効率は最大となり、DPPC単独リポソームと比較して約8倍も高い保持効率を有していた。これまでと同様に、DPPC単独系では多重膜リポソームを形成するが、DPPGを添加することにより、一枚膜リポソームの形成が示唆された。電荷を有するリン脂質が混合されることで、リポソームの形成過程において二分子膜の層間で静電反発が生じるためであると考えられる。 また、アニオン脂質比が0.7以上では、保持効率はほぼ0であり、内部に水相を有する分子集合体を形成していないことが確認できた。外観がほぼ無色透明であり、溶液が粘性を有していることからも、紐状ミセルを形成していることが考えられる。DPPGのモル分率が増大するに伴い、DPPC多重膜リポソーム、DPPC/DPPG一枚膜リポソーム、DPPC/DPPG混合ミセル、DPPCを可溶化したDPPGミセル、DPPGミセルへと形態を変えていくことが示唆された。 実 施 例 2 ポリカチオン修飾リポソームの製造(2): DPPCとDPPGを8:2に混合したものを脂質として使用し、実施例1(1)と同様にしてアニオン性リポソーム液を調製した。次いで、このリポソーム液を実施例1(2)と同様、種々の比となるようにキトサン液中に滴下し、ポリカチオン修飾リポソームを得た。各ポリカチオン修飾リポソームキトサン比とζ電位の関係を図5に示す。 DPPC/DPPGリポソーム単独でのζ電位は約−25mVであったのに対し、キトサンを修飾することにより正に帯電することが分かった。DPPCリポソームへキトサン修飾を行ったものと比較して、DPPC/DPPGリポソームではより大きく正に帯電しており、DPPCにアニオン性リン脂質であるDPPGを混合することにより、ポリカチオンであるキトサン修飾がより効率良く行われることが分かった。これは、リポソーム二分子膜表面に負電荷を付与することで、キトサン修飾が起こりやすくなったためと考えられる。しかし、過剰量のキトサン水溶液が共存する領域では、キトサンをリポソーム表面へ効率良く修飾できず、リポソーム表面へのキトサン修飾は起こらないことが示唆された。 実 施 例 3 ポリカチオン修飾リポソームの製造(3):(1)超臨界逆相蒸発法を使用し、ポリカチオン修飾リポソームを製造した。この超臨界逆相蒸発法(以下、「scCO2RPE法」という)では、図1に示すような装置を用い、この装置のセル1に所定量のDPPC(二酸化炭素に対し、0.3wt%)およびエタノール 1ml、所定量の固形キトサン(キトサン1000(生化学工業(株)製))を封入し、CO2 11.87gを導入した。これを加温・加圧して60℃、91.7barとした。次に、セルの後部にCO2を導入し、リポソームの調製条件である60℃、200barとした。この状態で保持対象液(リポソーム中に保持せしめる液)4.8mlを液体クロマトグラフィー用ポンプによりゆっくりと圧入(0.10ml/min)して十分に撹拌を行った後、セル内のCO2を排出することにより、セルの内部に均一なポリカチオン修飾リポソーム水溶液を得ることができた。なお、セル内部の撹拌はマグネティックスターラ−により行なった。(2)得られたポリカチオン修飾リポソームについて、そのζ電位とキトサン添加量の関係について検討を行なった。この結果を図6に示す。 この結果に示すように、キトサンを添加しないDPPCリポソーム単独でのζ電位はバンガム(Bangham)法により調製したものと同程度で約−4mVであったが、キトサンを修飾することにより大きく正に帯電した。このことから、scCO2RPE法をポリカチオン修飾リポソームの調製に適用できることが分かった。しかし、リポソーム二分子膜表面のζ電位は添加したキトサンの量に依存せず、キトサン添加量が20ppmにおいて極大値を取ることが分かった。調製した溶液の目視観察からも、キトサン添加量が50ppm以上では、リポソーム溶液中に溶解していないキトサンを確認でき、二酸化炭素が飽和溶解したpH3.0の水に対するキトサンの溶解度は、約40ppmであることが分かった。 参 考 例 3 アニオン性リポソームの保持効率試験: scCO2RPE法により、DPPCとDPPGを種々の組成で混合したものを脂質とし、固形キトサンを使用せず、かつ保持対象液中にD(+)−グルコースを加える以外は、実施例3と同様にして、アニオン性リポソームを調製した。得られたアニオン性リポソームについて、アニオン脂質比と保持効率の関係を検討した結果を図7に示す。 この結果から、バンガム法の場合と同様に、DPPCにDPPGを添加することにより保持効率は大きく変化し、モル分率0.2のDPPGを添加したときに保持効率は最大となることが示された。このように、保持効率が最大となる組成は、調製法に依存せず、アニオン脂質比が0.2(DPPCとDPPGの比が、8:2)であり、DPPCとDPPGはこの組成において、理想的な混合二分子膜を形成するものと考えられる。また、保持効率の最大値は、いずれの調製法でも同程度の値であった。 実 施 例 4 ポリカチオン修飾リポソームの製造(4): scCO2RPE法により、DPPCとDPPGを8:2で混合したものを脂質とする以外は、実施例3と同様にしてポリカチオン修飾リポソームを製造した。得られたポリカチオン修飾リポソームについて得られた、固形キトサンの添加量とζ電位の測定結果の関係を図8に示す。 この結果から明らかなように、キトサンを添加しないDPPC/DPPGリポソームでのζ電位は、バンガム法と同じ約−25mVであった。DPPC/DPPGリポソームもDPPCリポソームと同様に、キトサンを添加して調製を行うことで、リポソーム二分子膜を修飾できることが分かった。バンガム法で検討した場合と同様に、DPPC/DPPG混合系はDPPCよりも大きく正に帯電していた。ζ電位が最大値を示したのは、キトサン濃度が30ppmであったことから、リポソーム二分子膜表面が負に帯電していることで、よりキトサンの修飾が起こりやすくなるものと考えられる。 本発明のポリカチオン修飾リポソームは、カチオン化のために使用されるキトサン等のカチオン性多糖類が様々な化学的・生物学的機能を有しながら安全性が高いものであるため、内部に遺伝子を封入し、これを目的の細胞まで運ぶ遺伝子運搬体として利用されるものである。 また、それのみに限らず、医薬品等の生理活性物質を目的の細胞まで運ぶためにも利用することができ、新しい医薬として利用可能なものである。超臨界逆相蒸発法で使用する装置の一例の構成を示す図面。リポソーム溶液−キトサン酸性溶液の混合比率と、得られたキトサン修飾DPPCリポソームのζ電位の測定結果の関係を示す図面。両性およびアニオン性脂質から得たアニオン性リポソームについて、製造後の外観を示す図面(写真)。両性およびアニオン性脂質から得たアニオン性リポソームについて、保持効率を調べた結果を示す図面。両性およびアニオン性脂質から得たポリカチオン修飾リポソームについて、ζ電位測定結果を示す図面。超臨界逆相蒸発法を使用し、ポリカチオン修飾リポソームについて、そのζ電位とキトサン添加量の関係を示した図面。超臨界逆相蒸発法を使用し、両性およびアニオン性脂質から得たアニオン性リポソームについて、保持効率を調べた結果を示す図面。超臨界逆相蒸発法を使用し、両性およびアニオン性脂質から得たポリカチオン修飾リポソームについて、固形キトサンの添加量とζ電位の測定結果の関係を示した図面。符号の説明 1 … … 体積可変型耐圧セル 2 … … ピストン 3 … … 撹拌子 4 … … 二酸化炭素ボンベ 5 … … スクリューポンプ 6 … … 真空ポンプ 7 … … 圧力計 8 … … 液体クロマトグラフィー用ポンプ 9 … … 液だめ 10 … … 電子秤 両性リン脂質とアニオン性リン脂質をそれらのモル比で、9.5:0.5ないし4:6で混合したものからなるリン脂質であるリポソームの表面を、カチオン性多糖類で修飾してなる細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソーム。 両性リン脂質が、フォスファチジルコリンであり、アニオン性リン脂質が、フォスファチジルグリセロール、フォスファチジルエタノールアミンまたはフォスファチジン酸である請求項1記載の細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソーム。 カチオン性多糖類がキトサンである請求項1または請求項2に記載の細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソーム。 両性リン脂質とアニオン性リン脂質をそれらのモル比で、9.5:0.5ないし4:6で混合したものからなるリン脂質であるリポソームの溶液を、カチオン性多糖類の酸性液中に滴下することを特徴とする細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソームの製造法。 カチオン性多糖類の酸性溶液が、pH3より酸性側のものである請求項4に記載の細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソームの製造法。 リポソームの溶液と、カチオン性多糖類の酸性溶液を、それらに含まれるリン脂質とカチオン性多糖類の重量比として、1:0.00005ないし1:0.005で使用する請求項4または請求項5に記載の細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソームの製造法。 両性リン脂質が、フォスファチジルコリンであり、アニオン性リン脂質が、フォスファチジルグリセロール、フォスファチジルエタノールアミンまたはフォスファチジン酸である請求項4ないし請求項6の何れかの項記載の細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソームの製造法。 カチオン性多糖類がキトサンである請求項4ないし請求項7の何れかの項記載の細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソームの製造法。 二酸化炭素の臨界点より高い温度および/または圧力下で、両性リン脂質とアニオン性リン脂質をそれらのモル比で、9.5:0.5ないし4:6で混合したものからなるリン脂質、カチオン性多糖類および二酸化炭素を含む混合流体中に、リポソーム中に封入すべき物質を含む水相を加えることを特徴とする細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソームの製造法。 両性リン脂質が、フォスファチジルコリンであり、アニオン性リン脂質が、フォスファチジルグリセロール、フォスファチジルエタノールアミンまたはフォスファチジン酸である請求項9記載の細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソームの製造法。 混合流体中のカチオン性多糖類濃度が、2〜55ppmである請求項9または請求項10に記載の細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソームの製造法。 カチオン性多糖類がキトサンである請求項19ないし請求項11の何れかの項記載の細胞毒性のないポリカチオン修飾リポソームの製造法。


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