生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_抗菌剤
出願番号:1998339862
年次:2010
IPC分類:A61K 31/7024,A61P 31/04


特許情報キャッシュ

渡辺 隆司 桑原 正章 片山 志歩子 都宮 孝彦 越島 哲夫 JP 4401458 特許公報(B2) 20091106 1998339862 19981130 抗菌剤 渡辺 隆司 592108469 日本化学機械製造株式会社 000230582 細田 芳徳 100095832 渡辺 隆司 桑原 正章 片山 志歩子 都宮 孝彦 越島 哲夫 20100120 A61K 31/7024 20060101AFI20091224BHJP A61P 31/04 20060101ALI20091224BHJP JPA61K31/7024A61P31/04 A61K 31/00-33/44 A61P 1/00-43/00 特開平10−081900(JP,A) 特開平03−168092(JP,A) 特開平01−299233(JP,A) 3 2000159675 20000613 10 20051122 小堀 麻子 【0001】【発明の属する技術分野】本発明は、食品産業、口腔衛生産業などにおいて有用な抗菌剤に関する。さらに詳しくは、脂肪酸糖エステルを有効成分とする抗菌剤に関する。【0002】【従来の技術】抗菌作用をもつ界面活性剤としては、カチオン系、アニオン系、非イオン系および両性の様々な界面活性剤が合成され、除菌、殺菌、抗菌剤として幅広く利用されている。食品分野で界面活性剤を使用するためには安全性が第一に要求される。このため、これまで天然物であるスクロースと飽和脂肪酸をエステル結合させたスクロースエステル(シュガーエステル)が工業化され、コーヒー乳飲料のフラットサワー変敗菌の殺菌などに利用されてきた(A. Nakayama and S. Sano, Bull. Japan Soc. Sci. Fish, 46,1117-1123 (1980)) 。【0003】前記スクロースエステルを始めとする脂肪酸糖エステルは、非イオン界面活性剤であり、優れた界面活性作用(乳化、可溶化、起泡など)を呈する。また、生分解性であり安全性も高いことから、食品や医薬品などの様々な分野で利用されている。最近では、特に糖エステルのもつ抗菌活性や抗腫瘍活性が注目されており、生理活性物質としての期待も高まっている。【0004】スクロースエステル(シュガーエステル)の抗菌性試験に関しては、これまでアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger)、ペニシリウム・シトリナム(Penicillium citrinum)、ミクロコッカス・リソデイクティカス(Micrococcus lysodeikticus) 、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus) 、エシェリチア・コリ(Escherichia coli)、シュードモナス・アエルギノサ(Pseudomonas aeruginosa)などの微生物を用いて炭素数6〜18の飽和脂肪酸をスクロースに結合させたショ糖エステルの抗菌性が試験されてきた。その結果、グラム陽性細菌に対してはスクロースジカプリレート、スクロースモノカプレート、スクロースモノラウレートなどが比較的強い抗菌作用をもつものと報告されてきた(シュガーエステル物語、第5章144〜149頁、第一工業製薬株式会社、1984年7月10日発行;加藤、芝崎、発酵工学雑誌、53、793 (1975))。しかしながら、これらのスクロースエステル類のグラム陽性細菌に対する抗菌活性は他の非イオン性界面活性剤に比べると著しく弱いものであり、特にグラム陽性レンサ球菌であるストレプトコッカス(Streptococcus) 属に対する抗菌活性はほとんど認められなかった。従って、抗う蝕作用をもつ食品添加物、レンサ球菌感染による種々の疾患に対する医薬品などへの脂肪酸糖エステル類の適用は困難であるとされていた。【0005】【発明が解決しようとする課題】本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、本発明は、ストレプトコッカス属などのグラム陽性細菌に対して強力な抗菌活性を有し、かつ、ヒトを含む動物に対して毒性の低い抗菌剤を提供することにある。【0006】【課題を解決するための手段】本発明者は、酵素を用いて、様々な糖または糖アルコールを鎖長の異なる脂肪酸とエステル結合させ、合成した各種の糖エステルのストレプトコッカス属細菌に対する抗菌活性を測定した。その結果、リパーゼまたはプロテアーゼを用いて位置特異的に酵素合成したガラクトースおよびフルクトースの脂肪酸エステルが従来のスクロースエステル類よりも著しく強い抗菌活性を有することを見出し、本発明を完成させるに至った。【0007】 即ち、本発明の要旨は、(1) ラウリン酸またはミリスチン酸とフルクトースまたはガラクトースとがエステル結合した脂肪酸糖エステルを有効成分として含有してなる、グラム陽性細菌に対する抗菌剤、(2) グラム陽性細菌がストレプトコッカス(Streptococcus) 属の細菌である、前記(1)記載の抗菌剤、ならびに(3) ストレプトコッカス属の細菌がストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)である、前記(2)記載の抗菌剤、に関する。【0008】【発明の実施の形態】本発明は、炭素数10〜16の飽和脂肪酸の少なくとも1種とフルクトースまたはガラクトースとがエステル結合した脂肪酸糖エステルを有効成分として含有する、グラム陽性細菌に対する抗菌剤を提供する。【0009】本発明において、炭素数10〜16の飽和脂肪酸とは、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸およびパルミチン酸などが挙げられ、生成した脂肪酸糖エステルのグラム陽性細菌に対する抗菌性という観点から、ラウリン酸およびミリスチン酸が好ましく、ラウリン酸が最も好ましい。【0010】本発明において、脂肪酸糖エステルとは、フルクトース脂肪酸エステルまたはガラクトース脂肪酸エステルであり、エステルはモノエステルでもジエステルでもよいが、モノエステルであることが好ましい。モノエステルの位置は、特に限定されないが、フルクトースにおいては1位または6位の炭素、ガラクトースにおいては4位または6位の炭素が好ましい。【0011】なお、本発明の抗菌剤の有効成分として用いる場合、前記脂肪酸糖エステルは、エステルの位置異性体のいずれか1つまたは位置異性体の混合物のいずれでも構わない。【0012】前記フルクトース脂肪酸エステルは、フルクトースカプレート、フルクトースラウレート、フルクトースミリステートおよびフルクトースパルミテートが好ましく、フルクトースラウレートおよびフルクトースミリステートがより好ましく、フルクトースラウレートが最も好ましい。【0013】前記ガラクトース脂肪酸エステルは、ガラクトースカプレート、ガラクトースラウレート、ガラクトースミリステートおよびガラクトースパルミテートが好ましく、ガラクトースラウレートおよびガラクトースミリステートがより好ましく、ガラクトースラウレートが最も好ましい。【0014】当該脂肪酸糖エステルは、前記飽和脂肪酸のいずれかとフルクトースまたはガラクトースを原料として、常法により化学的に合成したり、酵素を用いて合成することができる。【0015】本発明においては、有害な副産物を生ぜず、位置選択的に飽和脂肪酸をエステル結合できる酵素合成法を利用することが望ましい。使用する酵素としては、植物、動物、微生物起源の各種のリパーゼ、エステラーゼ、プロテアーゼ、ペプチダーゼなどが挙げられ、市販品が好適に利用される。酵素合成方法としては、微生物起源のアルカリ性リパーゼを用いる方法(特開昭61−268192号公報)やカンジダ(Candida)由来のリパーゼを用いる方法(C. Scheckermann et al., Enzyme Microbial Technol., 17, 157 (1995))などが挙げられる。また、生成したエステルは、前記文献に記載のように、シリカゲルクロマトグラフィー、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)などにより精製することができる。【0016】本発明においてグラム陽性細菌とは、前記脂肪酸糖エステルが抗菌活性を有する限りグラム陽性のいかなる細菌をも含むが、例えば、ストレプトコッカス(Streptococcus) 属、ミクロコッカス(Micrococcus) 属、デイノコッカス(Deinococcus) 属、プラノコッカス(Planococcus) 属、マリノコッカス (Marinococcus) 属、サッカロコッカス(Sacchrococcus) 属、スタフィロコッカス(Staphylococcus)属、アエロコッカス(Aerococcus)属、エンテロコッカス(Enterococcus)属、ゲメラ(Gemella) 属、ラクトコッカス(Lactococcus) 属、ロイコノストック(Leuconostoc) 属、ペディオコッカス(Pediococcus) 属、メイリソコッカス(Meilisococcus) 属、ストマトコッカス(Stomatococcus) 属などのグラム陽性球菌;バチルス(Bacillus)属、クロストリジウム(Clostridium) 属、ラクトバチルス(Lactobacillus) 属、アクテオバクテリウム(Acteobacterium)属、ユーバクテリウム(Eubacterium) 属、コリオバクテリウム(Coriobacterium)属、アグロミセス(Agromyces) 属、セルロモナス(Cellulomonas)属、アクチノミセス(Actinomyces) 属などのグラム陽性桿菌などの細菌が挙げられ、前記脂肪酸糖エステルが強い抗菌活性を示すという観点からストレプトコッカス属の細菌が好ましい。【0017】ストレプトコッカス属の細菌としては、ストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)、ストレプトコッカス・ソルビヌス(Streptococcus sorbinus) 、ストレプトコッカス・クリセタス(Streptococcus cricetus)、ストレプトコッカス・ラッタス(Streptococcus rattus)、ストレプトコッカス・フェルス(Streptococcus ferus )、ストレプトコッカス・ラクティス(Streptococcus lactis)、ストレプトコッカス・ピオゲネス(Streptococcus pyogenes) 、ストレプトコッカス・マカカエ(Streptococcus macacae)、ストレプトコッカス・クレモリス(Streptococcus cremoris)、ストレプトコッカス・ファエカリス(Streptococcus faecalis) 、ストレプトコッカス・アガラクティエ(Streptococcus agalactiae) などが挙げられ、前記脂肪酸糖エステルが特に強い抗菌活性を示し、かつ、う蝕の原因菌として注目されている細菌という点からストレプトコッカス・ミュータンスが好ましい。【0018】ここで、抗菌性とは、前記グラム陽性細菌の生育に適した培地および条件下で培養中の当該細菌の生育を有意に低下させることをいう。細菌の生育の程度は、培地の濁度を分光光度計で測定することにより、容易に調べることができる。【0019】本発明の抗菌剤は、前記したように脂肪酸糖エステルを有効成分として含有するものであり、その含有量としては、抗菌活性を発揮し得る限りいかなる量でもよく、例えば、50〜100重量%が好ましい。【0020】前記抗菌剤は、固体または液体のいずれでもよく、液体の場合は脂肪酸糖エステルを溶解させる溶媒を含んでもよい。かかる溶媒としては、水、生理食塩水、エタノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコールなどが挙げられる。さらに、抗菌剤は、用途に応じて、賦形剤、甘味料、香料、糖、タンパク質、脂質、ビタミンなどの栄養成分、薬理成分または他の界面活性剤をも含んでもよい。【0021】本発明の抗菌剤は、食品、医薬部外品、医薬品などに用いることができる。抗菌剤の配合量としては、抗菌作用を発揮するに充分な量を配合すればよい。ストレプトコッカス・ミュータンス等を対象とした場合、菓子、飲料などの食品に抗う蝕作用をもつ食品添加物として用いたり、う歯予防用の練り歯磨き、粉歯磨き、マウスウオッシュなどの医薬部外品に薬用成分として添加したり、さらにはう歯予防薬などの医薬品としても用いることができる。【0022】経口摂取された本発明の抗菌剤中の糖エステルは、消化管内で容易に加水分解を受けて糖と脂肪酸に変換され、他の界面活性剤のように溶血作用を生じないので、生体に対する毒性は非常に低い。したがって、本発明の抗菌剤は、安全性の高い抗菌剤である。【0023】【実施例】以下に実施例をもってさらに詳細に本発明を説明するが、本発明は実施例の範囲に限定されるものではない。【0024】実施例1種々の糖および糖アルコール1gと各種の脂肪酸ビニルエステル2gとを、アルカリゲネス(Alcaligenes)属由来のリパーゼ(リパーゼPLG、名糖産業製)100mgを使用して、ピリジン中、60℃で18時間反応させた。反応終了後、生成物をシリカゲル60(メルク社製、1.07734.2500)を充填剤として用いるシリカゲルクロマトグラフィーにより分離し、表1に示す各種の糖エステル0.2g〜1.3gを得た。【0025】前記反応において、リパーゼPLGの代わりにブロメラインF(天野製薬製)を使用すること以外は前記と同様にして、表1に示す各種の糖エステル0.2g〜0.9gを得た。【0026】合成した糖エステルをジメチルホルムアミド(DMF)に溶解し、糖エステルの濃度が0.1mg/mlとなるように添加したブレインハートインフュージョン培地(日水製薬製、35g/l)5ml中で、ストレプトコッカス・ミュータンス IFO 13955株を嫌気条件下、37℃で48時間培養し、菌の生育を620nmの濁度で測定した。対照として、DMFのみを添加したブレインハートインフュージョン培地を用いた。その結果を表1に示す。【0027】【表1】【0028】表1より、ガラクトースラウレートとフルクトースラウレートがストレプトコッカス・ミュータンスの生育を48時間阻止することが明らかとなった。これに対し、従来品であるスクロースラウレートは全く抗菌活性を示さなかった。抗菌活性をもつフルクトースラウレートとガラクトースラウレート合成品を、さらにμBONDPAK C18(ウォーターズ社製)を用いるHPLCで精製した後の13C−NMRを図1および2に示す。【0029】図1より、フルクトースラウレートは、6−ラウロイルフルクトフラノース、1−ラウロイルフルクトフラノース、1−ラウロイルフルクトピラノースなどに帰属されるシグナルが観察された。また、図2より、ガラクトースラウレートは、6−ラウロイルガラクトピラノース、4−ラウロイルガラクトピラノースなどに帰属されるシグナルが観察された。【0030】実施例2フラボバクテリウム属の細菌MT62株を、可溶性デンプンとコーンスティープリカーからなる液体培地中で、30℃で48時間振盪培養した。当該培地を遠心分離した後の上清を硫安沈殿し、目的のプロテアーゼ(50000U/g)を得た。【0031】シェッケルマン(C. Scheckermann)ら、Enzyme Microbial Technol., 17, 157 (1995) に記載の方法に準じて、フルクトース720mgと各種の脂肪酸2gを、前記フラボバクテリウム属の細菌MT62株由来のプロテアーゼ40mgを使用して、アセトン中、60℃で18時間反応させた。反応終了後、実施例1と同様に、生成物をシリカゲルクロマトグラフィーにより分離し、脂肪酸糖エステル650mgを得た。合成した脂肪酸糖エステル1mgを含むブレインハートインフュージョン培地(5ml)でストレプトコッカス・ミュータンスを嫌気条件下、37℃で48時間培養し、菌の生育を620nmの濁度で測定した。対照として、DMFのみを添加したブレインハートインフュージョン培地を用いた。その結果を表2に示す。【0032】【表2】【0033】表2より、脂肪酸糖エステルを0.2mg/mlの濃度で用いた場合、フルクトース脂肪酸エステルの中ではフルクトースラウレートが最も強くストレプトコッカス・ミュータンスの生育を阻止することがわかる。フルクトースミリステートも抗菌活性を示した。また、表2に記載された脂肪酸糖エステルの濃度を5mg/ml以上に上げると、これら4種の脂肪酸糖エステルはすべて、ストレプトコッカス・ミュータンスの生育を阻止した。【0034】実施例3実施例2で合成したフルクトースラウレート1mgとスクロース10mgまたは100mgとを含むブレインハートインフュージョン培地(5ml)で、ストレプトコッカス・ミュータンスを嫌気条件下、37℃で48時間培養し、菌の生育とpHの変化を測定した。その結果を表3に示す。【0035】【表3】【0036】表3より、スクロース存在下においてもフルクトースラウレートがストレプトコッカス・ミュータンスの生育を阻止することが明らかとなった。【0037】さらに、実施例1〜3から、酵素合成したフルクトースラウレートおよびガラクトースラウレートはストレプトコッカス属細菌に対して既知の抗菌性糖エステル類より顕著に強い抗菌活性を有することが明らかとなった。【0038】【発明の効果】本発明により、グラム陽性細菌、特にストレプトコッカス属細菌に対して強い抗菌活性を有する脂肪酸糖エステルを有効成分とする抗菌剤が提供される。かかる抗菌剤は毒性がなく、食品産業、口腔衛生産業などへの応用が可能である。また、有効成分の脂肪酸糖エステルは、抗菌作用に加えて、非イオン性界面活性剤と共通の作用、即ち、乳化作用、可溶化作用、油脂の結晶抑制作用、粘度調整作用、酵素安定化作用、防曇作用、滑沢作用などの機能を利用した各種工業分野への応用も可能である。【図面の簡単な説明】【図1】図1は、フルクトースラウレートの13C−NMRの図である。【図2】図2は、ガラクトースラウレートの13C−NMRの図である。 ラウリン酸またはミリスチン酸とフルクトースまたはガラクトースとがエステル結合した脂肪酸糖エステルを有効成分として含有してなる、グラム陽性細菌に対する抗菌剤。 グラム陽性細菌がストレプトコッカス(Streptococcus) 属の細菌である、請求項1記載の抗菌剤。 ストレプトコッカス属の細菌がストレプトコッカス・ミュータンス(Streptococcus mutans)である、請求項2記載の抗菌剤。


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