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タイトル:再公表特許(A1)_サリドマイド誘導体を有効成分とする抗癌剤
出願番号:2009069890
年次:2012
IPC分類:C07D 209/48,A61K 31/4035,A61P 35/00


特許情報キャッシュ

柳川 弘志 早川 いちご 始平堂 弘和 田畠 典子 服部 豊 山田 健人 大槻 剛巳 田原 佳代子 JP WO2010061862 20100603 JP2009069890 20091125 サリドマイド誘導体を有効成分とする抗癌剤 学校法人慶應義塾 899000079 川口 嘉之 100100549 佐貫 伸一 100126505 丹羽 武司 100131392 柳川 弘志 早川 いちご 始平堂 弘和 田畠 典子 服部 豊 山田 健人 大槻 剛巳 田原 佳代子 JP 2008300042 20081125 C07D 209/48 20060101AFI20120330BHJP A61K 31/4035 20060101ALI20120330BHJP A61P 35/00 20060101ALI20120330BHJP JPC07D209/48 ZA61K31/4035A61P35/00 AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PE,PG,PH,PL,PT,RO,RS,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20120426 2010540497 37 4C086 4C204 4C086AA01 4C086AA02 4C086BC11 4C086MA01 4C086MA04 4C086NA05 4C086NA14 4C086ZB26 4C204BB01 4C204CB04 4C204DB30 4C204EB03 4C204FB05 4C204FB09 4C204FB10 4C204GB32 本発明は、サリドマイド誘導体を有効成分として含有するヒト骨髄腫をはじめとする各種癌細胞の増殖を阻害する薬剤及びその阻害方法、更にはヒトの癌治療におけるこのような薬剤の使用に関する。多発性骨髄腫は、形質細胞が腫瘍性に増殖する造血器腫瘍である。いくつかの化学療法や、大量療法を組み合わせた自家造血幹細胞移植により多発性骨髄腫の患者の生存率は改善しているが、いまだに有効な治療を得られていない。現在、ほとんどの多発性骨髄腫の患者は治療に抵抗性となり、最終的に死に至る。そのため、新しい治療薬の開発が広く求められている。 サリドマイドは1957年ドイツのグリュネンタール社が安全な催眠剤として発売した。日本でも1958年大日本製薬からサリドマイド剤が発売されている。しかし、1961年W.レンツ博士により、サリドマイドを妊娠初期の妊婦が服用すると胎児に奇形が生じることが明らかにされた。サリドマイド剤の発売は日本では1962年に停止されたが、多くのサリドマイド児が生まれた。このように同薬は世界中で甚大な被害をもたらした。1994年、米国よりサリドマイドは抗血管新生作用を有することが発表された(D'Amato, R.J., 等 (1994) Proc. Natl. Acad. Sci. USA 91,4082-4085)。最近の研究において、骨髄中では微小血管の密度が上昇し、血管新生にかかわる増殖因子の血漿濃度が多発性骨髄腫の患者で有意に上昇していることが明らかになり(Vacca, A., 等(1999) Blood 93,3064-3073; Sato, N., 等 (2002) Jpn. J. Cancer Res., 93,459-466; Du, W., 等 (2004) Pathol. Int., 54,285-294)、同疾患においても血管新生が病態に重要な役割を果たすことが報告されるようになった。 そして1999年、サリドマイドが多発性骨髄腫に有効であるということが報告された(非特許文献1)。現在のところ、同薬は多岐にわたる機序によって抗骨髄腫効果がもたらされると推測されている。すなわち、(1)直接骨髄腫細胞死(アポトーシス)を誘導する、(2)骨髄腫細胞と間質細胞の相互利用を抑制する、(3)腫瘍血管新生を抑制する、(4)骨髄腫細胞の増殖因子の産生を抑制する、(5)抗骨髄腫免疫を活性化するなどの作用が考えられている。サリドマイド自体は生物学的活性が低いが、体内で活性化し、TNFα(tumor necrosis factor α:腫瘍壊死因子α)、interferon γ(インターフェロンγ)、IL-10(interleukin-10:インターロイキン-10)、cyclooxygenase(シクロオキシゲナーゼ〔COX-2〕)、nuclear factor-κB(NF-κB:核内転写因子κB)、related adhesion focal tyrosine kinase(RAFTK:関連性接着フォーカルチロシンキナーゼ)などに作用することによって、直接骨髄腫細胞の細胞周期G1停止やアポトーシスを誘導すると推測されている(非特許文献2; 非特許文献3; 非特許文献4)。一方、米国ではサリドマイド誘導体であるレナリドミドが開発されている。第III相試験において、サリドマイドを凌駕する治療成績が報告され、その一方で末梢神経障害が少ないという報告がされた(非特許文献5)。また、レナリドミドはin vitroにおいても骨髄腫細胞の増殖抑制やアポトーシス誘導を引き起こす(非特許文献3)。 上記のようにさまざまな機構によって抗骨髄腫作用を示すサリドマイドやレナリドミドであるが、催奇形性や好中球減少症、深部静脈血栓症などの副作用が問題となっている(非特許文献6; 非特許文献7; 非特許文献8)。また、第13番染色欠失やt(4;14)転座を起こしたハイリスク群と呼ばれる予後不良な多発性骨髄腫に対する治療効果が不十分であるといわれている(非特許文献9; 非特許文献10; 非特許文献11)。サリドマイド誘導体に関しては、これまでTC11がアミノペプチダーゼN酵素阻害剤や血管新生阻害剤(特許文献1)およびチューブリンの重合阻害剤(非特許文献12; 非特許文献13)として作用することが知られている。従って、サリドマイドの抗腫瘍効果を増強し、かつ催奇形性や副作用の少ない誘導体の開発が期待されている。 近年では造血器腫瘍のうち悪性リンパ腫や白血病の多くの症例が治癒に至るのに対し、多発性骨髄腫は、いまだに致死性の予後不良疾患である。近年、造血幹細胞移植法に加えて、サリドマイドやその誘導体さらにはボルテゾミブといった新規薬剤が登場し、難治・再発例にも良好な反応が得られている(非特許文献14)。しかし、いずれの症例も数年先にはこれら新規薬剤にも耐性となり、最終的には致命的となる。また、サリドマイドを使用する限り催奇形性の他、深部静脈血栓症・末梢神経障害・好中球減少症や呼吸器合併症といった重大なリスクは永遠に避けられない(非特許文献15; 非特許文献16)。かかる現状打破のために、骨髄腫に対して抗腫瘍効果が高く、催奇形性や耐性化のない薬剤が求められている。WO 98/007421Singhal, S., (1999) New Engl. J. Med., 341:1565-1571Franks, M.E.,等 (2002) Lancet, 363,1802-1811Hideshima, T., 等 (2000) Blood 96,2943-2950Mitsiades, N., 等 (2002) Blood, 99,4525-4530Richardson, P., (2005) Semin Hematol Oct;42 (4 Suppl 4), S9-15Glasmacher, A., 等 (2005) Br. J .Haematol., 132,584-593Zangari, M., 等 (2004) Br. J. Haematol., 126,715-721Weber, D.M., 等 (2007) New Engl. J. Med., 357,2133-2142Gertz, M.A., 等 (2005) Blood,106,2837-2840Chang, H., 等 (2005) Bone Marrow Transplant, 36,793-796van Rhee, F., 等 (2008) Blood, 112,1035-1038Inatsuki, S., 等 (2005) Bioorg.Med.Chem.Lett., 15,321-325Inatsuki, S., 等 (2008) Int.J.Mol.Med., 21,163-168Karimoto,T., 等 (2002) Jan.J.Cancer Res.. 93,1029-1036Hattori, Y., 等 (2005) Br. J. Haematol.,128,885-887Hattori, Y., 等 (2004) Int. J. Hematol., 79,283-288 本発明は、従来の治療薬に比べて優れた効果をもつ薬剤を提供することを目的とする。 本発明者らは、独自に設計・合成された多様なサリドマイド誘導体から、日本人の骨髄腫患者由来の各種骨髄腫細胞株に対して増殖抑制を示す薬剤をスクリーニングし、in vitroおよび骨髄腫坦癌マウスにおいて強い抗骨髄腫作用をもち、かつ従来の治療薬に比べて優れた効果をもつ薬剤を得ることに成功し、本発明を完成した。 本発明は、下記の化合物から選ばれるサリドマイド誘導体を有効成分とする抗癌剤を提供する。本発明の抗癌剤は、好ましくは骨髄腫用である。 化合物はTC11であることが好ましい。化合物TC11は、アポトーシス誘導剤、チューブリン断片化誘導剤、カスパーゼ依存的アポトーシスの誘導剤、又は、第17番染色体欠失を有するハイリスク骨髄腫の治療薬として用いることができる。 また、本発明は、上記サリドマイド誘導体を、抗癌治療を必要とする対象に投与することを含む癌の治療方法を提供する。 本願明細書において、「抗癌」及び「抗腫瘍」は同義の用語として用いる。 本発明により、日本人の骨髄腫患者由来の各種骨髄腫細胞株に対して強い増殖抑制を示す薬剤が提供される。これらの薬剤はin vitroおよび骨髄腫坦癌マウスにおいても強い抗骨髄腫作用をもち、かつ従来の治療薬に比べて優れた効果をもつことが確認された。既存の医薬品のサリドマイドには、光学異性体のS体にのみ催奇形成などの副作用が見られることがわかっている。本発明のサリドマイド誘導体は光学活性体でないので、催奇形成などの副作用がない可能性が高い。サリドマイド誘導体ライブラリーのデザインTC11によるKMS-34細胞のPARPの切断(電気泳動写真)TC11によるKMS-34細胞のDNAの断片化(電気泳動写真)骨髄腫瘍坦癌マウスを用いたサリドマイド誘導体TC11の抗腫瘍効果ビアコアによるセレクション回収PCR産物の電気泳動(電気泳動写真)ヌクレオフォスミンのドメイン構造リアルタイムPCRによるヌクレオフォスミンの濃縮量の推移KMS-L31-35 (ヌクレオフォスミン)のセンサーグラム大腸菌発現蛋白質(ヌクレオフォスミン)のセンサーグラムα-チューブリンのドメイン構造KMS-L31-36 (α-チューブリン)の競合実験の結果(電気泳動写真)TC11処理によるカスパーゼ依存的アポトーシスの誘導(電気泳動写真)TC11の造血障害作用の検証のためのコロニーアッセイTC11血中濃度測定の検量線マウスの腹腔内にTC11を低用量投与した場合と高用量投与した場合の血中濃度を比較した結果 本発明の抗癌剤の有効成分は、上記のTC10、TC11、TC14、TC15、TC16、TC19、TC24及びTC25の化合物から選ばれるサリドマイド誘導体である。これらのサリドマイド誘導体には、TC10、TC11、TC14、TC15、TC16、TC19、TC24及びTC25の薬理上許容される塩も包含される。 これらのサリドマイド誘導体は、下記の通り、それ自体は既知の化合物であるか、又は、後述する実施例に示されるように既知の化合物から本明細書に記載の方法により合成できるものである。TC10:EP 051563 ATC11:Inatsuki, S., 等(2005) Bioorganic. Med. Chem. Lett., 15, 321-325; Inatsuki, S., 等(2008) Int. J. Mol. Med., 21, 163-168; WO 98/07421TC14:後記実施例参照TC15:後記実施例参照TC16:後記実施例参照TC19:後記実施例参照TC24:後記実施例参照TC25:後記実施例参照 有効成分であるサリドマイド誘導体は、医薬的に許容可能な担体を用いて製剤(医薬組成物)にすることができる。医薬的に許容可能な担体としては、賦形剤または基剤などが挙げられる。また、製剤は、通常に用いられる添加剤を含んでいてもよい。剤形は、投与経路に応じて適宜選択される。例えば、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、シロップ剤などの製剤にして、経口投与してもよいし、注射剤、坐剤などの製剤にして、腹腔内や静脈内への注射により非経口投与することもできる。製剤には、有効成分のサリドマイド誘導体と、他の抗癌剤と別個に包装して一体としたものも包含される。本発明の抗癌剤は、抗癌剤治療を受けているまたは受ける予定の患者に投与することができる。これらのサリドマイド誘導体は、単独で使用してもよいし、あるいは他の薬剤(例えば、他の抗癌剤 )と組み合わせて使用してもよい。 サリドマイド誘導体の投与量は、対象とする抗癌剤治療、患者の状態などにより適宜選択される。例えば、上記サリドマイド誘導体をヒトに投与する場合には、1日あたり約0.1〜20 mg/kg(体重)、好ましくは1日あたり約0.1〜0.5 mg/kg(体重)の投与量で、1回または数回に分けて経口投与することができるが、その投与量や投与回数は、症状、年齢、投与方法などにより適宜変更しうる。 上記のサリドマイド誘導体は、特に、骨髄腫、悪性リンパ腫、白血病、骨髄異形成症候群などの造血器腫瘍や大腸癌、肺癌、腎細胞癌、乳癌、脳腫瘍、卵巣癌、メラノーマ、胃癌、前立腺癌などの固形癌などの癌の治療に利用することができる。 本発明で使用されるサイドマイド誘導体は、下記のようにして選択されたものであり、以下に説明するような利点を有すると考えられる。 多様な活性、特に抗癌活性が期待される薬剤ライブラリーの設計と合成を行った。設計には多様な生理活性を示す「スーパーテンプレート」として知られているサリドマイドの骨格をテンプレートとして採用した。既に承認されている、もしくは臨床試験が進んでいる薬剤あるいはその類縁体を優先して設計した。 合成は、多検体を迅速に合成できるコンビナトリアルケミストリー(コンビケム)技術を参考にして行った。コンビケム合成では、置換基が異なる各化合物が混合物として得られるスプリット合成法と各化合物を個別に並列合成するパラレル合成法があるが、スプリット合成法は、実際の反応工程が少なく低コストであるが、ライブラリー混合物中の各化合物の比率が不均一になる可能性が大きく、また純度の問題も懸念されるので、純度や量を確保するため、各化合物を個別に合成するパラレル合成法で実施した。 標的蛋白質のスクリーニングは薬剤をアフィニティ担体に固定して行う予定であるので、ライブラリー構築の際、薬剤毎にアフィニティ担体固定用リンカーを効率良く導入する点が合成上の課題の一つとなる。 この過程で、下記(1)及び(2)の問題に直面したが、合成ルートの多面的な検討およびHPLCを用いる精製の効率化により、これらを改善しながら合成を進めた。(1)リンカーの性質上、最終段階で薬剤とリンカーとを縮合させる必要があるため、各薬剤はカルボン酸あるいはアミノ基といった反応性の高い官能基を有していなければならない。よって既知合成ルートの単純な適用、および市販原料の利用が困難となる場合が多く、通常のライブラリー合成と比較して合成作業がさらに数段階増える。(2)高価なリンカーを使用するため、最終工程は精緻な精製作業が必要であり、この段階が律速になる。 サリドマイドは元来催眠薬として使用され、その催奇形生性のため悪名高い薬剤である。しかしながら近年、サリドマイドおよびその誘導体は癌、ハンセン病、エイズなど様々な疾患において良好な薬効を示すことが報告されている。それゆえにサリドマイド骨格は薬剤開発におけるスーパーテンプレートであると考えられている。サリドマイドは図1に示す構造をしており、大きく分類するとフタルイミド環とグルタルイミド環の二つのユニットに分けることができる。そこで、一方のユニットを固定して他方のユニットを変換する、という方針でサリドマイド誘導体ライブラリーを構築することとした(図1)。 現在まで、グルタルイミド環をベンゼン環等の芳香環に変換した例が多数報告されている。実際に種々の生物活性が細胞レベルで確認されていることから、グルタルイミド環の変換体の合成は芳香環を有する薬剤を中心に行った。またサリドマイドの生体内における活性体である可能性が示唆されている、グルタルイミド環が開環した薬剤についても設計した。合成計画をスキーム1に示す。 R-NH2は芳香族アミンおよび芳香族アルキルアミンを中心に選択した。これら置換基を有するサリドマイト誘導体は細胞レベルで血管新生阻害能、TNF-α調節能、微小管重合阻害能などの報告例が多く、抗癌剤になりやすいものではないかと考えられる。その他、Rが飽和環であるもの、及びサリドマイドそのものも設計した。さらに、多様な活性を示すサリドマイドの生体内における活性本体の一つであると考えられている、グルタルイミド環が開環したものをイメージして、R-NH2がアミノ酸であるものも設計した。 サリドマイド体ライブラリーの合成は以下のように行った。 (1)グルタルイミド環の変換(スキーム2) 各反応は以下に示す文献(Bioorg. Med. Chem., 2004, 12, 327-336.)(J. Med. Chem., 1999, 42, 3014-3017.)を参考にした。ただし一部の反応において、加熱は通常の油浴ではなくマイクロウェーブで行った。 4-ニトロコハク酸無水物に各種アミンを加えて加熱下で反応を行ったところ、ほとんどのアミンの場合には閉環反応も進行して一段階でフタルイミド体が得られた。閉環しなかったものは無水酢酸中で加熱することにより望む閉環体を得ることができた。続いて水素/パラジウム触媒あるいは塩化スズを用いてニトロ基をアミノ基に変換した。 最終工程ではアニリノキナゾリンのときと同様に、芳香族アミノ基の反応性が低いものであるため、ビオチンリンカーの活性化エステル体とは反応しなかった。芳香環が二つのカルボニル基で置換されているサリドマイド体の場合は、アニリノキナゾリン体の場合よりもさらに反応性が低く、全ての検体においてビオチンリンカーのカルボン酸体との縮合が全く進行しなかった。最終的にはオキシ塩化リンを用いてビオチンリンカーと縮合させたが31検体のうち19検体のみが最終物が得られた。 そこでカルボン酸型サリドマイド体をビオチンリンカーのアミン体と縮合させることにより、上記のアミン型サリドマイド体で最終物が得られなかったものを含む薬剤群を合成することとした。 カルボン酸型サリドマイド体は以下のように、市販の4-カルボキシフタル酸無水物とアミンを酢酸中加熱下で反応させて9検体を得た。続いてビオチンリンカーのアミン体と縮合させて最終物を7検体得ることができた(スキーム3)。 さらに、サリドマイドのベンゼン環をナフタレン環にしたものも同様に合成した。 合計すると、このタイプのアフィニティ担体固定用リンカー付きサリドマイド体は27検体得られた。 (2)フタルイミド環の修飾サリドマイドの多様な生理活性の一部は、薬物代謝酵素によるフタルイミド環の芳香環部分の酸化修飾によるものではないかと考えられている。また芳香環上の4つの水素原子がすべてフッ素原子に置き換わった化合物がTNF-α調節剤として有効であることも報告されており、さらにアミノ基で修飾された芳香環を有するサリドマイド誘導体であるLenalidomide(レナリドミド)は既に米国で認可され、CC-4047A(アクチミドあるいはポマリドミド)は臨床試験中である。 これらの報告例を参考とし、フタルイミド環の芳香環修飾誘導体を今回のライブラリーの一部として設計した。 以下の合成経路に従って最終物を得た(スキーム4)。 グルタルイミド環を市販の修飾フタル酸無水物と、酢酸中マイクロウェーブ照射下で反応させた。当初はα-クロロ酢酸エステルでイミド窒素原子を修飾したが、その場合には続く加水分解によるカルボン酸への変換の際に、複数の化合物への分解が進行した。そこでα-ブロモ酢酸ベンジルエステルでイミド窒素原子を修飾し、加水素分解によりカルボン酸体を合成することとした。なお、テトラフルオロフタルイミド体およびピリジルフタルイミド体はグルタルイミド環イミド窒素原子のアルキル化自体が進行しなかった。 加水素分解による脱ベンジル化によりカルボン酸体は問題なく進行した。この際、R = NO2のものはR = NH2への還元も同時に進行した。最後に縮合剤存在下でアミンタイプのビオチンリンカーと縮合させて、最終物を5検体得た。 最終的に、サリドマイド体全体では計 33検体の合成が完了し、それらの純度は90〜100%であった。 これまでの研究成果を踏まえて、サリドマイドをファーマコアとする骨髄腫治療薬が開発可能ではないかと考え、多様なサリドマイド誘導体を合成し、6種の日本人の骨髄腫患者由来の骨髄腫細胞株(KMS-34、KMM-1、KMS-27、KMS-11、RPMI-8226、MUM24)の増殖抑制を指標にスクリーニングを行い、8種類のサリドマイド誘導体(TC10、TC11、TC14、TC15、TC16、TC19、TC24、TC25)を絞り込んだ。 TC11は、いずれの骨髄腫細胞株に対しても強い増殖抑制(IC50値は3-7μM)とアポトーシス誘導を引き起こした。また、アポトーシス誘導はゲル電気泳動によるDNAおよびPARPの切断、アネキシンV染色によるフローサイトメーター検出によっても確認された。TC11以外の上記7種のサリドマイド誘導体(TC10、TC14、TC15、TC16、TC19、TC24、TC25)も強弱の差があるものの、骨髄腫細胞株に対して増殖抑制とアポトーシスを引き起こした。 TC11はKMS-34細胞株において、不可逆的にゴルジ体と微小管構造の破壊を引き起こした。一方、HeLa細胞においてもゴルジ体と微小管構造の破壊を引き起こしたが、その作用は可逆的であり、薬剤を洗浄・除去すると速やかに元に戻るので、骨髄腫に選択的な現象である可能性が高い。 一方、既存の骨髄腫治療薬(key drug)であるサリドマイドとデキソメタゾンは、KMS-11細胞株のみの増殖を抑制し、他の細胞株(KMS-34、KMM-1、KMS-27、RPMI-8226)の増殖は全く抑制せず、TC11との明確な作用特異性の違いが見られた。 KMS-34担癌SCIDマウスに5%カルボキシメチルセルロースに懸濁した20mg/kgのTC11を腹腔内注射した。2週間の投与において、コントロールに比べて有意な増殖抑制を認めたが、体重減少などの全身毒性や著明な臓器障害は認められなかった。 TC11投与マウスにおける形質細胞腫を病理組織学的に観察したところ、核の凝縮や断片化などアポトーシス像が目立った。免疫組織学的検索においても抗シングルDNA抗体陽性細胞の有意な増加を認め、in vivoにおけるアポトーシス誘導も確認された。 本発明により、我々によって独自に設計・合成された多様なサリドマイド誘導体から、日本人の骨髄腫患者由来の各種骨髄腫細胞株に対して強い増殖抑制を示す薬剤をスクリーニングできた。また、得られた薬剤がin vitroおよび骨髄腫坦癌マウスにおいても強い抗骨髄腫作用をもち、かつ従来の治療薬に比べて優れた効果をもつことを確認した。既存の医薬品のサリドマイドには、光学異性体のS体にのみ催奇形成などの副作用が見られることがわかっている。本発明のサリドマイド誘導体は光学活性体でないので、催奇形成などの副作用がない可能性が高い。この先、さらなる検証を重ねることで、これらサリドマイド誘導体の副作用のない抗骨髄腫治療薬への適用が期待できる。 TC11は、後記実施例に示される結果から、従来の抗癌剤とは異質の抗腫瘍作用、または、従来の抗癌剤より優れた抗腫瘍作用を有するものと考えられる。(1)薬剤TC11の標的タンパク質として、ヌクレオフォスミンとα-チューブリンが同定された。これにより、アポトーシスやチューブリンの断片化などの表現型と結びついていることが分かる。(2)TC11がアポトーシスを引き起こすことがPARPやDNAの切断により確認されたが、さらに、より上流のプロカスパーゼ2,3,8および9の切断が観察され、アポトーシスのシグナルがDeath receptorとミトコンドリアの両方のパスウエイから入ってくることがわかった。作用機構の相違により、TC11は、従来の抗癌剤とは異質の抗腫瘍効果を示すものと考えられる。(3)正常の骨髄細胞に対するTC11のコロニーアッセイの結果から、TC11は治療域濃度でも造血障害に対する安全性が比較的高いと判断される。(4)マウスの血中濃度測定結果から、TC11の低用量投与でも投与後2時間程度まではIC50値以上の有効な血中濃度が保持され、低用量投与の5倍量の高用量投与では、投与後4時間程度まではIC50値以上の有効な血中濃度が保持されていた。これらの結果から、TC11の血中動態はかなり良好であり、この結果は骨髄腫瘍細胞KMS34の坦癌マウスを用いたTC11の抗腫瘍効果でも有意な効果が認められたことからも支持される。(5)ハイリスク骨髄腫のうち10〜20%を占める第17番染色体欠失を有する症例は、初診時より髄外形質細胞種を形成するなどハイリスク骨髄腫としての臨床像を示し、従来の骨髄腫治療薬であるボルテゾミブやレナリドミドを用いても半年以内に再発を来たし、予後は極めて不良である、という臨床結果がある。後記実施例で用いたKMS34細胞のp53遺伝子は、17番染色体の両アレルで欠失とナンセンス変異が見られるため、全く機能していないことが判明した。しかし、TC11は従来の骨髄腫治療薬を用いても予後が改善しない17番染色体を欠失した骨髄腫細胞でも抗腫瘍効果を示した。 以上の知見から、化合物TC11は、アポトーシス誘導剤、チューブリン断片化誘導剤、カスパーゼ依存的アポトーシスの誘導剤、又は、第17番染色体欠失を有するハイリスク骨髄腫の治療薬として用いることができると考えられる。 以下、具体的に本発明の実施例を記述するが、下記の実施例は本発明についての具体的認識を得る一助とみなすべきものであり、本発明の範囲は下記の実施例により何ら限定されるものでない。[実施例1]1. サリドマイド誘導体の合成(TC11) TC11は下記のスキームに従って合成した。A : 1の合成 4-ニトロフタル酸無水物(193 mg, 1.00 mmol)と2,6-ジソプロピルアニリン(213 mg, 1.20 mmol)を酢酸(4 mL)に加えてマイクロウェーブ照射下、150oCで5分間加熱した。室温まで冷却後、反応液を水(20 mL)にあけた。析出した固体を濾別、乾燥により1を308 mg(0.874 mmol, 87%)得た。B : TC11の合成 THF-EtOH(10 mL, 1 : 1)に1(100 mg, 0.284 mmol)と5% Pd/C(20.0 mg)を窒素雰囲気下で加えた。反応容器内を水素置換して室温で5時間攪拌した後、反応液を濾過した。濾液を濃縮してTC11を91.6 mg(0.284 mmol, 100%)得た。 TC11以外のサリドマイド誘導体TC10、TC14、TC15、TC16、TC19、TC24、TC25は、4-ニトロフタル酸無水物とそれぞれシクロヘキシルアミン、p-ベンジルアニリン、o-フェニルアニリン、p-フェノキシアニリン、フェニルブチルアミン、ナフチルエチルアミン、フェニルメチルアミンをTC11と同じ方法に従って酢酸中で反応させた後、接触還元することによって合成した。 上記反応例でマイクロウェーブを用いる代わりに通常の過熱方法を用いてもよい。この場合には、マイクロウェーブ加熱の部分を「数時間加熱還流」とすればよい。2. サリドマイド誘導体の骨髄腫細胞増殖アッセイ サリドマイド誘導体の種々のヒト培養骨髄腫細胞に対する増殖阻害アッセイを行なった。用いたヒト培養骨髄腫細胞株は、KMM-1、KMS-11、KMS-27、KMS-34、RPMI-8226、MUM24の計6種である。KMM-1、KMS-11、KMS-27、KMS-34は、川崎医科大学の大槻剛巳らより樹立された。RPMI-8226は、細胞バンクから入手した(Moore, G.E., Kitamura, H., 1968 N.Y. State., J. Med. 2054-2060; IFO 50013; JCRB0034)。MUM24は、服部豊が骨髄腫瘍患者から独自に樹立した。 KMS-11とKMS-34は第4番染色体と第14番染色体が転座している。また両細胞株とも線維芽細胞増殖因子FGF3(Fibroblast growth factor 3)の発現が過剰である。この転座は臨床学的に予後不良因子とされている。 MUM24は、服部が独自に64歳IgG(k)型骨髄腫患者の骨髄血より樹立した細胞株である。RPMI1640+10%牛胎児血清培地で増殖し、その際サイトカインは必要としない。当細胞は、第13番染色体の一方を欠失している。第13番染色体欠失は、骨髄腫診療上、化学療法、自家造血幹細胞移植(Chang, H., 等 (2005) Bone Marrow transplantation 36,793-796)、サリドマイド療法(Hattori, Y., 等 (2008) Cancer Science, 99,1243)において独立した予後不良因子とされる。すなわち、第13番染色体欠失を有する症例は、既存の治療法では予後が極めて不良であり、ハイリスク群と称されるが、このような症例にも有効な新薬開発を目指す際に、当MUM24細胞は重要なツールとなりうる。例えば、骨髄腫治療薬スクリーニングの際に同細胞を用いることによって、第13番染色体欠失を有する症例にも有効な薬剤を選択的に選び出すことが可能になる。現在、一般に入手可能な骨髄腫細胞株のうち、第13番染色体欠失を有するものは極めて限られており、MUM24はハイリスク骨髄腫の病態解明や有効な治療薬開発に極めて有用である。 種々の濃度 (最終濃度で50、10、2、0.5、0.1、0.02、0 μM) のサリドマイド誘導体 (0.5% DMSO溶液) を、96穴プレートにそれぞれ添加した。このプレートに、37℃、5% CO2条件下において、10% (v/v) FBS (Gibco)、1% (v/v) ペニシリン/ストレプトマイシン (Gibco) を含有するRPMI1640培地 (Invitrogen) 中で培養した6種の骨髄腫細胞を、1ウェルにつき1−2.5×104細胞の密度で播いた。この細胞を72時間培養した後、Cell Proliferation Reagent WST-1 (Roche) を添加し、さらに1時間培養した。培養後、細胞の吸光度 (吸収波長:490 nm、リファレンス波長:600 nm) をプレートリーダーにより測定し、生細胞数を求めた。この吸光度について、薬剤非添加 (0.5% DMSO添加) を100%、細胞を播いていない場合を0%とし、細胞生存率を算出した。 まず最初に、合成したサリドマイド誘導体33種類全部のKMS-34株の増殖抑制活性を調べた。その結果、8種類のサリドマイド誘導体(TC10、TC11、TC14、TC15、TC16、TC19、TC24、TC25)に増殖抑制活性が見られた。以後、他の骨髄腫瘍細胞株の増殖抑制はこれら8種類のサリドマイド誘導体に絞って調べた。それらの誘導体のIC50値が表1にまとめられている。8種類のサリドマイド誘導体(TC10、TC11、TC14、TC15、TC16、TC19、TC24、TC25)は、6種類のヒト培養骨髄腫細胞株(KMM-1、KMS-11、KMS-27、KMS-34、RPMI-8226、MUM24)に対して細胞増殖抑制活性を示した。中でも、TC11はいずれの骨髄腫細胞株に対しても強い増殖抑制活性(IC50値は3-7μM)を示した。しかし、既存の骨髄腫治療薬(key drug)であるサリドマイドとデキソメタゾンは、KMS-11細胞株のみの増殖を抑制し、他の細胞株(KMS-34、KMM-1、KMS-27、RPMI-8226、KMU24)の増殖は全く抑制せず、TC11との明確な作用特異性の違いが見られた。 増殖抑制活性が見られたサリドマイド誘導体の化学構造を以下に示す。3. PARPの切断とゴルジ体および微小管の破壊 サリドマイド誘導体の種々のヒト培養骨髄腫細胞に対するアポトーシスを検出するため、PARPの切断を観察した。 5種の濃度 (最終濃度で50、20、10、5 、0 μM) のサリドマイド誘導体並びにサリドマイド及びスタウロスポリンのそれぞれ (0.5% DMSO) を、12穴プレートにそれぞれ添加した。このプレートに、37℃、5% CO2条件下において、10% (v/v) FBS (Gibco)、1% (v/v) ペニシリン/ストレプトマイシン (Gibco) を含有するRPMI1640培地 (Invitrogen) 中で培養した骨髄腫細胞を、1ウェルにつき2.5×105細胞の密度で播いた。6時間培養した後、1,000 rpmで5分遠心、上清を除去し、D-PBSに懸濁した。再度同じ条件で細胞を回収し、1×サンプルバッファー (62.5 mM トリス塩酸バッファー (pH 6.8)、5% (v/v) 2-メルカプトエタノール、2% (w/v) SDS、5% (w/v) スクロース、0.005% (w/v) BPB) にこの細胞を懸濁した。 得られた細胞懸濁液について、超音波破砕を行った後、96℃で10分間加熱し、ウェスタンブロッティングを行った。PARPの検出には、SDS-PAGEに12%ポリアクリルアミドゲルを、1次抗体に抗PARP抗体 (Cell Signaling)を、2次抗体にHRP標識された抗体を用いた。 また、細胞レベルでPARPの切断、ゴルジ体および微小管の破壊の観察は、以下のように行った。Poly-L-Lysine(Sigma)をコートしたカバーガラス(Matsunami)、もしくは99%エタノールで殺菌したカバーグラスに細胞をのせ、24時間後にDulbecco's Phosphate Buffered Saline(PBS, Bibco)でリンスし、4%パラホルムアルデヒドで30分間固定した。PBSでリンスし、0.2%Triton Xを含むPBSで5分間膜透過処理を行い。PBSでリンスした。Blocking Buffer[1% BSA(Nacalai)、0.05% Sodium Azide(Nacalai)を含むPBS]を用いて30分間室温でブロッキングを行った。PBSで細胞をリンスし、任意の濃度の1次抗体である抗切断PARP抗体、抗GM130抗体、抗チューブリン抗体 (Cell Signaling)をBlocking Bufferで希釈し、細胞に加えた。1時間後PBSで細胞をリンスし、1/600 vol二次抗体を含むBlocking Bufferを細胞に加えた。45分後に細胞をリンスし、SlowFAde Gold antifade reagent with DAPI(Invitrogen)もしくはVECTASHIELD Mounting Media For Fluorescence(Vector Laboratories)を加えたスライドガラス(Matsunami)にカバーガラスをのせ、Axiovert 200M(Zeiss) を用いて画像を取得した。 図2に示すように、TC11はKMS-34細胞のPARPの切断を引き起こしたが、HeLa細胞のPARPの切断は引き起こさなかった。アポトーシスを強く引き起こすことが知られているスタウロスポリンはKMS-34とHeLaの両細胞のPARP の切断を引き起こした。しかし、サリドマイドはどちらの細胞のPARPの切断を引き起こさなかった。このことから、TC11はKMS-34細胞に強くアポトーシスを引き起こすことがわかった。 また、TC11はKMS-34細胞株において、不可逆的にゴルジ体の構造破壊を引き起こした。また同時に微小管構造の破壊をも引き起こした。一方、TC11はHeLa細胞に対してもゴルジ体と微小管構造の破壊を引き起こしたが、その作用はTC11を洗浄除去すれば直ちに正常に戻る可逆的なものであり、それ故、骨髄腫細胞に選択的な現象である可能性が高い。4. DNAの断片化 サリドマイド誘導体の種々のヒト培養骨髄腫細胞に対するアポトーシスを検出するため、DNAの断片化を観察した。 種々の濃度 (最終濃度で50、10、2、0.5、0.1、0.02、0 μM ) のサリドマイド誘導体及びスタウロスポリンのそれぞれ (0.5% DMSO) を、6 cmディッシュにそれぞれ添加した。このプレートに、37℃、5% CO2条件下において、10% (v/v) FBS (Gibco)、1% (v/v) ペニシリン/ストレプトマイシン (Gibco) を含有するRPMI1640培地 (Invitrogen) 中で培養した骨髄腫細胞を、1ウェルにつき1×106細胞の密度で播いた。この細胞を6時間培養した後、1,000 rpmで5分遠心し、沈殿物をリシスバッファー (0.2% Triton X-100、10 mM トリス塩酸バッファー (pH 7.4)、10 mM EDTA) に懸濁した。これを15分間氷上で静置することで、細胞を溶解し、10,000×gで20分の遠心により回収した。回収した上清にRNaseAを添加し、37℃で1時間反応させて、RNAを分解した。この細胞懸濁液から、MaXtract low density gel (Qiagen) を用いて、DNAを回収した。実験操作は、キット付属のプロトコールに従い、溶出はTEバッファーで行なった。 得られた溶出液について、2% アガロースゲル (EtBr含有) を用いた電気泳動を行ない、蛍光イメージャーによりバンドを検出した。 図3のアガロースゲル電気泳動のパターンからわかるように、TC11はKMS-34細胞のDNA切断を引き起こした。また、ポジティブコントロールのスタウロスポリンもKMS-34細胞のDNA切断を引き起こした。5. 骨髄腫瘍坦癌マウスを用いたサリドマイド誘導体TC11の抗腫瘍効果 KMS-34細胞1.2×107個を5週齢のオスのlcr/scidマウス(CLEA Japan, Inc. Tokyo)の背部に皮下注射し、約6〜7週間たって腫瘍の大きさが50mm3を初めて超えた時点をday=1として、3匹に5%カルボキシメチルセルロース(コントロール)、3匹にTC11(20μg/g mouse)を3日に2日腹腔内注射した。腫瘍の大きさはノギスを用いて経時的に測定し、腫瘍体径は長径×短径2×0.52にて算出した(Tomioka, D., 等 (2001) Cancer Res., 61,7518-7524)。day7、day10、day14にt検定によって評価し、P<0.05で有意差ありとした。なお当研究は、慶應義塾大学動物実験委員会の承認を得て行なわれた(承認番号09118-(0)号)。 in vivoでのTC11の抗骨髄腫作用を検討するために、lcr/scidマウスに1.2×107個のKMS-34細胞を皮下注射し、腫瘍サイズが50mm3を初めて超えた時点でTC11(20μg/g mouse)の腹腔内投与を開始した。経時的な腫瘍サイズの変化を図4に示す。また、day7、day10、day14にt検定を行った。day7ではP=0.0002、day14ではP=0.043となり、TC11処理群ではコントロールに比べて有意な増殖抑制を認めたが、体重減少などの全身毒性や著明な臓器障害は認められなかった。6. TC11を投与した骨髄腫瘍坦癌マウスの病理組織学的検査 in vivoでのTC11のアポトーシス誘導を検討するために、lcr/scidマウスに1.2×107個のKMS-34細胞を皮下注射し、腫瘍サイズが50mm3を初めて超えた時点でTC11(20μg/g mouse)の腹腔内投与を開始し、14日目にマウスをエーテル麻酔により致死させ、取り出した腫瘍において病理組織学的検査を行った。TC11処理群とコントロール群の比較を行った。具体的には、腫瘍の大きさが50mm3に達したら、3匹に5%カルボキシメチルセルロース(コントロール)、3匹にTC11(20μg/g mouse)を3日に2日腹腔内注射した。TC11あるいはコントロールの注射開始14日後(day14)にマウスをエーテル麻酔により致死させ、腫瘍を皮膚切開により分離し、10%ホルマリンで固定し、パラフィン包埋標本を作製した。ヘマトキシリン・エオシン染色によりアポトーシスの検討を行った。免疫組織化学では、アポトーシス検出には1/200希釈した抗single-stranded DNA(ssDNA)ウサギポリクローナル抗体(DakoCytomation, Carpinteria, CA)、細胞増殖の評価には1/100希釈した抗MIB-1マウスモノクローナル抗体(DakoCytomation, Carpinteria, CA)を用い、ペルオキシダーゼ標識2次抗体を添加し、DAB発色を行った。 ヘマトキシリン・エオシン染色によると、TC11処理群では核の凝縮や断片化などアポトーシス像がコントロール群よりも顕著に多かった。また、抗ssDNA(single strand DNA;一本鎖DNA)抗体を用いた免疫組織化学によると、TC11群ではDNAの切断を引き起こし一本鎖DNAになったアポトーシス細胞がコントロール群よりも顕著に多かった。よってTC11はin vitroばかりでなく、in vivo骨髄腫細胞のアポトーシスも強く誘導するということがわかった。[実施例2]薬剤TC11と結合する標的タンパク質の同定 薬剤TC11と結合する標的タンパク質を同定する目的で、以下の実験を行った。その結果、ヌクレオフォスミンとα-チューブリンがTC11と結合することが明らかになった。 なお、本実施例で用いたプライマーは下記の通りである。 [方法と結果]1.DNAライブラリーの作成 (1−1)PCRによるライブラリーの増幅 DNA溶液KMS34 cDNA Lib 0.7μl、10×KOD plus緩衝液(TOYOBO) 10μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 10μl、25mM MgSO4 4μl、forwardプライマー:GSP6omega F (10 pmol/μl) 3μl、reverseプライマー:3RV30 (10 pmol/μl) 3μl、KOD plus ポリメラーゼ(TOYOBO) 2μlとRNase-Free水を添加し、全体量を100μlとして1チューブに入れ、合計12チューブをPCR反応させた。PCRは94℃、5分間反応後94℃、30秒間、58℃30秒間、68℃2分間を24サイクル行った後68℃5分間反応を行った。cDNAライブラリーはWizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)で精製し60μlのDNA溶液として回収した後、1%低融点アガロースゲル(Sigma)電気泳動し分子量マーカーを目安に200-400bp、400-750bp、750-1400bp、1400-3000bpそれぞれのバンドを切り出した。ゲルは70℃20分間加熱し融解後、Wizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)で精製し40μlのDNA溶液として回収しcDNAライブラリーKMS-XS (200-400bp)、KMS-S(400-750bp)、KMS-L(750-1400bp)、KMS-XL(1400-3000bp)とした。2.IVVライブラリーの調製 (2−1)ライブラリーの転写 cDNAライブラリーKMS-Lを2pmol、5×SP6緩衝液 8μl、ATP (100mM) 2μl、CTP (100mM) 2μl、UTP (100mM) 2μl、GTP (10mM) 4μl、キャップアナログ(m7G(5')PPP(5')G) (Invitrogen) (40mM) 5μl、エンザイムミックスSP6RNA ポリメラーゼ(Promega) 4μl、RNase-Free水を添加し全体量を 40μlとして、37℃、3時間反応後、RQ1 RNase-Free DNase(Promega) 10μlを添加し、さらに37℃、1時間反応させた。RNAはRNeasy Mini kit (Qiagen)により精製した。すなわち転写反応液に、RNase-Free水を添加し全体量を 100μlとし、RLT緩衝液(Qiagen) 350μl、2-メルカプトエタノール 5μl、(100%) エタノール 250μlを加えRNeasy ミニスピンカラムに供し、25℃、12000 rpm、15秒間遠心後排出された溶液を除去し、RPE緩衝液(Qiagen)500μlを同カラムに加え、25℃、12000 rpm、25秒間遠心後、排出された溶液を除去し、さらにRPE緩衝液(Qiagen)500μlを同カラムに加え、25℃、12000 rpm、2分間遠心後、排出された溶液を除去し、同カラムを新しいチューブに差し替え、25℃、12000 rpm、1分間遠心し、再び同カラムを新しいチューブに差し替え同カラムに、RNase-Free水を32.5μl添加し、10分間室温で放置後25℃、13200 rpm、1分間遠心しRNA溶液として回収した。 (2−2)PEGスペーサーとのライゲーション 得られたRNA溶液 31.5μl、T4 ligation 10×緩衝液 5μl、0.1 M DTT 1μl、40 mM ATP 0.5μl、100% DMSO 5μl、0.1% BSA 1μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 1μl、ピューロマイシン付きポリエチレングリコールスペーサー分子 (特開2002-176987) (10 nmol) 1μl、ポリエチレングリコール(PEG) 2000 (日本油脂)(30 nmol) 1μl、T4 RNA リガーゼ (Takara)(250 U/μl) 5μl、15℃、15時間遮光条件下反応させた。得られたスペーサー分子が結合したPEG-RNAはRNeasy Mini kit (Qiagen)により精製した。 (2−3)IVVライブラリーの調製PEG-RNA 25 pmol、小麦胚芽抽出液(ZoeGene)50μl、クレアチンキナーゼ (40μg/μl)(ZoeGene) 5μl、RNase inhibitor(ZoeGene) 4μl、5×翻訳緩衝液(ZoeGene) 50μl、RNase-Free水を添加し全体量を250μlとし、遮光条件下26℃、1時間反応させ翻訳を行いIVVライブラリーを調製した。3.標的薬剤と結合する蛋白質の選択 (3−1)標的薬剤のセンサーチップへの固定化 ビアコアはビアコア3000システムを用い、センサーチップSAに薬剤の固定化を行った。フローは緩衝液HBS-EP(10 mM HEPES-NaOH, pH 7.4, 150 mM NaCl, 3 mM EDTA, 0.005% Tween-20) で10μl/minで行った。フローセル1〜4に対し50mM NaOH, 1M NaClを含む溶液20μlのインジェクトを5回繰り返し行い固定化の前処理を行った。TC11-biotinは1μM(H2O, 0.05% DMSO)に調整し、フローセル1〜4にTC11-biotinを固定化した。各100μlをマニュアルインジェクションしたところ、TC11-biotinはフローセル1に203.2 RU, フローセル2に205.0 RU, フローセル3に206.2 RU, フローセル4に 206.8 RU結合した。非結合の薬剤を洗浄する目的で緩衝液HBS-EPで30μl/min, 同緩衝液30μl, Glycin HCl pH 2.0 15μlの順にインジェクトする操作を2回行った。 (3−2)ビアコア法-選択実験 ANTI-FLAG M2 affinity gel 50μl(50%スラリー)をTBST (20 mM Tris-HCl buffer, pH 7.5, 138 mM NaCl, 0.1% Tween-20) 500μlで3回洗浄したものに、IVVライブラリー溶液250μl、TBST 250μlを混和させ4℃で1時間ミニディスクローター(Bio craft)で回転攪拌した。ゲルをTBST 500μlで3回洗浄し、FLAGペプチド(Asp-Tyr-Lys-Asp-Asp-Asp-Asp-Lys) (配列番号9)100μg/ml 100μlで溶出した。TBST, 10mM EDTAで膨潤ならびに平衡化させたSephadex G200 (Amersham Biosciences)ゲル1 mlをカラム(バイオラッド)に充填したものにFLAG ペプチドで溶出したIVVライブラリー溶液100μlを供し、2滴ずつ96穴プレートに集め1wellから12wellまでを回収した。Multi-detection Microplate Reader POWERSCAN HTで励起波長485nm、蛍光波長528nmで蛍光を検出し、4wellから7wellあたりに溶出したIVV画分を集めた。IVV画分約200μlにHBS-EP約100μlで希釈しビアコアにインジェクトした。ビアコアでのセレクションは緩衝液HBS-EPを用い、流速20μl/minで行い結合750秒、解離1000秒の後、ビアコアの回収メソッドを使い洗浄部分は緩衝液HBS-EP 600秒、溶出部分はTC11 200μM(H2O, 1% DMSO)600秒で行いそれぞれ7μlを回収した。選択実験の1ラウンドは(KMS-L→KMS-L1)洗浄を1回、2ラウンドは(KMS-L1→KMS-L2)洗浄を2回、3ラウンドは(KMS-L2→KMS-L3)洗浄を3回、4ラウンドは(KMS-L3→KMS-L4)洗浄を4回としラウンドごとに選択圧を上げた(図5)。(3−3)RT-PCRによるcDNAライブラリーの回収 標的薬剤と結合する蛋白質の選択実験で回収した溶出液7μlと、5×RT緩衝液(TOYOBO) 20μl、(10 mM) dNTPs(TOYOBO) 10μl、reverseプライマー:3RV30 (10pmol/μl) 5μl、RNase-Free水を添加し全体量を90μlとし混和させ65℃9分間反応後直ちに氷上に冷却し2分間放置した後、ReverTra Ace(TOYOBO) 5μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 5μlを加え、50℃30分間、99℃、5分間逆転写反応させた。逆転写反応させた反応溶液2.5μl、10×KOD plus緩衝液(TOYOBO) 2.5μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 2.5μl、25mM MgSO4 1μl、forwardプライマー:GSP6omega F (10 pmol/μl) 0.75μl、reverseプライマー:3RV30 (10 pmol/μl) 0.75μl、KOD plus ポリメラーゼ(TOYOBO) 0.5μl、とRNase-Free水を添加し全体量を25μlとしてPCR反応させた。PCRは94℃、5分間反応後94℃、30秒間、58℃30秒間、68℃2分間を28、32あるいは36サイクル行った後68℃5分間反応を行った。PCR産物5μlを2%アガロースゲル電気泳動し、エチジウムブロマイドの吸収をMOLECULAR IMAGER FX (Bio-rad)で測定しPCRのサイクルを決定した(図6)。残りの逆転写反応させた反応溶液10μl、10×KOD plus緩衝液(TOYOBO) 10μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 10μl、25mM MgSO4 4μl、forwardプライマー:GSP6omega F (10 pmol/μl) 3μl、reverseプライマー:3RV30 (10 pmol/μl) 3μl、KOD plus ポリメラーゼ(TOYOBO) 2μl、とRNase-Free水を添加し全体量を100μlとして1チューブに入れ、合計10チューブをPCR反応させた。PCRは94℃、5分間反応後94℃、30秒間、58℃30秒間、68℃2分間を28から36サイクル行った後68℃5分間反応を行った。 cDNAライブラリーはWizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)で精製し60μlのDNA溶液として回収した後1%低融点アガロースゲル(Sigma)電気泳動し分子量マーカーを目安にKMS-L(750-1400bp)のバンドを切り出した。ゲルは70℃10分間加熱し融解後Wizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)で精製し42μlのDNA溶液として回収しDNAライブラリーKMS-L1〜KMS-L4 (750-1400bp)とした。4.クローニングと塩基配列の決定 (4−1)クローニングと塩基配列 ライブラリーからクローンを得るためにTOPO クローニングキット(Invitorogen)を用いた。選択実験で得られたDNA 0.16 pmol、taqポリメラーゼ 10×緩衝液(TOYOBO) 5μl、dATP (10 mM) 1μl、25mM MgCl2 3μl、 taqポリメラーゼ (Taq Pol) (TOYOBO)0.5μlにRNase-Free水を添加し全体量を50μlとし72℃、15分間反応させた。生成物はWizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)で精製し20μlのDNA溶液として回収した後、DNA 4μl、Topo vector (Invitorogen) 1μl、Salt solution(Invitorogen) 1μl、を混和させ室温で20分間放置した。大腸菌にトランスフォームするために氷上で溶解したコンピテントセルに上記に混和溶液5.5μlを入れ氷上で25分間放置後、43℃、32秒間ヒートショックを行った。セルにSOC(Invitorogen) を250μl入れ、37℃、1時間 振とう培養器で培養させ2枚の寒天プレート(500 ml中にトリプトン 5 g、酵母エキス 2.5 g、NaCl 5 g、寒天7.5 g 、カルベニシリン 25 mg)(シャーレ9cm)にまいて37℃で一晩培養した。 培養した寒天プレートに生じたコロニーの一部を爪楊枝でつついたものを10×PCR緩衝液(TOYOBO) 2.5μl、(2 mM) dNTPs(TOYOBO) 2.5μl、M13FII (10pmol/μl) 0.5μl、M13RII (10pmol/μl) 0.5μl、KOD DASH ポリメラーゼ(TOYOBO) 0.25μlにRNase-Free水を添加し全体量を 25μlとしてそれぞれPCR反応させた。 PCRは96℃、5分間反応後96℃、30秒間、58℃30秒間、72℃ 1分間を30サイクル行った後72℃5分間反応を行った。増幅した遺伝子は1%アガロースゲル電気泳動によりバンドを確認後Wizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)で精製し25μlのDNA溶液として回収した。クローンDNA 16 ng、M13FII (10pmol/μl) 0.5μl、あるいはM13RII (10pmol/μl) 0.5μl、DTCS kit Premix (Beckman coulter) 4μlにRNase-Free水を添加し全体量を 10μlとしてそれぞれPCR反応させた。PCRは96℃、5分間反応後96℃、20秒間、58℃20秒間、60℃4分間を30サイクル行った後72℃5分間反応を行った。得られたPCR反応物を1.5mlチューブに移し(3M) NaOAc 1 μl、(0.1M) EDTA 1μl、(20 mg/ml)グリコーゲン溶液(ナカライテスク株式会社)1 μlをよく混和させ冷(100%) エタノール 60μlを加えよく混和させた。4℃、14000 rpm、15 分間遠心し上清を除去し(70%)エタノール200μlにてペレットを洗浄後再び14000rpm、2分間遠心して上清を除去することを2回行った。た。その後、30-40分間遠心乾燥した後、脱イオン化したホルムアミド(Beckman coulter) 40 μlを加えよく混和させた。配列分析はCEQ 2000 DNA Analysis System (Beckman coulter)で行った。 (4−2)ライブラリーの配列解析 各選択実験で得られたライブラリーの配列解析を行いBLAST(登録商標)(Basic Local Alignment Search Tool) Human Sequencesでシーケンシングして得られたDNAの遺伝子の同定を行った。http://www.ncbi.nlm.nih.gov/genome/seq/BlastGen/BlastGen.cgi?taxid=9606 5.ヌクレオフォスミンの活性評価 複数個得られたクローンのうちヌクレオフォスミンは3ラウンドでは23クローン中4クローン(17%)、4ラウンドでは11クローン中3クローン(27%)、トータルでは34クローン中7クローン(21%)含まれていた。この結果から、ヌクレオフォスミンは薬剤TC11の結合タンパク質の候補であることが明らかになった。(5−1)KMS-L31-35とNPM1のアミノ酸配列 選択実験で得られたKMS-L31-35はヌクレオフォスミンの全長294アミノ酸残基のうちアミノ末端を含めた1-183アミノ酸であった。図7にヌクレオフォスミンのドメイン構造を示す。(5−2)リアルタイムPCR 各ラウンドで選択された、cDNAライブラリー 5 ng中に含まれるヌクレオフォスミン遺伝子のコピー数をLightCyclear FastStrand DNA master SYBR green I kit (Roche)を用いて、LightCycler (Roche) によりリアルタイムPCRで定量した。遺伝子特異的プライマーはUpper Primer (NPM1 Upper), 5' Position 2、Lower Primer(NPM1 Lower), 3' Position 183を用いた。図8にリアルタイムPCRによるヌクレオフォスミンの濃縮量の推移を示す。(5−3)ビアコアによる結合の確認ビアコアはビアコア3000システムを用い、センサーチップSAに薬剤の固定化を行った。フローは緩衝液HBS-EPで10μl/minで行った。フローセル1〜4に対し、50mM NaOH, 1M NaClを含む溶液20 μlのインジェクトを5回繰り返し行い固定化の前処理を行った。TC11-biotinは1μM(H2O, 0.05% DMSO)に調整し、フローセル2にTC11-biotinを固定化した。30μlをマニュアルインジェクションしたところTC11-biotinは276.4.2 RU結合した。非結合の薬剤を洗浄する目的で緩衝液HBS-EPで30μl/min, 同緩衝液30μl, Glycin HCl pH 2.0 15μlの順にインジェクトする操作を2回行った。(5−3−1)小麦胚芽無細胞翻訳蛋白質の調製 クローニングで得られたクローンKMS-L31-35 DNA 0.01pmol、10×KOD plus緩衝液(TOYOBO) 10μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 10μl、25mM MgSO4 4μl、forwardプライマー:GSP6omega F (10 pmol/μl) 3μl、reverseプライマー:3RV30 (10 pmol/μl) 3μl、KOD plus ポリメラーゼ(TOYOBO) 2μlにRNase-Free水を添加し全体量を100μlとして1チューブに入れ合計4チューブをPCR反応させた。PCRは94℃、5分間反応後94℃、30秒間、58℃30秒間、68℃1分20秒間を24サイクル行った後68℃5分間反応を行った。cDNAライブラリーはWizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)で精製し60μlのDNA溶液として回収した。 上記のクローンDNA 2pmol、5×SP6緩衝液 4μl、ATP (100mM) 1μl、CTP (100mM) 1μl、UTP (100mM) 1μl、GTP (100mM) 1μl、エンザイムミックスSP6RNA ポリメラーゼ(Promega) 0.25μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 2μlにRNase-Free水を添加し全体量を20μl、37℃、3時間反応後、RQ1 RNase-Free DNase(Promega) 5μlを添加しさらに37℃、1時間反応させた。RNAはRNeasy Mini kit (Qiagen)により精製し21μlのRNA溶液として回収した。 上記で得られたクローンRNA 15 pmol、小麦胚芽抽出液(ZoeGene)30μl、クレアチンキナーゼ (40μg/μl)(ZoeGene)3μl、RNase inhibitor(ZoeGene) 2.4μl、5×翻訳緩衝液(ZoeGene) 30μlにRNase-Free水を添加し全体量を 150μlとし、遮光条件下26℃、1.5時間反応させ翻訳を行い蛋白質を調製した。 ANTI-FLAG M2 affinity gel 50μl(50%スラリー)をTBST (20 mM Tris-HCl buffer, pH 7.5, 138 mM NaCl, 0.1% Tween-20) 500μlで3回洗浄したものに翻訳蛋白質溶液150μl、TBST 150μlを混和させ4℃で1時間ミニディスクローター(Bio craft)で回転攪拌した。ゲルをTBST 500μlで3回洗浄し、FLAG ペプチド(Asp-Tyr-Lys-Asp-Asp-Asp-Asp-Lys)(配列番号9) 100μg/ml 100μlで溶出した。 HBS-EPで膨潤ならびに平衡化させたG25 650μlをMicroSpin Columns (GE Healthcare)に入れ0.8rcf, 1min遠心し、FLAG ペプチドで溶出した翻訳蛋白質溶液100 μlを1カラムにつき50μlアプライし0.8rcf, 1min遠心した。カラムの外側を新しいチューブと交換後0.8rcf, 2min遠心しHBS-EPにバッファー交換されたサンプルを集めた。蛋白質の濃度はウエスタンブロットによりFlag-tagで検出しコントロール蛋白質と比較し46.6nMと見積もった。 ビアコアの分析はHBS-EPを用い流速は20μl/分で行った。サンプルをKINJECTでインジェクトし,再生はGlycine 20を15μl、(50mM) NaCl, (1 M) NaCl を15μl で行った。 図9にKMS-L31-35 (ヌクレオフォスミン)のセンサーグラムを示す。常法に従いTC11-biotinを結合させたフローセルから薬剤を非添加のフローセルを引き算しフィッティングさせKDの見積もりを行った。フィッティングを行い3.84x 10-5MのKD値と算出された。小麦胚芽無細胞翻訳系で調製したヌクレオフォスミンとTC11は比較的弱い相互作用が示された。(5−3−2)大腸菌発現蛋白質の調製 クローニングで得られたクローンKMS-L31-35 DNA 0.01pmol、10×KOD plus緩衝液(TOYOBO) 10μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 10μl、25mM MgSO4 4μl、forwardプライマー:CACC-NPM1-F (10 pmol/μl) 3μl、reverseプライマー:NPM1-FlagHis (10 pmol/μl) 3μl、KOD plus ポリメラーゼ(TOYOBO) 2μlにRNase-Free水を添加し全体量を100μlとして1チューブに入れ、合計4チューブをPCR反応させた。PCRは94℃、5分間反応後94℃、30秒間、58℃30秒間、68℃1分20秒間を24サイクル行った後68℃5分間反応を行った。cDNAライブラリーはWizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)で精製し60μlのDNA溶液として回収した。得られたPCR産物及をpET101/D-TOPO (Invitrogen)に導入しOne shot top10(Invitrogen)にトランスフォーメーションを行いプラスミド を得た。 作製したプラスミドを大腸菌に導入しヌクレオフォスミンを発現した。プラスミドDNAをBL21Star (DE3) (Invitrogen) に形質転換し、LB培地 (+100μg/mL カルベニシリン) に植菌し、37℃で一晩、前培養を行なった。前培養した菌液を20倍量のTB培地に加え、OD600が0.4になるまで37℃で振盪培養した。最終濃度が0.1 mMになるようにIPTGを培養液に加え、 37℃、2〜4時間で発現誘導を行なった。培養液を8,500 rpmで8分間遠心し、菌体を回収した。 回収した菌体を0.02% (v/v) プロテアーゼインヒビターカクテルを含むTBSに懸濁して超音波粉砕し、9,500 rpmで15分間遠心を行い、上清を回収した。TALON CellThru Resin (Clontech) 4 mLを10mMイミダゾールを含むTBSバッファーで平衡化後、このレジンに上清(可溶性画分)を加え、4℃で終夜結合させた。この反応液をカラムに加え、洗浄バッファー (TBS、10 mM イミダゾール) で洗浄後、溶出バッファー (TBS、250 mM イミダゾール)でタンパク質を溶出した。 HBS-EPで膨潤ならびに平衡化させたSuperose 12 10/300に 250 mM イミダゾールで溶出した発現蛋白質溶液1000μlをインジェクトし、流速0.5ml/minでゲルろ過を行った。溶出画分は約10ml溶出液で溶出された高分子量画分と約15ml溶出液で溶出された低分子量画分とについて評価した。蛋白質の濃度はウエスタンブロットによりFlag-tagで検出しコントロール蛋白質と比較し高分子量画分は454nM、低分子量画分は80nMと見積もった。 ビアコアの分析はHBS-EPを用い流速は20μl/分で行った。サンプルをKINJECTでインジェクトし,再生はGlycine 20を15μl、(50mM) NaCl, (1 M) NaCl を15μl で行った。 図10に大腸菌発現蛋白質(ヌクレオフォスミン)のセンサーグラムを示す。常法に従いTC11-biotinを結合させたフローセルから薬剤を非添加のフローセルを引き算しフィッティングさせKDの見積もりを行った。フィッティングを行い高分子量画分は1.25x 10-4Mの低分子量画分6.64x 10-8MのKD値とそれぞれ算出された。大腸菌で発現したヌクレオフォスミンはゲルろ過でサイズ分画することにより、TC11との相互作用の強い画分と弱い画分とに分離することができた。高分子量画分のヌクレオフォスミンは凝集体として存在していることが予想され相互作用は弱いものであったが、低分子量画分のものは単量体の構造を取っているものと予想されTC11との相互作用は比較的強いものであった。 以上の結果から、ヌクレオフォスミンは薬剤TC11と結合する標的タンパク質であることがわかった。6.チューブリンの活性評価 複数個得られたクローンのうちα-チューブリンは3ラウンドでは23クローン中1クローン(4%)、4ラウンドでは11クローン中1クローン(9%)、トータルでは34クローン中2クローン(6%)含まれていた。この結果から、α-チューブリンは薬剤TC11の結合タンパク質の候補であることが明らかになった。(6−1)KMS-L31-36とチューブリンのアミノ酸配列 選択実験で得られたKMS-L31-36はα-チューブリンの全長451アミノ酸残基のうちアミノ末端を含めた1-163アミノ酸であった。図11にα-チューブリンのドメイン構造を示す。TC11をベイトにしてスクリーニングされたα-チューブリンの領域内(1-163)には、GTP-binding domain(GTP結合ドメイン)が含まれており、TC11はGTPと競合することにより、α-チューブリンとβ-チューブリンの重合を阻害している可能性が高い。この仮説は、TC11存在下で骨髄腫細胞内のチューブリンが断片化する現象と一致する。(6−2)プルダウン実験による競合実験(6−2−1)小麦胚芽無細胞翻訳蛋白質の調製 クローニングで得られたクローンKMS-L31-36 DNA 0.01pmol、10×KOD plus緩衝液(TOYOBO) 10μl、2 mM dNTPs(TOYOBO) 10μl、25mM MgSO4 4μl、forwardプライマー:GSP6omega F (10 pmol/μl) 3μl、reverseプライマー:3RV30 (10 pmol/μl) 3μl、KOD plus ポリメラーゼ(TOYOBO) 2μlにRNase-Free水を添加し全体量を100μlとして1チューブに入れ合計2チューブをPCR反応させた。PCRは94℃、5分間反応後94℃、30秒間、58℃30秒間、68℃1分20秒間を24サイクル行った後68℃5分間反応を行った。cDNAライブラリーはWizard Plus Minipreps DNA Purification System(Promega)で精製し30μlのDNA溶液として回収した。 上記のクローンDNA 2pmol、5×SP6緩衝液 4μl、ATP (100mM) 1μl、CTP (100mM) 1μl、UTP (100mM) 1μl、GTP (100mM) 1μl、エンザイムミックスSP6RNA ポリメラーゼ(Promega) 0.25μl、RNase inhibitor(TOYOBO) 2μlにRNase-Free水を添加し全体量を20μlとして、37℃、3時間反応後、RQ1 RNase-Free DNase(Promega) 5μlを添加しさらに37℃、1時間反応させた。RNAはRNeasy Mini kit (Qiagen)により精製し30μlのRNA溶液として回収した。 上記で得られたクローンRNA 12.5 pmol、小麦胚芽抽出液(ZoeGene)25μl、クレアチンキナーゼ (40 μg/μl)(ZoeGene)2.5μl、RNase inhibitor(ZoeGene) 2μl、5×翻訳緩衝液(ZoeGene) 25μlにRNase-Free水を添加し全体量を 125μlとし、遮光条件下26℃、1時間反応させ翻訳を行い蛋白質を調製した。(6−2−2)プルダウン実験による競合実験 小麦胚芽無細胞翻訳した蛋白質20μl, ELISA BSA緩衝液(ナカライテスク株式会社 TBS, 0.05%, Tween 20, 1% BSA) 140μlを薬剤結合のレジン40μlあるいは薬剤非結合のレジン40μl分を結合させた。さらに競合実験ではTC11をそれぞれ100μMの濃度で加えた。室温で60分間ミニディスクローター(Bio craft)で回転攪拌した後, ELISA BSA緩衝液500μlで3回洗浄した。レジンはサンプル緩衝液LDS(4x), 0.2mM DTT を加え70℃、10分間加熱後レジンと共にSDS-PAGEに供した。SDS-PAGEは4-12% Bis-Tris NuPAGE ゲル、MES電気泳動緩衝液 (Invitrogen)で200V, 400mA, 35分間電気泳動後、iBlot dry blotting systemでニトロセルロース膜に転写した。膜はBlocking One Buffer: TBST(1:9)でブロッキング後、HRP-conjugated マウス anti-Flag・tag 抗体(Sigma; 2:3000/ Blocking One Buffer: TBST(1:9))を用いて検出はECLで行った。 図12にKMS-L31-36 (チューブリン)の競合実験の結果を示す。KMS-L31-36 (α-チューブリン)はTC11が結合したレジンに対してコントロール(control)よりも優位に蛋白質のバンドが観察された。また競合薬剤が100μMの濃度存在下では優位にレジンへの結合を阻害していた。従ってTC11とKMS-L31-36 (α-チューブリン)の特異的な相互作用が確認できた。[実施例3]TC11によるカスパーゼ依存的アポトーシスの誘導 前述したようにヒト骨髄腫瘍細胞のKMS-34をTC11で処理することにより、細胞の微小管や中心体を形成しているタンパク質であるチューブリンやゴルジ体の断片化が観察された。また、KMS-34細胞をTC11で長時間処理することによりPARPやDNAが切断されたことから、TC11がこれらの癌細胞のアポトーシスを誘導することがわかった。さらに、このアポトーシスが、どのカスパーゼ経路によるものかを、各種カスパーゼ抗体を用いたウェスタンブロットにより調べた。実施方法 KMS34細胞をTC11無添加(コントロールとしてDMSO添加)および5μMと25μMの濃度の TC11でそれぞれ6時間処理後、細胞可溶化液をSDS-PAGEで分離し、それぞれのカスパーゼ特異的な抗体を用いたウェスタンブロッティングにより、カスパーゼ2,3,8および9の全長および切断後の断片を検出した。ウェスタンブロッティング 薬剤TC11でKMS34細胞を6時間処理後、細胞を回収し、サンプルバッファーで懸濁した。これを15% SDS-PAGEにより分離後、ウェスタンブロッティングを行った。一次抗体として、抗PARP、Caspase-2、-3、-8、-9抗体 (全てCell signaling technology社製)、二次抗体としてHRP標識された抗体を用い、ECL chemi-luminescence reagents (GE healthcare) により検出した。結果 図13に示す(AおよびB) 。 その結果、エフェクターカスパーゼであるカスパーゼ3、その上流のイニシエーターカスパーゼとして働くカスパーゼ8、および9が切断され、活性型になっていることが確認できた(図13,A)。カスパーゼ8は細胞死受容体を介したシグナル経路に、またカスパーゼ9はミトコンドリアを介した経路により、それぞれ活性化されることが知られている(Spek,E., Bloem,A.C., Lokhorst,H.M., Kessel,B., Bogers-Boer,L., Donk,N. Inhibition of the mevalonate pathway potentiates the effects of lenalidomide in myeloma. Leukemia Res., 33, 100-108 (2009))。また,両者のクロストークの存在についても示唆されている(Haefen,C., Wieder,T., Essmann,F., Schulze-Osthoff,K., Dorken,B., Daniel,P.T. Paclitaxel-induced apoptosis in BJAB cells proceeds via a death receptor-independent, caspase-3/-8-driven mitochondrial amplicication loop. Oncogene, 22, 2236-2247 (2003))。 細胞骨格が破壊されることにより活性化されるカスパーゼ2は、その基質であるBidを活性化することによりカスパーゼ9経路依存的アポトーシスを誘導することが報告されている(Ho,L.H., Read,S.H., Dorstyn,L., Lambrusco,L., Kumar,S. Caspase-2 is required for cell death induced by cytoskeletal disruption. Oncogene, 27, 3393-3404 (2008))。そこで、TC11がカスパーゼ2の活性に影響を与えるかどうかを調べたが、カスパーゼ2の活性化は見られなかった (図13,B) 。[実施例4]TC11の造血障害作用の検証のためのコロニーアッセイ 造血障害に対する安全性を調べる目的で、正常の骨髄細胞のコロニー形成能を調べるコロニーアッセイ法を用いて、TC11の毒性試験を行った。 ICRマウス(♂, 13週齢) の大腿骨より26ゲージ針を用いてフラッシュすることにより骨髄細胞を採取し、2×alpha MEM, 10% FCS培養液中に5×105 cell/mLになるように調整した。methyl cellulose培地(10% 2×alpha MEM, 30% FCS, 1% BSA, 0.1 mM 2ME, 0.1 mM hemine, 1% P/S, 1% L-Glu, 1.2% methyl cellulose含有) にサイトカイン(最終濃度IL-3 20 ng / mL, IL-6 10 ng / mL, SCF 20 ng / mL, EPO 1U ng / mL )および各種濃度のTC11あるいはドキソルビシン塩酸塩を加えたものに、上述の骨髄細胞を5×104 cell / mLになるように添加した。TC11は20 mM DMSOストックソリューションを5% DMSO EtOHで希釈して1 mM, 0.2 mM, 0.04 mMを作成し、それぞれmethyl cellulose 培地1mLあたりに0.025 mLずつ添加して最終濃度25μM, 5μM, 1μMになるように調整した。また、TC11を含まない検体にもDMSO, EtOHの濃度がそれぞれ0.125%, 2.5%になるように調整した。なお、CTRL (-)はDMSOとEtOHを含まない。これらを3.5 cmディッシュ1枚あたり1 mLに分注して、37℃、5% CO2中で2週間培養し、各種コロニー数を光学顕微鏡下でカウントした(Kamata T, Hattori Y, Hamada H, Kizaki M, Terada M, Ikeda Y. Keratinocyte growth factor regulates proliferation and differentiation of hematopoietic cells expressing the receptor gene K-sam. Experimental Hematology 30;297-305 (2002))。いずれのディッシュもquadruplicateとしてその平均を算出した(図14)。 図14からわかるように、代表的な抗癌剤であるドキソルビシン(DOX)では、1μMでもコロニー形成が完全に抑制されたが、TC11では、5μMでもDMSO無添加あるいは添加のコントロール(CTR)に比べてもコロニー形成に明らかな障害を来さず、既存の抗癌剤よりも骨髄抑制は低いと考えられる。従って、TC11のIC50が数μMであったことを考慮すると。治療域濃度でも造血障害に対する安全性が比較的高いと判断される。[実施例5]TC11のマウス腹腔内投与後の血中濃度変化 一般的には、薬は少量では効きめは弱く、増量していくとその効きめは強くなると同時に、副作用も発現し、さらに増量すると死に至るというコースをたどる性質をもっている。したがって、薬の効果を最大限に発揮させて、かつ副作用の発現を最小限におさえて使うためには、どの位の量が適切であるかを決めなければならない。人によって同じ量の薬を服用しても同じ血中濃度は得られない。同じ量の薬を服用しても得られる薬物血中濃度は5倍もちがいが生じると言われている。薬によっては30倍もちがいがあるものもある。薬物を投与する場合、投与中の血中濃度が有効域に維持されるようにすれば、薬を安全にかつ有効に使えるということになる。すなわち、いくら投与量が多くても薬物血中濃度がその人の有効域以下では薬効は発揮されず、いくら投与量が少なくても中毒域に入っていれば副作用の発現がみられるということになってしまう。こうしたことから、血中濃度を測定しながら薬物療法を行うことの有効性が認識され、実際に使用されている。「投与量よりも薬物血中濃度の方が大切だ」と言われるのは、こういう理由があるからなのである。ここでは、TC11の薬物動態を調べる目的で、低用量と高用量のTC11をマウスの腹腔内に注射して、その血中濃度の時間変化を測定してみた。実施方法採血方法10週齢のオスのlcr/scidマウスにTC11 2.5 mg/mL(低用量)または12.5 mg/mL(高用量)を240 μLを腹腔内注射した。0、1.5、4、8時間後、エーテル麻酔により失神させた。1 mLシリンジ中に最終濃度4.2 mmol/LとなるようにEDTAを加え、21G針を用いてマウスの心臓採血を行った。採血後、2500 rpm、15 min、4℃で遠心分離し、上清(血漿)を回収し、測定まで-30℃で保存した。移動相調製 HPLC移動相用の25 mM酢酸アンモニウム溶液は、酢酸アンモニウムを1.9261 g秤量し、蒸留水で溶解し、メスフラスコで1 Lにメスアップした。移動相は25 mM酢酸アンモニウムとアセトニトリルを以下の比率で混合し、0.45μmメンブランフィルターで減圧ろ過し、超音波脱気して用いた。*HPLC移動相:CH3CN / 25 mM AcONH4=60 / 40試料調製 検量線作成用TC11溶液の作成は、TC11 5.8 mg秤量し、エタノール5.8 mLで溶解し、1000μg/mLとした(冷所保存)。また、コンセーラ(登録商標)(日水製薬)に蒸留水15 mLを加え、30分間静置した。TC11溶液をエタノールで希釈し、さらにコンセーラで10倍希釈し(0、0.5、1.5、2.5、3.5、5μg/mL)、検量線作成用の標準血清とした。凍結保存していたマウス血漿は測定時に溶解し、エタノールを最終濃度10%となるように加えた。試料の前処理 C18タイプの固相抽出カートリッジSepPak(登録商標)(Waters)をメタノール500μL、蒸留水500 μLでコンディショニングし、測定試料200μLをロードし、蒸留水500μL、40% CH3CN 500μLで洗浄後、100% CH3CN 1 mLで溶出した。溶出液をエバポレーターにより減圧下溶媒留去し、HPLC用移動相1mLに再溶解し、20400g、10min、25℃で遠心分離した。機器及び測定条件 HPLCシステムはJASCOのポンプPU-980、オートサンプラーAS-950、カラムオーブンCO-2060Plus、UV検出器UV-970、蛍光検出器FP-1520Sを用いた。また、データ処理装置には同社のChromNAVを使用した。 HPLC測定条件は、C18カラム:L-Column2、3.0 i.d.×100 mm、3μm、移動相:CH3CN / 25 mM AcONH4=60 / 40、流速:0.30 mL/min、検出波長:UV 255 nm、蛍光励起波長380 nm、蛍光波長530 nm、注入量 10μL、カラム温度:25℃にて行った。 TC11の検量線(TC11の濃度μg/mLとHPLCのピークの高さの関係)を図15に示す。結果 マウスの腹腔内にTC11を低用量投与した場合と高用量投与した場合の血中濃度(μMに換算)を比較した結果を図16に示す。低用量投与は、TC11の2.5mg/mL溶液を240μL投与、すなわち20mg/マウスkgで、高用量投与は、TC11の12.5mg/mL溶液を240μL投与、すなわち100mg/マウスkg)である。その結果、低用量投与では投与1.5時間後でTC11の血中濃度は7μMに達し、4時間後にはほとんど消失してしまった。一方、高用量投与では投与2時間後にTC11の血中濃度は33μMに達していると推定され、4時間後には4μMにまで減少し、9時間後にはほとんど消失してしまった。TC11の骨髄腫瘍細胞KMS-34に対するIC50値は3.5μMであるので、低用量投与でも投与後2時間程度まではIC50値以上の有効な血中濃度が保持されていた。また、低用量投与の5倍量の高用量投与では、投与後4時間程度まではIC50値以上の有効な血中濃度が保持されていた。以上の結果から、TC11の血中動態はかなり良好であり、この結果は骨髄腫瘍細胞KMS34の坦癌マウスを用いたTC11の抗腫瘍効果でも有意な効果が認められたことからも支持される。[実施例6] FISH法による骨髄腫細胞のp53遺伝子の欠損と変異の検出 p53がん抑制遺伝子は393アミノ酸からなる核内タンパク質p53をコードする。p53の主な分子機能は転写活性因子であり、DNA傷害などの各種細胞ストレスやがん遺伝子シグナルなどによりリン酸化、アセチル化などの翻訳後修飾により活性化された後、複数の下流遺伝子の転写調節領域内に存在する特異的塩基配列[(5′-PuPuPuC(A/T)(T/A)GPyPyPy-3′)]×2に結合し転写を活性化する。p53は、塩基配列特異的DNA結合に重要なp53タンパク質の中心部第100-300残基を占めるコア・ドメイン (DNA結合ドメイン)、そのN末端側とC末端側にはそれぞれ転写活性化ドメイン、4量体形成ドメインのほか、リン酸化やアセチル化残基や多くのタンパク質結合部位があり、p53の機能調節に重要な部位と考えられている。これまでに多くのヒトがんにおいてp53変異が報告され、腫瘍の種類によるがヒトがん全体の約50% にp53変異があることがわかっている(Hussain SP, Harris CC. Molecular epidemiology of human cancer:contribution of mutation spectra studies of tumor suppressor genes. Cancer Res 58 : 4023-4037 (1998); Beroud C, Soussi T. The UMD-p53 database:new mutations and analysis tools. Hum Mutat 21 : 176-181 (2003))。 近年造血器腫瘍のうち悪性リンパ腫や白血病の多くの症例が治癒に至るのに対し、多発性骨髄腫は、造血幹細胞移植法を導入してもいまだに致死性の予後不良疾患である。サリドマイド誘導体・ボルテゾミブといった新規薬剤が登場し予後が改善しつつあるが、それでも治療への反応性が悪く救命し得ない症例は多く、かつ医療の現場ではこれら新規薬剤および自家・同種移植の適応をどのように決定すべきかについて専門医ですら混乱しているのが現状である。欧米では数多くの臨床試験が行われているものの、決定的な治療指針に至るのには困難であり、ここは原点に戻って骨髄腫の分子基盤にもとずいて治療方針を決定しするのが重要であり、さらに現存の治療法では乗り越えることのできない分子(遺伝子)異常を有する症例には新たな治療薬を開発してゆく必要がある。例えば、化学療法や自家造血幹細胞移植では予後不良とされてきた第13番染色体欠失やt(4;14)染色体転座を有する症例に対して、ボルテゾミブやレナリドミドはその生存期間を延長すると報告され早期からこれらを用いるべきであろう。しかし、ハイリスク骨髄腫のうち10〜20%を占める第17番染色体欠失を有する症例は、初診時より髄外形質細胞種を形成するなどハイリスク骨髄腫としての臨床像を示し、これら新規薬剤を用いても半年以内に再発を来たし、予後は極めて不良である(Dawson MA, et al. Clin Cancer Res 15:714-722 (2009); Reece DE, et al. Blood 112;607a, #1724 (2008); Dimopoulos MA, et al. Blood 112;608a, #1726 (2008); Nizar J Bahlis NJ, et al. Blood 112;609a,#1731 (2008.))。 すなわち、第17番染色体上にはp53遺伝子が存在し、その欠失および変異を有する骨髄腫には既存の治療法では太刀打ちできない。そこで、独自に新規薬剤を開発することによって現在の治療の壁となっているp53異常を有する症例の克服を第一の目的として、患者由来の骨髄腫細胞株であるKMS34のp53遺伝子の欠損と変異を調べてみた。FISH法によるp53遺伝子の欠失の検出 FISH法によりp53遺伝子の欠失の検出を行った(Hong Chang, et al. p53 gene deletion detected by fluorescence in situ hybridization is an adverse prognostic factor for patients with multiple myeloma following autologous stem cell transplantation. BLOOD 105; 358-360 (2005))。 FISHプローブはVYSIS LSI P53(17P13.1) SPECTRUMORANGE PROBE(カタログ番号32-190008)とCEP 17 (D17Z1) SPECTRUMGREEN PROBE(カタログ番号32-132017)をAbbott Japan社(東京)より購入した。p53遺伝子の欠失をFISH法により解析した。SpectrumRedラベルしたp53 DNA probe (LSI p53;Vysis, Downers Grove, IL) は染色体17p13.1に位置しp53 locus特異的である。対照として、Spectrum Greenラベルした染色体17 -satellite-DNA centromere probe(CEP17, Vysis)を用いた。赤緑シグナル比が2R2G(p53/CEP17シグナルが2/2)を正常、1R2G(p53/CEP17シグナルが1/2)、または1R1G(p53/CEP17シグナルが1/1)をp53欠失ありと判断した。いずれの細胞も1000個につきカウントを行った。結果を表1に示す。その結果、KMS34、KMS28、KMS26、KMS11、KMM1は片方のアレルではp53が欠失しており、KMS27とKMS21はp53アレルの欠失がないことがわかった。p53遺伝子の変異の検出 KMS34のp53遺伝子のExon4〜9について、genomic DNAを用いてPCR amplify後にPRISMにてsequenceを決定した。PCRに用いたprimerは下記する。いずれの反応も、Denature 95℃ 30sec、anealing 58℃ 30sec、extension 72℃ 1minで35cycle行った。Exon4Sense 5'TCC TCT GAC TGC TCT TTT CAC-3'(配列番号10)Antisense 5'-TGA AGT CTC ATG GAA GCC AG-3'' (配列番号11)Exon5Forward 5'- CTT GTG CCC TGA CTT TCA ACT -3' (配列番号12)Reverse 5'- CAA CCA GCC CTG TCG TCT -3' (配列番号13)Exon6Sense 5'-TCT GAT TCC TCA CTG ATT GCT C-3' (配列番号14)Antisense 5'-CCA CTG ACA ACC ACC CTT AAC-3' (配列番号15)Exon7Forward 5'- TCA TCT TGG GCC TGT GTT ATC -3'(配列番号16)Reverse 5'-AGT GTG CAG GGT GGC AAG-3' (配列番号17)Exon8Sense 5'-AGG ACC TGA TTT CCT TAC TGC C-3' (配列番号18)Antisense 5'-ATA ACT GCA CCC TTG GTC TCC-3' (配列番号19)Exon9Sense 5'-ACT TTT ATC ACC TTT CCT TGC C-3' (配列番号20)Antisense 5'-CAC TTG ATA AGA GGT CCC AAG AC-3' (配列番号21)なお、exon 5および7では、さらに下記の条件でnested PCRをかけて特異性を高めた。Primer(exon5)Forward (5'-TGC CCT GAC TTT CAA CTC TG-3') (配列番号22)Reverse (5'-GCT GCT CAC CAT CGC TAT C-3') (配列番号23)Denature 94℃ 40sec、aneal 56℃ 40sec、denature 72℃ 1minで35cyclePrimer(exon7)Forward(5'-CCT GTG TTA TCT CCT AGG TTG-3') (配列番号24)Reverse(5'-AGT GTG CAG GGT GGC AAG-3')(配列番号25)Denature 94℃ 40sec、aneal 58℃ 40sec、denature 72℃ 1minで35cycle ABI PRISM BigDye Terminator v1.1 Cycle Sequencing Kitsを用いて反応を行った後、塩基配列を決定した。反応条件 denature 96℃10s、anealing 50℃ 5s、extension 60℃ 4min ×25 いずれも+strandと-strand両方の反応により塩基配列を確認した。Sequence primerは、exon4、6、8、9はPCR時と同じprimerを用いた。Exon5と7は、nested PCR時のprimerを用いた。 以上解析した結果、KMS34のp53遺伝子のExon5に単塩基置換による変異が検出された。すなわち、ゲノム DNA(GenBank accession No U94788)ではp53遺伝子の13116番目の塩基がGからAに変わっていた。cDNAにおいては、p53遺伝子の437番目の塩基がGからAに変わっていた。その結果、146番目のアミノ酸(トリプトファン)が終始コドンに変化するため、p53タンパク質は145番目のアミノ酸(ロイシン)でストップしていた。 FISHとPCR-塩基配列の解析結果を総合すると、患者由来の骨髄腫細胞KMS34のゲノムでは、片方のアレルではp53遺伝子が欠失しており、もう片方のアレルではp53遺伝子にナンセンス変異が入っているため、N末端から完全長の約1/3の長さの不完全なp53タンパク質しか合成されないものと推察される。その結果、KMS34細胞のp53遺伝子は、両アレルで欠失とナンセンス変異が見られるため、全く機能していないことが判明した。 本発明により、日本人の骨髄腫患者由来の各種骨髄腫細胞株に対して強い増殖抑制を示す薬剤が提供される。下記の化合物から選ばれるサリドマイド誘導体を有効成分とする抗癌剤。骨髄腫用である請求項1記載の抗癌剤。化合物がTC11である請求項1又は2の抗癌剤。アポトーシス誘導剤である請求項3記載の抗癌剤。チューブリン断片化誘導剤である請求項3記載の抗癌剤。カスパーゼ依存的アポトーシスの誘導剤である請求項3記載の抗癌剤。第17番染色体欠失を有するハイリスク骨髄腫の治療薬である請求項3記載の抗癌剤。 下記の化合物から選ばれるサリドマイド誘導体を有効成分とする抗癌剤を提供する。配列表


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