生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_ホスホリパーゼDの製造法と利用法
出願番号:2008080225
年次:2009
IPC分類:C12N 9/16,C12P 13/06


特許情報キャッシュ

仁科 淳良 関口 昭博 JP 2009232704 公開特許公報(A) 20091015 2008080225 20080326 ホスホリパーゼDの製造法と利用法 群馬県 591032703 仁科 淳良 関口 昭博 C12N 9/16 20060101AFI20090918BHJP C12P 13/06 20060101ALN20090918BHJP JPC12N9/16 DC12P13/06 Z 2 OL 6 4B050 4B064 4B050CC10 4B050DD13 4B050KK12 4B050LL05 4B064AE08 4B064AE63 4B064CA02 4B064CA21 4B064CB04 4B064CD15 4B064DA16本発明は、ホスホリパーゼD及びその製造法に係り、特に、野菜から見出された、食品分野において広く利用され得るホスホリパーゼD並びにそれを大量に生産し得る方法、およびホスホリパーゼDを用いて天然に微量しか存在しないリン脂質を製造する方法に関するものである。ホスホリパーゼDは、グリセロリン脂質のリン酸ジエステル結合を加水分解して、ホスファチジン酸とアルコールを生じる反応及び極性基をほかの水酸基をもつ化合物と交換する反応(極性基交換反応)の2種類の反応を触媒する酵素である。ホスホリパーゼDは、広く生物界に分布し、特に微生物由来のものについてはその性状などが詳しく検討されている。近年、細胞内外の情報伝達機構が解明されるに伴い、ホスホリパーゼA2,C及びホスホリパーゼDが細胞内外の情報伝達の一端を担うことがわかってきた(非特許文献1)。本酵素の市販品としては、植物起源のものとしてキャベツ(特許文献1,2)、微生物起源のものとしてはStreptomyces chromofuscus(特許文献3,4)などがある。現在は、微生物由来のホスホリパーゼのみが工業的に利用されている。 しかしながら、そのような従来のホスホリパーゼの生産方式にあっては、各種の問題が内在しており、特に微生物由来のホスホリパーゼにおいては、その一部に病原性が指摘されており、全てのものが安全であると言うことが出来ず、そのため、そのような方式にて得られたホスホリパーゼを食品分野に利用するには、安全性の点において問題を内在するものであった。また、キャベツ以外の野菜のホスホリパーゼに関する先行技術は知られていない。IUBMB Life . Vol.58 No.8 Page.457-461 (2006)特表2005−501559特開2002−218991特開2004−256475特開2005−261284かかる状況下、本発明者らは、食用野菜中のホスホリパーゼDについて検討し、特に、日常食されるきゅうり、大根に、pH安定性及び熱安定性の良好なホスホリパーゼDが含まれる知見を得て、本発明を完成するに至ったのである。従って、本発明の解決課題とするところは、安全性が高く、食品分野に有利に適用され得る、pH安定性及び熱安定性の良好なホスホリパーゼDを提供とホスホリパーゼDを用いたリン脂質の製造法を提供することにある。 本発明者らは、野菜が含有するホスホフォリパーゼの作用を鋭意研究した結果、食用野菜のホスホリパーゼを有機溶媒のない反応系でリン脂質に作用させるとき、その中のグリセロリン脂質のリン酸ジエステル結合が加水分解されて、ホスファチジン酸とアルコールを生じる反応及び極性基をほかの水酸基をもつ化合物と交換する反応(極性基交換反応)、すなわちホスホリパーゼDの活性を有するという知見を得た。即ち、本発明は、次の[1]、[2]である。[1]野菜由来のホスホリパーゼDの製造法と利用法[2]野菜がキュウリ、大根である[1]記載のホスホリパーゼDの製造法と利用法本発明は、野菜由来のホスホリパーゼDの製造法と利用法に関するものであり、更に詳しくは、キュウリまたは大根を原料とする、ホスホリパーゼDの製造法と利用法に関する。本発明のホスホリパーゼDを用いて、有機溶媒のない反応系で植物リン脂質中の例えばホスファチジルコリンから、ホスファチジン酸やホスファチジルセリン生成させ、アセトンを用いた分画を行うことにより、最終的に、ホスファチジン酸やホスファチジルセリンを高純度、高収率で得る製造法に関するものである。本発明により、食用野菜に含まれるホスホリパーゼDを、効率的に製造することができる。また、本発明のホスホリパーゼDがもつ加水分解活性、極性基交換活性を利用して、例えばホスファチジルコリンを原料として、希少なホスファチジン酸やホスファチジルセリンを安全に製造することができる。以下、本発明をより具体的に説明する。本発明の原料となる食用野菜としては、キュウリまたは大根を使用する。本発明に使用するキュウリは、ウリ科キュウリ属のつる性一年草の果実である。インド北部、ヒマラヤ山麓原産で日本では平安時代から栽培されたものである。品種としては、白イボ系 、黒イボ系 、四葉(スーヨー)胡瓜 、四川胡瓜 、馬込半白胡瓜(まごめはんしろきゅうり) 、高井戸節成胡瓜(たかいどふしなりきゅうり) 、加賀太胡瓜(かがふときゅうり) 、聖護院胡瓜(しょうごいんきゅうり) 、毛馬胡瓜(けまきゅうり) 、大和三尺(やまとさんじゃく)およびピクルスキュウリを単独または混合して本発明の原料として使用することができる。本発明に使用する大根は、地中海地方や中東が原産で、古代エジプトから食用としていた記録があり、日本では弥生時代には伝わり、在来種と中国ダイコンの交雑で栽培品種が成立したものである。品種としては、桜島、聖護院、辛味、守口、源助、練馬、三浦、浅尾、宮重そして紅大根が知られており、これらにうちの1種または複数を本発明の原料として使用することができる。上記のキュウリまたは大根から、ホスホリパーゼDを調製するためには、まず、原料のキュウリまたは大根を粉砕し、濾過または、遠心分離により上清を採取する。上清をアセトン等の有機溶媒で処理し、粗酵素を調製する。この粗酵素は、ホスホリパーゼDの粗酵素液としてそのまま利用することもできる。また、常法に従って濃縮、乾燥し、ホスホリパーゼDの粉末粗酵素として利用することもできる。さらに、ホスホリパーゼDを濃縮、採取するにあたっては、例えば塩析、有機溶媒沈殿、透析、限外ろ過、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、ゲルろ過、凍結乾燥、等電点電気泳動等の方法を、後述するホスホリパーゼDの理化学的性質を考慮した条件下で採用すればよい。キュウリまたは大根のホスホリパーゼDは以下の理化学的性質を有するものである。(a)作用:グリセロリン脂質のリン酸ジエステル結合を加水分解して、ホスファチジン酸とアルコールを生じる。(b)作用:グリセロリン脂質の極性基をほかの水酸基をもつ化合物と交換する(極性基交換反応)。 試験例、実施例を示し、本発明を更に詳細に説明する。(試験例1)加水分解活性測定法:ホスファチジルパラニトロフェノール360mgに、ジエチルエーテル1ml加え溶解した後、100mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5),15ml、および10%トリトン×100を含む100mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5),15mlを添加し、60℃で溶液が透明になるまで加温する。これを減圧下でジエチルエーテルを留去し基質保存液(16mMホスファチジルパラニトロフェノール)とする。基質保存液を、100mMトリス−塩酸緩衝液(pH7.5)で2mMホスファチジルパラニトロフェノールとなるように希釈したものを基質溶液とし、あらかじめ37℃で加温する。基質溶液950μLに対してあらかじめ37℃で加温した酵素液50μLを添加後、混合しホスホリパーゼDの加水分解反応によって遊離してくるパラニトロフェノールを405nmの吸光度を測定することおよびパラニトロフェノールのミリモル分子吸光係数18.45から、1分間あたりのパラニトロフェノール生成量を換算し、酵素活性値を決定する。(試験例2)極性機交換活性測定法:ホスファチジルパラニトロフェノールを1mlあたり16mgの割合で、ベンゼンに溶解し、基質溶液(20mMホスファチジルパラニトロフェノール)とする。1サンプルにつき、この基質溶液0.2mlに2Mエタノールを含む20mM酢酸バッファー(pH5.0)溶液0.1mlおよび20mg/mlの牛アルブミン溶液0.05mlを混合し、15分間超音波にて分散し、エマルジョン化する。これを37℃で5分間加温した後、酵素溶液0.05mlを加え、反応を開始する。これと平行して、酵素溶液のかわりにパラニトロフェノールを1.0、0.8、0.6、0.4、0.2、0.0μモル含む溶液を各々添加した系列をつくり検量線用試料とする。37℃、10分間反応を行った後、1N塩酸溶液0.1mlを加え反応を停止した後、1N水酸化ナトリウム溶液0.15mlおよびクロロホルム/メタノール=3/1溶液0.4mlを加え混合後、4℃で10分間遠心分離する。水相を0.02mlとり、0.1Mトリス−塩酸バッファー(pH8.0)0.18mlと混合し、マイクロプレートリーダー等の手段により405nmの吸光度を測定する。別途作成した検量線用試料の吸光度値から検量線を作成し、転移反応により遊離したパラニトロフェノール量を換算し、転移活性を決定する。なおこの反応での1ユニットは1分間あたり1マイクロモルのパラニトロフェノールを遊離させる酵素量と定義する。(試験例3) リン脂質の定量分析以下の条件により、原料、反応溶液中のリン脂質含量を測定した。装置;高速液体クロマトグラフィー(アジレント社製、機種モデル1100)、固定相;シリカゲルカラム(径4.6mm×長さ250mm)、移動相(溶離液);アセトニトリル:メタノール:10mMリン酸二水素アンモニウムの混合溶媒(=612:289:100v/v/v)、検出;紫外線UV波長202nmにおける吸収を測定、分離温度;40℃、試料量;5μl、流出速度;1.5ml/分。なお予め作成した検量線と試料の紫外吸収強度を比較して、試料中の各種リン脂質含量(重量%)を求めた。なお原料は試料1mgを1mlの前記の溶離液に溶解して分析した。なおまた、反応液の場合は、反応液1mgに精製水5ml、n−ヘキサン5mlを添加し、1分間撹拌した後、3000rpmで10分間遠心分離した。前記の上澄み液を1mlを分離し、エバポレートで溶媒を除去して不揮発成分の重量を求めた。濃度が1mg/1mlとなるように溶離液を加えて溶解したものを試料として用いた。キュウリホスホリパーゼDの調製:試料のキュウリ(黒イボ系)400gに純水600mlを加え、氷冷下にてワーリングブレンダー(ハイパワーホモジナイザー,広沢鉄工所社製)でホモジナイズ(10,000rpm,1min,5回)した。これをガーゼろ過し、ろ液を遠心分離機(CX-250,Tomy社製)で遠心分離(10,000rpm,4℃,30min)した。得られた上澄液(水抽出画分)を加温(55℃,5min)した後、遠心分離(10,000rpm,4℃,30min)した。得られた上澄液(熱処理画分)に2倍量の冷アセトンを撹拌しながら加え、氷冷下で1時間静置した後、生じた沈殿を遠心分離(10,000rpm,4℃,30min)して回収し、真空凍結乾燥機(VD-800F,Taitec社製)で凍結乾燥した。凍結乾燥物を氷冷させた乳鉢で微粉末にし、得られたパウダーをキュウリホスホリパーゼDとし、-20℃で保存した。キュウリホスホリパーゼDの加水分解活性は20U/g、極性基交換活性は80U/gであった。大根ホスホリパーゼDの調製:実施例1と同様の方法で、大根(青首)400gを処理し、大根ホスホリパーゼDを得た。大根ホスホリパーゼDの加水分解活性は15U/g、極性基交換活性は90U/gであった。大根ホスホリパーゼDの2gを10mM酢酸緩衝液(pH5.0)の50mLにて溶解して、それを、同緩衝液にて透析して、脱塩した後、陰イオン交換樹脂(三菱化学株式会社製 DIAION HPA75)を充填したカラムに通して、活性成分(ホスホリパーゼD)を吸着せしめ、その後、食塩濃度勾配法にて活性成分を溶出させた。更に、その溶出した活性成分を10mM酢酸緩衝液(pH5.0)にて透析して、脱塩した後、陰イオン交換樹脂(東ソー株式会社製 DEAE TOYOPEARL 650M)を充填したカラムに通して、活性成分を吸着させた後に、食塩勾配法にて、その吸着された活性成分を溶出せしめた。次いで、このようにして得られた活性成分の画分を、更に、疎水性クロマトグラフィー用充填剤(東ソー株式会社製 Butyl TOYOPEARL 650M)を充填したカラムに通して、活性成分を吸着せしめた後、硫酸アンモニウム濃度勾配法にて、その吸着した活性成分を溶出させた。このようにして得られた活性成分の画分を集めて、限外濾過手法にて濃縮した後、ゲル濾過用充填剤(アマシャム・ファルマシア・バイオテク社製 SephacrylS−200)を充填したカラムに通して、ゲル濾過と真空凍結乾燥を行なうことにより、目的とする酵素たる大根ホスホリパーゼD精製物0.02g を得た。大根ホスホリパーゼD精製物の加水分解活性は525U/g、極性基交換活性は1350U/gであった。すなわち活性回収率は、40%であった。酢酸緩衝液(pH5.6)20mlにセリン(Serと略す。)10g、塩化カルシウム0.222g、実施例2の大根ホスホリパーゼD10mgを溶解し、原料のホスホリポン100(ナッターマン社製品、ホスホリルコリン純度95%、ホスファチジルセリンの含有量は0%)、0.2gを加えて超音波乳化機(ソニファイヤー、ブランソン社)で均質化した。反応温度45℃の条件で反応を行った。反応時に経時的にサンプリングして全リン脂質中のホスファチジルセリンの含量を前記の方法で測定しながら、その値が平衡に近づく時間を確認して反応を行った。即ちおよそ平衡に近づく時点が1時間であることを確認し、さらに反応して1時間15分で反応を終了した。その後、食塩4gを添加し溶解して塩析を行った後、デカンテーションにより上層のみを分離し、真空凍結乾燥機(20℃、8時間)で上層に残った水分を蒸発させてリン脂質0.194gを得た。反応終了後、得られた油脂リン脂質中のホスファチジルセリンの反応率は、93.7%となった。なお収率は、97%であった。得られた製品中のリン脂質含量は、ホスファチジルセリン88重量%、ホスファチジルコリン4.0重量%、その他のリン脂質6.0重量%であった。 (比較例1)キュウリの代わりにキャベツ(愛知県産)を用い、実施例1の方法でナスホスホリパーゼD精製物を調製した。キャベツホスホリパーゼDの加水分解活性は14U/g、極性基交換活性は7U/gであった。 (比較例2)大根の代わりにナス(埼玉県産)400gを用い、実施例2の方法でナスホスホリパーゼDを調製した。ナスホスホリパーゼDの加水分解活性は92U/g、極性基交換活性は10U/gであった。 (比較例3)実施例3の大根ホスホリパーゼD10mgの代わりに比較例3のナスホスホリパーゼD10mgを使用して反応を行った。反応終了後、得られた油脂リン脂質中のホスファチジルセリンの反応率は、46.4%となった。なお収率は、97%であった。得られた製品中のリン脂質含量は、ホスファチジルセリン8重量%、ホスファチジルコリン40重量%、その他のリン脂質48重量%であった。その他のリン脂質の主成分はホスファチジン酸であった。以上の実施例、比較例から、本発明の方法により高活性のホスホリパーゼDが得られることがわかる。また、本発明のホスホリパーゼDは極性基交換反応活性に優れるため、ホスファチジルセリンのような高価なリン脂質の製造に使用できることがわかる。野菜由来であることを特徴とするホスホリパーゼDの製造法と利用法野菜がキュウリ、大根である請求項1記載のホスホリパーゼDの製造法と利用法 【要 約】【課 題】 安全性が高く、食品分野に有利に適用され得る、食用野菜由来のホスホリパーゼDの製造法と利用法の提供。【解決手段】 原料として、キュウリまたは大根を粉砕し、濾過または、遠心分離により上清を採取する。上清をアセトン等の有機溶媒で処理し、粗酵素を調製する。さらに、例えば塩析、有機溶媒沈殿、透析、限外ろ過、イオン交換クロマトグラフィー、吸着クロマトグラフィー、ゲルろ過、凍結乾燥、等電点電気泳動等の方法を用いることにより、高活性のホスホリパーゼDを得る。本発明のホスホリパーゼDにより、極性基交換反応を用いたホスファチジルセリン等を製造することができる。【選択図】 なし


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