生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_バナナ属のガンマ線照射と倍加処理法を用いた育種法
出願番号:2004205489
年次:2006
IPC分類:A01H 1/08,A01G 7/00,A23L 1/212,C12N 15/01


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永冨 成紀 勝田 義満 出花 幸之介 門脇 光一 JP 2006025632 公開特許公報(A) 20060202 2004205489 20040713 バナナ属のガンマ線照射と倍加処理法を用いた育種法 独立行政法人農業生物資源研究所 501167644 独立行政法人国際農林水産業研究センター 501174550 清水 初志 100102978 橋本 一憲 100108774 永冨 成紀 勝田 義満 出花 幸之介 門脇 光一 A01H 1/08 20060101AFI20060106BHJP A01G 7/00 20060101ALI20060106BHJP A23L 1/212 20060101ALI20060106BHJP C12N 15/01 20060101ALI20060106BHJP JPA01H1/08A01G7/00 604AA23L1/212 AC12N15/00 X 9 OL 15 2B030 4B016 2B030AA02 2B030AB03 2B030AD20 2B030CA10 2B030CB02 4B016LE01 4B016LE04 4B016LG01 4B016LP01 4B016LP03 4B016LP08 本発明は、食用バナナの改良方法に関する。 バナナとプランタイン(Musa 属)は、比較的短期間に急速な光合成を行い、果物や食糧として優れた風味と栄養価をもつ多量の果実を生産できる効率的な作物である。バナナは世界の主要な果物であり、取引額の大きな貿易商品であり、またプランタイン(料理用バナナ)は主に熱帯・亜熱帯諸国で生産消費される重要な食糧作物である。世界のバナナの生産量は年間8800万トンに達し、第4番目の食糧源となっている。(非特許文献1;Sharrock and Frinson, 1999 Musa production around the world trends, varieties and regional importance: INIBAP Annual Report 1998.)。 食用バナナの起源は、マレー半島を中心とする地域において、偶発的に発生した単為結果性突然変異遺伝子と雌性不稔性突然変異遺伝子との交雑により、食用バナナの祖先種が発生したと推察されている。なかでも3倍体は植物体の強勢さと可食部位の増大が魅力となって人為的に選抜され、今日ある食用バナナの品種群として成立したものであろうと考察されている。 バナナやプランタインの増殖は、従来から株分け法により行われ、この過程で偶発的に発見された自然突然変異の分離系統が新たな品種として用いられてきた。そのために、遺伝的に均質な栽培品種が世界に広く行き渡り、広域な病害の蔓延を引き起こす誘因になっている。現在、世界的各地にPanama病、Black Sigatoga病, Fusarium病など伝播力の強い病害が蔓延し、深刻な経済損失が生じている。 そのため、病害抵抗性の付与に限らず、バナナの交雑による品種の改良は最優先の課題であるが、有効な品種改良が実施できない。その理由は、バナナ品種の大半は、雌性不稔性、雄性不稔性、3倍性など種子の結実に障害となる遺伝的背景に阻まれ、他の作物のように進展していない状況にある。とくにバナナの食用品種では、果実内に種子が生じないことで経済価値が維持されているために、種子不稔性で3倍体であり、無性繁殖を専らとするため交雑育種は困難な状況にある(非特許文献2;Nicolas et al., 2001. Effectiveness of three micropropagation techniques in Musa spp. Plant Cell Tissue and Organ Culture 66:189-197.)。 バナナの品種改良は、まれに生じる異常な配偶体の交雑による種子を大量の果実から収集して育種が行われているが、著しく非効率である(非特許文献3;R.H. Stover and N.W. Simmonds, 1987. Bananas; Banana Breeding.pp.188-189, Longman Scientific and Technical. )。 なお、本発明に関連する先行技術文献情報を以下に記す。Sharrock and Frinson, 1999 Musa production around the world trends, varieties and regional importance: INIBAP Annual Report 1998.Nicolas et al., 2001. Effectiveness of three micropropagation techniques in Musa spp. Plant Cell Tissue and Organ Culture 66:189-197.R.H. Stover and N.W. Simmonds, 1987. Bananas; Banana Breeding.pp.188-189, Longman Scientific and Technical. これまでわが国ではバナナ属植物の結実種子が得られることは、未知のことであり、従ってバナナの品種改良を行うアイデアは全く無かった。しかし、雌雄ともに生殖機能を喪失したバナナの稔性を回復させることが可能であれば、バナナの品種改良が可能となる。そこで、本発明は、雌雄ともに生殖機能を喪失したバナナの稔性を回復させることを課題とする。 これまでの研究から3倍性の食用バナナ品種の葯内には花粉は退化してまったく認められず、またその柱頭に稔性のある2倍性の花粉を受粉しても、種子はまったく実らず、交雑育種は不可能であった。そこで、本発明者は、放射線照射、培養技術、およびゲノムの倍加処理による、食用バナナの稔性の回復を試みた。その結果、食用バナナの生長点近傍の茎の柔組織を外植片とした液体培養体の倍加処理法により6倍性変異体を誘発することに成功したが、倍数性植物を開花させることはできなかった。しかし、さらに試行錯誤を行なった結果、ガンマ線生体緩照射植物の培養体に倍加処理をして得た6倍性の再分化個体を用いた場合は、開花性の突然変異体を誘導でき、この突然変異体は高率で稔性花粉を生産し、2倍性植物との間で結実種子を採取することができることを見出した。これにより、食用バナナにつき、世界で初めて人為的な交雑育種の方法が提供され、食用バナナの品種改良が可能となった(図6)。 本発明は、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。 (1)雌雄ともに不稔性のバナナ属植物について、ガンマ線照射と倍加処理を行なうことを特徴とする、稔性花粉を産出する倍数性バナナ属植物を作出する方法 (2)雌雄ともに不稔性のバナナ属植物が3倍性バナナ属植物であり、稔性花粉を産出する倍数性バナナ属植物が6倍性バナナ属植物である、(1)に記載の方法。 (3)(1)または(2)に記載の方法により作出される、稔性花粉を産出する倍数性バナナ属植物 (4)(3)に記載の倍数性バナナ属植物の稔性花粉を野生型バナナ属植物へ受粉する、バナナ属植物の品種改良の方法 (5)野生型バナナ属植物が芭蕉または糸芭蕉である、(4)に記載の方法 (6) 品種改良が耐寒性の付与である、(5)に記載の方法 (7)(4)から(6)のいずれかの方法により作出された、バナナ属植物 (8)(7)に記載のバナナ属植物の果実 (9)(8)に記載の果実を用いることを特徴とする、バナナ加工食品の製造方法 本発明により、バナナ属の交雑による品種改良の方法が提供され、食用バナナの遺伝的な改良が初めて可能となった。2倍性バナナ品種を種子親として、6倍性食用バナナ品種を花粉親とする雑種植物は、2倍性からの特性と食用バナナの特性を併せ持つため、雌性不稔性遺伝子と単為結果性遺伝子が共に融合される結果、食用バナナとしての機能を有する。また、6倍体からの花粉は、花粉サイズの変異性が極大であり、不均等な減数分裂が予想されることから、雑種には、4倍体、3倍体、2倍体の植物が得られるであろう。これらの雑種の中から、優良個体を選抜する道が拓かれる。 その結果、世界的に深刻な被害を及ぼしているバナナの病害抵抗性を根本的に改良した優良品種が育成され、バナナの生産性を高めて安定させることができる。また、バナナ属野生植物の中には、温帯で自生し、零下10℃の条件に耐える植物があるため、耐寒性の食用バナナの作出も実現可能となる。 本発明は、雌雄ともに不稔性のバナナ属植物について、ガンマ線照射と染色体の倍加処理を行なうことを特徴とする、稔性花粉を産出する倍数性バナナ属植物を作出する方法を提供する。 本発明に用いる「雌雄ともに不稔性のバナナ属植物」としては、小笠原種を含む3倍体食用バナナ品種(食用バナナ品種の大半が3倍体である)やCavendish、Gross Michel などの広域栽培品種が挙げられる。本発明の方法は、さらに、サトイモ、フキ、アヤメ科、オニユリ、ヒガンバナ(ユリ科)、ウコン、イチゴなどへの応用も考えられる。 本発明の方法におけるガンマ線照射は、線源(137Cs)のガンマーグリーンハウスにおける 1日20時間の生体緩照射の場合、適正条件としては、0.1 -1.0Gy/day であり、最適条件としては、0.25-0.75Gy/day で1年間(実質照射日数 240日)以上を照射する。 ガンマ線急照射(線源 60Co)の場合、線量率1-300Gy/hrのとき、総線量5-200 Gy 好ましくは10-80 Gyになるように照射をする。ただし、バナナの苗条などの培養材料への直接照射では、線量率が高まれば生存率もそれに応じて著しく低下するので、照射材料が半数以上が生存する照射線量を厳守しなければならない。 染色体の倍加処理としては、コルヒチン処理の他、オリザニンなどの除草剤処理も考えられる。コルヒチン処理は、上記ガンマ線照射された個体の外植片から誘導した苗条を用いる場合には、苗条を液体培養に入れた後、1-10日後にコルヒチン濃度50 ppm から 1000 ppm に調整して、3-10日間処理をすることが適正範囲である。最適な条件は培養6-8日後にコルヒチン濃度100 ppm から 500 ppm に調整して、3〜5日間処理をすることである。 このようにしてコルヒチンを処理した苗条を再生させることにより、バナナ植物体を得ることができる。苗条の再生の手法は、周知である(Novak et al. 1986. Micropropagation and radiation sensitivity in shoot tip cultures of banana and plantain. In: Nuclear Techniques and In Vitro Culture for Plant Improvement, pp.167-174. IAEA,Vienna. )。得られたバナナ植物体に目的の倍数性植物以外が混在する場合には、フローサイトメーターにより目的の倍数性植物を選抜することが可能である。得られた目的の倍数性植物は、稔性花粉を産出することが期待される。 一旦、稔性花粉を産出する倍数性植物が得られれば、その稔性花粉を野生型バナナ属植物へ受粉することにより、バナナ属植物の品種改良を行うことができる。野生型バナナ属植物としては、例えば、芭蕉、糸芭蕉、ヒメ芭蕉などが挙げられる。芭蕉、糸芭蕉は、耐寒性であるため、これらバナナ属植物との交配により、稔性回復させたバナナ属植物に耐寒性を付与することが可能であり、これにより、例えば、食用バナナ属植物を育成しうる地域を拡大でき、その果実である食用バナナの収穫量の増大を図ることも可能となる。このようにして得られた食用バナナは、加工することにより、様々なバナナ加工食品を製造することができる。バナナ加工食品としては、例えば、バナナチップス、バナナペースト、バナナピューレなどが挙げられる。 1)バナナの緩照射下における感受性検定の方法と結果 改良するバナナの品種として、小笠原種を選定した。本品種も他の食用品種と同じように、雌雄ともに配偶体は機能性を持たず3倍性であるために、花粉は生産できない。この栄養系分離個体を直径32cm、40lのポリバケツに用土を盛り、植え付け、ガンマーグリーンハウス内に据え付けて、1日あたり0.25-1.0Gyの緩照射を行い、1994年6月から1995年8月までの14ヶ月間照射を行った。この材料から偽茎の基部から生長点近傍の柔組織を摘出し、小切片として苗条誘導寒天培地に置床し芽子をえる。この条件下で誘導された芽子生長点を縦断して、6-8片の切片を作成し、新たな液体培地に入れた。バナナの緩照射条件下の感受性と培養条件における外植片の生存率は次のとおりであった。バナナ個体のガンマ線生態緩照射条件として、1日20時間照射の場合、適正条件としては、0.1-1.0Gy/day であり、最適条件としては、0.25-0.75Gy/day であった(表1)。 2)液体培養条件下における倍数性の誘導 本発明者は、まず、食用バナナ品種、小笠原種(3倍性)(Musa accuminata) の生長点近傍の茎柔組織から培養外植片を採取し、MS(Murashige & Skoog)修正培地を基本とする苗条誘導寒天培地に置床し、苗条を誘導した。次に誘導した苗条を継代液体培地に入れ、増殖した苗条を6-8分割して、再度継代培地に入れ、一定日数経過後に、規定濃度のコルヒチンをミリポアフィルターを通して培地に注入した。一定期間コルヒチンを処理した苗条は、継代培養を行い、再度分割して液体培地に入れ、再生した苗条は再分化培地に移植し、個体の再生を促した。温室で順化した再分化個体は、フローサイトメーターにより、倍数性の検定を行い、キメラ構造のない6倍性個体の検出を行った。 その結果、液体培地において6倍性個体を高率に誘発するには、苗条を分割して液体培地に入れた1-10日後にコルヒチン濃度50 ppm から 1000 ppm に調整して、3-10日間処理をすることが適正範囲であるが、最適な条件は培養6-8日後にコルヒチン濃度100 ppm から 500 ppm に調整して、3-5日間処理をすることである。 3)開花性突然変異個体の選抜 倍加処理による再分化個体には、キメラ性倍数体と真性6倍体が混在しており、真性倍数体をフローサイトメーターをかけて選択した。多数の真性6倍体は長期間栽培したが開花しなかった。その中で、緩照射0.5Gy/dayの個体からの組織を外植片として倍加処理をした6倍性個体に開花が見られ、放射線による6倍性の開花性突然変異体を誘導することができた。 4)開花性突然変異体の特性 原品種小笠原種に比べた開花性突然変異系統の特徴としては、生育は緩慢で生葉はやや厚くしかも展開は遅く、植え付けから開花まで長期間を要した(図1)。植え付け後約22ヶ月で抽台に達し、開花は花器を包むほうが順次開き落下することで進行し、8段目の花房までは雌性花器を着生し、最終的には第1、2花房には果実合計7個が着生した(図2)。以後9花房から155花房までは、雄性花のみを着生し、各花房には6から8個の雄花を生じ、葯には稔性の高い花粉を生じた。稔性の高い花粉は雄花の開花期間の約5ヶ月にわたって毎日産生された。一方、原品種では、雄花は開花するものの葯は退化傾向にあって花粉は全く生じなかった。 6倍性変異体から得られた花粉は、沃度沃化加里3%溶液による染色反応により90%以上の高い稔性が確認された(図3(A))。2倍性品種の花粉に比べれば6倍性花粉は巨大であり、また花粉の粒径を計測した結果、大きな変異が見られた(図3(B)(C))。通常花粉のサイズとゲノムの大きさとは並行関係にある例が多く、6倍体からの花粉は、規則的な3倍性の減数分裂ばかりでなく2倍性や半数性の花粉も含むために、粒径の変異が大きいのではないかと推察される。 5)6倍性変異体花粉の交配結果 6倍性変異体の花粉は、Musa属野生型2倍性(芭蕉;Musa basjoo, )を母本にして交配を行った結果、次のように交雑種子が獲得され、多くの未熟胚も形成された(図4)。また、糸芭蕉(Musa balbisiana)との交雑を試みた結果、交雑種子が得られた(図5)。稔性の高い6倍性の花粉は受精が可能であることが実証できた。 また、原品種小笠原種に芭蕉、または糸芭蕉の花粉を受粉しても、全く種子は得られなかった。バナナの種子は硬実で通常発芽率が極めて低く、胚珠を摘出して無菌培地に移植して発芽させると高率で植物体が得られる。小笠原種(原品種)(左)と6倍性変異体(右)の比較を示す写真である。6倍性変異体の出蕾を示す写真である。(A)6倍性変異体の花粉稔性(100倍)、(B)糸芭蕉の花粉稔性(100倍)、(C) 芭蕉の花粉稔性(100倍)、を示す写真である。(A)芭蕉の生育状況(放射線育種場内)、(B)芭蕉の結実、(C) 芭蕉の交雑種子(上2列)と自殖種子(下2列)、を示す写真である。(A)糸芭蕉(♀)と6倍性花粉の交雑(石垣島)、(B)糸芭蕉の群生地(沖縄本島)、(C) 糸芭蕉の結実状況、を示す写真である。バナナ新育種法のフローチャートを示す図である。雌雄ともに不稔性のバナナ属植物について、ガンマ線照射と染色体倍加処理を行なうことを特徴とする、稔性花粉を産出する倍数性バナナ属植物を作出する方法。雌雄ともに不稔性のバナナ属植物が3倍性バナナ属植物であり、稔性花粉を産出する倍数性バナナ属植物が6倍性バナナ属植物である、請求項1に記載の方法。請求項1または2に記載の方法により作出される、稔性花粉を産出する倍数性バナナ属植物。請求項3に記載の倍数性バナナ属植物の稔性花粉を結実可能な野生型バナナ属植物へ受粉する、バナナ属植物の品種改良の方法。野生型バナナ属植物が芭蕉または糸芭蕉である、請求項4に記載の方法。品種改良が耐寒性の付与である、請求項5に記載の方法。請求項4から6のいずれかの方法により作出された、バナナ属植物。請求項7に記載のバナナ属植物の果実。請求項8記載の果実を用いることを特徴とする、バナナ加工食品の製造方法。 【課題】雌雄ともに生殖機能を喪失したバナナの稔性を回復させることを課題とする。【解決手段】ガンマ線生体緩照射および倍加処理により食用バナナの3倍性個体から6倍性個体を取得することに成功した。この6倍性個体は、高率で稔性花粉を生産し、2倍性植物との間で結実種子を採取することができることを見出した。これにより、食用バナナにつき、世界で初めて人為的な交雑育種の方法が提供され、食用バナナの品種改良が可能となった。【選択図】なし


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特許公報(B2)_バナナ属のガンマ線照射と倍加処理法を用いた育種法

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_バナナ属のガンマ線照射と倍加処理法を用いた育種法
出願番号:2004205489
年次:2011
IPC分類:A01H 1/08,A01G 7/00,C12N 15/01


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永冨 成紀 勝田 義満 出花 幸之介 門脇 光一 JP 4686730 特許公報(B2) 20110225 2004205489 20040713 バナナ属のガンマ線照射と倍加処理法を用いた育種法 独立行政法人農業生物資源研究所 501167644 独立行政法人国際農林水産業研究センター 501174550 清水 初志 100102978 永冨 成紀 勝田 義満 出花 幸之介 門脇 光一 20110525 A01H 1/08 20060101AFI20110427BHJP A01G 7/00 20060101ALI20110427BHJP C12N 15/01 20060101ALI20110427BHJP JPA01H1/08A01G7/00 604AC12N15/00 X A01H 1/00 A01H 5/00 C12N 15/00 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) G−Search 日本熱帯農業学会 熱帯農業(2000),Vol.44,Extra Issue 1,p.115-116 AMER J BOT(1967),Vol.54,No.1,p.24-36 長崎県技術開発研究委託事業 地域研究開発促進拠点支援事業(RSP)可能性試験 研究報告書(2001.01.04発行),長崎県産業技術振興財団 発行、p.262-273 9 2006025632 20060202 14 20070706 ▲高▼ 美葉子 本発明は、食用バナナの改良方法に関する。 バナナとプランタイン(Musa 属)は、比較的短期間に急速な光合成を行い、果物や食糧として優れた風味と栄養価をもつ多量の果実を生産できる効率的な作物である。バナナは世界の主要な果物であり、取引額の大きな貿易商品であり、またプランタイン(料理用バナナ)は主に熱帯・亜熱帯諸国で生産消費される重要な食糧作物である。世界のバナナの生産量は年間8800万トンに達し、第4番目の食糧源となっている。(非特許文献1;Sharrock and Frinson, 1999 Musa production around the world trends, varieties and regional importance: INIBAP Annual Report 1998.)。 食用バナナの起源は、マレー半島を中心とする地域において、偶発的に発生した単為結果性突然変異遺伝子と雌性不稔性突然変異遺伝子との交雑により、食用バナナの祖先種が発生したと推察されている。なかでも3倍体は植物体の強勢さと可食部位の増大が魅力となって人為的に選抜され、今日ある食用バナナの品種群として成立したものであろうと考察されている。 バナナやプランタインの増殖は、従来から株分け法により行われ、この過程で偶発的に発見された自然突然変異の分離系統が新たな品種として用いられてきた。そのために、遺伝的に均質な栽培品種が世界に広く行き渡り、広域な病害の蔓延を引き起こす誘因になっている。現在、世界的各地にPanama病、Black Sigatoga病, Fusarium病など伝播力の強い病害が蔓延し、深刻な経済損失が生じている。 そのため、病害抵抗性の付与に限らず、バナナの交雑による品種の改良は最優先の課題であるが、有効な品種改良が実施できない。その理由は、バナナ品種の大半は、雌性不稔性、雄性不稔性、3倍性など種子の結実に障害となる遺伝的背景に阻まれ、他の作物のように進展していない状況にある。とくにバナナの食用品種では、果実内に種子が生じないことで経済価値が維持されているために、種子不稔性で3倍体であり、無性繁殖を専らとするため交雑育種は困難な状況にある(非特許文献2;Nicolas et al., 2001. Effectiveness of three micropropagation techniques in Musa spp. Plant Cell Tissue and Organ Culture 66:189-197.)。 バナナの品種改良は、まれに生じる異常な配偶体の交雑による種子を大量の果実から収集して育種が行われているが、著しく非効率である(非特許文献3;R.H. Stover and N.W. Simmonds, 1987. Bananas; Banana Breeding.pp.188-189, Longman Scientific and Technical. )。 なお、本発明に関連する先行技術文献情報を以下に記す。Sharrock and Frinson, 1999 Musa production around the world trends, varieties and regional importance: INIBAP Annual Report 1998.Nicolas et al., 2001. Effectiveness of three micropropagation techniques in Musa spp. Plant Cell Tissue and Organ Culture 66:189-197.R.H. Stover and N.W. Simmonds, 1987. Bananas; Banana Breeding.pp.188-189, Longman Scientific and Technical. これまでわが国ではバナナ属植物の結実種子が得られることは、未知のことであり、従ってバナナの品種改良を行うアイデアは全く無かった。しかし、雌雄ともに生殖機能を喪失したバナナの稔性を回復させることが可能であれば、バナナの品種改良が可能となる。そこで、本発明は、雌雄ともに生殖機能を喪失したバナナの稔性を回復させることを課題とする。 これまでの研究から3倍性の食用バナナ品種の葯内には花粉は退化してまったく認められず、またその柱頭に稔性のある2倍性の花粉を受粉しても、種子はまったく実らず、交雑育種は不可能であった。そこで、本発明者は、放射線照射、培養技術、およびゲノムの倍加処理による、食用バナナの稔性の回復を試みた。その結果、食用バナナの生長点近傍の茎の柔組織を外植片とした液体培養体の倍加処理法により6倍性変異体を誘発することに成功したが、倍数性植物を開花させることはできなかった。しかし、さらに試行錯誤を行なった結果、ガンマ線生体緩照射植物の培養体に倍加処理をして得た6倍性の再分化個体を用いた場合は、開花性の突然変異体を誘導でき、この突然変異体は高率で稔性花粉を生産し、2倍性植物との間で結実種子を採取することができることを見出した。これにより、食用バナナにつき、世界で初めて人為的な交雑育種の方法が提供され、食用バナナの品種改良が可能となった(図6)。 本発明は、より詳しくは、以下の発明を提供するものである。 (1)雌雄ともに不稔性のバナナ属植物について、ガンマ線照射と倍加処理を行なうことを特徴とする、稔性花粉を産出する倍数性バナナ属植物を作出する方法 (2)雌雄ともに不稔性のバナナ属植物が3倍性バナナ属植物であり、稔性花粉を産出する倍数性バナナ属植物が6倍性バナナ属植物である、(1)に記載の方法。 (3)(1)または(2)に記載の方法により作出される、稔性花粉を産出する倍数性バナナ属植物 (4)(3)に記載の倍数性バナナ属植物の稔性花粉を野生型バナナ属植物へ受粉する、バナナ属植物の品種改良の方法 (5)野生型バナナ属植物が芭蕉または糸芭蕉である、(4)に記載の方法 (6) 品種改良が耐寒性の付与である、(5)に記載の方法 (7)(4)から(6)のいずれかの方法により作出された、バナナ属植物 (8)(7)に記載のバナナ属植物の果実 (9)(8)に記載の果実を用いることを特徴とする、バナナ加工食品の製造方法 本発明により、バナナ属の交雑による品種改良の方法が提供され、食用バナナの遺伝的な改良が初めて可能となった。2倍性バナナ品種を種子親として、6倍性食用バナナ品種を花粉親とする雑種植物は、2倍性からの特性と食用バナナの特性を併せ持つため、雌性不稔性遺伝子と単為結果性遺伝子が共に融合される結果、食用バナナとしての機能を有する。また、6倍体からの花粉は、花粉サイズの変異性が極大であり、不均等な減数分裂が予想されることから、雑種には、4倍体、3倍体、2倍体の植物が得られるであろう。これらの雑種の中から、優良個体を選抜する道が拓かれる。 その結果、世界的に深刻な被害を及ぼしているバナナの病害抵抗性を根本的に改良した優良品種が育成され、バナナの生産性を高めて安定させることができる。また、バナナ属野生植物の中には、温帯で自生し、零下10℃の条件に耐える植物があるため、耐寒性の食用バナナの作出も実現可能となる。 本発明は、雌雄ともに不稔性のバナナ属植物について、ガンマ線照射と染色体の倍加処理を行なうことを特徴とする、稔性花粉を産出する倍数性バナナ属植物を作出する方法を提供する。 本発明に用いる「雌雄ともに不稔性のバナナ属植物」としては、小笠原種を含む3倍体食用バナナ品種(食用バナナ品種の大半が3倍体である)やCavendish、Gross Michel などの広域栽培品種が挙げられる。本発明の方法は、さらに、サトイモ、フキ、アヤメ科、オニユリ、ヒガンバナ(ユリ科)、ウコン、イチゴなどへの応用も考えられる。 本発明の方法におけるガンマ線照射は、線源(137Cs)のガンマーグリーンハウスにおける 1日20時間の生体緩照射の場合、適正条件としては、0.1 -1.0Gy/day であり、最適条件としては、0.25-0.75Gy/day で1年間(実質照射日数 240日)以上を照射する。 ガンマ線急照射(線源 60Co)の場合、線量率1-300Gy/hrのとき、総線量5-200 Gy 好ましくは10-80 Gyになるように照射をする。ただし、バナナの苗条などの培養材料への直接照射では、線量率が高まれば生存率もそれに応じて著しく低下するので、照射材料が半数以上が生存する照射線量を厳守しなければならない。 染色体の倍加処理としては、コルヒチン処理の他、オリザニンなどの除草剤処理も考えられる。コルヒチン処理は、上記ガンマ線照射された個体の外植片から誘導した苗条を用いる場合には、苗条を液体培養に入れた後、1-10日後にコルヒチン濃度50 ppm から 1000 ppm に調整して、3-10日間処理をすることが適正範囲である。最適な条件は培養6-8日後にコルヒチン濃度100 ppm から 500 ppm に調整して、3〜5日間処理をすることである。 このようにしてコルヒチンを処理した苗条を再生させることにより、バナナ植物体を得ることができる。苗条の再生の手法は、周知である(Novak et al. 1986. Micropropagation and radiation sensitivity in shoot tip cultures of banana and plantain. In: Nuclear Techniques and In Vitro Culture for Plant Improvement, pp.167-174. IAEA,Vienna. )。得られたバナナ植物体に目的の倍数性植物以外が混在する場合には、フローサイトメーターにより目的の倍数性植物を選抜することが可能である。得られた目的の倍数性植物は、稔性花粉を産出することが期待される。 一旦、稔性花粉を産出する倍数性植物が得られれば、その稔性花粉を野生型バナナ属植物へ受粉することにより、バナナ属植物の品種改良を行うことができる。野生型バナナ属植物としては、例えば、芭蕉、糸芭蕉、ヒメ芭蕉などが挙げられる。芭蕉、糸芭蕉は、耐寒性であるため、これらバナナ属植物との交配により、稔性回復させたバナナ属植物に耐寒性を付与することが可能であり、これにより、例えば、食用バナナ属植物を育成しうる地域を拡大でき、その果実である食用バナナの収穫量の増大を図ることも可能となる。このようにして得られた食用バナナは、加工することにより、様々なバナナ加工食品を製造することができる。バナナ加工食品としては、例えば、バナナチップス、バナナペースト、バナナピューレなどが挙げられる。 1)バナナの緩照射下における感受性検定の方法と結果 改良するバナナの品種として、小笠原種を選定した。本品種も他の食用品種と同じように、雌雄ともに配偶体は機能性を持たず3倍性であるために、花粉は生産できない。この栄養系分離個体を直径32cm、40lのポリバケツに用土を盛り、植え付け、ガンマーグリーンハウス内に据え付けて、1日あたり0.25-1.0Gyの緩照射を行い、1994年6月から1995年8月までの14ヶ月間照射を行った。この材料から偽茎の基部から生長点近傍の柔組織を摘出し、小切片として苗条誘導寒天培地に置床し芽子をえる。この条件下で誘導された芽子生長点を縦断して、6-8片の切片を作成し、新たな液体培地に入れた。バナナの緩照射条件下の感受性と培養条件における外植片の生存率は次のとおりであった。バナナ個体のガンマ線生態緩照射条件として、1日20時間照射の場合、適正条件としては、0.1-1.0Gy/day であり、最適条件としては、0.25-0.75Gy/day であった(表1)。 2)液体培養条件下における倍数性の誘導 本発明者は、まず、食用バナナ品種、小笠原種(3倍性)(Musa accuminata) の生長点近傍の茎柔組織から培養外植片を採取し、MS(Murashige & Skoog)修正培地を基本とする苗条誘導寒天培地に置床し、苗条を誘導した。次に誘導した苗条を継代液体培地に入れ、増殖した苗条を6-8分割して、再度継代培地に入れ、一定日数経過後に、規定濃度のコルヒチンをミリポアフィルターを通して培地に注入した。一定期間コルヒチンを処理した苗条は、継代培養を行い、再度分割して液体培地に入れ、再生した苗条は再分化培地に移植し、個体の再生を促した。温室で順化した再分化個体は、フローサイトメーターにより、倍数性の検定を行い、キメラ構造のない6倍性個体の検出を行った。 その結果、液体培地において6倍性個体を高率に誘発するには、苗条を分割して液体培地に入れた1-10日後にコルヒチン濃度50 ppm から 1000 ppm に調整して、3-10日間処理をすることが適正範囲であるが、最適な条件は培養6-8日後にコルヒチン濃度100 ppm から 500 ppm に調整して、3-5日間処理をすることである。 3)開花性突然変異個体の選抜 倍加処理による再分化個体には、キメラ性倍数体と真性6倍体が混在しており、真性倍数体をフローサイトメーターをかけて選択した。多数の真性6倍体は長期間栽培したが開花しなかった。その中で、緩照射0.5Gy/dayの個体からの組織を外植片として倍加処理をした6倍性個体に開花が見られ、放射線による6倍性の開花性突然変異体を誘導することができた。 4)開花性突然変異体の特性 原品種小笠原種に比べた開花性突然変異系統の特徴としては、生育は緩慢で生葉はやや厚くしかも展開は遅く、植え付けから開花まで長期間を要した(図1)。植え付け後約22ヶ月で抽台に達し、開花は花器を包むほうが順次開き落下することで進行し、8段目の花房までは雌性花器を着生し、最終的には第1、2花房には果実合計7個が着生した(図2)。以後9花房から155花房までは、雄性花のみを着生し、各花房には6から8個の雄花を生じ、葯には稔性の高い花粉を生じた。稔性の高い花粉は雄花の開花期間の約5ヶ月にわたって毎日産生された。一方、原品種では、雄花は開花するものの葯は退化傾向にあって花粉は全く生じなかった。 6倍性変異体から得られた花粉は、沃度沃化加里3%溶液による染色反応により90%以上の高い稔性が確認された(図3(A))。2倍性品種の花粉に比べれば6倍性花粉は巨大であり、また花粉の粒径を計測した結果、大きな変異が見られた(図3(B)(C))。通常花粉のサイズとゲノムの大きさとは並行関係にある例が多く、6倍体からの花粉は、規則的な3倍性の減数分裂ばかりでなく2倍性や半数性の花粉も含むために、粒径の変異が大きいのではないかと推察される。 5)6倍性変異体花粉の交配結果 6倍性変異体の花粉は、Musa属野生型2倍性(芭蕉;Musa basjoo, )を母本にして交配を行った結果、次のように交雑種子が獲得され、多くの未熟胚も形成された(図4)。また、糸芭蕉(Musa balbisiana)との交雑を試みた結果、交雑種子が得られた(図5)。稔性の高い6倍性の花粉は受精が可能であることが実証できた。 また、原品種小笠原種に芭蕉、または糸芭蕉の花粉を受粉しても、全く種子は得られなかった。バナナの種子は硬実で通常発芽率が極めて低く、胚珠を摘出して無菌培地に移植して発芽させると高率で植物体が得られる。小笠原種(原品種)(左)と6倍性変異体(右)の比較を示す写真である。6倍性変異体の出蕾を示す写真である。(A)6倍性変異体の花粉稔性(100倍)、(B)糸芭蕉の花粉稔性(100倍)、(C) 芭蕉の花粉稔性(100倍)、を示す写真である。(A)芭蕉の生育状況(放射線育種場内)、(B)芭蕉の結実、(C) 芭蕉の交雑種子(上2列)と自殖種子(下2列)、を示す写真である。(A)糸芭蕉(♀)と6倍性花粉の交雑(石垣島)、(B)糸芭蕉の群生地(沖縄本島)、(C) 糸芭蕉の結実状況、を示す写真である。バナナ新育種法のフローチャートを示す図である。以下の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする、稔性花粉を産出する倍数性小笠原種バナナ植物を作出する方法。(a)雌雄ともに不稔性の小笠原種バナナ植物について、線量率0.25〜0.75 Gy/dayでガンマ線照射を行なう工程、(b)ガンマ線照射を行った小笠原種バナナ植物について、液体培地において培養する工程、及び、(c)液体培養を行った小笠原種バナナ植物について、コルヒチン濃度100〜500 ppmで染色体倍加処理を行なう工程請求項1工程(a)において、線量率0.5 Gy/dayでガンマ線照射を行なうことを特徴とする、請求項1に記載の方法。雌雄ともに不稔性の小笠原種バナナ植物が3倍性小笠原種バナナ植物であり、稔性花粉を産出する倍数性小笠原種バナナ植物が6倍性バナナ属植物である、請求項1または2に記載の方法。請求項1から3のいずれかに記載の方法により作出される、稔性花粉を産出する倍数性小笠原種バナナ植物。請求項4に記載の倍数性小笠原種バナナ植物の稔性花粉を結実可能な芭蕉または糸芭蕉へ受粉する、小笠原種バナナ植物の品種改良の方法。品種改良が耐寒性の付与である、請求項5に記載の方法。請求項5または6の方法により作出された、バナナ属植物。請求項7に記載のバナナ属植物の果実。請求項8記載の果実を用いることを特徴とする、バナナ加工食品の製造方法。


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