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タイトル:公表特許公報(A)_(D)−2−ヒドロキシグルタル酸(D2HG)又は(D)−2−ヒドロキシアジピン酸を測定する手段及び方法
出願番号:2014559244
年次:2015
IPC分類:C12Q 1/32


特許情報キャッシュ

バルス,イェルク プシュ,シュテファン フォン ダイムリング,アンドレアス ブッケル,ヴォルフガング JP 2015509722 公表特許公報(A) 20150402 2014559244 20130301 (D)−2−ヒドロキシグルタル酸(D2HG)又は(D)−2−ヒドロキシアジピン酸を測定する手段及び方法 ドイチェス クレブスフォルシュンクスツェントルム 512113803 ルプレヒト−カールス−ウニベルジテート ハイデルベルク 512127143 平木 祐輔 100091096 藤田 節 100118773 新井 栄一 100122389 田中 夏夫 100111741 菊田 尚子 100169971 鶴田 聡子 100194618 バルス,イェルク プシュ,シュテファン フォン ダイムリング,アンドレアス ブッケル,ヴォルフガング EP 12157663.1 20120301 C12Q 1/32 20060101AFI20150306BHJP JPC12Q1/32 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BN,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PA,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC EP2013054160 20130301 WO2013127997 20130906 39 20141002 4B063 4B063QA01 4B063QA19 4B063QQ03 4B063QQ70 4B063QR04 4B063QR23 4B063QR42 4B063QR64 4B063QR65 4B063QR66 4B063QS13 4B063QS36 4B063QX01 4B063QX02 本発明は、サンプル中の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を検出する方法に関し、同方法は、a)サンプルを、(i)溶媒と、(ii)酸化状態及び前記酸化状態と区別可能である還元状態と有し、当初は酸化状態で存在する色素と、(iii)電子移動剤と、(iv)(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素と、(v)補助因子とを含む試薬混合物と接触させるステップ、b)前記色素の還元状態の生成を測定することにより、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を検出するステップとを含む。本発明は更に、対象の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患を診断及び/又はモニタリングする方法に関する。本発明には、対象のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)遺伝子及び/又は(D)-2-ヒドロキシグルタル酸(D2HG)デヒドロゲナーゼ酵素遺伝子内の突然変異を診断する方法も包含される。更に、本発明は、(i)溶媒と、(ii)酸化状態及び前記酸化状態と区別可能である還元状態とを有し、当初は酸化状態で存在する色素と、(iii)電子移動剤と、(iv)(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素と、(v)補助因子とを含むキットを提供する。 イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)酵素は、2ステップ反応でイソクエン酸からα-ケトグルタル酸への酸化的脱炭酸反応を触媒し、NADH又はNADPHの生成を引き起こす。ヒトでは、3種類のIDHアイソフォームが知られている。これらのアイソフォームうちの2種類、すなわちホモ二量体IDH2(NADP+依存性)及びヘテロ四量体IDH3(NAD+依存性)はミトコンドリア内に局在し、これらはクレブス回路(クエン酸回路)に関係している。それに対して、ホモ二量体IDH1(NADP+依存性)は、サイトゾル及びペルオキシソーム内で活性である(Geisbrechtら、1999年、J. Biol. Chem.、第274巻: 30527〜30533頁)。 イソクエン酸デヒドロゲナーゼ酵素をコードする遺伝子の突然変異は、神経代謝性の障害及び腫瘍性疾患の両方で同定されている。 グルタル酸尿症又はI型酸血症(グルタリル-CoAデヒドロゲナーゼ(GCDH)欠損症)は、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ2をコードするIDH2遺伝子、又は(D)-2-ヒドロキシグルタル酸(D2HG)分解酵素、すなわちD2HGデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子のいずれかにおける突然変異により引き起こされる遺伝性障害であり、前記酵素の酵素機能障害を引き起こす(Kranendijkら、2010年、Science第330巻:336頁)。いずれのシナリオにおいても、突然変異を有する患者の体内にD2HGが蓄積し、最終的に尿と共に排泄される。グルタル酸尿症は、1975年に初めて報告された(Goodmanら、1975年、Biochem. Med.第12巻:12〜21頁)。後方視的試験及び前方視的試験には、担持頻度が高い2つの北米遺伝的孤立集団(genetic isolate)に由来する患者:アーミッシュコミュニティー(Straussら、2003年、Am. J. Med. Genet. 121C:38〜52頁;Straussら、2007年、Brain第130巻:1905〜1920頁)、及びSaulteaux/Ojibwa (Oji-Cree)インディアン(Greenbergら、2002年、Mol. Gen. Metab.第75巻: 70〜78頁)、並びに欧州の患者(Hoffmannら、1991年、Pediatrics第88巻: 1194〜1203頁; Hoffmannら、1996年、Neuropediatrics第27巻: 115〜123頁; Busquetsら、2000年、Pediatr. Res.第48巻: 315〜322頁; Kyllermanら、2004年、Mov. Disord.第9巻: 22〜30頁)が含まれている。患者115例について記載した42件の公表された症例報告を評価した本疾患のメタ分析が報告されている(Bjugstadら、2000年、J. Pediatr.第137巻: 681〜686頁)。患者279例が登録された国際間横断試験も公表されている(Kolkerら、2006年、J. Pediatr.第137巻: 681〜686頁)。最近、I型グルタル酸尿症の診断及び管理に関するガイドラインが導入され(Kolkerら、2007年、J. Inherit. Metab. Dis.第30巻: 5頁)、またこのガイドラインを用いたときの有益な効果が確認された(Heringerら、2010年、Ann. Neurol.第68巻: 743〜752頁)。これらの報告により、I型グルタル酸尿症の臨床スペクトルは大きく拡大し、非進行性錐体外路症候群の小児、及び生化学的に影響を受けるが臨床的に正常なI型グルタル酸尿症の小児さえも含まれるようになった。現時点では、500例を超える患者が、全世界で報告されている。その結果、グルタル酸尿症は、進行性又は非進行性の錐体外路疾患と関連した最も一般的で識別可能な先天的代謝異常の1つとして今日認められている。近年、新生児を拡大スクリーニングするためにタンデム型質量分析に基づくプログラムが開発され、急性エンセファロパシーが発現する前に様々な小児を診断する機会(Lindnerら、2006年、J. Inherit. Metab. Dis.第29巻: 378〜382頁)、及び前方視的なフォローアップ試験を開始する機会(Straussら、2003年、前掲; Naughtenら、2004年、J. Inherit. Metab. Dis.第27巻: 917〜920頁; Kolkerら、2007年、Pediatr. Res.第62巻: 353〜362頁; Bijarniaら、2008年、J. Inherit.Metab. Dis.第31巻: 503〜507頁; Bonehら、2008年、Mol. Genet. Metab.第94巻: 287〜291頁)が提供されている。 コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(SSADH)欠損症は、主に尿中有機酸スクリーニングにより明らかにされる稀な先天的代謝異常に関する別の例である。SSADH欠損症が証明されている患者は、γ-ヒドロキシブチレート(GHB)に加えて、かなりの量のD2HGを排泄した(Struysら、2006年、Molecular Genetics and Metabolism第88巻(1): 53〜57頁)。 最近の癌ゲノム配列決定プロジェクトでは、サイトゾルイソクエン酸デヒドロゲナーゼ1(IDH1)内のヘテロ接合型体細胞突然変異が、主に続発性神経膠芽腫(GBM)において(83%)、また原発性GBMにおいてこれより少ない程度で(7%)見出された(Parsonsら、2008年、Science第321巻: 1807〜1812頁)。これらの結果はさらなる試験により確認することができたが、その試験では、IDH1突然変異が、びまん性星状細胞腫(diffused astrocytoma)(71%)、WHOグレードII及びIIIの希突起膠腫及び乏突起星細胞腫において高頻度で検出することができた(Balssら、2008年、Acta Neuropathol、第116巻: 597〜602頁; Hartmannら、2009年、Acta Neuropathol、第118巻: 469〜474頁)。更に、ミトコンドリアのイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH2)内の突然変異が、頻度がより少ない(3%)ものの、同定された。IDH突然変異は、びまん性神経膠腫の他、急性骨髄性白血病(AML)(IDH1: 6〜8.5%; IDH2: 8.7〜11%)(Abbasら、2010年、Blood、第116巻: 2122〜2126頁; Mardisら、2009年、New England Journal of Medicine、第361巻: 1058〜1066頁; Paschkaら、2010年、J. Clin. Oncol.、第28巻: 3636〜3643頁; Schnittgerら、2010年、Blood、第116巻: 5486〜5496頁)、軟骨肉腫(56%)(Amaryら、2011年、J. Pathol.、第224巻: 334〜343頁)、肝内胆管癌(〜25%)(Borgerら、2012年、The Oncologist第17巻: 72〜79頁)、及び血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(〜45%)(Cairnsら、2012年、Blood)でも生ずる。 IDH遺伝子に生ずる突然変異は、IDH1遺伝子の2つの異なる位置、すなわち位置100番又は位置132番での、びまん性神経膠腫における最も高頻度の突然変異を代表するアルギニンからヒスチジンへの位置132の点突然変異(R132H)を伴うアミノ酸交換、及びIDH2遺伝子の2つの異なる位置、すなわち位置140番又は位置172番でのアミノ酸交換を引き起こす。突然変異は、イソクエン酸が結合し、変換される酵素ドメイン内にすべて局在する(Soundar及びColman、2000年、J. Biol. Chem.、第275巻: 5606〜5612頁)。これらの部位特異的突然変異は、イソクエン酸をα-ケトグルタル酸に変換する酵素の正常な能力を無力化し(Yanら、2009年、Cancer Res.、第69巻: 9175〜9159頁; Zhaoら、2009年、Science、第324巻: 261〜265頁)、また酵素に新しい機能、すなわちα-ケトグルタル酸を(D)-2-ヒドロキシグルタル酸に還元するNADPH依存性の反応を触媒する能力を付与する(Dangら、2009年、Nature、第462巻: 739〜744頁; Wardら、2011年、Oncogene、doi:10.1038/onc.2011.416)。その他のIDH突然変異は、甲状腺癌で発見されるが、これらの突然変異が(D)-2-ヒドロキシグルタル酸の生成を引き起こすかどうかについては依然わかっていない(Muruganら、2010年、BBRC第393巻: 555〜559頁)。 低グレードの神経膠腫の診断は、IDH1 R132H特異的抗体を標準化して使用することにより現在実施されている。前記腫瘍性疾患におけるこの点突然変異の頻度は、約90%である。従って、多数のびまん性神経膠腫の発病について、前記抗体を用いた免疫組織学的分析法により診断可能である(Capperら、2009年、Acta Neuropathol.、第218巻: 599〜601頁; Capperら、2011年、International Journal of Cancer/Journal International Du Cancer、doi:10.1002/ijc26425)。しかし、IDH遺伝子におけるその他の突然変異は、現時点では対応するエクソンのDNA配列決定によってのみ検出可能である。 更に、低グレード神経膠腫の腫瘍組織内及びパラフィン包埋組織内(Sahmら、2010年、Brain Pathology、doi:10.1111/j.1750-3639.2011.00506.x)、並びにAML患者の血清中(Sellnerら、2010年、Eur. J. Haematol.、第85巻: 457〜459頁)の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸の検出は、これまでは、GC-MS (ガスクロマトグラフィー-質量分析法)によってのみ実施可能である。しかし、この方法は、分析用のサンプルを調製する際に手間と時間がかかることから高コストと関連する。更に、GC-MSはハイスループットサンプル分析に適さない。 上記に鑑み、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸を検出する更なる手段及び方法が必要とされるが、まだ利用可能ではない。 最近の試験では、イソクエン酸デヒドロゲナーゼに由来する癌関連突然変異が、アジピン酸生成の重要なステップである2-オキソアジピン酸から(R)-2-ヒドロキシアジピン酸への変換を触媒する酵素を導出するために、ホモイソクエン酸デヒドロゲナーゼ活性部位における相同残基に応用されている(Reitmanら、Nature Chemical Biology (2012年)第8巻: 887〜889頁)。別の公表文献では、アジピン酸の生物工学的製造方法が仮定されている(Parthasarathyら、Biochemistry、2001年5月3日、第50巻(17): 3540〜50頁; Biochemistryの正誤表、2011年5月24日、第50巻(20): 4392頁)。 従って、これまで利用できなかったアジピン酸の生成をモニタリングする手段及び方法についてもニーズがある。 従って、本発明の基礎となる技術的課題は、上記ニーズを満たす手段及び方法の提供として認識可能である。当該技術的課題は、特許請求の範囲及び本明細書の以下の記載において特徴づけられる実施形態により解決される。 本発明は、サンプル中の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸を検出する方法に関し、同方法は、 a)サンプルを、 (i)溶媒と、 (ii)酸化状態及び前記酸化状態と区別可能である還元状態を有し、当初は酸化状態で存在する色素と、 (iii)電子移動剤と、 (iv)(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素と、 (v)補助因子と、を含む試薬混合物と接触させるステップ、 b)前記色素の還元状態の生成を測定することにより、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸を検出するステップを含む。(A)(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ(D2HGデヒドロゲナーゼ)の反応スキームを示す図である。(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼは、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸をα-ケトグルタル酸に酸化することにより、NAD+からNADH及びH+への還元を触媒する。(B)(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ(D2HGデヒドロゲナーゼ)の反応スキームを示す図である。(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼは、(D)-2-ヒドロキシアジピン酸をα-ケトアジピン酸に酸化することにより、NAD+からNADH及びH+への還元も触媒する。(C)PMS/XTTアッセイ法を用いたNADH検出反応を表す図であり、同法では、450nmで吸収を測定することにより生成したホルマザンを検出した。(D)ジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法を用いたNADH検出反応を示す図であり、同法では、生成したレゾルフィンを540nmで励起し、600nmで発光させる蛍光測定により検出した。(E)更なる酵素2種、ジアホラーゼと細菌ルシフェラーゼによる、及び酸素、フラビンモノヌクレオチド(FMN)と長鎖アルデヒドの存在下でのNADH検出反応を示す図である。読み出しは最後の共役反応による生成光である。(D)-2-ヒドロキシグルタル酸(D2HG)の測定フロー図を示す図である。(A)タンパク質を含むサンプルを、プロテイナーゼKと共に37℃で一晩インキュベーションし、その後過塩素酸で沈殿させることにより除タンパクした。サンプル及び標準曲線につき、三連で実施した。(B)D2HGの測定は、NADH測定で用いられるアッセイ法の選択に応じて異なる:示す表では、考え得るアッセイ読み出しをリスト化し、詳細に記載する。(i)PMS/テトラゾリウムを用いた吸収測定、(ii)ジアホラーゼ/レザズリンを用いた蛍光測定、及び(iii)ジアホラーゼ/ルシフェラーゼを用いた発光測定。D2HGを測定するために、PMS/XTTアッセイ法及びジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法でそれぞれ用いた試薬及び濃度を示す図である。D2HG標準曲線の作成で用いたD2HG濃度を示す図である。水、血清、及び血漿に溶解し、PMS/XTTアッセイ法を用いて求めたD2HG標準曲線を示す図である。D2HG濃度(0〜500μM)に対する勾配が適用される。ジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法を用いて測定した(三連)D2HG水溶液の標準曲線を示す図である。ジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法により測定した(三連)D2HG標準曲線(0〜1250pmol D2HGは、0〜50μM水溶液に対応する)の抜粋図である。D2HGを水、血清、及び尿で希釈して得た標準曲線(0〜375pmol=0〜15μM)の図である。サンプルは、図2のプロトコールにより調製し、ジアホラーゼ/レザズリン読み出しでアッセイした。グラフでは、相対蛍光強度(RFU)をD2HG濃度に対してブロットしている。急性骨髄性白血病(AML)に罹患した患者の血清測定を示す図である。このような患者は、D2HGの生成を引き起こすIDH1突然変異を担持する。ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC-MS)(単回測定)とジアホラーゼ/レザズリン読み出し(三連)を用いた本発明の酵素アッセイ法との比較。比較の際には、IDH1突然変異を担持しない健常者の血清を試験した。このサンプルはD2HG陰性であった。本発明の手段及び方法で利用可能である(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼを示す図である。生物、タンパク質長、及び各アクセッション番号を表示する。図10−1の続き。図10−2の続き。(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を測定するために、ジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法で用いた試薬及び濃度をそれぞれ示す図である。ジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法(二連)を用いて測定した、(D)-2-ヒドロキシアジピン酸水溶液の標準曲線を示す図である。PMS/XTTアッセイ法(三連)を用いて測定した、(D)-2-ヒドロキシアジピン酸水溶液の検出を示す図である。 2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患について臨床スクリーニングする際に、2-ヒドロキシグルタル酸(2HG)の測定でこれまで一般的に用いられてきたGC-MS(ガスクロマトグラフィー-質量分析法)は、2-ヒドロキシグルタル酸の2つのエナンチオマーを区別することができない、すなわち、両エナンチオマーが前記方法により検出される。従って、GC-MSには、例えば個々のエナンチオマーを識別するキラルクロマトグラフィーカラムを用いる更なる分析ステップが続けて行われなければならない。更に、GC-MSは、主に分析用のサンプルを調製する際に手間と時間がかかることから高価である。従って、GC-MS分析結果が入手可能になるまで約1.5日かかる。更に、GC-MSはハイスループットサンプル分析に適さない。 これに対して、本発明の方法は、2-ヒドロキシグルタル酸のD-(又はR-)エナンチオマー、すなわち(D)-2-ヒドロキシグルタル酸(D2HG)を個別に測定する単純で堅牢な酵素分析法を提供する。更に、前記方法は、約2〜3時間で実施可能なので迅速である。更に、同方法は96ウェルフォーマットに適し、更に384ウェルフォーマットに小型化することさえ可能であり、これにより、非常に多くのサンプルを同時に並行分析することが可能となる。 本発明は更に、サンプル中の(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を検出する方法に関し、同方法は、 a)サンプルを、 (i)溶媒と、 (ii)酸化状態及び前記酸化状態と区別可能である還元状態を有し、当初は酸化状態で存在する色素と、 (iii)電子移動剤と、 (iv)(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素と、 (v)補助因子と、を含む試薬混合物と接触させるステップ、 b)前記色素の還元状態の生成を測定することにより、(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を検出するステップを含む。 最近、アジピン酸の生物工学的製造方法が、Parthasarathy及び共同研究者により仮定されている(Parthasarathyら、Biochemistry、2001年5月3日、第50巻(17): 3540〜50頁; Biochemistryの正誤表、2011年5月24日、第50巻(20): 4392頁)。アジピン酸は、ポリアミドナイロン-6,6、及びいくつかのポリエステルの構成成分である。(D)-2-ヒドロキシアジピン酸は、アジピン酸に関する上記生物工学的製造方法の中間体であるので、本発明の(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を検出する方法は、例えば前記製造方法又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸が中間体として用いられるアジピン酸を製造する任意のその他の製造方法をモニタリングするのに利用可能である。例えば、ホモイソクエン酸デヒドロゲナーゼの活性部位における特定の残基を突然変異させることにより、特異的な(R)-2-ヒドロキシアジピン酸デヒドロゲナーゼが取得可能であることが最近判明した(Reitmanら、Nature Chemical Biology (2012年)第8巻: 887〜889頁)。前記(R)-2-ヒドロキシアジピン酸デヒドロゲナーゼは、アジピン酸生成のための重要なステップである2-オキソアジピン酸から(R)-2-ヒドロキシアジピン酸への変換を触媒することができる。 更に、本発明は、対象の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患を診断及び/又はモニタリングする方法に関し、同方法は、 a)前記対象のサンプルを、 (i)溶媒と、 (ii)酸化状態及び前記酸化状態と区別可能である還元状態とを有し、当初は酸化状態で存在する色素と、 (iii)電子移動剤と、 (iv)(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素と、 (v)補助因子と、を含む試薬混合物と接触させるステップ、 b)前記色素の還元状態の生成を測定することにより、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸を検出し、これにより前記対象の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患を診断及び/又はモニタリングするステップを含む。 好ましくは、ステップb)で検出された(D)-2-ヒドロキシグルタル酸の量は、IDH1遺伝子、IDH2遺伝子又はD2HGデヒドロゲナーゼ酵素遺伝子内に突然変異を担持しない健康な対象又は健康な対象のコホートに由来する(D)-2-ヒドロキシグルタル酸の参照量と比較される。この参照量は、各遺伝子について2つの野生型対立遺伝子を有する健康な対象の血清中、GC/MSにより測定した場合、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸約6μMである。ステップb)で検出された試験対象のサンプル中の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸の量が、この参照量を超える場合には、前記対象は(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患を有することが示される。本発明の方法は、2-ヒドロキシグルタル酸のD-(又はR-)エナンチオマー、すなわち(D)-2-ヒドロキシグルタル酸(D2HG)について特異的な検出を可能にするので、前記方法は、対象の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患を診断及び/又はモニタリングするのに利用可能である。好ましい実施形態では、前記(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患は、主にびまん性神経膠腫、急性骨髄性白血病(AML)、軟骨肉腫、肝内胆管癌及び血管免疫芽球性T細胞性リンパ腫からなる群より選択される腫瘍性疾患である。(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連の甲状腺癌は稀な症例ではあるが、この症例も記載されている。更に、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患には、非腫瘍性グルタル酸尿症、コハク酸セミアルデヒドデヒドロゲナーゼ(SSADH)欠損症、オリエ病及びマフッチー症候群が含まれる。好ましくは、前記びまん性神経膠腫は、星状細胞腫WHOグレードII(AII)、希突起膠腫WHOグレードII(OII)又は乏突起星細胞腫WHOグレードII(OAII)である。びまん性神経膠腫は、退形成性星状細胞腫WHOグレードIII(AIII)、退形成性希突起膠腫WHOグレードIII(OIII)及び退形成性乏突起星細胞腫WHOグレードIII(OAIII)を含む悪性退形成変異体(anaplastic variant)でも生ずる。すべてのびまん性神経膠腫は、極めて悪性の続発性神経膠芽腫に進行する可能性がある。 「星状細胞腫」は、星状細胞分化能を有する脳内前駆体細胞に起因する神経膠腫である。正常な星状細胞は、これらの前駆体細胞に由来すると考えられている。星状細胞の生理学的役割は、神経細胞のために情報及び栄養分を貯蔵することである。希突起膠腫は、柔らかく灰色がかったピンク色の腫瘍である。これは、多くの場合、石灰化と呼ばれる主にカルシウムである硬質の無機性沈積物を含む。「乏突起星細胞腫」は、本明細書で用いる場合、「混合型神経膠腫」であり、星状細胞分化及び乏突起膠細胞分化を伴う両方の腫瘍細胞を含有する。びまん性神経膠腫は、本明細書のいずれかでより詳細に特徴づけられる。当業者であれば理解するように、本発明の前記方法は、更なる(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患又は障害、例えば腫瘍性疾患又は神経代謝性障害を見つける又はスクリーニングするのに利用可能である。好ましくは、前記疾患又は障害は、IDH及び/又はD2HGデヒドロゲナーゼ遺伝子の突然変異と関連する。 本発明は更に、対象のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)遺伝子及び/又は(D)-2-ヒドロキシグルタル酸(D2HG)デヒドロゲナーゼ酵素遺伝子内の突然変異を診断する方法に関し、同法は、 a)前記対象のサンプルを、 (i)溶媒と、 (ii)酸化状態及び前記酸化状態と区別可能である還元状態を有し、当初は酸化状態で存在する色素と、 (iii)電子移動剤と、 (iv)(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素と、 (v)補助因子と、を含む試薬混合物と接触させるステップ、 b)前記色素の還元状態の生成を測定することにより、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸を検出するステップを含み、前記対象のサンプル中の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸の存在により、前記対象のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)遺伝子及び/又は(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素遺伝子における突然変異が示される。 イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)遺伝子及び/又は(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素遺伝子中の突然変異は、例えば前記遺伝子(複数可)内の対応するエクソンのDNA配列決定又は当技術分野において公知のその他の方法により検出可能である。 好ましくは、前記イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)突然変異は、ヒトIDH1遺伝子、及び/又はヒトIDH2遺伝子、及び/又はヒトD2HGデヒドロゲナーゼ酵素遺伝子中の突然変異である。 約70〜90%、おそらくは最大100%ものびまん性神経膠腫患者(AII、AIII、OII、OIII、OAII、OAIII、又は続発性神経膠芽腫に罹患した)は、IDH1及び/又はIDH2遺伝子に突然変異を担持する(Parsonsら、2008年、Science第321巻、1807〜1812頁; Balssら、2008年、Acta Neuropathol.、第116巻: 597〜602頁; Hartmannら、2009年、Acta Neuropathol.、第118巻: 469〜474頁)。IDH突然変異は、急性骨髄性白血病(AML)(IDH1: 6〜8.5%; IDH2: 8.7〜11%)、及び血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(Abbasら、2010年、Blood、第116巻: 2122〜2126頁; Mardisら、2009年、New England Journal of Medicine、第361巻: 1058〜1066頁; Paschkaら、2010年、J. Clin. Oncol.、第28巻: 3636〜3643頁; Schnittgerら、2010年、Blood、第116巻: 5486〜5496頁; Cairnsら、前掲)、軟骨肉腫(56%)(Amaryら、2011年、J. Pathol.、第224巻: 334〜343頁)、及び肝内胆管癌(Borger、前掲)においても同定可能であった。AMLでは、IDH1及びIDH2の両遺伝子中に突然変異を有する2症例が報告されている(Abbasら、前掲)。極稀ではあるが、IDH中の突然変異が、甲状腺癌(約0.1%)及び結腸癌で報告されている(Sjoblomら、2006年、Science第314巻: 268〜274頁)。 好ましくは、前記突然変異は、表1に示すように又は本明細書のいずれかで記載するように点突然変異である。表1: IDH1及びIDH2の突然変異、並びに種々の腫瘍性疾患での突然変異の発生。 IDH2では、40アミノ酸のミトコンドリアシグナル配列が存在するので、IDH1における残基(R)100番及び132番のアミノ酸の位置は、IDH2における位置140番及び172番にそれぞれ対応する。生ずるアミノ酸交換を頻度別に並べ替えて、すなわち左側の突然変異が最も高頻度の突然変異を表すように括弧内に示す。 AMLは、IDH1の位置132番でアルギニン(R)がシステイン(C)、ヒスチジン(H)、セリン(S)、バリン(V)、ロイシン(L)又はグリシン(G)に置換した点突然変異と関連することが判明している。 軟骨肉腫は、IDH1の位置132番でアルギニン(R)がシステイン(C)、グリシン(G)、ヒスチジン(H)、ロイシン(L)又はセリン(S)に置換した点突然変異と関連することが判明している。 結腸癌細胞系統では、グリシン(G)がアスパラギン酸(D)に置換するIDH1の位置97番において、点突然変異が同定された(Sjoblomら、前掲)。 びまん性神経膠腫は、(i)IDH1の位置100番でアルギニン(R)がグルタミン(Q)に置換した点突然変異、及び/又は(ii)IDH1の位置132番でアルギニン(R)がヒスチジン(H)、システイン(C)、セリン(S)、バリン(V)、ロイシン(L)若しくはグリシン(G)に置換した点突然変異と関連することが判明している。 ヒトIDH1の核酸配列及びアミノ酸配列は、アクセッション番号NP_005887.2に示されている。 AMLは、(i)IDH2の位置140番でアルギニン(R)がグルタミン(Q)若しくはトリプトファン(W)と置換した点突然変異、及び/又は(ii)位置172番でアルギニン(R)がトリプトファン(W)、リジン(K)若しくはセリン(S)と置換した点突然変異と関連することが更に判明している。 軟骨肉腫は、IDH2の位置172番でアルギニン(R)がセリン(S)と置換した点突然変異と関連することが判明している。 びまん性神経膠腫は、(i)IDH2の位置140番でアルギニン(R)がグルタミン(Q)と置換した点突然変異、及び/又は(ii)位置172番でアルギニン(R)がトリプトファン(W)、リジン(K)若しくはセリン(S)と置換した点突然変異と関連することが判明している。 ヒトIDH2の核酸配列及びアミノ酸配列は、アクセッション番号NP_002159.2に示されている。 (D)-2-ヒドロキシグルタル酸尿症は、IDH2遺伝子又はD2HGデヒドロゲナーゼ遺伝子の突然変異が、D2HGの身体内蓄積及び後続するD2HGの尿中排泄を引き起こす遺伝性疾患である。好ましい(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素遺伝子は、アクセッション番号NP_689996.4に示されている。好ましい突然変異として、Kranedijk(前掲)及びKolkerら(前掲)により記載されているものが挙げられる。 多数のびまん性神経膠腫が、IDH1 R132H特異抗体を用いる免疫組織学的分析により診断可能であるが(Capperら、2009年、Acta Neuropathol.、第218巻: 599〜601頁; Capperら、2011年、International Journal of Cancer/Journal International Du Cancer, doi:10.1002/ijc26425)、IDH遺伝子のその他の突然変異は、現時点では、対応するエクソンのDNA配列決定によってのみ検出可能である。有利なこととして、本発明の方法は、対象におけるイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)遺伝子突然変異及び/又はD2HGデヒドロゲナーゼ遺伝子突然変異の迅速診断を可能にする新規で簡便なアッセイを提供する。かかる突然変異は、腫瘍性疾患、例えば、びまん性神経膠腫、AML、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、軟骨肉腫、肝内胆管癌等、並びに稀に甲状腺癌及び結腸癌;又は神経代謝性障害のグルタル酸尿症(I型)、例えば(D)-2-ヒドロキシグルタル酸尿症、並びに本明細書のいずれかに記載するその他の疾患及び症候群に見出される。 当業者にとって明白なように、本発明の方法は、上記遺伝子におけるこれまで未知の突然変異、例えば、限定するものではないが、追加の点突然変異、フレームシフト突然変異、ナンセンス突然変異、挿入、欠失又はスプライスバリアントを更に同定するために利用可能である。これを目的として、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸を、本発明の方法により、色素の還元状態の生成を測定することにより検出可能である。対象のサンプル中の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸の存在により、前記対象のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)遺伝子及び/又は(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素遺伝子内の突然変異が示される。イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)遺伝子又は(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素遺伝子における対応する突然変異は、例えば前記遺伝子のエクソンを配列決定することにより同定可能である。配列決定法は、当技術分野において周知である;例えば、Molecular cloning: A laboratory manual / Sambrook、Joseph; Russell, David W.、第3版、New York: Cold Spring Harbor Laboratory、2001年を参照のこと。 「点突然変異」は、本明細書で用いる場合、単一のヌクレオチドが別のものに置き換わることを意味する。翻訳後のタンパク質では、前記のようにヌクレオチドの交換が生じると、アミノ酸の交換を引き起こす場合があり、それは次のように分類可能である:(i)ヌクレオチド交換が、同一のアミノ酸をコードするサイレント突然変異、(ii)ヌクレオチド交換が、異なるアミノ酸をコードするミスセンス突然変異、又は(iii)ヌクレオチド交換が停止コドンをコードし、タンパク質をトランケートし得るナンセンス突然変異。「挿入」は、本明細書で用いる場合、1つ以上の余分なヌクレオチドをDNAに付加する。遺伝子のコード領域への挿入は、mRNAのスプライシングを変化させる可能性がある(スプライス部位突然変異)、又はリーディングフレームがシフトする(フレームシフト)原因となり、そのいずれも遺伝子産物を顕著に変化させ得る。「欠失」は、本明細書で用いる場合、DNAから1つ以上のヌクレオチドを除去する。挿入のように、このような突然変異は、遺伝子のリーディングフレームを変化させ得る。 用語「2-ヒドロキシグルタル酸」(2HG)又は「2-ヒドロキシグルタレート」又は「α-ヒドロキシグルタル酸」は、本明細書で参照する場合、α-ヒドロキシ酸である。対応するCAS番号は2889-31-8である。ヒトでは、本化合物は、ヒドロキシ酸-オキソ酸トランスヒドロゲナーゼにより形成され、一方、細菌では、2-ヒドロキシグルタル酸シンターゼにより形成される。本化合物は、ヒトでは、D2HGDH及びL2HGDHと呼ばれる2種類の酵素である2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼの作用により、αケトグルタル酸に変換され得る。これら2種類の酵素のいずれかが欠失すると、本明細書のいずれかでより詳細に記載するように、2-ヒドロキシグルタル酸尿症として知られている神経代謝性疾患が引き起こされる。 用語「(D)-2-ヒドロキシグルタル酸」若しくは「(D)-2-ヒドロキシグルタレート」若しくは「D2HG」又は「(R)-2-ヒドロキシグルタル酸」若しくは「(R)-2-ヒドロキシグルタレート」は、本明細書で用いる場合、2-ヒドロキシd-グルタル酸のD-立体異性体を意味する。対応するCAS番号は636-67-9である。多量の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸が組織に蓄積する場合、そのような蓄積は遺伝性の神経代謝性障害「(D)-2-ヒドロキシグルタル酸尿症」の生化学的な特徴である。(D)-2-ヒドロキシグルタル酸尿症の主な特徴は、発達遅延、発作、筋緊張の減弱(筋緊張低下症)、及び多くの重要な機能、例えば、筋肉運動、発語、視力、思考、感情及び記憶等を制御する脳の最も大きな部分(大脳)の異常である。(D)-2-ヒドロキシグルタル酸尿症の症状は、重度又は軽度であり得る。重度型の発現は、通常生後6ヶ月前に生ずる。本疾患の主な特徴に加えて、重度型の兆候及び症状として、エネルギーの喪失(傾眠)、嘔吐のエピソード、突出した額又は非常に小さい下顎(小顎症)等の顔面の異常、視力異常、脆弱化及び肥大化した心臓(心筋症)、並びに呼吸異常が通常挙げられる。(D)-2-ヒドロキシグルタル酸尿症の軽度型の発現は、一般的に生後6ヶ月〜3歳で生ずる。この型の症状は変化しやすいが、通常発作及び軽微な発達遅延が含まれる。稀な場合には、症状は非常に軽度のため異常が認められない。(D)-2-ヒドロキシグルタル酸尿症の併発は、本明細書で用いる場合、用語「(D)-2-ヒドロキシグルタル酸尿症」に含まれる。 (D)-2-ヒドロキシグルタル酸は、びまん性神経膠腫、AML、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、軟骨肉腫、肝内胆管癌、及び頻度は低いが甲状腺癌又は結腸癌に罹患した患者でも生成される。本明細書のいずれかに記載するように、イソクエン酸デヒドロゲナーゼ遺伝子IDH1及び/又はIDH2の突然変異は、前記腫瘍性疾患の一般的な特徴である。本発明の方法は、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸を特異的に検出することにより、上記疾患及び/又はIDH遺伝子若しくはD2HGデヒドロゲナーゼ遺伝子中の突然変異を診断するのに利用可能である。 用語「(L)-2-ヒドロキシグルタル酸」若しくは「(L)-2-ヒドロキシグルタレート」又は(S)-2-ヒドロキシグルタル酸」若しくは「(S)-2-ヒドロキシグルタレート」は、本明細書で用いる場合、2-ヒドロキシグルタル酸のL-立体異性体を意味する。対応するCAS番号は13095-48-2である。(L)-2-ヒドロキシグルタル酸は、「L-2-ヒドロキシグルタル酸尿症」(神経代謝性障害、OMIM 236792)において蓄積し、また錐体外路及び小脳の兆候、発作を伴う進行性神経変性の臨床表現型、そして白質における海綿状の変化(OMIM 600721)、また脊椎内軟骨異形成(OMIM 271550)を有する複数の患者で報告されている代謝物である。(L)-2-ヒドロキシグルタル酸尿症は、脳、特に運動協調に関係する領域である小脳にも傷害を与える。その結果、罹患者は平衡及び筋協調(運動失調)に問題を有する。追加の兆候及び症状として、知的能力障害、発作、発語障害、低身長、及び異常に大きな頭部(大頭症)が挙げられる。一般的に、本障害の兆候及び症状は、幼児又は幼児学令前期において開始する。(L)-2-ヒドロキシグルタル酸尿症の症状は、通常ゆっくりと進行するが、成人期初期までに重度の能力障害が生ずる。場合によっては、症状の発現は、青年期又は成人期まで遅延し、また症状は、幼児期に開始する症例と比較して、これよりも軽度の傾向を有する。 (D)-2-ヒドロキシグルタル酸尿症及び(L)-2-ヒドロキシグルタル酸尿症の併発が小数の幼児で報告されている。兆候及び症状は重度で、また生後1ヶ月以内で生ずる。 サンプル中の2HGのキラリティは、当技術分野において公知の方法、例えばDangら、2009年(前掲)が記載するようなジアセチル-L-酒石酸無水物の誘導体化及びLC-MS分析により評価又は確認可能である。例えば、サンプル中の2HGのキラリティを測定するために、2HGは、ジアセチル-L-酒石酸無水物により誘導体化され得るが、これは次に、逆相LCによる2HGの(S)及び(R)エナンチオマー分離を可能にし、またタンデム型質量分析法による生成物の検出を可能にする。2HGの(S)及び(R)異性体に対応するピークは、例えばラセミ体及び(R)-2HG又は(S)-2HG標準を用いることにより確認可能である。2HG又は2-ヒドロキシアジピン酸ナンチオマー(複数可)のどちらがサンプル中に存在するかを特異的に測定するのに利用可能な更なる方法として、GC-MS、HPLC又はMSが挙げられる。 用語「α-ケトアジピン酸」又は「2-オキソアジペート」又は「2-オキソヘキサン二酸」は、本明細書で用いる場合、リジン及びトリプトファンの代謝中間体である。対応するCAS番号は3184-35-8である。α-ケトアジピン酸に関する更なる情報が、例えばParthasarathyら、Biochemistry、2001年5月3日、第50巻(17): 3540〜50頁; Biochemistryの正誤表、2011年5月24日、第50巻(20): 4392頁に見出すことができる。要約すると、この試験では、3つの酵素、アシダミノコッカス・フェルメンタンス(Acidaminococcus fermentans)由来の2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ及びグルタコン酸CoA-トランスフェラーゼ、並びにクロストリジウム・シンビオサム(Clostridium symbiosum)由来の2-ヒドロキシグルタリル-CoAデヒドラターゼが、2-オキソアジペートを2-ヘキセン二酸に変換することができるか、その可否を特に分析した。この不飽和ジカルボン酸を還元するとアジピン酸(ヘキサン二酸)が得られ、アジピン酸は、2008年には世界規模で2.4百万トンの量がベンゼンから化学的に製造されている。アジピン酸は、ポリアミドナイロン-6,6及びいくつかのポリエステルの構成成分である。 用語「(D)-2-ヒドロキシアジピン酸」若しくは「(R)-2-ヒドロキシアジピン酸」又は「(D)-2-ヒドロキシアジペート」若しくは「(R)-2-ヒドロキシアジペート」は、本明細書で用いる場合、2-ヒドロキシアジピン酸(2-ヒドロキシアジペート又は2-ヒドロキシヘキサン二酸)のD(又はR)立体異性体であり、そのCAS番号は18294-85-4である。興味深いことに、2-ヒドロキシアジピン酸及び2-ヒドロキシグルタル酸の濃度は、野生型マウスと比較してIL10-/-マウスの尿中では低いことが最近の試験で判明した(Linら、Journal of Proteome Research (2009年)、第8巻、2045〜2057頁)。(D)-2-ヒドロキシアジピン酸は、真菌におけるリジン生合成中間体の(2R,3S)-ホモイソクエン酸から、ホモイソクエン酸デヒドロゲナーゼによりNADPH依存性反応で生成される。更に、これは、アジピン酸の仮定されたバイオベースの産生アッセイにおける中間体である; Parthasarathyら(前掲)を参照。更なる情報は、Reitmanら、Nature Chemical Biology (2012年)第8巻: 887〜889頁に見出すことができる。 本発明の方法による用語「診断すること」には、本明細書に記載する(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患、それに関する症状又はリスクの検出、モニタリング、確認、細分類、及び予測が含まれる。用語「検出する」は、本明細書で用いる場合、本明細書で参照するような(D)-2-ヒドロキシグルタル酸若しくは(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患、又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の有無を発見若しくは確認することを意味する。このために、例えば下記の実施例で示すように、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患に罹患していると思われる対象のサンプル中の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸の量が、本発明の方法により測定可能である。用語「モニタリングすること」は、本明細書で用いる場合、すでに診断した(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患又は合併症の監視を継続すること、例えば、疾患の進行若しくは結果を分析する、又は特定の治療が疾患若しくは合併症の進行に与える影響を分析することと関連する。例えば、前記のモニタリングすることは、本明細書で参照するような腫瘍性疾患又は神経代謝性疾患を検出及び/又は追跡するために、患者サンプル中の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸の濃度又は量の変化についてスクリーニングすることを含む。前記(D)-2-ヒドロキシグルタル酸(D2HG)の濃度又は量の変化は、例えば記載した化合物の量の増加又は減少であり得る。好ましくは、増加又は減少は、過去のある時点で求められた前記化合物の量と比較して少なくとも5%、10%、15%、20%、25%、30%、又はそれ以上の変化である。例えば、D2HGの量は、治療の有効性を確認又は監視するために、様々な時点(T)T0、T1、T2、T3等において測定可能である。本明細書で参照するようなD2HG関連疾患に罹患した患者サンプル中のD2HG量の統計的に有意な増加は、前記疾患の増悪を示し得る、又は前記疾患の再発の兆候であり得る。本明細書で参照するようなD2HG関連疾患に罹患した患者サンプル中のD2HG量の統計的に有意な減少は、例えば前記疾患の適切な治療による前記疾患の改善を示す。D2HG量の増加又は減少が統計的に有意かどうかその有意性は、様々な周知の統計評価ツール、例えば、信頼区間決定、p値決定、スチューデントのt検定、マン-ホイットニー検定等を用いて当業者により判定可能である。詳細は、Dowdy及びWearden、Statistics for Research、John Wiley & Sons、New York、2004年に見出される。好ましい信頼区間は、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも96%、少なくとも97%、少なくとも98%又は少なくとも99%である。p値は、好ましくは0.1、0.05、0.01、0.005又は0.0001である。(D)-2-ヒドロキシアジピン酸は、アジピン酸の生物工学的製造方法において中間体として利用可能である。従って、本発明の(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の検出方法は、例えば、前記生物工学的製造方法、又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸が中間体として用いられるアジピン酸を製造するための任意のその他の方法をモニタリングするのに利用可能である。「確認」は、各疾患の代表的な症状又はその他の指標若しくはマーカーを用いてすでに実施されている診断を強化又は裏付けることと関連する。「細分類」は、診断対象疾患の異なるサブクラスに診断を更に規定する、例えば軽度型及び重度型の疾患に規定することと関連する。「予測」は、その他の症状又はマーカーが明白となる又は有意に変化する前の、疾患又は合併症の予後判定と関連する。 用語「対象」は、本明細書で用いる場合、動物、好ましくは哺乳動物、より好ましくはヒトと関連する。対象が本明細書で参照するような(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患に罹患していると思われる又は罹患しているヒト患者であるのが好ましい。ヒト患者は、年齢が18歳を超える成人患者だけでなく、年齢が18歳又は18歳未満の小児患者も該当し得る。用語「小児患者」は、本明細書で参照する場合、新生児も含む。新生児は、生まれてから数時間、数日、又は最大数週間以内の乳児である。医学的文脈においては、生まれたばかりの児又は新生児は、多くの場合、生後最初の28日内の赤子を意味する。「小児患者」は、本明細書で用いる場合、18歳を含む最年長18歳の子供を更に含む。子供は、より具体的には、乳児(年齢1ヶ月〜12ヶ月)、年齢が1〜9歳のより若年の子供、及びより高年齢の子供及び未成年者(10〜18歳)に再分類化され得る。用語「乳児(infant)」は、「会話不能」又は「無言」を意味するラテン語のinfantに由来する。乳児は、年齢が1ヶ月〜12ヶ月の間の子供に一般的に適用される;但し、定義は出生〜3歳の間で変化する。ヒトの乳幼児期前の発達段階は、胎児期(prenatal)又は胎児期(fetal)として記載される。 本明細書で用いる場合、「X〜Y」として定義される時間間隔は、「X及びYの間」として定義される時間間隔と等しい。いずれの時間間隔も、具体的には、上限及び下限も含まれる。これは、例えば時間間隔「1ヶ月から12ヶ月の年齢」には、「1ヶ月」及び「12ヶ月」、並びにその間の任意の時間間隔が含まれることを意味する。この定義は、必要な変更を加えて本明細書で示すあらゆる数値範囲、例えば、濃度範囲、pH範囲、容積範囲等にも当てはまる。 本発明の方法は、胎児が(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患に罹患しているか確認するために、胎児由来の細胞に対して、妊娠期間中の酵素的試験法として有利に利用可能である。この試験に必要とされる胎児のサンプルは、例えば柔毛膜柔毛サンプリング(CVS)又は羊水穿刺のいずれかにより、取得可能である。更に、本発明の前記方法は、新生児が(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患を有するか分析するために、新生児スクリーニングで利用可能である。更に、いくつかの腫瘍性疾患は、IDH又はD2HGデヒドロゲナーゼ遺伝子の突然変異に起因する(D)-2-ヒドロキシグルタル酸の生成と関連するので、本発明の方法は、例えば、びまん性神経膠腫、軟骨肉腫、急性骨髄性白血病(AML)、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、肝内胆管癌又は甲状腺癌若しくは結腸癌を診断及び/又はモニタリングするのに利用可能である。更に、本発明の方法は、記載する遺伝子の突然変異と関連する更なる腫瘍性疾患又は神経代謝性疾患を見つけるのに利用可能である。 用語「腫瘍」又は「腫瘍性疾患」又は「腫瘍性障害」は、本明細書で用いる場合、例えば無秩序な増殖に起因して、細胞がしかるべき分裂を超えて分裂する、又は例えば無秩序なアポトーシスに起因して、細胞が死ぬべき時に死なないような結果を招く、組織の異常な塊を意味する。腫瘍は、良性(癌ではない)、又は悪性(癌)であり得る。腫瘍は、新生物とも呼ばれる。好ましくは、本明細書で参照するような用語「腫瘍」又は「腫瘍性疾患」又は「腫瘍性障害」は、神経膠腫を、より好ましくは、びまん性神経膠腫、軟骨肉腫、急性骨髄性白血病(AML)、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫、肝内胆管癌及び甲状腺癌又は結腸癌を含む。当業者とって明白なように、IDH1及び/若しくはIDH2並びに/又はD/L2HGDH遺伝子中の突然変異を担持する更なる腫瘍が、本発明の手段及び方法により将来的に同定され得る。 「びまん性神経膠腫」は、本明細書で参照する場合、脳又は脊髄のグリア細胞又はその前駆体から発生するすべての新生細胞の増殖を意味する。神経膠腫は、これが主に星状細胞又は乏突起膠細胞の形態を示すかどうか、その形態に基づき組織学的に分類され、またこれは、細胞充実性、核異型、壊死、有糸分裂像及び微小血管増殖、すなわち生物学的に侵襲性の挙動と関連したすべての特徴によりグレード決定される。神経膠腫は、異なる形態(分類の基準)において、及びWHOグレードI〜WHOグレードIVの範囲の異なるグレードにおいて発現する可能性があり、良性から半悪性を経由し悪性そして高度に悪性までの臨床的挙動を示す。良性神経膠腫は、脳の浸潤をほとんど示さず、また増殖が遅く、WHOグレードIに通常グレード決定される。とりわけ、この群には若年性毛様細胞性星細胞腫が含まれる。半悪性神経膠腫には、WHOグレードIIのびまん性星状細胞腫、希突起膠腫及び乏突起星細胞腫が含まれ、びまん性に浸潤し、また中等度の増殖速度を示す。悪性神経膠腫には、星状細胞腫、希突起膠腫及び乏突起星細胞腫の退形成的バージョンが含まれ、すべてWHOグレードIIIにグレード決定され、びまん性浸潤及びかなりの増殖も示す。高度に悪性神経膠腫には、原発性及び続発性神経膠芽腫WHOグレードIVが含まれる。 2007年に、WHOは、中枢神経系に影響を及ぼす新生物の網羅的分類の最新版を承認した。脳腫瘍の分類は、腫瘍はその種類毎に、特異的な細胞型の異常増殖に起因するという前提に基づく。腫瘍の挙動は、基本的な細胞型と相関するという範囲において、腫瘍の分類は、治療法の選択を決定づけ、また予後を予測する。新しいWHOシステムは、こうしたことから特に有用であり、注目すべき例外は数例にすぎない(例えば、すべての又はほとんどすべての大円形細胞性星状膠腫は実際に退形成的であり、従ってWHOシステムが指定するようなグレードIIではなく、むしろグレードIII又はIVに該当する)。WHO分類は、腫瘍の種類毎に並列のグレード決定システムも提供する。このグレード決定システムでは、ほとんどの命名された腫瘍は、単一の規定グレードを有する。WHO分類は、米国及び全世界の異なるセンター間で情報伝達するための基準を提供する。この分類の概要を以下に記載する。 WHO分類によれば、神経膠腫は、4つのグレード(WHOグレードI、II、III及びIV)に分類され、また治療及び予後は、腫瘍グレードに依存する(Claus及びBlack、2006年、Cancer、第106号: 1358頁)。より一般的なサブタイプは、びまん性星状細胞腫である。このような腫瘍は、通常30代後半の個人において診断される。毛様細胞性星状細胞腫は、多くの場合25歳より若年の人々で生ずる腫瘍である。希突起膠腫は、低速増殖性の腫瘍であり得る腫瘍である。混合型の神経膠腫は、様々な腫瘍サブタイプ、例えばびまん性星状細胞腫及び希突起膠腫の混合物から構成される。これらの腫瘍は、びまん性星状細胞腫に類似して挙動する傾向を有する。本明細書で参照するようなびまん性神経膠腫は、好ましくは、星状細胞腫WHOグレードII、退形成性の星状細胞腫WHOグレードIII、希突起膠腫WHOグレードII、退形成性の希突起膠腫WHOグレードIII、乏突起星細胞腫WHOグレードII、退形成性の乏突起星細胞腫WHOグレードIII及び続発性神経膠芽腫WHOグレードIVを意味する。 星状細胞神経膠腫は、WHOシステムにより下記のように分類可能である:原形質性、肥胖細胞性の線維性変異体を伴う星状細胞腫WHOグレードII、半球状、間脳性、眼性、脳幹及び小脳に更に分類可能な退形成性(悪性)星状細胞腫WHOグレードIII、巨細胞神経膠芽腫及び神経膠肉腫変異体を伴う、原発性及び続発性の神経膠芽腫WHOグレードIV、半球状、間脳性、眼性、脳幹及び小脳に更に分類可能な毛様細胞性星状細胞腫WHOグレードI、並びに上衣下巨細胞星状細胞腫WHOグレードI及び多形性黄色星状膠細胞腫WHOグレードI。 乏突起膠細胞性神経膠腫(Oligodendroglialglioma)は、WHOシステムにより下記のように分類可能である:希突起膠腫WHOグレードII及び退形成性希突起膠腫WHOグレードIII、乏突起星細胞腫WHOグレードII及び退形成性乏突起星細胞腫WHOグレードIII。乏突起星細胞腫及び混合型神経膠腫の用語は類義語として用いられる。 上衣神経膠腫(ependymalglioma)は、WHOシステムにより下記のように分類可能である:細胞性、乳頭状、上皮性、明細胞及び混合型の変異体を伴う上衣腫WHOグレードII、退形成性上衣腫WHOグレードII、粘液乳頭状上衣腫WHOグレードI、並びに上衣下細胞腫WHOグレードI。 不明確な系列の神経膠腫は、WHOシステムにより下記のように分類可能である:極性海綿芽細胞腫WHOグレードIV、星状芽細胞腫WHOグレードIV、及び大脳神経膠腫症WHOグレードIV。 脈絡叢の腫瘍は、WHOシステムにより下記のように分類可能である:脈絡叢乳頭腫、脈絡叢癌(退形成性の脈絡叢乳頭腫)。 神経細胞性腫瘍及び混合型神経細胞-膠細胞腫瘍(mixed neuronal-glial tumor)は、WHOシステムにより下記のように分類可能である:神経節細胞腫、小脳異形成性神経節細胞腫(レルミット・ダクロス病)、神経節膠腫、退形成性(悪性)神経節膠腫、線維形成性幼児星状細胞腫(desmoplastic infantile astrocytoma)を含む線維形成性幼児神経節神経膠腫(desmoplastic infantile ganglioglioma)、中枢性神経細胞腫(dentral neurocytoma)、胚芽異形成性神経上皮腫瘍、嗅神経上皮腫を含む嗅神経芽細胞腫(鼻腔神経芽細胞腫)。 松果体腫瘍は、WHOシステムにより下記のように分類可能である:松果体細胞腫、松果体芽腫、及び中分化型松果体実質腫瘍、松果体領域の乳頭腫瘍。 胚芽腫は、WHOシステムにより下記のように分類可能である:髄上皮腫;髄芽筋芽細胞腫、メラニン細胞髄芽細胞腫(melanocytic medulloblastoma)、及び線維形成性髄芽細胞腫の変異体を含む髄芽細胞腫に該当する多分化能を有する原始神経外胚葉性腫瘍;並びに大脳原始神経外胚葉性腫瘍;神経節細胞芽腫変異体を含む神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、及び上衣芽腫。 神経膠腫は、正式にはWHOシステムの一部ではないが、侵襲的又は非侵襲的としても細分類可能であり、非侵襲的腫瘍タイプを以下に示す。 その他のCNS新生物には、脳下垂体腺腫、脳下垂体癌、及び頭蓋咽頭腫を含むトルコ鞍部(sellar region)領域の腫瘍;原発性悪性リンパ腫、形質細胞腫等を含む造血性腫瘍が含まれる。胚細胞腫、胎生期癌、卵黄嚢腫瘍(内胚葉洞腫瘍)、絨毛癌、テラトーマ、及び混合型胚細胞腫瘍を含む胚細胞腫瘍。髄膜上皮性、線維性移行性、砂腫状、血管腫性、小嚢胞性、分泌性、明細胞、脊索様、リンパ形質細胞に富んだ、異形成性のサブタイプ変異体を含む髄膜腫、異型髄膜腫、及び退形成性(悪性)髄膜腫に該当する髄膜の腫瘍。骨軟骨腫瘍、脂肪腫、線維性組織球腫等を含む、髄膜の非髄膜上皮性腫瘍。軟骨肉腫、血管外皮細胞腫、横紋筋肉腫、髄膜肉腫症等を含む悪性間葉腫瘍。びまん性メラノーシス褐色細胞腫及び髄膜黒色腫症(meningeal melanomatosis)変異体を伴う悪性メラノーマを含む原発性メラニン細胞病変。悪性リンパ腫、形質細胞腫(plasmactoma)及び顆粒球性肉腫を含む造血新生物。血管芽腫(毛細血管芽腫)を含む不明確な組織形成を認める腫瘍。細胞性、叢状性、及び黒色性のサブタイプを含むシュワン細胞腫(神経鞘腫、神経鞘腫)、限局性(孤立性)神経線維腫及び叢状神経線維腫を含む神経線維腫、上皮様、発散性間葉性(divergent mesenchymal)、又は上皮性の分化及び黒色性の変異体を含む悪性末梢神経鞘腫瘍に該当する頭部及び脊髄神経の腫瘍。傍神経節腫(ケモデクトーマ)、脊索腫、軟骨腫、軟骨肉腫、及び癌に該当する、局所腫瘍に由来する限局性の伸展。転移性の腫瘍。未分類の腫瘍。ラトケ嚢腫、類表皮腫、類皮腫、第三脳室のコロイド嚢胞、腸性嚢胞、神経膠嚢胞、顆粒細胞腫分離腫、下垂体細胞腫、視床下部ニューロンの過誤腫、鼻神経膠転位(nasal glial herterotopia)、及び形質細胞肉芽腫に該当する嚢胞及び腫瘍様の病変。 いくつかのその他のグレード決定システム、例えばSt. Anne/Mayo又はKernohanのグレード決定システムは、星状細胞系列の腫瘍(すなわち、星状細胞腫、退形成性星状細胞腫及び神経膠芽腫)について一般的に用いられる。これらのシステムでは、グレードは腫瘍の顕微鏡像にもっぱら基づき割り振られる。しかし、所与の腫瘍に割り振られた数値グレードは、どのグレード決定システムを用いたかによって変化し得る。従って、グレードを規定する際には、参照したグレード決定システムを特定することが重要である。St. Anne/Mayoのグレードでは、これまで一般的であった、Kernohanのグレード決定システムよりも、生存率において良好な相関を有することが証明されている。Anne/Mayoのグレードは、星状細胞系列の侵襲的腫瘍に限り適用可能であり、それ以外はWHOグレード決定システムと類似している。 要するに、本明細書で参照するような星状細胞腫瘍のWHOのグレード決定は以下のように要約可能である: 毛様細胞性星状細胞腫: WHOグレードI 星状細胞腫: WHOグレードII 退形成性(悪性)星状細胞腫: WHOグレードIII 神経膠芽腫: WHOグレードIV。 びまん性神経膠腫の診断及び治療法は当技術分野において公知である(Ferroliら、2010年、World Neurosurg第73巻: 234〜236頁; Hartmannら、2011年、Clinical Cancer Research第17巻: 4588〜4599頁; Mukasaら、Cancer Science: doi:10.1111/j.1349-7006.2011.02175.x; Sanai、Chang及びBerger、2011年、Journal of Neurosurgery第115巻: 948〜965頁; Sherman、Weintraub、Lopes及びSchiff、2011年、Primary Central Nervous System Tumors、173〜194頁、<http://www.springerlink.com/content/nrw13t1501v1wg33/>; Soffiettiら、2010年、European Journal of Neurology第17巻: 1124〜1133頁; Thonら、2012年、Cancer第118巻: 452〜460頁; van den Bentら、2010年、Clinical Cancer Research第16巻: 1597〜1604頁; Weller、2011年、Swiss Med Wkly第141巻、w13210)。 用語「急性骨髄性白血病(acute myeloid leukaemia)」(AML)は、「急性骨髄性白血病(acute myelogenous leukemia)」としても知られており、本明細書で用いる場合には血球の骨髄細胞系統の癌であり、骨髄に蓄積し、正常な血球の生成を妨害する異常白血球の急速な増殖により特徴付けられる。AMLは、成人が罹患する最も一般的な急性白血病であり、その罹患率は年齢と共に増加する。米国では毎年、約12,000人の成人が急性骨髄性白血病(AML)と診断され、メジアン年齢は67歳である。治療法及び支持療法が進歩したにもかかわらず、大部分のAML患者はその疾患により死亡する。急性前骨髄球性白血病は、AMLを有する成人の約10%を占め、これはこの一般的な説に対する重要な例外である。このサブタイプでは、ここでは詳細には検討しないが、75%を超える患者がアントラサイクリンに基づく化学療法、全トランス型レチノイン酸、及び三酸化砒素の併用により治癒する。一部のAPL患者では、細胞傷害性化学療法を一切取り除き、砒素及び全トランス型レチノイン酸単独で治癒を実現することが可能である。その他のすべてのAMLサブタイプの場合、初期治療の主流は、シトシンアラビノシド(ara-C)とアントラサイクリンとの併用として約40年前に開発され、この治療法は全世界の標準治療として継続している。60歳未満の患者の約70%〜80%は、完全寛解を実現するが、ほとんどは最終的に再発し、全体的な5年生存率は40%〜45%に過ぎない。60歳を超える患者では、良好な全身状態を有する者の40%〜50%が完全寛解を実現し得るが、治癒率は10%未満であり、またメジアン生存年数は1年未満である。より高齢のAML患者に関する展望は30年間変わっておらず、また細胞遺伝学的状態が好ましくなく且つ/又は全身状態が劣るより高齢の患者では悪化さえしている。 最近数年間では、AMLの診断及び治療においていくつかのこれまでの実務を変えるような進展が認められる。過去の「良好、中間的及び不良」とする予後分類は、細胞遺伝学的なリスク群に基づいたが、もはや適切でない。ゲノミクス技術における進歩により、AMLは遺伝学的に高度に異種の疾患として識別され、また増加傾向にあるAML患者は、その潜在する分子遺伝学的欠陥に基づいて、区別可能な臨床病理学的部分群に今日分類可能である。細胞遺伝学的に正常な患者は最も大きな部分群を占め、また「中間的」予後に従来割り振られたが、今日更に非常に多くの分子的部分群に分割可能であり、そのいくつかは重要な予後的意味合いを有することが知られている。例えば、FLT3-ITDの突然変異(FML様チロシンキナーゼ3遺伝子内縦列重複)は、侵襲性疾患の表現型及び不良な転帰と関連した。対照的に、CEBPA(CCAATエンハンサー結合タンパク質α)及びNPM1(ヌクレオホスミン1)に2対立遺伝子性突然変異(biallelic mutation)を有し、FLT3-ITDに同時突然変異を有さない患者では、極めてより良好な転帰を認める。予後的に重要な突然変異も、異常な細胞遺伝を有する患者で同定されており、例えばKITの突然変異により、これまでにt(8;21)と関連付けられた「良好」の分類が否定される可能性がある。FLT3-ITD、NPM1、及び2対立遺伝子のCEBPA突然変異のみが、AML臨床診療ガイドラインにこれまで盛り込まれてきた。 AMLの診断及び治療法は当技術分野において公知である(Chouら、2011年、Leukemia <http://dx.doi.org/10.1038/leu.2011.215>; Dammら、2011年、Leukemia第25巻: 1704〜1710頁; Dohner及びGaidzik、2011年、ASH Education Program Book、36〜42頁; Georgiouら、2011年、Leukemia <http://dx.doi.org/10.1038/leu.2011.280>; Rakhejaら、2011年、British Journal of Haematology第155巻: 125〜128頁; Ravandiら、Cancer: doi:10.1002/cncr.26580)。 本明細書において、用語「軟骨肉腫」は、軟骨性組織又はその前駆体に由来する間葉性新生物の種類について用いられる。軟骨肉腫は、肉腫に関するCoindre分類システムの修正版であるFNCLCC (French Federation Nationale des Centre des Lutte Contre le Cancer)グレード決定システムに基づきグレード決定される。軟骨肉腫は、異なる悪性腫瘍グレード及び異なる変異体で生ずる。治療は、手術、照射及び化学療法に依拠するが、治療の長期奏功は不良である。軟骨肉腫分画内にIDH突然変異が存在すれば、その存在は標的治療の候補となる。IDH突然変異を有する軟骨肉腫で(D)-2-ヒドロキシグルタル酸濃度が高まれば、その濃度上昇は生化学試験の候補となる。 本明細書において、用語「胆管癌」は、肝臓の胆管に由来する癌の種類について用いられる。胆道の腫瘍には、膵臓癌、胆嚢癌及びファーター膨大部癌が含まれる。胆管癌の治療は、手術、化学療法及び照射に依拠する。外科的完全切除を実施しなければ、治療の奏功は不良である。胆管癌、特に肝内胆管癌の分画内にIDH突然変異が存在すれば、その存在は標的治療の候補となる。IDH突然変異を有する胆管癌で(D)-2-ヒドロキシグルタル酸濃度が高まれば、その濃度上昇は生化学試験の候補となる。 用語「血管免疫芽球性T細胞リンパ腫」(AITL)は、本明細書で用いる場合、稀で複雑なリンパ増殖性疾患を意味し、広汎性のリンパ節症、節外性病変、免疫介在性の溶血、及びポリクロナール高ガンマグロブリン血症により臨床的に特徴付けられる。AITLが、独特の悪性微環境内に存在するB細胞及び内皮細胞の随伴性脱調節を伴うクローン性T細胞性障害(clonal T cell disorder)として認識されて以降、その理解に著しい進展がなされた。しかし、従来型の化学療法に対する反応には持続性がなく、最新治療アプローチの予後は低迷したままである。Rappaport及びLukesにより「免疫芽球性リンパ節症」として1974年に最初に記載されているが、血管免疫芽球性T細胞リンパ腫(AITL)は、最新の世界保健機構(WHO)分類では、区別可能な臨床病理学的特徴を有する末梢T細胞リンパ腫(PTCL)として認められている。全体的には、AITLは、全PTCLの約20%に該当し、また非ホジキンリンパ腫(NHL)のおよそ2〜5%を占め、分布及び発生率において顕著な地理的変化を認める。T細胞リンパ腫国際研究グループ(International T Cell Lymphoma Study Group)による報告では、AITLは、欧州でより広く認められるようになり、PTCL症例に占める割合は北米の15%及びアジアの17%と比較して、28%であることが判明した(Alizadeh及びAdvani、2008年、Clin. Advances in Hematol. and Oncol.第6巻(12): 899〜909頁)。 用語「甲状腺癌」は、本明細書で用いる場合、悪性の甲状腺新生物である。この新生物は、放射性ヨウ素又は甲状腺の外科的切除により治療される。化学療法又は放射線療法も利用可能である。 用語「結腸癌」は、本明細書で用いる場合、大腸(結腸)又は直腸(結腸端部)に始まる結腸癌又は結腸直腸癌を意味する。米国癌学会によれば、結腸直腸癌は、米国における癌関連死の主因の1つである。しかし、初期に診断されれば、多くの場合完全治癒を実現する。ほとんどすべての結腸癌は、結腸及び直腸の上皮内にある腺内に発現する。結腸癌には単一の原因は存在しない。およそすべての結腸癌は、非癌性(良性)ポリープとして発現し、徐々に癌へと発達する。ある種の遺伝子症候群も、結腸癌を発症するリスクを高める。最も一般的なものの中の2つは、家族性腺腫性ポリポージス(FAP)及び遺伝性非ポリポーシス大腸癌(HNPCC)である。結腸癌の多くの症例では、症状を認めない。しかし、下記の症状は、結腸癌を示唆する可能性がある:下腹部の疼痛及び圧痛、血便、下痢、便秘、又は排便習慣のその他の変化、細い便、並びに既知の理由を認めない体重減少。適切なスクリーニングを行えば、最も治療可能な場合には、症状を発現する前に結腸癌を検出することができる。便潜血試験(FOBT)は、結腸癌を示唆し得る少量の血便を検出することができる。しかし、この試験は、多くの場合結腸癌患者でも陰性である。このような理由により、FOBTは、結腸内視鏡検査又はS状結腸鏡検査と共に実施されなければならない。結腸癌のステージは以下の通り:ステージ0:腸の最も内側の層上の非常に初期の癌;ステージI:癌は結腸内層内に留まる;ステージII:癌は結腸の筋肉壁を通過してびまんする;ステージIII:癌はリンパ節までびまんする;ステージIV:癌はその他の臓器までびまんする。癌胎児抗原(CEA)及びCA 19-9を含む腫瘍マーカーを検出する血液検査は、診断でも利用可能である。結腸癌の治療は、癌のステージに一部依存する。一般的に、治療には下記療法が含まれ得る:癌細胞を除去する手術(結腸切除術がほとんど)、癌細胞を殺傷する化学療法、及び癌性組織を破壊する放射線療法。ステージ0の結腸癌は、多くの場合結腸内視鏡検査期間中に癌細胞を除去することにより治療可能である。ステージI、II及びIIIの癌の場合、より広範な手術が、癌性の結腸部分を除去するのに必要とされる。ステージII結腸癌の患者は手術後の化学療法を受けるべきか、その可否についていくつかの論議が存在する。ステージIII結腸癌のほとんどすべての患者は、手術後約6〜8ヶ月間化学療法を受けるべきである。化学療法剤の5-フルオロウラシルは、特定の患者で治癒の確率を高めることが明らかとなった。化学療法は、症状を改善し、またステージIV結腸癌の患者の生存を延ばすのにも用いられる。イリノテカン、オキサリプラチン、カペシタビン及び5-フルオロウラシルは、最も一般的に用いられる3つの薬物である。セツキシマブ(Erbitux)、パニツムマブ(Vectibix)、ベバシズマブ(Avastin)を含むモノクロナール抗体及びその他の薬物は、単独又は化学療法と併用して用いられてきた。放射線療法は結腸癌の患者で時に用いられるが、ステージIII直腸癌の患者について化学療法と併用して通常用いられる。肝臓までびまんしたステージIVの疾患を有する患者の場合、肝臓を特異的に狙った様々な治療が利用可能である。この治療には、下記療法が含まれ得る:癌の焼勺(アブレーション)、化学療法の送達、又は肝臓への直接照射、癌の凍結(冷凍療法)、又は手術。 用語「再発した又は再発性の」は、本明細書で用いる場合、患者が寛解を実現した後、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患の症状及び症状のぶり返しを意味する。例えば、化学療法を用いて従来型の腫瘍治療を行った後及び/又はAMLでヒト幹細胞移植を行った後に、腫瘍患者は、腫瘍の兆候又は症状を認めずに寛解を実現する可能性があり、数年間寛解状態に留まるが、その後再発を経験し、もう一度腫瘍の治療を受けなければならない。従って、特定の実施形態では、本発明の方法は、本明細書で参照するような腫瘍性疾患の再発又は原発性腫瘍に由来する転移を検出するのに利用可能である。 本発明の方法により検出、診断、又はモニタリング可能な別の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患は、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸尿症である。この疾患は、IDH2遺伝子の突然変異がD2HGの生成を引き起こす遺伝性疾患である。D2HGデヒドロゲナーゼ遺伝子のその他の突然変異は、酵素機能に障害をもたらし、その結果身体内のD2HG蓄積も引き起こす。いずれの場合でも、D2HGは、尿と共に排泄される。 D2HGの軽度の上昇を示すその他の代謝的疾患として、多種アシルCoAデヒドロゲナーゼ欠損症、ジヒドロリポイルデヒドロゲナーゼ欠損症、ピルビン酸デカルボキシラーゼ欠損症、及びピルビン酸カルボキシラーゼ欠損症が挙げられる。また、これらの障害は、本発明の方法により検出、診断、又はモニタリング可能である。 用語「治療」は、本明細書で用いる場合、本明細書で参照する(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患を緩和するように意図されている医学的手順又は適用を、広義には意味する。 用語「軽減(amelioration)」は、本明細書で用いる場合、改善(improvement)と同義である。本明細書で参照するような(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患に罹患した患者の状態が軽減を示す場合には、患者は明らかにより良好である-患者の臨床状態にいくつかの改善が認められる。例えば、前記疾患の安定化が実現可能、すなわち当該疾患はもはや進行しない場合には、それは患者の状態の改善であり得る。この疾患ステージは安定した疾患とも呼ばれる。 用語「サンプル」は、本明細書で用いる場合、細胞を含まないサンプル又は細胞を含むサンプル、例えば、体液サンプル、単離した及び/若しくは分離した細胞のサンプル、細胞ライセート、又は細胞(培養物)上清、又は生検若しくは組織切片を含む組織若しくは臓器由来のサンプル等を意味する。体液サンプルは、周知の技法により取得可能であり、好ましくは血液、血漿、血清又は尿のサンプルが含まれる。組織又は臓器サンプルは、任意の組織又は臓器から、例えば生検により取得可能である。単離した及び/又は分離した細胞は、遠心分離又はセルソーティング(FACS)等の分離技術により体液又は組織若しくは臓器から取得可能である。サンプルは、凍結可能又はパラフィン包埋可能である。好ましくは、本発明の方法で用いられるサンプルは、血液サンプル、血清サンプル、血漿サンプル、尿サンプル、又は本明細書で参照する腫瘍の腫瘍組織生検若しくは組織切片である。サンプルは、本明細書に規定するような対象に由来するのが好ましい。例えば、サンプルは、本明細書に規定するような新生児、小児患者又は成人患者に由来し得る。サンプルは胎児にも由来する場合もあり、例えばCVS又は羊水穿刺のいずれかにより取得可能である。 用語「(D)-2-ヒドロキシグルタル酸(D2HG)の量を測定する」又は「(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の量を測定する」は、本明細書で参照する場合、D2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の量又は濃度を、好ましくは半定量的に又は定量的に測定することと関連する。測定は、直接的に又は間接的に実施可能である。直接測定は、D2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸そのものから得られるシグナルに基づき、D2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の量又は濃度を測定することと関連し、当該シグナル強度は、サンプル中に存在するD2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の分子数と直接相関する。かかるシグナルは、例えばD2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の固有の物理特性又は化学特性の強度値を測定することにより取得可能である。間接測定には、二次的構成要素、すなわちD2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸そのものではない構成要素、又は生物学的読取りシステム、例えば測定可能な細胞反応、リガンド、標識若しくは酵素反応生成物から得られるシグナルを測定することが含まれる。 用語「量」は、本明細書で用いる場合、本明細書で参照するD2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の絶対量、D2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の相対的な量又は濃度、並びにこれらと相関する任意の数値又はパラメータを含む。かかる数値又はパラメータは、直接測定によりD2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸から得られるあらゆる固有の物理特性又は化学特性に由来する強度シグナル値、例えば質量スペクトル又はNMRスペクトルの強度値を含む。更に、本明細書に含まれるものとして、本明細書のいずれかで規定する間接測定により取得されるあらゆる数値又はパラメータ、例えばD2HG若しくは(D)-2-ヒドロキシアジピン酸に反応する生物学的読取りシステム又は特異的に結合するリガンドから得られる強度シグナルが挙げられる。上記の量又はパラメータと相関する数値は、あらゆる標準的な数学的操作よっても取得可能であると理解される。 用語「接触する」又は「インキュベーションする」とは、本明細書で用いる場合、少なくとも2つの異なる化合物を、前記化合物の物理的及び/又は化学的相互作用を可能にするために、物理的に近接せしめることを意味する。本発明の方法では、本明細書で参照する反応混合物は、D2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を含むと疑われるサンプルと接触する。この目的で利用可能なサンプルは、本明細書のいずれかで規定される。反応混合物は、サンプルに含まれるD2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の検出を可能にするのに十分な時間と条件の下で接触させなければならない。「接触する」は、本明細書で用いる場合、D2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を含む又は含有する宿主細胞においても生ずる可能性がある。宿主細胞は、例えば、細菌細胞(例えば、大腸菌(E.coli))、真菌細胞、植物細胞、又は哺乳動物の宿主細胞(例えば、ヒト宿主細胞)であり得る。前記時間及び条件は、サンプルに含まれるD2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の量に依存する。当業者は、宿主細胞、サンプルの種類等に依存してどの条件を適用する必要があるか十分に理解している。更なる態様では、「接触する」は、D2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を含む細胞を含まない系で生ずる。細胞を含まない系は、本明細書で参照するような反応混合物とこれを接触させたときに、D2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の測定を可能にしなければならない。好ましくは、本発明の方法はin vitroで実施される。 用語「反応混合物」は、本明細書で用いる場合、例えば本明細書で規定するような水又はバッファーであり得る溶媒を含む。反応混合物は、本明細書で規定するような色素を更に含み、同色素は酸化状態と還元状態とを有し、還元状態が酸化状態と区別可能であり、またこの色素は当初酸化状態で存在する。反応混合物は、本明細書で規定するような電子移動剤、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素、及びしかるべき補助因子を更に含む。 用語「溶媒」は、本明細書で用いる場合、好ましくはバッファー、例えば、トリス-HClバッファー(トリスバッファー)、K+-リン酸バッファー、HEPESバッファー、MOPSバッファー又はTESバッファーで、pH7.4〜8.0のものを意味する。好ましくは、バッファーは0.1 M HEPES、pH 8.0である。 用語「色素」は、本明細書で用いる場合、好ましくはレザズリン、又はテトラゾリウム塩、例えば、XTT、INT、MTT、MTS、TTC、CTC、NBT、WST-1、WST-3若しくはWST-5、又はAmplexRed若しくはAmplexRed Ultraを意味する。 用語「電子移動剤」は、好ましくは、ジアホラーゼ、PMS、メルドラブルー(Meldola Blue)(8-ジメチルアミノ-2,3-ベンゾフェノキサジンヘミ(塩化亜鉛)塩)、DPIP(2,6-ジクロロフェノールインドフェノール)、又はMPMS(1-メトキシ-PMS)を意味する。 用語「(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ」(EC1.1.99.6)は、本明細書で用いる場合、特に化学反応: →(D)-2-ヒドロキシグルタル酸(D2HG)+アクセプター ← α-ケトグルタル酸+還元型アクセプターを触媒する酵素である。 従って、この酵素の2つの基質は(D)-2-ヒドロキシグルタル酸及びアクセプターであり、その2つの生成物はα-ケトグルタル酸と還元型アクセプターである;図1Aも参照。この酵素により触媒される別の化学反応を図1Bに示す。アクセプター又は補助因子は、例えばNAD+又はNADP+又はFADであり得る。(D)-2-ヒドロキシグルタル酸に対して特異性を有する酵素は、哺乳動物(Achouriら、2004年、Biochem. J.第381巻: 35〜42頁)、植物(Engqvistら、2009年、J. Biol. Chem.第284巻(37): 25026〜37頁)、及び細菌(Buckel、1980年、Eur. J. Biochem.、第106巻: 439〜447頁; Sponholzら、1981年、Zeitschrift fur Lebensmittel-Untersuchung und -Forschung、第172巻: 264〜268頁)に存在する。本発明の手段及び方法にとって好ましい(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼを図10に示す。(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼは、本発明の方法においてD2HGを検出するのに、例えば0.01〜0.25マイクログラム量で利用可能である。好ましくは、マイクロタイタープレートのウェル当たり0.1マイクログラムの(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼが、D2HGを測定する本発明の方法で用いられる;下記の実施例を参照。(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を見積もる本発明のアッセイ法の場合、より高濃度の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ、例えば1〜10マイクログラム/ウェル、好ましくは4マイクログラム/ウェルが必要とされる。;図11及び実施例2を参照。(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼは、本明細書で用いる場合、天然酵素又は組換え酵素を含み、また上記した(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼの変異体も含む。かかる変異体は、少なくとも(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼと同一の生物学的及び免疫学的必須特性を有する。特に、変異体が、本明細書で参照する同一の特異的アッセイ法、例えば(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼを特異的に認識するポリクロナール又はモノクロナール抗体を用いるELISAアッセイ法により検出可能な場合には、これら変異体は同一の生物学的及び免疫学的必須特性を共有する。更に、本発明に基づき参照される変異体は、少なくとも1つのアミノ酸の置換、欠失、及び/又は付加に起因して異なるが、前記変異体のアミノ酸配列が、好ましくは(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ、好ましくはアシダミノコッカス・フェルメンタンスの(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼのアミノ配列と少なくとも50%、60%、70%、75%、80%、85%、90%、91%、92%、93%、94%、95%、96%、97%、98%又は99%、なおも同一であるアミノ酸配列を有さなければならないと理解される(Buckel、1980年、Eur. J. Biochem.、第106巻: 439〜447頁)。2つのアミノ酸配列間の同一性の程度は、原則的には当技術分野において周知のアルゴリズムにより求めることができる。好ましくは、同一性の程度は、比較対象範囲について2つの最適に整列された配列を比較することにより求められ、比較対象範囲内のアミノ酸配列の断片は、最適に整列させたときに参照配列(付加又は欠失を含まない)と比較して付加又は欠失を含み得る(例えば、ギャップ又はオーバーハング)。割合(%)は、両配列で同じアミノ酸残基が生じる位置の数を求めて一致した位置の数を得、一致した位置の数を比較対象範囲内の位置の合計数で割り、その結果に100を掛けて配列同一性の割合(%)を得ることにより計算される。好ましくは、配列同一性は、比較/整列配列の全長に渡る。比較のための配列の最適な整列法は、Smith及びWaterman、1981年、Add. APL. Math.第2巻: 482頁のローカルホモロジーアルゴリズム(local homology algorithm)、Needleman及びWunsch、1970年、J. Mol. Biol.第48巻: 443頁のホモロジーアライメントアルゴリズム、Peason及びLipman、1988年、Proc. Natl. Acad Sci. (米国)第85巻: 2444頁の類似性探索法(search for similarity method)、これらのアルゴリズムのコンピュータ式実施法(Wisconsin Genetics Software PackageのGAP、BESTFIT、BLAST、PASTA、及びTFASTA、Genetics Computer Group (GCG)、575 Science Dr.、Madison、WI)、又は目視検査により実施可能である。比較用として2つの配列が同定されたら、それらの最適な整列、従って同一性の程度を決定するのに、GAP及びBESTFITを採用するのが好ましい。好ましくは、ギャップウェイトとして5.00及びギャップウェイト長として0.30のデフォルト値が用いられる。上記で参照した変異体は、対立遺伝子変異体又は任意のその他の種固有のホモログ、パラログ若しくはオルソログであり得る。更に、本明細書で参照する変異体には、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ、又は上記した種類の変異体の断片が、これらの断片が上記で参照したような免疫学的及び/又は生物学的必須特性を有する限り含まれる。かかる断片は、例えば(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼの分解産物であり得る。好ましくは、前記断片は、その長さが少なくとも50、60、70、80、90、100、150、200又は300個のアミノ酸残基であり、且つ(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ活性を有する。更に含まれるものとして、翻訳後修飾、例えばリン酸化反応又はミリスチル化等に起因して異なる変異体が挙げられる。好ましくは、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼは、本明細書で用いる場合、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼの前駆体タンパク質も含む。好ましくは、本明細書で参照する(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼは、原核生物又は哺乳動物の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼである。ヒト(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼのアミノ酸配列は、アクセッション番号Q8N465(バージョン87)に示されている。ヒト(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素の活性は、Wickenhagen及び共同研究者(J. Inherit. Metab. Dis.、2009年、第32巻: 264〜8頁)により分析されている。より好ましくは、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素は、アシダミノコッカス・フェルメンタンスに由来する、又はこれから派生する(Buckel、1980年、Eur. J. Biochem.、第106巻: 439〜447頁; Sponholzら、1981年, Zeitschrift fur Lebensmittel-Untersuchung und -Forschung、第172巻: 264〜268頁; Martinsら、FEBS J. 2005年1月;第272巻(1): 269〜81頁)。用語「(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素はアシダミノコッカス・フェルメンタンスに由来する」とは、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素は、アシダミノコッカス・フェルメンタンスの(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素に由来するアミノ酸配列を含む、又はそのアミノ酸配列からなることを意味する。アシダミノコッカス・フェルメンタンス由来の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼの対応するアミノ酸配列は、例えば、Martinsら、FEBS J. 2005年1月;第272巻(1): 269〜81(図1を参照)に、及びアクセッション番号1XDW_A(バージョン 1XDW_A GI: 62738423; 10.10.2012)に示されている。この公表文献は、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼタンパク質ファミリーのその他のメンバーのアミノ酸配列も提供するが、これを本明細書に参考として援用する。「から派生する」とは、例えば、前記酵素又は前記酵素をコードする遺伝子は、アシダミノコッカス・フェルメンタンスから当初単離され、次に対応する核酸又はアミノ酸配列が更に修飾される、例えば当技術分野において公知の組換え方法により最適化されることを意味する。かかる方法は、例えば、酵素活性等を改善するような部位特異的突然変異であり得る。本明細書に含まれるものとして、本明細書に規定するアシダミノコッカス・フェルメンタンス由来の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼの変異体も挙げられる。変異体は、好ましくはアシダミノコッカス・フェルメンタンス由来の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼをコードする特異的核酸配列に、好ましくはストリンジェントな条件下でハイブリダイズする能力を有する核酸配列を含むポリヌクレオチドも含む。このようなストリンジェントな条件は、当業者に公知であり、例えばCurrent Protocols in Molecular Biology、John Wiley & Sons、N.Y.、1989年、6.3.1〜6.3.6に見出すことができる。ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件の好ましい例は、約45℃で6×塩化ナトリウム/クエン酸ナトリウム(=SSC)中でのハイブリダイゼーション条件と、その後に50〜65℃の0.2×SSC、0.1% SDS中での1回以上の洗浄ステップが続く。当業者は、これらのハイブリダイゼーション条件は、核酸の種類に応じて、そして例えば有機溶媒が存在する場合に、温度及びバッファー濃度に関して異なることを知っている。例えば、「標準的ハイブリダイゼーション条件」下では、濃度が0.1〜5×SSCの水性バッファー(pH 7.2)において、温度は核酸の種類に応じて42℃〜58℃の間で異なる。上記バッファー中に有機溶媒、例えば50%ホルムアミドが存在する場合には、温度は標準条件下で約42℃である。DNA:DNAハイブリッドのハイブリダイゼーション条件は、好ましくは0.1×SSCで20℃〜45℃、好ましくは30℃〜45℃である。DNA:RNAハイブリッドのハイブリダイゼーション条件は、好ましくは0.1×SSCで30℃〜55℃、好ましくは45℃〜55℃である。上記ハイブリダイゼーション温度は、ホルムアミドが存在しない状態で、例えば長さ約100 bp(=塩基対)及びG + C含有量が50%の核酸について求められる。当業者は、教本、例えば上記教本又は下記教本:Sambrookら、1989年、「Molecular Cloning」、Cold Spring Harbor Laboratory; Hames及びHiggins (編)、1985年、「Nucleic Acids Hybridization: A Practical Approach」、IRL Press at Oxford University Press、Oxford; Brown (編)、1991年、「Essential Molecular Biology: A Practical Approach」、IRL Press at Oxford University Press、Oxfordを参考にしながら、必要とされるハイブリダイゼーション条件を決定する方法を知っている。当業者にとって明白なように、異なる微生物に由来する(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素又は基質としてD2HGを用いるその他の酵素も、これらが適する読み出し、例えばNADH又はNADPHの生成又は変換等を生成可能である限り、本発明の方法で利用可能である。あるいは、前記酵素は、かかる読み出しを生成可能な別の酵素と連結可能である。 補助因子は好ましくはNAD+である。 サンプルは、好ましくは、組織生検若しくは組織切片、細胞若しくは細胞ライセート、培養細胞上清、血液サンプル、血清サンプル、血漿サンプル、又は尿サンプルである。サンプルは、凍結した細胞若しくは組織、又はパラフィンに包埋された細胞若しくは組織でもあり得る。本発明の方法のいくつかの好ましい実施形態では、サンプルは、本明細書のいずれかで規定する腫瘍若しくは腫瘍性疾患又は別の疾患若しくは障害に罹患したヒト患者由来である。しかし、本発明の方法の特定の実施形態では、サンプルは細胞を含まないサンプルと想定される。 好ましくは、サンプルは、タンパク質を含有する場合には、本発明の方法の前に除タンパクされる。除タンパクは、例えば、タンパク質含有サンプルをプロテイナーゼKと共に、37℃で一晩インキュベーションすることにより実現可能である。その後、分解したタンパク質は、過塩素酸で沈殿可能である。これに続き、サンプルは、本発明の方法においてD2HGの存在について分析可能である。 従って、本発明の好ましい実施形態では、サンプルは、(i)37℃で一晩、プロテイナーゼKと共にインキュベーションする、及び(ii)前記本発明の方法のステップa)の前に、過塩素酸でタンパク質を沈殿させることにより、除タンパクされる。 D2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の存在及び/又は量を測定するための本発明の方法は、色素がある状態から別の状態に変換することに依拠する。例えば、典型的な形態では、反応の前に、色素は第1の波長で照射光を吸収する。次に、色素は第2の(及び異なる)波長の光を吸収する生成物に変換される。色素がある状態から別の状態に変換するのをモニタリングすることにより、D2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の存在及び/又は量を決定することができる。これを目的としたいくつかの適する色素は、当技術分野において公知である。これらの指標のうち最も頻繁に用いられるのは、電子アクセプター色素、例えばテトラゾリウム塩等である。テトラゾリウム塩は、先行技術で公知であり、例えば、MTT(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド)、XTT(ナトリウム3'-{(1-フェニルアミノ-カルボニル)-3,4-テトラゾリウム}-ビス(4-メトキシ-6-ニトロ)ベンゼン-スルホン酸水和物)、及びMTS(3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)-5-(3-カルボキシメトキシフェニル)-2-(4-スルホフェニル-l)-2H-テトラゾリウム、分子内塩)が挙げられる。 細胞の生存及び増殖を分析するためにテトラゾリウム塩MTSを用いた代表的なアッセイ法は、Buttkeら、1993年、J. Immunol. Methods、第157巻: 233〜240頁に記載されている。Dunigan及び共同研究者(1995年、BioTechniques、第19巻: 640〜649頁)は、代謝の特徴の1つは、有機分子の複雑な酸化還元反応によるエネルギーの生成であることを更に記載している。多数のこのような反応は、水素供与体としてβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH)又はβ-ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドリン酸塩(NADPH)を利用する。実用的な見地から、NADH及びNADPH濃度を分光光度法により直接モニタリングすることが理論的に可能であるが、NADH及びNADPHの吸収極大(λマックス259 nmにおいてε=16,900)近傍で光を吸収する非常に多くの成分が存在することから、直接分光分析法には限界がある。例えば、NAD+、NADP+、DNA、RNA、及びほとんどのタンパク質は、約260nmに吸収極大を有する。 本発明の方法の1つの好ましい実施形態では、テトラゾリウム塩XTTは、例えば図1Cに示す通り、XTT/ホルマザンアッセイ法で用いられる。このアッセイ法は、共役した2-ステップ反応を使用する。第1ステップでは、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼは、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸をα-ケトグルタル酸に酸化することにより、NAD+のNADH及びH+への還元を触媒する(図1A)。あるいは、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼは、(D)-2-ヒドロキシアジピン酸をα-ケトアジピン酸に酸化することにより、NAD+のNADH及びH+への還元を触媒する(図1B)。反応の第2ステップでは、XTT(2,3-ビス(2-メトキシ-4-ニトロ-5-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム-5-カルボキシアニリド二ナトリウム塩)は、電子移動剤のN-メチルジベンゾピラジンメチルスルフェート(PMS)に支援されて、約490〜520nmにおいて強い吸収を有する極めて発色性のホルマザンに還元される。本発明の方法によるホルマザンの比色検出は、好ましくは450nmで実施される。 テトラゾリウム塩は、組織化学的局在化試験及び細胞生物学アッセイにおいて検出試薬として長年幅広く用いられてきた(Altman、1976年、Prog. Histochem. Cytochem.第9巻: 1〜56頁、Berridgeら、2005年、Biotechnology Annual Review第11巻: 127〜152頁)。第2世代テトラゾリウム色素、XTT(ナトリウム2,3,-ビス(2-メトキシ-4-ニトロ-5-スルホフェニル)-5-[(フェニルアミノ)-カルボニル]-2H-テトラゾリウム分子内塩)は、細胞増殖、細胞毒性及びアポトーシスを測定する細胞に基づくアッセイ法において有効に利用可能である(Berridgeら、前掲; Scudieroら、1988年、Cancer Res.第48巻: 4827〜4833頁; Marshallら、1999年、Growth Regulation第5巻: 69〜84頁)。XTTは、細胞エフェクターの混合により、可溶性の、明るく発色性のオレンジ色の誘導体に還元される。XTTアッセイ感度は、中間電子伝達体、PMS(N-メチルジベンゾピラジンメチルスルフェート)を利用することにより、大幅に改善した。PMSは、XTT還元促進及びそのホルマザン誘導体の形成に役立つ。 XTT細胞増殖アッセイ法は、腫瘍細胞系統における細胞増殖及び薬物感受性を測定するための有効な方法として1988年にScudieroら(前掲)により最初に記載された。XTTは、無色又はわずかに黄色の化合物で、還元されると明るいオレンジ色になる。この色の変化は、正に荷電した四級テトラゾール環が開環することにより実現する(Berridge、前掲)。XTT還元によるホルマザン生成物は可溶性で、リアルタイムアッセイで利用可能である。 XTTは、その正味負電荷により進入細胞から排除されるものと考えられている(Berridge、前掲)。かなりの証拠が、経原形質膜電子伝達(trans-plasma membrane electron transport)により促進されて、XTT色素の還元が細胞表面で生ずることを示唆している。ミトコンドリアの酸化還元酵素は、その還元体を原形質膜に移動させてXTTの応答に実質的に寄与すると考えられている。XTTアッセイ法は細胞のピリジンヌクレオチドの酸化還元状態を実際に測定すると提案されている(Berridge、前掲、Marshall、前掲)。 XTTは、検出反応として単独で利用可能であるが、しかし結果は最良とは言えない。XTTアッセイ結果は、中間電子アクセプター、例えばPMS(N-メチルジベンゾピラジンメチルスルフェート)をXTTと共に用いれば、大幅に改善する。所見より、PMSは細胞表面又は容易にアクセス可能な原形質膜内の部位にある電子を奪取することによるXTTの還元に関与し、次にXTTをその高度に着色性のホルマザン生成物に還元する反応性の中間体を形成することが示唆される。 本発明の方法の別の好ましい実施形態では、当該方法は、例えば図1Dに示すようなレザズリン/ジアホラーゼアッセイ法を利用する。このアッセイ法も、共役した2ステップ反応を使用する。第1ステップでは、2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼは、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸をα-ケトグルタル酸に酸化することにより、NAD+のNADH及びH+への還元を触媒する(図1A)。あるいは、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼは、(D)-2-ヒドロキシアジピン酸をα-ケトアジピン酸に酸化することにより、NAD+のNADH及びH+への還元を触媒する(図1B)。反応の第2ステップでは、ジアホラーゼは、レザズリンから蛍光レゾルフィンへの還元を触媒するのに、新たに形成されたNADH及びH+を利用する。 (D)-2-ヒドロキシグルタル酸がα-ケトグルタル酸に酸化される又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸がα-ケトアジピン酸に酸化されると、NADHが生成する。第2の反応では、色素のレザズリンは、第1の反応で生成したNADHを利用する反応であって、電子移動剤のジアホラーゼにより触媒される反応において還元される。好ましい電子移動剤であるジアホラーゼは、NADHを利用して、レザズリンからレゾルフィンへの還元を触媒する。 最終的に得られる結果は、D2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の量は、色素の還元を測定することにより間接的に測定される方法であり、当該還元は基質の酸化と関連する反応(例えば、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼによる(D)-2-ヒドロキシグルタル酸からα-ケトグルタル酸への変換又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸からα-ケトアジピン酸への変換)により推進される。形成された還元型色素の量は、試験サンプル中のD2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の量に比例する。還元形態の色素の生成は、色素に応じて熱量測定法若しくは蛍光定量法により、又はその他の電磁スペクトル測定デバイスにより測定可能である。レゾルフィンは、比色分析法又は蛍光定量法により測定可能である。適する測定デバイスは、当技術分野において幅広く周知されており、また多くの市販供給業者から購入可能である。 特に、用いられる色素がレザズリンの場合、還元は吸収比色定量法又は蛍光定量法のいずれによっても検出可能である。レザズリンは、その純度にもよるが、深い青色で、本質的に非蛍光性である。レゾルフィンは、レザズリンの還元形態であり、赤色で非常に蛍光性である。比色定量法を用いる場合、反応は、レゾルフィンの吸収極大(約570nm)である当技術分野において周知の波長でモニタリングされる。レゾルフィンの蛍光測定は、当技術分野において周知の波長(約530〜560nm)で励起し、そして発光スペクトル(約590nmに極大を有することが当技術分野で公知)を測定することにより行われる。蛍光検出法は、分光検出法よりも高感度なことから、本発明の方法の好ましい実施形態では、レザズリンが色素として用いられ、そしてレゾルフィンの生成が蛍光定量法により検出される。好ましくは、このアッセイ法では、励起は、540±10nmで実施され、また発光は600±10nmで検出される。 本明細書に記載する方法は、生成した還元形態の色素の量が、分析サンプル中のD2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の量に比例するという点で本質的に定量的である。本発明の方法は、定性的分析法でも、例えば固形腫瘍切片内のD2HGを検出するのに利用可能である。D2HGの測定は、NADH測定で用いられるアッセイ法の選択に応じて異なる。PMS/XTTアッセイ法を用いて、測定値は、好ましくは20分間にわたり2分毎に求められる。次に、D2HG濃度を計算するために、直線の傾き(勾配)が求められる。ジアホラーゼ/レザズリン系を用いて、エンドポイントが好ましくは測定され、これにより試験サンプル中のD2HG量を迅速に計算することができる。 本発明の方法のなおもより好ましい実施形態では、本発明の方法における色素の還元状態は、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素により触媒される(D)-2-ヒドロキシグルタル酸からα-ケトグルタル酸への酸化、又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸からα-ケトアジピン酸への酸化に起因する。利用されるアッセイ法は、好ましくは補助因子としてNAD+を用いるレザズリン/ジアホラーゼアッセイ法である。本明細書で参照するような還元状態の色素の生成は、好ましくは蛍光分光法により測定される。前記アッセイ法の利点は、下記の例より明白である。 本発明の方法の別の好ましい実施形態では、当該方法は、例えば図1Eに示すようなルシフェラーゼアッセイ法を利用する。原則的には、ルシフェラーゼの読み出しを用いるアッセイ法は、ジアホラーゼ/レザズリンの読み出しと同様に機能する。レザズリンの代わりに、細菌ルシフェラーゼであるFMN及び長鎖アルデヒドが反応混合物に添加される。インキュベーション時間(約10〜20分)後、発光がプレートリーダーで測定される。ルシフェラーゼアッセイ法は、当技術分野で記載されている(Vaughan及びMopper、1990年、Analytica Chimica Acta第231巻: 299〜303頁; Wienhausen及びDe Luca、1982年、Analytical Biochemistry第127巻: 380〜388頁)。 好ましくは、ルシフェラーゼは、細菌ルシフェラーゼである。細菌ルシフェラーゼ(LU)(I.U.B.: 1.14.14.3)は、分子酸素による還元型フラビンモノヌクレオチド(FMNH2)及び長鎖アルデヒドの酸化を触媒してFMN、対応する酸、H2O及び光を生成する(Baldwinら、1975年; Balny及びHastings、1975年; Becvar及びHastings、1975年)。 FMNH2 + RCHO + O2 → FMN + RCO2H + H2O + 光 この点において、Hastingsら、1966年による公表文献を参照すること。アルデヒドは、反応に必須ではないが、発光に顕著な効果を有する。FMNは、Pt又はPd触媒を用いて分子水素により又は亜ジチオン酸塩を用いた処理により還元され得るが、FMNH2は空気により急速に酸化されるので、NADHの利用がより実行可能な検査法であり、また分析用途でより有用である。細菌ルシフェラーゼが光を生成するように働く機構は、Dr. J. Woodland Hastingsのグループにより研究された。アフィニティークロマトグラフィーを用いたLUの部分的及び迅速な精製について記載した文献では、Watersら(1974年)が、高度に精製されたルシフェラーゼの比活性が1.4×1014量/秒/ミリグラムであることを記載している。Brolinら、1971年は、痕跡量の代謝中間体を対象とする非常に高感度のアッセイ法を開発したが、同法は、細菌ルシフェラーゼを用いた、ピリジンヌクレオチド依存性デヒドロゲナーゼ反応と関係し得る。FMN及びFADのアッセイにおけるその利用については、Chappelle及びPicciolo、1971年も参照すること。ATPのモニタリングにおけるその利用については、Aflalo及びDeLuca、1987年を参照すること。分子生物学及び細胞生物学におけるツールとしてのホタルルシフェラーゼの利用に関するレビューは、Gould及びSubramaniにより1988年に提示されている。当該酵素に関する臨床的応用のレビューは、Krickaにより1988年に示されている。 本発明により提供されるアッセイ法及び方法は、可溶化ステップ不要の利用しやすい均質アッセイ法であるという理由から有利である。これはハイスループット分析に適し、結果を迅速に明らかにする。更に、これは自動化に向いている。本アッセイ法は高感度であり、また非常に微量のD2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の検出を可能にする。これは、下記の実施例に示す通りレザズリン/ジアホラーゼアッセイ法に特に当てはまる。最後にとりわけ、前記アッセイ法及び方法は、再現性のある正確性により特徴付けられる。すなわち、色素吸収は、試験サンプル中のD2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の量に比例する。まとめとして、D2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を検出する迅速、安価で、高感度の酵素的アッセイ法が本発明により提供される。例えば、腫瘍組織中のD2HGについて酵素的にアッセイするときの定量限界値は、0.44マイクロモルであり、また血清中では2.77マイクロモルである。 本発明は、本明細書で参照するような試薬混合物を含むキットと更に関連する。好ましくは、キットは、(i)溶媒(好ましくは、バッファー、例えばトリスバッファー、pH 8.0等)と、(ii)酸化状態及び前記酸化状態から区別可能である還元状態を有し、当初は酸化状態で存在する色素(好ましくはレザズリン又はXTT等のテトラゾリウム塩)、(iii)電子移動剤(好ましくはジアホラーゼ又はPMS又はメルドラブルー)と、(iv)2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素と、(v)適当な補助因子(好ましくはNAD+又はNADP+)とを含む。好ましくは、キットは、本明細書のいずれかで規定するサンプル中のD2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の存在及び/又は量を明らかにするためのものである。より好ましくは、キットは、本明細書のいずれかで規定する疾患又は障害に罹患した対象のサンプル中のD2HGの存在及び/又は量を明らかにするためのものである。2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素は、アシダミノコッカス・フェルメンタンスに由来する、又はこれから派生するのが更に好ましい。 本発明の方法の定義及び実施形態は、本発明のキットに準用される。 用語「キット」は、本明細書で用いる場合、上記した手段の集合を意味し、好ましくは単一容器内に分離形態で提供される。容器は、好ましくは、本発明の方法を実施するための説明書も含む。従って、本発明は、本明細書で参照するD2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の量を測定するための、前記反応混合物を含むキットに関する。かかる反応混合物の例及び同混合物の利用方法は、本明細書にすでに記載されている。キットは、好ましくは、そのまますぐに使用可能な状態で上記試薬混合物を含有する。更に、キットは、D2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸標準曲線を規定するための手段及び薬剤、例えば下記の実施例に示すような事前に求められた量のD2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を含み得る。好ましくは、キットは、説明書、例えばD2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸標準曲線を規定し、また本発明の方法により提供される診断に関して、あらゆる測定(複数可)の結果を解釈するためのユーザーマニュアルを更に含み得る。特にかかるマニュアルは、求められたD2HG量を上記種類の診断と結びつける情報を含み得る。詳細は、本明細書のいずれかに見出される。更に、かかるユーザーマニュアルは、D2HG又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸の量(複数可)を測定するキットの構成要素を適正に利用するための説明を提供し得る。ユーザーマニュアルは、書類形態又は電子形態で提供され得るが、例えばCD又はCD ROM上に保管してもよい。本発明は、本発明による任意の方法で前記キットを利用することとも関連する。 前記キットは非放射性であり、従って安全であり、危険な廃棄物も一切ないので有利である。更に、キットは、冷暗所で保管した場合18ヶ月間安定であり、従って保管に便利である。 本明細書で引用したすべての参考資料は、その全開示内容及び本明細書で具体的に言及した開示内容に関し、参照により本明細書に援用する。 ここで、下記の実施例により本発明を更に説明するが、これらの実施例は、本発明の範囲を限定すると解釈されるものではない。[実施例1](D)-2-ヒドロキシグルタル酸の測定 (D)-2-ヒドロキシグルタル酸を測定する場合、アシダミノコッカス・フェルメンタンスの(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼが用いられてきた。この酵素は、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼを、グルタコン酸から酵素的に形成された、ワイン等の発酵飲料中のD2HGの測定(Buckel、1980年、Eur. J. Biochem.、第106巻: 439〜447頁; Sponholzら、1981年、Zeitschrift fur Lebensmittel-Untersuchung und -Forschung、第172巻: 264〜268頁)で用いたBuckel (Buckel、1980年、Eur. J. Biochem.、第106巻: 439〜447頁)により元々は記載されている。(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼは、α-ケトグルタル酸から(D)-2-ヒドロキシグルタル酸へのNADH依存性の還元を触媒する(図1Aを参照)。しかし、前記酵素は、反対方向の反応でも利用可能である。酵素が活性である中性のpHでは、反応の平衡はD2HG生成側にある。従って、D2HG測定用として前記酵素を用いる場合、反応は、D2HGがほんの数パーセントだけα-ケトグルタル酸に変換された後に平衡に達する。完全に変換せしめるように、形成されたNADHはPMS/XTT又はジアホラーゼ/レザズリンにより不可逆的に再度酸化され、その結果、色のついたホルマザン又は蛍光レゾルフィンをそれぞれ生成する。 D2HG濃度を測定する場合、2つの異なるアプローチ、すなわちPMS/XTTアッセイ法及びジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法を、本発明の方法で用いた。a)PMS/XTTアッセイ法 共役反応において、テトラゾリウム塩XXT (2,3-ビス(2-メトキシ-4-ニトロ-5-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム-5-カルボキシアニリド二ナトリウム塩)が、PMSと連携して還元され、これにより450nmの波長で検出可能なオレンジ色の水溶性ホルマザンが生成する(図1Cを参照)。 b)ジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法 共役反応において、ジアホラーゼは、レザズリンを540nmで励起可能な蛍光レゾルフィンに還元するためにNADHを使用する。発光は600nmで測定される(図1Dを参照)。 前記アッセイ法を用いて、水、細胞ライセート、血清、及び血漿、並びに尿中でD2HG濃度を測定した。D2HG水溶液の測定では、アッセイ前に何らかの処理を必要としない。タンパク質含有サンプルを用いた場合には、サンプルをプロテイナーゼKと共に37℃で一晩最初にインキュベーションした。その後、消化されたタンパク質を過塩素酸で沈殿させた(図2(A)を参照)。図3は、PMS/XTTアッセイ法及びジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法で用いた試薬及び対応する濃度を示す。当該アッセイ法を96ウェルフォーマット、総アッセイ容積100μlで実施した。並行して、規定された濃度のD2HGを用いて標準曲線を作成した(図4を参照)。標準サンプルでは、試験サンプルと同一の手順を実施した。 図5に示す通り、D2HGは、PMS/XTTアッセイ法を用いて、水、血清、又は血漿サンプル中で容易に測定可能である。しかし、この場合、信頼性のあるサンプル測定は、25μMを超えるD2HG濃度を含有するサンプルに限り可能であることが判明した。更に、標準偏差は比較的大きかった。 それに対して、ジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法を利用すると、D2HG濃度が低くてもエラーバーが非常に小さく分解能が高いことから明白なように、感度及び正確度は顕著に高まるが、これは図6及び7から導出可能である。 従って、ジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法は、サンプル中のD2HG量を測定する際には、PMS/XTTアッセイ法よりも多くの利点を提供する。 図8に示す通り、D2HGを水、血清、及び尿で希釈して、標準曲線(0〜375pmol=0〜15μM)を得た。図2のプロトコールによりサンプルを調製し、ジアホラーゼ/レザズリン読み出しを用いてアッセイした。グラフでは、相対蛍光強度(RFU)をD2HG濃度に対してブロットした。 更に、ガスクロマトグラフィー-質量分析法(GC-MS、先行技術における最良の方法)及び本発明のジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法を比較しながら、IDH1突然変異を担持し、D2HGを生成するAML患者の血清中でD2HGを測定した;図9を参照。GC-MS測定について得られた結果とジアホラーゼ/レザズリンアッセイ結果は同等である。比較の際には、IDH1突然変異を担持しない健常者の血清を試験した。このサンプルはD2HG陰性であった。[実施例2](D)-2-ヒドロキシアジピン酸の測定 (D)-2-ヒドロキシアジピン酸を測定する場合、再度、アシダミノコッカス・フェルメンタンスの(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼが用いられている(Buckel、前掲)。(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼは、α-ケトグルタル酸から(D)-2-ヒドロキシグルタル酸へのNADH-依存性の還元のみを触媒するわけではない(図1Aを参照)。同酵素は、アフィニティーが低いながらも、α-ケトアジピン酸から(D)-2-ヒドロキシアジピン酸へのNADH-依存性の還元も触媒する(図1Bを参照)。しかし、前記酵素は、反対方向の反応でも利用可能である。酵素が活性である中性のpHでは、反応の平衡は、(D)-2-ヒドロキシアジピン酸生成の側にある。従って、(D)-2-ヒドロキシアジピン酸測定用として前記酵素を用いる場合、反応は、(D)-2-ヒドロキシアジピン酸がほんの数パーセントだけα-ケトアジピン酸に変換された後に平衡に達する。完全に変換せしめるように、形成したNADHはPMS/XTT又はジアホラーゼ/レザズリンにより不可逆的に再度酸化され、その結果色のついたホルマザン又は蛍光レゾルフィンをそれぞれ生成する。 (D)-2-ヒドロキシアジピン酸濃度を測定する場合、実施例1に示したような2つの異なるアプローチ、すなわちPMS/XTTアッセイ法及びジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法を用いた。 前記アッセイ法を用いることにより、水溶液の(D)-2-ヒドロキシアジピン酸濃度を測定した。(D)-2-ヒドロキシアジピン酸水溶液の測定では、アッセイ前に何らかの処理を必要としない。PMS/XTTアッセイ法の場合、D2HG測定について図3で示したものと同一の試薬及び濃度を(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を測定するのに用いた。図11は、(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を測定するジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法で用いられる試薬及び対応する濃度を示す。D2HGの代わりに(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を見積もるためにこのようなアッセイ法を用いる場合、その唯一の差異として、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼの濃度がより高いことが挙げられる(D2HG測定の場合0.1マイクログラム/ウェルに対して、(D)-2-ヒドロキシアジピン酸測定の場合最大4マイクログラム/ウェル)。当該アッセイを96ウェルフォーマット、総アッセイ容積100μlで実施した。並行して、規定された濃度の(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を用いて標準曲線を作成した。標準サンプルでは、試験サンプルと同一の手順を実施した。 (D)-2-ヒドロキシアジピン酸は、PMS/XTTアッセイ法を用いて水溶液で容易に測定可能である。図13を参照。しかし、この場合、信頼性のあるサンプル測定は、より高濃度の(D)-2-ヒドロキシアジピン酸(100マイクロモルを超える)を含有するサンプルに限り可能であることが判明した。更に、標準偏差は比較的高かった。 それに対して、ジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法を利用すると、エラーバーが非常に小さく分解能が高いことから明白なように、(D)-2-ヒドロキシアジピン酸濃度が低くても感度及び正確度は顕著に高まった。図12を参照。 従って、やはり、ジアホラーゼ/レザズリンアッセイ法は、サンプル中の(D)-2-ヒドロキシアジピン酸量を測定する際には、PMS/XTTアッセイ法よりも多くの利点を提供する。 a)サンプルを、 (i)溶媒と、 (ii)酸化状態及び前記酸化状態と区別可能である還元状態を有し、当初は酸化状態で存在する色素と、 (iii)電子移動剤と、 (iv)(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素と、 (v)補助因子と、 を含む試薬混合物と接触させるステップ、 b)前記色素の還元状態の生成を測定することにより、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を検出するステップを含む、サンプル中の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を検出する方法。 a)対象のサンプルを、 (i)溶媒と、 (ii)酸化状態及び前記酸化状態と区別可能である還元状態を有し、当初は酸化状態で存在する色素と、 (iii)電子移動剤と、 (iv)(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素と、 (v)補助因子と、 を含む試薬混合物と接触させるステップ、 b)前記色素の還元状態の生成を測定することにより、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸を検出し、これにより前記対象の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患を診断及び/又はモニタリングするステップを含む、対象の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患を診断及び/又はモニタリングする方法。 前記(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患が、びまん性神経膠腫、急性骨髄性白血病(AML)、軟骨肉腫、胆管癌及び甲状腺癌からなる群より選択される腫瘍性疾患である、又は前記(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患が、グルタル酸尿症である、請求項2に記載の方法。 前記びまん性神経膠腫が、星状細胞腫WHOグレードII(AII)、星状細胞腫WHOグレードIII(AIII)、希突起膠腫WHOグレードII(OII)、希突起膠腫WHOグレードIII(OIII)、乏突起星細胞腫WHOグレードII(OAII)、乏突起星細胞腫WHOグレードIII(OAIII)又は続発性神経膠芽腫である、請求項3に記載の方法。 a)対象のサンプルを、 (i)溶媒と、 (ii)酸化状態及び前記酸化状態と区別可能である還元状態を有し、当初は酸化状態で存在する色素と、 (iii)電子移動剤と、 (iv)(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素と、 (v)補助因子と、を含む試薬混合物と接触させるステップ、 b)前記色素の還元状態の生成を測定することにより、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸を検出するステップを含み、 前記対象のサンプル中の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸の存在により、前記対象のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)遺伝子又は(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ遺伝子内の突然変異が示される、対象のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)遺伝子又は(D)-2-ヒドロキシグルタル酸(D2HG)デヒドロゲナーゼ遺伝子内の突然変異を診断する方法。 イソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)遺伝子内の突然変異が、IDH1遺伝子又はIDH2遺伝子内の突然変異である、請求項5に記載の方法。 ステップa)において、前記色素の還元状態が、前記色素の酸化状態と蛍光定量法により区別可能であり、 ステップb)において、前記色素の還元状態の生成が、蛍光分光法により測定される、請求項1、2又は5のいずれかに記載の方法。 ステップa)において、前記色素の還元状態が、前記色素の酸化状態と比色分析法により区別可能であり、 ステップb)において、前記色素の還元状態の生成が、可視分光法により測定される、請求項1、2又は5のいずれかに記載の方法。 ステップa)において、前記色素が、レザズリン、又はテトラゾリウム塩、好ましくはXTT(2,3-ビス-(2-メトキシ-4-ニトロ-5-スルホフェニル)-2H-テトラゾリウム-5-カルボキシアニリド二ナトリウム塩)である、請求項1、2又は5のいずれかに記載の方法。 ステップa)において、前記電子移動剤が、ジアホラーゼ又はPMS(N-メチルジベンゾピラジンメチルスルフェート)又はメルドラブルーである、請求項1、2又は5のいずれかに記載の方法。 ステップa)において、前記補助因子が、NAD+又はNADP+である、請求項1、2又は5のいずれかに記載の方法。 ステップa)において、前記酵素が、哺乳動物又は原核生物の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼである、請求項11に記載の方法。 前記(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼが、アシダミノコッカス・フェルメンタンスに由来する、請求項12に記載の方法。 前記サンプルが、組織、組織切片、生検材料、細胞、細胞ライセート、血液サンプル、血清サンプル、血漿サンプル又は尿サンプルである、請求項1、2又は5のいずれかに記載の方法。 (i)溶媒と、 (ii)酸化状態及び前記酸化状態と区別可能である還元状態を有し、当初は酸化状態で存在する色素と、 (iii)電子移動剤と、 (D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素と、 補助因子とを含むキット。 本発明は、サンプル中の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を検出する方法に関し、同方法は、a)サンプルを、(i)溶媒と、(ii)酸化状態及び前記酸化状態と区別可能である還元状態と有し、当初は酸化状態で存在する色素と、(iii)電子移動剤と、(iv)(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素と、(v)補助因子とを含む試薬混合物と接触させるステップ、b)前記色素の還元状態の生成を測定することにより、(D)-2-ヒドロキシグルタル酸又は(D)-2-ヒドロキシアジピン酸を検出するステップを含む。本発明は更に、対象の(D)-2-ヒドロキシグルタル酸関連疾患を診断及び/又はモニタリングする方法に関する。本発明には、対象のイソクエン酸デヒドロゲナーゼ(IDH)遺伝子又は(D)-2-ヒドロキシグルタル酸(D2HG)デヒドロゲナーゼ酵素遺伝子内の突然変異を診断する方法も包含される。更に、本発明は、(i)溶媒と、(ii)酸化状態及び前記酸化状態と区別可能である還元状態とを有し、当初は酸化状態で存在する色素と、(iii)電子移動剤と、(iv)(D)-2-ヒドロキシグルタル酸デヒドロゲナーゼ酵素と、(v)補助因子とを含むキットを提供する。【選択図】なし


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