生命科学関連特許情報

タイトル:公表特許公報(A)_ムコ多糖症およびその他のリソソーム障害に対する抗TNF療法
出願番号:2014517125
年次:2014
IPC分類:A61K 45/06,A61P 43/00,A61K 38/43,A61K 39/395,A61K 31/737,A61P 3/00,A61P 3/10,A61K 31/445


特許情報キャッシュ

シュシュマン エドワード エイチ. シモナロ カロジェラ エム. ストライカー ゲイリー イー. ブラッサラ ヘレン JP 2014518222 公表特許公報(A) 20140728 2014517125 20120620 ムコ多糖症およびその他のリソソーム障害に対する抗TNF療法 アイカーン スクール オブ メディシン アット マウント サイナイ 513321467 清水 初志 100102978 春名 雅夫 100102118 山口 裕孝 100160923 刑部 俊 100119507 井上 隆一 100142929 佐藤 利光 100148699 新見 浩一 100128048 小林 智彦 100129506 渡邉 伸一 100130845 大関 雅人 100114340 五十嵐 義弘 100114889 川本 和弥 100121072 シュシュマン エドワード エイチ. シモナロ カロジェラ エム. ストライカー ゲイリー イー. ブラッサラ ヘレン US 61/498,946 20110620 US 61/569,452 20111212 A61K 45/06 20060101AFI20140701BHJP A61P 43/00 20060101ALI20140701BHJP A61K 38/43 20060101ALI20140701BHJP A61K 39/395 20060101ALI20140701BHJP A61K 31/737 20060101ALI20140701BHJP A61P 3/00 20060101ALI20140701BHJP A61P 3/10 20060101ALI20140701BHJP A61K 31/445 20060101ALI20140701BHJP JPA61K45/06A61P43/00 105A61P43/00 121A61K37/48A61K39/395 NA61K31/737A61P3/00A61P3/10A61K31/445 AP(BW,GH,GM,KE,LR,LS,MW,MZ,NA,RW,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,RU,TJ,TM),EP(AL,AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,RS,SE,SI,SK,SM,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CL,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PE,PG,PH,PL,PT,QA,RO,RS,RU,RW,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TH,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA US2012043369 20120620 WO2012177778 20121227 45 20140210 4C084 4C085 4C086 4C084AA20 4C084DC01 4C084MA02 4C084MA52 4C084MA55 4C084MA63 4C084MA66 4C084NA05 4C084ZC21 4C084ZC35 4C084ZC75 4C085AA14 4C085EE03 4C085GG02 4C085GG03 4C085GG04 4C085GG06 4C085GG08 4C085GG10 4C086AA01 4C086AA02 4C086BC21 4C086EA26 4C086MA02 4C086MA04 4C086MA07 4C086MA52 4C086MA55 4C086MA63 4C086MA66 4C086NA05 4C086ZC21 4C086ZC35 4C086ZC75 本願は、2011年6月20日に出願した米国特許仮出願第61/498,946号、および2011年12月12日に出願した米国特許仮出願第61/569,452号に基づく利益を主張するものであり、これらの仮出願のいずれも、参照によりそれらの全体が本明細書に組み込まれる。 本発明は、米国国立衛生研究所によって授与された助成金番号1R01DK087185の下、米国政府からの援助によって行われたものである。米国政府は、本発明に対して一定の権利を有する。発明の分野 本発明は、ムコ多糖症およびその他のリソソーム障害に対する抗TNFα療法に関する。発明の背景 リソソーム蓄積障害とは、40種超の異なる遺伝性疾患の群を表し、リソソームに存在する酵素の異常を原因とする。リソソーム蓄積障害に罹患した者は、特有の障害および関係する特定の遺伝子型に応じて、広範な臨床症状を呈する。リソソーム蓄積障害と関連する臨床症状は、罹患者とその家族に甚大な影響を及ぼし得る。例えば、細網内皮疾患、中枢神経系機能障害、行動異常、および深刻な精神遅滞は、多くのリソソーム蓄積障害の特徴である。ムコ多糖症(MPS)という特有のリソソーム蓄積障害群では、その他の臨床症状として、骨格異常、臓器肥大症、角膜混濁、および身体的形態異常を挙げ得る。 ムコ多糖症(MPS)とは、11種類の異なる酵素欠損症の群であり、グリコサミノグリカン(GAG)の異化の障害が生じる(Neufeld et al."The Mucopolysaccharidoses,"In:METABOLIC AND MOLECULAR BASIS OF INHERITED DISEASE 3421−3452(Scriver et al.,eds McGraw−Hill)(2001))。これらの遺伝性の酵素欠損により、グリコサミノグリカン(GAG)が、MPS患者のリソソームおよびその他の細胞内区画、ならびに、細胞外結合組織マトリックスに徐々に蓄積する。予想されるとおり、上記の酵素欠損の主な臨床的帰結は、軟骨、皮膚、および骨を含む結合組織器官で最も顕著に現れる。主な臨床像としては、粗く異常な顔貌および頭蓋発達、短脚、変形性関節症、気管および心臓弁欠陥、ならびに、場合によって神経障害が挙げられる。患者では通常、出生時にはMPSの明白な臨床像は認められないが、進行性の臨床的障害を示し得る。重篤なケースでは、罹患児は、持続的な医療的管理を要する場合があるが、青年期を迎える前に死亡することが依然として多い。 別のタイプのリソソーム蓄積障害であるニーマンピック病(スフィンゴミエリンリピドーシスとしても知られる)は、細網内皮系の泡沫細胞浸潤によって特徴づけられる障害群を含む。ニーマンピック病における泡沫細胞には、スフィンゴミエリンと、それほどではないものの、コレステロールを含む他の膜脂質がうっ積する。ニーマンピック病は、A型およびB型では、酸性スフィンゴミエリナーゼという酵素の不活性化を原因とし、B型の方が、残存酵素活性が高い(Kolodny et al.,"Storage Diseases of the Reticuloendothelial System,"in NATHAN AND OSKI'S HEMATOLOGY OF INFANCY AND CHILDHOOD 5th ed.,vol.2,1461−1507(David G.Nathan and Stuart H.Orkin,Eds.,W.B.Saunders Co.)(1998)を参照されたい)。ニーマンピック病における主な器官系の病態生理は、以下のように簡潔にまとめることができる。脾臓は、A型およびB型患者で最も甚大な障害をきたす器官である。肺も、程度の差はあるものの、影響を受け、B型患者における肺病変は、慢性気管支肺炎によって死に至る主な原因である。肝臓への影響はさまざまであるが、重症患者は、生命にかかわる肝硬変、門脈圧亢進、および腹水を有する場合がある。リンパ節への影響は、疾患の重症度によってさまざまである。中枢神経系障害によって、ニーマンピック病の主要な型が区別される。大半のB型患者では中枢神経系への影響は見られないが、中枢神経系障害は、A型患者において特徴的に見られる。腎臓への影響はニーマンピック病ではそれほど大きくない。 これらのリソソーム蓄積障害の治療については、骨髄移植および酵素補充療法を含むいくつかのアプローチが評価されている。骨髄移植は、程度の差はあるものの、有効であるのが分かっているが、単独で実施する場合、骨組織および関節への効果は限られる(Clarke,LA,"The Mucopolysaccharidoses:A Success of Molecular Medicine,"Expert Rev.Mol.Med.10:e1(2008))。免疫抑制剤および骨髄破壊薬の有害な副作用、ならびに、移植片対宿主病の発生も障害となる。臍帯血の使用は、これらの複雑な因子を部分的に弱めるが、それらの因子は重大であり続ける場合が多い。酵素補充療法は、遺伝子組み換え酵素の静脈内注入(通常毎週または隔週)を伴う(Clarke,LA,"The Mucopolysaccharidoses:A Success of Molecular Medicine,"Expert Rev.Mol.Med.10:e1 (2008))。主に、酵素補充療法の有効性は、細網内皮器官(例えば肝臓、脾臓)には容易に送達されるが他の器官には容易には送達されないという、注入された酵素の体内分布に依存する。MPSの障害に対しては、酵素補充療法は以下の3つの型に対して利用可能である:MPS I型(ハーラー/シャイエ症候群)(Wraith et al.,"Mucopolysaccharidosis Type II(Hunter Syndrome):A Clinical Review and Recommendations For Treatment in the Era of Enzyme Replacement Therapy,"Eur.J.Pediatr.167:267−77(2008)、Cox−Brinkman et al.,"Ultrastructural Analysis of Dermal Fibroblasts in Mucopolysaccharidosis Type I:Effects of Enzyme Replacement Therapy and Hematopoietic Cell Transplantation,"Ultrastruct.Pathol.34:126−32(2010)、Coppa et al.,"Effect of 6 Years of Enzyme Replacement Therapy on Plasma and Urine Glycosaminoglycans in Attenuated MPS I Patients,"Glycobiology 20:1259−73(2010))、MPS II型(ハンター症候群)(Glamuzina et al.,"Treatment of Mucopolysaccharidosis Type II(Hunter Syndrome)With Idursulfase:The Relevance of Clinical Trial End Points,"J.Inherit.Metab.Dis.(2011))、およびMPS VI型(マロトー・ラミー症候群)(Decker et al.,"Enzyme Replacement Therapy for Mucopolysaccharidosis VI:Growth and Pubertal Development in Patients Treated With Recombinant Human N−Acetylgalactosamine 4−Sulfatase,"J.Pediatr.Rehabil.Med.3:89−100(2010)、Valayannopoulos et al.,"Mucopolysaccharidosis VI Orphanet,"J.Rare Dis.12:5(2010)、McGill et al.,"Enzyme Replacement Therapy for Mucopolysaccharidosis VI From 8 Weeks of Age−A Sibling Control Study,"Clin.Genet.77:492−498(2010))。可動性、呼吸、および関節の柔軟性の改善を含め、酵素補充療法後のクオリティオブライフの有意な改善が指摘されている。しかしながら、MPS患者の軟骨疾患および骨疾患に酵素補充療法が直接影響を及ぼすという証拠は少ないか、またはまったくないので、これらのプラスの臨床効果は、主に軟組織(例えば腱)の変化に由来すると考えられる。遺伝子療法(Cotugno et al.,"Different Serum Enzyme Levels are Required to Rescue the Various Systemic Features of the Mucopolysaccharidoses,"Hum.Gene Ther.21:555−69(2010)、Herati et al.,"Radiographic Evaluation of Bones and Joints in Mucopolysaccharidosis I and VII Dogs After Neonatal Gene Therapy,"Mol.Genet.Metab.95:142−51(2008))、および、細胞特異的標的配列に融合させた遺伝子組み換え酵素の使用(Lu et al.,"Expression in CHO Cells and Pharmacokinetics and Brain Uptake in the Rhesus Monkey of an IgG−Iduronate−2−Sulfatase Fusion Protein,"Biotechnol.Bioeng.(2011)、Osborn et al.,"Minicircle DNA−Based Gene Therapy Coupled With Immune Modulation Permits Long−term Expression of α−L−Iduronidase in Mice With Mucopolysaccharidosis Type I,"Mol.Ther.19:450−60(2011))を含め、他の実験的療法も、MPSの障害について評価中である。 ポリ硫酸ペントサン(PPS)は、FDAに認可された経口薬であって、リソソーム蓄積障害、さらに具体的にはMPSの障害(本願)、ならびに、関節炎、糖尿病、椎間板変性、および加齢性神経変性を含むいくつかの疾患の動物モデルにおいて、強力な抗炎症効果と臨床効果を有する経口薬である。PPSは現在、間質性膀胱炎患者への使用が認められており、臨床試験によってその安全性が示されている。PPSは、白血球の動員を阻害し、ケモカイン、サイトカイン、および増殖因子のいくつかの機能に干渉し、それにより、炎症および活性酸素種(ROS)を低減する。 腫瘍壊死因子アルファ(TNFα)は、例えば、関節リウマチ、クローン病、潰瘍性大腸炎、および多発性硬化症などの炎症性障害を含むさまざまな障害で重要な役割を果たすと考えられている。TNFαと受容体CD120a、CD120bのいずれについても、非常に詳細な調査が行われてきた。生理活性型のTNFαは三量体であり、隣接するサブユニットによって形成される溝は、サイトカイン受容体との相互作用にとって重要である。サイトカインの作用に拮抗するいくつかの方策が開発されており、現在、これらの方策は、さまざまな病状の治療に用いられている。 TNFαに対して充分な特異性と選択性を有するTNFα阻害剤は、TNFαが原因物質とされている障害を予防または治療するのに効率的な予防用または治療用医薬化合物でありうる。TNFαに対する抗体による、毒素性ショックを治療する方法(Rathjenらの欧州特許第0486526号)、腫瘍退縮、細胞毒性の阻害の方法(Rathjenらの米国特許第6,448,380号、Rathjenらの米国特許第6,451,983号、Rathjenらの米国特許第6,498,237号)、RAおよびクローン病などの自己免疫疾患を治療する方法(Feldmannらの欧州特許第0663836号、Aggarwalらの米国特許第5,672,347号、Leらの米国特許第5,656,272号)、移植片対宿主反応を治療する方法(Aggarwalらの米国特許第5,672,347号)、細菌性髄膜炎を治療する方法(Hectorらの欧州特許第0585705号)が説明されてきた。過去の研究では、MPS動物モデルにおいて炎症が軟骨疾患および骨疾患に及ぼす重大な影響も明らかにされ、ノックアウトマウスでToll様受容体4(TLR4)のシグナル伝達を遺伝的に阻害するか、または、TNF阻害剤をNaglazymeと併用すると、軟骨疾患および骨疾患が著しく改善されることが示されている。ただし、リソソーム蓄積障害、特にムコ多糖症およびニーマンピック病の治療に完全に有効な薬剤は、現在入手できない。TNF阻害剤は、動物モデルでは有効であるが、重大な副作用を引き起こし得る静注薬であり、MPS患者への長期間の使用は、実現困難である場合がある。 本発明は、上記および当該技術分野におけるその他の欠点の克服に注力するものである。 本発明の第一の態様は、リソソーム蓄積障害を有する対象を治療する方法に関する。この方法は、リソソーム蓄積障害を有する対象を選択すること、および選択した対象においてリソソーム蓄積障害を治療するのに有効な条件の下で、選択した対象に、酵素補充療法薬と抗TNFα治療薬を投与することを含む。 本発明の第二の態様は、酵素補充療法によって治療しているリソソーム蓄積障害を有する対象において炎症性サイトカインを低減させる方法に関する。この方法は、対象において炎症性サイトカインを低減させるのに有効な条件の下で、対象に抗TNFα治療薬を投与することを含む。 本発明の第三の態様は、リソソーム蓄積障害を有する対象を治療する方法に関する。この方法は、リソソーム蓄積障害を有する対象を選択すること、および選択した対象においてリソソーム蓄積障害を治療するのに有効な条件の下で、選択した対象にポリ硫酸ペントサン(PPS)を投与することを含む。 本発明の第四の態様は、リソソーム蓄積障害と関連する骨格病変を有する対象を治療する方法に関する。この方法は、リソソーム蓄積障害と関連する骨格病変を有する対象を選択すること、および対象においてリソソーム蓄積障害を治療するのに有効な条件の下で、選択した対象に、基質抑制療法薬と抗TNFα治療薬を投与することを含む。 酵素補充療法(ERT)は、いくつかのリソソーム蓄積障害に利用可能であるが、骨格系に対するこの治療の利点は非常に限られている。過去の研究によって、ムコ多糖症(MPS)の骨格病変におけるToll様受容体4/TNFα炎症経路の重要性が示されており、したがって、本発明では、MPS VI型のラットモデルにおいて、抗TNFα療法をERTと組み合わせることの付加的な利点について考察した。その際、MPS VI型ラットを8カ月間、Naglazyme(登録商標)(遺伝子組み換えヒトN−アセチル−ガラクトサミン−4−スルファターゼ)で処置するか、または、Naglazyme(登録商標)とラット特異的抗TNFα薬CNTO1081とを用いる併用プロトコールによって処置するかした。いずれのプロトコールでも、TNFαと核因子κBリガンドの受容体活性化因子(RANKL)の血清レベルが著しく低下し、併用処置では、関節軟骨におけるTNFαが低減した。培養した関節軟骨細胞の分析により、上記の併用療法において、コラーゲンIIA1型の発現が回復し、アポトーシスマーカーPARPの発現が低減したことも示された。運動活性および可動性はERTによって改善し、これらは、併用療法によって有意に向上した。MPS VI型動物における気管変形は併用療法によって改善し、骨の長さがやや改善した。気管のセラミドレベルも著しく低下した。マイクロCT分析では、いずれの治療によっても骨微細構造に対する有意なプラス効果はまったく示されず、骨成長板の組織学的改善も見られなかった。本発明の結果から、ERTと抗TNFα療法の併用により、治療転帰が改善し、臨床上の重要な利点が得られたこと、および、改善した治療転帰に従って、抗TNFα療法が改善し、臨床上の重要な利点が得られたことも示されている。さらに、本発明の結果から、MPSの障害を含むリソソーム蓄積障害用バイオマーカーとして、TNFα、RANKL、およびその他の炎症分子が有用であることも立証された。 この数年間、本発明の研究者は、単独またはERT、BMT、もしくは遺伝子療法と併用する形の改良された療法の開発を長期的な目標として、MPS動物モデルにおける関節および骨の病変について研究してきた(Simonaro et al.,"Bone Marrow Transplantation in Newborn Rats With Mucopolysaccharidosis Type VI:Biochemical,Pathological,and Clinical Findings,"Transplantation 63:1386−93(1997)、Simonaro et al.,"Articular Chondrocytes From Animals With a Dermatan Sulfate Storage Disease Undergo a High Rate of Apoptosis and Release Nitric Oxide and Inflammatory Cytokines:A Possible Mechanism Underlying Degenerative Joint Disease in the Mucopolysaccharidoses,"Lab Investi.81:1319−1328(2001)、Simonaro et al.,"Joint and Bone Disease in Mucopolysaccharidosis VI and VII:Identification of New Therapeutic Targets and Biomarkers Using Animal Models,"Pediatr.Res.57:701−707 (2005)、これら参照文献のいずれも、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。この継続中の研究の一部として、MPS関節軟骨細胞死(アポトーシス)の増加、MPS滑膜線維芽細胞の過剰増殖、およびMPS成長板の組織崩壊を含め、MPS動物モデルにおける多くの異常を同定した。正常関節軟骨細胞の培養培地にGAGを加えたところ、アポトーシスと炎症マーカーの放出が誘発されたことも研究者は発見し、これは、GAGの貯蔵自体が、MPSの障害において炎症誘発事象であり得ることを示している(Simonaro et al.,"Mechanism of Glycosaminoglycan−Mediated Bone&Joint Disease:Implications for the Mucopolysaccharidoses&Other Connective Tissue Diseases,"Amer.J.Path.172:112−122(2008)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。MPS細胞におけるGAGの貯蔵によって、Toll様受容体4(TLR4)シグナル伝達経路も活性化され、その結果、TNFαとその他の炎症性サイトカインが放出された。 したがって、本発明では、MPSマウス(MPS VII型、スライ病)がTLR4ノックアウトマウスとなるように交配したところ、ダブルノックアウトMPS動物において、TNFα、IL1−β、RANKL、およびその他のサイトカインが著しく低減し、骨の成長が改善し、骨成長板がより組織化され、軟骨細胞の細胞死が低減したことを発見した(Simonaro et al.,"Involvement of the Toll−Like Receptor 4 Pathway and Use of TNF−Alpha Antagonists for Treatment of the Mucopolysaccharidoses,"Proc.Natl.Acad.Sci.107:222−7(2010)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。これにより、研究者は、関節炎およびその他の炎症性疾患に用いられるFDA認可の抗TNFαモノクローナル抗体Remicade(登録商標)のラット特異的等価物である、CNTO1081を用いて、MPS VI型ラットにおいて抗TNFα療法の予備的な分析を行うに至った(Weaver,AL,"Efficacy and Safety of the Anti−TNF Biologic Agents,"Mod.Rheumatol.14:101−112 (2004)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。この研究では、CNTO181処置により、MPS VI型動物における炎症性サイトカインのレベルが低下し、アポトーシスを起こした関節軟骨細胞の数も低減したことが分かった。しかしながら、骨の成長に対する効果、または運動活性の臨床的改善は見られなかった。本発明では、これらの発見を拡張し、MPS VI型ラットにおいて、抗TNFαアプローチと、ERT/抗TNFα併用アプローチを評価した。抗TNFαアプローチと、ERT/抗TNFα併用アプローチでは、ERT単独よりも、いくつかの利点が得られることが分かった。これらの利点には、歩行および運動活性の改善、気管の薄化および変形の減少、ならびに骨のわずかな伸長が含まれていた。関節軟骨においてコラーゲンIIA1型の発現も回復し、アポトーシスも低減した。 本願は、(a)MPSなどのリソソーム蓄積障害に対する新たな療法であって、軟骨および骨(脊椎を含む)の治療を改善する療法が必要とされているという前提、(b)これらの療法が、ヒトに使用する前に、適切な動物モデルで立証されなければならないという前提、ならびに(c)治療時における疾患の重症度が効能に大きな影響を及ぼすであろうという前提に基づくものである。 本発明は、PPSがMPS用の初めての経口薬であり得るとともに、これらの障害における軟骨疾患および骨疾患に大きな影響を及ぼす初めての治療であり得るということも提案する。この仮説は、(a)MPSの軟骨疾患および骨疾患の病態生理における炎症の重要な役割を実証している過去の研究、(b)PPSの炎症および軟骨形成に対する既知の効果、ならびに(c)MPSの1つ(MPS VI型、マロトー・ラミー病)のラットモデルにおいてPPSを用いた初期の予備データに基づいている。PPSがすでに安全性試験を経ており、FDAから認可を受けていることを考慮すると、MPS患者への使用も、本発明で提案されている動物モデル実験に基づき、「急速に拡大」し得る。ちなみに、PPSは残存酵素活性を高めたり、MPS患者におけるGAGの低減を導くとは期待されないので、PPSは、これらの障害においてERTと併用してよい。PPSを単独で用いて、リソソーム蓄積障害を治療してもよい。PPSはヘパリン様GAG分子である。したがって、GAG蓄積疾患であるMPS障害またはその他のリソソーム蓄積障害に良い効果をもたらすとは期待されていなかった。実際、本発明の教示以前には、PPSは、これらの障害を悪化させるとみられていた可能性がある。PPSはGAG様分子であるにもかかわらず、MPSおよびその他のリソソーム蓄積障害に実質的に良い効果をもたらすことを本発明は初めて教示する。 要約すると、軟骨疾患および骨疾患の治療は、MPSなどのリソソーム蓄積障害における満たされない重要な医療ニーズの代表であり、本発明は、リソソーム蓄積障害患者、特にMPS患者の治療および看護に甚大かつ迅速な影響を及ぼし得る。A〜Cは、MPS VI型ラットにおけるERTとERT/抗TNFα併用療法の抗炎症効果を示す図である。図1Aでは、MPS VI型ラットに対して、ERT処置(黒色)またはERT/抗TNFα併用処置(灰色)を8カ月間行った(n=8匹/群)。抗TNFα療法は、TNFαに対する抗体(CNT01081)を用いて実施した。最後の注射の2日後に、これらのラットを安楽死させ、血清を採取した。週齢をマッチさせた(37週)正常ラットの血清(薄灰色)および未処置のMPS VI型ラットの血清(白色)も採取し、免疫測定キットを用いてTNFαおよびRANKLのレベルを決定した(下記の実施例を参照されたい)。すでに示されているように、未処置のMPS VI型動物では、これらの2つの炎症マーカーのレベルが著しく上昇しており、いずれも、ERTまたは併用処置によって有意に低下した(*p<0.005)。これらの2つの処置プロトコールの間に有意差は見られなかった。図1Bでは、未処置のMPS VI型ラットで、関節軟骨におけるTNFα免疫染色(赤色)が、正常ラットと比べて著しく上昇し、これは、ERTによってわずかに低下し、併用処置によって正常化した。図1Cでは、未処置のMPS VI型およびERT処置済の滑膜において、絨毛(SV)の形成を伴う滑膜(*)の増生、ならびに、滑膜の肋軟骨下骨への浸潤(矢尻、SB)が明らかに見られた。併用療法で処置したラットでは、関節炎症が著しく少なかったが、貯蔵細胞は依然として存在していた。A〜Bは、未処置および処置済みのMPS VI型ラットにおける運動活性および歩行の分析結果を示す図である。図2Aでは、MPS VI型ラットにERT処置(四角)またはERT/抗TNFα併用処置(丸)を8カ月間行った(n=8匹/群)。抗体CNT01081を用いて抗TNFα療法を実施した。最後の注射の2日後、ラットに対して、3種類の速度で加速ロータロッド分析を行い、年齢と性別をマッチさせた未処置のMPS VI型ラット(三角)とパフォーマンスを比較した。10RPMでは、いずれの処置済みのラット群も、最大期間(180秒間)回転ロッド上に留まり、未処置のラットよりも有意に長かった(p<0.005)。この傾向は、より速い速度では顕著になり、ERT群と併用群との間の差も有意であった(p*<0.005)。個々のラットにおける時間をプロットし、各群の平均値を横線で示している。図2Bでは、処置後、ラットに対して歩行分析も行った。2種類の異なる色の食用着色剤を用いて、管の中を歩くラットの前足と後足をマーキングし、足跡から歩幅と足の運びの角度を測定した。各ラットを少なくとも3回試験した。足跡の平均値の概要は図2A〜2Bに示されている。見てとれるように、後足の動作角度は、60°(未処置)から、ERT処置ラットでは45°に縮小し(未処置ラットとの比較、p=0.004)、併用処置ラットでは30°(未処置ラットとの比較、p=0.0001)に縮小した。加えて、ラットが1歩で前足を動かすことができる距離は、2.8cm(未処置)から4.2cmに伸びたとともに、併用処置群では5.1cmに有意に伸びた(p=0.03)。ラットが後足で進むことができる距離は、ERT群では変わらず、併用群でわずかに(4.9cmから5.1cmに)伸びたに過ぎなかった。A〜Cは、未処置および処置済みのMPS VI型ラットにおける骨の長さおよび微細構造を示す図である。図3Aでは、MPS VI型ラットに対して、ERT処置(黒色)またはERT/抗TNFα併用処置(灰色)を8カ月間行った(n=8匹/群)。TNFα療法は、抗体CNT0181で実施した。最後の注射の2日後にラットを安楽死させ、マイクロCT分析用に大腿骨と脛骨を採取した。その結果を、年齢と性別をマッチさせた未処置のMPS VI型ラット(白色)と比較して、その値を正常な対照の割合(%)として表した。ERTでは、大腿骨または脛骨の長さは伸びなかったが、併用プロトコールでは、大腿骨は約6%、脛骨は約14%長くなった。ちなみに、未処置のMPS VI型群の脛骨は平均で正常の74%、大腿骨は平均で正常の77%であったのに対して、併用処置群の脛骨は平均で正常の約88%、大腿骨は平均で正常の約84%であった。図3Bは、冠状断像によるマイクロCT分析結果を示す図である。未処置および処置済みのMPS VI型ラットにおいて、骨幹端部の骨の骨梁密度は低下し、骨端軟骨成長板は、形成が異常で崩壊しており、骨端の骨梁は、正常な大腿骨と比べて組織崩壊していた。併用処置による多少の改善が検出された。図3Cは、大腿骨の骨幹部中央領域のマイクロCT分析結果であり、軸方向像を示しており、皮質下の骨梁が骨髄空間内に浸潤している。処置後、骨梁の浸潤がいくらか低減したが、これは定量測定値によって確認することはできなかった。A〜Bは、未処置および処置済みのMPS VI型ラットにおける気管の欠陥を示す図である。図4Aでは、(抗体CNT01081で)処置済みおよび未処置のMPS VI型ラットおよび正常ラットから、実験の最後(37週齢時)に気管を採取した。この代表的な図によって示されているように、未処置のMPS VI型ラットでは、著しく肥厚し、異常な、虚脱した気管であるとともに、その内腔は狭くて扁平であった。これらの異常は、ERTによっては変わらなかったが、併用処置によって明らかに改善し、併用処置の結果、円形の気管が得られ、断面積は統計上ほぼ正常な値となった。図4Bは、気管の免疫組織化学分析結果であり、未処置およびERT処置済みのラット(赤色)の上皮細胞において、炎症誘発性およびアポトーシス促進性のスフィンゴリピドであるセラミドの発現が増大したことが示されており、これは、炎症性疾患の発生と合致している。併用処置群から採取した気管では、セラミドのほぼ正常な発現が見られた。A〜Bは、未処置および処置済みのMPS VI型ラットから採取した関節軟骨細胞におけるタンパク質の発現を示す図である。図5Aでは、MPS VI型ラットに対して、ERT処置またはERT/抗TNFα併用処置を8カ月間行った(n=8匹/群)。抗TNFα療法は、抗体CNT01081を用いて実施した。最後の注射の2日後にラットを安楽死させ、関節軟骨細胞を単離して、ウエスタンブロット用に処理した(図5A)。この代表的な実験で示されているように、ERT単独では、コラーゲンX型の発現が増大し、コラーゲンIIA1型は、より緩やかな程度で発現が増大した。併用処置群では、コラーゲンIIA1型の発現レベルがさらにより顕著であったことを除き、同様の観察結果が見られた。これらの観察結果を確かめるために、未処置ラット、ERT処置ラット、および併用処置ラットから採取した関節軟骨切片で、コラーゲンIIA1型の免疫蛍光顕微鏡分析を行った(図5B)。図5Bで明らかなように、併用処置群において、コラーゲンIIA1型の発現(赤色)がより高く、正常ラットと類似していた。処置済みラットおよび対照ラットにおいて、ウエスタンブロットによってアポトーシスマーカーPARPの発現についても調べたところ、併用処置によってのみ低下した。加えて、MPS VI型で上昇するアグリカナーゼADAMTS5のレベルは、いずれの処置プロトコールによっても低下した。A〜Dは、PPSで処置したMPS VI型ラットの結果を示す図である。MPS VI型ラットは、通常の給水で(図6A)、または25mg/日のPPSを含む水で(図6B)飼育した(n=6匹/群)。処置開始時のラットの月齢は6カ月で、処置は3カ月間実施した。処置の最後に、頭蓋と鼻の画像を撮った。代表的な画像が示されている。鼻の長さが図6Cに示されており、頭蓋の長さが図6Dに示されている。頭蓋の長さと幅の測定値は、各ラットについて、X線写真からも決定した。そのデータは棒グラフで示されている(図6C、6D)。白色は正常な9カ月齢ラット、灰色は、通常の給水を行ったMPS VI型ラット、青色は、PPSを摂取したMPS VI型ラット、*はp<0.01である。A〜Fは、正常ラット(図7A、7D)、PPS処置を行ったMPS VI型ラット(図7C、7F)、およびPPS処置を行っていないMPS VI型ラット(図7B、7E)の頭蓋のX線写真(図7A、7B、7C)とマイクロCT画像(図7D、7E、7F)を示す図である。MPS VI型ラットは、通常の給水で、または25mg/日のPPSを含む水で飼育した(n=6匹/群)。処置開始時のラットの月齢は6カ月で、処置は3カ月間実施した。上方の画像はX線写真を示しており(図7A、7B、7C)、下方の画像はマイクロCT画像である(図7D、7E、7F)。PPSで処置したMPS VI型ラットの方が、未処置のMPS VI型ラットよりも鼻が長く、頭蓋が細いことが分かった。X線写真中の線は参考のためのものである。図6A〜6Dに示されている、頭蓋の長さおよび幅に関する定量データは、これらのX線写真から測定した。A〜Fは、正常ラット(図8A、8B)、PPS処置を行ったMPS VI型ラット(図8E、8F)、およびPPS処置を行っていないMPS VI型ラット(図8C、8D)のマイクロCT画像を示す図であり、歯列の変化を示している。MPS VI型ラットは、通常の給水で、または25mg/日のPPSを含む水で飼育した(n=6匹/群)。処置開始時のラットの月齢は6カ月齢で、処置は3カ月間実施した。未処置のMPS VI型ラットでは切歯が過剰成長し(囲み部分)、これにより、正常ラットに比べて、異常な歯並びとなる。下顎骨と歯並びの悪さはPPS処置によって矯正された。PPS処置を行ったMPS VI型ラットとPPS処置を行っていないMPS VI型ラットのロータロッド分析結果を示す図である。6カ月齢のMPS VI型ラットをPPS処置しながら、またはPPS処置せずに3カ月間飼育し(n=6匹/群)、殺処分前に、加速ロータロッド装置を用いて分析した。灰色は通常の給水を行ったMPS VI型ラット、青色はPPSを摂取したMPS VI型ラットである。処置済みのMPS VI型ラットの方が、未処置のラットの2倍超長く回転ロッド上に留まることができたことに留意されたい。*はp<0.02である。A〜Bは、PPS処置済みおよび未処置のラットの免疫組織化学分析結果を示す図である。図10Aは、PPS処置済みのMPS VI型ラットの肝臓および脾臓の免疫組織化学分析結果であり、年齢をマッチさせた未処置の9カ月齢MPSラットと比べると、TNFαの発現が低下したことが示されている。図10Bでは、PPS処置済みのラットにおいて血清中のTNFレベルも低下していた。A〜Cは、処置済みおよび未処置のMPS VI型ラットにおける血清炎症マーカーを示す図である。3群のMPS VI型ラットに、6カ月齢(薄灰色)、1カ月齢(濃灰色)、または出生前(黒色)からPPS処置を開始した。いずれのラットも9カ月齢で殺処分した。したがって、処置期間はそれぞれ3カ月、8カ月、9.75カ月であった。ELISAアッセイによっていくつかの炎症マーカーの血清レベルを測定し、正常ラット(斜線)または未処置のMPS VI型ラット(白色)と比較した。Nは6匹/群であった。炎症マーカーMIP−1αの血清レベルは図11Aに示されており、マーカーのランテスのレベルは図11Bに、TNFαのレベルは図11Cに示されている。いずれの処置群でも、これらの炎症マーカーのレベルは、未処置のMPS VI型ラットよりも有意に(<0.001)低かった。A〜Cは、1カ月齢のMPS VI型ラットの処置結果を示す図である。図12Aおよび12Bでは、1カ月齢のMPS VI型ラットを通常の水で、または25mg/日のPPSを含む水で8カ月間飼育した(n=6匹/群)。代表的な画像が示されている。矢印は、未処置のラットにおける眼のポルフィリン分泌、幅広い頭蓋および鼻、ならびに小さい耳を示しているとともに、処置済みのラットでは、顕著な改善がみられる。図12Cでは、ラットを加速ロータロッド装置で試験した。処置済みのMPS VI型ラットの方が、20RPMにおいて、未処置のラットの2倍超長く回転ロッド上に留まることができた。加えて、正常および処置済みのラットのみが、35RPMの速度まで回転ロッド上に留まることができた(正常ラットの60%)。PPSで処置したMPS VI型ラットの気管を示す図である。群1、2、および3のラットは、6カ月から、1カ月から、および出生前からPPS処置を開始した。ラットは9カ月で殺処分し、気管を単離した。画像は、未処置のMPS VI型ラットでは、正常ラットよりも気管が虚脱していること、およびこの虚脱が、すべてのPPS処置群で改善したことを示している。A〜Cは、処置済み(6カ月齢)および未処置のMPS VI型ラットにおける脊椎疾患の評価を示す図である。図14Aは、正常対照ラット(左)とMPS VI型ラット(右)のサフラニンO/ファストグリーン染色の結果を示している。図14Bは、腰椎の運動分節の生体力学的な結果を示しており、MPSラットの方が、ニュートラルゾーンの剛性が低く、圧縮クリープの時定数が低かったことが示され、コラーゲンの完全性とGAGの機能が低下していることが示唆された。図14Cは、対照群、MPS群、処置済み(T)群のサジタルX線写真を示しており、MPSの椎間板の高さ指数(DHI、2つの隣接する椎骨の高さの平均によって規格化した椎間板の高さとして定義される)が対照よりも大きく、痩せ細った成熟ラット(6カ月齢)のPPS処置がこのパラメーターに影響を及ぼさなかったことが示され、より早い段階での介入の動機となった。PPS処置済みのMPS VI型ラットにおける関節軟骨細胞の分析結果を示す図である。群1、2、および3のラットは、6カ月から、1カ月から、および出生前からPPS処置を開始した。ラットは、9カ月で殺処分し、関節軟骨細胞を単離し、3週間増殖させた。続いて、増殖した細胞をウエスタンブロットによって分析した。MPS VI型ラットの軟骨細胞の方が正常細胞よりも、炎症マーカーである、TNFα、p38、およびCox−2が高かったこと、ならびに処置済みのMPS VI型ラットでは、これらのレベルが正常レベルまで低下したことに留意されたい。ADAMTS−5は、プロテオグリカンを分解するアグリカナーゼであって、未処置のMPS VI型ラットの軟骨細胞で増大するが、MPS VI型処置群において低下した。PPSで処置したニーマンピック病マウスのロータロッド分析結果を示す図である。1カ月齢のニーマンピック病マウス(酸性スフィンゴミエリナーゼノックアウト)を、1カ月齢から3か月間、PPSで処置した(25mg/kg/日)。続いて、20RPMに設定した加速ロータロッド装置を用いてマウスを分析した。PPSで処置したNPDマウスは、未処置のマウスよりも有意に高いパフォーマンスを見せた(p<0.01)。いずれの群も、滞留時間は野生型マウスよりも有意に短かった。発明の詳細な説明 本発明の第一の態様は、リソソーム蓄積障害を有する対象を治療する方法に関する。この方法は、リソソーム蓄積障害を有する対象を選択すること、および選択した対象においてリソソーム蓄積障害を治療するのに有効な条件の下で、選択した対象に、酵素補充療法薬と抗TNFα治療薬を投与することを含む。 本発明によるリソソーム蓄積障害は、リソソーム酵素の欠損により、リソソーム酵素基質の存在または蓄積が生じ、その結果、望ましくない作用(例えば、基質の異常蓄積、または異常基質の産生)が生じる任意の障害である。リソソーム酵素が異常な量で産生されたり(例えば、リソソーム酵素が対象においてまったく発現していなかったり、低レベルで発現していたり、高レベルで発現していたり)、または、例えば突然変異もしくはタンパク質の不適切なフォールディングにより、異常な機能を呈したりする場合がある。本発明によるリソソーム酵素は、細胞のリソソーム区画に含まれる加水分解酵素であって、リソソーム区画に含まれる細胞副生成物を代謝する任意の加水分解酵素である。本明細書で使用する場合、基質とは、1種以上のリソソーム酵素に対するリソソーム基質を指す。本発明の方法による治療の対象となるリソソーム蓄積障害は、当該技術分野においてリソソーム蓄積障害と認識される障害であれば、特に限定されない。 本発明のリソソーム蓄積障害は、以下の病状に細分される:スフィンゴリピドーシス、ムコ多糖症、糖タンパク症(glycoproteinoses)、ムコリピドーシス、糖原病II型、セロイドリポフスチン沈着症、および「その他」のカテゴリーに入る病状(Caillaud et al.,"Gene Therapy in Lysosomal Diseases,"Biomed.Pharmacother.54:505−12(2000)、Nathan and Oski,HEMATOLOGY OF INFANCY AND CHILDHOOD,Chapter 35,W.B.Saunders(2003)(いずれの文献も参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。ほぼすべてのリソソーム蓄積障害は常染色体劣性疾患である。これに対する2つの留意すべき例外は、X染色体連鎖性であるファブリー病とハンター症候群である(Blazarらの米国特許出願公開第20070009500号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。 本発明のリソソーム蓄積障害としては、スフィンゴリピドーシス、ムコ多糖蓄積症(ムコ多糖症)、糖タンパク症(glycoproteinoses)、ムコリピドーシス、糖原病II型、セロイドリポフスチン沈着症、およびその他のリソソームタンパク質機能異常を挙げることができるが、これらに限らない。さらに具体的には、前記障害としては、GM1ガングリオシドーシス(ランディング病)、GM2ガングリオシドーシスB/B1異型(テイ・サックス病)および0異型(サンドホッフ病)、異染性白質萎縮症、クラッベ病、ファブリー病、ゴーシェ病、ニーマンピック病(A、B、C)、ファーバー病、ウォルマン病、オースティン病、ムコ多糖症I型(ハーラー病またはハーラー症候群)、シャイエ病、ハーラー・シャイエ病、ムコ多糖症II型(ハンター病)、ムコ多糖症III型(サンフィリッポ病、ムコ多糖症III A〜D型、ムコ多糖症IV型(モルキオ病)、ムコ多糖症IV AおよびB型、ムコ多糖症VI型(マロトー・ラミー病)、ムコ多糖症VII型(スライ病)、ムコ多糖症IX型、濃化異骨症、アスパルチルグルコサミン尿症、フコシドーシス、α−マンノシドーシス、β−マンノシドーシス、シンドラー病、神崎病、ムコリピドーシスI型(シアリドーシス)、ムコリピドーシスIB型(ガラクトシアリドーシス)、ムコリピドーシスII、III、およびIV型(ムコリピドーシス)、糖原病II型(ポンペ病によって特徴づけられる)、サンタヴォリ・ハルティア病(Santavuori−Haltia disease)、ヤンスキー・ビールショースキー病(Jansky−Bielshowsky disease)、バッテン病、クーフス病、CLN5、CLN6、CLN7、およびCLN8遺伝子座の突然変異によって特徴づけられる病状、ならびに/または、シアル酸蓄積症(乳児型、サラ病)、およびメチルマロン酸性尿症などのその他のリソソーム蓄積症を挙げることができるが、これらに限らない(Blazarらの米国特許出願公開第2007/0009500号、Okamuraらの米国特許第7,951,545号(いずれの特許文献も参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。 本発明の一実施形態では、リソソーム蓄積障害はスフィンゴリピドーシスであり、前記スフィンゴリピドーシスは、スフィンゴミエリンが蓄積される疾患であるニーマンピック病である。ニーマンピック病B型は、酸性スフィンゴミエリナーゼの障害によるものであり、ニーマンピック病C型は、コレステロールのエステル化異常によるものである。スフィンゴリピドーシスのその他の例としては、以下の疾患が挙げられるが、これらに限らない:GM1ガングリオシドーシス(ランディング病、β−ガラクトシダーゼ欠損)、GM2ガングリオシドーシスB/B1異型(テイ・サックス病、ヘキソサミニダーゼA欠損)および0異型(サンドホッフ病、ヘキソサミニダーゼAおよびB欠損)、異染性白質萎縮症(アリールスルファターゼA欠損)、クラッベ病(ガラクトシルセラミダーゼ欠損)、ファブリー病(α−ガラクトシダーゼ欠損)、ゴーシェ病(β−グルコシダーゼの欠損)、ニーマンピック病(A、B、C、スフィンゴミエリナーゼ欠損)、ファーバー病(セラミダーゼの欠損)、ウォルマン病(酸性リパーゼの欠損)、およびオースティン病(多数のスルファターゼの欠損)(Blazarらの米国特許出願公開第2007/0009500号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。 本発明の別の実施形態では、リソソーム蓄積障害はムコ多糖症である。ムコ多糖症(MPS)という用語は、本明細書で使用する場合、GAGのリソソーム内での蓄積および貯蔵によって特徴づけられる、リソソーム蓄積障害のサブグループを指す。一つの特定の実施形態では、本発明によるムコ多糖症は、MPS I型(ハーラー/シャイエ症候群)、MPS II型(ハンター症候群)、MPS VI型(マロトー・ラミー症候群)、MPS III型(サンフィリッポ症候群)、MPS IV型(モルキオ症候群)、および/またはMPS VII型(スライ病)を含んでもよい。ムコ多糖症I型〜IX型の分類および欠損酵素の追加の例は表1に列挙されており、本発明の方法によって治療され得る疾患としては、下記の表1に列挙されているものが挙げられる(Okamuraらの米国特許第7,951,545号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。 (表1)ムコ多糖症の分類 本発明による糖タンパク症(glycoproteinoses)としては、以下の疾患が挙げられるが、これらの疾患に限らない:アスパルチルグルコサミン尿症(N−アセチルβ−グルコサミニダーゼの欠損)、フコシドーシス(α−フコシダーゼの欠損)、α−マンノシドーシス(α−マンノシダーゼ欠損)、α−マンノシドーシス(β−マンノシダーゼ欠損)、シンドラー病および神崎病(シンドラー病および神崎病のいずれについても、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼまたはα−ガラクトシダーゼB)(Blazarらの米国特許出願公開第2007/0009500号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。 本発明のムコリピドーシスとしては、以下の疾患が挙げられるが、これらに限らない:I型(シアリドーシス、α−ノイラミニダーゼ欠損)、IB型(ガラクトシアリドーシス、カテプシンA欠損)、ならびに、II型、III型、およびIV型(ムコリピドーシス、N−アセチルグルコサミン−1−ホスホトランスフェラーゼ)。糖原病II型は、例えばポンペ病(α−1,4−グルコシダーゼまたは酸性マルターゼの欠損)によって特徴づけられる(Blazarらの米国特許出願公開第2007/0009500号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。 本発明のセロイドリポフスチン沈着症としては、サンタヴォリ・ハルティア病(パルチミトイルタンパク質チオエステラーゼ欠損)、ヤンスキー・ビールショースキー病(トリペプチジルペプチダーゼI欠損)、バッテン病(CLN3タンパク質欠損)、クーフス病、ならびに、CLN5、CLN6、CLN7、およびCLN8遺伝子座の突然変異によって特徴づけられる病状が挙げられるが、これらに限らない(Blazarらの米国特許出願公開第2007/0009500号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。 その他のリソソーム蓄積症としては、シアル酸蓄積症(乳児型、サラ病、シアル酸輸送体の欠損)、およびメチルマロン酸性尿症(ビタミンB12輸送体タンパク質の欠損)が挙げられるが、これらに限らない(Blazarらの米国特許出願公開第2007/0009500号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。 酵素補充療法という用語は、本明細書で使用する場合、リソソーム蓄積障害を有する対象における欠損または欠陥酵素を補充する任意の薬剤または療法を指す。 本発明による酵素補充療法(「ERT」)は、体外で産生された天然の酵素または遺伝子組み換え酵素の投与、好ましくは静脈内投与を伴う。投与後、補充酵素は、肝臓によって体循環中に分泌される。近接する細胞および遠方の細胞のいずれも、主にマンノース−6−リン酸受容体(事実上すべての細胞の表面上に存在する)を通じて、分泌された酵素を再取り込みする(Suzuki,K."Lysosomal Diseases,"in:GREENFIELD'S NEUROPATHOLOGY 653−735(Graham,D.I.,Lantos,P.K.eds.,Arnold:London)(2002)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。酵素の局所投与により、欠損細胞中の酵素集団の少なくとも一部を補充できる。しかしながら、これらの酵素の循環血中の半減期と細胞内の半減期は通常短く、療法では、比較的多量の当該酵素を定期的に非経口投与しなければならない(Blazarらの米国特許出願公開第2007/0009500号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。酵素補充療法の原理証明は、ハーラー症候群動物モデルで立証されている(Shull et al.,"Enzyme Replacement in a Canine Model of Hurler Syndrome,"Proc.Natl.Acad.Sci.USA 91:12937−12941(1994)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。他の研究者は、治療用に回収するために、充分な量の遺伝子組み換え酵素を細胞培養で発現させる有効な方法を開発してきた(Kakkis et al.,"Overexpression of the Human Lysosomal Enzyme α−L−Iduronidase in Chinese Hamster Ovary Cells,"Prot.Express.Purif.5:225−232(1994)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。本発明の一実施形態では、酵素補充療法薬として、アルグルセラーゼ、イミグルセラーゼ、ベラグルセラーゼアルファ、ラロニダーゼ、アガルシダーゼベータ、ガルスルファーゼ、アルグルコシダーゼアルファ、N−アセチルガラクトサミン−6スルファターゼ、およびイデュルスルファーゼを挙げられるが、これらに限らない。 ある特定のリソソーム蓄積症を治療する場合に、酵素補充療法は特に有効である。例えば、ゴーシェ病およびファブリー病の治療における酵素補充は、これらの疾患の非神経障害性症状を逆転させるのに有効とされている(Weinreb et al.,"Effectiveness of Enzyme Replacement Therapy in 1028 Patients With Type 1 Gaucher Disease After 2 to 5 Years of Treatment:A Report From the Gaucher Registry,"Am.J.Med.113:112−119(2002)、Schiffman et al.,"Enzyme Replacement Therapy in Fabry Disease:A Randomized Controlled Trial,"JAMA 285:2743−2749(2001)(いずれの文献も参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。しかしながら、ムコ多糖症I型(すなわちMPS−1H、ハーラー症候群)などの多くのリソソーム蓄積症では、酵素の補充により、注入したドナータンパク質に対する強力な免疫原性反応が生じる場合がある。さらに、全身に投与された酵素は、CNSおよび骨格系などの、後に発生に至る部位には到達できない。したがって、酵素補充療法は、これらの代謝性蓄積症の多くと関連する神経学的症状と骨格欠陥を治療するのに有効ではない(Blazarらの米国特許出願公開第2007/0009500号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。 抗TNFα療法という用語は、本明細書で使用する場合、リソソーム蓄積障害を有する対象における欠損または欠陥TNFαを補充する任意の薬剤または療法を指す。本発明の一実施形態では、抗TNFα療法薬は、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、およびナタリズマブからなる群から選択される。別の実施形態では、抗TNFα療法薬はポリ硫酸ペントサン(PPS)である。 本発明の上記およびその他の態様の目的のための、標的となる対象は、任意の動物、好ましくは哺乳類、より好ましくはヒトを包含する。治療を受けているリソソーム蓄積障害患者に対して予防を行う目的で本発明の組成物を投与する状況においては、標的となる対象は、リソソーム蓄積障害に罹患するリスクがある任意の対象を包含する。特に、罹患しやすい対象として、乳児および年少者、ならびに免疫不全状態の成人が挙げられる。対象においてリソソーム蓄積障害を治療する目的で本発明の組成物を投与する状況においては、標的となる対象集団は、任意のタイプのリソソーム蓄積障害に罹患した任意の対象を包含する。特に好適な対象としては、MPS I型、MPS II型、MPS III型、MPS IV型、MPS VI型、またはMPS VII型に罹患するリスクがあるか、または罹患した対象が挙げられる。とりわけ、ムコ多糖症は通常、新生児(すなわち乳児)では無症候性であるが、その発症は、身長発育の遅滞、骨の発達異常、ならびに、顔貌、皮膚、および毛髪の発達異常を含む症状によって、乳児期または小児期に明白になる。場合によっては、対象は新生児期においては正常であるが、年月とともに精神遅滞が徐々に進行する。したがって、臨床症状が現れない新生児期の初期および乳児期におけるムコ多糖症などの診断および治療はおそらく、早期の酵素補充療法、遺伝子治療、または骨髄移植により、精神遅滞などを予防するであろう。したがって、ムコ多糖症の診断および治療は、新生児および乳児に対して行ってもよい(Okamuraらの米国特許第7,951,545号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。本発明の一実施形態では、対象は乳児または年少者であってもよい。別の実施形態では、対象は成人であってもよい。 本明細書で使用する場合、有効な量とは、所望の局所的または全身的効果をもたらす量を意味する。例えば、有効な用量とは、有益なまたは所望の臨床的または非臨床的成果をもたらすのに充分な量である。酵素補充療法薬および抗TNFα療法薬の治療上有効な量は、標準的な手順(例えば、その組成物中の有効物質の濃度、投与の方法および頻度、治療(または予防)対象のリソソーム蓄積障害の重症度、対象の詳細(年齢、体重、ならびに全体的な健康状態および免疫状態など)を含む多くの要因を考慮する手順)に従って決定することができる。一般的な手引きは例えば、International Conference on Harmonizationの刊行物および REMINGTON'S PHARMACEUTICAL SCIENCES(Mack Publishing Company 1990)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に見出すことができる。臨床医学者であれば、所望のまたは所要の予防または治療効果をもたらす投与量に達するまで、酵素補充療法薬または抗TNFα療法薬を投与できる。その療法の経過は、従来のアッセイによって容易にモニタリングできる。 酵素補充治療薬および抗TNFα治療薬の治療上有効な量は典型的には、1回の投与につき、または1日ベースで、体重1キログラム当たり少なくとも1mg(mg/kg)、たとえば、少なくとも2mg/kg、少なくとも5mg/kg、少なくとも25mg/kg、少なくとも50mg/kg、少なくとも100mg/kg、少なくとも150mg/kg、少なくとも200、少なくとも250mg/kg、少なくとも500mg/kg、少なくとも750mg/kg、および少なくとも1000mg/kgの組成物である。酵素補充療法および抗TNFα療法は、通常、何回にもわたって実施される。個々の投与の間隔は、週に1回、月に1回、または年に1回であってよい。間隔は、対象における抗体の血中レベルを測定することによって示されるのに応じて不規則にすることもできる。あるいは、酵素補充療法薬および抗TNFα療法薬は、徐放性製剤として投与することもでき、その場合には、投与頻度を低くする必要がある。その治療が予防目的か治療目的かによって、投与量および投与頻度を変えることができる。予防用途においては、比較的少ない投与量を比較的低頻度な間隔で、長期間にわたって投与する。治療用途においては、疾患の進行が遅延または停止するまで、好ましくは、対象が、疾患の症状の部分的または完全な改善を示すまで、比較的短い間隔による比較的多い投与量が必要となる場合がある。本発明の一実施形態では、投与を繰り返す。 本発明の酵素補充治療薬および抗TNFα治療薬は、治療を受けるリソソーム蓄積障害の性質に応じて、併用療法の一部として、別の有効物質と併せて投与できる。本発明の一実施形態では、本方法は、追加の療法を実施することを含む。本発明による追加の療法の例示的な形態としては、骨髄移植、シャペロン療法、および遺伝子療法が挙げられるが、これらに限らない。特に、骨髄移植が、リソソーム蓄積障害の治療のための治療アプローチである。骨髄移植は、免疫的に適合する健常なドナーから採取した幹細胞によって患者の造血系を再構築して、生涯の酵素供給源を確立する(Steward,C.G.,"Bone Marrow Transplantation for Genetic Diseases,"in:BLOOD CELL BIOCHEMISTRY.VOLUME 8:HEMATOPOIESIS AND GENE THERAPY 13−56(Fairbairn,L.J.,Testa,N.G.eds.,New York:Klewer Academic/Plenum Publishers)(1999)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。長年にわたり、数百人のリソソーム蓄積障害患者が移植によって治療されている。例えば、非神経障害性ゴーシェ病の骨髄移植による治療により、症状がほぼ完全に逆転したことが報告されている(Hoogerbrugge et al.,"Allogeneic Bone Marrow Transplantation for Lysosomal Storage Diseases.The European Group for Bone Marrow Transplantation,"Lancet 345:1398−1402(1995)。Blazarらの米国特許出願公開第2007/0009500号も参照されたい(いずれの文献も、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。 本発明による遺伝子療法は、遺伝子の外因性投与によって、内因性遺伝子の発現を変化させる方法を指す。本明細書で使用する場合、遺伝子療法は、治療を必要としている者の体細胞または幹細胞に、欠陥または欠損遺伝子に対応する機能遺伝子を導入することによって、欠陥タンパク質をコードする欠陥遺伝子の補充、または欠損遺伝子の補充を行うことも指す。遺伝子療法は、分化細胞または体性幹細胞を対象者の身体から取り出した後、ウイルスベクターを遺伝子送達ビヒクルとして用いて、欠陥遺伝子の正常なコピーを外植された細胞に導入するエキソビボの方法によって行うことができる。加えて、インビボの直接的な遺伝子導入技術では、治療転帰を得るために、広範なウイルスベクター、リポソーム、タンパク質・DNA複合体、または裸のDNAを用いて、対象者の細胞にインサイチューで遺伝子を導入する。Fanの米国特許第7,446,098号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。 本発明で用い得る遺伝子療法の種類および方法は、当該技術分野において周知である(Fairbairn et al.,"Long−Term In Vitro Correction of α−L−Iduronidase Deficiency(Hurler Syndrome) in Human Bone Marrow,"Proc.Natl.Acad.Sci.U.S.A.93:2025−2030(1996)、Kolodny et al.,"Storage Diseases of the Reticuloendothelial System,"In:NATHAN AND OSKI'S HEMATOLOGY OF INFANCY AND CHILDHOOD,5th ed.,vol.2,pages1461−1507(Nathan and Orkin,Eds.,W.B.Saunders Co.)(1998)、Medin et al.,"Correction in Trans for Fabry Disease:Expression,Secretion,and Uptake of α−Galactosidase A in Patient−Derived Cells Driven by a High−Titer Recombinant Retroviral Vector,"Proc.Natl.Acad.Sci.USA 93:7917−7922(1996)、Pauly et al.,"Complete Correction of Acid α−Glucosidase Deficiency in Pompe Disease Fibroblasts in Vitro,and Lysosomally Targeted Expression in Neonatal Rat Cardiac and Skeletal Muscle,"Gene Therapy 5:473−480(1998)、Zaretsky et al.,"Retroviral Transfer of Acid α−Glucosidase cDNA to Enzyme−Deficient Myoblasts Results in Phenotypic Spread of the Genotypic Correction by Both Secretion and Fusion,"Human Gene Therapy 8:1555−1563(1997)(これらの文献のいずれも、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)。国際公開第1998/041240号(参照により本明細書に組み込まれる)も参照されたい)。本発明による遺伝子療法をインビボおよびエキソビボのいずれかで実施する方法で、頻繁に用いられる方法は、遺伝子送達にウイルスベクターを用いるものである。多くのウイルス種が知られており、遺伝子療法目的で、多くのウイルスについて広く研究されている。非常によく用いられるウイルスベクターとしては、アデノウイルス、アデノ随伴ウイルス(AAV)、および、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)などのレンチウイルスを含むレトロウイルスに由来するベクターが挙げられる。国際公開第99/57296号、国際公開第99/41399号、およびMeekerらの米国特許出願公開第2011/0142818号(これらのいずれも、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。本発明による遺伝子療法は、グルコセレブロシダーゼなどの補充遺伝子によるものまたはSNCA遺伝子に対する抑制RNA(siRNA)によるものの両方を意図する。Fanの米国特許第7,446,098号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。 本発明の酵素補充療法および抗TNFα療法は、単回投与で、または複数回投与プロトコールに従って実施してよい。例えば、1回または2回投与といった比較的少ない投与数の治療用組成物を投与する。通常、数日または数週間にわたり複数回の投与を伴う従来の療法を含む実施形態では、酵素補充療法薬または抗TNFα療法薬は、少なくとも5日間、10日間、またはさらには14日間以上などの期間にわたり、1日に1回、2回、または3回以上服用され得る。しかしながら、異なる投与回数、投与タイミング、ならびに、治療用組成物および抗生物質の相対量を当業者は選択および調節できる。一実施形態では、投与を繰り返す。 本発明の薬剤は、経口的に、吸入により、鼻腔内滴下により、局所的に、経皮的に、非経口的に、皮下に、静脈内注射により、動脈内注射により、筋内注射により、胸膜内に(intraplurally)、腹腔内に、または粘膜への塗布により投与することができる。最も典型的な投与経路は静脈内注射である。 本発明の医薬剤は、非経口投与用に調合してよい。本発明の薬剤の溶液または懸濁液は、ヒドロキシプロピルセルロースなどの界面活性剤と適切に混合した水で調製することができる。グリセロール、液体ポリエチレングリコール、およびこれらの油中混合物で分散液を調製することもできる。例示的な油は、石油由来、動物由来、植物由来、または合成の油、例えば、落花生油、ダイズ油、または鉱油である。通常、水、食塩水、デキストロースおよび関連する糖の水溶液、ならびに、プロピレングリコールまたはポリエチレングリコールなどのグリコールが、特に注射用溶液に好ましい液体担体である。通常の保管および使用条件では、これらの調製剤は、微生物の増殖を防ぐために保存剤を含む。 注射用に適する医薬製剤としては、滅菌した水溶液または分散液、および滅菌した注射用溶液または分散液の用時調製用滅菌粉末が挙げられる。いずれのケースにおいても、その剤形は無菌でなければならず、注射器に容易に注入できる程度に流動性を有さなければならない。剤形は、製造および保管条件下で安定していなければならず、細菌および真菌などの微生物の汚染作用を抑えながら保存できなければならない。担体は、例えば水、エタノール、ポリオール(例えばグリセロール、プロピレングリコール、および液体ポリエチレングリコール)、これらの好適な混合物、ならびに植物油を含む、溶媒または分散媒であり得る。 本発明の医薬剤を全身に送達するのが望ましい場合、本発明の医薬剤は、注射、例えばボーラス注射または持続注入による、非経口投与用に調合してよい。注射用製剤は、保存剤が添加された単位用量の剤形、例えばアンプルまたは複数回投与量容器の状態であってよい。組成物は、油性または水性ビヒクル中の懸濁液、溶液、または乳濁液などの形態であってもよく、懸濁化剤、安定化剤、および/または分散剤などの製剤化剤を含んでもよい。 本発明の薬剤の腹腔内または髄腔内投与は、カリフォルニア州ノースリッジのMedtronicによって説明されているような注入ポンプ装置を用いて行うこともできる。このような装置により、頻回注射と多数の操作を回避しつつ、所望の化合物を持続注入できるようになる。 上記の製剤に加えて、本薬剤は、デポー剤として調合してもよい。このような長時間作用性の製剤は、好適なポリマー物質もしくは疎水性物質とともに(例えば許容可能な油中の乳濁液として)もしくはイオン交換樹脂とともに、またはやや溶けにくい誘導体として、例えばやや溶けにくい塩として調合してよい。 当業者に知られている任意の方法を用いて、ムコ多糖症の状態および本発明の療法の効果をモニタリングしてよい。病状の臨床的モニタリングとしては、器官の体積(例えば肝臓、脾臓)、ヘモグロビン、赤血球数、ヘマトクリット、血小板減少、悪液質(るいそう)、および血漿キチナーゼレベル(例えばキトトリオシダーゼ)を挙げることができるが、これらに限らない。キチナーゼファミリーの酵素であるキトトリオシダーゼは、リソソーム蓄積症を有する対象において、マクロファージによって高いレベルで産生されることが知られている(Guo et al.,"Elevated Plasma Chitotriosidase Activity in Various Lysosomal Storage Disorders,"J.Inherit.Metab.Dis.18,717−722(1995)、den Tandt et al.,"Marked Increase of Methylumbelliferyl−tetra−N−acethylchitotetraoside Hydrolase Activity in Plasma From Gaucher Disease Patients,"J.Inherit.Metab.Dis.19,344−350(1996)、Dodelson de Kremer et al.,"Plasma Cchitotriosidase Activity in Argentinian Patients With Gaucher Disease,Various Lysosomal Diseases and Other Inherited Metabolic Disorders,"Medicina(Buenos Aires)57,677−684(1997)、Czartoryska et al.,"Changes in Serum Chitotriosidase Activity With Cessation of Replacement Enzyme(Cerebrosidase)Administration in Gaucher Disease,"Clin.Biochem.33,147−149(2000)、Czartoryska et al.,"Serum Chitotriosidase Activity in Gaucher Patients on Enzyme Replacement Therapy(ERT),"Clin.Biochem.31,417−420(1998)、Mistry et al.,"A Practical Approach to Diagnosis and Management of Gaucher's Disease,"Baillieres Clin.Haematol.10,817−838(1997)、Young et al.,"Plasma Chitotriosidase Activity in Gaucher Disease Patients who Have Been Treated Either by Bone Marrow Transplantation or by Enzyme Replacement Therapy With Alglucerase,"J.Inherit.Metab.Dis.20,595−602(1997)、Hollak et al.,"Marked Elevation of Plasma Chitotriosidase Activity. A Novel Hallmark of Gaucher Disease,"J.Clin.Invest.93,1288−1292(1994)(これらの文献のいずれも、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい)。 本発明の一実施形態では、対象は、リソソーム蓄積障害と関連する骨格病変を有する。リソソーム蓄積障害と関連する骨格病変としては、骨の長さ、骨幹幅の拡大、骨成長板の幅、組織のミネラル密度、気管の周径、運動機能、関節軟骨細胞、歩行分析、ならびにセラミドレベル、TNFαレベル、RANKLレベル、およびコラーゲンの発現などの炎症マーカーによるものが挙げられるが、これらに限らない。軽度の骨格病変として、関節の硬直および肝脾腫大症が挙げられる。骨格病変のこれらの例をマーカーとして用いて、上記のリソソーム蓄積障害の進行または後退の状態をモニタリングしてよい。 マーカーを測定し、リソソーム蓄積障害の状態をモニタリングする方法は、当該技術分野において周知であり、免疫組織化学的方法、イムノブロット分析法、血清免疫測定法、およびウエスタンブロット分析法が挙げられるが、これらに限らない。 本発明の第二の態様は、酵素補充療法によって治療しているリソソーム蓄積障害を有する対象において炎症性サイトカインを低減させる方法に関する。この方法は、対象において炎症性サイトカインを低減させるのに有効な条件の下で、対象に、抗TNFα治療薬を投与することを含む。 本発明の方法によって低減させ得る炎症性サイトカインとしては、TNFα、RANKL、およびIL1−βが挙げられるが、これらに限らない。特に、本発明の方法によって、TNFαを低減させることができる。TNFαは、主に活性化マクロファージおよびリンパ球によって産生されるが、内皮細胞およびその他の細胞種でも発現する多面性サイトカインである。TNFαは、炎症反応、免疫反応、および病態生理学的反応の主要メディエーターである(Grell et al.,"The Transmembrane Form of Tumor Necrosis Factor is the Prime Activating Ligand of the 80 kDa Tumor Necrosis Factor Receptor,"Cell 83:793−802(1995)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。TNFには、26kDaの膜発現型と、この26kDa型のタンパク質切断から生じる17kDaの可溶性サイトカインという二種類の異なる形態が存在する。可溶性TNFのポリペプチドは、157アミノ酸長であり、主な生物活性分子である。TNFαは、高親和性の細胞表面受容体との相互作用を通じて、生物学的作用を発揮する。2種類の異なる膜TNFα受容体がクローニングおよび特徴づけされている。これらは、p55 TNF−Rという55kDaの種と、p75 TNF−Rという75kDaの種である(Corcoran et al.,"Characterization of Ligand Binding by the Human p55 Tumour−Necrosis−Factor Receptor.Involvement of Individual Cysteine−Rich Repeats,"Eur.J.Biochem.223:831−840(1994)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。これらの2種類のTNF受容体は、アミノ酸レベルで28%の類似性を示す。これは、細胞外ドメインに限定され、システインに富む4つの繰り返しモチーフ(それぞれ約40個のアミノ酸を有する)からなる。各モチーフは、保存位置に4〜6個のシステインを含む。Dayhoff分析により、各受容体の最初の3つの繰り返し部分において、サブユニット間類似性が最も大きいことが示されている。この特徴的な構造は、TNF−R/神経成長因子受容体スーパーファミリーを含む多くの他の受容体および細胞表面分子と共有されている(Corcoran et al.,"Characterization of Ligand Binding by the Human p55 Tumour−Necrosis−Factor Receptor.Involvement of Individual Cysteine−Rich Repeats,"Eur.J.Biochem.223:831−840(1994)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。 一実施形態では、上記の方法は、上記の投与を受ける、上記のようなリソソーム障害と関連する骨格病変を有する対象を選択することを含む。 この第二の態様は、上記の態様に従って実施する。本発明のこの態様に関する投与方法および治療上有効な投与量は、上述されている。 本発明の第三の態様は、リソソーム蓄積障害を有する対象を治療する方法に関する。この方法は、リソソーム蓄積障害を有する対象を選択すること、および選択した対象においてリソソーム蓄積障害を治療するのに有効な条件の下で、選択した対象にポリ硫酸ペントサン(PPS)を投与することを含む。 本発明によるポリ硫酸ペントサンとしては、分子量が1,500〜6,000ダルトンの範囲のβ−D−キシロピラノース残基から構成される硫酸化半合成多糖、およびその薬学的に許容可能な塩が挙げられる。この化合物は、The Merck Index,Eleventh Edition,Merck&Co,Inc.,Rahway,N.J.(1989),pg.7093、Parsonsの米国特許第5,180,715号、Strikerらの米国特許第5,643,892号、およびCarttらの米国特許出願公開第2001/0034328号(これらのいずれも、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)に記載されている。 当然のことながら、ポリ硫酸ペントサンは、例えばペントサンポリ硫酸ナトリウム、ペントサンポリ硫酸カルシウム、またはペントサンポリ硫酸カリウムなどの塩として調合されることが多い。ペントサンは、植物、微生物から天然の形で得ても、合成してもよい。したがって、本願全体を通じて、ポリ硫酸ペントサンについて言及する際には、天然、合成、または半合成の形で得るかにかかわらず、適宜、ポリ硫酸ペントサンおよびそのさまざまな塩を指し得る。 本発明によるポリ硫酸ペントサンは、例えばカルシウムもしくはナトリウム塩を含むアルカリ金属塩もしくはアルカリ土類金属塩、または銅および亜鉛などの遷移金属、ならびにプラチナなどの貴金属として入手可能である。したがって、特定の錯化イオンは、アルカリ金属、例えばNa+およびK+、アルカリ土類金属、例えばCa2+、Zn2+、Mg2+、Ba2+、ならびにAg+、Pb2+、Cu2+、Au2+、Pd2+、Pd4+、Pd4+、Pd2+、三価金属イオン、および四級アンモニウム化合物錯体からなる群から選択してよい。四級アンモニウム化合物の例は、ピリジニウムクロライド、テトラアルキルアンモニウムクロライド、コリンクロライド、セチルピリジニウムクロライド、N−セチル−N,N,N−トリアルキルアンモニウムクロライド、またはこれらの誘導体である。これらの中でも最も好ましいのは、二価のアルカリ土類金属、好ましくはカルシウムおよびマグネシウムであり、最も好ましいのはカルシウム錯体である。ポリ硫酸多糖・金属錯体の調製は、米国特許第5,668,116号に詳細に説明されている。Cullis−hillらの米国特許出願公開第2009/0111771号も参照されたい。これらの特許文献は、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる。 この第三の態様は、上記の態様に従って実施する。本発明のこの態様に関する投与方法および治療上有効な投与量は、上述されている。 本発明の第四の態様は、リソソーム蓄積障害と関連する骨格病変を有する対象を治療する方法に関する。この方法は、リソソーム蓄積障害と関連する骨格病変を有する対象を選択すること、および対象においてリソソーム蓄積障害を治療するのに有効な条件の下で、選択した対象に、基質抑制療法薬と抗TNFα治療薬を投与することを含む。 基質抑制療法は、本明細書における定義では、細胞における基質の合成を低減させることによって、リソソーム蓄積症において利用可能な低下した酵素活性との平衡状態をもたらすことを目指す治療アプローチである。 現時点では、基質抑制療法薬のZavesca(登録商標)(ミグルスタット)は、米国および欧州諸国でゴーシェ病用として認可されており、同じ代謝経路におけるその他のリソソーム蓄積症を治療する潜在能力を有する。Cystagon(登録商標)(システアミン)も、乳児神経セロイドリポフスチン沈着症向けの基質抑制療法薬として研究されている。ZavescaおよびCystagonは、血液脳関門を通過すると考えられている小分子である。このタイプの療法は、多少の残存酵素活性を有する患者に適用可能であり、合成プロセスと異化プロセスとの優れたバランスを必要とする(Keimelらの米国特許出願公開第2005/0208090号(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。一実施形態では、基質抑制療法薬はミグルスタットまたはエリグルスタットである。 一実施形態では、上記の態様に従って追加の療法を実施するが、その追加の療法は、上記のような酵素補充療法であってもよい。 この第四の態様は、上記の態様に従って実施する。本発明のこの態様に関する投与方法および治療上有効な投与量は、上述されている。 本発明について広く説明してきたが、下記の実施例を参照すれば、本発明はさらに容易に理解されるであろう。下記の実施例は、実例として示されており、別段の定めのない限り、本発明を限定するようには意図されていない。 下記の実施例は、本発明の実施形態を例示する目的で示されているが、本発明の範囲を限定するように意図されたものではない。実施例1 材料および方法 動物−MPS VI型ラットについては過去に記述されており、本発明の研究者および他の研究者に広く使われている(Yoshida et al.,"Arylsulfatase B−Deficient Mucopolysaccharidosis in Rats,"J.Clin.Invest.91:1099−1104(1993)、Kunieda et al.,"Mucopolysaccharidosis Type VI in Rats:Isolation of CDNAs Encoding Arylsulfatase B,Chromosomal Localization of the Gene,and Identification of the Mutation,"Genomics 29:582−587(1995)(いずれの文献も、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。繁殖コロニーは、ヘテロ接合体の交配対から確立し、確立された方法を用いて、尾部クリップDNAで遺伝子型の決定を行った(Kunieda et al.,"Mucopolysaccharidosis Type VI in Rats:Isolation of CDNAs Encoding Arylsulfatase B,Chromosomal Localization of the Gene,and Identification of the Mutation,"Genomics 29:582−587(1995)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。ラットの安楽死は、二酸化炭素の吸入によって行った。いずれの動物プロトコールも、Mount Sinai Institutional Animal Care and Use Committeeによって認可されたものであり(許可番号08−0108)、NIHのガイドラインに従って行った。 MPS VI型ラットの処置−Naglazyme(登録商標)(遺伝子組み換えヒトN−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ)をBioMarin Pharmaceutical Inc.から得たとともに、CNTO1081をCentocor Ortho Biotech Inc.から得た。21日齢(発症前)のMPS VI型ラットを2つの群に分け(n=8匹/群)、ERTまたはERT/抗TNFα併用療法を実施した。ERTのみを受けるラットには、週に1度、1mg/kgのNaglazyme(登録商標)を静脈(尾静脈)内注射した。併用療法を受けるラットにも、3mg/kgのCNTO10181を週に2度(3日ごとに)、静脈内注射した。処置は、合わせて32週間実施した。TNFαとRANKLの分析のために、血清を2週ごとに採取した(下記を参照されたい)。各群について、最後の注射から2週間後(37週齢時)に、処置済みのラットを殺処分した。実験を通じて、年齢をマッチさせた正常ラットおよび未処置のMPS VI型ラットを対照として用いた。 対照および処置済みのMPS VI型ラットから気管、大腿骨、および脛骨を採取し、線維芽細胞様滑膜細胞(FLS)および関節軟骨細胞の単離のためにリン酸緩衝生理食塩水に入れるか、または、組織学的分析、マイクロCT分析、および免疫組織化学分析のために、10%中性緩衝ホルマリン(Sigma Chemical)中で固定した(下記を参照されたい)。その後の染色のために、固定した骨を8%ギ酸(Sigma Chemical)中で5日間脱灰し、パラフィン包埋し、切片化した(5μm)。過去に記述されているようにして、初代FLSおよび関節軟骨細胞の培養物を確立して(Simonaro et al.,"Joint and Bone Disease in Mucopolysaccharidosis VI and VII:Identification of New Therapeutic Targets and Biomarkers Using Animal Models,"Pediatr.Res.57:701−707(2005)、Simonaro et al.,"Mechanism of Glycosaminoglycan−Mediated Bone&Joint Disease:Implications for the Mucopolysaccharidoses&Other Connective Tissue Diseases,"Amer.J.Path.172:112−122(2008)(いずれの文献も、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、ウエスタンブロットによって炎症マーカーおよびアポトーシスマーカーの発現を評価した。 マイクロCT画像の取得−eXplore Locus SP PreClinical SpecimenというマイクロCTシステム(カナダ、オンタリオ州ロンドンのGE Healthcare)を用いて、年齢をマッチさせた正常ラット、未処置および処置済みのMPS VI型ラットの37週齢時の大腿骨の三次元画像を得た。14.4μmのボクセルサイズでスキャンを行った。スキャンプロトコールは、5時間にわたるスキャンで3600枚の画像を取得することから構成されていた(取得パラメーター:80kVp、80uA、3秒の露出時間[約69kJ]、0.010インチのアルミニウムビームフィルター)。空気、水、およびヒドロキシアパタイト(SB3、米国ウィスコンシン州ミドルトンのGamex RMI)を含むキャリブレーションファントムをすべてのスキャンにおいて含めて、個々のスキャンセッションに固有のX線減弱の変動に対して調節した。 骨の長さおよび気管の測定−実験の最後(37週齢時)に、肢および気管の測定を行った。Microviewというソフトウェアを用いて、マイクロCT画像から各大腿骨の長さを測定した。大転子を大腿骨の近位端として用い、遠位顆の部分を遠位端とした。したがって、各大腿骨の長さは、おおむね骨の垂直軸に沿って算出した。確認のために、実体の大腿骨と脛骨の長さ、および気管の幅をデジタルカリパスで測定した。標準的なスチューデントt検定分析を用いて、2つの処置群(ERT処置群およびERT/CNTO1081併用処置群)の平均値を比較した。 皮質骨の分析−分析のために、各大腿骨のマイクロCT画像の代表的な骨幹部中央領域を切り出した。関心体積(VOI)は、近位端を、第三転子が最初に現れる部分により、遠位端を、骨幹端(海綿骨の形成および骨幹幅の拡大によって示される)が現れる部分により、限定した。骨の長さの違いに適応するため、分析領域は、測定サイズによって制限しなかった。皮質骨は、残りの海綿骨から手動でセグメント化し、それぞれ閾値処理して、骨と骨でないボクセルを区別した。MicroViewというソフトウェアを用いて、形態学的特徴を定量化した。 マイクロCT画像をさらに処理して、各試料内の皮質骨の組織ミネラル密度(TMD)を定量化した。骨でないボクセルも含む骨ミネラル密度(BMD)に対して、TMDは、骨ボクセルのみの平均ミネラル値を表し、ヒドロキシアパタイト(HA)密度と同等の値で表される。TMDは、空気、水、およびHA(米国ウィスコンシン州ミドルトンのGamex RMI)を含むキャリブレーションファントムを用いて、骨ボクセルのグレースケール値をハウンズフィールド単位(HU)からミネラル値(mg/HA1cc)に変換することによって計算した。TMDは、骨ボクセルの平均HU値をHAファントムの平均HU値によって除し、その値に1130mg/cc(HAの密度)を乗じた値として定義する。 海綿骨の分析−骨梁のVOIは、画像処理ソフトウェアMicroViewを用いて、大腿骨の遠位骨幹端の4mmの領域から切り出した。遠位端は、骨端軟骨が最初に現れる部分として定義した。明白な近位の目印の代わりに、骨梁のVOIを包含するように、標準的な距離(4mm)を選択した。海綿骨を皮質骨から連続的なアキシャル断面でセグメント化し、骨梁のVOIの三次元描写を生成した。各骨梁VOIを閾値処理し、骨でないボクセルから骨を区別した。皮質骨と同様の方法で、皮質骨と同じキャリブレーションファントムを各スキャンにおいて含めて、海綿骨のTMDをマイクロCTスキャンから算出した。Microviewソフトウェアを用いて、海綿骨の体積率、海綿骨の表面積体積比、および骨梁の数、厚み、および間隔を含む微細構造の特徴を測定した。いずれの値も、VOI全体で平均化した。 運動機能−過去に記述されているような評価を行うために、年齢をマッチさせた37週齢の正常ラット、未処置のMPS VI型ラット、および処置済みのMPS VI型ラットを、加速ロータロッドseries 8(IITC Life Science)に置いた(Cotugno et al.,"Different Serum Enzyme Levels are Required to Rescue the Various Systemic Features of the Mucopolysaccharidoses,"Hum.Gene Ther.21:555−69(2010)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。実際に記録する前に、ラットを2日連続でロッド上にてプライミングした。ロータロッドは、3分間で10rpmから30rpmまで速度が上昇するように設定し、ロッドから落下するまでの時間の平均を記録した。変数群による一元配置分散分析(ANOVA)によって、結果を分析した。 運動性分析−非毒性色素を用いて、処置済みのラットと対照ラットの前足および後足を2種類の異なる色で染色した。トンネルを歩いて通って、ブロッティングペーパーに足跡を残すように、ラットを2日連続で訓練した。3日目にいくつかのパラメーターを測定した:長手方向における左および右の前足間の距離、形成された角度、ならびに右前足と右後足との距離。統計的分析のために、多変量分散分析(MANOVA)を用いて、群間差を評価してから、その後に、試験を行ったすべての時点について、事後ボンフェローニ法による調整を行った。 関節軟骨、滑膜、および成長板の組織学的および免疫組織化学的分析−37週齢の正常ラット、未処置のMPS VI型ラット、および処置済みのMPS VI型ラットから採取した大腿骨を、固定、包埋、切片化し、トルイジンブルーおよびH&Eで染色した。免疫組織化学的調査も行った。免疫組織化学的分析では、切片を4%パラホルムアルデヒド/PBSで固定し、0.5%Triton−X−100で透過処理し、ブロッキングし、一晩4℃にて、一次ウサギポリクローナル抗マウスコラーゲンIIA1型抗体(ウサギポリクローナル抗体sc−28887、Santa Cruz Biotechnology)およびTNFα抗体(ヤギポリクローナル抗体sc−1348、Santa Cruz Biotechnology)とインキュベートした。PBSで数回すすいだ後、蛍光二次抗体のロバ抗ヤギIgG−Cy−3(711−165−152、Jackson Laboratory)を用いて可視化した。核を1mg/mlのビスベンズイミド色素Hoechst(Sigma−Aldrich)で10分間染色し、すすぎ、切片を退色防止性マウント液とともにマウントした。共焦点レーザ走査型顕微鏡(Carl Zeiss 510 Meta)で、スライドを可視化および撮影した。 気管の免疫組織化学的分析−37週齢の正常ラット、未処置のMPS VI型ラット、および処置済みのMPS VI型ラットから採取した気管を上記のように固定し、包埋し、切片化し、調製した。切片を一晩、一次マウスモノクローナル抗セラミド抗体(MID15B4、Alexis Corporation)とインキュベートし、蛍光二次抗体のロバ抗ヤギIgG−Cy−3(711−165−152,Jackson Laboratory)を用いて可視化した。共焦点レーザ走査型顕微鏡(Carl Zeiss 510 Meta)で、スライドを可視化および撮影した。 イムノブロット分析−過去に記述されているようなイムノブロット分析のために、軟骨の連続した酵素消化を用いて、37週齢の正常ラット、未処置のMPS VI型ラット、および処置済みのMPS VI型ラットの関節軟骨細胞を採取し、ペレット状にし、溶解させた(Simonaro et al.,"Mechanism of Glycosaminoglycan−Mediated Bone&Joint Disease:Implications for the Mucopolysaccharidoses&Other Connective Tissue Diseases,"Amer.J.Path.172:112−122(2008)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。メンブレンを、ウサギポリクローナル抗コラーゲンIIA1型(sc−8784−R、Santa Cruz Biotechnology)、ウサギポリクローナル抗コラーゲンX型(AB58632、Abcam)、ウサギポリクローナル抗ADAMTS5(sc−28887、Santa Cruz Biotechnology)、ウサギポリクローナル抗PARP(sc−7150、Santa Cruz Biotechnology)、およびローディングコントロールとしてのウサギポリクローナル抗GAPDH(sc−25778、Santa Cruz Biotechnology)とインキュベートした。HRPに結合させた二次抗体(NA934V)、GE Healthcare)によって、結合した抗体を認識した。高感度化学発光検出試薬(Amersham Biosciences)を用いて、抗体複合体の検出を行った。 血清免疫測定−ラット超高感度Biosource Elisaキット(InvitrogenおよびALPCO Diagnostics)をメーカーのプロトコールに従って用いて、免疫測定によって、年齢をマッチさせた正常ラット、未処置のMPS VI型ラット、および処置済みのMPS VI型ラットにおける血清TNFαおよびRANKLを評価した。いずれのアッセイも3つ組で実施した。 データの表示および統計的分析−いずれの実験も、それぞれ少なくとも3回反復した。2つの群間のデータに対して、スチューデントt検定分析、変数群による一元配置分散分析(ANOVA)、多変量分散分析(MANOVA)を行ってから、その後に、事後ボンフェローニ法による調整を行った。結果は、P<0.05で有意とみなした。Sigma Stat 3.1(Systat Software)を用いて統計を行った。グラフは、3つ組実験のデータを合わせた平均±平均標準誤差(SEM)を表している。実施例2 ムコ多糖症における抗TNFα療法の酵素補充療法に対する作用 21日齢のMPS VI型ラットをERT(1mg/kg、週に1度)、またはERTと抗TNFα療法(3mg/kg、週に2回)との併用プロトコールのいずれかによって処置した。いずれも、静脈(尾静脈)内に投与した。ラットは、合わせて8カ月間処置した(すなわち32回のERT投与および64回の抗TNFα投与)。対照として、正常な同腹ラットと未処置のMPS VI型同腹ラットを用いた(n=8匹/群)。抗TNFα療法は、TNFαに対するラット特異的モノクローナル抗体CNTO1081(Centocorから提供)を用いて行った。Naglazyme(登録商標)(BioMarinから提供)は、ヒト型の遺伝子組み換えN−アセチルガラクトサミン−4−スルファターゼ(MPS VI型における欠損酵素)であり、ERTで用いた。最後の処置から2週間後(すなわち37週齢時)に、ラットを殺処分した。 図1Aは、実験終了時のTNFαおよびRANKLの血清レベルを要約したものである。いずれの炎症マーカーも、未処置のMPS VI型ラットの方が正常ラットよりも非常に高く、いずれの処置プロトコールによっても、有意に低下した。この効果は、併用処置群の方がやや高かったが、統計的な差は見られなかった。図1Bは、TNFαに対する関節軟骨の免疫組織化学的染色の結果を示している。未処置のMPS VI型ラットでは、軟骨のTNFαが増大し、これは、ERTによってやや低減し、併用処置によってさらに低減した。図1Cは、対照および処置済みのMPS VI型ラットからの膝の断面画像を示している。未処置のMPS VI型ラットでは、滑膜(*)が過形成されており、それにより、滑膜絨毛(SV)が形成されていた。ERTでは滑膜炎症が低減しなかったのに対して、併用処置では、炎症および絨毛の形成が著しく低減した。いずれの処置群の関節軟骨(AC)および肋軟骨下骨(SB)においても、貯蔵が依然として明らかに認められたことに留意されたい。ERT画像中の太い矢尻は、炎症を示す、SBへの滑膜の浸潤を示している。実施例3 酵素補充療法および抗TNFα療法の運動活性、歩行、骨疾患、および関節疾患に対する作用 上記の処置の運動活性および歩行に対する作用も評価した。加速ロータロッド装置において(図2A)、最低速度(10RPM)では、ERT処置ラットも併用処置ラットも、未処置のMPS VI型ラット(平均70秒)とは対照的に、回転するバーの上に最大期間(180秒間)留まった。より速い速度(20および30RPM)では、併用処置群の方がERT群よりも有意に改善したことが観察された。図2Bは、これらのラットの歩行パターンの代表的な図を示している。全体的に、ERT処置ラットの方が未処置のMPS VI型ラットよりも長く、揃った足取りで速く歩行しており、これは、併用療法によって改善された。例えば、後足の動作の角度は、60°(未処置のMPS VI型)から45°(ERT)、30°(併用)に縮小し、前足の距離は2.8cm(未処置)から4.2cm(ERT)、5.1cm(併用)に改善した。 マイクロCT分析を用いて、処置済みおよび未処置のMPS VI型ラット、ならびに正常ラットにおける大腿骨および脛骨の長さを評価した。図3Aに示されているように、37週齢時において、未処置のMPS VI型ラットの大腿骨は平均で、正常な同腹ラットの約77%にすぎなかった。ERT群では改善は見られなかったが、併用処置を行ったラットでは、大腿骨は約6%長くなった(正常ラットの約83%)。同様に、未処置のMPS VI型ラットの脛骨は正常ラットの約74%であり、併用療法によって正常ラットの約88%まで、約14%改善された。ERT群では改善は見られなかった。併用処置による骨の長さの改善は一貫して観察されたが、雄ラットにおいて、より顕著であったとともに、すべての処置済みマウス(雄および雌)を併せてグループ化したところ、統計的有意性には達しなかった。 骨の長さに対するこれらのプラスの作用にもかかわらず、いずれの処置群においても、骨微細構造の変化はさほど明白ではなかった。図3Bおよび3Cは、遠位大腿骨のマイクロCT画像を示している。未処置のMPS VI型ラットでは、骨幹端部の骨の骨梁密度は低下し、骨端軟骨成長板は、形成が異常で崩壊しており、骨端の骨梁は、正常な大腿骨よりも組織崩壊していた(図3B)。併用処置によるわずかな改善が検出された。 定量分析を行って、未処置および処置済みのMPS VI型ラットの海綿骨の形態変化をさらに調べた。骨端軟骨のすぐ近くに位置する遠位骨幹端の代表的な関心体積(VOI)を収集し、群間で比較した。骨梁構造の三次元画像を生成して、海綿骨のみが含まれるようにした。各VOIから、TMD(骨梁ミネラル密度)およびBV(骨体積)/TV(骨梁体積)を抽出した。いずれの処置プロトコールも、統計的に関連した影響を海綿骨TMDまたはBV/TVに及ぼさなかった。 大腿骨の骨幹部中央領域のマイクロCT画像も収集した。第三転子の遠位出現時のアキシャル断面を抽出し、比較のために、代表的な試料を並べた(図3C)。肉眼による検査により、未処置のMPS VI型ラットの方が、皮質下骨梁の骨髄空間への浸潤が大きいことが示された。骨梁密度の明らかな上昇は、定量測定値によっては確認されなかったが、この肉眼による所見は、試料の全体にわたって一貫していた。いずれの処置でも、骨梁の成長の顕著な逆転は見られなかった。 骨幹部中央のVOIについて、皮質骨形態の定量測定値を計算した。皮質の平均断面積、総面積、および皮質骨のTMDの値を収集し、サイズおよび鉱化を示した。皮質面積は、MPS VI型ラットの方が正常ラットよりも22%低く(p=0.002)、総面積またはTMDへの影響は見られなかった。結果的に、皮質の相対面積は15%低いこととなり(p=0.015)、これは、大腿骨骨幹部の総厚または鉱化への影響なしに、MPS VI型ラットにおける皮質骨の厚みが実質的に喪失されたことを示している。ちなみに、ERT処置または併用処置済みのラットの大腿骨は、皮質面積および皮質相対面積がより大きく、総面積またはTMDの有意な変化も見られなかった。抗TNFα療法を加えても、ERT療法のプラスの効果は増大しなかった。全体的には、これらの所見では、統計的有意性に達しなかった。 大腿骨構造の最後の測定値として、頑健性を計算した。頑健性は、長さに対する断面の大きさとして定義されており、水平方向の成長と垂直方向の成長との間の関係を得るものである。MPS VI型の大腿骨は、正常ラットよりも頑健であることが明らかとなり、これは、「体長が短く太っている」外観と合致していた。処置による有意な改善は示されなかったが、併用療法では頑健性が5%低下し(p=0.25)、わずかな(有意ではないが)改善が見られた。 未処置のMPS VI型ラットにおいて虚脱および肥厚した気管が明らかに認められ(図4A)、これは、MPS患者で観察される気管異常と合致していた(Semenza et al.,"Respiratory Complications of Mucopolysaccharide Storage Disorders,"Medicine 67:209−19(1988)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。肉眼による検査により、併用処置後、気管の顕著な改善が観察されたが、ERTでは観察されなかった。未処置のMPS VI型ラットから採取した気管では、正常ラットよりも断面積が統計上小さかった(7.5±0.8mm2に対して2.9±0.6mm2、p=0.0002)。ERT処置ラットから採取した気管は、わずかではあるが有意に改善したが(3.6±0.5mm2、p=0.02、未処置ラットと比較)、併用処置群では、断面積が2倍近くの6.0±0.8mm2であった(p=0.003、未処置群と比較)。実施例4 ムコ多糖症関節軟骨細胞のセラミド染色 セラミドは、炎症、アポトーシス、および感染の誘発に関与するシグナル伝達スフィンゴリピドであり、MPS関節軟骨細胞に蓄積することが示されている(Simonaro et al.,"Involvement of the Toll−Like Receptor 4 Pathway and Use of TNF−Alpha Antagonists for Treatment of the Mucopolysaccharidoses,"Proc.Natl.Acad.Sci.107:222−7(2010)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。セラミドは、呼吸合併症を伴ういくつかの疾患から得られる気管にも蓄積し、軟骨のホメオスタシスにおいて重要な役割を果たすので(Becker et al.,"Accumulation of Ceramide in the Trachea and Intestine of Cystic Fibrosis Mice Causes Inflammation and Cell Death,"Biochem.Biophys.Res.Commun.17:368−74(2010)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、MPS VI型ラットの気管のセラミドについて調べるに至った。図4Bに示されているように、未処置およびERT処置済みのMPS VI型ラットの気管の上皮細胞において、強いセラミド染色が観察され、併用処置を行ったラットの気管では、正常な状態まで低下した。実施例5 骨の成長板の組織学的分析 上記の療法の効果をさらに調べるために、骨の成長板の組織学的分析を行った。MPS VI型ラットの成長板は、空胞のある大きい細胞により、野生型同腹ラットの成長板よりも厚い。加えて、MPSラットでは、成長板の正常な柱構成が崩壊しており、これが異常な骨の形成の一因となっている(Simonaro et al.,"Involvement of the Toll−Like Receptor 4 Pathway and Use of TNF−Alpha Antagonists for Treatment of the Mucopolysaccharidoses,"Proc.Natl.Acad.Sci.107:222−7(2010)、Metcalf et al.,"Mechanism of Shortened Bones in Mucopolysaccharidosis VII,"Mol.Genet.Metab.97:202−211(2009)(いずれの文献も、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。いずれの処置プロトコールでも、MPS VI型の成長板の組織学的分析結果に対する顕著な作用は見られなかった。実施例6 関節軟骨細胞におけるコラーゲンの発現 最後に、処置済みおよび未処置のMPS VI型ラットから関節軟骨細胞を採取して、コラーゲンの発現とアポトーシスマーカーの変化を評価した。コラーゲンIIA1型およびX型のレベルは、MPS VI型ラットでは正常よりも低く、それぞれ、処置済みのラットでは未処置のMPS VI型ラットよりも高かった(図5A)。このウエスタンブロットで明らかに認められたように、併用処置によって、コラーゲンIIA1型の発現が増大し、この所見は、軟骨切片の免疫組織学的染色によって確認された(図5B)。これは、抗TNFα療法により、MPS VI型ラットの関節軟骨細胞におけるTUNEL染色が低減されたことを示した過去の研究と合致している(Simonaro et al.,"Involvement of the Toll−Like Receptor 4 Pathway and Use of TNF−Alpha Antagonists for Treatment of the Mucopolysaccharidoses,"Proc.Natl.Acad.Sci.107:222−7(2010)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。ERT処置および併用処置のいずれによっても、マトリックス分解酵素のアグリカナーゼであるADAMTS5の発現が低下したが、一方で、MPS VI型ラットから採取した軟骨細胞で増大しているアポトーシスマーカーPARP(Simonaro et al.,"Articular Chondrocytes From Animals With a Dermatan Sulfate Storage Disease Undergo a High Rate of Apoptosis and Release Nitric Oxide and Inflammatory Cytokines:A Possible Mechanism Underlying Degenerative Joint Disease in the Mucopolysaccharidoses,"Lab Investi.81:1319−1328(2001)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))は、併用処置プロトコールによってのみ低下した。実施例7 ムコ多糖症における酵素補充療法の効果 ERTは、関節の可動性、運動性、および呼吸の改善を含め、明らかな臨床上の利点をMPS患者にもたらすが(Decker et al.,"Enzyme Replacement Therapy for Mucopolysaccharidosis VI: Growth and Pubertal Development in Patients Treated With Recombinant Human N−Acetylgalactosamine 4−Sulfatase,"J.Pediatr.Rehabil.Med.3:89−100(2010)、Miebach,E,"Enzyme Replacement Therapy in Mucopolysaccharidosis Type I.Treatment of Mucopolysaccharidosis Type II(Hunter syndrome)with Indursulfase:The Relevance of Clinical Trial End Points,"Acta Paediatr.Suppl.94:58−60(2005)(いずれの文献も、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、ERTの軟骨および骨に対する効果は非常に限られている。これは、注入した遺伝子組み換え酵素の体内分布(注入した遺伝子組み換え酵素は、その血管への供給不足により、上記の組織に到達しにくい)、および、薬物の送達を遅らせるマトリックス内に標的細胞(例えば軟骨細胞)が埋め込まれている事実に起因し得る。したがって、ERT後のMPS患者における関節の可動性の改善は、軟骨および骨に対する直接的な作用よりも、軟組織(例えば腱)の変化に関係していると考えられる。加えて、遺伝子組み換え酵素を極めて低年齢のMPS動物の関節空間に直接注射したときでも、骨および軟骨への作用は非常に限られていた(Auclair et al.,"Long−Term Intra−Articular Administration of Recombinant Human N−Acetylgalactosamine 4−Sulfatase in Feline Mucopolysaccharidosis VI,"Mol.Gen.Metab.91:352(2007)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。したがって、上記の組織におけるERTの転帰を改善するという重要なニーズが依然として存在する。実施例8 ムコ多糖症における抗TNFα療法の効果 本願出願人による過去の研究によって、MPS動物モデルでの軟骨および骨の病因におけるTLR4炎症経路の重要性が示された(Simonaro et al.,"Involvement of the Toll−Like Receptor 4 Pathway and Use of TNF−Alpha Antagonists for Treatment of the Mucopolysaccharidoses,"Proc.Natl.Acad.Sci.107:222−7(2010)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。直接的なTLR4阻害剤は臨床用としては認可されていないので、MPS VI型のラットモデルにおけるTLR4経路の下流産物によって抗TNFα療法の効果を評価した。ヒトにおいては、関節リウマチ、乾癬性関節炎、クローン病を含むいくつかの一般的な炎症性疾患の治療に、抗TNFα抗体(例えばRemicade(登録商標)(インフリキシマブ))が用いられている(Klaasen et al.,"Body Mass Index and Clinical Response to Infliximab in Rheumatoid Arthritis,"Arthritis Rheum.63:359−64(2011)、Rodgers et al.,"Etanercept,Infliximab and Adalimumab for the Treatment of Psoriatic Arthritis:A Systematic Review and Economic Evaluation,"Health Technol.Assess.15:1−329(2011)、Rutella et al.,"Infliximab Therapy Inhibits Inflammation−Induced Angiogenesis in the Mucosa of Patients With Crohn's Disease,"Am.J.Gastroenterol(2011)(いずれの文献も、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。この抗TNFα療法によるMPS VI型ラットの処置により、炎症および関節軟骨のアポトーシスは低減したが、骨の成長または可動性では有意な改善が見られなかったことが見出された(Simonaro et al.,"Involvement of the Toll−Like Receptor 4 Pathway and Use of TNF−Alpha Antagonists for Treatment of the Mucopolysaccharidoses,"Proc.Natl.Acad.Sci.107:222−7(2010)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。実施例9 ムコ多糖症における酵素補充療法と抗TNFα療法の併用効果 この実験では、ERTと抗TNFα療法との併用効果を評価して、ERT単独の場合よりも何らかの臨床的/病理学的利点があるかを判断した。TNFαに対してはラット特異的モノクローナル抗体を用い(CNTO1081)、ERTではヒト遺伝子組み換えN−アセチル−ガラクトサミン−4−スルファターゼ (Naglazyme(登録商標))を用いた。このヒト酵素に対する免疫応答は、静脈内注射後、MPS VI型ラットおよびネコで生じることが知られているが、これらの反応は通常、重篤ではない。免疫抑制を用いて、この応答を最小限にできるが(Connor,V,"Anti−TNF Therapies:A Comprehensive Analysis of Adverse Effects Associated With Immunosuppression,"Rheumatol.Int.31:327−37(2011)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))、この実験では、すでに抗TNFα療法を実施済みであるので、本発明の実験設計には、既知の免疫抑制剤、追加の複合処置は加えなかった。いくつかのERT療法では、注入した酵素に対する免疫応答により、その効果が著しく限定される場合があり、抗TNFα療法とERTを併用する潜在的利点の1つは、この応答を最小限にして、追加の免疫抑制の必要性をなくす点であり得る。しかしながら、この潜在的利点は、感染の増大という潜在的リスクとのバランスを慎重に得なければならないので、比較臨床試験において慎重に評価しなければならない。 興味深いことに、本実験の初回観察結果の1つは、ERT単独で、TNFαおよびRANKLを含むいくつかの炎症マーカーの血清レベルが実質的に低下した点である。これらのサイトカインの血清レベルは、いずれかの特定の器官または組織ではなく、その動物の全身的な炎症状態を反映しており、ERT後のこれらの分子の循環血中レベルの低下は、遺伝子組み換え酵素について容易に評価可能であることが知られている器官(例えば肝臓)における療法の効果によるものである可能性が高いという仮説が立てられた。MPSにおける炎症性疾患は主にGAGの貯蔵によるものであることが過去に示されており、ERT後に、上記の器官中のGAGが低減することにより、TNFαの全身放出が低減された可能性がある(Simonaro et al.,"Involvement of the Toll−Like Receptor 4 Pathway and Use of TNF−Alpha Antagonists for Treatment of the Mucopolysaccharidoses,"Proc.Natl.Acad.Sci.107:222−7(2010)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。ERT後の動物において、TNFα(およびその他の炎症分子)の循環血中レベルが実質的に低下したことにより、本療法は、その酵素が到達できない他の器官(例えば軟骨)に対して、二次的なプラスの抗炎症効果を有する場合があり、付加的な利点がもたらされることを示されている。リソソーム蓄積障害患者に対する酵素補充療法治療を通じて、炎症、毒性などの血清マーカーを定期的に測定する。Simonaro et al.,"Involvement of the Toll−Like Receptor 4 Pathway and Use of TNF−Alpha Antagonists for Treatment of the Mucopolsaccharidoses,"Proc.Natl.Acad.Sci.107:222−7(2010)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる)を参照されたい。酵素補充療法を受けたMPS患者では、TNFαのレベルが正常またはほぼ正常であると期待できる。サイトカインの血清の結果に基づいていたら、酵素補充療法単独で有効であると考えたであろう。したがって、本発明の結果が出る以前は、リソソーム蓄積障害患者を酵素補充療法で治療する当業者は、TNFαを治療レジメに加えることは考えなかったであろう。 運動活性、つまり加速ロータロッド装置上におけるパフォーマンス、および歩行分析の2つの測定値によって、処置済みのMPS VI型ラットの臨床的改善を評価した。ERTはこれらのエンドポイントを改善したが、ERTを抗TNFα治療と併用する明らかな付加的な利点が見られた。ERTの上記の表現型に対するプラスの効果は、軟骨または骨への酵素の直接的送達によるものではなく、関節における軟組織の変化による可能性が高いという仮説が立てられた。MPS VI型ラットでは、著しい肝臓および脾臓の肥大は見られないので、ERT後の運動活性および歩行の改善は、器官の縮小によるものでもあり得ないが、これは明らかに、ERTによって治療されるMPS患者におけるプラスの利点である。 重要なことに、上記の臨床的エンドポイントに関する、ERT/CTNO1018併用処置の付加的な利点は顕著であり、両方の処置群における血清TNFαおよびRANKLの低減が同程度であったにも関わらず、これらの利点が生じた。実際、併用処置を受けたラットの軟骨において、ERT群では観察されなかった変化がいくつか観察された。例えば、併用療法を受けたMPS VI型ラットの気管は、未処置またはERT処置ラットよりも有意に薄く、かつ幅が広く、関節コラーゲンにおいてコラーゲンIIA1型の発現が増大した。セラミドも気管において低減して炎症の低減を示し、関節軟骨細胞においてPARPの発現(アポトーシスを示す)が低減した。 加えて、併用療法によって滑膜の炎症が著しく低減し、その結果、絨毛が減少し、滑膜組織の下層骨への浸潤が低減した。これらの変化が、CTNO1018の上記組織への直接的な作用によるものなのか、全身におけるTNFαの低減に起因する間接的な作用によるものなのかは依然として分からない。気管形態に対する効果は特に顕著で、これにより、MPS患者における気管の病変と関連する呼吸合併症では、ERT/抗TNFα併用療法のプラス効果が有効であり得ることが示された(Semenza et al.,"Respiratory Complications of Mucopolysaccharide Storage Disorders,"Medicine 67:209−19(1988)、Shinhar et al.,"Airway Management in Mucopolysaccharide Storage Disorders,"Arch.Otolaryngol.Head Neck Surg.130:233−237 (2004)(いずれの文献も、参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。CTNO1018は、TNFαに対する抗体である。したがって、CTNO1018の分子量と体内分布は、気管などの、主に無血管性の軟骨組織に達するとは思われなかったであろう。 処置済みのMPS VI型ラットの関節および気管におけるこれらのプラスの変化にもかかわらず、骨において明白な効果はあまり見られなかった。併用処置によって、大腿骨および脛骨の長さがわずかに改善したが、成長板の組織学的分析結果は改善しなかった。これらの骨の長さの変化は、MPS VII型/TLR4ダブルノックアウト動物で過去に観察された変化(骨の有意な伸長とともに、成長板組織の明らかな改善がはっきりと見られた)よりも非常に小さかった(Simonaro et al.,"Involvement of the Toll−Like Receptor 4 Pathway and Use of TNF−Alpha Antagonists for Treatment of the Mucopolysaccharidoses,"Proc.Natl.Acad.Sci.107:222−7 (2010)(参照によりその全体が本明細書に組み込まれる))。しかしながら、これら2つの実験間では、げっ歯類モデルおよび疾患の違い、ならびに、MPS VII型のマウス実験では、発育全体を通じて、TLR4経路を完全にノックアウトしたが、本発明の実験では、ラットに、約3週齢から全身に抗TNFα療法による処置を行ったことを含めて、いくつかの重要な違いを認識しなければならない。 全体としては、これらの結果により、抗TNFα療法とERTの併用により、MPS動物の軟骨および骨において、付加的な予想外な利点が得られ、その結果、臨床転帰が改善したことが示されている。いくつかの抗TNFα薬(例えばRemicade(登録商標)など)が、他の炎症状態において臨床用として利用可能であるということから、この療法のMPS患者への実施が促進され得る。しかしながら、MPS患者に上記の療法を慢性的に使用すると、有害な影響が生じる場合もあり、併用治療プロトコールの安全性と効能を判断するには、慎重な比較臨床試験が必要となる。第二の重要な所見は、ERT単独によって、TNFαに関連する炎症が低減し、MPS疾患におけるGAGの貯蔵が直接この経路を活性化させているという追加の証拠が得られた点である。実際に、ERTの一般的な抗炎症効果により、酵素が到達できない器官に、二次的なプラスの利点がもたらされる可能性が高い。最後に、この実験で報告されたデータにより、TNFα、RANKL、およびその他の炎症マーカーをバイオマーカーとして用いて、MPS疾患における療法の効果をモニタリングできることがさらに確認されている。現時点では、上記の障害で広く用いられている唯一のバイオマーカーは、尿におけるGAGの放出量であり、上記の簡潔な血清アッセイは、注目に値する付加的な利点を有し得る。実施例10 ポリ硫酸ペントサンにおける抗TNFα療法の酵素補充療法に対する作用に関する予備的実験 「原理を証明する」データを得るために、6カ月齢のMPS VI型ラット6匹をPPSで3カ月間処置した。6カ月齢のMPS VI型ラットは、骨疾患、軟骨疾患、および炎症性疾患を起こしており、したがって、この初期実験における具体的な目的は、PPSが、進行疾患を有するMPS動物において臨床的または病理学的所見のいずれかを遅延または逆転できたかを評価することであった。図6A〜6Dで見てとれるように、処置済みの9カ月齢のMPS VI型ラットの顔貌は、未処置のMPS VI型対照ラットと大きく異なっていた。図7A〜7Fによって示されているように、正常ラット(図7A、7D)、PPS処置を行ったMPS VI型ラット(図7C、7F)、およびPPS処置を行っていないMPS VI型ラット(図7B、7E)の頭蓋のX線写真およびマイクロCT画像を撮影した。処置済みのラット(図7C、7F)の方が、頭蓋が長く、眼(MPS VI型では通常、眼窩の異常により隆起している)は、正常のように凹所に置かれており、眼のポルフィリン分泌は著しく少なかった。示されている画像は、上記の動物における一般的な観察結果の代表的なものである。頭蓋X線写真により、これらの観察結果が確認され、処置群(すなわちPPS処置群)において、処置開始時の年齢が高かったにもかかわらず、有意に頭蓋および鼻がより長かったことが明らかになった(図7A〜7F)。 図8A〜8Fに示されているように、マイクロCT画像によって、これらの観察結果がさらに裏付けられた。PPS処置を行ったMPS VI型ラット(図8E、8F)、およびPPS処置を行っていないラット(図8C、8D)では、歯列の変化が見られた。PPS処置を行っていないMPS VI型ラット(図8C、8D)は、PPS処置を行ったMPS VI型ラット(図8E、8F)よりも、切歯が過剰成長し(囲み部分)、これにより、正常ラットに比べて、異常な歯並びとなっている(図8A−8F)。正常ラットのマイクロCT画像は図8A、8Bに示されている。未処置のMPS VI型ラットでは、切歯が過剰成長しており(囲み部分)(図8C、8D)、これにより、正常ラットに比べて、異常な歯並びとなっている。下顎骨および歯並びの悪さは、PPS処置によって矯正された(図8E、8F)。 殺処分の直前に、加速ロータロッド装置上でラットを実験した。図9で見てとれるように、PPSで3カ月間処置したMPS VI型ラットは、未処置の対照ラットよりも有意に長くロータロッド上に留まった。これは、処置群における関節可動性の増大ならびに/または炎症および疼痛の低減のいずれかを反映しているという仮説が立てられた。加えて、免疫組織化学分析により、肝臓および脾臓におけるTNFレベルが低下したとともに、血中でも同様に、このサイトカインのレベルが低下したことが示された(図10A−10B)。ELISAアッセイによって、処置済みのMPS VI型ラットにおける血清炎症マーカーが、未処置のMPS VI型ラットにおける炎症マーカーレベルよりも有意に低かったことが示された(図11A〜11C)。炎症マーカーであるMIP−1αの血清レベルは図11Aに示されており、マーカーのランテスのレベルは図11Bに示されており、TNFαのレベルは図11Cに示されている。 1カ月齢のMPS VI型ラットへのPPS処置も開始し、月齢のより高いラットで観察されたのと同様に、顔貌、頭蓋の長さ、眼、鼻分泌物、およびロータロッドパフォーマンスによって評価される運動性への有意な効果が見られた(図12A〜12C)。PPSで処置しなかったMPS VI型ラットの気管では、正常な気管よりも虚脱した気管が見られ、これは、PPS処置群の全てで改善した(図13)。 最後に、処置済み(6カ月齢)および未処置のMPS VI型ラットの脊椎疾患を評価した。これらの実験では、PPS処置中に追跡できるいくつかの重要かつ臨床的に関連するエンドポイントが示された。組織学的には、MPS VI型の椎間板では、対照の椎間板と比較して、豊富な、肥大かつ空胞化した核および環状細胞、ならびに、肥厚した輪状層、髄核の局所的欠陥、および、椎間板の高さの増大が見られた(図14A)。生体力学的には、引っ張り・圧縮の繰り返し(クリープ)試験によって、正常な脊髄分節よりも、MPS VI型の運動分節の方が、ニュートラルゾーンが有意に減少し(447.9%、図14B)、引張剛性も有意に減少した(110.0%)ことが示された。クリープ試験では、MPS VI型試料の方が、時定数が有意に短かったことも示された(82.8%、図14B)。PPSで処置しなかったMPS VI型ラットにおける関節軟骨細胞では、正常ラットよりもTNFα、p38、およびCox−2が上昇したが、これらのレベルは、処置済みのMPS VI型ラットでは正常まで低下した(図15)。ADAMTS−5は、プロテオグリカンを分解するアグリカナーゼであって、未処置のMPS VI型ラットの軟骨細胞で増大もするアグリカナーゼであるが、MPS VI型処置群において低下した(図15)。ロータロッド分析によって、PPSで3カ月間処置した1カ月齢のニーマンピック病マウス(酸性スフィンゴミエリナーゼノックアウト)の方が、未処置のニーマンピック病マウスよりも有意に高いパフォーマンスを見せたことが示された(図16)。 全体的には、MPS VI型動物では、MPS集団で観察される脊椎病変の発生と進行に関連し得る、脊椎運動分節の生体力学的機能と椎間板構造が実質的に変化した。髄核および線維輪の完全性は、脊椎分節の正常な生体力学的機能を維持するのに重要である。MPS VI型ラットにおけるこれらの構造のかなりの大きさの欠陥は、ニュートラルゾーンの剛性の低下によって表されるような生体力学的機能の低下と関連し得る。時定数(クリープ時間)の低下によって、椎骨間の水の輸送および保水能力が変化したことも明らかになり、この変化は、GAGの機能異常に関連すると思われるが、MPS VII型イヌモデルについて報告されているように、終板の透過性およびコラーゲンの機能の変化とも部分的に関連し得る。 ちなみに、頭蓋および鼻の長さ、ロータロッドパフォーマンス、ならびに炎症に対するプラスの効果があるにも関わらず(図6A〜6D、9、10A〜10B、12A−12C)、PPSによっては、進行疾患を有する処置済みのMPS VI型動物では、椎間板の高さ指数(DHI)の上昇は回復しなかった(図14C)。この所見により、MPSにおける上記(およびおそらくその他の)のパラメーターについての早期のスクリーニングおよび治療の介入の重要性、ならびに、年齢および疾患の進行度の関数として、薬物治療の効果を慎重に評価する必要性が明らかになっている。 PPSはGAG様多糖であるので、MPSのGAG蓄積障害の治療に有用であるとは考えられなかったであろう。したがって、MPS VI型動物におけるプラスの結果は、驚くほど予想外であった。加えて、PPSは、血液脳関門を通過することは知られていないので、ニーマンピック病マウスモデルにおいてプラスの神経学的効果(図16に示されているような効果)があるとは考えられなかったであろう。 本明細書では、好ましい実施形態を詳細に描写および説明してきたが、本発明の趣旨から逸脱しなければ、さまざまな修正、追加、置換などを行えることは当業者には明らかであろうし、したがって、そのような修正、追加、置換などは、添付の特許請求の範囲で定義されているような本発明の範囲内であるとみなされる。 以下を含む、リソソーム蓄積障害を有する対象を治療する方法: リソソーム蓄積障害を有する対象を選択すること、ならびに 前記選択した対象において前記リソソーム蓄積障害を治療するのに有効な条件の下で、前記選択した対象に、酵素補充療法薬および抗TNFα治療薬を投与すること。 前記酵素補充療法薬が、アルグルセラーゼ、イミグルセラーゼ、ベラグルセラーゼアルファ、ラロニダーゼ、アガルシダーゼベータ、ガルスルファーゼ、アルグルコシダーゼアルファ、N−アセチルガラクトサミン−6スルファターゼ、およびイデュルスルファーゼからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。 前記抗TNFα療法薬が、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、およびナタリズマブからなる群から選択される、請求項1に記載の方法。 前記抗TNFα療法薬がポリ硫酸ペントサン(PPS)である、請求項1に記載の方法。 追加の療法を実施することをさらに含む、請求項1に記載の方法。 前記追加の療法が、骨髄移植、シャペロン療法、および遺伝子療法からなる群から選択される、請求項5に記載の方法。 前記リソソーム蓄積障害が、スフィンゴリピドーシス、ムコ多糖蓄積症(ムコ多糖症)、糖タンパク症(glycoproteinoses)、ムコリピドーシス、糖原病II型、セロイドリポフスチン沈着症、およびその他のリソソームタンパク質機能異常からなる群から選択される、請求項1に記載の方法。 前記リソソーム蓄積障害がスフィンゴリピドーシスであり、前記スフィンゴリピドーシスがニーマンピック病である、請求項1に記載の方法。 前記リソソーム蓄積障害がムコ多糖症であり、前記ムコ多糖症がMPS I型(ハーラー/シャイエ症候群)、MPS II型(ハンター症候群)、MPS VI型(マロトー・ラミー症候群)、MPS III型(サンフィリッポ症候群)、MPS IV型(モルキオ症候群)、またはMPS VII型(スライ病)である、請求項1に記載の方法。 前記投与することを、経口的に、吸入により、鼻腔内滴下により、局所的に、経皮的に、非経口的に、皮下に、静脈内注射により、動脈内注射により、筋内注射により、胸膜内に(intraplurally)、腹腔内に、または粘膜への塗布により行う、請求項1に記載の方法。 前記投与することを繰り返すことをさらに含む、請求項1に記載の方法。 前記対象が乳児または年少者である、請求項1に記載の方法。 前記対象が成人である、請求項1に記載の方法。 前記対象が、リソソーム蓄積障害と関連する骨格病変を有する、請求項1に記載の方法。 以下を含む、酵素補充療法によって治療しているリソソーム蓄積障害を有する対象において炎症性サイトカインを低減させる方法: 前記対象において前記炎症性サイトカインを低減させるのに有効な条件の下で、前記対象に抗TNFα治療薬を投与すること。 前記投与を受ける、リソソーム蓄積障害と関連する骨格病変を有する対象を選択することをさらに含む、請求項15に記載の方法。 前記酵素補充療法のための薬剤が、アルグルセラーゼ、イミグルセラーゼ、ベラグルセラーゼアルファ、ラロニダーゼ、アガルシダーゼベータ、ガルスルファーゼ、アルグルコシダーゼアルファ、N−アセチルガラクトサミン−6スルファターゼ、およびイデュルスルファーゼからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。 前記抗TNFα療法薬が、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、およびナタリズマブからなる群から選択される、請求項15に記載の方法。 前記抗TNFα療法薬がポリ硫酸ペントサン(PPS)である、請求項15に記載の方法。 追加の療法を実施することをさらに含む、請求項15に記載の方法。 前記追加の療法が、骨髄移植、シャペロン療法、および遺伝子療法からなる群から選択される、請求項20に記載の方法。 前記リソソーム蓄積障害が、スフィンゴリピドーシス、ムコ多糖蓄積症(ムコ多糖症)、糖タンパク症、ムコリピドーシス、糖原病II型、セロイドリポフスチン沈着症、およびその他のリソソームタンパク質機能異常からなる群から選択される、請求項15に記載の方法。 前記リソソーム蓄積障害がスフィンゴリピドーシスであり、前記スフィンゴリピドーシスがニーマンピック病である、請求項15に記載の方法。 前記リソソーム蓄積障害がムコ多糖症であり、前記ムコ多糖症がMPS I型(ハーラー/シャイエ症候群)、MPS II型(ハンター症候群)、MPS VI型(マロトー・ラミー症候群)、MPS III型(サンフィリッポ症候群)、MPS IV型(モルキオ症候群)、またはMPS VII型(スライ症候群)である、請求項15に記載の方法。 前記投与することを、経口的に、吸入により、鼻腔内滴下により、局所的に、経皮的に、非経口的に、皮下に、静脈内注射により、動脈内注射により、筋内注射により、胸膜内に、腹腔内に、または粘膜への塗布により行う、請求項15に記載の方法。 前記投与することを繰り返すことをさらに含む、請求項15に記載の方法。 前記対象が乳児または年少者である、請求項15に記載の方法。 前記対象が成人である、請求項15に記載の方法。 以下を含む、リソソーム蓄積障害を有する対象を治療する方法: リソソーム蓄積障害を有する対象を選択すること、および 前記選択した対象において前記リソソーム蓄積障害を治療するのに有効な条件の下で、前記選択した対象にポリ硫酸ペントサン(PPS)を投与すること。 追加の療法を実施することをさらに含む、請求項29に記載の方法。 前記追加の療法が、骨髄移植、シャペロン療法、および遺伝子療法からなる群から選択される、請求項30に記載の方法。 前記リソソーム蓄積障害が、スフィンゴリピドーシス、ムコ多糖蓄積症(ムコ多糖症)、糖タンパク症、ムコリピドーシス、糖原病II型、セロイドリポフスチン沈着症、およびその他のリソソームタンパク質機能異常からなる群から選択される、請求項29に記載の方法。 前記リソソーム蓄積障害がスフィンゴリピドーシスであり、前記スフィンゴリピドーシスがニーマンピック病である、請求項29に記載の方法。 前記リソソーム蓄積障害がムコ多糖症であり、前記ムコ多糖症がMPS I型(ハーラー/シャイエ症候群)、MPS II型(ハンター症候群)、MPS VI型(マロトー・ラミー症候群)、MPS III型(サンフィリッポ症候群)、MPS IV型(モルキオ症候群)、またはMPS VII型(スライ病)である、請求項29に記載の方法。 前記投与することを、経口的に、吸入により、鼻腔内滴下により、局所的に、経皮的に、非経口的に、皮下に、静脈内注射により、動脈内注射により、筋内注射により、胸膜内に、腹腔内に、または粘膜への塗布により行う、請求項29に記載の方法。 前記投与することを繰り返すことをさらに含む、請求項29に記載の方法。 前記対象が乳児または年少者である、請求項29に記載の方法。 前記対象が成人である、請求項29に記載の方法。 前記対象が、リソソーム蓄積障害と関連する骨格病変を有する、請求項29に記載の方法。 以下を含む、リソソーム蓄積障害と関連する骨格病変を有する対象を治療する方法: リソソーム蓄積障害と関連する骨格病変を有する対象を選択すること、ならびに 前記対象においてリソソーム蓄積障害と関連する前記骨格病変を治療するのに有効な条件の下で、前記選択した対象に、基質抑制療法薬および抗TNFα治療薬を投与すること。 前記基質抑制療法薬が、ミグルスタットおよびエリグルスタットからなる群から選択される、請求項40に記載の方法。 前記抗TNFα療法薬が、インフリキシマブ、アダリムマブ、エタネルセプト、ゴリムマブ、およびナタリズマブからなる群から選択される、請求項40に記載の方法。 前記抗TNFα療法薬がポリ硫酸ペントサン(PPS)である、請求項40に記載の方法。 追加の療法を実施することをさらに含む、請求項40に記載の方法。 前記追加の療法が、酵素補充療法、骨髄移植、シャペロン療法、および遺伝子療法からなる群から選択される、請求項44に記載の方法。 前記リソソーム蓄積障害が、スフィンゴリピドーシス、ムコ多糖蓄積症(ムコ多糖症)、糖タンパク症、ムコリピドーシス、糖原病II型、セロイドリポフスチン沈着症、およびその他のリソソームタンパク質機能異常からなる群から選択される、請求項40に記載の方法。 前記リソソーム蓄積障害がスフィンゴリピドーシスであり、前記スフィンゴリピドーシスがニーマンピック病である、請求項40に記載の方法。 前記リソソーム蓄積障害がムコ多糖症であり、前記ムコ多糖症がMPS I型(ハーラー/シャイエ症候群)、MPS II型(ハンター症候群)、MPS VI型(マロトー・ラミー症候群)、MPS III型(サンフィリッポ症候群)、MPS IV型(モルキオ症候群)、またはMPS VII型(スライ症候群)である、請求項40に記載の方法。 前記投与することを、経口的に、吸入により、鼻腔内滴下により、局所的に、経皮的に、非経口的に、皮下に、静脈内注射により、動脈内注射により、筋内注射により、胸膜内に、腹腔内に、または粘膜への塗布により行う、請求項40に記載の方法。 前記投与することを繰り返すことをさらに含む、請求項40に記載の方法。 前記対象が乳児または年少者である、請求項40に記載の方法。 前記対象が成人である、請求項40に記載の方法。 本発明は、酵素補充療法薬および抗TNFα療法薬を投与すること、ポリ硫酸ペントサン療法を実施すること、または基質抑制療法および抗TNFα療法を実施することによって、リソソーム障害を有する対象を治療する方法に関する。本発明はさらに、酵素補充療法によって治療しているリソソーム障害を有する対象において、抗TNFα療法薬を投与することによって炎症性サイトカインを低減させる方法に関する。


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