生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_植物環状人工染色体
出願番号:2013557488
年次:2015
IPC分類:C12N 15/09,A01H 5/00,C12N 5/10,A01H 1/00


特許情報キャッシュ

村田 稔 長岐 清孝 JP 5668154 特許公報(B2) 20141219 2013557488 20130201 植物環状人工染色体 国立大学法人 岡山大学 504147243 庄司 隆 100088904 資延 由利子 100124453 大杉 卓也 100135208 曽我 亜紀 100152319 村田 稔 長岐 清孝 JP 2012024955 20120208 20150212 C12N 15/09 20060101AFI20150122BHJP A01H 5/00 20060101ALI20150122BHJP C12N 5/10 20060101ALI20150122BHJP A01H 1/00 20060101ALI20150122BHJP JPC12N15/00 AA01H5/00 AC12N5/00 103A01H1/00 A C12N 15/00−15/90 C12N 5/04,5/10,5/14 A01H 1/00− 1/08 A01H 5/00− 5/12 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) Thomson Innovation MEDLINE/BIOSIS/WPIDS(STN) 特開2006−067821(JP,A) Proc. Natl. Acad. Sci. USA,2008年,Vol. 105, No. 21,P. 7511-7516 平成17年度研究終了報告書 植物の機能と制御,2010年 2月23日,P. 325-369 J. Plant Res.,2007年,Vol. 120,P. 157-165 遺伝,2008年,Vol. 63,P. 61-65 Chromosome Res.,2011年,Vol. 19,P. 999-1012 Plant J.,2011年,Vol. 68,P. 28-39 Plant Cell,2011年,Vol. 23,P. 2263-2272 日本遺伝学会大会プログラム・予稿集,2011年 8月31日,Vol. 83rd,P. 112,3C-06 12 JP2013052331 20130201 WO2013118647 20130815 26 20140514 (出願人による申告)平成21年度、独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構、イノベーション創出基礎的研究推進事業に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願 鈴木 崇之 本発明は植物環状人工染色体を含有する植物体及び当該植物環状人工染色体を含有する植物体の作製方法に関する。 本出願は、参照によりここに援用されるところの日本出願特願2012-024955号優先権を請求する。 人工染色体は、大きなサイズの遺伝子や複数の遺伝子を、安定的かつ制御可能に生物に導入可能なベクターとして注目されている。これまで、酵母やヒトなどでは人工染色体が作製されてきたが、植物では確実な成功例が報告されていない。トウモロコシやシロイヌナズナにおいて人工染色体を創出したという報告がなされているが(非特許文献1〜6)、これらの植物人工染色体には問題点が存在する。 非特許文献1においてCarlsonらは、トウモロコシのセントロメア領域に局在する数種の反復配列を組み合わせて、7〜190kbの環状のDNA分子を作製し、パーティクルガンによりトウモロコシに打ち込んだ。その結果、トウモロコシ内に人工ミニ染色体を形成することに成功し、次代に伝達されたことを報告した。しかしながら、非特許文献1の結果には多くの研究者が疑問を呈している(非特許文献2)。非特許文献1で報告されている人工ミニ染色体は、減数分裂を経た次代への伝達率が従来報告されている常識的な範囲を超えて高いこと、人工ミニ染色体において、セントロメアとして機能するのに必須であるCENH3タンパク質の局在を確認していないこと、導入されたDNA分子におけるセントロメアのサイズが高等真核生物の人工染色体と比較して小さく19kbしかないこと等が、非特許文献2において指摘されている。 非特許文献3により、トウモロコシで人工染色体の作製に成功したとの報告がなされている。非特許文献3では、トウモロコシ染色体のセントロメア領域と、テロメア領域と、複製起点を結合させた長鎖の直鎖状DNAが作製され、当該直鎖状DNAがパーティクルガンによりトウモロコシに導入された。このトウモロコシ由来のカルス培養細胞では、新規の小型染色体(推定サイズ15〜30Mb)が確認されており、それらが1年以上維持されたことが報告されている。非特許文献3によれば、カルス培養細胞から再分化させた植物体にも小型染色体が伝達されていたが、植物体は不稔であり、小型染色体の後代への伝達を確認することはできなかった。またDNAの導入にパーティクルガンを使用する方法では、長鎖のDNAをインタクトな状態で細胞内に導入することは難しいと考えられる。 非特許文献4および非特許文献5では、テロメアDNAを外部から導入して内在のDNAに挿入し、挿入された部分に切断を誘発する方法(テロメア誘発染色体切断;telomere-associated chromosome truncation)により、小型染色体を作り出し、ベクター化しようとする試みが報告されている。本方法は当初、ヒトやマウスの培養細胞で開発されていた。非特許文献4においては、トウモロコシのB染色体(付随的な染色体)を、テロメアを用いて小型化し、LoxP配列を導入したことが報告されている。また最近、同様の方法についてシロイヌナズナでも有効性が確認された(非特許文献6)。これらのテロメアを用いて得られた小型染色体は、直鎖状であり大きさは20Mb程度である。さらにテロメアの導入によるミニ染色体作製は、予期していない位置に切断が起きる可能性があり、2倍性の植物では致死に至るケースが多いという問題点がある。 非特許文献7および8では、シロイヌナズナの第2番染色体の短腕由来の環状ミニ染色体が生じたことが報告されている。当該環状ミニ染色体は、ミニ4S染色体を含有するシロイヌナズナの形質転換を行った際に、偶発的に生じたものである。かかる環状ミニ染色体はLoxP配列などを含んでいないため、外来遺伝子の挿入が煩雑であり、人工染色体としての使用は困難である。非特許文献7および8における環状ミニ染色体は、外来遺伝子を挿入可能なLoxP配列などを有さないものであり、外来遺伝子の挿入に、アグロバクテリウム法などの形質転換法を用いる必要があり煩雑である。また非特許文献7および8の環状ミニ染色体には、体細胞内で染色体数が増減するため、安定性に問題があると考えられる。 植物人工染色体の作製の困難性は、植物のセントロメア領域を含む動原体についての解析があまり進んでいないこと、セントロメア領域を構成する長鎖の反復配列DNAを効率的に人工染色体に導入できる方法が十分に確立していないことなどによるものと考えられる。酵母やヒトでは、外部から人工染色体を細胞内に導入するボトムアップ法が用いられるが、植物では細胞が堅固な細胞壁に覆われているため、ボトムアップ法により長鎖のDNAをインタクトな状態で細胞内に導入することが極めて難しい。例えば、非特許文献1や2のようにパーティクルガンでDNAを細胞に導入した場合、衝撃によるDNAの切断を避けることができない。植物の染色体は極めて大きく、セントロメア領域は数百キロ塩基対〜数メガ塩基対と酵母等に比較して長い。植物人工染色体の作製においては、長いセントロメア領域の取り扱いが難しく、次代に伝達可能なように構築された植物人工染色体についての報告はない。Carlson SR, Rudgers GW, Zieler H, Mach JM, Luo S, Grunden E, Krol C, Copenhaver GP, Preuss D.(2007) Meiotic transmission of an in vitro-assembled autonomous maize minichromosome. PLoS Genet. 2007 Oct;3(10):1965-74.Houben A, Dawe RK, Jiang J, Schubert I. (2008) Engineered plant minichromosomes: a bottom-up success? Plant Cell 20(1):8-10.Ananiev EV, Wu C, Chamberlin MA, Svitashev S, Schwartz C, Gordon-Kamm W, Tingey S.(2009) Artificial chromosome formation in maize (Zea mays L.).Chromosoma 118(2):157-177.Yu W, Han F, Gao Z, Vega JM, Birchler JA. (2007) Construction and behavior of engineered minichromosomes in maize. PNAS 104(21):8924-8929.Nelson AD, Lamb JC, Kobrossly PS, Shippen DE. (2011) Parameters affecting telomere-mediated chromosomal truncation in Arabidopsis. Plant Cell 23:2263-2272.Teo CH, Ma L, Kapusi E, Hensel G, Kumlehn J, Schubert I, Houben A, Mette MF.(2011)Induction of telomere-mediated chromosomal truncation and stability of truncated chromosomes in Arabidopsis thaliana.Plant J. doi: 10.1111/j.1365-313X.2011.04662.Murata, M., Yokota, E., Shibata, F., Kashihara, K.(2008) Functional analysis of the Arabidopsis centromere by T-DNA insertion-induced centromere breakage. Proc. Nat. Acad. Sci. USA 105(21):7511-7516Yokota, E., Shibata, F., Nagaki, K., Murata, M. (2011) Stability of monocentric and dicentric ring minichromosomes in Arabidopsis thaliana. Chromosome Res. 19:999-1012 本発明は、新規な植物環状人工染色体を含有する植物体及び当該植物環状人工染色体を含有する植物体の作製方法を提供することを課題とする。 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、部位特異的組換え酵素および当該酵素の認識部位を用いた遺伝子組み換えシステムを利用することにより環状の人工染色体を含有する植物体を作製可能であることに着目し、当該環状の人工染色体が植物人工染色体として利用可能であることを見出し、本発明を完成させた。 すなわち本発明は、以下よりなる。1.植物染色体由来のセントロメア領域の全長または部分、および、少なくとも1つの部位特異的組換え酵素の認識部位を含む植物環状人工染色体を含有する植物体。2.植物環状人工染色体において、部位特異的組換え酵素の認識部位がセントロメア領域とは異なる位置に導入されている、前項1に記載の植物体。3.植物環状人工染色体が、1 Mb〜20 Mbの長さである、前項1または2に記載の植物体。4.植物環状人工染色体に含まれるセントロメア領域が、全長ではなく部分であり、長さが200Kbより長く1000kb以下である、前項1〜3のいずれか1に記載の植物体。5.植物環状人工染色体のセントロメア領域以外が、植物染色体の長腕由来である、前項1〜4のいずれか1に記載の植物体。6.植物体がシロイヌナズナであり、植物環状人工染色体がシロイヌナズナの染色体由来である、前項1〜5のいずれか1に記載の植物体。7.植物染色体由来のセントロメア領域の全長または部分、および、少なくとも1つの部位特異的組換え酵素の認識部位を含む、植物環状人工染色体。8.前項1〜6のいずれか1に記載された植物体由来であって、植物環状人工染色体を含有する培養細胞。9.以下の工程を含む、前項1〜6のいずれか1に記載の植物環状人工染色体を含有する植物体を作製する方法:(a)2つの部位特異的組換え酵素の認識部位がセントロメア領域の全長または部分を挟んだ位置に順方向で導入されている染色体を含有する植物体Aを準備する工程;(b)植物体Aと、部位特異的組換え酵素をコードする遺伝子を含有する植物体Bとを交配する工程。10.植物体Aの染色体において、一方の部位特異的組換え酵素の認識部位がセントロメア領域に導入されており、他方の部位特異的組換え酵素の認識部位がセントロメア領域とは異なる位置に導入されていることにより、2つの部位特異的組換え酵素の認識部位がセントロメア領域の部分を挟んだ位置に導入されている、前項9に記載の植物人工染色体を含有する植物体を作製する方法。11.植物体Aの染色体において、セントロメア領域とは異なる位置に導入されている部位特異的組換え酵素の認識部位が、染色体の長腕に導入されている、前項10に記載の植物人工染色体を含有する植物体を作製する方法。12.工程(a)が、非自律性トランスポゾンおよび部位特異的組換え酵素の認識部位を含むDNA断片が1つ、セントロメア領域に導入されている染色体を含有する植物体Cと、非自律性トランスポゾンの転移酵素をコードする遺伝子を含有する植物体Dとを交配することにより、植物体Aを得るものである、前項9〜11のいずれか1に記載の植物人工染色体を含有する植物体を作製する方法。13.植物体Cの染色体に導入されているDNA断片が、部位特異的組換え酵素の認識部位を2つ有し、非自律性トランスポゾンにより転移可能な領域内に一方の部位特異的組換え酵素の認識部位が導入されており、非自律性トランスポゾンにより転移可能な領域とは異なる位置に他方の部位特異的組換え酵素の認識部位が導入されたものである、前項9〜12のいずれか1に記載の植物人工染色体を含有する植物体を作製する方法。 従来、環状染色体は不安定であると考えられていたが、本発明の植物環状人工染色体を含有する植物体においては、植物環状人工染色体を有糸分裂中も維持することができ、減数分裂を経て次代に伝達させることが可能である。さらに本発明における植物環状人工染色体には、部位特異的組換え酵素の認識部位が含まれているため、所望の外来遺伝子を、組換え技術を利用することにより容易に挿入することができる。 また本発明の植物体を作製する方法では、部位特異的組換え酵素および当該酵素の認識部位を用いた遺伝子組み換えシステムを用いることにより、効率的に環状人工染色体を作り出すことができる。本発明においては、外部からテロメア配列を導入しないため、目的以外の他の染色体の切断等などの悪影響を避けることができるという利点がある。本発明の植物環状人工染色体を含有する植物体の作製方法の模式図を示す(実施例1および2)。シロイヌナズナCS859268系統におけるT-DNA挿入箇所を確認した結果を示す写真である。(実施例1)シロイヌナズナCS859268系統の染色体をFISH法により観察した写真である(実施例1)。シロイヌナズナCS859268系統とシロイヌナズナAcRLC-62またはAcRLC-62を交配して得られた個体の染色体を模式的に表した図である。(実施例1)シロイヌナズナ10FとシロイヌナズナCre13を交配して得られた個体の環状人工染色体を確認するためのPCRのプライマー位置を示す図である。(実施例2)シロイヌナズナ10FとシロイヌナズナCre13を交配して得られた個体の環状人工染色体をFISH法により観察した写真を示す(実施例2)。シロイヌナズナ10FとシロイヌナズナCre13を交配して得られた個体の環状人工染色体に含まれる、シロイヌナズナ第2番染色体の長腕の領域を示す図である。(実施例2)シロイヌナズナ10FとシロイヌナズナCre13を交配して得られた個体の環状人工染色体について、セントロメア特異的ヒストンH3を検出した結果を示す図である。(実施例2)植物環状人工染色体を含有する植物体を自殖させて得られたシロイヌナズナ個体を示す写真である。(実施例3)。植物環状人工染色体を含有する植物体を自殖させて得られたシロイヌナズナ個体No.21-231、21-531、24-414の染色体構成を示す図である。(実施例3)。LoxP配列の方向性を具体的に例示する図である。(植物環状人工染色体を含有する植物体) 本発明は、植物染色体由来のセントロメア領域の全長または部分、および、少なくとも1つの部位特異的組換え酵素の認識部位を含む植物環状人工染色体を含有する植物体を対象とするものである。 本発明において植物とは、いかなる植物であってもよいが好ましくは種子植物である。本発明における植物は単子葉植物であっても双子葉植物であってもよいが、具体的にはアブラナ科に属する植物、ナス科に属する植物、イネ科に属する植物、マメ科に属する植物、ネギ科に属する植物、キク科に属する植物、バラ科に属する植物、ミカン科に属する植物、ブドウ科に属する植物が例示される。アブラナ科に属する植物としては、シロイヌナズナ、キャベツ、ハクサイが例示され、ナス科に属する植物としてはタバコ、トマト、イネ科に属する植物としてはトウモロコシ、イネ、コムギ、オオムギ、マメ科に属する植物としてはダイズ、ネギ科に属する植物としてはタマネギ、キク科に属する植物としてはレタス、バラ科に属する植物としては、園芸品種のバラ各種、イチゴ、リンゴ、アーモンド、ミカン科に属する植物としては、ミカン、キンカン、カラタチ、ブドウ科に属する植物としては、セイヨウブドウ、マスカットが例示される。本発明における植物とは、好ましくはアブラナ科に属する植物であり、より好ましくはシロイヌナズナである。 植物環状人工染色体とは、直鎖状ではなく環状のDNAから本質的になるものである。「環状のDNAから本質的になる」とは、少なくとも環状のDNAを含み、環状のDNAが何らかの修飾を受けていたり、ヒストンやキネトコア構成タンパク質等のタンパク質を含むことを意味する。植物環状人工染色体は、細胞を宿主として自律複製および分配が可能であり、安定的に保持され、宿主細胞の染色体を破壊することなく独立で存在することができ、構造遺伝子を有し得るものを意味する。植物環状人工染色体の宿主となる細胞は、植物細胞に限定されない。本発明の植物環状人工染色体は自律複製および分配が可能であるため、植物環状人工染色体を含有する植物体が自家生殖もしくは他家生殖した場合、当該植物環状人工染色体の次代の植物体への伝達が可能となる。 本発明における植物環状人工染色体とは、植物体の細胞内に元来存在する特定の染色体を操作することにより作製したものであり、植物体の特定の染色体由来のものである。 本発明における植物環状人工染色体は、植物染色体由来のセントロメア領域の全長または部分を含む。植物染色体におけるセントロメア領域とは、植物細胞内の染色体において動原体を構成するDNA領域であり、核分裂時には紡錘体が結合し染色体を両極に分配する機能を有する。植物染色体におけるセントロメア領域は極めて長く、例えばシロイヌナズナの野生型染色体では2.7〜3.0 Mbの長さを有している。植物におけるセントロメア領域には、反復配列(繰り返し配列)が局在しており、反復配列は一般的に百数十塩基対と考えられており、セントロメア領域ではかかる反復配列が1万回程度反復している。例えばシロイヌナズナにおいては、約180bpの反復配列が縦列して、2.7〜3.0 Mbのセントロメア領域(Hosouchi et al. 2002, DNA Research 9:117-121)を構成していることが知られている。植物環状人工染色体においては、由来染色体のセントロメア領域の全長が含まれていてもよいが、好ましくはセントロメア領域の部分が含まれる。セントロメア領域の部分とは、いかなる長さであってもよいが、下限は好ましくは200kbより長く、より好ましくは240kb以上、上限は好ましくは1000kb以下、より好ましくは800kb以下、さらに好ましくは500kb以下である。非特許文献6においては、200 kbの長さではセントロメアとして機能しないことが報告されている。 また、本発明におけるセントロメア領域は、上記反復配列が縦列した配列から本質的になる。「上記反復配列が縦列した配列から本質的になる」とは、各反復配列の塩基配列が完全に一致しておらず、90%以上(好ましくは95%以上)の同一性を有していればよいこと、反復配列と反復配列の間に反復配列以外の異なる塩基配列が含まれていてもよいこと、セントロメア領域の端部が必ずしも、完全な反復配列であることを要求するものではないことを包含する。セントロメア領域を構成する反復配列は、例えばシロイヌナズナにおいては176〜180bpであり、178bpの長さが最も頻度が高いと考えられている。これら176〜180bpの反復配列を比較した場合、95%程度の高い保存性を有していることが報告されている(Hall, S.E., Kettler, G., and Preuss, D. (2003)., Genome Res 13, 195-205.)。シロイヌナズナの反復配列のコンセンサス配列を、配列番号1に示す。本発明におけるセントロメア領域における反復配列は、配列番号1に示すコンセンサス配列を有するものであることが好ましい。シロイヌナズナの180bpの反復配列の一例としては、GenBank Accession No. S73532が挙げられる。 本発明の植物環状人工染色体は、セントロメア領域にセントロメア特異的ヒストンH3(CENH3)が局在しているものである。植物環状人工染色体におけるセントロメア領域が、染色体の分配等のセントロメアとしての機能を発揮するためには、CENH3が必須である。 本発明における植物環状人工染色体は、少なくとも1つの部位特異的組換え酵素の認識部位を含む。部位特異的組換え酵素の認識部位とは、特定の部位特異的組換え酵素により認識され、特異的にその認識部位においてDNAの組換えが起こるような部位(塩基配列)を意味する。部位特異的組換え酵素と、部位特異的組換え酵素の認識部位の組み合わせとしては、Cre酵素とLoxP配列や、Flp酵素とFrt配列などが例示されるが、好ましくはCre酵素とLoxP配列である(Sternberg, N. and Hamilton, D. (1981). “Bacteriophage P1 site-specific recombination. I. Recombination between loxP sites”. J. Mol. Biol. 150 (4): 467-486.)。 植物環状人工染色体において、部位特異的組換え酵素の認識部位はセントロメア領域に導入されていても、セントロメア領域とは異なる位置に導入されていてもよいが、好ましくは部位特異的組換え酵素の認識部位がセントロメア領域とは異なる位置に導入されている。部位特異的組換え酵素の認識部位がセントロメア領域とは異なる位置に導入されている植物環状人工染色体に、構造遺伝子として外来遺伝子を導入した場合、外来遺伝子が損傷や組換え等を受けずに、より安定して分配されると考えられ、加えて効率よく外来遺伝子を発現させることが可能であると考えられる。 セントロメア領域は、植物環状人工染色体の全体を占めていてもよいが、分配機能の観点から、植物環状人工染色体の一部であってもよい。具体的には、セントロメア領域の植物環状人工染色体に対する割合は、5%〜100%程度、好ましくは5%〜75%程度、さらに好ましくは5%〜25%である。 また、本発明における植物環状人工染色体においては、導入されているセントロメア領域は1つであっても、2つであってもよい。セントロメア領域を1つ有するものは、一動原体型染色体、2つ有するものは二動原体型染色体と称される。 植物環状人工染色体全体の大きさは、1 Mb〜20 Mbの長さであり、好ましくは1 Mb〜10 Mbの長さである。一動原体型染色体の場合は1〜10Mbの長さが好ましく、1〜5Mbの長さがより好ましい。二動原体型染色体は、一動原体型染色体の2倍の長さと考えられる。二動原体型染色体は、動原体を2つ持つため両極に引っ張られて切断されてしまう可能性があるが、1 Mb〜20 Mbといった小型のものであれば、切断が生じる確率が低くなると考えられる。 植物環状人工染色体は、複製開始点をさらに含んでいることが好ましい。複製開始点とは、染色体DNAの複製が開始される配列をいう。植物環状人工染色体において含まれる複製開始点は植物由来のものが好ましい。複製開始点として、シロイヌナズナの180bpの反復配列を使用することも可能である(Costas et al. (2011) Nature Structure & Molecular Biology 18(3):395-400.) 植物環状人工染色体は、部位特異的組換え酵素の認識部位に挿入され得る外来遺伝子等の構造遺伝子の制御領域を、さらに含んでいてもよい。制御領域とは、細胞内で外来遺伝子を発現させ、または外来遺伝子の発現を調節するために必要な領域をいい、例えば、プロモーターや転写終結領域等が挙げられる。プロモーターとは、転写(DNAからRNAを合成する段階)の開始に関与する遺伝子の上流領域を意味する。植物環状人工染色体においてプロモータは、部位特異的組換え酵素の認識部位の上流に位置することが好ましい。用いられるプロモーターは、宿主細胞内で機能するものであれば特に限定されないが、例えば、カリフラワーモザイクウイルス(CaMV)由来のプロモーターが挙げられる。 なお、本発明における植物環状人工染色体には、テロメア配列は含まれない。本発明における環状人工染色体は、線状ではなく環状であるため、テロメア配列を必要とせず、安定して存在することができる。 本発明の植物環状人工染色体は、セントロメア領域以外の部分が、植物染色体の短腕または長腕、その両方に由来するものである。好ましくは本発明の植物環状人工染色体のセントロメア領域以外の部分は長腕由来の部分を含むものであり、植物染色体の短腕の部分を含んでいてもよいが、より好ましくは短腕の部分を含まないものである。 本発明の植物環状人工染色体の一態様として、シロイヌナズナの染色体由来のものが挙げられる。シロイヌナズナは細胞内に染色体を5本有する。植物環状人工染色体は、いずれの染色体由来のものであってもよいが、好ましくは第2番染色体由来のものである。さらに具体的には、本発明の植物環状人工染色体におけるセントロメア領域は端部に、配列番号2に示す塩基配列の62番目〜696番目の635bpの断片を含む。また本発明の植物環状人工染色体における第2番染色体由来の長腕の部分は、図7(AGIマップ)に示されるT14C8クローンからT6B13クローンの間の塩基配列であり、より具体的にはAGIマップに示されるポジション3608930〜6245290の塩基配列である(http://www.arabidopsis.org/servlets/mapper?chr=2)。 本発明において植物体とは、完全な植物体のみならず、葉、茎、花、種子等の植物の一部の組織であってもよい。 本発明は、上述の植物環状人工染色体にも及ぶ。 さらに本発明は、上述の植物環状人工染色体を含有する培養細胞にも及ぶ。培養細胞としては、いかなる形態のものであってもよい。培養細胞は、植物細胞、酵母や大腸菌等、ヒトを含む動物細胞等のいかなる細胞であってもよいが、好ましくは植物細胞である。植物の培養細胞としては、カルスやプロトプラストが例示されるが、これらは植物環状人工染色体を含有する植物体より公知の手法を用いて作製することができる。(植物環状人工染色体を含有する植物体の作製方法) 本発明は、以下の工程を含む、上記の植物環状人工染色体を含有する植物体を作製する方法にも及ぶ。(a)2つの部位特異的組換え酵素の認識部位がセントロメア領域の全長または部分を挟んだ位置に順方向で導入されている染色体を含有する植物体Aを準備する工程;(b)植物体Aと、部位特異的組換え酵素をコードする遺伝子を含有する植物体Bとを交配する工程。 工程(a)において、植物体Aを準備する手段はいかなる手段であってもよいが、例えば、非自律性トランスポゾンおよび部位特異的組換え酵素の認識部位を含むDNA断片が1つ、セントロメア領域またはその付近に導入されている染色体を含有する植物体Cと、トランスポゾンの転移酵素をコードする遺伝子を含有する植物体Dとを交配することにより、植物体Aを得ることができる。 植物体Cは、非自律性トランスポゾンおよび部位特異的組換え酵素の認識部位を含むDNA断片が1つ、セントロメア領域内またはその付近に導入されている染色体を含有するものである。非自律性トランスポゾンとは、それ自体のみでは細胞内においてDNA上を転移できずトランスポゾンとしての活性を有していないが、転移酵素が加わることにより転移が可能となりトランスポゾンとしての活性を発揮し得る配列を意味する。植物体Cの染色体上に導入されているDNA断片は、部位特異的組換え酵素の認識部位を2つ有することが好ましく、非自律性トランスポゾンにより転移可能な領域内に一方の部位特異的組換え酵素の認識部位が導入されており、非自律性トランスポゾンにより転移可能な領域とは異なる位置に他方の部位特異的組換え酵素の認識部位が導入されていることが好ましい。植物体Cは、アグロバクテリウムを用いた公知の手法を用いて、上記DNA断片により植物体を形質転換して得ることが可能である。かかる植物体Cとしては、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のエコタイプColumbia系統に由来するWiscDsLox T-DNA株のうちの、CS859268などが例示される。CS859268は、アグロバクテリウムを用いた形質転換により上記DNA断片がT-DNAとしてセントロメア領域内に挿入されている。T-DNAには非自律性トランスポゾンとしてDs、部位特異的組換え酵素の認識部位としてLoxP配列、CaMVウイルスのプロモータ、Basta耐性遺伝子(BAR)等が含まれている(図1)。CS85926は、Arabidopsis Biological Resource Center of Ohio(ABRC)から譲り受けることができる。 植物体Dは、トランスポゾンの転移酵素をコードする遺伝子を含有する。トランスポゾンの転移酵素をコードする遺伝子は、植物体Cに含有される非自律性トランスポゾンを転移させる機能を有する酵素をコードする遺伝子であればいかなるものであってもよい。例えば、植物体Cにおける非自律性トランスポゾンがDs(Dissociation)である場合は、植物体Dにおけるトランスポゾンの転移酵素をコードする遺伝子としては、Ac(Activator)の転移酵素(AcTPase)をコードする遺伝子が挙げられる。Ac(Activator)の転移酵素としては、Acそのものであってもよいし、転移に必要な末端反復配列を欠失しているAcであってもよい。植物体Dは、いかなる手法により得てもよいが、植物体Dの具体例としてはシロイヌナズナ AcRLC-62またはAcRLC-63(Columbia)が例示される。 植物体Cと植物体Dを交配することにより、植物体D由来のAc転移酵素(AcTPase)が発現し、植物体Cにおける前記DNA断片上の非自律性トランスポゾンが任意の位置に転移する。すなわち、部位特異的組換え酵素の認識部位を1つ含む領域が、染色体上の任意の位置に転移する。交配は公知の手法により行うことができる。例えば、植物体Cの雌しべに植物体Dの花粉をかけて種子を得(その逆でもよい)、得られた種子を発芽・生育させて自殖させ、自殖させて得られた個体から目的の植物体Aを選択すればよい。 植物体Aの選択は、いかなる方法で行ってもよい。非自律性トランスポゾンが転移した個体を選択するためには、例えば、植物体CのDNA断片上に導入されているマーカータンパク質をコードする遺伝子やレポーター遺伝子を利用することができる。マーカータンパク質をコードする遺伝子としては薬剤耐性遺伝子(例えば、Basta耐性遺伝子や、ハイグロマイシン耐性遺伝子)が例示される。また、非自律性トランスポゾンが転移した箇所を確認するためには、TAIL-PCR法やFISH法を用いればよい。例えば、非自律性トランスポゾンが同じ染色体上の別の位置(例えば長腕上や短腕上)に転移した個体を、植物体Aとして選択すればよい。 植物体Aは、2つの部位特異的組換え酵素の認識部位がセントロメア領域の全長または部分を挟んだ位置に、順方向で、導入されている染色体を含有するものである。順方向とは、2つの部位特異的組換え酵素の認識部位について、染色体の一本のDNA鎖上において、5'末端から3'末端の方向に同一の塩基配列が存在していることを意味する。例えば、部位特異的組換え酵素の認識部位がLoxP配列である場合、図11に示すとおり、LoxP配列中の一部の塩基配列(AGCATACATT(配列番号31)または配列番号31の塩基配列に相補的な配列)が、順方向と逆方向では異なる。2つのLoxP配列内の当該一部の塩基配列が5'末端から3'末端の方向に同一である場合に、一本のDNA鎖上に存在する2つのLoxP配列が順方向の関係であるということができる。なお、図11中、IRとはInverted Repeatのことであり、逆向きの反復配列を示す。 植物体Aの染色体は、(i)一方の部位特異的組換え酵素の認識部位がセントロメア領域に導入されており、他方の部位特異的組換え酵素の認識部位がセントロメア領域とは異なる位置に導入されていることにより、2つの部位特異的組換え酵素の認識部位がセントロメア領域の部分を挟んだ位置に導入されている場合、(ii)2つの部位特異的組換え酵素の認識部位がセントロメア領域に導入され、2つの部位特異的組換え酵素の認識部位によりセントロメア領域の部分が挟まれている場合、(iii)2つの部位特異的組換え酵素の認識部位がセントロメア領域とは異なる位置に導入され(一方が短腕、他方が長腕に導入され)、2つの部位特異的組換え酵素の認識部位によりセントロメア領域の全長が挟まれている場合、が例示される。本発明における植物体Aは好ましくは(i)の場合の染色体を含有することが好ましい。植物体Aはいかなる手法により得てもよいが、例えば植物体Cと植物体Dを交配して得ることができ、具体的には実施例に示す10Fと称される個体が例示される。 また植物体Aにおける2つの部位特異的組換え酵素の認識部位の距離は、0.5Mb〜10Mbであることが好ましく、1〜6Mbであることがより好ましい。部位特異的組換え酵素の認識部位の一例であるLoxp配列は、従来植物では数十〜数百kb程度の短い塩基配列間での組換えが可能であると考えられていたが、1〜6Mbといった長い塩基配列の間でも組換えが可能であることがわかった。 また(i)の場合、セントロメア領域とは異なる位置に導入されている部位特異的組換え酵素の認識部位は、染色体の短腕上、長腕上のいずれに導入されていてもよいが、長腕上に導入されていることが好ましい。部位特異的組換え酵素の認識部位の、染色体の長腕上における位置は、部位特異的組換え酵素により組換えが可能な距離に依存するが、例えばセントロメア領域の長腕側の末端より約0〜5Mb離れた位置が例示される。例えば、シロイヌナズナの第2番染色体においては、遺伝子At2g14620上に部位特異的組み換え酵素の認識部位が含まれている場合などが例示される。またセントロメア領域に導入されている部位特異的組換え酵素の認識部位は、セントロメア領域の長腕側の末端より、約200kb〜1000kbの位置に導入されていることが好ましい。 植物体Bは、部位特異的組換え酵素をコードする遺伝子を含有する。部位特異的組換え酵素をコードする遺伝子は、植物体Aに含有される部位特異的組換え酵素の認識部位を認識し、特異的に組み換えを起こし得る酵素をコードするものであれば、いかなるものであってもよい。植物体Bはいかなる手法により得てもよいが、具体的にはエコタイプC24においてCa35Sプロモーターの下流にCreの遺伝子を組み込んだCre1やCre13等の個体が例示される。 植物体Aと植物体Bを交配することにより、植物体B由来の部位特異的組換え酵素が発現し、植物体Aにおける部位特異的組換え酵素の認識部位を認識し、特異的に組換えが起こる。部位特異的組換え酵素は2つの部位特異的組換え酵素の認識部位同士の間で組換えを起こすが、植物体Aにおいては部位特異的組換え酵素の認識部位が順方向に導入されているため、部位特異的組換え酵素の認識部位に挟まれたDNAが切り出されて、環状DNAを生じる(図1)。かかる環状DNAが植物環状人工染色体である。交配は公知の手法により行うことができる。例えば、植物体Aの雌しべに植物体Bの花粉をかけて(その逆でもよい)、植物環状人工染色体を含有する植物体を得ることができる。得られた植物体についてFISH法等で染色体を観察することにより、植物環状人工染色体を確認することができる。植物環状人工染色体を含有する植物体をさらに自殖して得られた個体も、植物環状人工染色体を含有する植物体である。 本発明における植物環状人工染色体は、植物体の細胞内に元来存在する染色体を操作することにより作製したものである。植物環状人工染色体を含有する植物体において、植物環状人工染色体の由来する染色体の形態は次の3種が考えられる:(a)野生型の染色体(部位特異的組換え酵素の認識部位が存在せず、欠失もない)、(b)欠失はなく、2つの部位特異的組換え酵素の認識部位が、セントロメア領域とセントロメア領域以外の部分とに離れて存在する染色体、(c)植物環状人工染色体に相当する部分が欠失した染色体。植物環状人工染色体を含有する植物体の染色体構成は、例えば2倍体で染色体が存在する場合、(a)〜(c)から選択される2つの染色体の組み合わせに、植物環状人工染色体が添加された染色体構成を有するものであり、6種の組み合わせがある。本発明の植物環状人工染色体を含有する植物体は、(a)野生型の染色体2本の組み合わせに、植物環状人工染色体が添加された染色体構成を持つことが好ましい。 以下に、本発明について実施例により説明するが、本発明は実施例の記載に限定されないことはいうまでもない。 なお、図1に実施例1および実施例2の説明図を掲載する。図1において、植物体Cと植物体Dとの交配ステップは実施例1に該当し、植物体Aと植物体Bとの交配ステップは実施例2に該当する。図1中、LBはT-DNAの左側境界領域であり、RBはT-DNAの右側境界領域、P35SはCaMV(カリフラワーモザイクウイルス)由来の35Sプロモーター、PMASはマンノピン合成酵素プロモーター、BARはBasta耐性遺伝子、Terはターミネータ(転写終結領域)、LUCはルシフェラーゼ遺伝子、HYGはハイグロマイシン耐性遺伝子、CENはセントロメア領域を意味する。(実施例1)植物体Aの作製(1)植物体Cの選択 シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)のエコタイプColumbiaに由来するWiscDsLox T-DNA挿入系統を、Arabidopsis Biological Resource Center of Ohio(ABRC、米国オハイオ州)より譲り受けた。WiscDsLox T-DNA挿入系統は、P. J. KrynstとS. Austin-Philipsにより作製されたものであり(Woody ST, Austin-Phillips S, Amasino RM, & Krysan PJ (2007), J. Plant Res. 120(1):157-165)、10459個のT-DNA挿入変異体であり、それぞれのT-DNAの挿入位置周辺の塩基配列がデータベース上で公開されている。WiscDsLox T-DNA挿入系統におけるT-DNAは、2つのLoxP配列を有し、その1つがDs内に配置されている。Ds内にLoxPを1つ有する部分を、以下「Ds-LoxP-Ds」と称する。 WiscDsLox T-DNA挿入系統から、データベースを検索して、セントロメア領域もしくはその付近にT-DNAが挿入されている個体を選択した。検索に使用した塩基配列は、180bp配列(pAtMr1、GenBank Accession No. S73532など)であり、TAIR-Blastにより、A. thaliana Insertion Flanks DNAデータベース(http://www.arabidopsis.org/Blast/index.jsp20)をサーチした。その結果、20数系統が選抜された。これらの選抜した系統について、FISH法やPCR法などの解析した結果、ほとんどの系統では、T-DNAが2カ所以上の異なった部位に挿入されていた。また、1カ所に2コピー以上のT-DNAが挿入されているものがあった。これらの多コピー挿入系統では、以降の、Ds-LoxP-Ds転移解析が複雑化するため、一カ所に1コピーのT-DNAがセントロメア領域に挿入されているものを選抜した。その結果、CS859268(ABRCでの系統番号)(ウィスコンシン大学での番号WISCDSLOX506E08)(植物体C)を選抜した。 WiscDsLox T-DNA挿入系統の種子(Basta耐性を有する)を、50μg/ml Basta(グルホシネート)を含有するMS培地に播種した。1ヶ月生育させた芽生えを、植木鉢に移した。T-DNAの挿入部位を確認するために、さらに2週間生育させた植物からDNAを常法により抽出し、PCR法に用いた。また、WiscDsLox T-DNA挿入系統におけるT-DNA挿入部位を確認するために、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH法)、fiber-FISH法を行った。FISH法はMurata M, Heslop-Harrison JS, & Motoyoshi F (1997), Plant J 12(1):31-37に記載の方法に従って行った。T-DNAプローブpDsLox (GenBank: AY836546)のDNA配列より設計したプライマーセットを用いて、PCRによりDNAを増幅した。 T-DNAの挿入場所を確認するPCRに使用したプライマーは以下の通りである: ATH180F: GATCAAGTCATATTCGACTC(配列番号3) ATH180-R: GTTGTCATGTGTATGATTGA(配列番号4) RTB1:AGCGCGCAAACTAGGATAAA(配列番号5) ATH180F、ATH180-Rは、セントロメア反復配列(180bp)の塩基配列をもとに設計された(Shibata and Murata (2004) Journal of Cell Science 117:2963-2970)。RTB1は、T-DNAのRight Border(RB)領域の塩基配列をもとに設計された。 結果を図2に示す。図中、Mのレーンはサイズマーカー、1のレーンは野生株(WT)のColumbia株から抽出したDAN、2のレーンはCS859268から抽出したDNAを泳動した。プライマーはATH180FとRTB1を使用した。コントロールの野生型にはバンドが生じず、CS859268にのみバンドが出現した。その結果セントロメア反復配列の縦列した配列内に、T-DNAが挿入されていることがわかった。一般的には、RBとLBに挟まれたT-DNAが植物のゲノム(染色体)DNAに挿入される。 なお、増幅したDNAは、 Nick Translation KitもしくはDIG High Prime Labeling Kit (Roche)を用いて、ビオチン-16-dUTP、ジゴキシゲニン-11-dUTPもしくはフルオレセイン-12-dUTPにより標識した。ビオチン-16-dUTPで標識したDNAプローブは、ストレプトアビジン−ローダミンまたはストレプトアビジン−Cy3で、ジゴキシゲニン-11-dUTPは抗ジゴキシゲニン-FITCで、検出した。検出は、蛍光顕微鏡に取り付けられたCCDカメラ(AxioCam)で行い、ソフトウエア(AxioVisionとPhotoshop)により疑似カラー化された。 CS859268が第2番染色体のセントロメア領域内に単一コピーのT-DNAが挿入された系統であることが確認された。シロイヌナズナCS859268系統の体細胞前中期染色体の写真を、図3に示す。aは、セントロメア領域の反復配列180bp(緑色:フルオレセイン)とT-DNA(ピンク色:Cy3またはローダミン)をプローブとしたFISH法による写真であり、bは18SrDNA(赤色:Cy3またはローダミン)と5SrDNA(緑色:FITC)をプローブとしたFISH法の写真である。染色体はDAPIで染色した。矢印は、T-DNAが挿入された第2番染色体を示している。またfiber-FISH法により、CS859268では、第2番染色体の長腕側約250kbのセントロメア領域内にT-DNAが逆向きに挿入されていることがわかった。(2)植物体Cと植物体Dの交配 CS859268(植物体C)と、Ac転移酵素を発現するAcRLC-62またはAcRLC-63(Columbia)(植物体D)を交配して、植物体を得た。Ac転移酵素を発現するAcRLC-62、AcRLC-63の種子は、N. Fedoroffにより作製されたものであり(Zhang S, et al. (2003), Plant Mol. Biol. 53(1-2):133-150)、P. J. Krynstより譲り受けた。CS859268は、Basta耐性遺伝子を有しており、AcRLC-62またはAcRLC-65は、カナマイシン耐性遺伝子を有している。交配して得られた種子を、トランスポゾンによりDs-LoxP-Dsが転移した個体を選択するために、ハイグロマイシン含有培地で生育させた。Ds-Lox-Dsが他の箇所に転移した結果、35Sプロモーターの下流にハイグロマイシン耐性遺伝子が配置されるようになる。その結果トランスポゾンにより、第2番染色体の短腕もしくは長腕にDs-LoxP-Dsが転移した4個体を単離した(図4:10B、10F、14D、H003(H003はその後枯死))。 さらにTAIL-PCR法とInverse-PCR法により、4個体についてDs-LoxP-Dsの転移位置を特定した。TAIL-PCR法は、Liu YG, Mitsukawa N, Oosumi T, & Whittier RF (1995), Plant J. 8(3):457-463に報告された手順に従って行った。TAIL-PCR法において用いたNestedプライマーと、任意的な縮重プライマー(arbitrary degenerated primer)は以下のとおりである:Nestプライマー(5'→3') Ds1-I:AAGGAAATTGTCGTGAACGGTGA(配列番号6) Ds1-II:GGTGTAACGGTCGGGAAACTAGC(配列番号7) Ds1-III:GGTTCGAAATCGATCGGGATAAA(配列番号8) Ds2-I:CGGATCGTATCGGTTTTCGATTA(配列番号9) Ds2-II:ACCGGTATATCCCGTTTTCGTTT(配列番号10) Ds2-III:TACCGACTGTTACCGACCGTTTT(配列番号11)任意縮重(アービタリー)プライマー AD7(AD1-2): NTCGASTWTSGWGTT(配列番号12) AD17:TCNGSATWTGSWTGT(配列番号13) AD2-1:NGTCGASWGANAWGAA(配列番号14) AD1-1:TGWGNAGSANCASAGA(配列番号15) AD2-2:AGWGNAGWANCAWAGG(配列番号16) AD5:STTGNTASTNCTNTGC(配列番号17) AD3:WGTGNAGWANCANAGA(配列番号18) なおInverse-PCR法は、Ochman H, Gerber AS, Hartl DL.(1988)Genetic applications of an inverse polymerase chain reaction. Genetics 120:621-623.に準じて行った。概略を以下に示す。 制限酵素MspIで切断した後、ライゲーイション処理を行う。断片自身で接合した(self ligate)分子を5'側のプライマーセットDs-ivs5-1; ATCGGTTATACGATAACGGTCGGTACG(配列番号19)及び Ds-ivs5-2; CGGAACGGAAACGGGATATACAAAACG(配列番号20)でPCRして増幅させ、続いて、Ds1(5'): GTACGGGATTTTCCCATCCT(配列番号21)とDs-ivs5-2でnested PCR法により増幅した。 その結果、Ds中のLoxPと、T-DNA中のもう一つのLoxPが順方向に導入されているものが10Fのみであることを確認した。10Fでは、セントロメア領域中のLoxP配列が長腕側の末端から250kbに存在しており、当該LoxP配列ともう一方の長腕上に存在するLoxP配列との距離が2.85Mbであることがわかった。なお図4中、NORとは仁形成領域であり、CEN2とは第2番染色体のセントロメア領域を意味する。(実施例2)植物環状人工染色体を含有する植物体の作製 実施例1において得られた個体10F(植物体A)と、Creを発現する個体C24(Cre1とCre13)(植物体B)とを交配して、F1個体を得た。Cre1とCre13の種子はA. Depicker氏より譲り受けた(Marjanac, G., De Paepe, A., Peck, I., Jacobs, A., De Buck, S. and Depicker, A. (2008) Evaluation of CRE-mediated excision approaches in Arabidopsis thaliana. Transgenic Res., 17, 239-250.)。 得られた28個体のF1個体について、PCR法で調べたところ5個体(No. 11, 17, 21, 24, 26)に環状人工染色体の創出が認められた。さらに、FISH法により染色体を観察したところ、2個体の体細胞(約5%)に環状人工染色体が確認された。 環状人工染色体の確認のためのPCRに使用したプライマーは以下の通りである。各プライマーの位置を図5に示す。 Ca35S:CGCACAATCCCACTATCC(配列番号22) DL-F1:TGTAAACAAATTGACGCTTAGACAA(配列番号23) DL-R1:GCCAATATATCCTGTCAAACACTG(配列番号24) DL-F2:TAAGGAAGTTCATTTCATTTGGAGA(配列番号25) DL-R2:GGTGAGTTCAGGCTTTTTCATATCT(配列番号26) DL-F3:AATCAGTGCATCTCCTTACAAGTTC(配列番号27) DL-R3:AATGTTCATACTGTTGAGCAATTCA(配列番号28) HYG-F2:GAATTCAGCGAGAGCCTGAC(配列番号29) HYG-R2:GAGCGAGCTTAGCGAACTGT(配列番号30) 図6に、F1個体における環状人工染色体(以下、「AtARC1」と称することもある。)の写真を示す。aは反復配列180bp(ピンク色:Cy3)をプローブとした体細胞前中期染色体のFISH法による写真であり、bは同じ細胞の18SrDNA(青緑色:FITC)と5SrDNA(ピンク色:ローダミン)をプローブとしたFISH法による写真である。環状人工染色体を矢印で示す。Inverse-PCR法(実施例1と同様の手法)により確認されたLoxP配列の位置から、環状人工染色体の大きさは、2.85Mbであることが推定された。 F1個体における環状人工染色体に含まれるシロイヌナズナ染色体由来の塩基配列を、Inverse-PCR法(実施例1と同様の手法)により確認した。その結果、F1個体における環状人工染色体には、DS-LoxP-Dsの挿入位置から推定すると、第2番染色体のT14C8クローンからT6B13クローンの間の塩基配列であり(図7、AGIマップに示されるポジション3608930〜6245290の塩基配列:http://www.arabidopsis.org/servlets/mapper?chr=2)、長腕由来のDNAが含まれることがわかった。 また、F1個体について環状人工染色体上のセントロメア特異的ヒストンH3(CENH3(別名HTR12))の検出を行った。公知の蛍光免疫染色法により、抗HTR抗体と、抗ウサギ−ローダミン抗体(赤色)を用いて検出を行った。図8のbに抗HTR抗体を用いて検出を行った結果を示す。図8のaは、蛍光免疫染色法によりHTR12のシグナルを検出した後、ジゴキシゲニンで標識したセントロメア特異的180-bp(DNA)(180bp繰り返し配列)をプローブとして用い、FISH法を行った結果を示す。180-bpは、抗ジゴキシゲニン-FITC(緑色)で検出を行った。図8a中、矢印は環状人工染色体を示す。図8b中の白線は5μmを示す。その結果、F1個体の環状人工染色体上には、HTR12が存在していることがわかった。(実施例3)植物環状人工染色体の次代への伝達の確認 実施例2において得られた、植物環状人工染色体を含有するF1個体の5個体(PCRで確認された個体)を自殖させて、F2個体を得た(図9)。約1000に及ぶF2個体を、PCRによって調べ、Cre遺伝子が伝達されてなく、環状人工染色体が確認できるものを探した。これはCre遺伝子が存在すると、その世代で組換えが起き、新たな環状染色体ができる可能性があり、伝達を調査できないこと、また、環状人工染色体がもとの染色体にLoxP配列を介して組み込まれてしまう可能性があるためである。その結果、3個体(No.21-231、21-531、24-414)には、Cre遺伝子が含まれず、環状人工染色体が存在していることが示された。これらのF2個体について、FISH法により環状人工染色体の存在を確認調査したところ、F2個体のすべての植物において調べた体細胞の95%以上において環状人工染色体の存在が確認された。このことから、最初のF1個体では、Creリコンビナーゼの効率によって、体細胞の5%程度しか環状人工染色体は確認できなかったが、次代、または次次代に、環状人工染色体が一度伝達するとその個体では、環状人工染色体が安定に保持されることがわかった。 No.21-231個体について、野生型のコロンビアと正逆交雑を行い、環状人工染色体の伝達率を調べたところ、雌性側からの伝達率が約10%。花粉側からの伝達が約80%であることがわかった。これらの伝達率は、親の染色体構成(特に第2番染色体と環状人工染色体)によって、予測された(図10)。 また、No.21-531、24-414個体について、自殖させて個体を得た。これらの個体についてPCR法とFISH法を行った結果、全ての個体が環状人工染色体を持つことがわかり、No.21-531、24-414個体の染色体構成が明らかとなった。 なお、図10aは野生型と植物環状人工染色体を含む植物体3種の第2染色体の構成を表し、図10bは野生型とNo.21-231を交配して得た世代の第2染色体の構成を表し(この場合、環状人工染色体が伝達されない場合もあるが図示していない)、図10cはNo.21-531とNo.24-414を自殖させて得た世代の第2染色体の構成を表す(この場合、環状人工染色体は100%伝達される)。 人工染色体の確認のためのPCR法には、プライマーセットDL-F2、DL-R3(実施例2参照)を用いた。条件は以下のとおりである: 94℃ 5分、94℃ 30秒→55℃ 30秒→72℃ 1分を30サイクル、72℃ 7分。 また染色体構成の確認のためのPCR法では、野生型第2染色体の確認には、Ef1(CACAAGCTTCCGTTGTTTCA:配列番号34)とE3r(TCAATCTCATCCCGGTTAGG:配列番号35)のプライマーセットを用いた(推定増幅断片は407bp)。欠失はなく、2つの部位特異的組換え酵素の認識部位が、セントロメア領域とセントロメア領域以外の部分とに離れて存在する第2染色体(個体10F由来)の確認にはEf1とDs2-1(実施例2参照)のプライマーセットを用いた(推定増幅断片は370bp)、植物環状人工染色体に相当する部分が欠失した染色体の確認には、DL-F3とHyg-R2のプライマーセット(実施例2参照)を用いた(推定増幅断片は1422bp)。また、環状人工染色体の確認にはCa35SとDL-R3のプライマーセット(実施例2参照)を用いた(推定増幅断片は548bp)。 以上詳述したように、本発明の植物環状人工染色体を含有する植物体においては、植物環状人工染色体を有糸分裂中も維持することができ、減数分裂を経て次代に伝達させることが可能である。さらに本発明における植物環状人工染色体には、部位特異的組換え酵素の認識部位が含まれているため、所望の外来遺伝子を組換えを利用することにより挿入することができる。また本発明における植物環状人工染色体においては、テロメア領域を使用しないため、ベクターとして安定である。 また本発明の植物体を作製する方法では、部位特異的組換え酵素および当該酵素の認識部位を用いた遺伝子組み換えシステムを用いることにより、効率的に環状人工染色体を作り出すことができる。 本発明における植物環状人工染色体を所望の外来遺伝子のベクターとして使用することにより、所望の特性を持った植物品種を改良することや、本発明の植物環状人工染色体を含有する培養細胞を用いて創薬等の開発を進めることが可能となると考えられる。0.5 Mb〜20 Mbの長さである植物環状人工染色体を含有する、単子葉植物または双子葉植物である植物体であって、植物環状人工染色体が、植物染色体由来の、200kbより長いセントロメア領域の全長または部分を含み、セントロメア領域とは異なる位置に少なくとも1つのLoxP配列を含む、植物体。植物環状人工染色体が、2倍体の植物体に追加されてなる、請求項1に記載の植物体。植物環状人工染色体に含まれるセントロメア領域の部分が、1000kb以下である、請求項1または2に記載の植物体。植物環状人工染色体のセントロメア領域以外が、植物染色体の長腕由来である、請求項1〜3のいずれか1に記載の植物体。植物体がシロイヌナズナであり、植物環状人工染色体がシロイヌナズナの第2番染色体由来である、請求項4に記載の植物体。植物染色体由来の、200kbより長いセントロメア領域の全長または部分、および、セントロメア領域とは異なる位置に少なくとも1つのLoxP配列を含む、0.5 Mb〜20 Mbの長さの植物環状人工染色体。請求項1〜5のいずれか1に記載された植物体由来であって、植物環状人工染色体を含有する培養細胞。以下の工程を含む、請求項1〜5のいずれか1に記載の植物体を作製する方法であって:(a)LoxP配列を2つ有し、非自律性トランスポゾンDsにより転移可能な領域内に一方のLoxP配列が導入されており、非自律性トランスポゾンDsにより転移可能な領域とは異なる位置に他方のLoxP配列が導入されたDNA断片が1つ、セントロメア領域に導入されている染色体を含有する植物体Cと、非自律性トランスポゾンの転移酵素であるAc転移酵素をコードする遺伝子を含有する植物体Dとを交配することにより、2つのLoxP配列がセントロメア領域の全長または部分を挟んだ位置に、0.5 Mb〜10 Mbの距離で順方向で導入されている染色体を含有する植物体Aを準備する工程;(b)植物体Aと、Cre酵素をコードする遺伝子を含有する植物体Bとを交配する工程;工程(a)および(b)における植物体A〜Dが2倍体の染色体を持つ植物体である、植物体を作製する方法。植物体A〜Dが2倍体である、請求項8に記載の植物体を作製する方法。植物体Aの染色体において、一方のLoxP配列がセントロメア領域に導入されており、他方のLoxP配列がセントロメア領域とは異なる位置に導入されていることにより、2つのLoxP配列がセントロメア領域の部分を挟んだ位置に導入されている、請求項8または9に記載の植物体を作製する方法。植物体Aの染色体において、セントロメア領域とは異なる位置に導入されているLoxP配列が、染色体の長腕に導入されている、請求項8〜10のいずれか1に記載の植物体を作製する方法。植物体A〜Dがシロイヌナズナであり、植物体Aにおいて2つのLoxP配列が、第2番染色体に含まれており、作製された植物体に含有される植物環状人工染色体が第2番染色体由来である、請求項8〜11のいずれか1に記載の植物体を作製する方法。配列表


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