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タイトル:特許公報(B2)_リソソーム病治療用医薬組成物
出願番号:2013512476
年次:2015
IPC分類:A61K 38/46,A61P 3/00


特許情報キャッシュ

大薗 恵一 大友 孝信 酒井 規夫 JP 5665065 特許公報(B2) 20141219 2013512476 20120427 リソソーム病治療用医薬組成物 国立大学法人大阪大学 504176911 田中 光雄 100081422 山崎 宏 100084146 冨田 憲史 100122301 笹倉 真奈美 100170520 大薗 恵一 大友 孝信 酒井 規夫 JP 2011101560 20110428 20150204 A61K 38/46 20060101AFI20150115BHJP A61P 3/00 20060101ALI20150115BHJP JPA61K37/54A61P3/00 A61K 38/46 A61P 25/00 A61P 3/00 CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) 特表2005−516594(JP,A) 特表2007−513188(JP,A) 国際公開第2011/000958(WO,A1) 特開2002−369692(JP,A) 特表2008−507300(JP,A) Life Sciences,1972年,Vol.11,No.22,p.1101-1107 10 JP2012061405 20120427 WO2012147933 20121101 24 20131024 山村 祥子 本発明は、リソソーム病治療用医薬組成物に関する。 リソソームは、細胞内小器官の1つであり、リソソーム内に存在するリソソーム酵素の働きにより細胞内の様々な物質(異物や不要物等)を分解している。リソソーム酵素は、50種類以上あると言われ、酸性環境に最適pHを有する。遺伝的欠陥によりリソソーム酵素が欠損すると、細胞内に基質が蓄積し、一連のリソソーム病を引き起こす。このような先天性のリソソーム病は、現在40種類以上知られているが、根本的な治療法は見出されていない。 リソソーム病は、欠損した酵素を補うことによって治療され、酵素補充療法、骨髄移植および遺伝子治療が試みられている。今までに多くのリソソーム酵素が同定され、リソソーム病と関連付けられている。 酵素補充療法のために、特定の一種類のリソソーム酵素を強発現する細胞株を用いて生産した組み換え酵素が開発されており、現在までに、このような単一の組み換えリソソーム酵素を用いた7種類の酵素製剤、すなわち、ゴーシェ病治療剤セレザイム(登録商標)(イミグルセラーゼ組み換え酵素製剤)、ファブリー病治療剤ファブラザイム(登録商標)(アガルシダーゼベータ組み換え酵素製剤)、ファブリー病治療剤リプレガル(登録商標)(アガルシダーゼアルファ組み換え酵素製剤)、ムコ多糖症I型治療剤アウドラザイム(登録商標)(ラロニダーゼ組み換え酵素製剤)、ムコ多糖症II型治療剤マイオザイム(登録商標)(アルグルコシダーゼアルファ組み換え酵素製剤)、ムコ多糖症II型治療剤エラプレース(登録商標)(イデュルスルファーゼ組み換え酵素製剤)、およびムコ多糖症VI型治療剤ナグラザイム(登録商標)(ガルスルファーゼ組み換え酵素製剤)が販売されている。 しかしながら、いずれも、単一のリソソーム酵素の欠損が原因のリソソーム病の治療を目的としており、複数のリソソーム酵素が欠損しているリソソーム病に対して有効ではない。さらに、現在販売されている上記治療剤は非常に高価であり、安価な治療剤の開発が求められる。 細胞内で合成されたリソソーム酵素は、マンノース6リン酸残基を付加されることにより、マンノース6リン酸受容体を介してリソソームに輸送されることが知られている。 この事実に基づき、リソソーム病の酵素補充療法において欠損酵素を効果的にリソソーム中に送達させるために、高リン酸化されたリソソーム酵素を得る研究が進められている。例えば、単離したリソソーム酵素をマンノース6リン酸残基で修飾する方法や(特許文献1参照)、特殊な細胞系を用いて高リン酸化された組み換えリソソーム酵素を作製する方法(特許文献2参照)が報告されている。しかしながら、これらの技術では、多種類のリソソーム酵素を一度に且つ安価に製造することは難しい。 複数のリソソーム酵素が欠損しているリソソーム病の例として、ムコリピドーシスII型(以下、「ML−II」という)およびその軽症型であるムコリピドーシスIII型(以下、「ML−III」という)が挙げられる。これらのリソソーム病は、細胞内で合成されたリソソーム酵素にマンノース6リン酸残基を付加する酵素GlcNAc−ホスホトランスフェラーゼの異常が原因の疾患である。ML−IIおよびML−IIIでは、GlcNAc−ホスホトランスフェラーゼの異常により、細胞内で合成されたリソソーム酵素にマンノース6リン酸残基が付加されないため、リソソーム酵素がマンノース6リン酸受容体に認識されず、リソソームへ運搬されない。そのため、ML−IIおよびML−III患者は、リソソーム中においてリソソーム酵素のほとんど全てが欠損している。 したがって、ML−IIおよびML−IIIの治療には、上記したような単一酵素製剤の投与では効果がなく、理論上、欠損したリソソーム酵素の全てを補充する必要があると考えられる。しかしながら、ML−IIおよびML−IIIにおいて欠損した50種類以上もの酵素の全てを個々に単離・精製することは非常に困難である。また、上記したような組み換えリソソーム酵素製剤は非常に高価なので、このような高価な酵素製剤を数十種類用いることは、経済的にも困難である。 このような情況から、ML−IIおよびML−IIIのようなリソソーム病には、従来の単一組み換えリソソーム酵素を用いた酵素製剤は適用できず、新たな有用な治療剤が求められている。特表2003−509043号特表2007−523648号 本発明は、複数のリソソーム酵素の欠損に起因するリソソーム病の治療に有効な、複数のリソソーム酵素を含む医薬組成物を簡単に、しかも安価に提供することを目的とする。 本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、リソソーム病に罹患していない対象由来の細胞に塩化アンモニウム等の特定の試薬を添加して培養し、培養上清を回収し、精製することにより、多種類のリソソーム酵素をマンノース6リン酸残基で修飾された状態で、一度に得ることができることを見出した。また、得られた多種類のリソソーム酵素がリソソーム病の治療剤として利用できることを見出し、本発明を完成するに至った。 すなわち、本願発明は、(1)細胞を培養して得られたリソソーム酵素群を有効成分として含むリソソーム病治療用医薬組成物、(2)細胞がリソソーム酵素にマンノース6リン酸残基を付加する機能を有する細胞である、上記(1)記載の医薬組成物、(3)細胞がリソソーム病に罹患していない対象由来の細胞である、上記(1)記載の医薬組成物、(4)リソソーム酵素群が下記工程: 細胞に、両親媒性アミン、リソソーム指向性アミン、イオノフォア、およびV−ATPase阻害薬からなる群より選択される1または複数の試薬を添加して培養し、 培養上清を回収し、 得られた培養上清を精製および/または濃縮する、ことを含む方法により得られたものである、上記(1)〜(3)のいずれか1つに記載の医薬組成物、(5)試薬が、塩化アンモニウム、クロロキン、モネンシン、ニゲリシン、およびバフィロマイシンA1からなる群より選択される、上記(4)記載の医薬組成物、(6)細胞が正常皮膚線維芽細胞、COS−1細胞、NIH3T3細胞、HEK293細胞、HeLa細胞およびCHO細胞からなる群より選択されるものである、上記(1)〜(5)のいずれか1つに記載の医薬組成物、(7)リソソーム酵素が組み換え酵素ではない、上記(1)〜(6)のいずれか1つに記載の医薬組成物、(8)リソソーム酵素群がマンノース6リン酸残基を有するリソソーム酵素を含むものである、上記(1)〜(7)のいずれか1つに記載の医薬組成物、および(9)ムコリピドーシスII型またはIII型の治療用である、上記(1)〜(8)のいずれか1つに記載の医薬組成物を提供する。 さらなる態様として、本発明は、細胞に、両親媒性アミン、リソソーム指向性アミン、イオノフォア、およびV−ATPase阻害薬からなる群より選択される試薬を添加して培養し、培養上清を回収することを含む、リソソーム酵素群の調製方法を提供する。 また別の態様として、本発明は、リソソーム病の治療のための、細胞を培養して得られたリソソーム酵素群の使用を提供する。 また別の態様として、本発明は、細胞を培養して得られたリソソーム酵素群を患者に投与することを含む、リソソーム病の治療方法を提供する。 また別の態様として、本発明は、リソソーム病治療用医薬組成物の製造のための、細胞を培養して得られたリソソーム酵素群の使用を提供する。 本願発明によれば、複数のリソソーム酵素の欠損または活性低下に起因するリソソーム病の治療に有効な、複数のリソソーム酵素を含む医薬組成物を簡単に、しかも安価に提供することができる。細胞培養上清中の各リソソーム酵素の活性を示すグラフである。各酵素活性は、正常細胞の培養上清中の酵素活性に対する比率(倍)で表す。「Normal」は正常細胞培養上清、「Normal+NH4Cl」は塩化アンモニウムを添加した正常細胞培養上清、「ML−II」はML−II患者由来細胞の培養上清を示す。細胞内のリソソーム酵素活性を示すグラフである。「Normal」は正常細胞、「ML−II」はML−II患者由来細胞、「ML−II+tERT」は全酵素補充療法(total enzyme replacement therapy)(以下、tERTという)で処理したML−II患者由来細胞を示す。酵素活性の単位は、「nmol/h/mg protein」である。リソソーム酵素の経時的な細胞内取り込みを示すグラフである。酵素活性の単位は、「nmol/h/mg protein」である。横軸は、リソソーム酵素添加前および添加後の日数を示す。左縦軸は、α−マンノシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルクロニダーゼ、およびガラクトセレブロシダーゼの酵素活性を示す。右縦軸は、総β−へキソサミニダーゼ、およびβ−ヘキソサミニダーゼAの酵素活性を示す。リソソーム酵素とマンノース6リン酸との競合阻害試験の結果を示すグラフである。酵素活性の単位は、「nmol/h/mg protein」である。リソソーム酵素とマンノース6リン酸との競合阻害試験の結果を示すグラフである。酵素活性の単位は、「nmol/h/mg protein」である。リソソーム酵素の細胞内分布を示す蛍光顕微鏡写真である。「Lamp−2」はリソソームマーカーを示す。「Merge」は、カテプシンBとLamp−2の画像を重ねた画像である。「ML−II+tERT」は、tERT処理したML−II患者由来細胞を示す。リソソーム酵素の細胞内分布を示す蛍光顕微鏡写真である。「Lamp−2」はリソソームマーカーを示す。「Merge」は、カテプシンDとLamp−2の画像を重ねた画像である。「ML−II+tERT」は、tERT処理したML−II患者由来細胞を示す。細胞中に蓄積したリン脂質(図7a)およびコレステロール量(図7b)を示す。「Normal」は正常細胞、「ML−II」はML−II患者由来細胞、「ML−II+tERT」はtERT処理したML−II患者由来細胞を示す。LC3のウェスタンブロッティングの結果を示す写真である。「Normal」は正常細胞、「Non」はtERT処理していないML−II患者由来細胞、「tERT」はtERT処理したML−II患者由来細胞を示す。LysoTracker/DAPIの蛍光強度比率を示すグラフである。ML−II患者由来細胞(「ML−II」)およびtERT処理後のML−II患者由来細胞(「ML−II+tERT」)の光学顕微鏡写真である。クラッベ病患者由来細胞およびテイ・サックス病患者由来細胞におけるtERTの効果を示すグラフである。「正常」は正常細胞、「Krabbe」はクラッベ病患者由来細胞、「Krabbe+tERT」はtERTで処理したクラッベ病患者由来細胞、「Tay−Sachs」はテイ・サックス病患者由来細胞、「Tay−Sachs+tERT」はtERTで処理したテイ・サックス病患者由来細胞を示す。酵素活性の単位は、「nmol/h/mg protein」である。 本発明において、1種類の細胞を培養してリソソーム酵素群を得てもよく、あるいは複数種類の細胞を培養してリソソーム酵素群を得てもよい。特に本発明においては、1種類の細胞を培養した場合にも、多種類のリソソーム酵素を十分に得ることができる。 本発明に用いる細胞として、好ましくは、リソソーム酵素にマンノース6リン酸残基を付加する機能を有する細胞またはリソソーム病に罹患していない対象由来の細胞が用いられる。 本発明において「マンノース6リン酸残基を付加する機能を有する細胞」としては、例えば、GlcNAc−ホスホトランスフェラーゼの異常が原因の疾患に罹患していない対象由来の細胞、および正常なGlcNAc−ホスホトランスフェラーゼを有する細胞が挙げられる。 本発明において「リソソーム病に罹患していない対象由来の細胞」とは、健康な対象由来の正常細胞、およびリソソーム病に罹患していないが他の疾病に罹患している対象由来の細胞を意味する。 該対象は、哺乳動物対象、例えば、ヒト、サル、ウシ、イヌ、ネコ、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、マーモセット、ヒツジ、ヤギ等であり、好ましくは、ヒトである。 本発明に用いる細胞としては、変異体細胞であってもよく、または変異体ではない細胞であってもよい。本発明において「変異体」には、自然変異体、および人為的な遺伝子組み換え体が包含される。変異体細胞としては、例えば、遺伝子組み換え技術によりTFEB(Science 325,473−477,2009)を導入してリソソーム酵素の発現量を増加させた細胞が挙げられる。 本発明に用いる細胞は、市販の細胞であってもよく、または、上記対象から直接採取した細胞であってもよい。または、確立された細胞株や寄託株等の公に入手可能な培養細胞であってもよい。 本発明に用いる細胞としては、限定するものではないが、例えば、皮膚、腎臓、胚、卵巣、子宮等に由来する細胞が挙げられ、好ましくは、皮膚線維芽細胞、腎線維芽細胞、胚性線維芽細胞等、さらに好ましくは、正常皮膚線維芽細胞、COS−1細胞、NIH3T3細胞、HEK293細胞、HeLa細胞、CHO細胞等、またさらに好ましくは、正常ヒト線維芽細胞が挙げられる。 本発明の医薬組成物は、有効成分として、上記培養細胞から得られたリソソーム酵素群(以下、「本発明のリソソーム酵素群」という)を含む。 本発明のリソソーム酵素群は、上記細胞を培養することにより得られる2種類以上のリソソーム酵素からなる酵素混合物であって、マンノース6リン酸残基を有するリソソーム酵素を含む。 本発明のリソソーム酵素群は、例えば、5種類以上、8種類以上、または12種類以上、好ましくは20種類以上、さらに好ましくは30種類以上、またさらに好ましくは40種類以上、最も好ましくは50種類以上のリソソーム酵素からなる。 本発明のリソソーム酵素群のリソソーム酵素は、好ましくは、組み換え酵素ではなく、野生型酵素である。本発明において「組み換え酵素」とは、遺伝子組み換え技術によって、酵素をコードする遺伝子を宿主細胞に組み込んで産生させた酵素をいう。本発明において「野生型酵素」とは、その細胞が元来有する酵素をいう。リソソーム酵素が野生型である場合、リソソーム酵素群の人体への投与がより安全となる。 本発明のリソソーム酵素群に含まれるリソソーム酵素の例としては、α−マンノシダーゼ、α−フコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼ(例えば、β−ヘキソサミニダーゼA、β−ヘキソサミニダーゼB、β−ヘキソサミニダーゼS)、β−グルクロニダーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、カテプシン(例えば、カテプシンA、カテプシンB、カテプシンC、カテプシンD、カテプシンE、カテプシンK等)、α−L−イデュロニダーゼ、アリールスルファターゼ、N−アセチルガラクトサミン−6−スルファターゼ、イズロン酸2−スルファターゼ、ヘパラン N−スルファターゼ、α−N−アセチルグルコサミニダーゼ、アセチルCoA−α−グルコサミニド N−アセチルトランスフェラーゼ、N−アセチルグルコサミン−6―スルファターゼ、ガラクトースー6−スルファターゼ、アリールスルファターゼA、BおよびC、アリールスルファターゼAセレブロシド、α−N−アセチルガラクトサミニダーゼ、α−ニューラミダーゼ(Neuramidase)、アスパルチルグルコサミニダーゼ、酸性リパーゼ、酸性セラミダーゼ、スフィンゴミエリナーゼ、パルミトイルタンパク質チオエステラーゼ、トリペプチジルペプチダーゼ、β−マンノシダーゼ、等から選ばれる2種類以上の酵素が挙げられる。 本発明のリソソーム酵素群は、好ましくは、少なくとも、α−マンノシダーゼ、α−フコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼ、β−グルクロニダーゼ、ガラクトセレブロシダーゼおよびカテプシンを含み、さらに好ましくは、少なくとも、α−マンノシダーゼ、α−フコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼA、β−ヘキソサミニダーゼB、β−グルクロニダーゼ、ガラクトセレブロシダーゼ、カテプシンBおよびカテプシンDを含む。最も好ましくは、本発明のリソソーム酵素群は、正常細胞のリソソーム中に含まれる全種類のリソソーム酵素を含む。 本発明のリソソーム酵素群は、培養した上記細胞から公知の手段・方法を用いて得ることができる。好ましくは、本発明のリソソーム酵素群は、上記細胞に塩化アンモニウム等の適当な試薬(以下、「酵素抽出用試薬」という)を添加して培養し、得られた培養上清を公知の手段・方法を用いて精製および/または濃縮することによって得ることができる。 本発明のリソソーム酵素群は、例えば、リソソーム病に罹患していない対象由来の細胞を培養し、得られた細胞から公知の手段・方法を用いて抽出することにより得ることができる。好ましくは、リソソーム病に罹患していない対象由来の細胞に、適当な酵素抽出用試薬を添加して培養し、培養上清を回収し、得られた培養上清を精製および/または濃縮する工程を含む方法によって得られる。 上記細胞培養のための培地組成、培地温度、培養時間等の培養条件は、使用する細胞の種類や量に応じて、適宜選択しうる。 細胞に添加する適当な酵素抽出用試薬としては、細胞のリソソーム中に含まれるリソソーム酵素を培養上清中に排出させることができる試薬であればいずれでもよく、例えば、塩化アンモニウム等の両親媒性アミン、クロロキン等のリソソーム指向性アミン、モネンシン(monencin)またはニゲリシン(nigericin)等のイオノフォア、バフィロマイシンA1(bafilomycin A1)等のV−ATPase阻害薬が挙げられる。1種または複数の種類の酵素抽出用試薬を細胞に添加してもよい。好ましくは、塩化アンモニウム、クロロキン、モネシン、ニゲリシン、およびバフィロマイシンA1からなる群から選択される1または複数の試薬を細胞に添加する。さらに好ましくは、塩化アンモニウム、クロロキン、およびバフィロマイシンA1からなる群から選択される1または複数の試薬を細胞に添加する。 細胞に上記のような試薬を添加して培養することにより得られたリソソーム群をリソソーム病の治療に用いる試みは、本発明が初めてである。 該酵素抽出用試薬の量は、リソソーム酵素をリソソーム中から排出させることが可能な量であれば特に限定されない。例えば塩化アンモニウムの場合、例えば、培養培地中において15mM以上、例えば、培養培地中において20mM程度の濃度で使用してもよい。例えばクロロキンの場合、例えば、培養培地中において15μM以上、例えば、培養培地中において20μM程度の濃度で使用してもよい。例えばバフィロマイシンA1の場合、例えば、培養培地中において15nM以上、例えば、培養培地中において20nM程度の濃度で使用してもよい。 該試薬の添加後、細胞を培養して培養上清を得る。該試薬の添加後の培養期間は、培養上清中に十分な量のリソソーム酵素が排出される期間であれば特に限定されないが、通常、数日間またはそれ以上、例えば、3日間、5日間、7日間、10日間、14日間、またはそれ以上の期間細胞を培養する。 培養上清の回収は、常法により行えばよく、例えば、ろ過法および遠心分離法が挙げられる。培養上清を回収後、精製により、酵素抽出用試薬および不純物を培養上清中から除去する。 培養上清の精製は、常法により行えばよく、例えば、溶媒抽出法、有機溶媒による沈澱法、限外ろ過等のろ過法、マンノース6リン酸レセプターカラムやマンノース6リン酸抗体を用いるアフィニティークロマトグラフィー等のアフィニティークロマトグラフィー、疎水性クロマトグラフィーまたはイオン交換クロマトグラフィー等のクロマトグラフィー法、塩析法等が挙げられる。 培養上清の濃縮は、常法により行えばよく、例えば、限外ろ過、塩析法等が挙げられる。 培養上清は、適宜所望の程度まで精製・濃縮すればよい。 このようにして得られた本発明のリソソーム酵素群は、培養した細胞のリソソーム中に含まれる多種類の酵素を含み、好ましくは、全種類のリソソーム酵素を含む。 また、該リソソーム酵素群は、リソソーム中にすでに存在する正常なリソソーム酵素を排出させることにより得られるので、マンノース6リン酸残基で修飾された状態のリソソーム酵素を含むことができる。 したがって、本発明によれば、マンノース6リン酸残基を付加する工程を必要とせずに、マンノース6リン酸残基を有する多種類のリソソーム酵素を一度に得ることができ、容易にリソソーム病の治療に用いることができる。 本発明の医薬組成物は、本発明のリソソーム酵素群そのものであってもよく、または常法により、医薬上許容される担体、安定化剤、緩衝剤、増量剤、結合剤、崩壊剤、嬌味剤、着色剤、香料等の添加剤または賦形剤と共に、注射剤、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、細粒剤、散剤等の適当な剤形にすることができる。医薬上許容される担体としては、例えば、生理食塩水、デキストロース、グリセロール、動物性油、植物性油等が挙げられ、特に、水、生理食塩水、デキストロース、およびグリセロールは、好ましくは注射剤用の担体として用いられる。 本発明の医薬組成物は、例えば、経口的に、または非経口的に、例えば、静脈内注射、脳室内注射、髄腔内注射、筋肉内注射等によって、もしくは経皮的に投与することができる。本発明の医薬組成物の投与量は、患者の年齢、体重、症状、投与経路等によって適宜決定することができる。 本発明のリソソーム酵素群に含まれるリソソーム酵素は、マンノース6リン酸残基で修飾されているので、対象に投与後、該対象の細胞およびリソソーム中に取り込まれる。 本発明のリソソーム酵素群は、多種類のリソソーム酵素を含むので、本発明の医薬組成物は、単一または複数のリソソーム酵素の欠損または活性低下が原因のリソソーム病の治療に有効である。特に、本発明の医薬組成物は、ムコリピドーシスII型およびムコリピドーシスIII型の治療に有効である。 本発明の医薬組成物の治療対象となるリソソーム病の例としては、限定するものではないが、例えば、アスパルチルグルコサミン尿症、ファブリー病、乳児型バッテン病(CNL1)、古典的遅発乳児型バッテン病(CNL2)、ファーバー病、フコシドーシス、ガラクトシアリドーシス、ゴーシェ病1型、2型および3型、GM1−ガングリオシドーシス、ハンター症候群、ハーラー症候群、ハーラー・シャイエ症候群、シャイエ症候群、クラッベ病、α−マンノシドーシス、β−マンノシドーシス、マロトー・ラミー症候群、異染性白質ジストロフィー、モルキオ症候群A型、モルキオ症候群B型、ムコ脂質症II/III型、ニーマン・ピック病A型およびB型、ポンペ病、サンドホフ病、サンフィリッポ症候群A型、サンフィリッポ症候群B型、サンフィリッポ症候群C型、サンフィリッポ症候群D型、シンドラー病、シンドラー神崎病、シアリドーシス、スライ症候群、テイ・サックス病、ウォルマン病、ムコ多糖症IX型、マルチプルサルファターゼ欠損症、ダノン病、遊離シアル酸蓄積症、セロイドリポフスチノーシス等が挙げられる。本発明の医薬組成物は、好ましくは、ムコリピドーシスII型、およびムコリピドーシスIII型の治療に用いられる。 本発明のリソソーム酵素群は、さらに精製することにより、単一酵素製剤の製造のために利用することもできる。 本発明のリソソーム酵素群は、また、研究用のリソソーム酵素試薬として利用することもできる。 以下、実施例により本発明を説明するが、これらの実施例は本発明の範囲を限定するものではない。 リソソーム酵素群の調製 10cm培養皿において、10%FBS(ウシ胎児血清)および推奨量の抗生剤/抗菌剤(Gibco(登録商標)Antibiotic−Amtimycotic,Life Technologies)を含有するDMEM培地(以下、「標準培養培地」という)中でコンフルエントな状態まで培養した正常皮膚線維芽細胞に、培地中20mM濃度となるように塩化アンモニウムを添加し、培養した。培養7日後、上清を回収し、0.2μm滅菌フィルターでろ過して大きい細胞破片および生存細胞を除去した。ろ過後の上清中のリソソーム酵素活性を下記の方法によって測定した。 次いで、培養上清を0℃にて、分画分子量5000の分子量フィルター(Vivaspin 15R,Sartorius Stedim Biotech GmbH)のスピンカラムで遠心分離して塩化アンモニウムを除去した。得られたリソソーム酵素群を最終的に、α−マンノシダーゼ活性が600nmol/h/μLとなるように無血清DMEMを用いて希釈し、下記の実施例においてサンプルとして用いた。該サンプル中の使用時の酵素活性は、α−マンノシダーゼ 364.6nmol/h/μL、α−フコシダーゼ 38.4nmol/h/μL、α−ガラクトシダーゼ 5.6nmol/h/μL、α−グルコシダーゼ 10.3nmol/h/μL、β−ガラクトシダーゼ 35.0nmol/h/μL、β−グルコシダーゼ 25.9nmol/h/μL、総β−ヘキソサミニダーゼ 2650.4nmol/h/μL、β−ヘキソサミニダーゼA 522.9nmol/h/μL、β−グルクロニダーゼ 14.3nmol/h/μL、およびガラクトセレブロシダーゼ 0.57nmol/h/μLであった。なお、酵素活性の測定方法は下記にしたがう。 下記の実施例におけるtERTは、該サンプルを培地に添加して細胞を7日間培養して行った。その後、培養液を通常の標準培養培地に置き換えて24時間以内に各アッセイを行った。 リソソーム酵素群中の酵素活性の測定 得られたリソソーム酵素群中にリソソーム酵素が含まれることを確認するために、上記の塩化アンモニウム添加培養後の培養上清を用いて、リソソーム酵素活性を測定した。対照として、塩化アンモニウムを添加していない正常皮膚線維芽細胞の培養上清、および塩化アンモニウムを添加していないML−II患者由来の皮膚線維芽細胞(以下、「ML−II細胞」という)の培養上清中のリソソーム酵素活性を測定した。 リソソーム酵素の活性は、合成4−メチルウンベリフェリル基質を用いる標準的な方法で測定した。簡単に言えば、試料を酸性リン酸またはクエン酸バッファー中において37℃で1時間、該合成基質と共にインキュベートし、365nmの励起波長および450nmの発光波長にてマイクロプレートリーダーで蛍光を測定した。ガラクトセレブロシダーゼの場合、6−ヘキサデカノイルアミノ−4−メチルウンベリフェリル β−D−ガラクトピラノシド(Slater and Frith Ltd.)を基質として用い、385nmの励起波長および450nmの発光波長にて蛍光を測定した。酵素活性は、nmol/h/μLとして計算した。 結果を図1に示す。図1において、各酵素活性は、正常細胞の培養上清中の酵素活性に対する比率(倍)で表す。 結果 図1から明らかなように、塩化アンモニウムを添加した正常皮膚線維芽細胞の培養上清は、少なくとも10種類のリソソーム酵素(α−マンノシダーゼ、α−フコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼA、β−ヘキソサミニダーゼB、β−グルクロニダーゼ、およびガラクトセレブロシダーゼ)を含んでいた。また、該培養上清中の酵素活性パターンは、ML−II細胞の培養上清中の酵素活性パターンと類似していた。 ML−IIでは、リソソーム酵素にマンノース6リン酸残基が付加されていないため、リソソーム酵素がマンノース6リン酸受容体に認識されず、リソソームへ運搬されないので、リソソーム中においてリソソーム酵素が枯渇し、細胞外にマンノース6リン酸残基が付加されていないリソソーム酵素が溢れ出ている。したがって、ML−II細胞の培養上清中には多種類のリソソーム酵素が含まれる。このことは、ML−II細胞の培養上清の酵素活性測定結果と一致する。 リソソーム酵素群の細胞内取り込の確認 実施例1で得られたリソソーム酵素群をML−II細胞に投与してtERTを行い、リソソーム酵素が活性な状態で該細胞内に取り込まれることを確認するために、細胞内リソソーム酵素活性を測定した。 実施例1で得られたリソソーム酵素群サンプルをML−II細胞の培養培地に添加し、所定の期間培養後、細胞を培養培地から単離し、プロテアーゼ阻害剤を含有する水中でソニケーションし、得られた懸濁液のタンパク質濃度を常法により測定した。得られた懸濁液を用いて、実施例1に記載の方法により、リソソーム酵素活性を測定した。酵素活性は、nmol/h/mg proteinとして計算した。対照として、正常皮膚線維芽細胞、およびtERT処理していないML−II細胞を用いた。 結果を図2に示す。 図2から明らかなように、tERTによって、細胞内のリソソーム酵素活性が上昇したことから、リソソーム酵素が細胞内に取り込まれたことが確認できた。 さらに、経時的なリソソーム酵素のML−II細胞内取り込みを図3に示す。 リソソーム酵素は少なくとも7日間、持続的に細胞内に取り込まれた。細胞内酵素活性は7日間上昇し続けたので、本実施例の上記の評価は、tERT処理の7日後に回収した細胞を用いて行った。また、下記の実施例4〜9においても、tERT処理の7日後の細胞を用いた。 マンノース6リン酸競合阻害試験 リソソーム酵素群が細胞表面のマンノース6リン酸受容体を介して細胞内に取り込まれていることを確認するために、マンノース6リン酸を同時投与し、細胞内取り込み阻害について試験した。 実施例1で得られたリソソーム酵素群サンプルをML−II細胞の培養培地に添加し、同時に、マンノース6リン酸を添加しない(0mM)、あるいはマンノース6リン酸を5mMまたは10mMとなるように添加した。細胞を所定時間培養後、実施例1および実施例2と同様の方法により、細胞内酵素活性を測定した。 結果を図4に示す。 リソソーム酵素の細胞内への取り込みは、マンノース6リン酸により、濃度依存的に競合的に阻害された。 リソソーム酵素群のリソソーム中への運搬の確認 細胞内に取り込まれたリソソーム酵素がリソソームまで運搬されているか確認するために、細胞の免疫染色を行った。 実施例1に記載のようにML−II細胞をtERT処理し、下記の方法により蛍光染色した。対照として、正常皮膚線維芽細胞およびtERT処理しないML−II細胞を用いた。 細胞を3.7%ホルムアルデヒドで1時間固定し、次いで、0.1%Triton−X100で15分間透過処理し、室温にて1時間、1%ウシ血清アルブミンでブロッキングした。一次抗体として、モノクローナル抗Lamp−2抗体(H4B4)、ポリクローナル抗カテプシンB抗体(S−12)、ポリクローナル抗カテプシンD抗体(H−75)、およびポリクローナル抗β−グルコシダーゼ抗体(H−300)(全て、Santa Cruz Biotech. Inc.,Santa Cruz,CA,USAから入手)を1:100濃度で用いて、室温で1時間処理した。次いで、二次抗体(Alexa Fluor 488または555、Invitrogen)を1:1000希釈で用いて、室温で1時間処理した。LysoTracker Red DND−99(Molecular Probes Inc.#7528)は0.2μM濃度で用いて、37℃で1時間処理した。全ての蛍光画像は、蛍光顕微鏡(BX51,Olympus)または共焦点レーザー走査顕微鏡システム(Leica TCS SP−2,Leica Microsystems)を用いて獲得した。リソソームマーカーとしてLamp−2およびLysoTrackerを用いた。 結果を図5および図6に示す。 図5および図6に示されるように、ML−II細胞ではカテプシンBおよびカテプシンDが確認できなかった。一方、tERT処理したML−II細胞では、カテプシンBおよびカテプシンDの画像がリソソーム(Lamp−2)の画像と重なったことから、細胞に投与されたリソソーム酵素混合物からリソソーム酵素がリソソームに運搬されたことが確認できた。 β−グルコシダーゼの場合、正常細胞、ML−II細胞、およびtERT処理したML−II細胞との間で免疫染色結果に差がなかった。さらに、β−グルコシダーゼについて、酵素活性試験(図2参照)において正常であることが確認でき、マンノース6リン酸競合阻害試験(図4参照)においても影響を受けないことが示された。 リソソーム酵素のなかでも、β−グルコシダーゼは、マンノース6リン酸依存性の運搬システムではなく、LIMP−2というタンパク質でリソソームに運搬されていることが証明されている(Reczek D,et al.,Cell 2007;131(4):770−83)。したがって、ML−II細胞は、β−グルコシダーゼを欠損していない。この以前の知見は、上記実験結果と一致する。 tERTの蓄積物質に対する効果 ML−IIでは、リン脂質およびコレステロールが蓄積する。したがって、細胞中のリン脂質およびコレステロール量を測定することにより、ML−IIに対するtERTの効果を評価した。 実施例1に記載のようにML−II細胞をtERT処理し、市販の測定キットを用い、製造者の指示書にしたがって、細胞中のリン脂質およびコレステロール量を測定した(リン脂質:Phospholipids C−test,Wako Pure Chemicals,Co.、およびコレステロール:Amples Red Cholesterol Assay Kit(A12216),Molecular Probes,Invitrogen)。対照として、正常皮膚線維芽細胞およびtERT処理しないML−II細胞を用いた。 結果を図7aおよび図7bに示す。 リン脂質およびコレステロールは、正常細胞に比べてML−II細胞において蓄積しているが、tERTによって蓄積量が減少した。 オートファジー異常およびミトコンドリア異常に対する効果 ML−IIにおけるオートファジー異常およびミトコンドリア異常に対するtERTの効果を評価した。対照として、正常細胞およびtERT処理していないML−II細胞を用いた。 実施例1に記載のようにML−II細胞をtERT処理し、ウェスタンブロッティングによりLC3−IIの量を測定した。一次抗体として、ポリクローナル抗LC3抗体(PM036)およびポリクローナル抗β−アクチンHRP DirecT抗体(PM053−7)(MBL Co.Ltd.,Nagoya,Japan)を用いた。 結果を図8に示す。tERTにより、LC3−IIの量が減少した。 また、蛍光免疫染色を実施例4の記載と同様に行った。ミトコンドリアのマーカーとしてMitoTracker Red CMXRos(Molecular Probes Inc.#7512)を37℃で1時間、200nM濃度で用いた。オートファジーのマーカーとして、ポリクローナル抗LC3抗体(PM036)(MBL Co.Ltd.,Nagoya,Japan)を用いた。 蛍光顕微鏡で観察したところ、tERTにより、LC3の小胞が減少し、ミトコンドリアの形態も明らかに改善を示したことが確認された。 リソソーム数および形態の測定 ML−IIは、皮膚線維芽細胞における封入体(inclusion body)の存在によって特徴付けられる。封入体は、リソソーム酵素の異常により分解できない基質がリソソームに蓄積することが原因であり、同時に、リソソームの数も顕著に増加する。tERTのこれらの現象に対する効果を下記の方法によって評価した。対照として、正常細胞およびtERT処理していないML−II細胞を用いた。 実施例1に記載のようにML−II細胞をtERT処理し、トリプシンを用いて細胞を標準的な方法で回収し、小型のチューブに入れた。該細胞のペレットを、LysoTracker Red DND−99(1μM)およびDAPI(1μg/ml)の両方を含有する標準培養培地中に再懸濁し、37℃で1時間インキュベートした。インキュベーション後、遠心分離により該細胞を回収し、PBSで1回リンスした後、該細胞をPBS中に再懸濁した。該細胞懸濁液の蛍光強度をマイクロプレートリーダー(Vorona Fluorescence Microplate Reader MTP810Lab)を用いて、励起波長530nm/発光波長590nm(LysoTrackerの場合)および、励起波長365nm/発光波長450nm(DAPIの場合)で測定した。実施例4の記載と同様にして、蛍光画像を得た。該蛍光染色の結果、tERTによりリソソームの染色が減少したことが分かった。 さらに、LysoTracker/DAPIの蛍光強度比率を算出し、各細胞あたりのリソソーム量(数および大きさ)を評価した。 結果を図9示す。tERTにより、各細胞あたりのリソソーム量が減少した。 さらに、光学顕微鏡写真観察では、tERTにより、封入体の減少が確認された(図10)。また、電子顕微鏡写真観察では、tERTにより、均質な小胞の蓄積が解消されたことが確認された。 エンドサイトーシスに対する効果 蛍光標識したセラミド(BODIPY−Cer)を用いて、正常細胞、ML−II細胞およびtERT処理したML−II細胞におけるエンドサイトーシスによって取り込まれた物質の細胞内輸送を評価した。 ガラス底皿中で皮膚線維芽細胞を調整した。BSAに複合体化したBODIPY FLC5−セラミド(Invitrogen #B22650)を入手し、標準培養培地中2.5nM濃度に希釈した。該培地中で30分間、細胞を培養した。培養後、該細胞をPBSで1回洗浄し、実施例4に記載の共焦点顕微鏡で直接観察した。実施例4の記載と同様にして、蛍光画像を得た。 蛍光画像を解析したところ、正常細胞ではセラミドはゴルジ体に運ばれたが、ML−IIでは細胞質内の小胞に閉じこめられていた。一方、tERT処理したML−II細胞では、セラミドは、細胞質内の小胞に多少残っているものの、ゴルジ体へ運搬されるようになった。 また、氷冷培地中において、原形質膜に対するBODIPY−Cerの接着について試験した結果、正常細胞、ML−II細胞およびtERT処理したML−II細胞間に違いはなかった。 マンノース6リン酸受容体取り込み試験 マンノース6リン酸受容体に対する抗体を用いて、細胞表面の該受容体を介して取り込まれた該抗体の細胞内輸送を評価した。 マンノース6リン酸受容体抗体[モノクローナル抗マンノース6リン酸受容体抗体(2G11)(Abcam)]を1:75濃度で含有する標準培養培地中で細胞をインキュベートした。30分間の取り込み試験の場合、該抗体含有培地で細胞を30分間インキュベートした。インキュベーション後、氷冷PBSで洗浄し、すぐに3.7%ホルムアルデヒド中で固定した。細胞を0.1%Triton−X100で15分間透過性処理し、室温で1時間、1%ウシ血清アルブミンでブロッキングした後、細胞を二次抗体で処理した。1時間の取り込みおよび2時間のインキュベーション試験の場合、該抗体含有培地で細胞を1時間インキュベートし、洗浄し、次いで、抗体を含有しない標準培養培地中で培養した。その後の工程は、上記の30分取り込み試験と同様である。二次抗体としてAlexa Flour 488標識抗体(Life Technologies Corp.)を用いた。実施例4の記載と同様にして、蛍光画像を得た。 蛍光画像を解析したところ、正常細胞では、小胞に留まっていたが、ML−II細胞ではゴルジ体に留まっていた。一方、tERT処理したML−II細胞では、正常細胞と同じ小胞のパターンを示した。 様々な試薬を用いたリソソーム酵素群の調製 10cm培養皿において、標準培養培地中でコンフルエントな状態まで培養した正常皮膚線維芽細胞に、培地中20mM濃度となるように塩化アンモニウム、培地中20μM濃度となるようにクロロキン、または培地中20nM濃度となるようにバフィロマイシンA1を添加し、培養した。培養5日後および7日後に上清を回収し、0.2μm滅菌フィルターでろ過して大きい細胞破片および生存細胞を除去した。ろ過後の上清中のリソソーム酵素活性を実施例1の記載と同じ方法で測定した。対照として、いずれの試薬も添加していない標準培養培地中で培養した正常皮膚線維芽細胞の培養上清中のリソソーム酵素活性を測定した。 結果を表1および2に示す。なお、表1および表2中、β−Galはβ−ガラクトシダーゼ、total β−Hexは総β−ヘキソサミニダーゼ、β−Hex Aはβ−ヘキソサミニダーゼA、β−Glucはβ−グルコシダーゼ、α−Manはα−マンノシダーゼ、α−Fucはα−フコシダーゼ、α−Glucはα−グルコシダーゼ、α−Galはα−ガラクトシダーゼ、β−Glucuroはβ−グルクロニダーゼ、α−Iduroはα−L−イデュロニダーゼ、GALCはガラクトセレブロシダーゼを示す。SCMは、いずれの試薬も添加していない標準培養培地(standard culture medium)を示す。CQはクロロキンを示し、BafiloはバフィロマイシンA1を示す。酵素活性は、nmol/h/μLで示す。 表1および表2から明らかなように、クロロキンまたはバフィロマイシンA1を用いた場合も、塩化アンモニウムを用いた場合と同様に、これらの試薬を加えない場合と比べて、多くのリソソーム酵素群を培養上清中に排出させることができた。 COS−1細胞を用いたリソソーム酵素の調製 10cm培養皿において、標準培養培地中でコンフルエントな状態まで培養したCOS−1細胞に、培地中20mM濃度となるように塩化アンモニウムを添加し、培養した。培養3日後に上清を回収し、0.2μm滅菌フィルターでろ過して大きい細胞破片および生存細胞を除去した。ろ過後の上清中のリソソーム酵素活性を実施例1の記載と同じ方法で測定した。対照として、塩化アンモニウムを添加していない標準培養培地中で培養したCOS−1細胞の培養上清中のリソソーム酵素活性を測定した。 結果を表3に示す。なお、表3中、β−Galはβ−ガラクトシダーゼ、total β−Hexは総β−ヘキソサミニダーゼ、β−Hex Aはβ−ヘキソサミニダーゼA、β−Glucはβ−グルコシダーゼ、α−Manはα−マンノシダーゼ、α−Fucはα−フコシダーゼ、α−Glucはα−グルコシダーゼ、α−Galはα−ガラクトシダーゼ、β−Glucuroはβ−グルクロニダーゼ、α−Iduroはα−L−イデュロニダーゼ、GALCはガラクトセレブロシダーゼを示す。NH4Cl(−)は、塩化アンモニウムを加えない場合の培養上清を示し、NH4Cl(+)は、塩化アンモニウムを加えた場合の培養上清を示す。酵素活性は、nmol/h/μLで示す。 表3から明らかなように、COS−1細胞を用いた場合も、塩化アンモニウムの添加により、塩化アンモニウムを添加しない場合と比べて、多くのリソソーム酵素群を培養上清中に排出させることができた。 クラッベ病およびテイ・サックス病に対するtERT試験 実施例1で得られたリソソーム酵素群サンプルを、クラッベ病およびテイ・サックス病の患者由来の皮膚線維芽細胞(以下、各々、「クラッベ病細胞」および「テイ・サックス病細胞」という)の培養培地に添加し、7日間培養した。細胞を培養培地から単離し、プロテアーゼ阻害剤を含有する水中でソニケーションし、得られた懸濁液のタンパク質濃度を常法により測定した。得られた懸濁液を用いて、実施例1に記載の方法により、リソソーム酵素活性を測定した。酵素活性は、nmol/h/mg proteinとして計算した。対照として、正常皮膚線維芽細胞、およびtERT処理していないクラッベ病細胞またはtERT処理していないテイ・サックス病細胞を用いた。 結果を図11に示す。 図11に示されるように、本発明のリソソーム酵素群を用いるtERTによって、クラッベ病およびテイ・サックス病でそれぞれ欠損しているリソソーム酵素(クラッベ病についてガラクトセレブロシダーゼ、テイ・サックス病についてβ−ヘキソサミニダーゼA)の細胞内酵素活性が上昇した。 細胞を培養して得られた、精製されたリソソーム酵素群を有効成分として含むムコリピドーシスII型またはIII型治療用医薬組成物であって、該リソソーム酵素群が少なくとも、α−マンノシダーゼ、α−フコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼ、β−グルクロニダーゼ、ガラクトセレブロシダーゼおよびカテプシンを含む、医薬組成物。 細胞がリソソーム酵素にマンノース6リン酸残基を付加する機能を有する細胞である、請求項1記載の医薬組成物。 細胞がリソソーム病に罹患していない対象由来の細胞である、請求項1記載の医薬組成物。 リソソーム酵素群が下記工程: 細胞に、両親媒性アミン、リソソーム指向性アミン、イオノフォア、およびV−ATPase阻害薬からなる群より選択される1または複数の試薬を添加して培養し、 培養上清を回収し、 得られた培養上清を精製する、ことを含む方法により得られたものである、請求項1〜3のいずれか1項記載の医薬組成物。 試薬が、塩化アンモニウム、クロロキン、モネンシン、ニゲリシン、およびバフィロマイシンA1からなる群より選択される、請求項4記載の医薬組成物。 細胞が正常皮膚線維芽細胞、COS−1細胞、NIH3T3細胞、HEK293細胞、HeLa細胞およびCHO細胞からなる群より選択されるものである、請求項1〜5のいずれか1項記載の医薬組成物。 リソソーム酵素が組み換え酵素ではない、請求項1〜6のいずれか1記載の医薬組成物。 リソソーム酵素群がマンノース6リン酸残基を有するリソソーム酵素を含むものである、請求項1〜7のいずれか1項記載の医薬組成物。 少なくとも、α−マンノシダーゼ、α−フコシダーゼ、α−ガラクトシダーゼ、α−グルコシダーゼ、β−ガラクトシダーゼ、β−グルコシダーゼ、β−ヘキソサミニダーゼ、β−グルクロニダーゼ、ガラクトセレブロシダーゼおよびカテプシンを含む、精製されたリソソーム酵素群を有効成分として含ませることを特徴とする、ムコリピドーシスII型またはIII型治療用医薬組成物の製造方法であって、該リソソーム酵素群を下記工程: 細胞に、両親媒性アミン、リソソーム指向性アミン、イオノフォア、およびV−ATPase阻害薬からなる群より選択される1または複数の試薬を添加して培養し、 培養上清を回収し、 得られた培養上清を精製する、ことを含む方法により得ることを特徴とする方法。 試薬がバフィロマイシンA1である、請求項10記載の方法。


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