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タイトル:特許公報(B2)_核酸送達用組成物及び担体組成物、それを用いた医薬組成物、並びに核酸送達方法
出願番号:2012523548
年次:2015
IPC分類:A61K 31/7088,A61K 47/34,A61K 9/50,A61K 48/00


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片岡 一則 石井 武彦 長田 健介 陳 麒先 位高 啓史 内田 智士 JP 5826174 特許公報(B2) 20151023 2012523548 20110711 核酸送達用組成物及び担体組成物、それを用いた医薬組成物、並びに核酸送達方法 国立大学法人 東京大学 504137912 青木 篤 100099759 石田 敬 100077517 福本 積 100087871 古賀 哲次 100087413 渡辺 陽一 100117019 武居 良太郎 100150810 中島 勝 100141977 片岡 一則 石井 武彦 長田 健介 陳 麒先 位高 啓史 内田 智士 JP 2010157296 20100709 20151202 A61K 31/7088 20060101AFI20151112BHJP A61K 47/34 20060101ALI20151112BHJP A61K 9/50 20060101ALI20151112BHJP A61K 48/00 20060101ALI20151112BHJP JPA61K31/7088A61K47/34A61K9/50A61K48/00 A61K 9/00−9/72 A61K 47/00−47/48 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) 特開2004−352972(JP,A) 国際公開第2009/113645(WO,A1) 国際公開第2006/085664(WO,A1) 国際公開第2010/068432(WO,A1) 特表2001−515522(JP,A) 第58回高分子討論会予稿集,2009年,58(2),p.5124,2T2-10 第53回高分子討論会予稿集,2004年,53(2),p.4306,1N09 16 JP2011065815 20110711 WO2012005376 20120112 38 20140710 特許法第30条第1項適用 Drug Delivery System(DDS)VOL.26 NO.3 MAY 2011 第27回日本DDS学会プログラム予稿集(日本DDS学会発行)第284頁1−B−03に発表 発行日:平成23年5月28日 (出願人による申告)「国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成19年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)」 六笠 紀子 本発明は、標的細胞又は組織に核酸を送達するための核酸送達用組成物及び担体組成物、それを用いた医薬組成物、並びに核酸送達方法に関する。 従来、核酸治療において、標的細胞又は組織に核酸を送達するための担体としては、ウイルスベクターと合成担体(非ウイルス性担体)が検討されてきた。 合成担体は、従来の医療で検討されてきた薬剤送達系(DDS)と同様、毒性等に関するリスクは存在するものの、ウイルスベクターに比べれば毒性が少ないと考えられることや、担持させる核酸のサイズに制限がなく、ベクターの精密な分子設計が可能であることから、精力的な開発研究が続けられている。 代表的な合成担体としては、負電荷のDNAとイオンコンプレックスを形成するカチオン性脂質やカチオン性ポリマーが挙げられる。 カチオン性脂質(リポフェクチン等)については、インビトロ(in vitro)ではある程度の成果が得られている(例えば非特許文献1参照)が、インビボ(in vivo)では必ずしも所期の効果が得られていない。 一方、カチオン性ポリマーとしては、ポリ(L−リシン)、DEAE−デキストラン、ポリエチレンイミン(例えば非特許文献2参照)、キトサン(例えば非特許文献3参照)等が検討されている。しかし、これらのカチオン性ポリマーは細胞毒性を有する上に、核酸導入効率・遺伝子発現効率も不十分であった。 本発明者等は、特定のアミン基を側鎖に有するカチオン性ポリマーセグメントと、ポリエチレングリコール(PEG)等の非架電親水性ポリマーセグメントとを有するブロックコポリマーを自己組織化させて、核酸を内包するポリイオンコンプレックス(PIC)型の高分子ミセルを形成することにより、細胞毒性が低減されると共に、一定の核酸導入効率・遺伝子発現効率が得られることを報告した(特許文献1:特開2004−352972号公報参照)。しかし、かかるPIC型高分子ミセルからなる核酸送達系は、核酸導入効率・遺伝子発現効率の面で改善の余地があった。 また、本発明者等は、特定のアミン基を側鎖に有するカチオン性ホモポリマーを、核酸と混合することにより、核酸導入効率・遺伝子発現効率を劇的に改善できると共に、動物細胞(特に哺乳類細胞)に対する毒性も比較的抑えられることを報告した(特許文献2:国際公開第2006/085664号パンフレット参照)。しかし、かかるホモポリマーからなる核酸送達系については、細胞毒性の更なる低減が求められていた。特開2004−352972号公報国際公開第2006/085664号パンフレットC. F. Benett et al., J. Drug Targeting, 5, 149 (1997)O. Boussif et al., Proc. Natl. Acad. Sci., USA, 92, 7297 (1995)S. C. Richardson et al., Int. J. Pharm. 178, (1999) 231 以上の背景から、細胞毒性が低減されると共に、高い核酸導入効率や遺伝子発現効率を示す、優れた核酸送達用組成物及びその担体の提供が、依然として求められていた。 本発明者等は鋭意検討の結果、特定のカチオン性ポリマーセグメントと非架電親水性ポリマーセグメントとを有するブロックコポリマーからなるポリイオンコンプレックス(PIC)型の高分子ミセルにおいて、特定のカチオン性ホモポリマーを特定の比率で混合することにより、低細胞毒性と高核酸導入効率という両特性を兼ね備えた、優れた核酸送達用組成物が得られることを見出して、本発明を完成させた。 すなわち、本発明の主旨は、標的細胞又は組織に核酸を送達するための核酸送達用組成物であって、非荷電親水性ポリマーセグメントとカチオン性ポリマーセグメントとを有するブロックコポリマーと、カチオン性ポリマーと、核酸とを含んでなり、ブロックコポリマー及びカチオン性ポリマーが有する総カチオン基に対する、ブロックコポリマーが有するカチオン基のモル百分率(B/H比)が、25%〜90%である、核酸送達用組成物に存する。 本発明の別の主旨は、標的細胞又は組織に核酸を送達するための担体組成物であって、非荷電親水性ポリマーセグメントとカチオン性ポリマーセグメントとを有するブロックコポリマーと、カチオン性ポリマーとを含んでなり、ブロックコポリマー及びカチオン性ポリマーが有する総カチオン基に対する、ブロックコポリマーが有するカチオン基のモル百分率(B/H比)が、25%〜90%である、担体組成物に存する。 本発明の更に別の主旨は、核酸治療に用いられる医薬組成物であって、前記の核酸送達用組成物又は担体組成物を含んでなる医薬組成物に存する。 本発明の更に別の主旨は、標的細胞又は組織に核酸を送達するための方法であって、前記の核酸送達用組成物を標的細胞又は組織に接触させることを含んでなる方法に存する。 本発明の更に別の主旨は、標的細胞又は組織に核酸を送達するための方法であって、非荷電親水性ポリマーセグメント及びカチオン性ポリマーセグメントを有するブロックコポリマーと、核酸とを含んでなる核酸送達用組成物、並びに、カチオン性ポリマーを、標的細胞又は組織に接触させることを含んでなるとともに、標的細胞又は組織への接触時における、核酸送達用組成物のブロックコポリマー及びカチオン性ポリマーが有する総カチオン基に対する、核酸送達用組成物のブロックコポリマーが有するカチオン基のモル百分率(B/H比)を、25%〜90%とする方法に存する。 本発明の核酸送達用組成物及び核酸送達方法によれば、細胞毒性が低減されると共に、優れた核酸導入効率が発揮される。また、本発明の担体組成物によれば、斯かる優れた核酸送達用組成物を容易に得ることができる。本発明の核酸送達用組成物及び担体組成物は、例えば核酸治療用の医薬組成物として好適である。図1(a)及び(b)は各B/H比における粒子形状を表す透過型電子顕微鏡写真である。図2はB/H比とゼータ電位との関係を表すグラフである。図3はトランスフェクション効率とB/H比及びN/P比との関係を表すグラフである。図4は細胞毒性とB/H比及びN/P比との関係を表すグラフである。図5は腫瘍体積の経時変化を表すグラフである。図6は核酸送達用組成物の血中滞留性を現すグラフである。図7(a)〜(d)はいずれも腫瘍組織におけるVenusの発現状況を示すCLSM(共焦点レーザー顕微鏡)写真である。具体的に、図7(a)は対照、図7(b)はB/H比100%、図7(c)はB/H比70%、図7(d)はB/H比50%の結果である。図8(a)及び(b)は腫瘍組織のsFlt-1の発現状況を示すCLSM写真である。図8(a)は対照、図8(b)はB/H比70%の結果である。図9(a)は腫瘍組織の血管内皮細胞を免疫染色したCLSM写真であり、図9(b)は図9(a)の画像解析によって求めた血管密度を表すグラフである。図10は組成物の経肺投与時のトランスフェクション効率とB/H比との関係を表すグラフである。図11(a)〜(d)はいずれも肺組織の免疫染色写真である。具体的に、図11(a)はB/H比100%、図11(b)はB/H比70%、図11(c)はB/H比50%、図11(d)は対照の結果である。図12(a)〜(d)はいずれもmRNAの発現量を示すグラフである。具体的に、図12(a)はIL−6、図12(b)はTNF−α、図12(c)はCox−2、図12(d)はIL−10のmRNAのmRNAの発現量を示す。 本発明によれば、標的細胞又は組織に核酸を送達するための組成物であって、後述する特定のブロックコポリマー及びカチオン性ポリマーと、核酸とを含有するとともに、ブロックコポリマーとカチオン性ポリマーとの比率が後述する特定の範囲内である組成物(本発明の核酸送達用組成物)が提供される。 本発明者等の検討によれば、後述する特定のブロックコポリマーとカチオン性ポリマーとを、後述のB/H比が特定の範囲を満たすような比で使用することにより、動物細胞(特に哺乳類細胞)に対する毒性を、ブロックコポリマー単独からなるPICミセル型の核酸送達系(特許文献1等)と同程度に低く抑えることができると共に、核酸導入効率を、カチオン性ホモポリマー単独の核酸送達系(特許文献2等)と同程度に改善することが可能となる。即ち、本発明によれば、従来のブロックコポリマー単独の核酸送達系及びカチオン性ホモポリマー単独の核酸送達系の双方の利点のみを兼ね備えた核酸送達用組成物が提供される。斯かる効果は、従来の核酸送達系に関する知見の単なる寄せ集めからは予測できない、相乗的な効果である。 また、本発明によれば、標的細胞又は組織に核酸を送達するための担体となる組成物であって、後述する特定のブロックコポリマー及びカチオン性ポリマーと、核酸とを含有するとともに、ブロックコポリマーとカチオン性ポリマーとの比率が後述する特定の範囲内である組成物(本発明の担体組成物)も提供される。斯かる担体組成物に核酸を担持させることにより、本発明の核酸送達用組成物が得られる。[ブロックコポリマー] 本発明で使用されるブロックコポリマーは、非荷電親水性ポリマーセグメントとカチオン性ポリマーセグメントとを有する。ブロックコポリマーは、1種のみを使用してもよいが、2種以上を任意の組合せ及び比率で使用してもよい。 (非荷電親水性ポリマーセグメント) 非荷電親水性ポリマーセグメントは、非荷電且つ親水性の性質を有するポリマーセグメントである。ここで「非荷電」とは、セグメントが全体として中性であることをいう。例としてはセグメントが正・負の電荷を有さない場合が挙げられる。また、セグメントが正・負の荷電を分子内に有する場合であっても、局所的な実効電荷密度が高くなく、高分子ミセルの形成を妨げない程度にセグメント全体の荷電が中和されていれば、やはり「非荷電」に該当する。また、「親水性」とは水性媒体に対して溶解性を示すことをいう。 非荷電親水性ポリマーセグメントの種類は限定されない。単一の反復単位からなるセグメントでもよく、二種以上の反復単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。非荷電親水性ポリマーセグメントの具体例としては、ポリアルキレングリコール、ポリ(2−オキサゾリン)、ポリサッカライド、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリメタクリルアミド、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリ(2−メタクロイルオキシエチルホスホリルコリン)、等電点が7付近のペプチド・タンパク質及びそれらの誘導体等が挙げられる。中でもポリアルキレングリコール、ポリ(2−オキサゾリン)等が好ましく、ポリアルキレングリコールが特に好ましい。ポリアルキレングリコールとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等が挙げられるが、ポリエチレングリコール(PEG)が好ましい。 非荷電親水性ポリマーセグメントの分子量は、限定されるものではないが、高分子ミセルを効率的に製造する観点からは、所定の範囲内の分子量を有することが好ましい。具体的な分子量の範囲は、非荷電親水性ポリマーセグメントの種類やカチオン性ポリマーセグメントとの組み合わせ等によっても異なるが、非荷電親水性ポリマーセグメントとしてポリエチレングリコールを用いる場合、その分子量(Mw)は、好ましくは500以上、より好ましくは1000以上、また、好ましくは40000以下、より好ましくは30000以下の範囲である。非荷電親水性ポリマーセグメントの反復単位数も制限されないが、通常は非荷電親水性ポリマーセグメントの分子量が前記の分子量範囲を満たすように、その反復単位の種類に応じて決定される。 前記条件を満たす非荷電親水性ポリマーセグメントを用いることにより、ブロックコポリマーの水性溶液中での会合・沈殿を防止してこれを安定化し、担体組成物として機能し得る高分子ミセルを効率的に構築することが可能となる。 (カチオン性ポリマーセグメント) カチオン性ポリマーセグメントは、カチオン基を有し、カチオン性(陽イオン性)を示すポリマーセグメントである。但し、カチオン性ポリマーセグメントは、高分子ミセルの形成を妨げない範囲で、多少のアニオン基を有していてもよい。 カチオン性ポリマーセグメントの種類も限定されない。単一の反復単位からなるセグメントでもよく、二種以上の反復単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。カチオン性ポリマーセグメントとしてはポリアミン等が好ましく、側鎖にアミノ基を有するポリ(アミノ酸又はその誘導体)が特に好ましい。斯かるポリ(アミノ酸又はその誘導体)は、1種のアミノ酸又はその誘導体からなるものでもよく、2種以上のアミノ酸又はその誘導体を任意の組み合わせ及び比率で含んでいてもよい。斯かるポリ(アミノ酸又はその誘導体)を構成するアミノ酸又はその誘導体の例としては、制限されるものではないが、アミノ基含有アスパルタミド、アミノ基含有グルタミド、リシン、アルギニン、ヒスチジン等が挙げられる。これらの中でも、特にアミノ基含有アスパルタミド、アミノ基含有グルタミドが好ましい。 カチオン性ポリマーセグメントの分子量は、限定されるものではないが、高分子ミセルを効率的に製造する観点からは、所定の範囲内の分子量を有することが好ましい。カチオン性ポリマーセグメントの反復単位数も制限されないが、通常はカチオン性ポリマーセグメントの分子量が所定の分子量範囲を満たすように、その反復単位の種類に応じて決定される。具体的には、カチオン性ポリマーセグメントとしてポリアスパラギン酸誘導体又はポリグルタミン酸誘導体を用いる場合、その反復単位数は好ましくは5以上、より好ましくは10以上、また、好ましくは300以下、より好ましくは200以下の範囲である。 前記条件を満たすカチオン性ポリマーセグメントを用いることにより、ブロックコポリマーの水性溶液中での会合・沈殿を防止して安定化し、担体組成物として機能し得る高分子ミセルを効率的に構築することが可能となる。 (非荷電親水性ポリマーセグメントとカチオン性ポリマーセグメントとの組み合わせ) 非荷電親水性ポリマーセグメントとカチオン性ポリマーセグメントとの組み合わせは制限されず、任意の非荷電親水性ポリマーセグメントと任意のカチオン性ポリマーセグメントとを組み合わせることが可能である。 非荷電親水性ポリマーセグメント及びカチオン性ポリマーセグメントの個数も任意であり、各々1つでも2つ以上でもよく、2つ以上の場合には互いに同一でも異なっていてもよい。通常は、非荷電親水性ポリマーセグメント1つに対して、カチオン性ポリマーセグメントが1つ結合することが好ましい。しかし、高分子ミセル内に多量の核酸を保持する観点からは、非荷電親水性ポリマーセグメントが1つに対して、カチオン性ポリマーセグメントが2つ以上結合する形態も好適である。 (連結基) 非荷電親水性ポリマーセグメントとカチオン性ポリマーセグメントとの結合形態も制限されず、直接結合していてもよいが、連結基を介して結合していてもよい。 連結基の例としては、非荷電親水性ポリマーセグメント及びカチオン性ポリマーセグメントの総個数に対応する価数を有する炭化水素基が挙げられる。連結基としての炭化水素基は脂肪族でも芳香族でもそれらが連結したものでもよく、脂肪族の場合には飽和でも不飽和でもよく、また、直鎖でも分岐でも環状でもよい。連結基としての炭化水素基の分子量は、制限されるものではないが、通常5000以下、好ましくは1000以下である。連結基としての炭化水素基の例としては、没食子酸誘導体、3,5−ジヒドロキシ安息香酸誘導体、グリセリン誘導体、シクロヘキサン誘導体、L−リシン等が挙げられるが、3,5−ジヒドロキシ安息香酸誘導体等が好ましい。 連結基の別の例としては、ジスルフィド基が挙げられる。ジスルフィド基は、非荷電親水性ポリマーセグメント1つとカチオン性ポリマーセグメント1つを連結するのに用いられる。ジスルフィド基を介して非荷電親水性ポリマーセグメントとカチオン性ポリマーセグメントとを連結することにより、高分子ミセルの置かれた環境や外部からの作用によってジスルフィド基を開裂させ、高分子ミセルの形態や性質を変化させることが可能になる。これを利用すれば、生体内の特定部位でジスルフィド基を開裂させることによって、高分子ミセル内に内包された薬物(この態様については後述する)の部位特異的な放出を促すことも可能になると考えられる。 また、非荷電親水性ポリマーセグメントとカチオン性ポリマーセグメントとの比率も任意であるが、高分子ミセルを効率的に製造する観点からは、高分子ミセル中に含まれる非荷電親水性ポリマーセグメントの分子量比率を所定の範囲内とすることが好ましい。具体的な比率については、核酸の量も考慮して決定することが好ましいため、[核酸]の欄で後述する。 (ブロックコポリマーの具体例〕 本発明のブロックコポリマーの好ましい具体例としては、非荷電親水性ポリマーセグメントとしてポリエチレングリコール(PEG)セグメントを有し、カチオン性ポリマーセグメントとしてポリ(アミノ酸又はその誘導体)セグメントを有する、下記式(I)〜(IV)に示すブロックコポリマーが挙げられる。(式(I)及び(II)中、 R1は、水素原子、又は、未置換若しくは置換の直鎖若しくは分枝のC1−12アルキル基を表し、 R2は、メチレン基又はエチレン基を表し、 R3は、水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、 R4は、R5と同一であるか、又は開始剤残基であり、 R5は各々独立に、水酸基、オキシベンジル基又は−NH−(CH2)a−X基を表し、 Xは各々独立に、 pKa値が7.4以下の嵩高いアミン化合物残基、 一級、二級、三級アミン若しくは四級アンモニウム塩のうち一種又は二種以上を含むアミン化合物残基、又は アミンでない化合物残基を表し、 L1及びL2は各々独立に、連結基を表し、 aは、1〜5の整数であり、 mは、5〜20,000の整数であり、 nは、2〜5,000の整数であり、 xは、0〜5,000の整数であり、 但し、xはnより大きくない。)(式(III)及び(IV)中、 R1は、水素原子、又は、未置換若しくは置換の直鎖若しくは分枝のC1−12アルキル基を表し、 R2は、メチレン基又はエチレン基を表し、 R3は、水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表し、 R4は、R5と同一であるか、又は開始剤残基であり、 R5は各々独立に、水酸基、オキシベンジル基又は−NH−(CH2)a−X基を表し、 Xは各々独立に、 pKa値が7.4以下の嵩高いアミン化合物残基、 一級、二級、三級アミン若しくは四級アンモニウム塩のうち一種又は二種以上を含むアミン化合物残基、又は アミンでない化合物残基を表し、 L1及びL2は各々独立に、連結基を表し、 aは、1〜5の整数であり、 R6は各々独立に、水素原子又は保護基であり、 mは、5〜20,000の整数であり、 nは、2〜5,000の整数であり、 yは、0〜5,000の整数であり、 zは、0〜5,000の整数であり、 但し、y+zはnより大きくない。) 前記式(I)〜(IV)における各基の詳細な定義は以下の通りである。 R1は、水素原子、又は、未置換若しくは置換の直鎖若しくは分枝のC1−12アルキル基を表すが、C1−12アルキルとしては、メチル、エチル、n−プロピル、iso−プロピル、n−ブチル、sec−ブチル、tert−ブチル、n−ペンチル、n−ヘキシル、デシル、ウンデシル等が挙げられる。C1−12アルキル基が置換される場合の置換基としては、アセタール化ホルミル基、シアノ基、ホルミル基、カルボキシル基、アミノ基、C1−6アルコキシカルボニル基、C2−7アシルアミド基、トリ−C1−6アルキルシロキシ基(ここで3つのアルキル基は同一でも異なっていてもよい)、シロキシ基又はシリルアミノ基が挙げられる。 前記置換基がアセタール化ホルミル基である場合は、温和な酸性条件下で加水分解することにより、他の置換基であるホルミル基(−CHO:アルデヒド基)に転化できる。斯かるホルミル基、カルボキシル基又はアミノ基が、高分子ミセルの外縁部付近に存在する場合には、これらの基を介して、高分子ミセルに他のタンパク質等を共有結合するのに利用できる。斯かるタンパク質等の例としては、抗体若しくはその特異結合性を有する断片(F(ab’)2、F(ab)、等)、又はその他の機能性若しくは標的指向性を高分子ミセルに付与し得るタンパク質等が挙げられる。斯かる官能基を片末端に有するPEGセグメントの製法としては、例えばWO96/32434、WO96/33233、WO97/06202に記載のブロックコポリマーのPEGセグメントの製法が挙げられる。 R2は、メチレン基又はエチレン基を表す。ポリ(アミノ酸又はその誘導体)セグメントのR2を含む反復単位は、R2がメチレン基の場合にはアスパラギン酸誘導体単位に相当し、R2がエチレン基の場合はグルタミン酸誘導体単位に相当する。ポリ(アミノ酸又はその誘導体)セグメントがR2としてメチレン基及びエチレン基の双方を有する場合、アスパラギン酸誘導体単位及びグルタミン酸誘導体単位は、それぞれ独立にブロックを形成して存在していてもよく、ランダムに混在していてもよい。 R3は、水素原子、保護基、疎水性基又は重合性基を表す。保護基としては、C1−6アルキルカルボニル基が挙げられ、好ましくはアセチル基である。疎水性基としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ピレン等の誘導体が挙げられる。重合性基としては、メタクリロイル基、アクリロイル基が挙げられる。一般式(I)又は(III)のコポリマーが斯かる重合性基を有する場合、そのコポリマーは所謂マクロマーとして使用することができる。例えば高分子ミセルを形成した後、必要により他のコモノマーを用い、これらの重合性基を介して架橋させることもできる。 R4は、R5と同様に、水酸基、オキシベンジル基又は−NH−(CH2)a−X基であるか、或いは開始剤残基である。R4が開始剤残基である場合とは、一般式(I)〜(IV)のブロックコポリマーを、後述する第2の方法(即ち、低分子の開始剤を用いて保護アミノ酸のNCAを重合させてポリ(アミノ酸又はその誘導体)セグメントを合成してからPEGセグメントと結合させる方法)で製造する場合に、R4が使用した開始剤に由来する構造をとる場合である。開始剤残基の具体例としては、−NH−R9が挙げられる。ここでR9は、未置換又は置換の直鎖又は分枝のC1−20アルキル基である。 R5は、各々独立に、水酸基、オキシベンジル基、−NH−(CH2)a−X基であるが、その大部分(通常85%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは100%)が−NH−(CH2)a−X基であることが好ましい。 Xは、ブロックコポリマーが本発明の条件を満たす(又は本発明の目的に沿う)限り制限されないが、通常は以下のA群〜E群に分類される残基の中から選択される。 ・A群:pKa値が7.4以下の嵩高いアミン化合物残基: A群において、X2は、水素原子又はC1−6アルキル基である。 ・B群:一級アミンと二級アミン、三級アミン又は四級アンモニウム塩の両方を含むアミン化合物残基: B群において、X3は、アミノC1−6アルキル基であり、R7は、水素原子又はメチル基であり、d及びeは各々独立に、1〜5の整数である。 ・C群:一級アミンのみを含むアミン化合物残基: C群において、fは、0〜15の整数である。 ・D群:二級アミン、三級アミン又は四級アンモニウム塩のみを含むアミン化合物残基でA群に含まれないもの: D群において、d及びeは各々独立に、1〜5の整数であり、R8は、Z基、Boc基、アセチル基、トリフルオロアセチル基等の保護基である。 ・E群:アミンでない化合物残基: E群において、gは、0〜15の整数である。 一般式(I)又は(II)のブロックコポリマーの場合、Xとしては、A群及びB群の残基から選ばれる何れか一つの残基のみを含んでいてもよいが、C群はA群及びD群の残基から選ばれる少なくとも一つの残基を同時に含まなければならず、D群はB群及びC群の残基から選ばれる少なくとも一つの残基を同時に含まなければならない。またE群はコポリマーの物性を変化させるために含ませることができるが、E群を除いた部分で前記の条件を満たしていなければならない。 一般式(III)又は(IV)のブロックコポリマーの場合、R6の少なくとも1個以上が水素原子であるならば、A群、B群及びD群の残基から選ばれるいずれか一つの残基のみを含むのでもよい。C群及びE群は前記の条件と同じである。 R6は、各々独立に、水素原子又は保護基であるが、その大部分(通常85%以上、好ましくは95%以上、より好ましくは98%以上、特に好ましくは100%)が水素原子であることが好ましい。保護基としては、アミノ基の保護基として通常用いられているZ基、Boc基、アセチル基、トリフルオロアセチル基等が挙げられる。 L1及びL2は、各々独立に、連結基を表す。L1及びL2の種類は制限されないが、L1としては、−(CH2)b−NH−で表される基(ここでbは、1〜15の整数である)が好ましく、L2としては、−(CH2)c−CO−で表される基(ここでcは、1〜15の整数である)が好ましい。 mは、通常5以上、好ましくは10以上、より好ましくは40以上、また、通常20,000以下、好ましくは3,000以下、より好ましくは2,000以下、特に好ましくは1,000以下の整数である。 nは、通常5以上、好ましくは10以上、より好ましくは40以上、また、通常5,000以下、好ましくは1,000以下、より好ましくは500以下、特に好ましくは300以下の整数である。 xは、通常0以上、好ましくは1以上、より好ましくは10以上、また、通常5,000以下の整数である。但し、x≦nである。 y及びzは、各々独立に、通常0以上、好ましくは1以上、また、通常5,000以下の整数である。但し、y+z≦nである。特に好ましくは、10≦y≦n−10、10≦z≦n−10である。 なお、一般式(I)〜(IV)において、ポリ(アミノ酸又はその誘導体)セグメントが複数種の反復単位を有する場合、各反復単位は種類毎にブロックを形成していてもよく、ランダムに混在していてもよい。 また、一般式(I)〜(IV)において、ポリ(アミノ酸又はその誘導体)セグメントが有するカチオン性基は、遊離カチオン性基であってもよいが、塩を形成していてもよい。この場合、塩を形成する対イオンとしては、制限されるものではないが、Cl−、Br−、I−、(1/2SO4)−、NO3−、(1/2CO3)−、(1/3PO4)−、CH3COO−、CF3COO−、CH3SO3−、CF3SO3−等が挙げられる。 一般式(I)〜(IV)のブロックコポリマーの製法は、限定されるものではないが、例としては以下に説明する2種の方法が挙げられる。 第1の方法としては、末端にアミノ基を有するPEG誘導体を用い、そのアミノ末端から、β−ベンジル−L−アスパルテート、Nε−Z−L−リシン等の保護アミノ酸のN−カルボン酸無水物(NCA)を重合させてブロックコポリマーを合成し、その後得られたポリ(アミノ酸誘導体)セグメントの保護アミノ酸側鎖を、所望のアミノ酸側鎖に変換する方法が挙げられる。この場合、得られるブロックコポリマーの構造は、一般式(I)又は(III)となる。 第2の方法としては、所望のアミノ酸側鎖を有するポリ(アミノ酸又はその誘導体)セグメントを合成してから、これをPEGセグメントと結合させる方法も挙げられる。この場合、得られるブロックコポリマーの構造は、一般式(I)〜(IV)の何れかとなる。 第1及び第2の何れの方法を用いる場合も、ポリ(アミノ酸又はその誘導体)セグメントに所望のアミノ酸側鎖を後から導入する場合、その手法は任意であるが、例えばポリアスパラギン酸構造の場合、特許第2777530号公報等に記載のポリ(β−ベンジル−L−アスパルテート)部分のアミノ分解によるエステルからアミドへの交換反応等が挙げられる。別法としては、ベンジルエステルを接触還元、酸、アルカリ等により加水分解し、ポリアスパラギン酸又はポリグルタミン酸に変換した後、縮合剤等を用いてこれらの残基を有する化合物を結合させるという方法も挙げられる。 また、第1及び第2の何れの方法を用いる場合も、ブロックコポリマーの末端(R1、R3、R5、R6)に保護基、疎水性基、重合性基等を後から導入する場合、その手法は任意であるが、酸ハロゲン化物を用いる方法、酸無水物を用いる方法、活性エステルを用いる方法等、通常の合成で用いられる手法が挙げられる。[カチオン性ポリマー] カチオン性ポリマーは、カチオン基を有し、カチオン性(陽イオン性)を示すポリマーである。但し、カチオン性ポリマーは、高分子ミセルの形成を妨げない範囲で、多少のアニオン基を有していてもよい。 カチオン性ポリマーの種類も限定されない。単一の反復単位からなるポリマーでもよく、二種以上の反復単位を任意の組み合わせ及び比率で含有するセグメントでもよい。カチオン性ポリマーとしてはポリアミン等が好ましく、側鎖にアミノ基を有するポリアミノ酸又はその誘導体が特に好ましい。側鎖にアミノ基を有するポリアミノ酸又はその誘導体としては、ポリアスパルタミド、ポリグルタミド、ポリリシン、ポリアルギニン、ポリヒスチジン、及びこれらの誘導体等が挙げられるが、特にポリアスパルタミド誘導体及びポリグルタミド誘導体が好ましい。 カチオン性ポリマーの分子量は、限定されるものではないが、均質な高分子ミセルを効率的に製造する観点からは、所定の範囲内の分子量を有することが好ましい。カチオン性ポリマーの反復単位数も制限されないが、通常はカチオン性ポリマーの分子量が所定の分子量範囲を満たすように、その反復単位の種類に応じて決定される。具体的には、カチオン性ポリマーとしてポリアスパラギン酸誘導体又はポリグルタミン酸誘導体を用いる場合、その反復単位数は、好ましくは5以上、より好ましくは10以上、また、好ましくは300以下、より好ましくは200以下の範囲である。 前記条件を満たすカチオン性ポリマーを用いることにより、ブロックコポリマーの水性溶液中での会合・沈殿を防止して安定化し、担体組成物として機能し得る高分子ミセルを効率的に構築することが可能となる。 (カチオン性ポリマーの具体例〕 本発明のカチオン性ポリマーの好ましい具体例としては、下記式(I’)〜(IV’)に示すポリ(アミノ酸又はその誘導体)が挙げられる。(式(I’)及び(II’)中、R2、R3、R4、R5、n及びxは、式(I)及び(II)の同符号の基と同じ定義を表す。)(式(III’)及び(IV’)中、R2、R3、R4、R5、R6、n、x、y及びzは、式(III)及び(IV)の同符号の基と同じ定義を表す。) 式(I’)〜(IV’)における各基の詳細、式(I’)〜(IV’)に示すポリ(アミノ酸又はその誘導体)の詳細、並びにその製造方法の詳細は、式(I)〜(IV)のブロックコポリマーのポリ(アミノ酸又はその誘導体)セグメントについて上述した通りである。 なお、式(I’)〜(IV’)においてR5が−NH−(CH2)a−X基である場合、Xは通常は前記のA群〜E群に分類される残基の中から選択されるが、中でもB群が好ましく、特に以下のアミン化合物残基が好ましい。(式中、R7は、水素原子又はメチル基であり、d及びeは各々独立に、1〜5の整数である。)[B/H比] 本発明の核酸送達用組成物及び担体組成物が有するブロックコポリマーとカチオン性ポリマーとの比率は、ブロックコポリマー及びカチオン性ポリマーが有する総カチオン基に対する、ブロックコポリマーが有するカチオン基のモル百分率(本明細書ではこれを「B/H比」と表示する場合がある。)によって表される。具体的には以下の式で表される。 本発明では、前記のB/H比を、通常25%超、好ましくは30%以上、より好ましくは40%以上、更に好ましくは50%以上、また、通常90%以下、好ましくは85%以下、より好ましくは80%以下の範囲とする。B/H比を前記範囲内に収めることで、低い細胞毒性と高い核酸導入効率という両特性を兼ね備えた、優れた核酸送達用組成物を得ることが可能となる。 本発明において、B/H比を前記範囲内に収めることでこのような効果が得られる理由は明らかではないが、B/H比を前記下限値以上の範囲とすることで、ゼータ電子を比較的0に近い値に維持し、毒性を十分に抑制することが可能となる一方、B/H比を前記上限値以下の範囲とすることで、粒子形状を球状又は略球状に維持し、培地中や血中での粒子の安定性を高め、惹いては核酸導入効率を十分に発揮することが可能となる結果、低い細胞毒性と高い核酸導入効率とが両立されるものと推測される。 なお、本発明の核酸送達用組成物及び担体組成物が、2種以上のブロックコポリマー及び/又は2種以上のカチオン性ポリマーを含有する場合には、それら2種以上のブロックコポリマー全体及び/又は2種以上のカチオン性ポリマー全体のB/H比が、前記範囲を満たしていればよい。[核酸] 本発明の核酸送達用組成物に使用される核酸は制限されない。即ち、核酸としては、DNA、RNA、天然又は非天然の核酸類縁体(例えばペプチド核酸等)、改変核酸、修飾核酸等が挙げられるが、何れであってもよい。また、核酸は一本鎖でも二本鎖でもよく、タンパク質のコード化の有無やその他の機能の有無も制限されない。 但し、核酸としては、生体内に送達された場合に生体、組織、細胞等に対して何らかの作用を及ぼし得る機能性核酸であることが好ましい。機能性核酸としては、プラスミドDNA、siRNA、miRNA(マイクロRNA)、アンチセンスRNA、アンチセンスDNA、デコイ核酸、リボザイム、DNA酵素、各種抑制遺伝子(癌抑制遺伝子等)、機能性の改変核酸・修飾核酸(例えば、核酸のリン酸部分がホスホロチオエート、メチルホスホナート、ホスフェートトリエステル、ホスホロアミデート等に改変された核酸や、高分子ミセル安定化等の用途に向けて、コレステロールやビタミンE等の疎水性官能基が結合された核酸)等が挙げられる。これらは核酸送達用組成物の用途に応じて選択される。 プラスミドDNAとしては、標的細胞・組織において所望の機能を発揮し得るものであればよい。斯かるプラスミドDNAは種々のものが知られており、当業者であれば核酸送達用組成物の用途に応じて所望のプラスミドDNAを選択することが可能である。 また、siRNAとしては、RNA干渉(RNAi)を利用して目的の遺伝子の発現を抑制し得るものであればよい。RNA干渉の目的遺伝子としては、癌(腫傷)遣伝子、抗アポトーシス遺伝子、細胞周期関連遺伝子、増殖シグナル遺伝子等が好ましく挙げられる。また、siRNAの塩基長は限定されないが、通常30塩基未満、好ましくは19〜21塩基である。 核酸は、1種を単独で使用してもよいが、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で使用してもよい。 なお、核酸分子はポリアニオンとなるため、前記ブロックコポリマーのポリカチオン部分の側鎖と、静電的相互作用により結合(会合)することができる。[N/P比] ブロックコポリマー及びカチオン性ポリマーに対する核酸の比率は、[核酸が有するリン酸基]に対する[ブロックコポリマー及びカチオン性ポリマーが有するカチオン性基]のモル比(本明細書ではこれを「N/P比」と表示する場合がある。)で表される。 本発明において、このN/P比は、限定されるものではないが、通常2以上、好ましくは4以上、より好ましくは6以上、また、通常200以下、好ましくは100以下、好ましくは50以下の範囲である。本発明の核酸送達用組成物は、従来のPIC型高分子ミセル型の核酸送達用組成物と比べて核酸導入効率に優れているため、従来よりも少ない核酸の使用量(即ち、従来よりも低いN/P比)で、効率的に核酸を送達し、遺伝子発現させることが可能である。[その他の成分] 本発明の核酸送達用組成物及び担体組成物を製造する際に、ブロックコポリマー、カチオン性ポリマー及び核酸に加え、高分子ミセルの形成を妨げない、或いは安定性を下げない範囲で、その他の成分を添加することができる。その他の成分に特に制限はないが、具体例としては、非荷電又は荷電性の重合体、荷電性ナノ粒子等が挙げられる。 非荷電又は荷電性の重合体としては、上述のブロックコポリマー及びカチオン性ポリマー以外の任意の非荷電又は荷電性の重合体が挙げられる。 荷電性ナノ粒子としては、表面に架電を有する金属系ナノ粒子等が挙げられる。 前記その他の成分は、一種を単独で使用してもよく、二種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。 前記その他の成分の使用量も制限されないが、高分子ミセルの形成を妨げない程度に抑えることが好ましい。具体的には、本発明の組成物の総重量に対して、通常30%以下、好ましくは20%以下、より好ましくは10%以下とすることが望ましい。[担体組成物の調製法] 本発明の担体組成物は、通常は、前記のブロックコポリマー及びカチオン性ポリマー、並びに必要に応じて用いられるその他の成分を、混合することにより調製される。 具体的には、前記のブロックコポリマーを含んでなる第1の水性溶液と、前記のカチオン性ポリマーを含んでなる第2の水性溶液とを用意する。第1及び第2の水性溶液は、所望により濾過して精製してもよい。 第1の水性溶液におけるブロックコポリマーの濃度、及び、第2の水性溶液におけるカチオン性ポリマーの濃度は限定されず、ブロックコポリマーとカチオン性ポリマーとの比率、ブロックコポリマー及びカチオン性ポリマーの水性溶液への溶解度、高分子ミセルの形成効率等の条件を勘案して、適宜決定される。 第1及び第2の水性溶液の溶媒は、水性溶媒であれば、その種類は限定されない。好ましくは水であるが、高分子ミセルの形成を妨げない範囲で、水に他の成分を混合した溶媒、例えば生理食塩水、水性緩衝液、水と水溶性有機溶媒との混合溶媒等も用いることができる。水性緩衝液としては10mM HEPES緩衝液等が挙げられる。 第1及び第2の水性溶液のpHは、高分子ミセルの形成を妨げない範囲で適宜調整することが可能であるが、好ましくはpH5以上、より好ましくはpH6.5以上であり、また、好ましくはpH9以下、より好ましくはpH7.5以下である。pHの調整は、溶媒として緩衝液を用いることにより、容易に行うことができる。第1及び第2の水性溶液のpHを調整して用いることは、ブロックコポリマー及びカチオン性ポリマーの荷電状態を保持し、効率的に高分子ミセルを形成する上で有利である。 第1及び第2の水性溶液の塩濃度は、高分子ミセルの形成を妨げない範囲で適宜調整することが可能であるが、好ましくは5mM以上、より好ましくは10mM以上であり、また、好ましくは300mM以下、より好ましくは150mM以下である。 第1及び第2の水性溶液の混合方法も限定されない。第1の水性溶液に第2の水性溶液を加えてもよく、第2の水性溶液に第1の水性溶液を加えてもよい。また、容器に第1及び第2の水性溶液を同時に入れて混合してもよい。得られた第1及び第2の水性溶液の混合液を、適宜攪拌してもよい。 第1及び第2の水性溶液の混合時の温度は、高分子ミセルの形成を妨げない範囲であれば限定されないが、ブロックコポリマー及びカチオン性ポリマーの温度に応じた溶解度を勘案して設定することが好ましい。具体的には、通常0℃以上、また、好ましくは60℃以下、より好ましくは50℃以下である。 混合後、形成された高分子ミセルを含有する担体組成物を、すぐに所望の用途に供してもよいが、系を平衡化させるために、混合液を静置する時間を設けてもよい。混合液を静置する時間は、高分子ミセルの形成効率等の条件によって異なるが、好ましくは50時間以下、より好ましくは30時間以下である。但し、前述のように架橋剤を用いない場合、形成された高分子ミセルの径が経時的に増大する傾向があるので、静置時間を設けないことが好ましい場合もある。 ブロックコポリマー及びカチオン性ポリマー以外のその他の成分を用いる場合、前記の第1及び第2の水性溶液の混合時又は混合後に、当該その他の成分を加えて混合すればよい。当該その他の成分をそのまま加えて混合してもよいが、当該その他の成分を含有する水性溶液を調製し、これを混合してもよい。当該その他の成分の水性溶液の調製における水性溶媒、pH、温度、イオン強度等の調製条件は、第1及び第2の水性溶液について上述した条件と同様である。 また、更に透析、希釈、濃縮、撹拌等の操作を適宜付加してもよい。[核酸送達用組成物の調製法] 本発明の核酸送達用組成物は、通常は、前記の核酸を、(i)前記のブロックコポリマー及びカチオン性ポリマー、並びに必要に応じて用いられるその他の成分と混合するか、或いは、(ii)予め調製された本発明の担体組成物と混合することにより調製される。 (i)の場合、上述の担体組成物の調製手順において、前記の第1の水性溶液(ブロックコポリマーの水性溶液)と第2の水性溶液(カチオン性ポリマーの水性溶液)との混合時に、更に核酸を加えて混合すればよい。また、第1の水性溶液又は第2の水性溶液に予め核酸を加えて混合してから、第1の水性溶液と第2の水性溶液とを混合してもよい。 (ii)の場合、前記の第1の水性溶液(ブロックコポリマーの水性溶液)と第2の水性溶液(カチオン性ポリマーの水性溶液)とを混合して得られた担体組成物に、更に核酸を加えて混合すればよい。第1及び第2の水性溶液の混合による担体組成物の調製後、直ぐに核酸を加えて混合してもよいが、混合液を静置して系を平衡化させてから、更に核酸を加えて混合してもよい。 (i)及び(ii)の何れの場合も、核酸はそのまま加えて混合してもよいが、核酸を含有する水性溶液(第3の水性溶液)を調製し、これを加えて混合してもよい。第3の水性溶液の調製における水性溶媒、pH、温度、イオン強度等の調製条件は、第1及び第2の水性溶液について上述した条件と同様である。 また、更に透析、希釈、濃縮、撹拌等の操作を適宜付加してもよい。[核酸送達用組成物及び担体組成物の構造] 本発明の核酸送達用組成物及び担体組成物の形状は、限定されないが、通常は球状又は略球状である。 本発明の核酸送達用組成物及び担体組成物の粒径は、ブロックコポリマー及びカチオン性ポリマーの種類及び量比、その他の成分の有無、核酸送達用組成物及び担体組成物の周辺環境(水性媒体の種類)等に応じて異なるが、好ましくは10nm以上、より好ましくは50nm以上、また、好ましくは200nm以下、より好ましくは150nm以下である。 なお、生理環境や生理食塩水中等の塩存在条件下では、核酸送達用組成物及び担体組成物の粒径は経時的に増大する傾向があるが、架橋剤を導入することにより粒径の増大を防止することが出来る。 本発明の核酸送達用組成物及び担体組成物の粒子内構造は定かではないが、後述のようにゼータ電位が0に近いことを考慮すると、以下のように推測される。 担体組成物においては、ブロックコポリマーの親水性セグメントが粒子外殻周辺に密集して存在するとともに、ブロックコポリマーのカチオン性ポリマーセグメント及びカチオン性ポリマーが主に粒子内部側に存在する、PIC型高分子ミセルの構造を有しているものと考えられる。 また、核酸送達用組成物においても同様に、ブロックコポリマーの親水性セグメントが粒子外殻周辺に密集して存在する一方、ブロックコポリマーのカチオン性ポリマーセグメント及びカチオン性ポリマーが核酸と静電結合し、主に粒子内部側に内包・担持された状態で存在する、PIC型高分子ミセルの構造を有しているものと考えられる。[核酸送達用組成物及び担体組成物の用途] 本発明の核酸送達用組成物は、インビトロ又はインビボにおいて、核酸を標的細胞又は組織に送達するために使用できる。本発明の核酸送達用組成物によれば、標的細胞内へ安定したまま送達することが困難であった核酸を、容易に安定化した状態で送達することができるとともに、細胞毒性も抑制することが可能となる。また、細胞内外のpHの変化を利用し、核酸送達用組成物の粒子内部に内包・担持された核酸を、標的細胞内に効率的に導入する手段として使用することができる。更に、核酸としてタンパク質をコードする遺伝子を用い、これを細胞又は組織に送達して発現させる場合には、本発明の核酸送達用組成物を用いることにより、高い遺伝子発現効率を得ることが可能となる。 本発明の核酸送達用組成物を用いて核酸を標的細胞又は組織に送達するには、核酸送達用組成物が標的細胞又は組織と接触し得る状態にすればよい。 インビトロで本発明の核酸送達用組成物と標的細胞又は組織との接触を達成するには、本発明の核酸送達用組成物の存在下で標的細胞又は組織を培養するか、又は標的細胞又は組織の培養物中に核酸送達用組成物を添加すればよい。 インビボで本発明の核酸送達用組成物と標的細胞又は組織との接触を達成するには、遺伝療法等の当該技術分野で常用されている投与方法により、本発明の核酸送達用組成物を、当該核酸の導入を必要とする個体(又は処置すべき個体)に投与すればよい。このような個体としては、限定されるものでないが、ヒト、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、ウシ、ウマ、ブタ、鳥類等を挙げることができる。投与方法としては、標的細胞又は組織の近傍又は組織内への直接導入又は移植,静脈内注入、動脈内注入、筋肉内注入、経口投与、経肺投与等を挙げることができる。投与量、投与回数及ぴ投与期間などの各条件は、被験動物の種類及び状態等に合わせて適宜設定することができる。 なお、特に肺は外来の異物に対する感受性が高く、従来のDDSを用いた薬物送達では炎症が惹起される場合があり、経肺投与は極めて困難であったが、本発明の核酸送達用組成物によれば、毒性を低く抑えつつ高い遺伝子発現効率を得ることが可能であるため、経肺投与にも好適に使用することができる。 また、本発明の担体組成物は、核酸を担持させて本発明の核酸送達用組成物とすることにより、前記核酸送達用組成物と同様の用途に使用することが出来る。核酸を担持させる手法については、[核酸送達用組成物の調製法]で述べたとおりである。[医薬組成物] 本発明によれば、本発明の核酸送達用組成物又は担体組成物を含んでなる医薬組成物(本発明の医薬組成物)も提供される。本発明の医薬組成物は、例えば、各種疾患の原因となる細胞又は組織を標的として、所望の核酸を送達・導入する治療(遺伝子治療)に用いることができる。 本発明の医薬組成物の投与対象となる個体は、核酸送達用組成物について前記したものと同様である。本発明の医薬組成物による治療対象となる疾患としては、制限されるものではないが、癌(例えば肺癌、膵臓癌、脳腫傷、肝癌、乳癌、大腸癌、神経芽細胞腫及び膀胱癌等)、循環器疾患、運動器疾患、及び中枢系疾患等が挙げられる。 本発明の医薬組成物は、本発明の核酸送達用組成物又は担体組成物に加えて、薬剤製造上一般に用いられるその他の成分を含んでいてもよい。その他の成分の例としては、賦形剤、増量剤、充填剤、増量剤、結合剤、湿潤剤、崩壊剤、潤滑剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、防腐剤、矯味矯臭剤、無痛化剤、安定化剤及び等張化剤等が挙げられる。斯かる他の成分は1種を単独で用いても、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。これらの他の成分の種類や使用量等の詳細は、医薬組成物の目的、用途、使用方法等に応じて、当業者であれば適宜決定することが可能である。 本発明の医薬組成物の形態も任意であるが、通常は静脈内注射剤(点滴を含む)が採用され、例えば単位投与量アンプル又は多投与量容器の状態等で提供される。 本発明の医薬組成物の使用方法も任意である。核酸送達用組成物を含む医薬組成物であればそのまま投与することが可能である。担体組成物を含み、核酸を含まない医薬組成物の場合には、使用前に核酸と混合し、担体組成物に核酸を担持させてから、投与に供すればよい。[核酸送達方法] また、本発明によれば、インビトロ又はインビボにおいて、核酸を標的細胞又は組織に送達する方法(本発明の核酸送達方法)が提供される。本発明の核酸送達方法には、以下の(1)(2)の方法が包含される。(1)本発明の核酸送達用組成物又は医薬組成物を用いる方法 本方法では、先に説明した本発明の核酸送達用組成物又は医薬組成物を用い、これをインビトロ又はインビボにおいて標的細胞又は組織と接触させることにより、標的細胞又は組織に核酸を送達する。核酸送達用組成物及び医薬組成物の詳細、標的細胞又は組織への接触方法等については、前述したとおりである。本方法によれば、細胞毒性を低く抑えつつ、高い効率で核酸導入を行うことが出来る点も、前述したとおりである。(2)ブロックコポリマーと核酸を含む組成物を、現位置(in situ)においてカチオン性ポリマーと共存させる方法 本方法では、本発明の核酸送達用組成物又は医薬組成物からカチオン性ポリマーを除いた組成物(即ち、ブロックコポリマーと核酸を含む組成物。以降の記載では「ブロックコポリマー系核酸組成物」という場合がある。)を用い、これをインビトロ又はインビボにおいて標的細胞又は組織と接触させるとともに、別途カチオン性ポリマーを標的細胞又は組織に接触させ、現位置(in situ)でブロックコポリマー系核酸組成物と共存させる方法である。更に、標的細胞又は組織におけるブロックコポリマー系核酸組成物のブロックコポリマーとカチオン性ポリマーとの共存比を、B/H比が前記特定の範囲を満たすような比に調整する。本方法(2)によっても、前記方法(1)(本発明の核酸送達用組成物を用いて核酸送達を行う方法)と同様、細胞毒性を低く抑えつつ、高い効率で核酸導入を行うことが可能である。 本方法(2)の詳細は以下の通りである。 ブロックコポリマー系核酸組成物を構成するブロックコポリマー及び核酸の詳細については、本発明の核酸送達用組成物について前述したとおりである。ブロックコポリマーと核酸との使用比率も任意であり、核酸送達の目的や条件等に応じて適宜選択すればよいが、原位置で共存するカチオン性ポリマーの共存比率を勘案して、前記N/P比の範囲が満たされるような比率で使用することが好ましい。ブロックコポリマー系核酸組成物の調製についても、本発明の核酸送達用組成物の調製に準じて、各成分を混合することにより行うことが可能である。 カチオン性ポリマーの詳細についても、本発明の核酸送達用組成物について前述したとおりである。 ブロックコポリマー系核酸組成物及びカチオン性ポリマーを標的細胞又は組織に接触させる方法としては、前述した本発明の核酸送達用組成物を標的細胞又は組織に接触させる方法を用いることができる。但し、原位置で所望のN/P比を達成するためには、原位置でのブロックコポリマー系核酸組成物及びカチオン性ポリマーの各濃度をある程度正確に制御することが可能な方法を用いることが好ましい。かかる濃度制御をインビトロにおいて達成する好ましい接触方法としては、培養前の培地に予め添加する方法、培養中の培地又は培養物に後から添加する方法、が挙げられる。また、かかる制御をインビボで達成する好ましい接触方法としては、局所投与、血中投与等が挙げられる。なお、特にカチオン性ポリマーについては、細胞又は組織への接触効率を向上させるために、公知のアニオン性ポリマーと混合した状態で投与することも好ましい。 なお、ブロックコポリマー系核酸組成物及びカチオン性ポリマーを標的細胞又は組織に接触させる順番も制限されず、任意である。即ち、ブロックコポリマー系核酸組成物及びカチオン性ポリマーを同時に標的細胞又は組織に接触させてもよいが、まず何れか一方を標的細胞又は組織に接触させ、続いて他方を標的細胞又は組織に接触させてもよい。これらを同時に標的細胞又は組織に接触させる場合、両者を個別に標的細胞又は組織に接触させてもよく、両者を混合してから標的細胞又は組織に接触させてもよい。これらを個別に標的細胞又は組織に接触させる場合、その接触手法は同一でも異なってもよい。 本発明の核酸送達方法は、種々の用途に用いることが可能であるが、中でも、インビトロ又はインビボにおいて、各種疾患の原因となる細胞又は組織を標的とし、所望の核酸を送達・導入する治療(遺伝子治療)に好適に用いることが可能である。 次に、実施例を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。なお、以下の実施例は、あくまでも例示を目的とするものであり、本発明を何ら限定するものではない。[実施例群I:核酸送達用組成物の物性及びインビトロ(in vitro)特性の検討](ブロックコポリマー) <PEG−PAsp(DET)の構造> ブロックコポリマーとしては、ポリエチレングリコール(以降の記載では「PEG」と表示する)セグメントとポリ(アスパラギン酸−ジエチレントリアミン誘導体)(以降の記載では「PAsp(DET)」と表示する)セグメントとを有する、以下に示すブロックコポリマー(以降の記載では「PEG−PAsp(DET)」と表示する)を用いた。(式中、 mはPEGの重合度を表し、約270である。 nはPAsp(DET)の重合度を表し、約61である。 a、bは何れも0より大きく、1未満の数である。但しa+b=1である。 cは連結基であるエチレン基の繰り返し数を表し、約3である。) PEG−PAsp(DET)のPEGセグメントの分子量は約12000、PAsp(DET)セグメントの分子量は約14000であった。 <PEG−PAsp(DET)の製法> PEG−PAsp(DET)は、以下の(1)(2)の手順で作製した。 (1)PEG−ポリベンジル−L−アスパルテート(PEG−PBLA)の合成: NCA(アミノ酸無水物)化合物を少量のDMF(ジメチルホルムアミド)に溶解し、そこに塩化メチレンを加えた。重合開始剤として、ジクロロメタンに溶解した片末端に1級アミノ基を有するPEGを加え、35℃で2日間攪拌した。これらの操作は、乾燥アルゴン雰囲気下で行った。生成したPEG−PBLAは、n−ヘキサン/酢酸エチル(6/4)の混合溶液中に滴下して沈殿させ、濾過後減圧乾燥することによって回収した。生成したPEG−PBLAの分子量分布を、PEGスタンダードの検量線を用いてゲル濾過クロマトグラフィー(GPC)解析したところ、Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)は1.05であった。また、1H NMR測定により重合度を求めたところ、65であった。 (2)PEG−PAsp(DET)の合成: PEG−PAsp(DET)はPEG−PBLAのアミノリシス反応を利用して合成した。乾燥させたPEG−PBLA50mgをNMP(N−メチルピロリドン)2mL中に溶解させ、それぞれ5℃及び0℃に冷却した。別容器にPEG−PBLAのベンジルエステル基に対して50倍モル量のDETを等量のNMPで希釈した溶液を調製し、前記PEG−PBLA溶液と同じ温度に冷却した。そこに前記PEG−PBLA溶液をゆっくりと滴下し、1時間の反応の後、反応溶液をよく冷却した5N HCl(好ましくは1N程度の希酸)に溶液温度が5℃以下になるよう制御しながら滴下した。その後、0.01N程度のHCl水溶液に対して4℃に保ったまま透析を行い(pH2)、さらに純水に対して透析を行うことで過剰の酸を取り除いた。最終的に得られたポリマー水溶液を凍結乾燥し、PEG−PAsp(DET)を塩として回収した。定量的なアミノリシス反応は1H NMR測定により確認した。(カチオン性ポリマー) <Homo−PAsp(DET)の構造> カチオン性ポリマーとしては、以下に示すポリ(アスパラギン酸−ジエチレントリアミン誘導体)ホモポリマー(以降の記載では「Homo−PAsp(DET)」と表示する)を用いた。(式中、 nはPAsp(DET)の重合度を表し、約54である。 a、bは何れも0より大きく、1未満の数である。但しa+b=1である。) なお、前記Homo−PAsp(DET)の分子量は約10000であった。 <Homo−PAsp(DET)の製法> Homo−PAsp(DET)は、前記<PEG−PAsp(DET)の製法>に準じて調製した。 即ち、前記<PEG−PAsp(DET)の製法>の工程(1)において、PEGの代わりにn−ブチルアミンを用いた他は同様の操作を行うことにより、ポリベンジル−L−アスパルテート(PBLA)を作製した。GPCによるMw/Mnは1.06、1H NMR測定による重合度は65であった。 次いで、前記<PEG−PAsp(DET)の製法>の工程(1)において、PEG−PBLAの代わりに上で得られたPBLA50mgを用いた他は同様の操作を行うことにより、Homo−PAsp(DET)を調製した。(核酸) 核酸としては、ルシフェラーゼをコードするプラスミド(Luc pDNA)を用いた。このプラスミドは、理研セルバンクより入手し、大腸菌に導入し、培養によって増幅し、NucleoBond Xtra Maxi(日本ジェネティクス社製)を用いて精製した後に使用した。(核酸送達用組成物の調製) 前記のブロックコポリマー(PEG−PAsp(DET))、カチオン性ポリマー(Homo−PAsp(DET))及び核酸(Luc pDNA)を用い、以下の手順で組成物(核酸送達用組成物)を調製した。なお、以下の記載において単に「溶液」と表示する場合は、10mM HEPESバッファー中溶液を指すものとする。 1mg/mLブロックコポリマー溶液と、1mg/mLカチオン性ポリマー溶液とを、B/H比が後述の種々の値を満たすように混合した後、10mM HEPESバッファー中でN/P比が後述の種々の値を満たすように所定量のpDNAと混合することにより、組成物(核酸送達用組成物)を得た。(形状観察) B/H比を100%(ブロックコポリマー単独)、75%、50%、25%又は0%(カチオン性ポリマー単独)とし、N/P比を3として、上記手順で調製した組成物(核酸送達用組成物)を用いた。各組成物(核酸送達用組成物)について、酢酸ウラニル水溶液を用いて核酸を染色した後、粒子形状を透過型電子顕微鏡で観察した。 各組成物について得られた透過型電子顕微鏡写真を図1(a)及び(b)に示す。図1(b)の各写真は図1(a)の対応する写真中の代表的な粒子の拡大写真である。B/H比が100%の組成物中では粒径が比較的大きく、粒子形状が比較的細長状であったのに対し、B/H比が低下するに従って粒径が徐々に小さくなり、粒子形状が球状に近付くことが分かる。(ゼータ電位の測定) B/H比を100%(ブロックコポリマー単独)、75%、50%、25%又は0%(カチオン性ポリマー単独)とし、N/P比を3として、上記手順で調製した組成物(核酸送達用組成物)を用いた。各組成物(核酸送達用組成物)のゼータ電位を以下の手順により測定した。 各組成物(核酸送達用組成物)を折り畳みキャピラリーセル(folded capillary cells)(Malvern Instruments, Ltd.)に注入し、Malvern Instruments, Ltd.製Nano ZSを用いて測定に供した。得られた結果から、以下のスモルコフスキー(Smoluchowski)方程式によりゼータ電位を算出した。ζ=4πηυ/e ・・・スモルコフスキー(Smoluchowski)方程式(式中、ζはゼータ電位を表し、ηは溶媒の粘度を表し、υは電気泳動移動度を表し、eは溶媒の誘電率を表す。) 得られたゼータ電位とB/H比の値との関係を図2のグラフに示す。B/H比が25%以上の範囲では、ゼータ電位は0mVに近い値であったのに対し、B/H比が25%よりも低下すると、ゼータ電位は急激に上昇した。ここから、B/H比が25%以上の範囲においては、ブロックコポリマーの非荷電親水性ポリマーセグメントが粒子の外側に存在し、ブロックコポリマーのカチオン性ポリマーセグメントが核酸と静電結合して粒子の内側に存在する、PIC型の高分子ミセル粒子が形成されているものと推測される。(トランスフェクション効率及び細胞毒性の測定) B/H比を100%(ブロックコポリマー単独)、80%、70%、60%、50%、25%又は0%(カチオン性ポリマー単独)とし、N/P比を4、6、8、12、16として、上記手順で調製した組成物(核酸送達用組成物)を用いた。各組成物(核酸送達用組成物)のトランスフェクション効率及び細胞毒性を、以下の手順で測定した。 HUVEC(正常ヒト臍帯静脈内皮細胞)を24ウェルプレートに対し、各ウェル20,000細胞の細胞密度となるように、400μLのEBM−2とともに播種し、24時間培養した。その後、各組成物(核酸送達用組成物)を各ウェルに30μLずつ加え、更に24時間培養した。細胞をPBSで洗浄し、新たなEBM−2を各ウェルに400μLずつ加え、更に24時間培養した。その後、セルカウンティングキット(Cell Counting Kit-8:同仁化学研究所製)を用い、使用説明書に従って、各ウェル内の生存細胞数を計数することにより、細胞毒性の指標とした。 続いて、培地を除去し、細胞をPBSで穏やかに洗浄した。細胞溶解液(Cell Culture Lysis Buffer:Promega社製)を200μL/ウェルずつ加え、ルシフェラーゼアッセイキット(Luciferase Assay System Kit:Promega社製)及びLB940機器(Mithras社製)を用いてフォトルミネッセンス強度を測定することにより、ルシフェラーゼ活性を決定し、トランスフェクション効率の指標とした。なお、細胞溶解液中のタンパク質量は、MicroBCA(登録商標)タンパク質アッセイ試薬キット(MicroBCA(登録商標) Protein Assay Reagent Kit:Thermo Scientific社製)により決定した。 各組成物(核酸送達用組成物)について得られたトランスフェクション効率とB/H比及びN/P比との関係を表すグラフを図3に示す。B/H比が100%の組成物ではトランスフェクション効率が非常に低いのに対し、B/H比が80%又はそれ以上の組成物ではトランスフェクション効率の明らかな向上が見られた。また、何れのB/H比においても、N/P比が高くなるに従って、やはりトランスフェクション効率の向上が見られた。 また、各組成物(核酸送達用組成物)について得られた細胞毒性とB/H比及びN/P比との関係を表すグラフを図4に示す。B/H比が25%以下の組成物では生存細胞数が極めて少なく、細胞毒性が比較的高かったのに対し、B/H比が25%を超える組成物では生存細胞数が増加しており、細胞毒性の明らかな低減がみられた。また、何れのB/H比においても、N/P比が高くなるに従って、やはり細胞毒性の低減が見られた。[実施例群II:核酸送達用組成物のインビボ(in vivo)特性の検討](ブロックコポリマー) ブロックコポリマーとしては、実施例群Iの式に示すPEG−PAsp(DET)において、c=3又はc=6のものを用いた(以降の記載ではそれぞれ「PEG−C3−PAsp(DET)」及び「PEG−C6−PAsp(DET)」と表示する。また、図5中ではそれぞれ「C3」及び「C6」と表示する。)。各ポリマーは実施例群Iの<PEG−PAsp(DET)の製法>に記載の手法に準じて合成した。(カチオン性ポリマー) カチオン性ポリマーとしては、実施例群Iと同じHomo−PAsp(DET)を用いた。(核酸) 核酸としては、以下の何れかを用いた。・sFlt−1をコードするプラスミド(sFlt-1 pDNA) sFlt-1はpVL1393バキュロウィルスベクター(pDNA)から切り出されたHuman sFlt-1 cDNA(2.4 kb)であり、東京医科歯科大渋谷教授から供与されたものである。アガロースゲル電気泳動で精製した後、Rapid DNA Ligation Kit(ロシュ社製)を用いてpCAccベクターに挿入し、大腸菌(DH5α)培養で増幅させ、培養プレート上に形成された10程度のコロニーをそれぞれ取り分けて更に培養し、それぞれのpDNAをアガロース電気泳動などで調べ、所望の配列が挿入されたpDNAを選別し、増幅したものを、NucleoBond(登録商標) Xtra(日本ジェネティクス社製)を用いて精製して使用した。・蛍光タンパク質(Venus)をコードするプラスミド(Venus pDNA) Venus pDNAは理研セルバンクより入手し、大腸菌に導入した後に培養によって増幅させ、NucleoBond Xtra Maxi(日本ジェネティクス社製)を用いて精製した後に使用した。・ルシフェラーゼをコードするプラスミド(Luc pDNA) このプラスミドは、実施例群Iと同様に入手・調製した。・ルシフェラーゼをコードするCy5標識プラスミド(Cy5-pDNA) 上記Luc pDNAにCy5標識を付したプラスミドである。Mirus社から購入したLabel IT Nucleic Acid Labeling Kit を使用し、取扱説明書に記載の手順に従ってCy5をラベルした。(動物) 8週齢マウスBalb/c(メス、チャールズリバーラボラトリー社より入手)をそのまま(以降「Balb/cマウス」と表示する場合がある)、又は5週齢ヌードマウスBalb/c(メス、チャールズリバーラボラトリー社より入手)にヒト膵臓ガンBxPC3を皮下接種し、腫瘍体積がおよそ45mm3に成長するまで2〜3週間飼育したもの(以降「BxPC3皮下接種マウス」と表示する場合がある)を使用した。(調製法) 前記のブロックコポリマー(PEG−C3−PAsp(DET)又はPEG−C6−PAsp(DET))、カチオン性ポリマー(Homo−PAsp(DET))及び核酸((sFlt-1 pDNA、Cy5-pDNA、Venus pDNA又はLuc pDNA)を用い、B/H比を以下の各項目に記載の値に種々変更し、N/P比を8として、実施例群Iの(核酸送達用組成物の調製)に記載の手順に従って、組成物(核酸送達用組成物)を調製した。(血中投与による腫瘍体積の経時変化測定) ブロックコポリマーとしてPEG−C3−PAsp(DET)又はPEG−C6−PAsp(DET)を用い、核酸としてsFlt-1 pDNAを用い、B/H比を100%(ブロックコポリマー単独)、70%、又は50%として得られた各組成物(核酸送達用組成物)(2OD、200μL)を、前記のBxPC3皮下接種マウス(各組成物あたり6頭ずつ)に対して、経静脈注射により全身投与した。各動物に対する投与は、実験開始後0日目、4日目及び8日目に行った。1回の投与量は、マウス1頭あたりの核酸投与量が20μgとなるように決定した。実験開始後の腫瘍体積を経時的に測定することにより、核酸送達による腫瘍抑制効果を調べた。 また、対照実験として、10mM HEPESバッファーを用いて、上記と同様の手法で投与及び腫瘍体積測定を行った。 各B/H比について得られた腫瘍体積の経時変化を表すグラフを図5に示す。PEG−C3−PAsp(DET)(図中「C3」と示す。)及びPEG−C6−PAsp(DET)(図中「C6」と示す。)の何れを用いた場合にも、対照(HEPESバッファー)の場合と比べて腫瘍抑制効果が見られた。その効果はB/H比が100%の組成物に比べて、B/H比が50%又は70%の組成物の方が優れており、特にB/H比が70%の組成物では顕著な腫瘍抑制効果が見られた。(血中投与による核酸送達用組成物の血中滞留性測定) ブロックコポリマーとしてPEG−C3−PAsp(DET)を用い、核酸としてCy5-pDNAを用い、B/H比を100%(ブロックコポリマー単独)、70%、又は50%として得られた各組成物(核酸送達用組成物)(2OD、200μL)を、前記のBxPC3皮下接種マウス(各組成物あたり8頭ずつ)に対して、経静脈注射により全身投与した。投与量は、マウス1頭あたりの核酸投与量が20μgとなるように決定した。投与後に経時的に採血を行い、採取した血液サンプル中の蛍光強度をIVIS(登録商標)イメージングシステム(Caliper社(Xenogen社)製)で測定した。投与直後の血液サンプル中の蛍光強度に対する、投与20分後の血液サンプル中の蛍光強度の比率を、血中滞留性の指標として求めた。 各B/H比について得られた血中滞留性の指標(投与直後の蛍光強度に対する投与20分後の蛍光強度の比率)を表すグラフを図6に示す。B/H比が70%の組成物では、投与から20分後の時点でも、核酸に由来する蛍光強度が、B/H比100%の組成物と同程度に維持されていた。一方、B/H比が50%の組成物では、核酸に由来する蛍光強度は低下していた。(血中投与による腫瘍における核酸発現観察1) ブロックコポリマーとしてPEG−C3−PAsp(DET)を用い、核酸としてVenus pDNAを用い、B/H比を100%(ブロックコポリマー単独)、70%、又は50%として得られた各組成物(核酸送達用組成物)(2OD、200μL)を、前記のBxPC3皮下接種マウス(各組成物あたり1頭ずつ)に対して、経静脈注射により全身投与した。投与量は、マウス1頭あたりの核酸投与量が20μgとなるように決定した。投与から2日後に腫瘍を切除し、10μm厚の切片を作製した。この切片を共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)で観察し、Venusの発現量及び発現部位を調べることにより、核酸送達による核酸発現有効性の指標とした。なお、Venusの発現部位の基準として、同切片の細胞核及び血管内皮細胞を免疫染色し、その部位も観察した。 また、対照実験として、10mM HEPESバッファーを用いて、上記と同様の手法で投与及びCLSM観察を行った。 各B/H比について得られた腫瘍組織切片のCLSM写真を図7(a)〜(d)に示す。本CLSM写真において、青色は細胞核、赤色は血管内皮細胞、緑色はVenus発現部位を表す。対照(HEPESバッファー)(図7(a))やB/H比が100%(図7(b))および50%(図7(c))の組成物ではVenus発現が殆ど見られなかったのに対し、B/H比が70%の組成物(図7(d))では、血管から離れた細胞においてもVenusの発現が見られた。(血中投与による腫瘍における核酸発現観察2) ブロックコポリマーとしてPEG−C3−PAsp(DET)を用い、核酸としてsFlt-1 pDNAを用い、B/H比を70%として得られた各組成物(核酸送達用組成物)(2OD、200μL)を、前記のBxPC3皮下接種マウス(各組成物あたり1頭ずつ)に対して、経静脈注射により全身投与した。投与量は、マウス1頭あたりの核酸投与量が20μgとなるように決定した。投与から2日後に腫瘍を切除し、10μm厚の切片を作製し、血管内皮細胞を免疫染色した。免疫染色には血管内皮細胞マーカーであるPECAM-1と、蛍光標識した二次抗体を使用した。また、sFlt-1の発現部位の基準として、同切片の細胞核及び血管内皮細胞も免疫染色した。染色後の切片を共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)で観察し、sFlt-1の発現量及び発現部位を調べることにより、核酸送達による核酸発現有効性の指標とした。 また、対照実験として、核酸送達用組成物の代わりに10mM HEPESバッファーを用い、上記と同様の手法で投与、免疫染色及びCLSM観察を行った。 対照(HEPESバッファー)について得られた腫瘍組織切片のCLSM写真を図8(a)に、B/H比70%の核酸送達用組成物について得られた腫瘍組織切片のCLSM写真を図8(b)に示す。本CLSM写真において、青色は細胞核、赤色は血管内皮細胞、緑色はsFlt-1発現部位を表す。対照(HEPESバッファー)ではsFlt-1発現が殆ど見られなかったのに対し、B/H比70%の核酸送達用組成物では、血管から離れた細胞においてもsFlt-1の顕著な発現が見られた。(血中投与による腫瘍における血管密度測定) ブロックコポリマーとしてPEG−C3−PAsp(DET)を用い、核酸としてsFlt-1 pDNAを用い、B/H比を100%(ブロックコポリマー単独)、70%、又は50%として得られた各組成物(核酸送達用組成物)(2OD、200μL)を、前記のBxPC3皮下接種マウス(各組成物あたり3頭ずつ)に対して、経静脈注射により全身投与した。各動物に対する投与は2回、実験開始後0日目及び4日目に行った。投与量は、マウス1頭あたりの核酸投与量が20μgとなるように決定した。投与から6日後に腫瘍を切除し、10μm厚の切片を作製し、血管内皮細胞を免疫染色した。免疫染色には血管内皮細胞マーカーであるPECAM-1と、蛍光標識した二次抗体を使用した。染色後の切片を共焦点レーザー顕微鏡(CLSM)で観察し、各切片あたり7枚のCLSM写真を撮像した。得られたCLSM写真をLSM510(カールツァイス社製)で画像解析して、緑色発光画素比率(血管内皮細胞比率に相当)を計測し、各切片の平均値を血管密度として求め、核酸送達による血管新生の抑制効果の指標とした。 また、比較実験として、ブロックコポリマーとしてPEG−C3−PAsp(DET)を用い、核酸としてLuc pDNAを用い、B/H比を70%として得られた組成物(核酸送達用組成物)を用いて、上記と同様の手法で投与、免疫染色及びCLSM観察を行った。 更に、対照実験として、10mM HEPESバッファーを用いて、上記と同様の手法で投与、免疫染色及びCLSM観察を行った。 各B/H比について得られた腫瘍組織の免疫染色CLSM写真の例を図9(a)に、免疫染色CLSM写真の画像解析によって求めた血管密度を表すグラフを図9(b)に示す。対照実験(HEPESバッファー)と比べて、Luc pDNAを用いた組成物(B/H比70%)では血管密度の増減が見られなかったのに対し、sFlt-1 pDNAを用いた組成物では特にB/H比が70%の組成物で血管密度が有意に低減されており、顕著な血管新生の抑制効果が認められた。(経肺投与によるトランスフェクション効率の評価) ブロックコポリマーとしてPEG−PAsp(DET)を用い、核酸としてLuc pDNAを用い、B/H比を100%(ブロックコポリマー単独)、75%、50%、25%又は0%(カチオン性ポリマー単独)として得られた各組成物(4OD、50μL)を、前記のBalb/cマウス(各組成物あたり5頭ずつ)に対して経肺投与した。経肺投与は、マイクロスプレー(microsprayer Model IA-1C-R, Penn Century社製)を用い、前記各組成物ををマウスの気管支内に直接噴射することにより行った。 投与から24時間後、肺内の細胞30mgを採取し、細胞をPBSで穏やかに洗浄した。細胞溶解液(Cell Culture Lysis Buffer:Promega社製)を200μLずつ加え、ルシフェラーゼアッセイキット(Luciferase Assay System Kit:Promega社製)及びLB940機器(Mithras社製)を用いてフォトルミネッセンス強度を測定することにより、ルシフェラーゼ活性を決定し、トランスフェクション効率の指標とした。なお、細胞溶解液中のタンパク質量は、MicroBCA(登録商標)タンパク質アッセイ試薬キット(MicroBCA(登録商標) Protein Assay Reagent Kit:Thermo Scientific社製)により決定した。 また、市販の遺伝子導入試薬である直鎖状ポリエチレンイミン(Linear Polyethylenimine:LPEI, Exgen 500, Fermentas社製)についても、同様の手順で投与、肺細胞採取、ルシフェラーゼ活性の決定を行った(図10中「LPEI」)。 また、対照として、Luc pDNA 10mgを10mM HEPESバッファー溶媒50μlに溶解させた溶液についても、同様の手順で投与、肺細胞採取、ルシフェラーゼ活性の決定を行った(図10中「核酸単独」)。 各組成物のトランスフェクション効率を表すグラフを図10に示す。B/H比100%(ブロックコポリマー単独)及び、B/H比0%(カチオン性ポリマー単独)の組成物に比べて、B/H比が75%及び50%の各組成物では、トランスフェクション効率の明らかな向上が見られた。(経肺投与による細胞毒性の評価) ブロックコポリマーとしてPEG−PAsp(DET)を用い、核酸としてLuc pDNAを用い、B/H比を100%(ブロックコポリマー単独)、50%又は0%(カチオン性ポリマー単独)として得られた各組成物(4OD、50μL)を用い、上記と同様に各組成物の肺内投与を行ったBalb/cマウス(各組成物あたり1頭ずつ)について、投与から4時間後に肺組織を採取し、ヘマトキシリンとエオジンによって組織染色し、光学(明視野?)顕微鏡写真によって炎症の有無を観察した。 また、対照として、肺内投与を行わなかったBalb/cマウスについても、同様の手順により炎症の有無を観察した。 各組成物について得られた光学顕微鏡写真を図11(a)〜(d)に示す。B/H比0%(カチオン性ポリマー単独)の組成物を投与した個体(図11(a))では、肺組織に炎症が惹起された(図中丸で囲んだ箇所)のに対して、B/H比50%の組成物を投与した個体(図11(b))及びB/H比100%(ブロックコポリマー単独)の組成物を投与した個体(図11(c))の肺組織では、対照個体(図11(d))の肺組織と比べて大きな変化はなく、炎症はほとんど見られなかった。(経肺投与による炎症性サイトカイン発現の評価) ブロックコポリマーとしてPEG−PAsp(DET)を用い、核酸としてLuc pDNAを用い、B/H比を100%(ブロックコポリマー単独)、50%又は0%(カチオン性ポリマー単独)として得られた各組成物(4OD、50μL)を用い、上記と同様に各組成物の肺内投与を行ったBalb/cマウス(各組成物あたり5頭ずつ)について、投与から4時間後に肺内の細胞30mgを採取し、炎症性サイトカインであるIL−6、TNF−α、Cox−2及びIL−10のmRNAの発現量を測定した。各mRNAの発現量の測定は、TaqMan Gene Expression Assays及びABI Prism 7500 Sequence Detector(Applied Biosystems社)を用いて定量PCRにより行った。また、測定されたmRNA発現量は、非投与群において測定された値に対する比の値(相対発現量)として表示した。 また、対照として、10mM HEPESバッファー50μlを用いて、上記と同様の手法で肺内投与及び各炎症性サイトカインのmRNA発現量の測定を行った。 得られたIL−6、TNF−α、Cox−2及びIL−10のmRNAの相対発現量を、それぞれ図12(a)〜(d)に示す。B/H比0%(カチオン性ポリマー単独)の組成物を投与した個体では、いずれの炎症性サイトカインについても、対照群と比べて発現量が大幅に増加したのに対して、B/H比50%の組成物及びB/H比100%(ブロックコポリマー単独)の組成物を投与した個体では、いずれの炎症性サイトカインについても、その発現量は低く保たれていた。 本発明によれば、高い核酸導入効率を示すと同時に、細胞毒性が顕著に抑制された、優れた核酸送達用組成物及び核酸送達方法、並びにその担体組成物が提供される。かかる核酸送達用組成物及び担体組成物は、例えば核酸治療用の医薬組成物として好適に使用でき、その産業上の価値はきわめて高い。 標的細胞又は組織に核酸を送達するための核酸送達用組成物であって、非荷電親水性ポリマーセグメントとカチオン性ポリマーセグメントとを有するブロックコポリマーと、カチオン性ポリマーと、核酸とを含んでなり、ブロックコポリマー及びカチオン性ポリマーが有する総カチオン基に対する、ブロックコポリマーが有するカチオン基のモル百分率(B/H比)が、25%〜90%である、核酸送達用組成物。 核酸が有するリン酸基に対する、ブロックコポリマー及びカチオン性ポリマーが有する総カチオン性基のモル比(N/P比)が、2〜200である、請求項1に記載の核酸送達用組成物。 粒子状である、請求項1又は2に記載の核酸送達用組成物。 ブロックコポリマーの非荷電親水性ポリマーセグメントが、ポリアルキレングリコールセグメントである、請求項1〜3の何れか一項に記載の核酸送達用組成物。 ブロックコポリマーのカチオン性ポリマーセグメントが、側鎖にアミノ基を有するポリアミノ酸からなるセグメントである、請求項1〜4の何れか一項に記載の核酸送達用組成物。 カチオン性ポリマーが、側鎖にアミノ基を有するポリアミノ酸である、請求項1〜5の何れか一項に記載の核酸送達用組成物。 前記ポリアミノ酸を構成するアミノ酸が、アミノ基含有アスパルタミド、アミノ基含有グルタミド、リシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群より選択させる、請求項5又は6に記載の核酸送達用組成物。 標的細胞又は組織に核酸を送達するための担体組成物であって、非荷電親水性ポリマーセグメントとカチオン性ポリマーセグメントとを有するブロックコポリマーと、カチオン性ポリマーとを含んでなり、ブロックコポリマー及びカチオン性ポリマーが有する総カチオン基に対する、ブロックコポリマーが有するカチオン基のモル百分率(B/H比)が、25%〜90%である、担体組成物。 粒子状である、請求項8に記載の担体組成物。 ブロックコポリマーの非荷電親水性ポリマーセグメントが、ポリアルキレングリコールセグメントである、請求項8又は9に記載の担体組成物。 ブロックコポリマーのカチオン性ポリマーセグメントが、側鎖にアミノ基を有するポリアミノ酸からなるセグメントである、請求項8〜10の何れか一項に記載の担体組成物。 カチオン性ポリマーが、側鎖にアミノ基を有するポリアミノ酸である、請求項8〜11の何れか一項に記載の担体組成物。 前記ポリアミノ酸を構成するアミノ酸が、アミノ基含有アスパルタミド、アミノ基含有グルタミド、リシン、アルギニン、及びヒスチジンからなる群より選択させる、請求項5又は6に記載の担体組成物。 核酸治療に用いられる医薬組成物であって、請求項1〜7の何れか一項に記載の核酸送達用組成物、又は、請求項8〜13の何れか一項に記載の担体組成物を含んでなる医薬組成物。 インビトロにおいて標的細胞又は組織に核酸を送達するための方法であって、請求項1〜7の何れか一項に記載の核酸送達用組成物を、標的細胞又は組織に接触させることを含んでなる方法。 非荷電親水性ポリマーセグメント及びカチオン性ポリマーセグメントを有するブロックコポリマーと、核酸とを含んでなる、標的細胞又は組織に核酸を送達するための核酸送達用組成物であって、前記核酸送達用組成物は、カチオン性ポリマーと一緒に、標的細胞又は組織に接触されるとともに、前記接触時における、カチオン性ポリマー及び核酸送達用組成物のブロックコポリマーが有する総カチオン基に対する、核酸送達用組成物のブロックコポリマーが有するカチオン基のモル百分率(B/H比)が、25%〜90%である、核酸送達用組成物。


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