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タイトル:公開特許公報(A)_歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着用キット
出願番号:2011189179
年次:2013
IPC分類:A61K 6/10,A61C 9/00


特許情報キャッシュ

松重 浩司 永沢 友康 JP 2013049652 公開特許公報(A) 20130314 2011189179 20110831 歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着用キット 株式会社トクヤマデンタル 391003576 松重 浩司 永沢 友康 A61K 6/10 20060101AFI20130215BHJP A61C 9/00 20060101ALI20130215BHJP JPA61K6/10A61C9/00 Z 5 OL 14 4C089 4C089AA14 4C089BE09 4C089BE16 4C089CA03 本発明は、アルジネート印象材と印象用トレーとを接着するための接着用キット、詳しくは、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤、及びアルジネート印象材製歯型の洗浄液とにより構成されてなる上記接着用キットに関する。 歯牙等を修復するために、鋳造歯冠修復処理または欠損補綴処理等を必要とする際には、まず、支台歯等の型を取る。次に、その採得された型を用いて、石膏模型を作製する。そして、その模型を元に補綴物を作製し、作製された補綴物を支台歯等に装着する。この支台歯等の型を印象と称し、印象を採得するための硬化体を印象材と称する。 一般的に、印象材として、アルジネート印象材、寒天印象材、シリコーンゴム印象材、ポリサルファイドゴム印象材、あるいはポリエーテルゴム印象材等が用いられる。その中でも、アルジネート印象材は、安価かつ取扱いが容易であるため、最も広く用いられる。 アルジネート印象材は、アルギン酸塩を主成分とする基材と、硫酸カルシウムを主成分とする硬化材とから成り、当該基材と当該硬化材とを水の存在下で練和すると、ゲル状硬化体が得られることを利用した印象材である。 アルジネート印象材(以下、単に「印象材」とも略する)を用いて印象を採得する作業は、以下の手順で行う。まず、歯列を模した印象用トレーに、硬化前の基材と硬化材とを混練したものを盛り付ける。次に、口腔内の歯牙を包み込むように、印象材を盛り付けたトレーを歯牙に押し付ける。そして、印象材が硬化した後に、印象材とトレーとを一体として歯牙から外して、口腔外に撤去する。 印象を採得する際に用いられるトレーは、既製トレーあるいは個人トレーの2種類に大別される。既製トレーは、既製の大きさおよび形状を有するトレーである。具体的な既製トレーとしては、ステンレス、真鍮、あるいは真鍮にクロムめっきを施した金属製トレー等が挙げられる。また、個人トレーは、各個人に合わせてその形状が個別に作製されるトレーである。具体的な個人トレーとしては、ポリメタクリル酸エステルからなるレジン製トレー、あるいは熱可塑性樹脂からなるモデリングコンパウンド製トレー等が挙げられる。なお、レジン製トレーの素材となるポリメタクリル酸エステルは、通常、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体等が使用される。 アルジネート印象材は、前述の各トレーに対する密着性が低いので、印象材を歯牙から外す際に、印象材がトレーから剥離することがある。印象材がトレーから剥離すると、印象の形状が大きく変化しやすいため、精度の高い印象が採得できないという問題が生じる。 上述の問題を解決するために、網状、アンダーカット状あるいはパンチ穴を有するトレーを用いる方法も考えられる。このような形状を有するトレーを用いることにより、トレーに接触する印象材の面積が増加するため、印象材とトレーとの保持力が向上する。したがって、印象材をトレーから剥離しにくくすることができる。 一方、上述のような形状のトレーではなく、プレート状等の既製トレーあるいは個人トレーを用いる際には、別の方法にて印象材とトレーとの保持力を高める必要がある。その方法として、印象材とトレーとの保持力を高める接着材を、予め、トレーの表面に塗布しておく方法が有効である。こうした接着剤として、微粉体、および有機溶剤、特に、溶解度パラメーター(δ)が17.0〜20.5〔(MPa)1/2〕の範囲であるレジン膨潤性の有機溶剤(例えば、キシレン、トルエン、酢酸エチル)を含有する接着剤(特許文献1を参照)、或いは、1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、溶剤、および好適には有機過酸化物を含有する接着剤(特許文献2を参照)などが既に提案されている。 ところが、特許文献1に示されている接着剤は、前記溶解度パラメーターの範囲にあるレジン膨潤性の有機溶剤を用いることにより、トレーの表面を膨潤および溶解させ、微粉体成分をトレー表面に付着させて、その物理的勘合力によって印象材の保持性を高めているにすぎない。したがって、この接着材のみの使用では、斯様に物理的勘合力のみによる印象材の保持では接着力にばらつきが生じることが避けられなかった。また、この接着剤は、有機溶剤により膨潤可能な、レジン製トレーやモデリングコンパウンド製トレーには有効であるが、金属製トレーにはほとんど効果がないものであった。 これに対して、特許文献2に示されている接着剤は、上記ポリアミン化合物作用により、そのアミノ基とアルジネート印象材中のカルボキシル基との間で架橋を形成させ、さらに、該ポリアミン化合物作用は各種トレー材質に対して親和性も高いため、レジン製トレーやモデリングコンパウンド製トレーのみならず、金属製トレーに対しても高い接着力が発揮されて有用である。特許第3778731号公報国際公開第2008/105452号パンフレット しかしながら、特許文献2に示されている接着剤を用い、印象採得して得られた印象材製歯型に、石膏を流し込んで石膏模型を作製すると、印象材歯型と接触する表面の一部が硬化不良を起こし、表面荒れすることが、少なからず生じていた。このような表面荒れした石膏模型では、この部分が崩れ落ちし易く、精度の高い補綴物の作製ができなくなる。 ここで、石膏硬化時の結晶成長は塩基により阻害されるため、この表面荒れの原因は、前記接着剤成分であるポリアミン化合物が関与していることが疑われた。ただし、接着剤はトレーに塗布されて使用されるため、印象材製歯型に対して、トレーへの接触面になる裏面側に付着し、石膏を流し込む印象採取面には普通は付着し難い。 しかし、接着剤は、前記溶剤を多量に含有するため、上記トレーに塗布した後、エアーブローにより乾燥させることが必要であり、このエアーブローを十分に行なわなかった場合には、トレー表面に過剰の接着剤の液分が存在した状態で、その上面に印象材を盛り付けられることになる。そうすると、この残留する接着剤の液分が、トレーの辺縁において、盛り付けた印象材を圧接した際に界面から押し出され、その一部が、該印象材の側壁部を越えて印象採取面にまで流れ込むことが起こり得る。また、印象採取面に流れ込むまでには至らずとも、印象材の側壁部に相当量が付着し、さらには、ここから垂れ落ちて、周辺環境を汚す虞も有り、これらが術者の指を介して、作製する印象材製歯型の上記印象採取面に付着することも生じる。 これらは、トレーへの接着剤の塗布の適量化や、乾燥時のエアーの吹き付け程度、さらには、トレーに印象材を盛り付ける際の圧接力の加減などである程度コントロールできるが完全に防止することは困難であり、前記石膏模型を作製する際に、印象採取面との接触面で表面荒れを引き起こしていた。 こうした状況にあって本発明は、1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、有機溶剤を含有してなる接着材を用いて作製したアルジネート印象材製歯型について、これを用いて続けて石膏模型を作製しても、表面荒れが生じないようにすることを目的とする。 上記目的を達成するため、本発明者は鋭意研究した結果、前記接着剤を使用して得られたアルジネート印象材製歯型を、カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸の水溶液で洗浄処理することによって、前記の課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は、(A)I)1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、II)有機溶剤を含有してなる歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤、及び(B)カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸の水溶液からなる、上記(A)接着剤を使用して印象用トレーを歯科用アルジネート印象材に接着する態様で印象採取して得たアルジネート印象材製歯型の洗浄液、を含んでなる、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着キットである。 本発明の接着キットによれば、まず、(A)I)1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、II)有機溶剤を含有してなる接着剤を用いることにより、アルジネート印象材と各種材質(レジン製、モデリングコンパウンド製、及び金属製)の印象用トレーとを、高い接着力で安定的に接着させることが可能であり、高い精度の印象材製歯型を作製することができる。 そして、得られた印象材製歯型を、(B)カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸の水溶液からなる洗浄液で処理することによって、万が一、その印象採取面に、上記(A)接着剤に含まれるポリアミン化合物が付着していた場合でも、これを中和し、その後、この印象材製歯型を用いて石膏模型を作製しても、表面荒れが生じることが良好に防止できる。したがって、歯牙修復において、術者が支台歯等の石膏模型を安心して作製することができる為、極めて有用である。 以下、本発明に係る、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤キットの好適な実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態に何ら限定されるものではない。 まず、(A)歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤について説明する。(A)接着剤は、I)1分子中にアミノ基(−NH2)を2個以上含むポリアミン化合物を含む。このポリアミン化合物は、該アミノ基が、アルジネート印象材中のカルボキシル基との間で架橋を形成し、アルジネート印象材との接着性を高める作用を有する。さらに、ポリアミン化合物は、トレー材質、特に金属製のトレーに対して親和性が高いので、トレー材質と接した際にも、これと強固に密着する。 本発明の接着剤に用いられる上記ポリアミン化合物として、具体的には、エチレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、4−(アミノメチル)−1,8−オクタンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、或いは、トリエチレンテトラアミン、ペンタエチレンヘキサアミン、トリプロピレンテトラアミンのようなポリアルキレンポリアミン化合物、のような1分子中に2個以上のアミノ基を有する脂肪族ポリアミン化合物;1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン若しくは1,3−シクロヘキサンビス(メチルアミン)のような1分子中に2個以上のアミノ基を有する脂環式ポリアミン化合物;1,3−フェニレンジアミン、3,3’−メチレンジアニリン、1,2,4−トリアミノベンゼン、ジアミノアルカン類、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミン若しくは3,3’−ジアミノベンジジンのような1分子中に2個以上のアミノ基を有する芳香族ポリアミン化合物;ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリオルニチン、ポリリジン若しくはキトサンのような1個以上のアミノ基を有しているモノマーが重合した重合体若しくは共重合体等、を好適に用いることができる。これらは単独にまたは2種以上を混合して用いることができる。 なかでも印象用トレーを歯科用アルジネート印象材により高い接着力で接着できる観点から、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリオルニチン、ポリリジン、あるいはキトサン等の1分子中に5個以上、より好ましくは15個以上のアミノ基を有するポリアミン化合物を用いることが好ましい。また、上記分子中により多数のアミノ基を有するポリアミン化合物は、上記の如くに印象用トレーを歯科用アルジネート印象材により高い接着力で接着できる反面、これが印象材製歯型の印象採取面に付着した際には石膏の硬化をより強く抑制し、石膏模型に表面荒れを特に激しく生じさせる。したがって、これらのポリアミン化合物を用いた(A)接着材に対しては、後述する(B)洗浄剤の使用により、この石膏面荒れを防止する本発明の効果がより顕著に発揮されるため、この観点からも特に好ましい。石膏面荒れを良好に防止する観点からは、1分子中のアミノ基の数は300個以下であるのが特に好ましい。 上記ポリアミン化合物の分子量は特に制限されないが、溶剤への溶解性を考慮すると、500,000以下が好ましく、さらに分子量は1,000〜20,000がより好ましい。また分子量が2,000以上のポリアミン化合物を用いる場合には、十分に高い接着力を得るために、分子量300あたりアミノ基を1個以上含むことが好ましく、分子量200あたりアミノ基を1個以上含むポリアミン化合物を用いることがより好ましい。なお、このように単位分子量当りのアミノ基の含有割合が大きいポリアミン化合物も、前記分子中により多数のアミノ基を有するポリアミン化合物の場合と同様に、印象用トレーを歯科用アルジネート印象材により高い接着力で接着できる反面、これが印象材製歯型の印象採取面に付着した際には石膏の硬化をより強く抑制し、石膏模型に表面荒れを特に激しく生じさせることになる。したがって、これらのポリアミン化合物を用いた(A)接着材に対しては、(B)洗浄剤の使用により、この石膏面荒れを防止する本発明の効果が特に顕著に発揮されるものになる。石膏面荒れを良好に防止する観点からは、分子量が2,000以上のポリアミン化合物を用いる場合において、分子量300あたりアミノ基を6個以下に抑えるのが好ましい。 これらのポリアミン化合物は、印象用トレーへの接着力の高さから、接着剤100質量部中に1質量部以上50質量部以下の範囲で含有されていることが好ましい。特に、好ましいポリアミン化合物の含有量は、印象用トレーへの接着をより強固にする観点からは接着剤100質量部中に、10質量部以上とするのが好ましい。他方、ポリアミン化合物は、あまり含有量が多くても、印象用トレーへの接着力が低下傾向になる。また、上記接着剤を使用して得た印象材製歯型を、後述する洗浄液で洗浄しても、付着するポリアミン化合物の中和が不十分になり、石膏の表面荒れの問題が十分に抑制できない虞もある。これらからポリアミン化合物は、接着剤100質量部中に35質量部以下であるのが特に好ましい。 接着剤には、操作性を向上させるためにII)有機溶剤が含有される。したがって、流動性およびトレーとの親和性に優れる有機溶剤であれば、公知のものが何ら制限なく使用できる。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、若しくはブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル等のエステル類、トルエン、キシレン、若しくはベンゼン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ペンタン、若しくはブタン等の脂肪族炭化水素類等、塩化メチレン、クロロホルム等の塩素系溶剤が挙げられる。 特に、沸点が75℃以上であるエタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチルは、操作性の観点から好ましい。更に好ましくは、生体安全性の観点から、エタノール、およびイソプロピルアルコールである。 ここで、沸点が75℃以下の有機溶剤を使用した場合には、接着剤をトレーに塗布した際に、直に該有機溶剤が揮発し、塗布性が低下する傾向にあるが、他方で、該有機溶剤が揮発しやすい為、印象材製歯型に過剰な接着剤が液分として残るリスクは低減し、石膏荒れを生じる可能性が低減する。 本発明の接着剤において有機過酸化物は、接着剤の性能、特にレジン製トレーおよびモデリングコンパウンド製トレーに対する接着力をさらに向上させるために用いることができる。該有機過酸化物として、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、若しくはハイドロパーオキサイド類等を用いることができる。その中でも、ジアシルパーオキサイド類を用いることにより、より強固に接着する。ジアシルパーオキサイド類を具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、若しくはm−トルオイルパーオキサイド等が挙げられる。また、十分に強力な接着力を得るためには、接着剤100質量部中に0.1質量部以上30質量部以下の有機過酸化物を含めるのが好ましく、接着剤100質量部中に1質量部以上12質量部以下の有機過酸化物を含めるのが特に好ましい。 その他接着剤には、紫外線吸収剤、染料、帯電防止剤、顔料、香料等の各種添加剤等の成分を、印象材とトレーの接着力を低下させない範囲で適宜に配合させても良い。 上記各成分からなる接着剤は、ポリアミン化合物および有機過酸化物等の任意成分を、低級アルコール系溶剤に混合、溶解させることにより製造することができる。その混合方法は特に限定されないが、マグネチックスターラーや羽根撹拌等による通常の混合のほかに、超音波分散などによっても良い。 本発明の接着キットは、上記(A)接着剤に、(B)該接着剤を使用して印象用トレーを歯科用アルジネート印象材に接着する態様で印象採取して得たアルジネート印象材製歯型の洗浄液を組合せて構成される。この(B)洗浄液は、カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸の水溶液からなる。 この(B)洗浄液を用いて、上記(A)接着剤を使用して作製したアルジネート印象材製歯型を洗浄することにより、万が一、その印象採取面に、上記(A)接着剤に含まれるポリアミン化合物が付着していた場合でも、これを中和し失活させる。その結果、この後、係る印象材製歯型を用いて石膏模型を作製しても、上記歯型の印象採取面との接触面において、その硬化が阻害されることがなく、表面荒れの発生を抑制できる。 なお、この洗浄液に含有させる酸は、カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成するものである必要がある。すなわち、カルシウムイオンと反応した際に非水溶性塩を形成する酸、例えばクエン酸などを使用した場合には、石膏が硬化する為に必要なカルシウムイオンが系外に析出してしまい、逆に石膏の硬化阻害を引き起こしてしまう。 本発明の(B)洗浄液に使用される酸は、カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成するものであれば、何ら制限無く使用できる。酸としては、 25℃の酸解離指数が6.5以下のものが好ましく、より好ましくは、5.0以下である酸が好ましい。また、ここで言う水溶性塩とは、25℃において水100mlに対する溶解度が1.0g以上のものを言う。 係る酸を具体的に例示すると、塩酸、リン酸などの無機酸、酢酸、乳酸、アスコルビン酸等の有機酸が挙げられ、生体安全性の観点から、リン酸、アスコルビン酸が好ましい。更に、印象材製歯型と接した際に印象材硬化体が黄色に変色する為、係る接触箇所の視認性が容易であることから、アスコルビン酸を使用することが特に好ましい。 本発明の(B)洗浄液に使用されるカルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸の配合量は、洗浄液全体を100質量%として、1質量%〜50質量%の範囲内であることが好ましく、洗浄の確実性と取扱の容易さの観点から10質量%〜30質量%の範囲内であることがより好ましい。 本発明の(B)洗浄液に使用される水は、酸を希釈する為の溶媒であり、水道水、イオン交換水、蒸留水等が利用できる。 本発明の(B)洗浄液には、以上に説明した各成分以外にも、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、たとえば、香料、着色料、抗菌剤、防腐剤、pH調整剤、石膏の硬化促進剤等が挙げられ、これらから選択されるいずれか1種または複数種の添加剤を必要に応じて配合することができる。 上記各成分からなる洗浄液は、酸を水に混合、溶解させることにより製造することができる。その混合方法は特に限定されないが、マグネチックスターラーや羽根撹拌等による混合法が使用できる。 次に、本発明の接着キットの使用方法について説明する。(A)接着剤のトレーへの塗布方法は、特に制限されない。一般には、ハケ、ヘラ、筆、あるいはローラー等でトレーに塗布、またはトレーに噴霧する方法を採用することができる。斯様にして(A)接着剤をトレーに塗布した後には、好ましくは、余剰な溶剤を揮発させるために乾燥させる。乾燥の方法としては、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、送風乾燥、減圧乾燥、あるいは、加熱乾燥と送風乾燥を組み合わせる熱風乾燥等を採用するのが好ましい。 (A)接着剤を用いて作製した印象材製歯型を(B)洗浄液で洗浄する方法は、印象材製歯型を洗浄液に浸漬するのが最も効果的であるが、この他、霧状にした洗浄液を、印象採取面に噴霧する方法や、ハケ、筆等で印象採取面に塗布しても良い。また、洗浄液をしみ込ませた布や紙で、印象採取面を覆う等の方法であっても良い。これらの洗浄操作において、洗浄液の温度は、通常、5〜30℃が好ましい。浸漬する場合、処理時間は、15〜60秒が好適である。斯様にして印象材製歯型を(B)洗浄液で洗浄した後には、付着する洗浄液を、乾燥させ(上記接着剤の場合と同様な方法)、浄化された印象材製歯型を石膏模型の作製に供すれば良い。 本実施の形態に係る接着キットが適用されるアルジネート印象材としては、公知のものが何ら制限されることなく用いられる。アルジネート印象材の具体的な種類として、アルギン酸塩を主成分とする基材ペーストと、硫酸カルシウムを主成分とする硬化材ペーストとを混合して用いるタイプ、あるいはアルギン酸塩および硫酸カルシウムを主成分とする粉体に水を混合して用いるタイプが挙げられる。 さらに詳しく述べると、ペーストを混合して用いるタイプのアルジネート印象材に用いられる基材ペーストは、アルギン酸カリウム、シリカ粉末、水酸化カリウム、ポリアクリル酸および水等から構成される。同様に、硬化材ペーストは、粒状シリカ、流動パラフィン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、リン酸三ナトリウム、フッ化チタン酸カリウム、超微粒子シリカおよび硫酸カルシウム等から構成される。粉体に水を混合して用いるタイプのアルジネート印象材において、その粉体は、アルギン酸カリウム、シリカ粉末、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、リン酸三ナトリウム、フッ化チタン酸カリウム、または硫酸カルシウム等からなる。 以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、接着試験方法を(1)に、使用したトレーの種類を(2)に、石膏面荒れ性評価方法を(3)に、実施例および比較例で用いた化合物を(4)に示す。(1)接着試験方法 予め調整した(A)接着剤を、(3)に記す各材質からなるトレーの被着面に筆で塗布し、エアーブローにて余剰の溶剤を揮発させた。そして、該トレーの被着面に練和したアルジネート印象材を盛り付けた後、300gf/cm2の荷重をかけて、37℃下で3分間放置した。その後、硬化した印象材をトレーから引き剥がした。 次に、以下に記す評価基準に従い、印象材とトレーとの界面にて凝集破壊を引き起こしている面積の割合に基づいて、接着性能を評価した。全ての接着試験において、アルジネート印象材は、APミキサーII(商品名:株式会社トクヤマデンタル製)にて練和した、ペーストタイプの「AP−1ペースト」(商品名:株式会社トクヤマデンタル製)を用いた。◎:印象材とトレーを手で引き剥がすと、全面的に印象材の凝集破壊を引き起こす。○:印象材とトレーを手で引き剥がすと、印象材の大部分が凝集破壊を引き起こすが、一部はトレーとの界面から剥がれる。△:印象材とトレーを手で引き剥がすと、印象材の一部が凝集破壊を引き起こすが、大部分はトレーとの界面から剥がれる。×:印象材とトレーを手で引き剥がすと、全面的に印象材がトレーの界面で容易に剥がれる。(2)トレーの種類X:金属製トレーとして、ニッケルめっきを施した真鍮製トレー「COE104」(商品名:株式会社ジーシー製)を用いた。Y:レジン製トレーとして、「オストロンII」(商標:株式会社ジーシー製)を板状に硬化させたものを用いた。Z:モデリングコンパウンド製トレーとして、「モデリングコンパウンド中性」(商品名:株式会社ジーシー製)を用いた。(3)石膏硬化体の表面荒れ性評価方法 外径60mm、内径52mm、高さ10mmのアクリル製のモールドに、練和したアルジネート印象材を流し込み、その上面をアクリル製の板で圧接し、印象材を硬化させ、モールドから取り出し円筒状の印象材硬化体を作製した。次に、該印象材硬化体上面に、予め調整した(A)接着剤を筆で塗布し、エアーブローにて溶剤を揮発させた後、予め調整した25℃の(B)洗浄液の中に、印象材硬化体を3秒間浸漬させた後、印象材硬化体を洗浄液から取り出し、接着剤で処理した面の上に直接、印象槙型作製用の超硬石膏(株式会社ジーシー製:商品名「ニューフジロック」)を流し込んだ後、1時間放置し、石膏を硬化させた。得られた石膏硬化体を印象材硬化体から取り外し、その接着剤塗布面と接触していた面の表面荒れ性を以下に示す基準に従って評価した。なお、全ての接着試験において、アルジネート印象材は、APミキサーII(商品名:株式会社トクヤマデンタル製)にて練和した、ペーストタイプの「AP−1ペースト」(商品名:株式会社トクヤマデンタル製)を用いた。◎:石膏硬化体の硬化面は滑らかであり、金属製スパチェラで引掻いた時にその周囲は全く崩れ落ちない状態に硬化している○:石膏硬化体の硬化面は多少ざらつきが認められるが、金属製スパチェラで引掻いた時にその周囲は僅かしか崩れ落ちない状態に硬化している△:石膏硬化体の硬化面は激しいざらつきが認められ、金属製スパチェラで引掻いた時には、その周囲にかなりの崩れ落ち部分が生じる×:石膏硬化体の硬化面は激しいざらつきが認められ、金属製スパチェラで引掻いた時には、その周囲に広範囲に激しく崩れ落ちる部分が生じる(4)実施例および比較例で用いた化合物の略称(4−1)ポリアミン化合物PA1:1,7−ヘプタンジアミンPA2:ポリアリルアミン(1分子中にアミノ基の数16個、分子量1000)PA3:ポリアリルアミン(1分子中にアミノ基の数53個、分子量3000)PA4:ポリアリルアミン(1分子中にアミノ基の数263個、分子量15000)PA5:n−ブチルアミン(4−2)有機溶剤IPA:イソプロピルアルコール(4−3)有機過酸化物BPO:ベンゾイルパーオキサイドSPO:ステアロイルパーオキサイド 参考例1 表1に示すように、1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物ポリアミン化合物としてPA1を20g、有機溶剤としてエタノールを80gスクリュー管中に量りとり、均一な液体になるまで攪拌して接着剤(イ)を調整した。得られた接着剤を用いて、各種トレーに対する接着試験を行なった。結果を表1に示すが、接着剤(イ)を塗布した金属製トレーは、アルジネート印象材に対して良好な接着力が得られた。 参考例2〜参考例9 表1に示す組成である各接着剤記号の接着剤を使用する以外は、実施例1と同様の方法を用いて、各種トレーに対する接着試験を行なった。結果を表1に示す。 参考例2〜7は、1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物ポリアミン化合物として、1分子中のアミノ基の数が16〜263個有するポリアリルアミンを用いて調整した接着剤であるが、実施例1と比較して、金属製トレー、レジン製トレー、モデリングコンパウンド製トレー、いずれのトレーに対しても、ポリアリルアミンの分子量及び使用する溶剤の種類に大きく依存することなく、接着力が向上した。特に、これらの接着剤は、金属製トレーに対して高い接着力を有していた。 また、参考例8〜9は、1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物ポリアミン化合物と有機溶剤に加えて、有機過酸化物を更に含有させた例であるが、レジン製及びモデリングコンパウンド製の各トレーに対して接着力が更に向上する結果であった。 比較参考例1〜3 表1に示す組成である各接着剤記号の接着剤を使用する以外は、実施例1と同様の方法を用いて、各種トレーに対する接着試験を行った。結果を表1に示す。 比較参考例1は、本発明の接着剤に、アミン化合物を全く配合しなかった場合であるが、何れのトレーに対しても接着しなかった。 比較参考例2及び比較参考例3は、1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物の代わりに、1分子中にアミノ基を1個のみ有するn−ブチルアミンを使用した場合であるが、何れのトレーに対しても接着しなかった。 実施例1 カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸水溶液として、表2に示した組成の酸と蒸留水とをスクリュー管中に量りとり、均一な液体になるまで攪拌して本発明の洗浄液(い)〜(ち)を調整した。 前記参考例1で調整した組成の接着剤(イ)に対して、上記洗浄液(い)〜(ち)を組合せた各接着キットについて、石膏硬化体の表面荒れ性評価を行った。結果を表3に示したが、いずれの洗浄液においても、石膏は完全に硬化しており、良好な結果が得られた。なお、洗浄液の酸水溶液として、アスコルビン酸水溶液を用いた洗浄液(に)〜(ち)では、洗浄後の印象材硬化体が黄色に変色したため、洗浄の程度が視認でき、他の酸を用いた洗浄剤よりも使い易いものであった。 実施例2〜8 実施例1において、使用する接着剤と洗浄液の組合せを表4に示したものに変えて各接着キットとする以外は、実施例1と同様に実施した。石膏硬化体の表面荒れ性評価の結果を表4に示したが、いずれの接着キットも石膏は完全に硬化しており、良好な結果が得られた。 比較例1〜9 石膏硬化体の表面荒れ性評価を、印象材硬化体に接着剤(イ)〜(リ)を塗布するのみで、その後の洗浄剤による浸漬を行なわない態様で各実施した。結果を表5に示したが、いずれの場合においても、石膏の硬化不良が生じ、石膏硬化体の表面が荒れた。特に、接着剤成分である1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物として、アミノ基の数が多いものを使用した場合、石膏硬化体の表面荒れが顕著であった。 比較例10〜12 実施例1において、接着剤(イ)に組合せる洗浄液として、表2に示した(り)〜(る)を用いる以外は、実施例1と同様に実施した。石膏硬化体の表面荒れ性評価の結果を表6に示した。 比較例10は、本発明の洗浄剤にカルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸を配合せず、水のみを使用した場合であるが、印象材硬化体表面に残存した接着剤成分であるポリアミン化合物の影響により、石膏の硬化不良が生じ、石膏硬化体の表面が荒れた。 比較例11及び比較例12は、本発明の洗浄液に、カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸の代わりに、カルシウムイオンと反応した際に非水溶性塩を形成する酸を用いた場合であるが、何れの場合においても、石膏の硬化に必要なカルシウムイオンが系外に析出してしまう為、印象材硬化体と接触する石膏の硬化が更に阻害され、石膏硬化体の表面が著しく荒れた。(A)I)1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、II)有機溶剤を含有してなる歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤、及び(B)カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸の水溶液からなる、上記(A)接着剤を使用して印象用トレーを歯科用アルジネート印象材に接着する態様で印象採取して得たアルジネート印象材製歯型の洗浄液、を含んでなる、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着キット。(B)洗浄液に含まれる、カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸がアスコルビン酸である、請求項1記載の歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着キット。(A)接着剤の有機溶剤が、沸点が75℃以上である、請求項1または請求項2記載の歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着キット。(A)接着剤が、さらに、III)有機過酸化物を含有してなる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着キット。I)1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、II)有機溶剤を含有してなる接着材を用いて、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとを接着する態様で印象採取して得たアルジネート印象材製歯型の洗浄液であって、カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸の水溶液からなる上記洗浄液。 【課題】 1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、有機溶剤を含有してなる接着材を用いて作製したアルジネート印象材製歯型について、これを用いて続けて石膏模型を作製しても、表面荒れが生じないようにすること。【解決手段】 (A)I)1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、II)有機溶剤を含有してなる歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤、及び(B)カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸の水溶液、好適にはアスコルビン酸水溶液からなる、上記(A)接着剤を使用して印象用トレーを歯科用アルジネート印象材に接着する態様で印象採取して得たアルジネート印象材製歯型の洗浄液、を含んでなる歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着キット。【選択図】 なし


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特許公報(B2)_歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着用キット

生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着用キット
出願番号:2011189179
年次:2015
IPC分類:A61K 6/10,A61C 9/00


特許情報キャッシュ

松重 浩司 永沢 友康 JP 5804851 特許公報(B2) 20150911 2011189179 20110831 歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着用キット 株式会社トクヤマデンタル 391003576 松重 浩司 永沢 友康 20151104 A61K 6/10 20060101AFI20151015BHJP A61C 9/00 20060101ALI20151015BHJP JPA61K6/10A61C9/00 Z A61K 6/00− 6/10 A61C 5/08− 5/14 8/00−13/38 JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII) 特開平10−081610(JP,A) 特開2010−057905(JP,A) 特開平02−152916(JP,A) 特開2011−121924(JP,A) 特開2004−168815(JP,A) 特開2004−149646(JP,A) 4 2013049652 20130314 14 20140407 常見 優 本発明は、アルジネート印象材と印象用トレーとを接着するための接着用キット、詳しくは、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤、及びアルジネート印象材製歯型の洗浄液とにより構成されてなる上記接着用キットに関する。 歯牙等を修復するために、鋳造歯冠修復処理または欠損補綴処理等を必要とする際には、まず、支台歯等の型を取る。次に、その採得された型を用いて、石膏模型を作製する。そして、その模型を元に補綴物を作製し、作製された補綴物を支台歯等に装着する。この支台歯等の型を印象と称し、印象を採得するための硬化体を印象材と称する。 一般的に、印象材として、アルジネート印象材、寒天印象材、シリコーンゴム印象材、ポリサルファイドゴム印象材、あるいはポリエーテルゴム印象材等が用いられる。その中でも、アルジネート印象材は、安価かつ取扱いが容易であるため、最も広く用いられる。 アルジネート印象材は、アルギン酸塩を主成分とする基材と、硫酸カルシウムを主成分とする硬化材とから成り、当該基材と当該硬化材とを水の存在下で練和すると、ゲル状硬化体が得られることを利用した印象材である。 アルジネート印象材(以下、単に「印象材」とも略する)を用いて印象を採得する作業は、以下の手順で行う。まず、歯列を模した印象用トレーに、硬化前の基材と硬化材とを混練したものを盛り付ける。次に、口腔内の歯牙を包み込むように、印象材を盛り付けたトレーを歯牙に押し付ける。そして、印象材が硬化した後に、印象材とトレーとを一体として歯牙から外して、口腔外に撤去する。 印象を採得する際に用いられるトレーは、既製トレーあるいは個人トレーの2種類に大別される。既製トレーは、既製の大きさおよび形状を有するトレーである。具体的な既製トレーとしては、ステンレス、真鍮、あるいは真鍮にクロムめっきを施した金属製トレー等が挙げられる。また、個人トレーは、各個人に合わせてその形状が個別に作製されるトレーである。具体的な個人トレーとしては、ポリメタクリル酸エステルからなるレジン製トレー、あるいは熱可塑性樹脂からなるモデリングコンパウンド製トレー等が挙げられる。なお、レジン製トレーの素材となるポリメタクリル酸エステルは、通常、ポリメチルメタクリレート、ポリエチルメタクリレート、メチルメタクリレート−エチルメタクリレート共重合体等が使用される。 アルジネート印象材は、前述の各トレーに対する密着性が低いので、印象材を歯牙から外す際に、印象材がトレーから剥離することがある。印象材がトレーから剥離すると、印象の形状が大きく変化しやすいため、精度の高い印象が採得できないという問題が生じる。 上述の問題を解決するために、網状、アンダーカット状あるいはパンチ穴を有するトレーを用いる方法も考えられる。このような形状を有するトレーを用いることにより、トレーに接触する印象材の面積が増加するため、印象材とトレーとの保持力が向上する。したがって、印象材をトレーから剥離しにくくすることができる。 一方、上述のような形状のトレーではなく、プレート状等の既製トレーあるいは個人トレーを用いる際には、別の方法にて印象材とトレーとの保持力を高める必要がある。その方法として、印象材とトレーとの保持力を高める接着材を、予め、トレーの表面に塗布しておく方法が有効である。こうした接着剤として、微粉体、および有機溶剤、特に、溶解度パラメーター(δ)が17.0〜20.5〔(MPa)1/2〕の範囲であるレジン膨潤性の有機溶剤(例えば、キシレン、トルエン、酢酸エチル)を含有する接着剤(特許文献1を参照)、或いは、1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、溶剤、および好適には有機過酸化物を含有する接着剤(特許文献2を参照)などが既に提案されている。 ところが、特許文献1に示されている接着剤は、前記溶解度パラメーターの範囲にあるレジン膨潤性の有機溶剤を用いることにより、トレーの表面を膨潤および溶解させ、微粉体成分をトレー表面に付着させて、その物理的勘合力によって印象材の保持性を高めているにすぎない。したがって、この接着材のみの使用では、斯様に物理的勘合力のみによる印象材の保持では接着力にばらつきが生じることが避けられなかった。また、この接着剤は、有機溶剤により膨潤可能な、レジン製トレーやモデリングコンパウンド製トレーには有効であるが、金属製トレーにはほとんど効果がないものであった。 これに対して、特許文献2に示されている接着剤は、上記ポリアミン化合物作用により、そのアミノ基とアルジネート印象材中のカルボキシル基との間で架橋を形成させ、さらに、該ポリアミン化合物作用は各種トレー材質に対して親和性も高いため、レジン製トレーやモデリングコンパウンド製トレーのみならず、金属製トレーに対しても高い接着力が発揮されて有用である。特許第3778731号公報国際公開第2008/105452号パンフレット しかしながら、特許文献2に示されている接着剤を用い、印象採得して得られた印象材製歯型に、石膏を流し込んで石膏模型を作製すると、印象材歯型と接触する表面の一部が硬化不良を起こし、表面荒れすることが、少なからず生じていた。このような表面荒れした石膏模型では、この部分が崩れ落ちし易く、精度の高い補綴物の作製ができなくなる。 ここで、石膏硬化時の結晶成長は塩基により阻害されるため、この表面荒れの原因は、前記接着剤成分であるポリアミン化合物が関与していることが疑われた。ただし、接着剤はトレーに塗布されて使用されるため、印象材製歯型に対して、トレーへの接触面になる裏面側に付着し、石膏を流し込む印象採取面には普通は付着し難い。 しかし、接着剤は、前記溶剤を多量に含有するため、上記トレーに塗布した後、エアーブローにより乾燥させることが必要であり、このエアーブローを十分に行なわなかった場合には、トレー表面に過剰の接着剤の液分が存在した状態で、その上面に印象材を盛り付けられることになる。そうすると、この残留する接着剤の液分が、トレーの辺縁において、盛り付けた印象材を圧接した際に界面から押し出され、その一部が、該印象材の側壁部を越えて印象採取面にまで流れ込むことが起こり得る。また、印象採取面に流れ込むまでには至らずとも、印象材の側壁部に相当量が付着し、さらには、ここから垂れ落ちて、周辺環境を汚す虞も有り、これらが術者の指を介して、作製する印象材製歯型の上記印象採取面に付着することも生じる。 これらは、トレーへの接着剤の塗布の適量化や、乾燥時のエアーの吹き付け程度、さらには、トレーに印象材を盛り付ける際の圧接力の加減などである程度コントロールできるが完全に防止することは困難であり、前記石膏模型を作製する際に、印象採取面との接触面で表面荒れを引き起こしていた。 こうした状況にあって本発明は、1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、有機溶剤を含有してなる接着材を用いて作製したアルジネート印象材製歯型について、これを用いて続けて石膏模型を作製しても、表面荒れが生じないようにすることを目的とする。 上記目的を達成するため、本発明者は鋭意研究した結果、前記接着剤を使用して得られたアルジネート印象材製歯型を、カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸の水溶液で洗浄処理することによって、前記の課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は、(A)I)1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、II)有機溶剤を含有してなる歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤、及び(B)カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸であるアスコルビン酸の水溶液からなる、上記(A)接着剤を使用して印象用トレーを歯科用アルジネート印象材に接着する態様で印象採取して得たアルジネート印象材製歯型の洗浄液、を含んでなる、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着キットである。 本発明の接着キットによれば、まず、(A)I)1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、II)有機溶剤を含有してなる接着剤を用いることにより、アルジネート印象材と各種材質(レジン製、モデリングコンパウンド製、及び金属製)の印象用トレーとを、高い接着力で安定的に接着させることが可能であり、高い精度の印象材製歯型を作製することができる。 そして、得られた印象材製歯型を、(B)カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸の水溶液からなる洗浄液で処理することによって、万が一、その印象採取面に、上記(A)接着剤に含まれるポリアミン化合物が付着していた場合でも、これを中和し、その後、この印象材製歯型を用いて石膏模型を作製しても、表面荒れが生じることが良好に防止できる。したがって、歯牙修復において、術者が支台歯等の石膏模型を安心して作製することができる為、極めて有用である。 以下、本発明に係る、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤キットの好適な実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態に何ら限定されるものではない。 まず、(A)歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤について説明する。(A)接着剤は、I)1分子中にアミノ基(−NH2)を2個以上含むポリアミン化合物を含む。このポリアミン化合物は、該アミノ基が、アルジネート印象材中のカルボキシル基との間で架橋を形成し、アルジネート印象材との接着性を高める作用を有する。さらに、ポリアミン化合物は、トレー材質、特に金属製のトレーに対して親和性が高いので、トレー材質と接した際にも、これと強固に密着する。 本発明の接着剤に用いられる上記ポリアミン化合物として、具体的には、エチレンジアミン、1,4−ブタンジアミン、1,7−ヘプタンジアミン、4−(アミノメチル)−1,8−オクタンジアミン、トリス(2−アミノエチル)アミン、或いは、トリエチレンテトラアミン、ペンタエチレンヘキサアミン、トリプロピレンテトラアミンのようなポリアルキレンポリアミン化合物、のような1分子中に2個以上のアミノ基を有する脂肪族ポリアミン化合物;1,2−ジアミノシクロヘキサン、1,4−ジアミノシクロヘキサン若しくは1,3−シクロヘキサンビス(メチルアミン)のような1分子中に2個以上のアミノ基を有する脂環式ポリアミン化合物;1,3−フェニレンジアミン、3,3’−メチレンジアニリン、1,2,4−トリアミノベンゼン、ジアミノアルカン類、1,3,5−トリアジン−2,4,6−トリアミン若しくは3,3’−ジアミノベンジジンのような1分子中に2個以上のアミノ基を有する芳香族ポリアミン化合物;ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリオルニチン、ポリリジン若しくはキトサンのような1個以上のアミノ基を有しているモノマーが重合した重合体若しくは共重合体等、を好適に用いることができる。これらは単独にまたは2種以上を混合して用いることができる。 なかでも印象用トレーを歯科用アルジネート印象材により高い接着力で接着できる観点から、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン、ポリオルニチン、ポリリジン、あるいはキトサン等の1分子中に5個以上、より好ましくは15個以上のアミノ基を有するポリアミン化合物を用いることが好ましい。また、上記分子中により多数のアミノ基を有するポリアミン化合物は、上記の如くに印象用トレーを歯科用アルジネート印象材により高い接着力で接着できる反面、これが印象材製歯型の印象採取面に付着した際には石膏の硬化をより強く抑制し、石膏模型に表面荒れを特に激しく生じさせる。したがって、これらのポリアミン化合物を用いた(A)接着材に対しては、後述する(B)洗浄剤の使用により、この石膏面荒れを防止する本発明の効果がより顕著に発揮されるため、この観点からも特に好ましい。石膏面荒れを良好に防止する観点からは、1分子中のアミノ基の数は300個以下であるのが特に好ましい。 上記ポリアミン化合物の分子量は特に制限されないが、溶剤への溶解性を考慮すると、500,000以下が好ましく、さらに分子量は1,000〜20,000がより好ましい。また分子量が2,000以上のポリアミン化合物を用いる場合には、十分に高い接着力を得るために、分子量300あたりアミノ基を1個以上含むことが好ましく、分子量200あたりアミノ基を1個以上含むポリアミン化合物を用いることがより好ましい。なお、このように単位分子量当りのアミノ基の含有割合が大きいポリアミン化合物も、前記分子中により多数のアミノ基を有するポリアミン化合物の場合と同様に、印象用トレーを歯科用アルジネート印象材により高い接着力で接着できる反面、これが印象材製歯型の印象採取面に付着した際には石膏の硬化をより強く抑制し、石膏模型に表面荒れを特に激しく生じさせることになる。したがって、これらのポリアミン化合物を用いた(A)接着材に対しては、(B)洗浄剤の使用により、この石膏面荒れを防止する本発明の効果が特に顕著に発揮されるものになる。石膏面荒れを良好に防止する観点からは、分子量が2,000以上のポリアミン化合物を用いる場合において、分子量300あたりアミノ基を6個以下に抑えるのが好ましい。 これらのポリアミン化合物は、印象用トレーへの接着力の高さから、接着剤100質量部中に1質量部以上50質量部以下の範囲で含有されていることが好ましい。特に、好ましいポリアミン化合物の含有量は、印象用トレーへの接着をより強固にする観点からは接着剤100質量部中に、10質量部以上とするのが好ましい。他方、ポリアミン化合物は、あまり含有量が多くても、印象用トレーへの接着力が低下傾向になる。また、上記接着剤を使用して得た印象材製歯型を、後述する洗浄液で洗浄しても、付着するポリアミン化合物の中和が不十分になり、石膏の表面荒れの問題が十分に抑制できない虞もある。これらからポリアミン化合物は、接着剤100質量部中に35質量部以下であるのが特に好ましい。 接着剤には、操作性を向上させるためにII)有機溶剤が含有される。したがって、流動性およびトレーとの親和性に優れる有機溶剤であれば、公知のものが何ら制限なく使用できる。具体的には、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、若しくはブタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸エチル等のエステル類、トルエン、キシレン、若しくはベンゼン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ペンタン、若しくはブタン等の脂肪族炭化水素類等、塩化メチレン、クロロホルム等の塩素系溶剤が挙げられる。 特に、沸点が75℃以上であるエタノール、イソプロピルアルコール、酢酸エチル、酢酸ブチルは、操作性の観点から好ましい。更に好ましくは、生体安全性の観点から、エタノール、およびイソプロピルアルコールである。 ここで、沸点が75℃以下の有機溶剤を使用した場合には、接着剤をトレーに塗布した際に、直に該有機溶剤が揮発し、塗布性が低下する傾向にあるが、他方で、該有機溶剤が揮発しやすい為、印象材製歯型に過剰な接着剤が液分として残るリスクは低減し、石膏荒れを生じる可能性が低減する。 本発明の接着剤において有機過酸化物は、接着剤の性能、特にレジン製トレーおよびモデリングコンパウンド製トレーに対する接着力をさらに向上させるために用いることができる。該有機過酸化物として、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシジカーボネート類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、若しくはハイドロパーオキサイド類等を用いることができる。その中でも、ジアシルパーオキサイド類を用いることにより、より強固に接着する。ジアシルパーオキサイド類を具体的に例示すると、ベンゾイルパーオキサイド、ステアロイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、若しくはm−トルオイルパーオキサイド等が挙げられる。また、十分に強力な接着力を得るためには、接着剤100質量部中に0.1質量部以上30質量部以下の有機過酸化物を含めるのが好ましく、接着剤100質量部中に1質量部以上12質量部以下の有機過酸化物を含めるのが特に好ましい。 その他接着剤には、紫外線吸収剤、染料、帯電防止剤、顔料、香料等の各種添加剤等の成分を、印象材とトレーの接着力を低下させない範囲で適宜に配合させても良い。 上記各成分からなる接着剤は、ポリアミン化合物および有機過酸化物等の任意成分を、低級アルコール系溶剤に混合、溶解させることにより製造することができる。その混合方法は特に限定されないが、マグネチックスターラーや羽根撹拌等による通常の混合のほかに、超音波分散などによっても良い。 本発明の接着キットは、上記(A)接着剤に、(B)該接着剤を使用して印象用トレーを歯科用アルジネート印象材に接着する態様で印象採取して得たアルジネート印象材製歯型の洗浄液を組合せて構成される。この(B)洗浄液は、カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸の水溶液からなる。 この(B)洗浄液を用いて、上記(A)接着剤を使用して作製したアルジネート印象材製歯型を洗浄することにより、万が一、その印象採取面に、上記(A)接着剤に含まれるポリアミン化合物が付着していた場合でも、これを中和し失活させる。その結果、この後、係る印象材製歯型を用いて石膏模型を作製しても、上記歯型の印象採取面との接触面において、その硬化が阻害されることがなく、表面荒れの発生を抑制できる。 なお、この洗浄液に含有させる酸は、カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成するものである必要がある。すなわち、カルシウムイオンと反応した際に非水溶性塩を形成する酸、例えばクエン酸などを使用した場合には、石膏が硬化する為に必要なカルシウムイオンが系外に析出してしまい、逆に石膏の硬化阻害を引き起こしてしまう。 本発明の(B)洗浄液に使用される酸は、カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成するものであれば、何ら制限無く使用できる。酸としては、 25℃の酸解離指数が6.5以下のものが好ましく、より好ましくは、5.0以下である酸が好ましい。また、ここで言う水溶性塩とは、25℃において水100mlに対する溶解度が1.0g以上のものを言う。 係る酸を具体的に例示すると、塩酸、リン酸などの無機酸、酢酸、乳酸、アスコルビン酸等の有機酸が挙げられ、生体安全性の観点から、リン酸、アスコルビン酸が好ましい。更に、印象材製歯型と接した際に印象材硬化体が黄色に変色する為、係る接触箇所の視認性が容易であることから、アスコルビン酸を使用することが特に好ましい。 本発明の(B)洗浄液に使用されるカルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸の配合量は、洗浄液全体を100質量%として、1質量%〜50質量%の範囲内であることが好ましく、洗浄の確実性と取扱の容易さの観点から10質量%〜30質量%の範囲内であることがより好ましい。 本発明の(B)洗浄液に使用される水は、酸を希釈する為の溶媒であり、水道水、イオン交換水、蒸留水等が利用できる。 本発明の(B)洗浄液には、以上に説明した各成分以外にも、必要に応じて各種の添加剤を配合することができる。添加剤としては、たとえば、香料、着色料、抗菌剤、防腐剤、pH調整剤、石膏の硬化促進剤等が挙げられ、これらから選択されるいずれか1種または複数種の添加剤を必要に応じて配合することができる。 上記各成分からなる洗浄液は、酸を水に混合、溶解させることにより製造することができる。その混合方法は特に限定されないが、マグネチックスターラーや羽根撹拌等による混合法が使用できる。 次に、本発明の接着キットの使用方法について説明する。(A)接着剤のトレーへの塗布方法は、特に制限されない。一般には、ハケ、ヘラ、筆、あるいはローラー等でトレーに塗布、またはトレーに噴霧する方法を採用することができる。斯様にして(A)接着剤をトレーに塗布した後には、好ましくは、余剰な溶剤を揮発させるために乾燥させる。乾燥の方法としては、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、送風乾燥、減圧乾燥、あるいは、加熱乾燥と送風乾燥を組み合わせる熱風乾燥等を採用するのが好ましい。 (A)接着剤を用いて作製した印象材製歯型を(B)洗浄液で洗浄する方法は、印象材製歯型を洗浄液に浸漬するのが最も効果的であるが、この他、霧状にした洗浄液を、印象採取面に噴霧する方法や、ハケ、筆等で印象採取面に塗布しても良い。また、洗浄液をしみ込ませた布や紙で、印象採取面を覆う等の方法であっても良い。これらの洗浄操作において、洗浄液の温度は、通常、5〜30℃が好ましい。浸漬する場合、処理時間は、15〜60秒が好適である。斯様にして印象材製歯型を(B)洗浄液で洗浄した後には、付着する洗浄液を、乾燥させ(上記接着剤の場合と同様な方法)、浄化された印象材製歯型を石膏模型の作製に供すれば良い。 本実施の形態に係る接着キットが適用されるアルジネート印象材としては、公知のものが何ら制限されることなく用いられる。アルジネート印象材の具体的な種類として、アルギン酸塩を主成分とする基材ペーストと、硫酸カルシウムを主成分とする硬化材ペーストとを混合して用いるタイプ、あるいはアルギン酸塩および硫酸カルシウムを主成分とする粉体に水を混合して用いるタイプが挙げられる。 さらに詳しく述べると、ペーストを混合して用いるタイプのアルジネート印象材に用いられる基材ペーストは、アルギン酸カリウム、シリカ粉末、水酸化カリウム、ポリアクリル酸および水等から構成される。同様に、硬化材ペーストは、粒状シリカ、流動パラフィン、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、リン酸三ナトリウム、フッ化チタン酸カリウム、超微粒子シリカおよび硫酸カルシウム等から構成される。粉体に水を混合して用いるタイプのアルジネート印象材において、その粉体は、アルギン酸カリウム、シリカ粉末、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、リン酸三ナトリウム、フッ化チタン酸カリウム、または硫酸カルシウム等からなる。 以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。なお、接着試験方法を(1)に、使用したトレーの種類を(2)に、石膏面荒れ性評価方法を(3)に、実施例および比較例で用いた化合物を(4)に示す。(1)接着試験方法 予め調整した(A)接着剤を、(3)に記す各材質からなるトレーの被着面に筆で塗布し、エアーブローにて余剰の溶剤を揮発させた。そして、該トレーの被着面に練和したアルジネート印象材を盛り付けた後、300gf/cm2の荷重をかけて、37℃下で3分間放置した。その後、硬化した印象材をトレーから引き剥がした。 次に、以下に記す評価基準に従い、印象材とトレーとの界面にて凝集破壊を引き起こしている面積の割合に基づいて、接着性能を評価した。全ての接着試験において、アルジネート印象材は、APミキサーII(商品名:株式会社トクヤマデンタル製)にて練和した、ペーストタイプの「AP−1ペースト」(商品名:株式会社トクヤマデンタル製)を用いた。◎:印象材とトレーを手で引き剥がすと、全面的に印象材の凝集破壊を引き起こす。○:印象材とトレーを手で引き剥がすと、印象材の大部分が凝集破壊を引き起こすが、一部はトレーとの界面から剥がれる。△:印象材とトレーを手で引き剥がすと、印象材の一部が凝集破壊を引き起こすが、大部分はトレーとの界面から剥がれる。×:印象材とトレーを手で引き剥がすと、全面的に印象材がトレーの界面で容易に剥がれる。(2)トレーの種類X:金属製トレーとして、ニッケルめっきを施した真鍮製トレー「COE104」(商品名:株式会社ジーシー製)を用いた。Y:レジン製トレーとして、「オストロンII」(商標:株式会社ジーシー製)を板状に硬化させたものを用いた。Z:モデリングコンパウンド製トレーとして、「モデリングコンパウンド中性」(商品名:株式会社ジーシー製)を用いた。(3)石膏硬化体の表面荒れ性評価方法 外径60mm、内径52mm、高さ10mmのアクリル製のモールドに、練和したアルジネート印象材を流し込み、その上面をアクリル製の板で圧接し、印象材を硬化させ、モールドから取り出し円筒状の印象材硬化体を作製した。次に、該印象材硬化体上面に、予め調整した(A)接着剤を筆で塗布し、エアーブローにて溶剤を揮発させた後、予め調整した25℃の(B)洗浄液の中に、印象材硬化体を3秒間浸漬させた後、印象材硬化体を洗浄液から取り出し、接着剤で処理した面の上に直接、印象槙型作製用の超硬石膏(株式会社ジーシー製:商品名「ニューフジロック」)を流し込んだ後、1時間放置し、石膏を硬化させた。得られた石膏硬化体を印象材硬化体から取り外し、その接着剤塗布面と接触していた面の表面荒れ性を以下に示す基準に従って評価した。なお、全ての接着試験において、アルジネート印象材は、APミキサーII(商品名:株式会社トクヤマデンタル製)にて練和した、ペーストタイプの「AP−1ペースト」(商品名:株式会社トクヤマデンタル製)を用いた。◎:石膏硬化体の硬化面は滑らかであり、金属製スパチェラで引掻いた時にその周囲は全く崩れ落ちない状態に硬化している○:石膏硬化体の硬化面は多少ざらつきが認められるが、金属製スパチェラで引掻いた時にその周囲は僅かしか崩れ落ちない状態に硬化している△:石膏硬化体の硬化面は激しいざらつきが認められ、金属製スパチェラで引掻いた時には、その周囲にかなりの崩れ落ち部分が生じる×:石膏硬化体の硬化面は激しいざらつきが認められ、金属製スパチェラで引掻いた時には、その周囲に広範囲に激しく崩れ落ちる部分が生じる(4)実施例および比較例で用いた化合物の略称(4−1)ポリアミン化合物PA1:1,7−ヘプタンジアミンPA2:ポリアリルアミン(1分子中にアミノ基の数16個、分子量1000)PA3:ポリアリルアミン(1分子中にアミノ基の数53個、分子量3000)PA4:ポリアリルアミン(1分子中にアミノ基の数263個、分子量15000)PA5:n−ブチルアミン(4−2)有機溶剤IPA:イソプロピルアルコール(4−3)有機過酸化物BPO:ベンゾイルパーオキサイドSPO:ステアロイルパーオキサイド 参考例1 表1に示すように、1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物ポリアミン化合物としてPA1を20g、有機溶剤としてエタノールを80gスクリュー管中に量りとり、均一な液体になるまで攪拌して接着剤(イ)を調整した。得られた接着剤を用いて、各種トレーに対する接着試験を行なった。結果を表1に示すが、接着剤(イ)を塗布した金属製トレーは、アルジネート印象材に対して良好な接着力が得られた。 参考例2〜参考例9 表1に示す組成である各接着剤記号の接着剤を使用する以外は、実施例1と同様の方法を用いて、各種トレーに対する接着試験を行なった。結果を表1に示す。 参考例2〜7は、1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物ポリアミン化合物として、1分子中のアミノ基の数が16〜263個有するポリアリルアミンを用いて調整した接着剤であるが、実施例1と比較して、金属製トレー、レジン製トレー、モデリングコンパウンド製トレー、いずれのトレーに対しても、ポリアリルアミンの分子量及び使用する溶剤の種類に大きく依存することなく、接着力が向上した。特に、これらの接着剤は、金属製トレーに対して高い接着力を有していた。 また、参考例8〜9は、1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物ポリアミン化合物と有機溶剤に加えて、有機過酸化物を更に含有させた例であるが、レジン製及びモデリングコンパウンド製の各トレーに対して接着力が更に向上する結果であった。 比較参考例1〜3 表1に示す組成である各接着剤記号の接着剤を使用する以外は、実施例1と同様の方法を用いて、各種トレーに対する接着試験を行った。結果を表1に示す。 比較参考例1は、本発明の接着剤に、アミン化合物を全く配合しなかった場合であるが、何れのトレーに対しても接着しなかった。 比較参考例2及び比較参考例3は、1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物の代わりに、1分子中にアミノ基を1個のみ有するn−ブチルアミンを使用した場合であるが、何れのトレーに対しても接着しなかった。 実施例1 カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸水溶液として、表2に示した組成の酸と蒸留水とをスクリュー管中に量りとり、均一な液体になるまで攪拌して本発明の洗浄液(い)〜(ち)を調整した。 前記参考例1で調整した組成の接着剤(イ)に対して、上記洗浄液(い)〜(ち)を組合せた各接着キットについて、石膏硬化体の表面荒れ性評価を行った。結果を表3に示したが、いずれの洗浄液においても、石膏は完全に硬化しており、良好な結果が得られた。なお、洗浄液の酸水溶液として、アスコルビン酸水溶液を用いた洗浄液(に)〜(ち)では、洗浄後の印象材硬化体が黄色に変色したため、洗浄の程度が視認でき、他の酸を用いた洗浄剤よりも使い易いものであった。 実施例2〜8 実施例1において、使用する接着剤と洗浄液の組合せを表4に示したものに変えて各接着キットとする以外は、実施例1と同様に実施した。石膏硬化体の表面荒れ性評価の結果を表4に示したが、いずれの接着キットも石膏は完全に硬化しており、良好な結果が得られた。 比較例1〜9 石膏硬化体の表面荒れ性評価を、印象材硬化体に接着剤(イ)〜(リ)を塗布するのみで、その後の洗浄剤による浸漬を行なわない態様で各実施した。結果を表5に示したが、いずれの場合においても、石膏の硬化不良が生じ、石膏硬化体の表面が荒れた。特に、接着剤成分である1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物として、アミノ基の数が多いものを使用した場合、石膏硬化体の表面荒れが顕著であった。 比較例10〜12 実施例1において、接着剤(イ)に組合せる洗浄液として、表2に示した(り)〜(る)を用いる以外は、実施例1と同様に実施した。石膏硬化体の表面荒れ性評価の結果を表6に示した。 比較例10は、本発明の洗浄剤にカルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸を配合せず、水のみを使用した場合であるが、印象材硬化体表面に残存した接着剤成分であるポリアミン化合物の影響により、石膏の硬化不良が生じ、石膏硬化体の表面が荒れた。 比較例11及び比較例12は、本発明の洗浄液に、カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸の代わりに、カルシウムイオンと反応した際に非水溶性塩を形成する酸を用いた場合であるが、何れの場合においても、石膏の硬化に必要なカルシウムイオンが系外に析出してしまう為、印象材硬化体と接触する石膏の硬化が更に阻害され、石膏硬化体の表面が著しく荒れた。(A)I)1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、II)有機溶剤を含有してなる歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着剤、及び(B)カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸であるアスコルビン酸の水溶液からなる、上記(A)接着剤を使用して印象用トレーを歯科用アルジネート印象材に接着する態様で印象採取して得たアルジネート印象材製歯型の洗浄液、を含んでなる、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着キット。(A)接着剤の有機溶剤が、沸点が75℃以上である、請求項1に記載の歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着キット。(A)接着剤が、さらに、III)有機過酸化物を含有してなる、請求項1又は2に記載の歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとの接着キット。I)1分子中にアミノ基を2個以上含むポリアミン化合物、II)有機溶剤を含有してなる接着材を用いて、歯科用アルジネート印象材と印象用トレーとを接着する態様で印象採取して得たアルジネート印象材製歯型の洗浄液であって、カルシウムイオンと反応した際に水溶性塩を形成する酸であるアスコルビン酸の水溶液からなる上記洗浄液。


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