生命科学関連特許情報

タイトル:公表特許公報(A)_機能的膵β細胞を調製するためのGLIS3の使用
出願番号:2009504858
年次:2009
IPC分類:C12Q 1/68,C12N 15/09,C12N 5/06,A61K 38/00,A61P 43/00,A61P 3/10,A61P 5/00,A61P 27/06


特許情報キャッシュ

セシール、ジュリエ ドリス、タハ マルク、ニコリノ ダグラス、カベナー JP 2009533047 公表特許公報(A) 20090917 2009504858 20070416 機能的膵β細胞を調製するためのGLIS3の使用 コンソーシアム、ナスィオナル、ド、ルシェルシュ、アン、ジェノミク、(セエヌエルジェ) 508308053 CONSORTIUM NATIONAL DE RECHERCHE EN GENOMIQUE (CNRG) 吉武 賢次 100075812 中村 行孝 100091487 紺野 昭男 100094640 横田 修孝 100107342 大森 未知子 100137497 セシール、ジュリエ ドリス、タハ マルク、ニコリノ ダグラス、カベナー US 60/791,895 20060414 C12Q 1/68 20060101AFI20090821BHJP C12N 15/09 20060101ALI20090821BHJP C12N 5/06 20060101ALI20090821BHJP A61K 38/00 20060101ALI20090821BHJP A61P 43/00 20060101ALI20090821BHJP A61P 3/10 20060101ALI20090821BHJP A61P 5/00 20060101ALI20090821BHJP A61P 27/06 20060101ALI20090821BHJP JPC12Q1/68 AC12N15/00 AC12N5/00 EA61K37/02A61P43/00 105A61P3/10A61P5/00A61P27/06 AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MT,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RS,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,SV,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA,ZM,ZW IB2007002165 20070416 WO2007135563 20071129 29 20081212 4B024 4B063 4B065 4C084 4B024AA11 4B024CA01 4B024CA04 4B024CA09 4B024CA11 4B024CA20 4B024HA11 4B024HA12 4B024HA17 4B063QA01 4B063QA13 4B063QA18 4B063QA19 4B063QQ08 4B063QQ42 4B063QQ52 4B063QQ79 4B063QR32 4B063QR35 4B063QR48 4B063QR55 4B063QR59 4B063QR62 4B063QS25 4B063QS32 4B063QX01 4B063QX02 4B065AA90X 4B065AA90Y 4B065AB01 4B065AC14 4B065AC20 4B065BA01 4B065CA24 4B065CA44 4C084AA02 4C084BA01 4C084BA08 4C084BA22 4C084BA23 4C084CA18 4C084CA32 4C084DC50 4C084NA14 4C084ZA331 4C084ZB212 4C084ZC351 GLIS3遺伝子における変異の存在を検出することを含んでなる、新生児糖尿病、先天性甲状腺機能低下症、および先天性緑内障の診断方法、並びに胚性幹細胞(ES細胞)またはヒト体性幹細胞のような、ヒト多分化性(multipotent)または多能性(pluripotent)細胞を、有効量のGLIS3を含む培地において培養し、前記細胞のインシュリンを産生する機能的膵β細胞への分化を誘発することにより、機能的膵β細胞を調製する方法に関する。本発明は、更に、GLIS3を有効成分として含んでなる医薬組成物に関する。 永続型新生児糖尿病は、単独または多臓器症候群と関連して起こりうる。サウジアラビアのある血縁家族において、永続型新生児糖尿病が、子宮内胎児発育遅延、先天性甲状腺機能低下症、顔面奇形、先天性緑内障、肝線維症、および多発性嚢胞腎と関連していた1。本願発明者らは、この家族、および、特筆すべき変種と共に類似の症候群に冒された、他の2つの血縁家族を研究した。(第二の家族(1患者)においては、肝臓および腎臓は正常であり、第三の家族(2患者)においては、肝臓、腎臓および眼が正常であった。)すべての患者は、新生児糖尿病、先天性甲状腺機能低下症および類似の顔面奇形を共通に抱えており、このことから本願発明者らは、これらの病気が同じ病気の存在、つまりNDH(新生児糖尿病および先天性甲状腺機能低下症(Neonatal Diabetes and congenital Hypothyroidism))によるものであると仮に考えることとなった。 本発明に関連して、本願発明者らは、GLIS3遺伝子の変異が、永続型新生児糖尿病、先天性甲状腺機能低下症、および家族間で異なる他の臨床症状により特徴づけられる上記の稀な常染色体劣性症候群の原因であることを示した。また、本願発明者らは、近年同定された転写因子(Kim et al., Nucleic Acids Res 31:5513-5525, 2003)であるGLIsimilar3をコードするGLIS3遺伝子の構造を確定した。この遺伝子は、長い染色体領域(524kb)に広がり、複数の5’端および3’端、並びに選択的エクソンと共に、32のエクソンを含み、これらのエクソンは、多種多様な転写産物を生成し、特にN‐およびC‐末端において更なる差異を有し、そして組織間での重要な差異を有するタンパク質をコードし得る。 最初の家族においては、フレームシフト変異により短縮タンパク質(truncated protein)が得られると予測された。不完全な症候群を抱えた2つの別の家族においては、患者に、遺伝子の最も5’側の12個または11個のエクソンに影響する欠失が存在した。主要な膵臓および甲状腺の転写産物が存在せず(双方の欠失)、そして眼に特異的な転写産物が存在せず(1つの欠失)、加えて、いくつかのGLIS3転写産物の残りが発現することから、これらの患者の不完全な臨床症状が説明されると思われる。 次いで、本願発明者らは、β細胞新生の起こる初期発生段階(E15.5)から成人期に、β細胞において、他の内分泌細胞および外分泌組織と比較して更に高い発現量(発現比:8:2:1)をもって、膵臓においてGLIS3が発現することを見出した。これらの結果により、膵β細胞、甲状腺、眼、肝臓および腎臓の発生におけるGLIS3の主要な役割が実証される。 従って、本願発明者らは、GLIS3が、膵臓の発生の際、特にβ細胞の発生の際に決定的な役割を果たすことを、本明細書において実証する。 総合すると、本願発明者らの研究結果は、主に以下の3つのタイプの重要な臨床および治療における重要な用途を有している:‐新生児糖尿病、先天性甲状腺機能低下症、および先天性緑内障の診断および治療、‐上記の症候群:1型糖尿病、2型糖尿病、他の型の糖尿病、甲状腺機能低下症および緑内障、に関連した、頻繁に起こる疾患の診断および治療、並びに、‐糖尿病を治療するための、膵β細胞の細胞治療および再生における用途。発明の詳細な説明 本願発明者らは、GLIS3遺伝子における変異が、永続型新生児糖尿病、先天性甲状腺機能低下症、および家族間で異なる他の臨床症状により特徴づけられる、稀な常染色体劣性症候群に関与していることを示した。この研究は、3つの個別の血縁家族について行った。これらの家族の一つは、Doris Taha(Taha et al,Am J Med Genet 122:269-273,2003)により以前に記載されたように、永続型新生児インシュリン依存性糖尿病、先天性甲状腺機能低下症、肝線維症、多発性嚢胞腎、先天性緑内障および特定の顔面異形により特徴づけられるすべての症候群を示した。他の2つの家族は同様の膵臓および甲状腺の特徴を示したが、眼疾患、腎疾患および肝疾患は示さず(1家族)、そして、腎疾患および肝疾患(1家族)は示さなかった。 本願発明者らは、近年同定された転写因子(Kim et al., Nucleic Acids Res 31:5513-5525,2003)であるGLIsimilar3をコードするGLIS3遺伝子の構造を確定した。この遺伝子は、長い染色体領域(524kb)にわたり、複数の5’および3’端並びに選択的エクソンと共に32のエクソンを含み、これらのエクソンは、多種多様な転写産物を生成し、特にN‐およびC‐末端において更なる差異を有し、組織間で重要な差異を有したタンパク質をコードし得る。 最初の家族においては、フレームシフト変異により短縮タンパク質が得られると予測された。不完全な症候群を抱えた2つの別の家族においては、患者に、遺伝子の最も5’側の12または11のエクソンに影響する欠失が存在した。主要な膵臓および甲状腺転写産物(双方の欠失)および眼に特異的な転写産物(1つの欠失)、並びにいくつかのGLIS3転写産物の残りの発現が存在しないことにより、これらの患者の不完全な臨床症状が説明されると思われる。 β細胞新生の起こる初期発生段階(E15.5)から成人期に、β細胞において、他の内分泌細胞および外分泌組織と比較して更に高い発現量(発現比:8:2:1)をもって、膵臓においてGLIS3が発現する。これらの結果により、膵β細胞、甲状腺、眼、肝臓および腎臓の発生におけるGLIS3の主要な役割が実証される。 診断方法従って、本発明は、フレームシフトをもたらす停止変異、欠失および挿入について選択されたGLIS3遺伝子における変異の存在または不在を検出することを含んでなり、ここで、患者の検体または新生児の検体における前記変異の存在が、新生児糖尿病、先天性甲状腺機能低下症および先天性緑内障の指標となる、新生児糖尿病、先天性甲状腺機能低下症、および先天性緑内障の診断方法を提供する。 上記の方法は、ゲノムDNAのPCR増幅または検体から抽出したRNAのRT−PCR、ゲル電気泳動法、およびノーザンブロットの後にプローブを使用しGLIS3タンパク質の変異体を同定することを含む、当該技術分野において公知のいずれの方法で行ってもよい。 例えば、特定の態様において、この方法は、例えば、患者WRS19およびWRS25における以下の欠失および挿入;並びに患者WRS15における停止およびフレームシフト変異を検出するためのプローブの使用を含む。 患者WRS19(2患者) 配列AおよびBは、上記欠失の両端に対応する。ある配列が、染色体9のテロメア領域を起源とする配列Iに対応して挿入されている。参照ゲノム配列(NT_008413.16)上の欠失の位置:...4249914[DEL4249915−4398572;配列<<I>>により置換]4398573...欠失の大きさ:148658bp挿入された配列Iの大きさ:82bpAL162419.34(A、隣接(flanking)、左)挿入配列(I):AL162419.34(B、隣接、右): A−I−Bが配列番号1を形成する。 特に、本発明は、以下の10個乃至30個の連続したヌクレオチドからなるプライマーまたはプローブの使用に向けられている:配列番号5−変異GLIS3患者WRS19−5’欠失−挿入ジャンクションヒト配列番号6−変異GLIS3患者WRS19−3’欠失−挿入ジャンクションヒト 患者WRS25:欠失の隣接領域:下線部はテロメア範囲(クローンAL133283)、太字はセントロメア範囲(クローンAL136231)である。(配列番号2) 特に、本発明は、配列番号7の10個乃至30個の連続したヌクレオチドからなり、かつ、欠失の枠となる各々の部分から少なくとも1つのヌクレオチドを含んでなる、プライマーまたはプローブの使用に向けられている:参照コンティグ(NT_008413.16)上の欠失の位置:....4176076[DEL:4176077−4601776]4601777...欠失サイズ:425700bp 変異(家族WRS15):変異の特質:BC033899−insC2067−2068(cDNA)またはAL137071−insC92318−92319(ゲノム):GLIS3遺伝子のcDNA配列(Genbank:BC033899)のヌクレオチド2067および2068の間、またはヌクレオチド92318−92319(ゲノム)間への<<C>>の挿入。この変異により、第625位で始まり、第702位(以下の太字参照)までの変更された配列および第703位における停止(625FS703STOP)を備えたフレームシフトが引き起こされる:GLIS3野生型(NP689842.2、775AA)−(配列番号3):変異GLIS3:625fs703STOP(配列番号4): 特に、本発明は、配列番号7または8の10個乃至30個の連続したヌクレオチドからなり、かつ、第2068位におけるCの挿入を含んでなる、即ち以下に示されるような、プライマーまたはプローブの使用に向けられている:配列番号8 本発明によるプローブは、上記の配列番号1、2、5、6、7、8および9の配列、若しくはそれらに相補的な配列、または、配列番号4をコードする配列の、例えば、10個、12個、15個若しくは20個といった10個乃至30個の連続したヌクレオチドを示す配列を含んでなっていてよく、これにより、特にGLIS3遺伝子の第2068位で挿入されたシトシンの存在が検出される。プローブは蛍光または生物発光分子で標識されていてよい。更に、本発明は、上記変異領域を含んでなるDNA配列を特異的に増幅するためのプライマーを提供する。特定の態様において、この方法は、前記プライマーを用いて前記サンプルから抽出されたRNAでのRT−PCR反応を含んでなる。 上記方法は、新生児糖尿病、甲状腺機能低下症および緑内障を含む、その症候群に関連する先天性疾患の、出生前、前臨床および臨床診断に適用することができる。 上記方法は、1型糖尿病、2型糖尿病、他の型の糖尿病、甲状腺機能低下症および緑内障を含む、この症候群に関連して頻繁に起きる疾患の、診断、よりよい理解および治療にまで拡張することができる。特に、GLIS3遺伝子と重複している領域の遺伝的連鎖は、2型糖尿病、および2型糖尿病の発症年齢について報告されており(Duggirala et al., Am J Hum Genet 64 :1127-1140, 1999)、2型糖尿病への感受性におけるこの遺伝子の関与の可能性を示唆している。このことは、治療の性質を個別の異なる遺伝的危険度の性質に適合させることにより治療の質が改善されることと関連し得る。 新生児糖尿病、および頻繁に起きる糖尿病におけるGLIS3の有力な役割に関して、本願発明者らは、この遺伝子が膵β細胞の発生および機能における役割を果たしていると考える:1)GLIS3機能への主な機能的影響を伴う変異により、誕生時からおよび誕生前であっても、β細胞の不完全な発生/機能がもたらされ、新生児糖尿病を引き起こされる。2)母集団中に存在し得る、この遺伝子における小さな遺伝的変異は、β細胞の数、量、生存度または機能を調節し得るため、後年になって1型または2型糖尿病の個別の危険度に影響を与え得る。 従って、さらなる態様において、本発明は、機能的膵β細胞を産生するためのGLIS3タンパク質(配列番号3)の使用に関する。 この症候群に関係する器官、特に膵β細胞の発生および機能に関係するメカニズムをよりよく理解することにより、これらの器官(または細胞)のエクスビボ(ex vivo)またはインビボでの発生が改善され、重要な治療の結果が得られるような戦略の設計が可能となる。他の膵組織と比較して、そしてβ細胞新生の初期において、膵β細胞における増加したGLIS3の発現を示す本願発明者らの結果は、GLIS3が転写因子であるという事実と共に、GLIS3が膵β細胞の分化、発生および機能において決定的な役割を果たしていることを強く支持する。本願発明者らの発見の一つの直接的な結果は、糖尿病治療のため、または膵臓を摘出された患者における、細胞置換療法(cell replacement therapy)または再生療法を用いた治療戦略の設計についてのものである。これには、分化に関与する要因の同定を含む膵β細胞の分化を理解することが、決定的なステップである。実際、このことは、β細胞発生、並びに糖尿病のための細胞置換療法および細胞再生療法への研究を奨励する重要な研究プログラムを展開してきた糖尿病研究の主要な基金団体(例えば、JDRF、NIHおよびEU FP6)により認識されてきた。本願発明者らは、この目標を達成するための2つの主要な戦略を提供する。 糖尿病治療のための細胞置換療法 目標は、糖尿病患者由来の欠陥のある膵β細胞を、インシュリンを発現する細胞で置き換えることにある。過去に、糖尿病の細胞置換療法を用いた有望な成果が存在するが(例えば、Shapiro et al., N Eng J Med 343:230-238, 2000)、その成功は、少なくとも、おそらく主要な適応症である1型糖尿病の場合においては、現在まで部分的であり、追跡調査からは、島の同種移植の後5年経過してもインシュリン療法を必要としない状態であった患者が10%未満であったことが示されている(Ryan et al., Diabetes 54: 2060- 2069, 2005)。これに比べ、慢性膵炎について行われた膵切除後の膵島移植(自家移植)の場合においては、より良好な成功が収められた(Robertson et al., Diabetes 50: 47-50, 2001)。これらの戦略における現在までの主な問題は、十分な材料を獲得すること、1型糖尿病の患者(免疫抑制治療を要する)においてその材料を維持すること、および、移植後にその材料がインシュリンを生産し続けることにあった。従って、全島移植に対する代替の戦略は、胚性幹細胞(ES細胞)のような多分化性または多能性細胞から膵β細胞に分化させることであった。ES細胞を膵β細胞に分化させるプロセスには、必要とされる決定的な因子、および分化プロセス中にそれらの因子が働く順序を同定することが求められる。これらの因子には、PDX1のような公知のものもある。最近、β細胞の分化のために上皮成長因子およびガストリンの組み合わせを用い、また、糖尿病のマウスモデルにおける置換療法でその組み合わせを用いることによって、成功が収められた(Suarez-Pinzon et al, Diabetes 54:2596-25601; Rooman and Bouwens, Diabetologia 47: 259-265, 2004)。本願発明者らの知見に基づけば、GLIS3はβ細胞の分化に必要な転写因子であり、それ故、ES細胞からインビトロで分化させるための主要な決定因子である。 この点については、本発明は、胚性幹細胞(ES細胞)またはヒト体性幹細胞のような、ヒト多分化性または多能性細胞を、前記細胞のインシュリンを産生する機能的膵β細胞への分化を誘発させるための有効量のGLIS3を含む培地において培養することにより、機能的膵β細胞を調製する方法を意図している。また、本発明は、有効量のGLIS3を含んでなる培地、並びにGLIS3を含んでなる培地中に上記の細胞を含んでなる細胞培養にも関する。本発明による培養液は更にEGFおよびPDX1を含んでなっていてもよい。 再生β細胞療法 上記したように、GLIS3は、多分化性細胞からβ細胞を再生すること、または存在するβ細胞の損失を減速させることができる。従って、本願発明者らは、これを目的として、インビボで必要とされる因子(すなわち、GLIS3)を提供するための戦略の設計を提案する。これは、患者へのタンパク質の直接投与、または、このタンパク質を合成する、遺伝子操作により設計されたベクターを用いることにより、達成され得る。 この点については、本発明は、有効量のGLIS3を、このような治療を必要としている患者に投与することを含んでなる、1型糖尿病、2型糖尿病、他の型の糖尿病のような糖尿病、甲状腺機能低下症および緑内障の治療方法に向けられている。また、本発明は、活性成分としてGLIS3を含んでなる医薬組成物にも関する。あるいは、本発明は、GLIS3を発現する遺伝子療法ベクター、およびこのようなベクターを含んでなる医薬を目的としている。実施例1:新生児糖尿病および機能的膵β細胞の損失に関与するGLIS3変異の同定 1.1.患者および家族 サウジアラビアの血縁家族である、NDH1家族が、以前に報告されている1。3番目の子供がこの家族に生れ、幼齢での死亡(10日)に関係する可能性のある嚢胞腎疾患を有していないということを除いて、同様の臨床徴候を抱えていた。3人の患者はすべて、肺炎および呼吸不全(NDH1−3)または敗血症(NDH1−4および−5)により幼齢で死亡した。血液サンプルは、両親およびNDH1−4から入手することができた。NDH2家族もまたサウジアラビアの血縁家族であった。一人の子供(NDH2−7)は、肝臓および腎臓の欠陥がこの患者には認められず、顔面異型が顕著でないということを除いて、同様の症候群に冒されていた。この患者は生存していた(2歳)。この患者、両親、および4人の健康なきょうだいを研究に利用することができた。NDH3家族は、同族のフランス人ジプシー家族であり、2患者は生存し、同様の徴候を示したが、肝臓および腎臓の欠陥は観察されず、緑内障も患っていなかった。すべての患者は重篤なIUGRを示し、1日齢または2日齢で新生児糖尿病の診断がなされた。 研究についての説明が、インフォームドコンセントに署名した家族の構成員になされた。NDH3患者およびその両親は、科学論文に彼らの写真を公表することについて更なる署名をした。研究手順は地方の倫理委員会(King Faisal Specialist Hospital, Jeddah、およびHopital Saint−Vincent de Paul, Paris)で承認された。血液サンプルが収集され、DNA抽出が標準的な手法を用いて行われた。RNA抽出は、PAXgene Blood RNAキット(QIAGEN)を用いて、患者NDH2−7およびその両親、並びにNDH3−3および−4およびその両親の血液サンプルで行った。表1 患者の臨床記述 1.2. 連鎖の研究 (http://www.cng.fr/fr/teams/microsatellite/index.html)に記載されるように、400以上のマイクロサテライトマーカー(Linkage Mapping Set 2、Applied Biosystems、修飾あり)を用いて、半自動蛍光遺伝子型同定によりゲノムスキャンを行った。連鎖分析は、完全浸透性劣性モデルにおいて、SIMWALK2プログラムを用い、異質性が存在しないものと想定して行った。 1.3. 微細地図の研究 まず、連鎖の確認および微細地図の作成を、公知のマイクロサテライトマーカーですべての家族構成員の遺伝子型を同定することにより行った。31個のジ‐、トリ‐、テトラ‐、およびペンタヌクレオチド繰り返し部分を選択することにより、更なるマイクロサテライトマーカーを作成した。これらの28個は多型であることが判明した。NDH2およびNDH3家族における欠失境界の正確な定義は、33種の単純なPCR試験を用い、次に欠失領域にわたってPCRを行い、得られた特異的なPCR断片の配列決定をすることにより行われた。 1.4 DNA配列決定による変異のスクリーニング GLIS3遺伝子のコード領域全体のシークエンシングを、NDH1患者およびその両親において、ゲノムDNAから付表2cに示されたプライマーを用いて生成したPCR断片について行った。配列の解釈はGenalysソフトウェア18を用いて行った。付表2c NDH1家族における変異スクリーニングに用いられるプライマーの配列 1.5 発現の研究ノーザンブロットハイブリダイゼーション 本願発明者らは、正常な大人の組織におけるGLIS3発現の評価のために市販のノーザンブロット(BD Biosciences, Clontech)を用いた。製造元により明記されているように、各々のレーンにローディングされるRNAの量を調整し、β‐アクチンプローブを用いた同様のハイブリダイゼーションシグナルを得た。cDNAまたはゲノムDNAにおけるPCR増幅によりプローブを生成し、配列決定により確認し、Megaprime DNAラベリングシステム(Amersham)を用いて32P−dCTPでラベルした。そして、製造元の推奨に従ってハイブリダイゼーションを行い、0.1xSSC、0.1%SDSバッファーにて60℃で最終的なストリンジェント洗浄をした。 1.6 患者およびその家族の正常組織のRT−PCRによる発現の研究 市販の正常な大人の組織(膵臓、腎臓、甲状腺、肝臓、網膜、心臓、骨格筋、胎盤、肺、脳、精巣(BD Biosciences,Clontech))由来のRNAについて、製造元の説明書に従い、M−MLV逆転写酵素(invitrogene)を用いて、Poly A+RNA(網膜以外のすべての組織)またはtotal RNA(網膜)上でRT−PCRを行った。以下のようないくつかの場合でcDNAのネステッド(nested)PCRまたはダブル(double)PCR増幅が用いられることを除き同様の手順を用い、NDH2およびNDH3家族の全血RNAでRT−PCRを行った。第1ラウンドのPCR混合物は50倍に希釈され、20サイクルのPCRから成る第2ラウンドのPCR(内部プライマーを用いたネステッドPCR、または同様のプライマーを用いたダブルPCR)のための鋳型として供された。一様に発現するPCBD1遺伝子(6−ピルボイル−テトラヒドロプテリン合成酵素/肝細胞核因子1αの二量化補足因子)に位置するプライマーを用いてコントロールRT−PCRを行った。NDH2およびNDH3家族におけるPCRおよびネステッドPCRに用いられたプライマーの配列は、下の付表2dに与えられる。付表2d NDH2およびNDH3家族におけるRT−PCR発現の研究に用いたPCRアッセイ付表2e NDH3家族におけるGLIS3の量的発現の研究のためのRT−PCRアッセイ、およびGLIS3 SNPrs6415788のゲノム遺伝子型決定のためのPCRアッセイ 1.7 対立遺伝子-特異的発現の定量 欠失のあるGLIS3対立遺伝子(アレル)についてヘテロであり、かつ、RefSeqエクソン3(最終的な構造におけるエクソン18.1)に位置する、エクソンのSNP rs6415788についてヘテロである親、および、このSNPの各々の対立遺伝子についてヘテロまたはホモである対照個体の血液cDNAで、RefSeqエクソン3および4(最終的な構造におけるエクソン18.1および25、オンラインの付表2e)に位置するプライマーを使用した2ラウンドのPCRを用いて、RT−PCRを行った。異なるプライマーを用いて、同じ個体のゲノムDNAでのPCRも行った。StyIでの制限酵素による37℃、16時間の処理後、これらの2つの対立遺伝子は区別され、PCR産物は2%アガロースゲル上で分離され、各々の対立遺伝子に特異的なバンドの強度を、AlphaImager(Alpha Innotech Corporation)を用いて定量した。 GLIS3遺伝子の構造を3つの方法の組み合わせを用いて確定した:膵臓、腎臓および網膜(眼の代表的な組織として)におけるcDNA末端の5’−および3’−高速増殖法(RACE法)実験、インター‐エクソンRT−PCR、およびノーザンブロットハイブリダイゼーション。5’−および3’−端は、製造元の説明書に従い、BD SMART(登録商標)RACE cDNA増幅キット(BD Biosciences Clontech)を用い、腎臓および膵臓のpoly A+RNAまたは網膜のtotal RNA(BD Biosciences Clontech)で、5’−および3’−RACEを用いて決定した;本願発明者らは、AceViewに参照されているすべてのエクソンに位置し、または、参照されているmRNA若しくはスプライシングされた転写産物に位置するプライマー、並びに本研究の途中で本願発明者らが同定した新規なエクソンに位置するプライマーを用いた。同定された3’端の候補について精密に再検討を行い、転写産物におけるゲノムpolyA領域または内部polyA領域に対応するものは排除した。RACE法実験に用いたプライマー配列は付表2fに与えられる。付表2f ヒトノーザンブロットハイブリダイゼーションのためのGLIS3プローブを生成するために用いられるプライマー 本願発明者らは、代わりとなる転写産物の同定および確認のため、5種類の組織(膵臓、甲状腺、肝臓、腎臓および網膜)のcDNAにおけるエクソン間でのRT−PCRおよび長距離RT−PCRを行い、PCR産物の配列決定を行った。5種類の組織のすべてで発現しなかった転写産物は、次に、拡大された組織のパネルにおいて試験し、組織‐特異的な発現を探索した。これらの戦略を用いて得られたすべての情報、および公的に入手可能なデータ(NCBIクローン配列および地図情報)を、特定の場所で開発されたデータベース管理プロブラム(C.C.、未出版)を用いて、統合されたデータベースおよび図式表示へと併合した。予測された転写産物は、エクソン‐特異的なプローブのノーザンブロットハイブリダイゼーションにより決定された転写産物のサイズと比較された。包括的なGLIS3遺伝子構造が、転写産物のコード予測と共に、図6に示され、詳細なイントロン‐エクソン構造が付表3に示される。付表3 ヒトGLIS3遺伝子のエクソン-イントロン構造注: 可変の5’または3’端(またはスプライシング)を備えたエクソンが、同じ先頭番号および異なる伸長で示されている:5’端(スプライシングに対する)または3’端(スプライシングからの)、5’および3’端の双方、またはスプライシングされた双方の端部(表示なし)が括弧で示される。 *の印がある5’エクソンは、Genbankで入手可能なクローンに基づく、推定上の5’エクソンに対応し、不完全であってよい。 **の印がある3’エクソンは、クローンBC033899に見られたが、本願発明者らのRACE研究では同定されなかった。 この構造は、腎臓、膵臓および網膜における本願発明者らのRACE法研究、および複数の組織におけるRT−PCRに基づき、方法において記載されるように、Genbankクローンによる情報によって完成される。 1.8 マウス組織、膵臓細画分、およびマウスの発生の間における発現の研究 出生後22日齢および35日齢での、膵臓、肝臓、腎臓および骨髄を含む全マウス組織、並びに、初期胚(E15.5)から生体マウスまでの異なる発生段階の全マウス膵臓からRNAを単離した。膵臓細画分を以下のように生成した:マウスインシュリンI遺伝子プロモーター(MIP‐GFPマウス)19)の制御下で緑色蛍光タンパク質を発現する、成体の(P35)トランスジェニックマウスの膵臓を単離し、20分間コラゲナーゼ(1mg/ml)処理した。コラゲナーゼ処理された膵臓をhistopaqueを用いた遠心分離により分画し、島細胞および腺房細胞を単離した。次に、島細胞および腺房細胞のクラスターを立体顕微鏡下での手選により精製した。島部分を更にトリプシン(PBS中0.125%)処理により分離し、単一の細胞へ遊離させた。分離した島細胞を、β細胞に特異的なMIP‐GFP導入遺伝子のGFP蛍光に基づくFACSソーティングにより分画し、GFP+(β細胞)およびGFP−(他の島細胞)を得た。RNeasy Mini Kit(Qiagen, Inc.)を用いてすべての組織および単離された細胞からRNAを抽出した。total RNAの標準的な逆転写によりcDNAを調製した。製造元の説明書に従い、標準化のためにGlis3に特異的なプライマーおよびGapdhプライマーを用いて、Glis3の発現を、ABI7000(Applied Biosystems, Inc.)上でリアルタイム定量PCRにより定量した。本願発明者らは、エクソン28および29(1組)およびエクソン8および10(2組)中のマウスGlis3遺伝子に位置するプライマーの組を用いて行った3つの独立した実験のGlis3の平均発現量(Gapdhに対する)を報告する。本願発明者らは、ヒトにおけるように、エクソン8、10、28および29が主要な(7.5kb)マウス転写産物に属していることを、マウスノーザンブロットのハイブリダイゼーション(表示なし)により確認した。URLNCBI AceView: http://www.ncbi.nlm.nih.gov/IEB/Research/Acembly/Genbank受入番号ヒトGLIS3のcDNA:NM_152629.2(RefSeq)、ヒトSLClAlのcDNA:NM_004170.4(RefSeq)、GLIS3染色体領域のヒトゲノムDNA:NT_008413.16、ヒトGLIS3タンパク質:NP_689842.2(RefSeq)。この研究において生成された配列は、アクセス番号DQ438877からDQ438907の下、GenBankに提出された。 2.結果 本願発明者らは、ゲノム全域にわたる連鎖スキャンをすべての利用可能な家族構成員について行い、完全透過性劣性モデルの下、染色体9p上の単一染色体領域との連鎖の示唆的な証拠を得、次いで本願発明者らは、更なるマーカー(図1a)を用いて7.3cM領域(LOD=4.67)と連鎖していることを確認した。31種の新たに作成したマイクロサテライトおよび33種の単純PCRアッセイを用いて、本願発明者らは家族NDH2およびNDH3における2つの異なる欠失を同定し(図1b)、そして、本願発明者らは、欠失領域にわたるPCRおよびシークエンシングにより欠失断端を決定した(図2a)。NDH2患者は426kbのホモ欠失を保因し、この欠失には、NCBI AceView予測(http://www.ncbi.nih.gov/IEB/Research/Acembly/)に規定されるように、ニューロン/上皮性高親和性グルタミン酸トランスポーター(SLC1A1)をコードする遺伝子、およびGLI similar 3(GLIS3)をコードする遺伝子の5’非翻訳領域(UTR)の一部が含まれている。NDH3患者は149kbのホモ欠失を保因し、この欠失にはGLIS3の5’非翻訳領域の一部のみが含まれていた。双方の欠失に共通する領域はGLIS3の公知の開始コドンから134kbだけ5’側に位置していた(NCBI RefSeq)。GLIS3は5個のKrueppel様のジンクフィンガードメインを含む最近同定された転写因子であり、GLIジンクフィンガータンパク質と高いホモロジーを共有し、発生の間、種々の細胞過程の調節において決定的な役割を果たしているとみなされてきた2。その推定される機能、NDH2およびNDH3の欠失に共通する領域においてGLIS3エクソンの存在、およびNDH3患者においてSLC1A1の関与が存在しないことに基づき、GLIS3はこの症候群の原因となる遺伝子である可能性があるものと思われた。本願発明者らは、NDH1家族におけるGLIS3のすべてのコードエクソン(coding exon)のシークエンシングを行い、C‐末端のプロリンに富むドメインが変化する、フレームシフトおよび短縮タンパク質(625FS703STOP)を引き起こすホモ挿入(2067insC;図5)を同定した(図2b)。マウスGlis3のThr713(ヒトではThr708)のC末端領域に影響を与える欠失は、インビトロでGLIS3の活性をほとんど完全に失わせることを示してきた2。従って、625FS703STOP変異により非機能性のタンパク質が得られると期待される。この変異は175人の正常なコーカサス人個体には見いだされなかった。NDH1患者におけるSLC1A1遺伝子には変異は同定されなかった(データ表示なし)。これらの結果は、GLIS3に影響のあるフレームシフト変異(NDH1)および欠失(NDH2およびNDH3)がこの症候群の原因であることを支持する。 GLIS3のコード配列(RefSeqに従う)がNDH2およびNDH3患者において無傷であったため、これらの患者においては、いくつかの発現およびコードする能力は保持されているかもしれない。本願発明者らは、RT‐PCRを用いて、NDH2およびNDH3患者および親の全血から抽出したRNAにおいてGLIS3の発現を探索した(図2c)。単純なRT−PCRの後、ホモ欠失を保因する患者においてはGLIS3の発現は検出されなかったが、ヘテロの親と正常な対照個体においてはGLIS3が発現された;しかし、ネステッドPCRの後、これらの患者においていくつかの発現が検出された。本願発明者らは、エクソンのGLIS3 SNPについてヘテロであったNDH3の親における、正常対立遺伝子および「欠失」対立遺伝子からGLIS3の相対的な発現を定量した。「欠失」対立遺伝子の発現は、正常対立遺伝子の発現の8%および5%(平均:6%)に減少した一方、双方の対立遺伝子は対照個体において同様の発現レベルを示した(平均発現比=0.98、図2d)。対照的に、SLC1A1はNDH3患者において通常の発現をした(図2c)。 NDH2患者におけるSLC1A1の完全な欠失は、無傷のSLC1A1遺伝子を保因しているNDH1患者と比較すると、更なる臨床徴候とは関連していなかった。SLC1A1は主にニューロン、腎臓、および小腸で発現する3。Slc1a1ノックアウトマウスはジカルボキシルアミノ酸尿症を有するが、表現型的に正常である4。アミノ酸尿症のパターンはNDH2およびNDH3患者において正常であったが、このことは、SLC1A1の欠失による病理学的な結果はヒトにはもたらされないか、または検出されないことを示唆した。これらの観察により、SLC1A1の欠失は、家族間の表現型の変異性の原因としては排除される。 RefSeqに規定されるようなコード領域および5’エクソンが存在するにもかかわらず、NDH2およびNDH3患者における血液中のGLIS3転写産物の発現が極端に減少するため、本願発明者らは、NDH2およびNDH3患者において欠失している遠位領域がGLIS3の発現に決定的な配列を含むとの仮説を立てた。この仮説を探索するために、本願発明者らは、GLIS3遺伝子の構造を確定し、関連する組織におけるその発現を試験した。 報告されたすべてのGLIS3の転写産物に存在する2つのコードエクソンを含むcDNAプローブを用い、本願発明者らは、ノーザンブロットハイブリダイゼーションにおいて複数の転写産物を検出した(図3)。これらの転写産物は、種々のサイズおよび発現レベルで、ほとんどの組織に発現する。主要な転写産物のサイズは、約7.5kbおよびそれより小さいもの(0.8‐2.0kb)であった。より低い強度の更なるバンドも見られた。より小さな転写産物に対する7.5kbの転写産物の比率は、組織に依存して多種多様であった。より小さな転写産物は、肝臓、腎臓、心臓および骨格筋において強い発現を示し、7.5kbでは膵臓、甲状腺および腎臓において強い発現を示し、膵臓および甲状腺における7.5kbの転写産物の発現に極端に偏っていた。本願発明者らはGLIS3遺伝子の構造を確定し(付表3)、代替の転写産物の性質決定を行い、タンパク質産物を予測した(図6)。本願発明者らは12個のエクソンに位置する25の推定される転写開始部位、および4つのエクソンに位置する4つの転写終了部位を同定した;クローンの4つの更なる5’端(3つの更なるエクソンを含む)および1つの3’端は配列データベースに存在した(GenBank)。転写開始部位のいくつかは組織‐特異的であるようであった。特に、エクソン12に位置する5’端は網膜のみに見出された。複数の5’端および3’端、並びに別のスプライシングを受けたエクソンが見出されることは、組織に依存して質および量の異なる発現をする複数の転写産物が観測されることと矛盾しない。 これらの転写産物の予測された翻訳産物は種々のGLIS3タンパク質をコードし、そのほとんどは5つの無傷のジンクフィンガードメイン(ZFD)を含み、N‐およびC‐末端領域に変異を有し(図6)、これらの変異は、Kimら2により以前に示されているように、コードされたタンパク質の機能に影響を与えるかもしれない。特に、7.5kbの転写産物によりコードされた予測されたタンパク質は、エクソン18から開始するものと比較して更に492個のN末端アミノ酸を含む(930対438アミノ酸)。いくつかの転写産物は、コード能力を有していないか、または限定されたコード能力しか有しておらず、そして制御的機能を有しているかもしれない。 最も5’端の7つの開始部位および1つの3’端はNDH2およびNDH3患者の双方の欠失に共通する領域に位置し、そしてエクソン12における複数の開始部位はNDH3の欠失に特異的な領域に位置する。従って、これらの転写産物には、7.5kbの変異体を含み、ホモ欠失を保因する患者には存在しないであろうものもあれば一方、エクソン18において開始するものを含み、存在するものもある。そして、エクソン12において開始する網膜‐特異的な転写産物はNDH2には存在しないが、NDH3には存在するであろう。NDH2およびNDH3患者においては、肝臓および腎臓ではなく、主要な転写産物が7.5kbの変異体である膵臓および甲状腺が影響を受ける。このことは、この転写産物が膵臓および甲状腺の発生または機能に必要とされる一方、他のGLIS3転写産物が他の器官において十分であることを示唆している。同様に、エクソン12で開始する網膜‐特異的な転写産物は、緑内障を有していないNDH3患者に存在すると予測されるが、先天性緑内障を有するNDH2患者には存在しない、長いN‐末端のタンパク質をコードし、このことはこれらの転写産物が眼の発生において決定的な役割を果たしていることを示唆している。また、NDH1患者におけるより重篤な臨床表現型は、コードされた欠陥のあるGLIS3産物の特性により部分的に説明することができ、臨床的な変動性も、変更遺伝子および環境要因のような他の要因に依存し得る。 NDH症候群に関与するメカニズムに対する洞察を得るために、本願発明者らは、発生の間のマウスの膵臓、および成体の膵臓の細画分におけるGlis3の転写産物の発現を研究した。ヒトと同様、Glis3はマウスの膵臓において、他の組織と比較して高いレベルで発現する(図4a)。Glis3は、マウスにおいて、7.5kbの主要な転写産物として発現する(Kimら2。データ表示なし)。マウスの発生の間、Glis3は膵β細胞の新生の時期であるE15.5の胚期に発現し、その発現量は出生後増加する(図4b)。本願発明者らは、顕微解剖した島および腺房において、精製したβ細胞において、並びに他の内分泌細胞において、Glis3転写産物を定量した。図4cに示されるように、Glis3はすべての膵組織で発現しているが、その発現量が、β細胞において、他の島細胞および腺房と比較して増加している(発現比:8:2:1)。それ故、Glis3は、膵臓の発生の間、特にβ細胞の発生の間に決定的な役割を果たしているようである。 膵β細胞でのGlis3の強い発現、β細胞新生の初期からの膵臓でのその発現、外分泌膵でのより低い発現、そして患者に外分泌膵の機能障害が存在しないことに基づけば、この症候群に観察される新生児糖尿病は、膵臓発育不全を伴う新生児糖尿病において観察されるような内分泌膵および外分泌膵の双方に影響を与える一般的な欠陥5,6、または糖尿病と関連する外分泌膵の1次欠陥7というよりも、むしろ膵β細胞の欠陥に起因するようである。GLIS3転写産物およびコードされたタンパク質の複雑なパターン、組織間でそれらが多様であること、およびGLIS3が転写抑制因子または転写活性化因子の双方として機能し得るという事実2は、いくつかの器官における発生および機能に必要とされる微調整(fine-tuning)に寄与し得る。 先天性緑内障は、GLIS3遺伝子座と重なる染色体9pの遠位末端の一染色体性の不平衡転座のいくつかのケースで報告されている8−10。先天性甲状腺機能低下症および先天性緑内障の遺伝子は現在までこの領域に位置付けられていなかったが10、11、本願発明者らの結果は、これらの先天性障害においてGLIS3を更に調査することの正当な理由となる。 これは、胚発生の間役割を果たすGLIS遺伝子ファミリーに関連する疾患の最初の報告である2、12、13。膵臓およびβ細胞の発生において役割を果たす他の転写因子、IPF1およびPTF1Aにおけるホモ変異は、ヒトにおいては新生児糖尿病を引き起こし5、6、マウスにおいては膵臓発育不全におけるTcf2(Hnf1beta)の欠乏を引き起こす14ことが示されている。GLI Kruppel−様ジンクフィンガータンパク質のメンバーであるGLIS3における変異は、種々の先天性欠損症候群の原因であり15、GLIタンパク質は、種々の発生および細胞分化のプロセスに関わるヘッジホッグシグナル経路における下流の転写制御因子として働く15、16。この経路は膵臓の適切な発生および機能に必須である16、17ため、GLIタンパク質と同様、GLIS3がこの経路の一部であり、故に、GLIS3が膵臓および他の器官の発生および機能に寄与し得るとの推測は自然である。 参考文献3つのNDH家族における連鎖地図および微細地図 a.家族間で分離するハプロタイプを示す染色体9pマーカーの遺伝子型。赤字のホモ領域は各々の家族の連鎖の間隔を示す。角括弧は3つの家族の研究に基づく連鎖の領域を示す。b.家族NDH2およびNDH3(右側の染色体スケッチ中、黒で示される)におけるホモ欠失を同定する、更なるマイクロサテライトマーカー(RPTコード)および単純PCRアッセイ(PCRコード)を用いた微細地図。RPTおよびPCRマーカーの詳細はオンラインの付表2a、bに与えられる。NDH患者における変異および欠失の性質決定 a.NDH2およびNDH3患者における欠失の位置を示す、染色体9p領域の略図。黒のボックスはNCBI RefSeq遺伝子(GLIS3:NM_152629.2,SLClAl:NM_004170.4)に対応し、灰色のボックスはAceView予測(GLIS3)に基づく更なる潜在的なエクソンに対応する。欠失に隣接する配列(太字)、および染色体9qの領域由来の介在配列(ボックス内)と共に、白のボックス(open box)はNDH2およびNDH3患者に認められる欠失の位置(Del NDH2およびDel NDH3)を表している。NDH3においては149kbの欠失したセグメントが染色体9qのテロメア領域(98%ホモロジー)由来の82bpにより置換されていた。NT_008413.16上の欠失断端(breakpoint)の地図上の位置は:NDH2:...4176076[DEL:4176077−4601776]4601777...NDH3:...4249914[DEL:4249915−4398572;82bpにより置換(ボックス内)]4398573...である。 b.NDHl 変異:予測された短縮タンパク質。示された配列はGLIS3 RefSeq(NM_152629.2)に対応する。十字模様のボックス:ジンクフィンガードメイン、左斜線ボックス:セリンに富むドメイン、右斜線ボックス:プロリンに富むドメイン、灰色のボックス:核局在シグナル(Nuclear localization signal(NLS))、ドット模様のボックス:フレームシフト翻訳。c.NDH2およびNDH3家族における発現の研究。GLIS3については、家族の構成員においてシングルPCR(矢印GLIS3(a))およびネステッドPCR(矢印GLIS3(b))を用いてRT−PCRを行った;SLC1A1については、ネステッドPCRを用いてRT−PCRを行い;一様に発現するPCBD1遺伝子に位置するプライマーを用いてコントロールRT−PCRを行った。d.対立遺伝子特異的なGLIS3発現の定量。GLIS3対立遺伝子は、全血からネステッドPCRにより増幅されたGLIS3転写産物上、およびゲノムDNA上で(シングルPCR)、GLIS3 RefSeqエクソン3に位置するエクソンSNP rs6415788に対応するStyI RFLPを用いて定量化された。455bpバンド(「欠失」対立遺伝子に対応するC−対立遺伝子(C−アレル))および365bpバンド(正常対立遺伝子に対応するA−対立遺伝子(A−アレル))の相対強度が、対照個体およびヘテロの親(NDH3−1および2)に対して測定された。断片長を調節した後、Aアレルに対するCアレルの比が示される。同様の対照、および完全なNDH3家族の遺伝子型が、異なるプライマーおよびStyI処理を用いたPCRにより、ゲノムDNAについて決定された(Cアレル:567bp、Aアレル:387bp)。実験は一度繰り返され、同様の結果が得られた。プライマー配列は、オンラインの付表2d、eに与えられる。複数種の組織を用いたノーザンブロットにおける、ヒトGLIS3遺伝子発現の研究 GLIS3プローブを用いた、ヒトの複数種の組織のノーザンブロットハイブリダイゼーション。アミノ酸513−604を含むGLIS3 RefSeqエクソン6および7に位置するプライマーを用いて、275bpのcDNAプローブを腎臓cDNA上で生成し、2つのノーザンブロットに同時にハイブリダイズさせた。このプローブを生成するために用いられたプライマー配列は、オンラインの付表2hに与えられる。組織は:1:心臓、2:脳、3:胎盤、4:肺、5:肝臓、6:骨格筋、7:腎臓、8:膵臓、9:胃、10:甲状腺、11:脊髄、12:リンパ節、13:気管、14:副腎、15:骨髄である。遺伝子の異なる領域をカバーする他のDNAプローブはノーザンブロットハイブリダイゼーションにおいても用いられ、遺伝子構造を規定するのに役立つ(図示せず)。マウスの膵臓および他の組織、膵臓の細画分、並びにマウスの発生期間中のGlis3発現の研究 Glis3発現を、以下におけるリアルタイム定量PCRにより定量した。a)22日齢(白のボックス)および35日齢(黒のボックス)の4種の組織、b)初期胚(E)から出生後(P)段階から摘出した全膵、c)成体マウスの膵臓の細画分:腺房、島、β細胞、および他の島細胞(方法を参照)。本願発明者らは、Gapdhに基準化し、ファクター1,000を乗じて、Glis3の相対発現量を示す。膵臓の細画分の高い純度が、膵臓の遺伝子のリアルタイム定量PCRによって確認され、発現比は以下の通りである:インシュリンIおよびII(島/腺房:205:1)、アミラーゼ(腺房/島:278:1)、インシュリンIおよびII(β細胞対他の島細胞:35:1)、グルカゴン、ポリペプチドP、およびソマトスタチン(他の島細胞対β細胞:それぞれ、399:1、86:1、および17:1)。NDH1患者における変異 示された配列は、GLIS3 RefSeq NM_152629.2に対応する。ヒトGLIS3遺伝子構造:代替の転写産物および予測されたタンパク質 左:GLIS3転写産物。黒矢印:5’RACE法を用いた実験により確認される転写開始部位;灰色矢印:公的に入手可能な配列(Genbank)中に観察できる、転写産物の更なる5’端であろう部分;黒の四角:RACE法を用いた実験により確認される転写産物の3’端、および灰色の四角:公的に入手可能な配列(Genbank)に基づく転写産物の3’端。「k」の印が付けられたエクソンは、本願発明者らのRT−PCRおよび配列決定実験に基づき、いくつかの転写産物において、異なったスプライシングがなされていることが判明した。ZFDをコードするエクソンの領域が十字模様のボックスで示されている。予測された転写産物におけるコード領域は黒で示される。エクソンは、任意のエクソン間距離で、一定の尺度で描かれている。エクソンにおける代替の5’、3’またはスプライシングが一般構造の下に示されており、その順序は、付表3に示されたコードに対応する。エクソン13、19、20および24の5’端は公的に入手可能な配列中に見出され、これらは不完全であってもよい:エクソン13:BC033899(精巣)、エクソン19:BX492880(EST、表示なし)、エクソン20:BX493219(ニューロン)、エクソン24:AK096318(EST、表示なし)。エクソン32における内部の3’端は公的に入手可能な配列(BC033899)に見出された。12の異なる開始部位が、エクソン12の種々の位置に見出された。この場合、および、複数の5’端が同定されたエクソンの他の場合においては、これらの内部の部位のいくつかは、2次部分構造に対応する。本願発明者らの組織特異性の探索に基づけば(方法参照)、「R」の印が付けられたエクソン12は、網膜に特異的であり、代替のエクソン4および5は精巣に特異的であった。いくつかの他のエクソンまたはエクソンの変異体もまた、同様の組織特異性を示した:7、10、11、13、14、15、16、19、20、22、23、24、26および30。完全長で示された転写産物は、RT−PCR、5’から3’へのRT−PCRまたはRACE法と共に、ノーザンブロットハイブリダイゼーションにより確認された。ノーザンブロットハイブリダイゼーションにおいて用いられるDNAプローブの位置は遺伝子構造の上の黒いバーで表わされる。すべての転写産物の全構造は決定されておらず、いくつかの転写産物の5’端または3’端のみが示されている。同様の予測されたN−端タンパク質領域をコードするいくつかの転写産物の代替の5’エクソンが、角括弧で示されている。転写産物の更なる3’端は、Genbankクローンにおいて見出されるか、または3’RACE法を用いた実験で得られ、ここで、これらの3’端は、ゲノムのA−rich領域に対応し、表示されていない。 右:異なる転写産物によりコードされた予測されたタンパク質の構造。160個以下のアミノ酸を有した、予測されたORFを備えるタンパク質は示されていない。特異的なタンパク質のドメインは、図2bのレジェンドに記載されているように表わされる。 点線は、不完全な転写産物、または予測されたタンパク質の端部である。 フレームシフトをもたらす停止変異、欠失および挿入から選択されるGLIS3遺伝子における変異の存在または不在を検出することを含んでなり、ここで、患者の検体または新生児の検体における前記変異の存在が、新生児糖尿病、先天性甲状腺機能低下症および先天性緑内障の指標となる、新生児糖尿病、先天性甲状腺機能低下症、および先天性緑内障の診断方法。 以下の変異を検出するためのプローブの使用を含んでなる、請求項1記載の方法: (ここで、変異は、 配列番号1に示された欠失および挿入(参照ゲノム配列上の欠失の位置(NT_008413.16)):...4249914[DEL4249915−4398572;配列<<I>>により置換]4398573... 配列番号2に示された欠失および挿入(参照コンティグ上の欠失の位置(NT_008413.16)):....4176076[DEL:4176077−4601776]4601777... 変異BC033899−insC2067−2068(cDNA)またはAL137071−insC92318−92319(ゲノム):第625位で始まり、第702位までの変更された配列(配列番号4)および第703位における停止(625FS703STOP)を備えたフレームシフトを引き起こす、GLIS3遺伝子のcDNA配列(Genbank:BC033899)のヌクレオチド2067および2068の間、あるいはヌクレオチド92318−92319(ゲノム)間への<<C>>の挿入)。 前記プローブが、配列番号1、2、5、6、7、8および9の配列若しくはそれらの相補的な配列、または配列番号4をコードする配列の、10個乃至30個の連続したヌクレオチドを示す配列を含んでなり、第2068位における挿入されたシトシンの存在を検出するための、請求項1または2記載の方法。 前記プローブが、蛍光分子または生物発光分子で標識された、請求項3記載の方法。 前記検体から抽出されたRNAについてのRT−PCR反応を含んでなる、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。 配列番号1、2、5、6、7、8および9の配列若しくはそれらの相補配列、または配列番号4をコードする配列の10個乃至30個の連続したヌクレオチドを示す配列からなり、第2068位における挿入されたシトシンの存在を検出するための、プライマーまたはプローブ。 機能的膵β細胞を生産するためのGLIS3タンパク質(配列番号3)の使用。 胚性幹細胞(ES細胞)またはヒト体性幹細胞のような、ヒト多分化性または多能性細胞を、該細胞のインシュリンを産生する機能的膵β細胞への分化を誘導するための有効量のGLIS3を含んでなる培地において培養することにより、機能的膵β細胞を調製する方法。 有効量のGLIS3を含んでなる培地。 GLIS3を含んでなる培地中に、胚性幹細胞(ES細胞)またはヒト体性幹細胞のような、ヒト多分化性または多能性細胞を含んでなる、細胞培養。 有効量のGLIS3を、このような治療を必要としている患者に投与することを含んでなる、1型糖尿病、2型糖尿病、他の型の糖尿病、甲状腺機能低下症および緑内障の治療法。 GLIS3を有効成分として含んでなる医薬組成物。 GLIS3を発現する遺伝子療法ベクター。 本発明は、GLIS3遺伝子における変異の存在を検出することを含む、新生児糖尿病、先天性甲状腺機能低下症、および先天性緑内障の診断方法、並びに胚性幹細胞(ES細胞)またはヒト体性幹細胞のような、ヒト多分化性または多能性細胞を、該細胞の、インシュリンを産生する機能的膵β細胞への分化を誘導させるための有効量のGLIS3を含む培地において培養することにより、機能的膵β細胞を調製する方法に関する。本発明は、更に、GLIS3を有効成分として含む医薬組成物に関する。 配列表


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