生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_エーラス・ダンロス症候群患者又は保因者の検出方法
出願番号:2009219304
年次:2011
IPC分類:C12Q 1/68,C12N 15/09


特許情報キャッシュ

松本 直通 三宅 紀子 JP 2011067106 公開特許公報(A) 20110407 2009219304 20090924 エーラス・ダンロス症候群患者又は保因者の検出方法 公立大学法人横浜市立大学 505155528 谷川 英次郎 100088546 松本 直通 三宅 紀子 C12Q 1/68 20060101AFI20110311BHJP C12N 15/09 20060101ALI20110311BHJP JPC12Q1/68 ZC12N15/00 AC12Q1/68 A 5 3 OL 10 4B024 4B063 4B024AA11 4B024CA02 4B024CA20 4B024HA11 4B024HA14 4B063QA08 4B063QA13 4B063QA19 4B063QQ43 4B063QR32 4B063QR56 4B063QR62 4B063QS25 4B063QS34 4B063QX02 本発明は、エーラス・ダンロス(Ehlers-Danlos)症候群の患者又は保因者の検出方法に関する。 全身性結合織疾患を代表するエーラス・ダンロス(Ehlers-Danlos)症候群(以下EDS)は、関節や皮膚などの結合組織の脆弱性に基づく先天性遺伝性疾患である。その原因と臨床症状から現在までに少なくとも11病型が確立され、さらに亜型5型が報告されている。 古庄らは既知のいずれの病型に属さないが、明らかな臨床的特徴を共有するEDSの2症例を報告した(非特許文献1)。この2症例は、特徴的な顔貌(眼間開離、眼裂斜下、小顎、高口蓋、耳介低位など);骨格系の異常(先天性内反足、進行性外反扁平足、椎骨異常を伴う後側彎、細い手足指骨、容易に脱臼する);皮膚脆弱性(早老症様外観、容易に離開し、あざを作りやすい);末梢動脈の破裂(鈍的外傷による巨大皮下血腫を反復);膀胱の弛緩性と拡大;難聴;眼の屈折異常;運動発達遅滞;重度便秘、腸憩室という特徴的臨床所見を呈する。この2症例のうち1症例(case 2)の家系では血族婚を認め、本疾患が常染色体劣性遺伝形式をとることが示唆された。 EDSの分類で常染色体劣性遺伝形式をとるものとしてVI型 [kyphoscoliotic type, OMIM#225400, 責任遺伝子PLOD1(1p36.3-36.2にマップ)]、X型 [dysfibronectinemic type, OMIM#225310)、cardiac valve form [OMIM#225320, 責任遺伝子COL1A2(7q22.1にマップ)、Spondylocherio Dysplastic form [OMIM#608735, SLC39A13(11p11.2にマップ)] の4型が知られている。非特許文献1の症例は、これらの既知の病型のいずれとも異なる特徴を呈しており、異なる病型の可能性が高い。この新型のEDSについては、責任遺伝子はまだ報告されていないため、簡便に確定診断できる手段も知られていない。Kosho T, Takahashi J, Ohashi H, Nishimura G, Kato H, Fukushima Y. 2005. Ehlers-Danlos syndrome type VIB with characteristic facies, decreased curvatures of the spinal column, and joint contractures in two unrelated girls. Am J Med Genet A 138A(3):282-7. 本発明の目的は、非特許文献1に報告された新型EDSの責任遺伝子を同定し、このEDSの患者の確定診断や保因者の検出を可能にする手段を提供することにある。 本願発明者らは、血族婚の明らかな2家系の新型EDS罹患者2名および非罹患者6名を対象に、末梢血ゲノムDNAを用いてホモ接合性マッピングを行ない、責任遺伝子を含むと予測される候補領域を7.3Mbまで絞り込んだ。この候補領域に含まれる68個の既知遺伝子から、公共のデータベースや過去の文献から得られる発現パターン、タンパク質の機能等の情報に基づいて候補遺伝子を選択し、孤発例4症例もあわせた6症例を対象に候補遺伝子の変異解析を行なった。その結果、細胞外マトリクスの構成成分の一つであるデルマタン硫酸の翻訳後修飾を行うCarbohydrate sulfotransferase 14 (CHST14) 遺伝子において、正常コントロール376例には認められず、SNP databaseにも登録がない新規な変異が、近親婚の2症例ではホモ接合で、孤発例4症例ではそれぞれ複合ヘテロ接合で存在することを見出し、本願発明を完成した。 すなわち、本発明は、生体から分離した試料に対して行なう方法であって、CHST14遺伝子における変異を指標とするエーラス・ダンロス症候群患者又は保因者の検出方法を提供する。 本発明により、古庄らが報告した新型のEDS(非特許文献1)の責任遺伝子が初めて解明され、該疾患の患者の確定診断や該疾患の保因者の検出が初めて可能になった。本発明の方法によれば、新型EDSの遺伝子診断が可能になり、遺伝子治療を含めた治療の個別化が期待される。また、同定された責任遺伝子CHST14にコードされるタンパク質dermatan 4 sulfotransferase 1 (D4ST)は、細胞外マトリックスの生合成に関わることが既に明らかになっているので、この疾患の病態生理の解明が一気に進み、有効な管理・治療法の開発につながると期待される。近親婚の家族歴の明らかな2症例の家系図である。罹患者を黒シンボルで示す。罹患者の父方のハプロタイプを(1)と(2)で、母方のハプロタイプを(3)と(4)で示す。疾患アリルは(1)と(3)である。罹患者でホモ接合性を示した領域を点線で囲んだ。疾患責任遺伝子CHST14座位を矢印で示す。マッピング情報による候補領域の同定のデータである。(A) GeneChip Human Mapping 10K Array Xba 142 2.0によって得られるSNP情報から得られた最長のホモ接合性領域を示す。近親婚の家族歴のある2症例に共通の最長領域(8.1Mb)が15番染色体に同定された。AAに*印を付して区別した。(B) Allegro v2.による連鎖解析の結果、15q14-15q15.3にmaximum LOD score 2.885の領域を同定した。候補領域と疾患責任遺伝子の物理的位置関係を示す。Case2においてinformativeなヘテロマーカーを○で、informativeなホモマーカーを●で示した。Case3においてinformativeなヘテロマーカーを▽で、informativeなホモマーカーを▼で示した。2症例の共通領域を7.3Mbの領域に絞り込むことができ、その領域には68個の既知遺伝子が含まれていた。疾患責任遺伝子CHST14の場所を星で示した。各罹患者(Case1〜Case6)及び非罹患正常コントロールの塩基配列の波形データを示す。各塩基置換によるアミノ酸変化をそれぞれに示した。Case2およびCase3においてホモ接合性変異を、それ以外の4症例において複合ヘテロ接合性変異を同定した。症例においてアミノ酸置換を認めた部位の進化的保存性を説明した図である。ヒトおよびウシ(Bos taurus), マウス (Mus musculus), ラット (Rattus norvegicus), ゼブラフィッシュ (Danio rerio)のD4STのアミノ酸配列を示す。今回の症例で同定された4つの変異を四角で囲っている。4つともに進化的に非常に保存性の高いアミノ酸であり、機能的に重要であることが示唆される。D4STタンパク質の構造と変異による影響の予想を示した図である。(A) D4STタンパク質は376アミノ酸により構成される2型膜貫通タンパク質である。N末端からaa39は細胞質内領域(灰色四角)、aa40-60の領域は膜貫通部位(黒四角)、aa155-161およびaa213-221は活性硫酸結合部位(線)である。罹患者に同定された4つの変異部位を矢印で示す。(B) K69Xは膜貫通部直後にナンセンス変異を起こすため、硫酸基転移部位が存在する領域が喪失する。変異により本タンパク質の酵素活性が失われることが示唆される。(C) P281L, C289S, Y293Cの3つの変異は活性硫酸部位よりC末に存在する。 本発明の方法で診断できるエーラス・ダンロス症候群(EDS)は、非特許文献1(古庄ら)で報告された、巨大皮下血腫を特徴とする重症進行性の新型EDSである。この新型EDSの特徴的臨床所見を下記表1に示す。 本願発明者らが同定した、新型EDSの責任遺伝子であるCHST14(Carbohydrate sulfotransferase 14)遺伝子は、細胞外マトリクスの構成成分の一つであるデルマタン硫酸の翻訳後修飾を行う酵素dermatan 4 sulfotransferase 1 (D4ST)をコードする。D4STは376アミノ酸からなる2型膜貫通タンパク質であり、基質となる糖タンパクに活性化硫酸を供与している (Evers MR, Xia G, Kang HG, Schachner M, Baenziger JU. 2001. Molecular cloning and characterization of a dermatan-specific N-acetylgalactosamine 4-O-sulfotransferase. J Biol Chem 276(39):36344-53.)。図6(A)に示す通り、aa1-39(D4STタンパク質の第1番〜第39番アミノ酸の領域の意)は細胞質内領域、aa40-60は膜貫通部位、aa61-376は細胞外領域であり、aa155-161とaa213-221が活性硫酸結合部位である。CHST14遺伝子のゲノム配列を配列表の配列番号1に、mRNA配列及びこれにコードされるD4STのアミノ酸配列をそれぞれ配列番号2及び3に示す。配列番号4には、コード領域の塩基配列のみを抜き出して示す。CHST14遺伝子はシングルエクソンで構成される遺伝子の為、イントロンは存在しない。配列番号1に示したゲノム配列中、エクソン領域は1001nt〜3142nt(ntは第1番目の塩基から数えて何番目かを表す)であり、そのうち1001nt〜1200ntが5'非翻訳領域、1201nt〜2331ntがコード領域、2332nt〜3142ntが3'非翻訳領域である。 本願発明者らにより、CHST14遺伝子の変異がEDSの病因変異であることが判明した。新型EDS患者は、CHST14遺伝子の変異をホモ接合又は複合ヘテロ接合で有し、新型EDS保因者はCHST14遺伝子の変異をヘテロで有する。「複合ヘテロ接合」とは、CHST14遺伝子の両アリルにそれぞれ異なる変異を有することを意味する。ここでいう変異には、CHST14遺伝子がコードするD4STのごく一部分のアミノ酸の変化の他、D4STの全長又は一部を欠失するような変化をもたらす遺伝子配列の変化が包含され、遺伝子の全体又は一部の欠失も包含される。例えば、コード領域での塩基置換変異によるナンセンス変異又はミスセンス変異、コード領域内での塩基の欠失又は挿入によるフレームシフト変異、フレームシフトは生じないがD4STの活性に重要な領域においてアミノ酸の欠失又は置換を生じる変異、CHST14遺伝子を含む染色体領域の微細欠失等が挙げられるが、これらに限定されない。下記実施例では、6例の新型EDS患者においてミスセンス変異及びナンセンス変異が同定されている。両親検体が解析可能であった1例については、2つの変異がそれぞれ父親及び母親に由来していることが確認されており、この両親はEDS病因変異を1つだけヘテロで有する該疾患の保因者である。これらの変異を以下の(1)〜(4)に示す。なお、「aa69」とは、D4STの野生型アミノ酸配列(配列番号3)中の第69番アミノ酸を意味する。(1) aa69のリシンコドンが停止コドンになる変異(CDS中の205ntがaからtに変異)(2) aa281のプロリンがロイシンになる変異(CDS中の842ntがcからtに変異)(3) aa289のシステインがセリンになる変異(CDS中の866ntがgからcに変異)(4) aa293のチロシンがシステインになる変異(CDS中の878ntがaからgに変異) 実施例中の6例の患者は、(1)〜(4)の変異のいずれかをホモ接合又は複合ヘテロ接合で有し、保因者であった両親は(1)〜(4)の変異のいずれか1つをヘテロ接合で有する。もっとも、(1)〜(4)の変異は具体例の一部であって、本発明で指標とし得るCHST14遺伝子の病因変異はこれらの具体例に限定されず、CHST14遺伝子がコードするD4STの酵素活性が低下又は喪失する変異であれば、新型EDSの病因変異であり得る。新型EDS患者には、上記(1)〜(4)のうちのいずれか1つをホモで有する患者、(1)〜(4)のうちのいずれか2つを複合ヘテロで有する患者のほか、上記(1)〜(4)以外のEDS病因変異をホモ又は複合ヘテロで有する患者、及び(1)〜(4)のいずれか1つと上記(1)〜(4)以外のEDS病因変異とを複合ヘテロで有する患者も存在し得るし、保因者にも上記(1)〜(4)以外のEDS病因変異をヘテロで有する者が存在し得る。 (1)のナンセンス変異は細胞外領域のほぼ全てが喪失する変異であり、硫酸結合部位も喪失していることから(図6)、酵素活性が喪失していると考えられる。また、(2)〜(4)のミスセンス変異は、硫酸結合部位ではないが、進化的に非常に保存性の高いアミノ酸の変異であり(図5、図6)、D4STの機能に重要なアミノ酸が変異していると考えられる。従って、例えば、硫酸結合部位を含む細胞外領域を喪失する変異や、進化上保存性の高いアミノ酸における変異は、新型EDSの病因変異であると考えられる。種々の動物のD4STのアミノ酸配列が公知であり、GenBank等の各種データベースに登録されているので、当業者であれば容易に配列情報を入手して常法により各アミノ酸の進化的保存性を調べることができる。 生体から分離した試料を用いてCHST14遺伝子の変異を調べる方法としては、例えば、以下に記載するとおり、ゲノムDNA、mRNA又はmRNAから合成したcDNA等の核酸試料を解析する方法が挙げられる。変異したD4STタンパク質が、野生型のD4STタンパク質と立体構造が異なる等、異なる抗原性を有している場合には、生体から分離したタンパク質試料について、免疫学的手法により変異型のD4STタンパク質を検出することもできる。これらの方法のうち、本発明の方法としては、核酸試料、特にゲノムDNA試料を用いてCHST14遺伝子の変異を調べる方法が好ましい。ゲノムDNA試料は、末梢血等から常法により簡便に調製することができる。 CHST14遺伝子は上記した通りイントロンのないシングルエクソン構造の遺伝子である。この遺伝子配列は、近傍のゲノム配列と共に配列番号1に示した通りであり、エクソン領域は1001nt〜3142nt(1001nt〜1200nt:5'非翻訳領域、1201nt〜2331nt:コード領域、2332nt〜3142nt:3'非翻訳領域)である。コード領域は1.1 kb程度であるから、当業者であれば、ゲノムDNA試料を用いて常法により容易にコード領域全長の塩基配列を決定し、変異の有無を調べることができる。例えば、配列番号1又は2を参照してCDSの上流側と下流側に適宜プライマーを設計し、常法のPCRによりゲノムDNA試料からCDS領域を増幅し、これを常法によりダイレクトシークエンスするか又は適宜ベクターにクローニングして配列決定すればよい。塩基配列の変異の解析に有用な各種ソフトウェアが公知であり、SeqScape (登録商標) 等の市販のソフトウェアを用いて配列を解析すれば、変異の検出やプロファイリングを容易に行うことができる。変異がホモかヘテロかは、シークエンスの波形データから確認できる。すなわち、ヘテロ変異の場合、同一部位に2種類のシグナルが重なることになる。ヘテロ変異が2か所以上ある場合、クローニングして配列決定すれば、変異が複合ヘテロであるかどうかも確認できる。なお、上記した手法自体は全て周知の常法である。 ゲノムからCHST14遺伝子全長が欠失している場合には、CDS領域の増幅断片が得られない。一部領域が欠失している場合でも、プライマーの設定部位によってはゲノムDNAから増幅断片が得られない。従って、増幅断片の有無に基づいて完全なCHST14遺伝子が欠失しているか否か(ゲノム中でCHST14遺伝子の全長又は一部が欠失しているか否か)を判断できる。ゲノムからCHST14遺伝子の一部領域が欠失している場合には、野生型と比較してより小さいサイズの増幅断片が得られることもあるので、増幅断片のサイズに基づいて一部領域の欠失を判断することもできる。 以下、本発明を実施例に基づきより具体的に説明する。もっとも、本発明は下記実施例に限定されるものではない。(材料と方法)<症例> 軽度打撲等をきっかけとする巨大皮下血腫を特徴とする新規EDS(非特許文献1)と診断され、インフォームドコンセントの得られた6症例を対象に解析を行った。本研究は横浜市立大学および信州大学の倫理委員会の承認が得られている。<ホモ接合性マッピング> 末梢血白血球よりゲノムDNAを採取し、GeneChip Human Mapping 10K Array Xba 142 2.0 (Affymetrix) を用いて解析を行った。実験手順はAffymetrix社の手順に従った。<ホモ接合性マッピングおよびハプロタイプ解析> GeneChip Human Mapping 10K Array Xba 142 2.0によって得られるSNP情報からホモ接合性の領域を検出するとともに、Allegro v2.により連鎖解析を行い各ホモ接合性領域のLOD scoreを算出した。その結果、15番染色体q14-q15.3に8.1 Mbにわたるホモ接合性領域を認め、そのLOD scoreは2.885と全ゲノム中最大を示した。さらにホモ接合領域を詳細にマップするため、マイクロサテライトマーカーを用いたハプロタイプ解析を追加した。Linkage Mapping Sets Version 2.5 (Applied Biosystems) より5'側に蛍光色素で修飾された5つのマイクロサテライトマーカー (D15S1002, D15S1007, D15S118, D15S978, D15S117) および独自に作成した2マーカー(プライマーシークエンスを表2に示す)の合計7マーカーを使用し、罹患者および非罹患家族構成員のゲノムDNAを用いて、ABI Genetic Analyzer 3100 (Applied Biosystems) およびGeneMapper ver.3.5 (Applied Biosystems) によりハプロタイプを確認し、候補領域を7.3 Mbまで狭小化することが出来た。<変異解析> 末梢血白血球より採取したゲノムDNAを用いて変異解析を行った。CHST14遺伝子(エクソン1)のタンパク翻訳領域および境界領域の変異解析はPCRダイレクトシークエンス法を用いて行った。PCR反応液は、(1) 1× ExTaq buffer, 0.2 mM each dNTP, 0.2 μM each primer, 0.25 U Ex TaqHS polymerase (TAKARA), もしくは(2) 1× GC buffer II, 0.2 mM each dNTP, 0.2 μM each primer, 0.25 U LA Taq polymerase (TAKARA), もしくは(3) 1x Buffer for KOD plus, 0.2 mM each dNTP, 1.0mM MgSO4, 0.30 μM each primer, 0.4U KOD -plus- (TOYOBO) の組成である。反応条件と用いたプライマーのシークエンスを表3に示す。 PCR産物をExoSAP-IT (GE healthcare)で精製後、BigDye Terminator chemistry version 3 (Applied Biosystems) を用いてサイクルシークエンス反応を行った。反応物はSephadex G-50 (GE healthcare) とMultiscreen-96 (Millipore)によるゲル濾過にて精製し、ABI Genetic Analyzer 3100 (Applied Biosystems) でシークエンスを得た。得られたシークエンスは、Sequencher 4.8 (Gene Code Corporation) を用いて変異の有無について解析を行った。ヘテロ接合体に関しては、二つの変異を含むようなプライマーで患者DNAをPCRにより増幅し、QIA quick PCR purification Kit (QIAGEN)で精製後、TA cloning Kit (Invitrogen) によりシークエンスベクター(pCR4-TOPO)にクローニングした。クローニングされたDNAはQiagen plasmid purification miniで精製後、シークエンスを行い、塩基配列を確認した。(結果) 新型EDS(非特許文献1)を臨床的に疑われている6症例のうち、血族婚の明らかな2家系の罹患者2名および非罹患者6名 (図1) を対象に、末梢血ゲノムDNAを用いてGeneChip Human Mapping 10K Array Xba 142 2.0 (Affymetrix) を用いたホモ接合性マッピングを行い、15番染色体q14-q15.3上の8.1 Mbの候補領域 (Maximum Lod score 2.885)を同定した (図2) 。さらにマイクロサテライトマーカーを用いたハプロタイプ解析により候補領域を7.3Mbまで絞り込んだ (図3) 。この候補領域に68個の既知の遺伝子が含まれていた (UCSC 2006, Mar freeze) ため、公共のデータベースや過去の文献から得られた遺伝子の発現パターン、タンパク質の機能などの情報を基に候補遺伝子を選択し、上記6症例を対象にダイレクトシークエンス法による変異解析を行った。 その結果、細胞外マトリクスの構成成分の一つであるデルマタン硫酸の翻訳後修飾を行うCarbohydrate sulfotransferase 14 (CHST14) 遺伝子において、近親婚の2症例ではホモ接合性の変異が、孤発例4症例ではそれぞれ複合ヘテロ接合性の変異を同定した (図4) (表4)。また両親検体の解析が可能であったcase6に関しては、二つの変異がそれぞれ父親もしくは母親由来であったことを確認し、また両親検体が得られなかった他の孤発症例3例で認められた複合ヘテロ接合体は、TAクローニング法により、別々のアリルに存在することを確認した。同定した変異は、ナンセンス1種、ミスセンス3種の計4種あった。これらの変異はSNP databaseにも登録がなく、正常コントロール376例にも認められなかった。また変異の見つかったアミノ酸は進化上非常に保存性が高い (図5) ことから、機能的に重要なアミノ酸における変異であることが強く示唆された。また、ナンセンス変異が同定されたことは、この疾患における遺伝子変異が機能喪失型である可能性を示している。 CHST14遺伝子にコードされるデルマタン4スルホトランスフェラーゼ (dermatan 4 sulfotransferase 1; D4ST) は2型膜貫通蛋白質であり、基質となる糖蛋白に活性化硫酸を供与している (Evers MR, Xia G, Kang HG, Schachner M, Baenziger JU. 2001. Molecular cloning and characterization of a dermatan-specific N-acetylgalactosamine 4-O-sulfotransferase. J Biol Chem 276(39):36344-53002E)。同定された変異は、進化的に高度に保存されたアミノ酸の変異であり(図5)、1症例で認めたナンセンス変異は膜貫通部位のC末側近傍に同定されたが、この変化は酵素活性部位が喪失する機能喪失型変異と考えられた (図6)。 以上の結果により、本遺伝子変異により、本タンパク質の酵素活性が低下もしくは消失し、本疾患が発症していると考えられる。 生体から分離した試料に対して行なう方法であって、CHST14遺伝子における変異を指標とするエーラス・ダンロス症候群患者又は保因者の検出方法。 ホモ接合又は複合ヘテロ接合の前記変異を指標としてエーラス・ダンロス症候群患者を検出する請求項1記載の方法。 ヘテロ接合の前記変異を指標としてエーラス・ダンロス症候群保因者を検出する請求項1記載の方法。 前記変異はミスセンス変異又はナンセンス変異である請求項1ないし3のいずれか1項に記載の方法。 前記変異の少なくとも一つが以下のいずれかから選択される請求項4記載の方法。(1) 野生型CHST14中のaa69のリシンコドンが停止コドンになる変異(2) 野生型CHST14中のaa281のプロリンがロイシンになる変異(3) 野生型CHST14中のaa289のシステインがセリンになる変異(4) 野生型CHST14中のaa293のチロシンがシステインになる変異 【課題】近年報告された新型エーラス・ダンロス症候群(EDS)の責任遺伝子を同定し、このEDSの患者の確定診断や保因者の検出を可能にする手段を提供すること。【解決手段】血族婚の明らかな2家系の新型EDS罹患者2名及び非罹患者6名を対象としたホモ接合性マッピング及び候補遺伝子の変異解析により、CHST14遺伝子が新型EDSの責任遺伝子であることを突き止めた。該疾患は常染色体劣性遺伝であり、患者はCHST14遺伝子の変異をホモ接合又は複合ヘテロ接合で有する。CHST14遺伝子の変異を指標とすれば、EDS患者及び保因者を検出可能である。【選択図】図3配列表


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