生命科学関連特許情報

タイトル:特許公報(B2)_新規ムチン型糖タンパク質及びその用途
出願番号:2007530979
年次:2012
IPC分類:C07K 7/06,C07K 14/435,C12P 21/02,C07K 1/14,A61K 38/00,A61P 17/16,A61K 8/64,A61Q 19/00,A61P 31/00


特許情報キャッシュ

丑田 公規 益田 晶子 堂前 直 古川 英光 宮脇 敦史 JP 5057383 特許公報(B2) 20120810 2007530979 20060811 新規ムチン型糖タンパク質及びその用途 独立行政法人理化学研究所 503359821 平木 祐輔 100091096 石井 貞次 100096183 藤田 節 100118773 丑田 公規 益田 晶子 堂前 直 古川 英光 宮脇 敦史 JP 2005234108 20050812 20121024 C07K 7/06 20060101AFI20121004BHJP C07K 14/435 20060101ALI20121004BHJP C12P 21/02 20060101ALI20121004BHJP C07K 1/14 20060101ALI20121004BHJP A61K 38/00 20060101ALI20121004BHJP A61P 17/16 20060101ALI20121004BHJP A61K 8/64 20060101ALI20121004BHJP A61Q 19/00 20060101ALI20121004BHJP A61P 31/00 20060101ALI20121004BHJP JPC07K7/06C07K14/435C12P21/02 AC07K1/14A61K37/02A61P17/16A61K8/64A61Q19/00A61P31/00 C07K 7/00-7/66 C07K 14/00-14/825 C07K 1/14-1/36 CA/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/ REGISTRY(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) PubMed Limnol. Oceanogr.,1979年,vol.24, no.4,pp.706-714 23 JP2006315939 20060811 WO2007020889 20070222 27 20090729 戸来 幸男 本発明は、新規ムチン型糖タンパク質及びその製造方法に関する。また本発明は、新規ムチン型糖タンパク質を含む組成物に関する。さらに本発明は新規ムチン型糖タンパク質を含む分子量マーカーに関する。 糖タンパク質のうち、単純な繰り返し構造を持つペプチド鎖に、1個あるいは10個程度までの単糖からなる糖鎖がO−グリコシド結合で周期的に結合している、高分子糖タンパク質化合物をムチン類と総称している。ムチン類は、細胞や動植物の粘液の成分として自然界に多種存在し、生体系において様々な重要な働きをすることが知られている。また、動植物に由来し、食品中の粘液成分にふくまれるムチン類は、それを食物として摂取した場合にも、生命活動や消化吸収作用において重要な生体作用をもたらすことが知られている。 現在、ヒトにおいて約10種類のムチン類が同定されており、唾液、胃粘膜など、主として粘膜部分に分布し存在する。このムチン類で形成される粘膜組織の生物学的役割は、細胞組織の保湿、保護、潤滑などの物理的作用の他、細胞外マトリックスとして抗菌効果を示し、ウイルスなどの感染を抑える働きを有する(非特許文献1及び2)。 これらのムチン類の生理作用は特異的な化学反応ばかりではなく、物質の有する物理的性状、すなわち可塑性、粘性、保湿性などに代表されるモルフォロジーに由来するものと、立体構造を持ったペプチド鎖に結合した不定形の糖鎖部分が、多種多様な分子(例えばレクチン)認識能を有することが原因と考えられている。すなわち、ムチン類が機能を発現するためには、ペプチド鎖による高分子部分の物理的性質と立体構造、及び不定形の糖鎖部分の分子認識能を持つことが必須条件である。 一方、このような粘膜や細胞外マトリックスの一部あるいは主要成分を構成する化合物は、外部から摂取しても効果を発揮するため、人工的に生産し、医薬品、化粧品、食品などとして市場に供給することに大きな利点があると現在では考えられている(特許文献1)。糖鎖化合物においては、細胞外マトリックスの主成分であるコンドロイチン、コンドロイチン硫酸、ヒアルロン酸などが、その先駆けとして、様々な原料から抽出精製され、食品、医薬品、化粧品などとして市場に供給されている。しかしムチン類は一部の食品(里芋、オクラ、キクラゲ)又は動物(ウシ・ブタ)などから食品として摂取されるのみで(特許文献2〜6参照)、化合物として本格的かつ大量な供給は行われていない。 ムチン類の属する糖タンパク質は、分子認識能を有し、医薬品など様々な利用方法が想定されるにもかかわらず、適当な合成方法が見つかっていない。ペプチド配列をコードする遺伝子が同定されているケースがあるが、ペプチド鎖を合成した後に糖鎖を導入することが難しく、遺伝子導入、クローニングなどの手法はあまり成功していない(非特許文献3)。多くの糖タンパク質ではやむなく大腸菌などを用いてペプチド鎖のみを合成し、それに逐次糖鎖を導入する手法で代用しているのが実情である(特許文献7参照)。また、これらの手法は大量生産には向かないことも欠点である。 糖タンパク質には、ムチン型糖鎖とアスパラギン型糖鎖が結合したものがある。アスパラギン型糖鎖の一部にはそれを仲立ちするシャペロン分子があり、ある程度結合部位を同定することはできるものの、なお合成によって導入部位を特定することは難しい。たとえすでに合成完了したペプチド鎖に逐次糖鎖を導入できたとしても、糖の結合時に大きく高次構造が変化することが予想され、ペプチド鎖が再びフォールディングして元通りの高次構造を取る保証はない。 一方ムチン型糖タンパク質の場合に限ると、ペプチド鎖がフォールディングして、高次構造を作った後に糖鎖修飾が起こることからタンパク質の立体構造と機能は維持されたまま糖鎖を結合できるので、糖鎖全体の高次構造をあまり崩さないで糖鎖導入ができる(非特許文献4)。したがって、創薬の点からムチン型糖タンパク質を利用することが有利だが、現在知られているムチン型糖タンパク質の結合部位のアミノ酸配列にはあまり規則性がなく、意図した位置への糖鎖導入が困難である。一方で一次構造が比較的単純であるにもかかわらず、有機合成化学的な手法で全体を合成することも難しい。このように優れた特徴を持つムチン型糖タンパク質ではあるが、以上のような理由から、これを大量に供給する工業的手法は未開拓であると言わざるを得ない。 また、高分子化合物の分子量を測定する方法としては、古くからサイズ排除クロマトグラフィー(Size Exclusion Chromatography:SEC)とも呼ばれるゲル濾過法が、簡便かつ正確な手法として広く用いられてきた。この方法は、開放型カラムにおける分析だけでなく、高速液体クロマトグラフィーとしても用いられ、分子量に基づいた分取、特に自動分取も可能である(非特許文献7)。しかし、これらの測定のみで、未知の物質の分子量の絶対値を求めることは技術的に困難である。すなわち、ゲル濾過が理論的検量線に基づいて再現性よく進行することの保証されたカラム担体を用いることと、正確な標準分子量マーカーを用いることの、2つの条件が必要である。従って、被検物質とカラム担体の組み合わせ、および被検物質と分子量マーカーの組み合わせを十分吟味しなければならない。 近年、こういった分子量絶対測定の手法として、飛行時間型質量分析器(MALDI−TOF MS)を用いた測定法が普及してきた。この手法は高分子化合物の分子量を正確に求める絶対測定ができる。しかし、この装置は液体クロマトグラフに比べてはるかに高価であり、化学合成の実験室や、工場、医療現場などの全てに普及することは実際上不可能である。高価な機器を一カ所に置いて集約して分析したり、外部に分析依頼をしたりすればよいが、速いフィードバックが必要で、迅速な測定が望まれる実験室では、依然としてSECによる分析が頻繁に用いられている。こういった場合は、MALDI−TOF MSとSECの両方で測定できる共通の物質を、絶対分子量測定のための標準にすることが好ましい。 SECという手法を用いる以上、被検物質と分子量マーカーの組み合わせについては、できるだけ物理的性質の類似した標準物質を用いなければならない。SECの原理は、高分子充填剤のネットワークによる分子ふるい効果を利用して溶質のサイズ(分子量)によって分離するというものであるため、分離は溶質と固定相間の相互作用を生む化学的性質ではなく、大きさ・形状という物理的性質に依存する。すなわち、溶媒(移動相)中における高分子の流体力学的半径および形状が似通った物質を選択して用いることが必要である。SECの利用者は、カタログからできるだけ似通ったコンフォメーションをとる高分子の分子量マーカーを選択し、利用するのが常道である。しかし、あらかじめ分子量分布が狭く、しかもその分子量をある程度制御したマーカーを作るためには、重合過程の制御方法が既知の合成高分子を用いることが最も簡便であるため、市販の分子量マーカーの物質はごく限られている。すなわち、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリエチレン、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリル酸、プルランなど直鎖構造の高分子が、現在市場において販売されているにすぎない(例えば特許文献15)。これでは、数多くの高分子化合物の全てを網羅することは不可能である。 なかでも、近年、その生理作用が注目されている糖タンパク質(例えば酵素、ムチン類、ホルモンなど)については適当な標準分子量マーカーが存在していない。糖タンパク質は自然界に普遍的に分布しており、糖を含まないタンパク質よりも多く存在する。糖鎖はペプチド鎖に何本も結合し、ブラシ状の形状を示すものもあれば、たとえ1分子に1本しか糖鎖が結合しない糖タンパク質においても、糖鎖部分は非常に嵩高くタンパク質表面を覆っている。このような糖タンパク質を「分子の大きさと形状」で分離するSECを用いて分析する場合、従来の直鎖構造の分子量マーカーを用いるのは不適当であることは明らかである。例えば、糖を含むということで多糖類のプルランなどを分子量マーカーとして用いることが行われているが、正確な分子量を得ている保証が現在までのところない。現状では仮に評価した分子量が誤っていたとしても、使用するマーカーとの相対的な関係を明示するしかない。すなわちSECのみで分子量を推定することは本質的に正確ではなく、別法による確認が必要であった。 SDS−PAGE法などの電気泳動法も実験室で簡便に用いることのできるタンパク質の分離分析手法であるが、SECと同様にこの分析手法にも適当な分子量マーカーが必要な場合があり、広く用いられている。このような分子量マーカーは、SEC、電気泳動法以外の様々な一般生化学分析の分野で用いられる。 一方、夏期を中心に発生するクラゲ類は、時に大量に発生するために、原子力及び火力発電所の取水排水システム又は海洋に面した各種工場の工業用水取水排水システム、港湾、定置網などの漁網などの効率や経済効果を著しく阻害する場合がある。特に遊泳能力の貧弱なミズクラゲなどは、特に大量発生する場合には積極的な除去作業が行われる。また、エチゼンクラゲなどの大型のクラゲが大量発生する場合には、その大きな重量のため重機械等を用いた大がかりな引き上げ作業が必要となる。これらの作業の結果、一度に大量のクラゲ類が引き上げられることとなるが、一旦引き上げられたクラゲ類は現在の日本の法律では、廃棄物と見なされ、再び海洋に投棄することが出来ないので、陸上に集積しなければならない。このように集積したクラゲ類を、食品として利用する方法、肥料として利用する方法が提案されている(例えば、特許文献8〜14、非特許文献5)。しかしながら、それ以外にはそれらの有効な活用法が存在していないため、環境保全を目的とした処理に関して、担当する企業や自治体に大きな経済負担が生じる。処理コストを得るためには微量でも高価な有価物を取り出し、残渣の処分を推進するコストを回収することが望ましいが、現在でもその有効な解決策は得られていない。 大量発生時におけるミズクラゲの量は、空中からの観測などにより見積もられ、1湾当たり数10万トンに達する場合もあると言われている(非特許文献6)。豊富な存在量を持つ海洋資源として地球上に存在していることから、集積した廃棄物を用いるばかりでなく、積極的な捕獲による利用も考慮することが出来る。特開平8−269091号公報特開平7−33623号公報特開平8−256788号公報特開平6−199900号公報特開平5−310799号公報特開平7−126292号公報国際公開第96/13516号パンフレット特開2004−99513号公報特開2003−321497号公報特開2001−178492号公報特開2002−370991号公報国際公開第95/17428号パンフレット特開2002−143824号公報特開平6−217737号公報特許第3012917号(特開平10−60005号公報)中田博 ムチン及びムチン型糖鎖の多様性とその意義、ポストゲノム時代の糖鎖生物学がわかる わかる実験医学シリーズ 谷口直之編 第3章 羊土社 2002年堀田恭子 石原和彦 胃粘液の魅力を探る 最新手法による ムチンの解明 メディカルビュー 1999年松田和雄 編著 多糖の分離・精製法 生物化学実験法 20 学会出版センター 1987年福田 穣 ムチン型糖鎖 pp35-56 木幡陽・箱守仙一郎・永井克孝編 「糖鎖の多様な世界」 講談社サイエンティフィック 1993年V. Schmidt, A. Bally, K. Beck, M. Haller, W. K. Schlage, C. Weber “The extracellylar matrix (mesoglea) of hydrozoan jellyfish and its ability to support cell adhesion and spreading. Hydrobiologia 216-217, pp3-10 (1997)安田 徹 編 「海のUFOクラゲ」pp41-77 VII 出現と分布 恒星社厚生閣 2003年A. Fallon, R. F. G. Booth, L.D.Bell著、大沢利昭監訳 高速液体クロマトグラフィー 生化学実験法9 第5章、東京化学同人、1989年 本発明は、大量生産によって、医療、食品などに用いることのできる、ヒトムチンの代用物質として有用なムチン型糖タンパク質及びその製造方法、並びにそれらの用途を提供することを目的とする。また本発明は、糖タンパク質の分子量測定に用いることができる分子量マーカーを提供することを目的とする。 本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を行った結果、クラゲから新規なムチン型糖タンパク質を単離・精製することに成功し、また該ムチン型糖タンパク質の構造及び性質を解析したところ、ヒトムチンの代用物質となり得ることを見出した。また本発明者は、クラゲ由来のムチン型糖タンパク質の分子量分布が広範であることから、これを糖タンパク質の分子量測定のための分子量マーカーとして用いることができるという知見を得た。以上の知見から、本発明を完成するに至った。 すなわち本発明は以下の(1)〜(9)に関する。(1)下記式I: Val−Xaa−Glu−Thr−Thr−Ala−Ala−Pro (I) 〔式中、XaaはVal又はIleである。〕で示されるアミノ酸配列からなる繰り返し単位を3回以上含む繰り返し構造を有し、該構造における1以上のアミノ酸残基に1以上の単糖からなる糖鎖が結合していることを特徴とするムチン型糖タンパク質。 上記ムチン型糖タンパク質は、自然界に存在するタンパク質の場合にその繰り返し単位は3〜2000回程度と推定され、好ましくは3〜700回であり、さらに約50%の主要成分は40〜180回の繰り返し単位を含む繰り返し構造を有する。ここで繰り返し単位は、直接結合してもよいし、又はリンカーを介して結合してもよい。 また、上記ムチン型糖タンパク質において、糖鎖の結合するアミノ酸残基は、トレオニン(Thr)であることが好ましい。例えば、糖鎖の結合するアミノ酸残基の98%以上がトレオニン(Thr)でありうる。 上記ムチン型糖タンパク質において、糖鎖は、例えば限定されるものではないが、N−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、シアル酸、アラビノース、及びフコースからなる群より選択される単糖を含む。好ましくは、糖鎖は、N−アセチルガラクトサミンを含む。また好ましくは、糖鎖はN−アセチルガラクトサミン及びガラクトースを含む。 上記ムチン型糖タンパク質は、N末端に存在する1若しくは数個のアミノ酸、例えばValを欠損するものであってもよい。 上記ムチン型糖タンパク質は、クラゲ類、例えばミズクラゲ、エチゼンクラゲ、又はアカクラゲから抽出されることが好ましい。(2)クラゲの固形部分を切断する工程、切断したクラゲを塩溶液を用いて抽出する工程、抽出物から遠心分離及び透析により粗ムチンを分離する工程、並びにムチン型糖タンパク質を精製する工程を含む方法によって製造されるムチン型糖タンパク質。(3)クラゲの固形部分を切断する工程、切断したクラゲを塩溶液を用いて抽出する工程、抽出物から遠心分離及び透析により粗ムチンを分離する工程、並びにムチン型糖タンパク質を精製する工程を含み、0〜25℃で全ての工程を行うことを特徴とするムチン型糖タンパク質の製造方法。 上記ムチン型糖タンパク質の製造方法においては、加熱処理を行わず、氷温に近い低温(0〜25℃、好ましくは4℃)で全ての工程を操作することが好ましい。(4)上記いずれかのムチン型糖タンパク質を含む組成物。 組成物は、例えば、細胞組織保護、皮膚表面保湿若しくは吸湿、健康増進、薬剤投与、疾患の治療若しくは予防、又は抗菌に用いられるものである。また組成物は、水溶液、膜状又は樹脂状の形態を有することが好ましい。(5)上記いずれかのムチン型糖タンパク質の糖鎖に糖転移酵素を作用させ、糖鎖を改変することを特徴とするムチン型糖タンパク質の改変方法。(6)下記式I: Val−Xaa−Glu−Thr−Thr−Ala−Ala−Pro (I) 〔式中、XaaはVal又はIleである。〕で示されるアミノ酸配列からなる繰り返し単位を1〜2000回含む繰り返し構造を有することを特徴とするタンパク質。(7)上記タンパク質における少なくとも1つのアミノ酸残基に1以上の単糖からなる糖鎖を結合させることを特徴とする糖タンパク質の製造方法。(8)下記式I: Val−Xaa−Glu−Thr−Thr−Ala−Ala−Pro (I) 〔式中、XaaはVal又はIleである。〕で示されるアミノ酸配列からなる繰り返し単位を3〜2000回含む繰り返し構造を有し、該構造における1以上のアミノ酸残基に1以上の単糖からなる糖鎖が結合しているムチン型糖タンパク質を含み、分子量分布と分子分布の中央値が絶対分子量測定法で測定された分子量マーカー。 上記分子量マーカーの分子量は、10〜1,400kDaの範囲でありうる。また上記分子量マーカーは、凍結乾燥されていることが好ましい。(9)下記式I: Val−Xaa−Glu−Thr−Thr−Ala−Ala−Pro (I) 〔式中、XaaはVal又はIleである。〕で示されるアミノ酸配列からなる繰り返し単位を3〜2000回含む繰り返し構造を有し、該構造における1以上のアミノ酸残基に1以上の単糖からなる糖鎖が結合しているムチン型糖タンパク質をサイズ排除クロマトグラフィーに供して分取する工程、分取された分画を集積して精製する工程、及び精製された分画の絶対分子量を測定する工程を含むことを特徴とする分子量マーカーの製造方法。 上記分子量マーカーの製造方法は、精製された分画を凍結乾燥する工程をさらに含んでもよい。 本発明により、新規なムチン型糖タンパク質が提供される。かかるムチン型糖タンパク質は、ヒトムチンの代用物質等として用いることができ、医薬、農業、食品などの分野において有用である。また、ムチン型糖タンパク質は、クラゲ類より簡便かつ大量に製造されるため、経済的及び環境保全技術として優れている。 また本発明により、ムチン型糖タンパク質を含む分子量マーカーが提供される。かかる分子量マーカーは、天然高分子から製造する分岐型高分子鎖である。本分子量マーカーを用いることによって、糖タンパク質などの分岐型高分子の分子量を正確に求めることが可能となる。ムチン型糖タンパク質を単離するためのクラゲ処理手順の概要を示す。ムチン型糖タンパク質を単離するための具体的な操作手順を示す。ミズクラゲ(実線)及びアカクラゲ由来(点線)の粗ムチンをイオン交換液体クロマトグラフィーに供した結果を示す。星印はムチン型糖タンパク質のピークを表す。精製されたミズクラゲ及びアカクラゲ由来のムチン型糖タンパク質を自動アミノ酸分析計によって構成アミノ酸について分析した結果を示す。精製されたミズクラゲ由来のムチン型糖タンパク質をパルス液相法によりアミノ酸配列について分析した結果を示す。精製されたアカクラゲ由来のムチン型糖タンパク質をパルス液相法によりアミノ酸配列について分析した結果を示す。精製されたミズクラゲ由来のムチン型糖タンパク質の単糖分析の結果を示す。精製されたアカクラゲ由来のムチン型糖タンパク質の単糖分析の結果を示す。精製されたミズクラゲ由来のムチン型糖タンパク質のゲル濾過(サイズ排除)HPLC分析の結果を示す。種々のクラゲ又はその部位に由来するムチン型糖タンパク質のサイズ排除クロマトグラフィー分析の結果を示す。ミズクラゲ由来のムチン型糖タンパク質をサイズ排除クロマトグラフィーに供した後、分取したフラクションを示す。分取した各フラクションのMALDI−TOF MS法により分子量測定した結果を示す。分取した各フラクションのMALDI−TOF MS法により分子量測定した結果を示す。分取した各フラクションのMALDI−TOF MS法により分子量測定した結果を示す。ミズクラゲ由来のムチン型糖タンパク質とプルランの分子量をプロットしたグラフである。発明の実施するための最良の形態 以下、本発明を詳細に説明する。本願は、2005年8月12日に出願された日本国特許出願第2005−234108号の優先権を主張するものであり、上記特許出願の明細書および/または図面に記載される内容を包含する。 本発明は、新規なムチン型糖タンパク質を提供する。ムチン型糖タンパク質とは、特定のアミノ酸配列を単位とする繰り返し構造を有し、かつムチン型糖鎖(O結合型糖鎖ともいう)を有する糖タンパク質を指す。一般的には、ムチン型糖タンパク質においては、N−アセチルガラクトサミンがタンパク質のセリン残基やトレオニン残基のヒドロキシル基にO−グリコシド結合し、またそのN−アセチルガラクトサミンに単糖が結合して糖鎖が形成されている。 本発明に係るムチン型糖タンパク質(本ムチン型糖タンパク質)の構造及びその性質を以下に説明する。本ムチン型糖タンパク質は、下記式I(配列番号1): Val−Xaa−Glu−Thr−Thr−Ala−Ala−Pro (I) 〔式中、XaaはVal又はIleである。〕で示されるアミノ酸配列からなる繰り返し単位を3回以上含む繰り返し構造を有する。ムチン型糖タンパク質は、その性質として不定分子量の高分子化合物であり、上記単位の繰り返し回数は、たとえ同じ種に由来し、同一実験において得られたムチン型糖タンパク質であっても個々の分子によって異なる。ゲル濾過分析の結果、本発明者が単離したムチン型糖タンパク質の分子量は、アミノ酸配列解析で得られた数平均を用いてゲル濾過の解析を補正すると10〜1400kDaであったことから、後述する糖鎖の構造もあわせて検討すると、実験で得られた分子量(繰り返し回数が3〜700回程度)の3倍程度の大きさの高分子も自然界に存在すると予測され、そのムチン型糖タンパクでも大きく物性や機能が変化するとは考えられないので、上記単位の繰り返し回数は、約3〜2000回程度、好ましくは3〜700回であると推測される。ここで、トレオニン(Thr)残基の全てに糖鎖が結合し、かつ糖鎖部分が最も典型的な−GalNAc−Galであると仮定すると、例えば分子量約4.5kDaの場合には、上記単位の繰り返し回数が約3回、分子量約750kDaの場合には、上記単位の繰り返し回数が約40回であると推定される。なお、本明細書では分子量から繰り返し回数を算出する場合、特に断らない限り同様の仮定を用いるものとする。 実験(実施例6)でクラゲから得られた、ムチン型糖タンパク質のゲル濾過のクロマトグラムから、MALDI−TOFを用いて得られた絶対分子量で得られた数値で補正すると、全量の50%が、60kDaから270kDaの分子量すなわち40回から180回の繰り返し構造を持つことがわかる。同様に90kDaから210kDaの分子量すなわち60回から150回の繰り返し構造を持つものが全体の30%を占めることがわかる。 上記の繰り返し単位は、直接結合してもよいし、又はリンカーを介して結合してもよい。リンカーは、例えば限定されるものではないが、システインを用いたS−S結合などでありうる。 また、実施例3及び4に示す分析結果では、単離されたムチン型糖タンパク質には、上記繰り返し構造以外の別種アミノ酸が含まれていたが、その量はモル比で5%以下であった。これらの他のアミノ酸は、不純物であるか、主として末端や繰り返し単位の連結部に存在し、膜との結合による生体内の固定機能など、付加的機能を与える部分と考えられる。従って、本ムチン型糖タンパク質は、上記繰り返し構造のほか、そのムチンとしての機能(例えば、粘性、抗菌性、保湿性など)に影響を及ぼさない程度の他のアミノ酸を含んでもよい。さらに、繰り返し構造における繰り返し単位がシフトしていてもよい。すなわち、実施例4に示すように、アカクラゲ由来のムチン型糖タンパク質においては、繰り返し単位がVEXXAAPVであり、これは式Iで示される繰り返し単位が1アミノ酸シフトしたものである。従って、本ムチン型タンパク質は、繰り返し構造のN末端に存在する1若しくは数個のアミノ酸を欠損し、その結果、繰り返し単位がシフトしているタンパク質も包含する。好ましくは、繰り返し構造のN末端に存在するValを欠損するムチン型糖タンパク質である。 また本ムチン型糖タンパク質は、上述した繰り返し構造の1以上のアミノ酸残基に1以上の単糖からなる糖鎖が結合している。糖鎖が結合するアミノ酸残基の種類は特に限定されるものではないが、トレオニン残基(Thr)に糖鎖が結合していることが好ましい。例えば、本ムチン型糖タンパク質は、糖鎖の結合するアミノ酸残基の全体の98%〜100%がトレオニン(Thr)でありうる。また、上述したように、ムチン型糖タンパク質はその性質として不定分子量の高分子化合物であるため、糖鎖が結合するアミノ酸残基の数は、個々の分子によって異なる。しかしながら、上述した繰り返し構造における2つのトレオニン残基のほぼ全てに糖鎖が結合していると予測される。従って、本ムチン型糖タンパク質における結合糖鎖の数は、上記単位の繰り返し回数に応じて異なることになる。 糖鎖を構成する単糖は、一般的なムチン型糖タンパク質において見出されている単糖であれば特に限定されるものではなく、例えば、N−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、シアル酸、アラビノース、フコースなどが挙げられる。特に、N−アセチルガラクトサミン及び/又はガラクトースから構成される糖鎖であることが好ましい。具体的には、上述した繰り返し単位におけるトレオニン残基(Thr)に、N−アセチルガラクトサミン及びガラクトースが結合して、Thr−GalNAc−Galの構造をとるか、N−アセチルガラクトサミンのみが結合して。Thr−GalNAcの構造をとることが好ましい。例えば、そのようなムチン型糖タンパク質は、下記式:〔このうち○Galは欠損していてもよい〕により表される。 また糖鎖は、1〜10個、好ましくは1〜8個、より好ましくは1〜5個の単糖が直鎖状又は分枝状に連結したものである。ムチン型糖タンパク質の性質(不定分子量)のため、本ムチン型糖タンパク質に含まれる糖鎖の数、種類、構造、大きさ等は、個々のムチン型糖タンパク質によって異なり、また、1つのムチン型糖タンパク質に含まれる糖鎖も個々に異なるものでありうる。実施例2〜6に記載のように、ミズクラゲ及びアカクラゲから抽出されたムチン型糖タンパク質の比較においても、ペプチド鎖の繰り返し部分が全く同一で、糖鎖部分の構成糖の種類とその成分比だけが異なっていた。また、これらのムチン型糖タンパク質は、ミズクラゲ及びアカクラゲを含む自然界でおそらくは同一の目的で存在している。この2種のクラゲにおけるムチン型糖タンパク質の働きには大きな差異がないと考えられることから、糖鎖構造は本ムチン型糖タンパク質の、主たる性質を変えず、むしろ特異性を微調節する役目を果たしていると推測できる。したがって、糖鎖部分が異なっていてもペプチド鎖の繰り返し構造を有するムチン型糖タンパク質は本発明の範囲内に含まれる。 さらに、本ムチン型糖タンパク質における糖鎖は、生体内に存在する糖転移酵素により変換される。従って、本ムチン型糖タンパク質の糖鎖は上述した糖鎖に限定されるものではなく、改変された糖鎖を有するムチン型糖タンパク質も、式Iで表されるアミノ酸配列をからなる繰り返し単位を3回以上含む繰り返し構造を有し、該構造における1以上のアミノ酸残基に1以上の単糖からなる糖鎖が結合しているものであれば、同様の機能及び性質を有することが期待されるため、本発明の範囲内に含まれる。 さらには、糖転移酵素によって糖鎖が改変されたムチン型糖タンパク質は、新しい糖の認識能が付加されて、新たな有用性を有する可能性もある。従って、本発明においては、本ムチン型糖タンパク質の糖に糖転移酵素を作用させて、該糖鎖を改変する方法を提供する。使用しうる糖転移酵素としては、グリコシルトランスフェラーゼ、ガラクトシルトランスフェラーゼ、N−アセチルガラクトサミニルトランスフェラーゼ、シアリルトランスフェラーゼ、フコシルトランスフェラーゼなどが挙げられる。糖転移酵素を用いた糖鎖の改変の手法は当技術分野で公知であり、任意の方法を用いて行うことができる。 本ムチン型糖タンパク質は、ムチン型糖タンパク質において1型コアと呼ばれるThr−GalNAc−Galという接続部分や、Thr−GalNAcという単純な構造をもつ接続部分を有する化合物であるので、既存の酵素を用いることにより糖鎖部分を任意の糖鎖に変換する原料として用いることができる特徴を有する。例えば、正常リンパ球の中で起こっている反応と同じように、市販されているa2→3NeuAc転移酵素を作用させることによりシアル酸をガラクトースに結合させることができる。 加えて、糖鎖の全部又は一部を除去することで、ムチン型糖タンパク質が有する一部の作用を限定する、特定の効用を強める、又は新たな作用を発生させることが可能となりうる。さらに、部分的に付加している糖を除去することで物質としての均一性を高めることができる。従って本発明において提供する該当糖鎖の改変については、糖鎖から特定の糖を遊離することも含まれる。使用しうる糖遊離酵素としてはグルコシダーゼ、ガラクトシダーゼ、N−アセチルガラクトサミニダーセ、シアリダーゼ、フコシダーゼなどがあげられる。 本ムチン型糖タンパク質における糖鎖部分を任意の糖鎖に変換する方法が提供されることにより、本ムチン型糖タンパク質の有する固有の糖鎖による分子認識能を、任意の特異性、親和性を有する状態に微調整できる。例えば現在ポリスチレンなど様々な高分子材料に、糖結合性タンパク質であるレクチンを認識する様々な糖鎖を導入し、細胞やウイルスや、それらの発する毒素を接着させる材料が開発、実用化されている(小林一清 人工複合糖鎖高分子 pp181-195 小林一清/正田晋一郎 監修 「糖鎖化学の最先端技術」 第2編第2章1 シーエムシー出版 2005年)が、本ムチン型タンパク質も高分子材料として同様の機能を持たせることが可能である。例えばO−157が発生する志賀毒素は、Galα1−4Galβ1−4Glcβの3糖やGalα1−4Galβ1の2糖と強く結合することが知られているので、これらの適当な量を結合させることにより、本ムチン型タンパク質に志賀毒素に対する消毒作用を持たせることが出来る。このような作用を持つ糖鎖は数多く知られているので、認識能を有する糖鎖を限定するものではない。また、認識する対象も限定するものではないが、細胞内外、細胞表面、細胞膜内、ウイルス内外、ウイルス表面に存在する、レクチン類などの糖タンパク質、毒素、薬物などが考えられる。 また、本発明は、上記式Iで示されるアミノ酸配列からなる繰り返し単位を1〜2000回含む繰り返し構造を有するタンパク質にも関する。該タンパク質には、上述と同様に糖転移酵素を用いて糖鎖を結合させることができる。 本発明のムチン型糖タンパク質は、クラゲ類から抽出される。クラゲ類とは、刺胞動物門に属する生物をいい、代表的なものとして、ミズクラゲ(ミズクラゲ科)、アカクラゲ(オキクラゲ科)、オワンクラゲ(オワンクラゲ科)、エチゼンクラゲ(エチゼンクラゲ科)、アンドンクラゲ(アンドンクラゲ科)、ビゼンクラゲ(ビゼンクラゲ科)、ハブクラゲ(熱帯アンドンクラゲ科)が挙げられる。本ムチン型糖タンパク質を製造するために使用するクラゲ類は、ヒトや動物に対する安全性が確認されているクラゲであることが好ましく、例えば限定するものではないが、すでに食用に供されているミズクラゲ、ビゼンクラゲ、エチゼンクラゲなどである。クラゲ類は、あらゆる状態のものを使用することができ、例えば生のクラゲ、冷凍クラゲ、乾燥クラゲ、塩蔵クラゲなどを使用することができる。また、ムチン型糖タンパク質が抽出されるクラゲの部位は特に限定されるものではなく、例えば、表皮、口腕、胃体部、体液など、また凍結保存や常温による保存において生じた液体成分を用いることができる。 冷凍クラゲを用いた場合のムチン型糖タンパク質の製造方法の一例として、図1にその概略を示す。最初に、冷凍クラゲを解凍・水洗する。生のクラゲ又は乾燥クラゲなどを使用する場合にも、同様に水洗を行う。必要に応じて、遠心分離を行い、固形物と液体を分離させる。 次いで、クラゲ(固形物)を、ハサミ等を使用して、0.5mm〜2cm、好ましくは1cm四方程度の断片に切断する。この切断または破砕方法は、用いる試料の状態、後続の過程で用いる遠心分離器の性能などに適合した方法を用いる必要があり、より細かい断片が必要な場合は電動ミキサーなどの適当な切断−破砕方法を用いることができる。試料の表皮が分解しかかっていたり、流動部分が柔らかく、鮮度が落ちる場合には、アセトン処理を行って脱脂及び脱水を行うことが好ましい。アセトン処理を行った場合には、脱水された試料を再び水で膨潤させて使用する。 一方、体液を用いる場合や凍結保存や常温による保存において生じた液体成分を用いる場合は、上記の工程を省略し次の工程に移ることができる。 次に、固形試料を塩溶液に投入し、振とうを行って抽出する。使用する塩溶液は、限定されるものではないが、NaCl、KCl、MgCl2、CaCl2、シュウ酸アンモニウム、LiBr、EDTA、リン酸緩衝液、クエン酸緩衝液などの中性緩衝液、好ましくは0.2〜3.5%NaCl、特に好ましくは0.2%NaClである。なお、クラゲ試料が大量の塩分を含む場合は、添加する塩の量も、最終的な塩濃度がこの範囲に入るように調整する。また、抽出温度は、約2〜25℃、好ましくは約4℃である。 抽出後、温度を保ったまま、1000〜10000g、好ましくは最高速度の10000gにて、5〜20分間遠心分離する。抽出液にエタノールを添加し、沈殿させる。これを一晩約0〜4℃に静置した後、温度を保ったまま、1000〜10000g、好ましくは10000gにて、5〜20分間遠心分離を行う。 得られた沈殿物を少量の水に溶解し、上記温度を保ったまま、1000〜10000g、好ましくは10000gにて、5〜20分間遠心分離を行う。次に上澄みを分離し、透析処理により精製する。得られた物質は粗ムチン型糖タンパク質であり、これは凍結乾燥する。 ムチン型糖タンパク質の精製には、タンパク質の単離精製に用いられる一般的な生化学的方法、例えば有機溶媒による分画、限外濾過法、各種電気泳動法、各種透析法、ゲルクロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、逆相クロマトグラフィー、イオン交換クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー等を単独で又は適宜組み合わせて用いることができる。例えば、実施例2に示すように、イオン交換液体クロマトグラフィーによりメインピーク付近の分画を取得することにより、本ムチン型糖タンパク質を精製することができる。 なお、本ムチン型糖タンパク質の製造においては、加熱工程を行わないことが好ましい。例えば、本ムチン型糖タンパク質の製造は、25℃以下、好ましくは0〜25℃、より好ましくは4℃において行う。 また、本ムチン型糖タンパク質の製造方法は、クラゲ類からの抽出という効率よい方法であり、さらには、クラゲ類の養殖又は港湾や漁業で発生する廃棄物クラゲの利用などを通じて、安価な製造方法で大量にムチン型糖タンパク質を市場に供給できるという特長を有する。 本ムチン型糖タンパク質は、既知のムチン型糖タンパク質と比較すると、同じ8残基の繰り返し構造を持つヒトムチン型糖タンパク質MUC5ACと類似している(非特許文献1、2)。このヒトムチン型糖タンパク質は主として気道や胃粘膜に存在する。このタンパク質のアミノ酸配列は、本ムチン型糖タンパク質(式I)と共に、下記式II(配列番号2)に示す: この両者を比較すると8残基のうち、第4、5、7及び8番目のアミノ酸が一致する。また、本ムチン型糖タンパク質では、第4及び5番目のThrのみが糖鎖結合部位になりうるが、MUC5ACは第1、2、3、4、5及び6番目のアミノ酸(Ser又はThr)が糖鎖結合部位になりうる。しかしながら、実際はヒトMUC5ACにおいても全体的には糖の量比が少ない。このことから、本ムチン型糖タンパク質は、MUC5ACとはアミノ酸配列構造及び糖鎖構造が異なるにも関わらず、物理的物性が類似しており、MUC5ACの代用化合物として、これらと混和して又は単独で用いることができると考えられる。また、その他のムチン型糖タンパク質の代替物としての利用も可能であると考えられる。 例えばMUC5ACは通称「ゲル形成ムチン」と呼ばれており、その主たる働きのひとつは、粘膜あるいは粘液をゲル状に保つことであると考えられている。例えば胃内壁表面では胃粘膜をゲル状に保ち、胃液によって胃壁を犯させない働きが重要であるとされている。本ムチン型糖タンパク質も、水溶液では同様のゲル状物質を形成するので、この役割を代用させることが可能である。 本ムチン型糖タンパク質は、繰り返し構造が8残基と短いことにより、以下に示すような特殊な物理学的性質を有し、有用化合物としての機能を容易に発現する。繰り返し単位の8残基の1次元長さは約4nmで、構成単位が1nm程度と微小であることから、細胞やウイルス、細菌のスケールである100nmから1μm程度のスケールに比較すると十分に均質なマトリックス環境を作る特長を有する。 本ムチン型糖タンパク質は、組成物として用いることができる。例えば、本ムチン型糖タンパク質を、適当な担体と混合するか又は担体中に希釈若しくは懸濁することにより組成物とすることができる。適切な担体の例としては、塩類溶液(例えば生理食塩水など)、ラクトース、デキストロース、スクロース、ソルビトール、マンニトール、キシリトール、エリスリトール、マルチトール、スターチ、アカシアゴム、アルギン酸塩、ゼラチン、リン酸カルシウム、ケイ酸カルシウム、セルロース、メチルセルロース、微晶質セルロース、ポリビニルピロリドン、水、ヒドロキシ安息香酸メチル、ヒドロキシ安息香酸プロピル、タルク、ステアリン酸マグネシウム及びミネラル油などが挙げられる。また、組成物には、通常用いられる賦形剤、界面活性剤、分散剤、緩衝剤、保存剤、溶解補助剤、無痛化剤、安定化剤、等張化剤等などが含まれてもよい。 本ムチン型糖タンパク質を高濃度の塩を含む水溶液(生理食塩水など)に溶解した組成物は、ヒトの代用粘液物質として利用する場合に、以下のような作用及び用途を有すると考えられる:(1)粘膜そのものの補充。粘膜の持つ様々な機能(組織の保護、保湿、潤滑など)を強化する(2)病変(たとえば胃内壁における胃潰瘍)などで不足した粘膜質を補充する治療において代用粘液として用いる(3)粘液質と接触している組織に対して、薬剤を効果的に供給するドラッグデリバリ担体として用いる(4)粘液質と接触している組織に感染するウイルス、細菌などをトラップし、人工的な抗菌効果を示すマトリックスとして用いる。 従って、本ムチン型糖タンパク質は、上述の医薬用途に用いるための医薬組成物として有用である。また、本ムチン型糖タンパク質は、コラーゲンなどのタンパク質、ヒアルロン酸などの糖質と混和することにより、人工的細胞外マトリックスの構成物質を作製することができる。このような人工的細胞外マトリックスは、発生及び再生医療における有用な細胞外マトリックスを作る材料として用いることができる。 また、本ムチン型糖タンパク質の供給源はクラゲ類であり、ヒトや動物の食用として利用することが可能である。従って、本ムチン型糖タンパク質は、食品や食品用添加物に配合して、食品の増粘剤、抗菌コーティング剤、健康食品として用いることができる。食品及び食品用添加物への配合は、例えば混合、浸漬、塗布、噴霧等の方法で行うことができる。 さらに、ムチンは保湿成分や老化防止成分であることが知られているため、本ムチン型糖タンパク質を化粧品に配合することもできる。本ムチン型糖タンパク質を配合する化粧品としては、例えば、化粧水、乳液、クリーム、ファンデーション等を挙げることができる。実施例10に示すとおり、現在化粧品における代表的な吸湿ないし保湿成分として知られているヒアルロン酸と比較して、同程度の保湿、吸湿能力を有していることがわかる。 本ムチン型糖タンパク質は、類似のムチン型糖タンパク質を合成する出発物質として用いることが出来る。酵素や通常の有機合成反応を用いた合成プロセスにおいて、繰り返し単位そのもの(繰り返し一回のペプチド鎖)も糖鎖導入の収率推定やNMRなどの分光法により糖鎖導入の確認を行うためのタグとして用いることができる。 本ムチン型糖タンパク質は粘性が優れているため、本ムチン型糖タンパク質を含む水溶液は、薄く延ばして乾燥することにより、又は糖鎖部分をグルタールアルデヒドやポリカルボン酸によりゲル化することにより、膜状及び樹脂状に成形することができる。得られる膜状及び樹脂状の組成物は、生体親和性及び生体分解性に優れたものであり、手術後の縫合膜、人工骨などの表面保護材、平滑剤等に用いることができる。 上述したように、本ムチン型糖タンパク質を含む組成物は、細胞組織保護、皮膚表面保湿、健康増進、薬剤投与、疾患の治療若しくは予防、抗菌などに用いることができる。 また、本ムチン型糖タンパク質は、1)分子量分布の広範な糖タンパク質を単離可能なこと、2)化合物として固体で安定に保存することができること、3)適当なカラムを用いて液体クロマトグラフィー法で分取することにより分子量分布と分子分布の中央値が同じ試料を再現的に精製できること、4)単一分子量の分取試料についてMALDI−TOF MS測定を行うことによって絶対分子量を規定できること、などの特徴があり、分子量分布と分子分布の中央値が明確な分画を精製することによって、分子量マーカーとして用いることができる。 分子量マーカーとして用いるムチン型糖タンパク質は、様々なクラゲ類又はその一部位から抽出することが好ましい。例えば、実施例7に示されるように、例えばエチゼンクラゲの表皮由来のムチン型糖タンパク質は、その分子量分布が特に広範なため、エチゼンクラゲの表皮からムチン型糖タンパク質を単離し、それを分取することによって、広範な分子量範囲の分子量マーカーセットを調製することができる。 本ムチン型糖タンパク質を含む分子量マーカーは、下記のように調製することができる。まず、上述のようにムチン型糖タンパク質を単離した後、適当なカラムを用い、適当な条件下でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を行い(実施例7参照)、各溶出時間の成分をできるだけ細かく分取する。使用するカラム、溶離液の組成及び流速、カラム温度などの溶離条件は、どの程度の分子量範囲のマーカーを調製しようとするかの目的に応じて、当業者であれば適宜決定することができる。 続いて、各フラクションを集積して、精製する。この精製は、当技術分野で公知の精製方法であれば任意のものを適宜組み合わせて用いて行うことができる。例えば、透析を用いて脱塩を行うことが好ましい。精製された単一分子量のムチン型糖タンパク質のフラクションは、凍結乾燥を行って、固体として用いることができる。この固体試料は約4℃にて冷蔵保存することが好ましい。次に、ムチン型糖タンパク質のフラクションそれぞれについて、例えばMALDI−TOF MS法を用いて分子量の絶対測定を行い、絶対分子量を与える(実施例8参照)。 本分子量マーカーは、実施例6及び7に示すように、広範な分子量を包含するものである。具体的には、本発明により、約10〜1,400kDaの分子量の分子量マーカーを調製することができる。どの程度の分子量のムチン型糖タンパク質フラクションを調製するかは、上述したサイズ排除クロマトグラフィーにより分取において、分取の時間を調整することによって決定することができる。例えば、実施例8に示すようにフラクションを分取することによって、約8〜15kDa(中央値11kDa)、約15〜25kDa(中央値19kDa)、約28〜38kDa(中央値32kDa)、約45〜55kDa(中央値49kDa)、約70〜100kDa(中央値86kDa)、約80〜150kDa(中央値110kDa)の分子量分布とその中央値の明確な分子量マーカーを調製することができる。 本分子量マーカーを未知の試料の分子量測定に用いる場合には、通常の分子量マーカーと同様に取り扱うことができる。その際、分子量マーカーとしては、その複数の分子量のものを一緒に使用することが好ましい。本分子量マーカーは、タンパク質の分子量測定、タンパク質の分離などに用いられる一般的な生化学的方法、例えば各種電気泳動法、クロマトグラフィー法(例えばSEC)等において好適に用いることができる。例えば具体的には、本分子量マーカーを固体試料を用いる溶出溶媒に溶解し、適当な溶離条件下でサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)測定を行う。使用するカラム、溶離液の組成及び流速、カラム温度などの溶離条件は、測定対象の未知試料の性質に応じて異なるが、当業者であれば適宜決定することができる。 そして、測定結果に基づいて分子量マーカーの絶対分子量と溶出時間とを用いて検量線を作成する。このとき、以下に示すような分子量と溶出時間(溶出体積)との理論的関係: log(分子量)=A−B×溶出時間(溶出体積) 〔式中、A及びBは正の数である〕が成立する分子量の範囲で用いることが望ましい。これ以降この検量線(分子量と溶出時間の関係)を用いて未知試料の測定を行えばよい。 本分子量マーカーは、実施例3に示すように、従来から使用されているプルランと比較して絶対値が約3倍異なっている。MALDI−TOF MSの結果はより信頼性が高いので、少なくとも糖タンパク質の分子量分布を測定する上では、本分子量マーカーを用いた測定がより正確であるといえる。またこの結果は、アミノ酸配列解析の際のエドマン分解効率を加味した収量から求めた数値ともよく一致している。 本分子量マーカーに含まれるムチン型糖タンパク質は、上述したように、ペプチド鎖に糖鎖が結合した糖タンパク質であり、分岐型高分子である。一方、従来から使用されている分子量マーカーは、合成高分子であり分岐のない直鎖型高分子のみである。そのため、本分子量マーカーは、従来分子量マーカーとして提供されてきた直鎖の合成高分子類では流体力学的半径や形状が異なり正確な分子量を求めることが困難であった糖タンパク質などの分岐型高分子(例えば糖タンパク質など)の分子量を正確に決定することができる。 以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。 本発明に係る新規ムチン型糖タンパク質の前駆体になる粗ムチンは、ミズクラゲ(Aurelia aurita)あるいはアカクラゲ(Chrysaora melanaster)から図2に示すとおり下記の方法で抽出した。1)冷凍状態にあるクラゲ個体を解凍後、水洗し、固形物と液体を遠心分離器で分離した2)残った固形部分をハサミで切断し5mm〜1cm四方程度の断片に切断した3)アセトン処理による脱脂及び脱水を行った後、水で膨潤させた4)固形試料を0.2%NaCl水溶液に投入し、4℃で振とう抽出を行った5)4)の溶液を4℃のまま10000gで、15分間遠心分離した6)5)の抽出液に3倍容のエタノールを投入するとゲル状の沈殿物を生じた7)6)を一晩冷蔵庫に静置した後、4℃のまま10000gで、15分間遠心分離を行った8)7)の沈殿物を少量の水に溶解し、4℃のまま10000gで、15分間遠心分離を行った9)8)の上澄みを分離し、透析処理により精製し、凍結乾燥したものを粗ムチンとした10)さらに8)の沈殿物に対して7)及び8)の操作を適当な回数繰り返して行い、粗ムチンを得た。 実施例1で得られた2種のクラゲ由来の粗ムチンを、イオン交換液体クロマトグラフィーに供して図3に示す星印のピークを精製することにより、純度の高いムチン型糖タンパク質を得た。 使用したクロマトグラムの条件は以下のとおりである: 実施例2において精製した化合物を自動アミノ酸分析計によって構成アミノ酸分析を行った。前述のイオン交換クロマトグラフィーで精製し、透析した試料(約12マイクログラム)を加水分解チューブに移し遠心エバポレーターで乾固し、定沸点塩酸(5.7N)の入った外管に入れ減圧封管した。加水分解は気相法で110℃で20時間行った。 外管を開管し、加水分解チューブを同様に乾燥し、乾燥した加水分解物は0.02N塩酸100マイクロリットルに溶解した。加水分解物のアミノ酸分析には日立社製高速アミノ酸分析計L−8500Aを用いた。日立の定める特殊アミノ酸分析法にて加水分解物中のアミノ酸をイオン交換カラムを用いて5種類の緩衝液で分離させた。分離したアミノ酸はポストカラム法によりニンヒドリンで反応させて2波長の可視光で検出した。アミノ糖と通常のアミノ酸は570nmのクロマトグラムより、また、プロリンは440nmのクロマトグラムより標準アミノ酸混合物及びグルコサミン、ガラクトサミンを2ナノモル分析した値をもとに定量した。 アミノ酸組成分析の結果を図4に示す。図4のアミノ酸濃度比に示したように、ミズクラゲ、アカクラゲの双方ともムチン型糖タンパク質のペプチド部の組成は、スレオニン(Thr):グルタミン酸(Glu):プロリン(Pro):アラニン(Ala):バリン(Val)+イソロイシン(Ile);N−アセチルガラクトサミン(GalNAc)がそれぞれ10%の誤差で2:1:1:2:2:2であることが判明した。また、セリンや他のアミノ酸の濃度比率はわずかに0.05%程度であり、そのためこれらは不純物や末端の構造に由来すると考えられ、ムチン型糖タンパク質の繰り返し構造には関係がないと判断した。 本実施例においては、実施例2において精製したタンパク質(1.8μg)をパルス液相法でアプライドバイオシステムズ社Procise 494 HTを用いて分析し、各サイクルのPTHアミノ酸量をプロットした。 2つのクラゲに由来するムチン型糖タンパク質のアミノ末端からのアミノ酸配列分析結果を図5に示す(図5−1はミズクラゲ、図5−2はアカクラゲを示す)。図5−1において、黒四角の一点鎖線はバリン(Val)、破線はグルタミン酸(Glu)、白四角の線はアラニン(Ala)、白丸の二点鎖線はプロリン(Pro)、黒丸の線はイソロイシン(Ile)を示す。自動タンパク質アミノ酸配列解析装置にて30残基分析したところ、N末端からVal−Val(Ile)−Glu−X−X−Ala−Ala−Pro(Xは不明なアミノ酸)の繰り返し構造を3.75周期同定した。これより、ムチン型糖タンパク質はVVEXXAAP(一部VIEXXAAP)の繰り返し配列から成ることが判明した。また実施例3の結果から、Xがスレオニンであると推定された。この8残基繰り返しアミノ酸配列をもつムチンは、プロテインデータバンクなどの検索によっても見いだされず、今まで発見されていなかったタンパク質であるので、新規物質であると結論づけられる。 また、初期収量が約30pmolであり、エドマン分解の初期収率が50%とすると、得られたムチン型糖タンパク質は60pmol相当である。したがって、この繰り返し単位(ペプチド部の分子量約768、後述の糖鎖を含めて約1500)の繰り返し回数がおよそ40回であることも見いだされた。この数値によって求めた分子量60kDaは数平均分子量と考えて良い。 アカクラゲからはVEXXAAPV(一部IEXXAAPV)のN末端からの繰り返し配列が得られた(図5−2)。これは、ミズクラゲの始まりの一残基が外れたものと同一で、繰り返し単位は本質的に全く変わらなかった。 前述のイオン交換クロマトグラフィーで精製し、透析した試料(約6マイクログラム)を反応用チューブに移し遠心エバポレーターで乾固し、酵素を加えシアル酸を遊離・還元糖に変換したのち、トリフルオロ酢酸(4M)を用い100℃、3時間で加水分解した。N−アセチル化した後、蛍光ラベル(ABEE)化を行ったサンプルを、ホーネンパックC18カラム(75mm×4.6mm i.d.)を用いて0.2Mホウ酸カリウム緩衝液(pH8.9)/アセトニトリル(93:7)混合溶媒で分離させた。検出は305nmの蛍光で行った。同様の処理を行った標準11単糖混合物のクロマトグラムをもとに単糖組成比を定量した。 図6−1にはミズクラゲ、図6−2にはアカクラゲの結果を示す。 図6−1に示すミズクラゲ由来の本ムチン型糖タンパク質における単糖組成分析から見積もられた単糖の割合は、以下の通りである: この分析結果から、ペプチドの繰り返し単位の2個のスレオニンにそれぞれ結合したN−アセチルガラクトサミンが存在し、その全部か一部にガラクトースが結合していると考えられる。他に糖が結合していないと仮定すると、糖鎖部分の分子量は730であるため、単位糖タンパク質の分子量は約1500と推定される(糖含量約50%)。 一方図6−2に示すアカクラゲ由来の本ムチン型糖タンパク質における単糖組成分析では、標準サンプルがなく、同定が出来ない未知の糖が含まれていたため、糖全体に対する糖の割合が不明であった。本分析から見積もられた既知の単糖の濃度は、以下の通りである: サンプル0.05ml(1mg/ml精製新規ムチン/0.1M NaPi溶液)を用いて、Shodex SB-806HQ, eluent: 0.1M NaPi, pH7, flow: 0.5ml/min, detector UV(215 nm) & RIにおいてミズクラゲ由来の本ムチン型糖タンパク質についてゲル濾過(サイズ排除)HPLC分析を行った。分子量マーカーとしてプルランを使用した。 分析結果を図7に示す。分析結果から、ピーク分子量は約450kDaであることがわかった(図7A)。また、クロマトグラムより計算した数平均分子量及び重量平均分子量はそれぞれ約180kDa及び約500kDaである(図7B)。プルランを標準物質としたゲル濾過においては分子量分布が10〜1400kDaであることがわかった。 ゲル濾過で求められた数平均分子量は約180kDaでアミノ酸配列分析から推定された分子量60kDaと3倍ほどの差を示した。これらの測定方法は高分子糖鎖化合物の分子量測定方法として、現在最も信頼できる2種類の測定方法であるが、この両測定方法で絶対値が数倍程度の誤差を生じることは、現在の技術では、通常あり得る範囲とされており、高分子糖鎖化合物の分子量測定においてはやむを得ないと考えられる。相対測定に用いた標準物質(プルラン)の適合性の問題があるので、数平均分子量の絶対値に関してはアミノ酸配列分析の結果の繰り返し回数の方がより正確であると考えられる。すなわち、アミノ酸配列分析では、正しい分子量の絶対値が求まるが、分子量分布を求めることができず、ゲル濾過方法では分子量分布が求まっても、それは相対値に過ぎない事情がある。これは実施例7〜9を含む以下のような操作によって実際に確認できた。 ゲル濾過で求まった分子量分布は実施例9に示したMALDI−TOFを用いた方法で絶対値に換算し、本明細書において分子量を定義する基準測定法とした。MALDI−TOFで求めた分子量の数値は、アミノ酸配列分析から推定された分子量とよい一致を示した。2つの方法で求めた数平均分子量の比率((プルランを標準にした分子量)/(MALDI−TOFで求めた分子量)=約3)が、全ての分子量で成立した。これにより補正したピーク分子量は150kDa、重量平均分子量は170kDa、及びクロマトグラムで得られた分子量の上限は470kDaとなる。これらに対応するアミノ酸配列の繰り返し回数は、それぞれピーク値で100回、重量平均分子量で110回、分子の上限では700回となる。 またクロマトグラムからピーク分子量150kDaを中心に60−270kDa(補正後)に全体の50%、90−210kDa(補正後)に全体の30%が含まれることがわかる。すなわち、繰り返し回数40−180回に全体の50%、繰り返し回数60−150回に全体の30%が含まれることがわかった。 本実施例においては、種々のクラゲ類から抽出したムチン型糖タンパク質についてサイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を行った。 クラゲからのムチン型糖タンパク質の抽出は、実施例1と同様に行った。クロマトグラムの条件は以下の通りとした: 結果を図8に示す。図8の結果から、クラゲ由来のムチン型糖タンパク質の分子量分布が広いことがわかった。また、特にエチゼンクラゲのカサ表面(表皮)から採取されたムチン型糖タンパク質の分子量は他のものに比べて低く、広範な分子量分布を示した。 実施例7でSECを行ったミズクラゲ由来のムチン型糖タンパク質について、図9に示すように各フラクションを分取して、MALDI−TOF質量分析を行った。MALDI−TOF MSは、マトリックスとしてトランス−インドール−3−アクリル酸を用い、ブルカーダルトニクス社製Reflexのリニアモードで行った。 その結果を図10に示す。図中の標題部分に記載のM○○とは、図9のフラクション番号を表している。各フラクションにおいて明瞭なピークが得られていることから、それに基づいて分子量を決定することができる。すなわち、図10におけるM28フラクションの分子量分布とその中央値は約8〜15kDa(中央値11kDa)、M26フラクションの分子量分布とその中央値は約15〜25kDa(中央値19kDa)、M24フラクションの分子量分布とその中央値は約28〜38kDa(中央値32kDa)、M22フラクションの分子量分布とその中央値は約45〜55kDa(中央値49kDa)、M20フラクションの分子量分布とその中央値は約70〜100kDa(中央値86kDa)、M19フラクションの分子量分布とその中央値は約80〜150kDa(中央値約110kDa)と、目視により算出した。 実施例7でSECを行ったミズクラゲ由来のムチン型糖タンパク質について、図9に示すような各フラクションを分取して、実施例8においてMALDI−TOF MSにより測定した分子量をプロットした。また、対照としてプルランの測定結果もプロットした。 その結果を図11に示す。図11において、ムチン型糖タンパク質の測定結果(黒四角)の下に示す数値は、図9に示す各フラクションの番号を示す。この結果から、クラゲ由来のムチン型糖タンパク質もプルランも良好な直線関係が得られているが、その絶対値が約3倍異なっていることがわかる。従って、本ムチン型糖タンパク質は、上述のように分取することによって、特に糖タンパク質などの高分子化合物の分子量測定のために分子量マーカーとして用いることができることが示された。 本発明のムチン型糖タンパク質の吸湿性と保湿性について調べた。吸湿性は以下のようにして測定した。すなわち、精製したミズクラゲ由来の上述ムチン型糖タンパク質をシリカゲル入りデシケーター中で乾燥、恒重量化し、その20mgを秤量ビン中に秤取し、硫酸アンモニウム飽和水溶液を用いて相対湿度(RH)約79%(25℃)に調整したデシケーター中に放置した。この試料の重量増加を経時的に測定し、重量増加分を吸湿量として示した。結果は下記表1に示す。 一方、保湿性の測定は、同じく精製したミズクラゲ由来のムチン型糖タンパク質をシリカゲル入りデシケーター中で乾燥、恒重量化し、その20mgを秤量ビン中に秤取し、水を10%加えた後、水酸化ナトリウム飽和水溶液を用いて約RH49%に調整したデシケーター中に放置した。この試料の重量減少を24時間後に測定し保湿量を算定した。結果は下記表1に示す。 2つの測定値は、高い保湿性と吸湿性を持ち、潤い成分として化粧品材料に用いられているヒアルロン酸を標準物質として、相対値として求めた。 吸湿性については、本発明の精製ムチン型糖タンパク質は、ヒアルロン酸の約3倍の吸湿性を示し、短時間吸湿性も優れていることがわかる。 また、保湿性については、本発明の精製ムチン型糖タンパク質は、相対湿度(RH)49%以下の低湿度領域において、きわめて高い保湿性をもつヒアルロン酸に対し約6割の保湿性を示した。 本明細書中で引用した全ての刊行物、特許および特許出願は、その全文を参考として本明細書中にとり入れるものとする。 本発明により、新規なムチン型糖タンパク質が提供される。かかるムチン型糖タンパク質は、化学構造が明確なヒトムチンの代用物質等として用いることができ、医薬、農業、食品などの分野において有用である。また、ムチン型糖タンパク質は、クラゲ類より簡便かつ大量に製造されるため、経済的及び環境的な点で優れている。 また本発明により、ムチン型糖タンパク質を含む分子量マーカーが提供される。かかる分子量マーカーは、天然高分子から製造する分岐型高分子鎖である。本分子量マーカーを用いることによって、糖タンパク質などの分岐型高分子の分子量を正確に求めることが可能となる。 配列番号1:XaaはVal又はIleである。 下記式I: Val−Xaa−Glu−Thr−Thr−Ala−Ala−Pro (I) 〔式中、XaaはVal又はIleである。〕で示されるアミノ酸配列からなる繰り返し単位を3〜2000回含む繰り返し構造を有し、該構造における1以上のアミノ酸残基に1以上の単糖からなる糖鎖が結合していることを特徴とするムチン型糖タンパク質。 繰り返し単位を3〜700回含む繰り返し構造を有する、請求項1記載のムチン型糖タンパク質。 繰り返し単位を40〜180回含む繰り返し構造を有する、請求項1又は2記載のムチン型糖タンパク質。 繰り返し単位が、直接結合している又はリンカーを介して結合している、請求項1〜3のいずれか1項に記載のムチン型糖タンパク質。 糖鎖の結合するアミノ酸残基がトレオニン(Thr)である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のムチン型糖タンパク質。 糖鎖の結合するアミノ酸残基の98%以上がトレオニン(Thr)である、請求項5記載のムチン型糖タンパク質。 糖鎖が、N−アセチルガラクトサミン、ガラクトース、N−アセチルグルコサミン、シアル酸、アラビノース、及びフコースからなる群より選択される単糖を含む、請求項1〜6のいずれか1項に記載のムチン型糖タンパク質。 糖鎖がN−アセチルガラクトサミンを含む、請求項7記載のムチン型糖タンパク質。 糖鎖がN−アセチルガラクトサミン及びガラクトースを含む、請求項7又は8記載のムチン型糖タンパク質。 N末端に存在する1若しくは数個のアミノ酸を欠損するものである、請求項1〜9のいずれか1項に記載のムチン型糖タンパク質。 クラゲから抽出されたものである、請求項1〜10のいずれか1項に記載のムチン型糖タンパク質。 クラゲの固形部分を切断する工程、切断したクラゲを塩溶液を用いて抽出する工程、抽出物から遠心分離及び透析により粗ムチンを分離する工程、並びにムチン型糖タンパク質を精製する工程を含み、0〜25℃で全ての工程を行うことを特徴とするムチン型糖タンパク質の製造方法。 請求項1〜11のいずれか1項に記載のムチン型糖タンパク質を含む組成物。 細胞組織保護、皮膚表面保湿若しくは吸湿、健康増進、薬剤投与、疾患の治療若しくは予防、又は抗菌に用いられる、請求項13記載の組成物。 水溶液、膜状又は樹脂状の形態を有する、請求項13又は14記載の組成物。 請求項1〜11のいずれか1項に記載のムチン型糖タンパク質の糖鎖に糖転移酵素を作用させ、糖鎖を改変することを特徴とするムチン型糖タンパク質の改変方法。 下記式I: Val−Xaa−Glu−Thr−Thr−Ala−Ala−Pro (I) 〔式中、XaaはVal又はIleである。〕で示されるアミノ酸配列からなる繰り返し単位を1〜2000回含む繰り返し構造を有することを特徴とするタンパク質。 請求項17記載のタンパク質における少なくとも1つのアミノ酸残基に1以上の単糖からなる糖鎖を結合させることを特徴とする糖タンパク質の製造方法。 下記式I: Val−Xaa−Glu−Thr−Thr−Ala−Ala−Pro (I) 〔式中、XaaはVal又はIleである。〕で示されるアミノ酸配列からなる繰り返し単位を3〜2000回含む繰り返し構造を有し、該構造における1以上のアミノ酸残基に1以上の単糖からなる糖鎖が結合しているムチン型糖タンパク質を含み、分子量分布と分子分布の中央値が絶対分子量測定法で測定された分子量マーカー。 分子量が10〜1,400kDaである、請求項19記載の分子量マーカー。 凍結乾燥されたものである、請求項19又は20記載の分子量マーカー。 下記式I: Val−Xaa−Glu−Thr−Thr−Ala−Ala−Pro (I) 〔式中、XaaはVal又はIleである。〕で示されるアミノ酸配列からなる繰り返し単位を3〜2000回含む繰り返し構造を有し、該構造における1以上のアミノ酸残基に1以上の単糖からなる糖鎖が結合しているムチン型糖タンパク質をサイズ排除クロマトグラフィーに供して分取する工程、分取された分画を集積して精製する工程、及び精製された分画の絶対分子量を測定する工程を含むことを特徴とする分子量マーカーの製造方法。 精製された分画を凍結乾燥する工程をさらに含む、請求項22記載の方法。配列表


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