生命科学関連特許情報

タイトル:再公表特許(A1)_ユートロフィン産生の増強持続剤とこれを用いる加工食品
出願番号:2006316029
年次:2009
IPC分類:A61K 31/353,C07D 311/62,A61P 43/00,A61P 21/00,A61P 19/08,A61P 3/00,A61P 29/00,A61P 5/00,A61P 19/02,A61P 9/10,A61P 13/12,A61P 25/02,A61P 25/00,A61P 1/02,A61P 1/00,A61P 1/16,A61P 15/08,A61P 7/04,A61P 21/04,A23L 1/30


特許情報キャッシュ

中江 良子 JP WO2007020917 20070222 JP2006316029 20060814 ユートロフィン産生の増強持続剤とこれを用いる加工食品 国立大学法人徳島大学 304020292 豊栖 康司 100104949 豊栖 康弘 100074354 中江 良子 JP 2005237366 20050818 JP 2006145392 20060525 A61K 31/353 20060101AFI20090130BHJP C07D 311/62 20060101ALI20090130BHJP A61P 43/00 20060101ALI20090130BHJP A61P 21/00 20060101ALI20090130BHJP A61P 19/08 20060101ALI20090130BHJP A61P 3/00 20060101ALI20090130BHJP A61P 29/00 20060101ALI20090130BHJP A61P 5/00 20060101ALI20090130BHJP A61P 19/02 20060101ALI20090130BHJP A61P 9/10 20060101ALI20090130BHJP A61P 13/12 20060101ALI20090130BHJP A61P 25/02 20060101ALI20090130BHJP A61P 25/00 20060101ALI20090130BHJP A61P 1/02 20060101ALI20090130BHJP A61P 1/00 20060101ALI20090130BHJP A61P 1/16 20060101ALI20090130BHJP A61P 15/08 20060101ALI20090130BHJP A61P 7/04 20060101ALI20090130BHJP A61P 21/04 20060101ALI20090130BHJP A23L 1/30 20060101ALI20090130BHJP JPA61K31/353C07D311/62A61P43/00 107A61P21/00A61P19/08A61P3/00A61P29/00A61P5/00A61P19/02A61P9/10 101A61P13/12A61P25/02 101A61P25/00A61P1/02A61P1/00A61P1/16A61P15/08A61P7/04A61P21/04A23L1/30 Z AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,NL,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LV,LY,MA,MD,MG,MK,MN,MW,MX,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RS,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20090226 2007530994 25 4B018 4C062 4C086 4B018MD08 4B018ME14 4C062FF44 4C086AA01 4C086AA02 4C086BA08 4C086MA01 4C086MA04 4C086NA14 4C086ZA01 4C086ZA21 4C086ZA45 4C086ZA53 4C086ZA67 4C086ZA75 4C086ZA81 4C086ZA94 4C086ZA96 4C086ZB22 本発明は、ユートロフィン産生の増強持続剤とこれを用いる加工食品に関し、更に詳しくは、筋疲労、筋老化、廃用性筋萎縮、特に筋ジストロフィー等の筋疾患、及びユートロフィンの産生低下に起因する諸疾患の治療、重症化抑制、進行抑制、改善等に優れて有効な薬剤、保健機能食品等に関するものである。 筋ジストロフィー(以下「筋ジス」と略記する)は、進行性の筋萎縮や筋力低下を生じるヒト遺伝性疾患であり、その遺伝形式、症状等により多様な病型に分類される。特に、デュシェンヌ型筋ジスは、最も頻度が高く重篤であり、罹患率は約1/6,000(男性人口)、発生率は約1/3,000(出生男児数)である。その病因は、X染色体上にあるジストロフィン蛋白遺伝子の変異下での発現低下がもたらすジストロフィンの欠損にある。尚、ジストロフィンは主に筋細胞膜直下に局在し、筋細胞膜の安定化に関与する重要なタンパク質である。そのため、ジストロフィン欠損のデュシェンヌ型筋ジス患者では、細胞膜の破壊に伴う筋細胞の崩壊と再生の反復下で、終わりには筋萎縮・筋力低下・筋脱力に陥り、これ等が呼吸筋及び心筋に及ぶと、それぞれ呼吸不全及び心不全が生じ、それが原因で20〜25歳頃に死亡する例が多く見られる。ベッカー型筋ジスは、デュシェンヌ型と同じジストロフィン遺伝子の変異によるが、発生率はデュシェンヌ型の約1/10であり、遺伝子が異常ながらもジストロフィンが産生されるので、デュシェンヌ型に比べ、発症年齢が遅く比較的進行も穏やかである。その他の筋ジスとしては、先天性筋ジス、肢帯型筋ジス、顔面肩甲上腕型筋ジス等が知られている。 筋ジスについて、その発症機序は未だ十分には解明されておらず、治療方法も未だ確立されていない。現状の筋ジス治療は、リハビリテーション、薬物療法、人工呼吸等を組合せて併用する対症療法に依存し、開発途上技術としては、遺伝子治療、細胞移植治療、心筋再生治療等、多様な方法が試みられている。 遺伝子治療としては、ウイルスベクターを用いてジストロフィン遺伝子を導入する方法やアンチセンスDNAを用いる方法等につき、臨床研究が進められている。 薬物治療としては、唯一使用されている副腎皮質ホルモン(合成プレドニゾロン)は、投与初期に進行抑制の効果はあるものの持続性がないとされており、また副作用も懸念されている。その他の筋ジス治療薬として、ポラプレジンク(特許文献1)、グリチルリチン(特許文献2)、インスリン様成長因子−1(特許文献3)、インターロイキン−6、アグリン、ヘレギュリン、L−アルギニン等、多種多様に提案されてはいるが、著効をもたらす確固たる治療薬は未だ特定されていない。 更に、本発明者が着目のユートロフィン(utrophin)に関し、その研究は1990年代から世界各地で盛んになり、このヒト遺伝子は既にクローニングされ解析されている(NCBI Accession AL513475)。尚、ユートロフィンは、常染色体にコードされている分子量395kDaの細胞骨格タンパク質であり、X染色体にコードされている分子量427kDAのジストロフィンとの間で約80%の相同性を有し、機能的にジストロフィンの代替えとなることが知られ、幼若筋細胞では細胞膜に、また、成熟後は筋・神経接合部位及び筋・腱接合部に局在する。その機能は細胞膜の(a)安定化、(b)ホメオスタシス、(c)シグナリング等である。ユートロフィンは、ジストロフィンと同様、細胞膜のdystrophin−associated protein complex(DPC)と結合し、細胞内のアクチンフィラメントと細胞外のマトリックスとの間を繋いでいる。そして、種々の輸送蛋白(transporters)はDPCと結合してそれらの機能を発揮する。そのため、ジストロフィン及びユートロフィンの発現低下は、DPCの構造変化をもたらし、DPCに輸送蛋白が結合できなくなり、輸送蛋白の機能を低下させる。 上述の通り、ユートロフィンは、ジストロフィンの代替として細胞内で機能することが知られているが、ユートロフィンは幼若な筋細胞や再生筋肉で一過性に発現し、その発現は筋細胞が成熟するにつれ、次第に消失してしまう。かかるユートロフィンの発現を増強する物質としては、前述した筋ジス治療薬のうち、例えば、インターロイキン−6、アグリン、ヘレギュリン、L−アルギニン等が報告されているが、本発明に係るエピガロカテキンガレート(以下「EGCG」と略記する)とそのアナログについては未だ知られていない。 また、ユートロフィンは多くの器官や組織で機能しており、加齢と共に起こるユートロフィンの産生ないしは発現の低下をカバーすれば、抗老化作用、長寿が期待できる(非特許文献1〜4)。更に、ユートロフィンのかかる産生低下ないしは発現低下によって、例えば、次の疾患が引き起こされることが知られている:神経が原因の筋無力症候群、関節の運動機能の低下、心筋や平滑筋の収縮障害、末梢神経のシュワン細胞における増殖障害、血管内皮細胞障害による動脈硬化、腎臓の糸球体タコ足細胞障害による糸球体硬化症、尿細管上皮細胞障害による腎臓不全、網膜神経膠細胞障害による網膜神経膠症、脳軟膜の不全、脈絡叢の上衣細胞の脳脊髄液の分泌障害、唾液腺の唾液分泌障害による口腔乾燥症、小腸の上皮細胞による吸収障害、肝臓の肝細胞による吸収障害、精巣の不全、血小板の血液凝固障害等々。 ところで、この発明に係るEGCGとそのアナログは、いわゆるカテキン(別称フラバノール)類として総称され、分類上、植物色素ポリフェノールの範疇に入るフラボノイド系に属し、ココア、紅茶、緑茶等に多く含まれている。その生理作用としては、抗酸化作用、抗ガン作用、血圧上昇抑制作用、血糖上昇抑制作用、抗アレルギー性作用、抗菌作用、抗ウイルス作用、抗肥満作用等が知られている(非特許文献5)。更に具体的には、例えば、緑茶抽出物の抗酸化作用による、筋ジスモデルmdxマウス筋細胞の壊死の減少あるいは遅延に関する報告(非特許文献6);ポリフェノールによる、ギプス固定下の廃用性筋萎縮の抑制作用の利用(特許文献4)等が知られている。 また、EGCGについては、様々な生理作用が報告されている。例えば、(a)食道癌、肝癌、大腸癌、肺癌、乳癌、卵巣癌、前立腺癌、白血病、骨原性肉腫(osteogenic sarcoma)、(b)肝硬変、(c)糖尿病、(d)筋萎縮性側索硬化症(ALS)、(e)アルツハイマー病、(f)パーキンソン病、(g)肥満、(h)心臓肥大、(i)動脈硬化症及び血管形成術後の再狭窄、(j)肺気腫、(k)喘息、(l)歯垢、(m)尿結石、(n)網膜色素上皮の酸化的損傷、(o)皮膚の紫外線による損傷、(p)ウイルス(influenza、HIV)、(q)細菌(Escherichia coli O157:H7、Salmonella Typhimurium DT104、Listeria monocytogenes、Stahylococcus aureus (MSSA, MRSA)、Bacillus cereus)、(r)真菌(Candida glabrata、Candida guilliemondii、Candida parapsilosis、Candida krusei)等に対する抑制又は予防効果、或いは、骨発生や記憶学習の促進効果等(非特許文献5及び7)。 しかしながら、エピガロカテキンガレート(EGCG)とそのアナログあるいはカテキン類がユートロフィン遺伝子の発現(ユートロフィン産生)の持続・増強することについて、報告は見当たらず、未だ知られていない。特開2001−72588号公報。特開平6−172187号公報。特開平7−316071号公報。特開平2001−89387号公報。Cellular and Molecular Life Sciences、2006 May 15;[Epub ahead of print]。British Journal of Haematology、134:83−91、2006年。Acta Myologica、24:209−215、2005年。The journal of gene medicine、7:237−248、2005年。T.Yamamotoら編、「Chemistry and Applications of Green Tea」、(米国)、CRC Press LLC、1997、p.13−35及びp.145−149。American Journal of Clinical Nutrition、75:749−753、2002年。Life Sciences、78:2073−2080、2006年。 進行性筋ジスは、1972年の「難病対策要綱」で指定の難病であるにも拘わらず、上述の通り、従来の筋ジス治療法は未だ対症療法に依存しており、根本的薬物療法あるいは確固たる治療薬の確立は急務の課題である。特に、筋ジスの治療、進行抑制、重症化抑制、改善等に著効を奏する薬剤の出現が待望されていた。また、筋ジス治療は長期にわたるので、反復投与に耐える副作用が軽微あるいは皆無の治療薬が望まれていた。 この発明の目的は、上記した筋ジス治療の窮状打開のための強力かつ優れて有効な手段を世界に先駆けて提供することにある。併せて、筋ジストロフィーのみならず、今日の高齢化社会で頻発の筋老化、廃用性筋萎縮、筋疲労等の筋疾患の治療、重症化抑制、進行抑制、改善等に優れて有効な薬剤、保健機能食品等を提供することにある。 先ず、この発明への理解を深めるため、発明完成に至る過程を説明する。本発明者は、10余年にわたる研究と試行錯誤の結果、次の知見(a)〜(c)を得た:(a)筋ジス患者のジストロフィン欠損筋細胞は、健常者の筋細胞に比べ、核DNAの酸化及び細胞質リポフスチン顆粒の沈着が顕著であるため、「筋ジスでは筋細胞の酸化ストレスが増大」していること(Nakae et al.、Jornal of Molecular Histology、35、489−499、2004;Nakae et al.、Histochemistry and Cell Biology、124、335−345、2005);(b)上記知見に基づき抗酸化物質が筋ジスの進行を抑制する可能性があること;及び(c)前述した「筋細胞の幼若から成熟に伴うユートロフィンの消長」に着目し、ユートロフィン遺伝子の発現(ユートロフィンの産生)を増強あるいは持続させれば、筋ジスの進行や重症化を抑制できる可能性があること。 次いで、本発明者は、前記課題を解決すべく、上記知見(a)〜(c)から帰納される「筋細胞での酸化ストレス抑制」と「ユートロフィン産生の増強・持続」の両者を筋ジス治療薬スクリーニングのマーカーとして用い、鋭意研究を重ねた結果、「エピガロカテキンガレートが、筋細胞においてユートロフィンの産生を増強・持続させ、筋ジス患部の筋張力を増加・改善させる」という驚くべき発見を成し遂げた。本発明は、上記発見に基づき完成されたものである。 本発明によれば、以下(1)〜(6)に記載の薬剤及び加工食品がそれぞれ提供される。(1)エピガロカテキンガレートとそのアナログから選ばれる少なくとも1種の化合物を薬効を奏する量、有効成分として含有するユートロフィン産生の増強持続剤。(2)上記のエピガロカテキンガレートとそのアナログが、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、ガロカテキン、カテキンガレート及びガロカテキンガレートである上記(1)に記載のユートロフィン産生の増強持続剤。 (3)薬効を奏する前記(1)記載の化合物の経口投与量(mg/kg体重/日)が約1〜約100である前記(1)又は(2)に記載のユートフィン産生の増強持続剤。(4)薬効を奏する上記化合物の非経口投与量(mg/kg体重/日)が約0.5〜約30である前記(1)〜(3)のいずれかに記載のユートロフィン産生の増強持続剤。(5)下記の適用疾患群から選ばれる少なくとも1疾患の治療、進行抑制、重症化抑制又は改善用の薬剤である前記(1)〜(4)のいずれかに記載のユートロフィン産生の増強持続剤。 適用疾患群:筋ジストロフィー、強直性脊椎症候群、先天性ミオパチー、筋緊張性症候群、遠位型ミオパチー、代謝性筋疾患、炎症性筋疾患、内分泌性筋疾患、神経原性筋疾患、筋疲労・筋老化、骨折・骨折治療での固定ギプス・寝たきり等による廃用性筋萎縮等の筋疾患;更に、神経が原因の筋無力症候群、関節の運動機能の低下、心筋や平滑筋の収縮障害、末梢神経のシュワン細胞における増殖障害、血管内皮細胞障害による動脈硬化、腎臓の糸球体タコ足細胞障害による糸球体硬化症、尿細管上皮細胞障害による腎臓不全、網膜神経膠細胞障害による網膜神経膠症、脳軟膜の不全、脈絡叢の上衣細胞の脳脊髄液の分泌障害、唾液腺の唾液分泌障害による口腔乾燥症、小腸の上皮細胞による吸収障害、肝臓の肝細胞による吸収障害、精巣の不全、血小板の血液凝固障害等、ユートロフィンの産生低下に起因する諸疾患。 尚、本発明に係る上記薬剤は、薬事法(昭和35年8月10日法律145号)に規定の医療用医薬品、一般用医薬品及び医薬部外品をそれぞれ意味する。(6)前記(1)〜(5)のいずれかに記載のユートロフィン産生の増強持続剤を、該増強持続効果を奏する量、添加混合することにより得られる加工食品。 尚、この発明に係る上記加工食品とは、天然食品又は天然素材の加工食品に、ユートロフィン産生の増強持続剤を添加混合することにより調製ないしは製造される全ての食品を意味する。例えば、該増強維持剤を含有させた食品、該増強維持剤が補足・補充された食品、該増強維持剤の含有量を増加させた食品、ユートロフィン産生の増強持続剤を、該増強持続効果を奏する量、添加混合することにより調製あるいは製造される特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品等々を意味する。 この発明に係るユートロフィン産生・発現の増強持続剤がもたらす効果につき、以下、列記する:(1)適用疾患が広い:前述した通り、筋ジストロフィーだけではなく、筋老化、筋疲労、骨折やその治療での固定ギプス・寝たきり等による廃用性筋萎縮、炎症性筋疾患等の筋疾患、更には、神経が原因の筋無力症候群、関節の運動機能の低下、心筋や平滑筋の収縮障害等のユートロフィンの産生低下に起因する諸疾患の治療、進行抑制、重症化抑制、改善等のために著効を発揮し、適用疾患が極めて広い。(2)製剤・製品の種類が多種多様である:医療用医薬品だけではなく、一般用医薬品(OTC薬)、医薬部外品、特定保健用食品や栄養機能食品等の保健機能食品、常用の加工食品等々の多種多様な種類の製剤あるいは製品による提供可能である。(3)投与の形態とルートが多種多様である:静脈内、筋肉内、皮下等による非経口投与、錠剤、散剤、ペースト、トロップ、ジュース等による経口投与又は摂食、軟膏、シップ、塗布等による経皮投与等が可能である。(4)高齢化社会への福音となる:筋老化、筋疲労、骨折やその治療での固定ギプス・寝たきり等による廃用性筋萎縮等にも著効を発揮する。特に、今日の高齢化社会では必発・頻発の健常な高齢者の運動不足、閑居での閉じこもり等による廃用性筋萎縮ないしは非活動性萎縮等の抑制・防止、筋疲労の回復、筋老化の抑制・予防等において有効である。 従って、前記(1)の広い適用疾患と併せて、本発明は老若男女を問わず、全ての人類の保健に遍く寄与し、全世界に福音をもらす。(5)安全かつ有効である:本発明に係るエピガロカテキンガレートとそのアナログは、植物由来であり、既に食品やサプリメントとして摂食され続けてきた実績がある。更に、例えば、前記EGCGは、常用の茶葉の主成分でそれより抽出可能な白色結晶の、分子量が約500の低分子化合物であり、体内に非経口投与しても抗体産生を誘導しない非免疫原性(非高原性)である。従って、筋疾患の治療、筋老化防止のための高齢者等での長期間にわたる反復投与や反復摂取が可能であり、しかも、安全性が極めて高い。(6)本発明に係る製品は高品質で低廉である:例えば、前述のEGCGに関し、高純度(純度99.5%以上)で低廉な(例えば、約100円/g)製品が既に市販されているので、高品質で低廉な薬剤・加工食品の提供が可能である。(7)製剤・製品が普及され易い:上述した通り、適用疾患、製剤や製品の種類・形態・投与ルート等が多種多様であるので、日常的に何時でも、何処でも、誰でも容易に摂取あるいは被投与可能なかたちでの提供様式を選択できるので、安全かつ有効な常備常用の錠剤、塗布剤、貼付剤等として普及され易い。即ち、注射薬や散剤等の医療用医薬品だけではなく、例えば、衆知の「わかもと」錠剤(一般用医薬品)、「エビオス」錠剤(医薬部外品)、軟膏(一般用医薬品)等の様な形で提供可能であるので、これ等の普及は容易である。 <エピガロカテキンガレートとそのアナログ> 具体的には、エピカテキン(EC)、エピガロカテキン(EGC)、エピカテキンガレート(ECG)、エピガロカテキンガレート(EGCG)、カテキン(C)、ガロカテキン(GC)、カテキンガレート(CG)、ガロカテキンガレー(GCG)等を挙げることができる。好ましくは、EGCGを用いる。尚、これ等の化合物は、1種単独で、又は2種以上を適宜組合せて使用することができる。 市販のエピガロカテキンガレート(EGCG)とそのアナログは、例えば、Sigma−Ardrich社(米国)、ナカライテクス社(日本)等から入手可能であり、そのまま使用できる。天然のものは天然原料から抽出可能である。例えば、(−)−エピカテキン、(−)−エピガロカテキンガレート、(−)−エピガロカテキン、(−)−エピガロカテキンガレート等は、これ等を多量に含有する天然原料、例えば、茶葉から公知の方法により抽出・分離・精製し、使用できる。<適用疾患> 本発明に係るユートロフィン産生の増強持続剤が著効を奏する疾患は、後述される実施例に基づき、ジストロフィン欠損による筋ジストロフィー(Xp21ミオパチー)、即ち、デュシェンヌ型及びベッカー型の筋ジストロフィーである。また、上記以外のXp21ミオパチーであるFemale Duchenne muscular dystrophy、McLeod症候群やFamilial X−linked myalgia and cramps、更に、その他の進行性筋ジストロフィー(Emery−Dreifuss型、先天性、顔面肩甲上腕型、肢帯型筋ジストロフィー、常染色体性劣性遠位型等)等にも適用できる。 更に、EGCGは、健常骨格筋においても、筋ジス患者の筋細胞にもたらすと同様の効果を奏するので、その他の適用筋疾患として、例えば、強直性脊椎症候群、先天性ミオパチー、筋緊張性症候群、遠位型ミオパチー、代謝性筋疾患、炎症性筋疾患、内分泌性筋疾患、神経原性筋疾患、筋疲労・筋老化、骨折・骨折治療での固定ギプス・寝たきり等による廃用性筋萎縮等々にも適用できる。 また更に、本発明に係るユートロフィン産生の増強持続剤は、上述した筋疾患だけでなく、ユートロフィンの産生低下や発現低下に起因する次の諸疾患にも適用可能である:例えば、神経が原因の筋無力症候群、関節の運動機能の低下、心筋や平滑筋の収縮障害、末梢神経のシュワン細胞における増殖障害、血管内皮細胞障害による動脈硬化、腎臓の糸球体タコ足細胞障害による糸球体硬化症、尿細管上皮細胞障害による腎臓不全、網膜神経膠細胞障害による網膜神経膠症、脳軟膜の不全、脈絡叢の上衣細胞の脳脊髄液の分泌障害、唾液腺の唾液分泌障害による口腔乾燥症、小腸の上皮細胞による吸収障害、肝臓の肝細胞による吸収障害、精巣の不全、血小板の血液凝固障害等々。 また、この発明に係る薬剤又は加工食品の作用効果がユートロフィン産生の増強あるいは持続(ジストロフィン欠損の代替え補充)にあることを考慮し、その必要性があるなら、獣医分野の家畜、ペット動物、実験動物等、例えば、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ウマ、ウシ、サル等における上記ヒト筋疾患に相当あるいは類似の病気に対しても使用可能である。 尚、本発明に係るユートロフィン産生の増強持続剤ないしはその有効成分であるEGCGとそのアナログの効能としては、上述した疾患の治療、進行抑制、重症化抑制、改善等であり、更に、健常者や高齢者等の筋疲労の回復、筋老化の抑制や予防、運動不足、閑居による閉じこもり、寝たきり等による廃用性筋萎縮あるいは非活動性萎縮等の進行抑制や改善等々を挙げることができる。<本発明に係る薬剤の種類> 本発明に係る上記薬剤は、薬事法(昭和35年8月10日法律145号)に規定の医療用医薬品、一般用医薬品及び医薬部外品としてそれぞれ提供可能である。<上記薬剤の投与ルート> この発明に係るユートロフィン産生の増強持続剤は、経口、経皮、皮内、皮下、静脈内、筋肉内等、公知のルートによる投与が可能であり、安全かつ効果的に投与できれば、これ等に限定されない。<前記薬剤の形態> 本発明のユートロフィン産生の増強持続剤の製剤化あるいは形態に関し、EGCGとそのアナログを有効成分として、結晶をそのまま用いてもよいが、通常、充填剤、結合材、増量剤、崩壊剤、分散剤、賦形剤等の公知の医薬品担体を加え、常法に従い製剤化される。 製剤の物性としては、液状、ペースト状、固形、噴霧(ガス)等を採用できる。経口剤の場合では、錠剤、カプセル剤、顆粒剤、散剤、液剤、丸剤、トローチ剤、チュアブル剤等の固形製剤、シロップ剤、エリキシル剤、乳剤、懸濁剤等の液剤、チューブ入りペースト剤の形態に製剤化することができる。非経口剤の場合では、注射剤、滴下剤、点滴剤、外用剤、塗布剤、座剤等の形態に製剤化することができる。<ユートロフィン産生の増強持続剤としてのEGCGとそのアナログの投与量> 本発明に係るユートロフィン産生の増強持続剤の有効成分としてのEGCGとそのアナログの投与量は、被投与者の年齢、体重、投与方法、対象疾患、症状等により異なるが、経口投与の場合、通常、小児あるいは成人の投与量(mg/kg体重/日)は、約1〜約100、好ましくは約5〜約50、更に好ましくは約7〜約20である。 また、非経口投与の場合、通常、小児あるいは成人の投与量(mg/kg体重/日)は、約0.5〜約30、好ましくは約1〜約20、更に好ましくは約2〜約10である。尚、上記の各投与量は一日一回、又は数回に分けて用いることができる。<加工食品の分野> 本発明に係るユートロフィン産生の増強持続剤は、前記した提要疾患の治療、進行抑制、重症化抑制、改善等の効果を奏する加工食品、例えば、日常の食品、特定保健用食品、機能性食品、栄養補助食品、健康食品等として提供することができる。<加工食品の種類> 本発明のユートロフィン発現の持続・増強物質を含有する食品は、常用食品にカテキン類を添加、混合、混在、共存等により含有させることにより製造することができる。カテキン類を含有させる常用食品としては、筋疾患の治療効果を奏する限り特に限定されないが、例えば、米飯類、麺類、パン、豆腐等の豆製品、ハム・ソーセージ等の加工肉製品、カマボコ・チクワ等の水産練り製品、クッキー・チョコレート・キャンディー等の菓子類、ジュース・お茶・コーヒー等の飲料、乳製品、調味料等を挙げることができる。<加工食品の形態> 本発明のユートロフィン発現の持続・増強物質を含有する食品は、カテキン類をそのまま、又は、賦形剤、増量剤、結合剤、増粘剤、乳化剤、着色料、香料、食品添加物、調味料等と混合し、サプリメントとして摂取することもできる。その形態としては、粉末剤、顆粒剤、ペレット剤、錠剤、カプセル剤、ドリンク剤、ペースト剤等が挙げられる。<加工食品による摂取量> 本発明に係る食品により摂取するEGCGとそのアナログの量は、前述した薬剤での経口投与量と同じであり、摂取者の年齢、体重、疾患、症状によって異なるが、通常、小児あるいは成人の摂取量(mg/kg体重/日)は、約1〜約100、好ましくは約5〜約50、更に好ましくは約7〜約20である。上記の摂取量は、1日1回、又は数回に分けて摂取することができる。 以下、実施例を上げ、本発明の構成と作用効果を具体的に説明するが、この発明の範囲は、これ等の実施例だけに限定されるものではない。 エピガロカテキンガレート(EGCG)の投与が、筋細胞におけるユートロフィンの発現・産生の増強・持続に及ぼす影響につき、以下の通り調べた。<マウスへのEGCGの投与> 健常マウス(C57BL/10)はJapan SLC(Hamamatsu,Japan)、筋ジストロフィーマウス(mdx)はCentral Institute for Experimental Animals(Kawasaki,Japan)より購入した。なお、mdxマウスはDuchenne型筋ジストロフィーの患者と同様にdystrophinを欠損する。 10週齢でそれぞれの雌雄を交配させ、新生マウスを得た。同腹より生まれた新生マウスをそれぞれ実験群と対照群に分けた。対照群には生理食塩水(saline;Otuka Pharmaceutical,Tokushima,Japan)を、実験群には生理食塩水に0.4mg/mlの濃度で溶かした(−)−epigallocatechin gallate(EGCG;Sigma−Aldrich,St.Louis,Missouri,USA)を生後直後又は1日後より8週齢まで、週4回(但し、1回/1日)mdxマウスと健常マウスの背中に皮下注射した。各回のEGCG投与量は、5mg/kg体重であった。本実施例で使用したマウス数と8週齢におけるマウスの平均体重を表1に示す。なお、表中の動物群は下記の通りである。<動物群> C57+Saline(対照群):健常マウス,生理食塩水投与;C57+EGCG(実験群):健常マウス,EGCG投与;Mdx+Saline(対照群):mdxマウス,生理食塩水投与;及びMdx+EGCG(実験群):mdxマウス,EGCG投与。表1から明らかなように、健常マウス及びmdxマウス共に、EGCG皮下投与による体重への影響はなかった。<マウス組織の摘出> 上記動物群のマウスを、8週齢で頚椎脱臼にて屠殺し、横隔膜、舌、下腿三頭筋、肝臓及び腎臓を素早く摘出した。なお、筋張力の測定には、新鮮下腿三頭筋を使用した。免疫組織化学的及び組織学的研究には、新鮮組織を直ちにOCT compound(Sakura Finetechnical,Tokyo,Japan)に包埋し、液体窒素で凍結し、−80℃で保存したものを使用した。ウエスタンブロッティングとリアルタイムPCRには、新鮮組織を直ちに液体窒素で凍結し、?80℃で一時保存し、できるだけ早く実験に使用した。(1)マウス臓器の組織学的観察 動物群のC57+saline群は5匹、C57+EGCG群は7匹、mdx+saline群は4匹、mdx+EGCG群は4匹から、上記方法で臓器を摘出し、凍結保存した肝臓及び腎臓について、組織学的観察を行った。まず、肝臓及び腎臓の凍結切片(7μm)をクリオスタット(Bright,Huntingdon,UK)にて作製した。次に、未固定組織切片にヘマトキシリン−エオシン染色を施し、組織像を観察した。その結果を図1に示す。EGCGを皮下投与した8週齢mdxマウスの肝臓(A)と腎臓(B)の各組織像を示す。EGCGを生後より8週間投与してもmdxマウス及び健常マウスの肝臓と腎臓の組織像には、その影響が認められなかった。(2)血清クレアチンキナーゼ活性におよぼすEGCG投与の影響 筋細胞膜の損傷により透過性が増すと、筋細胞内のクレアチンキナーゼは細胞より漏出し、その結果血清中のクレアチンキナーゼ活性が増大する。このことから、血清クレアチンキナーゼ活性は、筋肉損傷の指標となっている為、EGCG投与が血清クレアチンキナーゼ活性に及ぼす影響について、以下のように調べた。 各動物群の8週齢マウスをクロロホルムで麻酔しながら開胸し、心臓より血液を採取した。血液は室温で約1時間放置後、3,000rpmで10分間遠心した。得られた血清(上清)中のクレチンキナーゼ活性の測定は、Mitsubishikagaku Biochemical Laboratories(Tokyo,Japan)に依頼し、37℃においてクレアチンリン酸を基質として測定された。 その結果を図2に示す。図2は、健常マウスとmdxマウスの血清クレアチンキナーゼ活性に及ぼすEGCGを投与の影響を示すグラフ図であり、グラフ中のクレアチンキナーゼ活性の値は、C57+saline群が4匹、C57+EGCG群が6匹、mdx+saline群が7匹、mdx+EGCG群が9匹の平均値で表した。 図2から分かるように、EGCGを投与していない対照群では、mdxマウスは健常マウスの21倍のクレアチンキナーゼ活性を有する。ところが、EGCGを投与するとその活性は、4分の1[=(23,315−1,125)/(6,670−1,125)]に激減した。したがって、EGCG投与により、mdxマウスの筋損傷は4分の1に抑えられた。(3)ヒラメ筋の張力におよぼすEGCG投与の影響 上記方法でマウスの下腿三頭筋を摘出し、直ちに150mM NaCl,4mM KCl,1.8mM CaCl2,1mM MgCl2,5.6mM D(+)−glucoseを含む5mM HEPES−HCl buffer,pH7.4中でヒラメ筋を単離した。その間、本緩衝液は空気で飽和させた。単離したヒラメ筋の張力は、magnus tube(Kishimoto Medical Instruments,Kyoto,Japan)内の37℃に保温した上記緩衝液中で、Gonzalezらの方法(Am J Physiol Heart Circ Physiol 280: 2876−2881,2001)を一部改変して測定した。ヒラメ筋を平行に並ぶ2本の電極の間に吊るし、bath drive amplifier(SEG−3101;Nihon Kohden,Tokyo,Japan)に接続したelectronic stimulator(SEN−3201;NihonKohden)によって電気刺激した。この際、筋の長さを調節することによって、等尺性収縮の条件下で単一のパルスあるいは連続パルスが最大の単収縮あるいは強縮を引き起こすようにした。矩形パルス(0.5 sec main interval,0.5 msec delay,0.5 sec interval,0.5 msec duration,400 voltage)により2分間単収縮させた後、main intervalを50msecに変えて強縮を引き起こさせた。データはパーソナルコンピューター(Macintosh Server G3;Apple Japan,Tokyo)、ソフトウェア(MacLab/s v3.5;Bio Research Centre,Nagoya,Japan)、transducer UM−203及びdetector AP−5(Kishimoto Medical Instruments)により取り込まれた。 強縮の時間経過を測定後、ヒラメ筋の長さを測定した。また、ヒラメ筋に付着するPSSを拭き取り、腱と糸を除去し、筋の重量を測定した。ヒラメ筋の強縮強度は、筋の単位面積当たりの最大張力Specific tetanic force(Newton/cm2)として次式(a)と(b)により算出した。(a)Specific tetanic force(Newton/cm2)=最大張力(N)/CSA(cm2)(b)Cross sectional area(CSA,cm2)=Muscle weight(g)/[length(cm)×1.056(g/cm3)] その結果を図3及び表2に示す。図3はヒラメ筋の強縮パターンに及ぼすEGCG投与の影響を示すグラフ図であり、表2は、ヒラメ筋の強縮の種々のパラメーターに及ぼすEGCG投与の影響を示している。EGCG投与によって、mdxマウスヒラメ筋の平均最高強縮強度は1.6倍高い値(P=0.2)を示したが、これは有意差ではなかった。強縮開始時から最高強縮の半分になる平均時間は有意差で1.9倍長くなり(P=0.007)、強縮が健常筋と同程度(P=0.5)に持続していた(表2)。しかし、正常ヒラメ筋(遅筋)の張力に対してはEGCGの顕著な効果は見られなかったが、速筋での効果が期待された。4)免疫組織化学によるユートロフィンの検出 ジストロフィンと80%の相同性を有するホモログ、ユートロフィンはジストロフィンの代替えとなることが知られており、そのため、筋ジストロフィーの治療法の薬物療法として、ユートロフィンの発現増大を誘導する薬物の開発が世界的に競合している。そこで、本発明のEGCGが果たしてユートロフィン蛋白とmRNAの発現増大を誘導しているのかをさらに検討した。 Mdxマウスの横隔膜はDuchenne型筋ジストロフィー筋と同様、筋損傷がmdx骨格筋の中で最も激しい横隔膜と筋損傷が軽微である舌を用いて、ユートロフィン蛋白の筋切片における発現局在を免疫蛍光組織化学法により調べた。臓器の凍結切片と同様に、厚さ7μmの筋切片を作製した。凍結筋切片を4℃のアセトンとメタノールの混合液(1:1)中にて5分間固定した。一次抗体としてウサギ抗ユートロフィン抗体(1:200)(H−300;Santa Cruz Biotechnology,Santa Cruz,California,USA)と、二次抗体としてAlexa Fluor 568−ヤギ抗ウサギIgG抗体(1:1000)(Molecular Probes,Eugene,Oregon,USA)と反応させ、ユートロフィン量の定性的検出と局在観察を共焦点レーザー顕微鏡(Leica TCS NT;Heidelberg,Germany)による568nmの蛍光像の測定により行った。 その結果を図4に示す。図4は横隔膜切片の染色像である。図中、A、D及びGがC57+saline群のマウスの横隔膜切片、B、E及びHがmdx+saline群のマウスの横隔膜切片、C、F及びIがmdx+EGCG群のマウスの各横隔膜切片の染色像であり、A〜Cがヘマトキシリン−エオシン染色、D〜Iがユートロフィンの蛍光免疫染色である。また、図中*はユートロフィン強染性の幼若筋細胞、△はユートロフィン弱染性の成熟筋細胞を示す。 Mdx横隔膜では健常筋に比べ、筋細胞膜においてユートロフィンの発現が増大していた(図4)。特に、mdx筋細胞の変性の後の再生中の小さな幼若な筋細胞(*)でそれが顕著であった。しかし、成熟した大きい筋細胞(△)では、ユートロフィンが消失していた。ところが、mdxマウスに8週間EGCGを投与すると筋細胞のユートロフィンの発現が増強され、しかも成熟筋細胞においてもユートロフィンの消失が抑えられ、発現が持続した。 また、舌切片の染色像を図5に示す。図中、A及びCがmdx+saline群のマウスの舌切片、B及びDがmdx+EGCG群のマウスの舌切片の染色像であり、A及びBがヘマトキシリン−エオシン染色、C及びDがユートロフィンの蛍光免疫染色である。 8週齢のmdxマウスの舌筋においては、中心核を有する再生筋細胞が極めて少なかったことから、筋変性が殆ど起こっていないと考えられる。このような変性前のmdx筋細胞においても、筋細胞膜のユートロフィンの発現増強がEGCGの投与によって誘導された(図5)。(5)ウエスタンブロッティングによるユートロフィン蛋白の定量 ウエスタンブロッティングのためにC57+saline群は3匹、C57+EGCG群は3匹、mdx+saline群は4匹、mdx+EGCG群は4匹から上述した方法で横隔膜を摘出し、直ちに液体窒素にて凍結した。凍結横隔膜は液体窒素中で粉砕し、PRO−PREP(iNtRON Biotechnology,Korea)を添加してホモジナイズ(Polytron RT1300D;Kinematica AG,Littau,Switzerland)した後、4℃、13,000rpmで5分間遠心した。その上清をWestern blottingの試料液とした。ウシ血清アルブミンを標準蛋白として、Lowry法(Dc Protein Assay Kit;BIO−RAD Laboratories,Hercules,California,USA)により、各試料液の蛋白濃度を3回繰り返し測定し、その平均値を求めた。 蛋白試料の還元条件下でのSDS電気泳動及びPVDFメンブレン(Invitrogen)への転写は、主としてNuPAGE電気泳動操作法(Invitrogen)に従って行った。3−8%ポリアクリルアミドゲル(NuPAGE Tris−Acetate Gel;Invitrogen,Carlsbad,California,USA)に1wellにつき18μgの蛋白をSDS電気泳動後、分離蛋白をPVDFメンブレン(Invitrogen)に転写した。そのPVDFメンブレンは5%スキムミルク(ECL Advance Western Blotting Detection Kit,Amersham Biosciences,Buckinghamshire,UK)によるブロッキングの後、一次抗体としてウサギ抗ユートロフィン抗体(H−300,1:500;Santa Cruz Biotechnology)、二次抗体としてHRP−結合抗ウサギIgG(ECL Plus Western Blotting Reagent Pack,Amersham Biosciences)とそれぞれ室温で1時間反応させた。化学発光基質Lumigen TMA−6(ECL Advance Western Blotting Detection Kit;Amersham Biosciences)を用いて免疫反応を検出した。ゲルにおける泳動パターンはSimplyBlue SafeStain(Invitrogen)による蛋白染色にて検出した。各バンドの蛋白定量と解析はパーソナルコンピューターとソフトウェア、ImageJ v1.34s(NIH,Bethesda,Maryland,USA)及びKaleidaGraph v3.6.3(Hulinks,Tokyo,Japan)を用いて行った。 その結果を図6〜8にそれぞれ示す。図6はマウス横隔膜全蛋白の泳動パターンである。各laneの泳動パターンの相対蛋白量は、C57+saline群は114.8、C57+EGCG群は114.6、mdx+saline群は115.2、mdx+EGCG群は114.5と測定され、同量の蛋白が泳動されたことを裏付けた。分子量約410kDaのバンドが抗ユートロフィン抗体で認識され、この蛋白はユートロフィンだと推定された(図7)。ユートロフィン蛋白の発現は、EGCG投与により健常マウスでは14%、mdxマウスでは17%、共に有意に増大した(両有意水準はp=0.008;図8)。以上の結果は、免疫組織化学法により検出されたユートロフィン蛋白の筋細胞膜近傍でのEGCG投与による発現増大と一致した。(6)リアルタイムRT−PCRによるユートロフィンmRNAの定量 リアルタイムRT−PCRのためにC57+saline群は3匹、C57+EGCG群は3匹、mdx+saline群は4匹、mdx+EGCG群は4匹から上述した方法で横隔膜を摘出し、直ちに液体窒素にて凍結した。凍結横隔膜は液体窒素中で粉砕後、RNeasy Fibrous Tissue Mini Kit (Qiagen,Tokyo,Japan)にてホモジナイズ(Polytron RT1300D;Kinematica AG)し、RNAを抽出し、−80℃で保存した。 抽出RNAは、random hexamersを用いて、42℃で15分間、99℃で5分間、5℃で5分間処理して逆転写し、cDNAを合成した(GeneAmp RNA PCR Kit;Applied Biosysts,Foster City, California,USA)。合成cDNA、ユートロフィン遺伝子のためのTaqManアッセイ用プライマー(Mm00810176_s1;Applied Biosystems)、内在性コントロールのためのribosomal protein S18遺伝子プライマー(Mm00507222_s1;Applied Biosystems)及びTaqMan Universal PCR Master Mix(Applied Biosystems)を用いて、リアルタイムPCRシステム(7500;Applied Biosystems)にてPCR反応増幅曲線を測定することにより、mRNA量の相対値を算出した。1検体当たり、2ないし3回測定を繰り返した。 その結果を図9に示す。横隔膜のユートロフィンmRNA量/Ribosomal protein S18 mRNA量は、mdxマウス(P=0.9)及び健常マウス(P=0.2)においてEGCG投与の影響はなかった(図9)。EGCG投与よるユートロフィン蛋白の発現増大にもかかわらず、そのmRNA量に変化が見られなかったことは、mRNAから蛋白への翻訳の過程あるいはそれ以降の過程で、EGCGによるユートロフィン蛋白の発現増大が起こっているのか、あるいはユートロフィン蛋白の分解抑制が起こっているものと推定された。(7)毒性 EGCGの毒性については、50mg/kg/dayのマウスへの腹腔内注射では毒性が認められるが、25〜12.5mg/kg/dayでは安全であることが報告されている(Toxicol Sci 2003,76:262−270)。<統計的解析> 本実施例5において、数値データは平均値±標準誤差(SEM)で示した。独立2群データとして、Studentのt検定により平均値を解析し、有意水準p<0.05により有意差を判定した。<EGCGの安全性と有効性> 以上の実施例1の(1)〜(7)記載の結果に基づき、EGCGの安全性と有効性につき、次の(1)〜(4)の通り評価した:(1)EGCGはジストロフィー骨格筋においてユートロフィン蛋白の発現を増強・持続させ、筋張力を改善することが明確になった;(2)EGCGはジストロフィー骨格筋のみならず、健常骨格筋においても同様にユートロフィンを増大させることが分かった;(3)本発明に係るEGCGの使用量では毒性なく極めて安全である;及び(4)EGCGは、筋ジストロフィーだけではなく、例えば、骨折やその治療での固定ギプス・寝たきり等による廃用性筋萎縮、炎症性筋疾患等の筋疾患、更に、筋無力症候群、関節の運動機能の低下、心筋や平滑筋の収縮障害等のユートロフィンの産生低下に起因する諸疾患等々の治療、進行抑制、重症化抑制、改善等においても著効を発揮する共に、健常者ないしは健常筋での筋疲労や筋老化等の抑制においても有効だと判断された。 (1)利用可能な産業分野は、医薬品(治療用医薬品、一般用医薬品・OTC薬、医薬部外品等)、加工食品(特定保健用食品、栄養機能食品、健康食品、保健機能食品、栄養補助食品、日常の多種多様な食品等)、動物用医薬品、動物用飼料等々の製造業・販売業において広く利用できるので、利用可能性は極めて高い。(2)更に、本発明に係る原材料(EGCG)の供給源、例えば、茶の生産業・販売業、茶葉成分の抽出・精製業や販売業等においては営業活動が高まる。換言すれば、日本及びアジア諸国が中心の茶及び茶葉産業での利用可能性は必然かつ必須である。(3)原材料であるEGCGについては、高純度(99.5%以上)の国内製品が、しかも低廉(例えば、約100円/g)で容易に入手できる。従って、利用可能な企業は多数、見込まれ、本発明の利用かつ普及は極めて容易である。EGCGを皮下投与した8週齢mdxマウスの肝臓(A)と腎臓(B)のヘマトキシリンーエオシン染色による組織像を示す(7μm切片、バーは50μm)。8週齢マウスの血清クレアチンキナーゼ活性へのEGCG投与の影響を示すグラフ図である。尚、C57+saline群は4匹、C57+EGCG群は6匹、mdx+saline群は7匹、mdx+EGCG群は9匹の各平均値を記載。ヒラメ筋の強縮パターンに及ぼすEGCG投与の影響を示す測定図である。横隔膜筋におけるEGCG投与によるユートロフィン産生の増強・持続の状態を示す染色像である。A、D及びGがC57+saline群のマウスの横隔膜切片、B、E及びHがmdx+saline群のマウスの横隔膜切片、C、F及びIがmdx+EGCG群のマウスの横隔膜切片の染色像である。A〜Cはヘマトキシリン−エオシン染色、D〜Iはユートロフィンの蛍光免疫染色(7μm切片、バーは50μm)。舌筋におけるEGCG投与によるユートロフィン産生の増強・持続の状態を示す染色像である。A及びCはmdx+saline群のマウスの舌切片、B及びDはmdx+EGCG群のマウスの舌切片の染色像である。A及びBがヘマトキシリン−エオシン染色、C及びDがユートロフィンの蛍光免疫染色(7μm切片、バーは50μm)。マウス横隔膜抽出蛋白のSDSポリアクリルアミドゲル電気泳動パターンを示す図である。ウエスタンブロッティングによるユートロフィンの検出を示す図である。EGCG投与によるマウス横隔膜ユートロフィン蛋白の産生の増強を示すグラフであり、値は平均値±SEM。リアルタイムPCRにより測定したマウス横隔膜ユートロフィンのmRNAの発現の影響を示すグラフ図であり、値は平均相対量±SEM。 エピガロカテキンガレートとそのアナログから選ばれる少なくとも1種の化合物を薬効を奏する量、有効成分として含有するユートロフィン産生の増強持続剤。 上記のエピガロカテキンガレートとそのアナログが、エピガロカテキンガレート、エピカテキン、エピガロカテキン、エピカテキンガレート、ガロカテキン、カテキンガレート及びガロカテキンガレートである請求項1記載のユートロフィン産生の増強持続剤。 薬効を奏する請求項1記載の化合物の経口投与量(mg/体重/日)が約1〜約100である請求項1又は2記載のユートフィン産生の増強持続剤。 薬効を奏する請求項1記載の化合物の非経口投与量(mg/体重/日)が約0.5〜約30である請求項1、2又は3記載のユートロフィン産生の増強持続剤。 下記の適用疾患群から選ばれる少なくとも1疾患の治療、進行抑制、重症化抑制又は改善用の薬剤である請求項1〜4のいずれかに記載のユートロフィン産生の増強持続剤。 適用疾患群:筋ジストロフィー、強直性脊椎症候群、先天性ミオパチー、筋緊張性症候群、遠位型ミオパチー、代謝性筋疾患、炎症性筋疾患、内分泌性筋疾患、神経原性筋疾患、筋疲労・筋老化、骨折・骨折治療での固定ギプス・寝たきり等による廃用性筋萎縮、神経が原因の筋無力症候群、関節の運動機能の低下、心筋や平滑筋の収縮障害、末梢神経のシュワン細胞における増殖障害、血管内皮細胞障害による動脈硬化、腎臓の糸球体タコ足細胞障害による糸球体硬化症、尿細管上皮細胞障害による腎臓不全、網膜神経膠細胞障害による網膜神経膠症、脳軟膜の不全、脈絡叢の上衣細胞の脳脊髄液の分泌障害、唾液腺の唾液分泌障害による口腔乾燥症、小腸の上皮細胞による吸収障害、肝臓の肝細胞による吸収障害、精巣の不全、及び血小板の血液凝固障害。 請求項1、2、3又は5に記載のユートロフィン産生の増強持続剤を、該増強持続効果を奏する量、添加混合することにより得られる加工食品。 エピガロカテキンガレートとそのアナログを有効成分として含有するユートロフィン産生の増強持続剤とこれを用いる加工食品がそれぞれ提供される。適用疾患は、筋ジストロフィー、骨折やその治療での固定ギプス・寝たきり等による廃用性筋萎縮、炎症性筋疾患等の筋疾患、筋無力症候群、関節の運動機能の低下、心筋や平滑筋の収縮障害等のユートロフィンの産生低下に起因する諸疾患等であり、かかる疾患の治療、進行抑制、重症化抑制、改善等に著効を発揮する。健常者の筋疲労の回復や筋老化の抑制にも有効である。


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