生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_生体内におけるグリシン開裂酵素活性の評価方法
出願番号:2004290934
年次:2006
IPC分類:C12Q 1/25,G01N 21/35,G01N 33/497


特許情報キャッシュ

呉 繁夫 JP 2006101740 公開特許公報(A) 20060420 2004290934 20041004 生体内におけるグリシン開裂酵素活性の評価方法 国立大学法人東北大学 504157024 奥山 雄毅 100108121 呉 繁夫 C12Q 1/25 20060101AFI20060324BHJP G01N 21/35 20060101ALI20060324BHJP G01N 33/497 20060101ALI20060324BHJP JPC12Q1/25G01N21/35 ZG01N33/497 A 1 4 OL 11 2G045 2G059 4B063 2G045AA25 2G045CB22 2G045DB01 2G045FA25 2G045FB07 2G045GC10 2G059AA01 2G059BB01 2G059CC16 2G059DD01 2G059DD12 2G059HH01 2G059JJ01 2G059PP02 4B063QA01 4B063QA19 4B063QQ01 4B063QQ22 4B063QQ26 4B063QQ89 4B063QR02 4B063QR06 4B063QR50 4B063QR71 4B063QS03 4B063QX10 本発明は、生体内におけるグリシン開裂酵素活性の評価方法に関するものであり、詳しくは非侵襲的に、迅速に、特殊な技術を必要とせず、かつ正確に生体内におけるグリシン開裂酵素活性を評価することのできる方法に関するものである。本評価方法は、高グリシン血症の診断に有効である。 非ケトーシス型高グリシン血症は、グリシンの主要代謝経路であるグリシン開裂酵素(GCS)の遺伝的に欠損により引き起こされる先天性アミノ酸代謝異常症の一つである(非特許文献1)。高グリシン血症の特徴は、血中や髄液中など体液中のグリシンの蓄積であり、髄液中グリシン濃度は正常の数十倍にも及ぶ。大部分の患児は新生児期から昏睡、けいれん重積、呼吸障害、筋緊張低下などの重篤な症状を呈し、新生児期に死亡する例も多い(非特許文献2)。生存した例でも重篤な中枢神経障害を残し、精神発達遅延を伴う。この症状は新生児期の脳症に似ている事から、本症は「グリシン脳症」とも呼ばれる。最近、同じ高グリシン血症でも症状の発症が遅く軽症の高グリシン血症の存在が明らかになってきた(非特許文献3,4)。軽症例では、新生児期の昏睡やけいれんといった重篤な症状を欠き、学童期から顕著になる精神発達遅滞や行動の異常などが主な症状となる。高グリシン血症の頻度は、わが国では約50万出生に1例、米国では25万出生に1例、カナダのBritish Columbiaでは6万出生に1例と推定される(非特許文献5)。フィンランド北部では12千出生に1例と、際だってその発症頻度が高い(非特許文献6)。軽症型の患者は診断が難しく、診断がついていない例も多いと考えられ、軽症型を含めるともっと発生頻度が高いものと推察される。 高グリシン血症で欠損しているグリシン開裂酵素は肝臓、脳、腎蔵などのミトコンドリアに存在する複合酵素で、P,T,H,L蛋白質と呼ばれる4つの構成酵素から成る(非特許文献7)。グリシンはこの4つの酵素により順次分解され、最終的には、二酸化炭素、アンモンニア、及びメチル基になる。この4つの蛋白質のうちどの一つの酵素が欠損してもグリシンの分解は障害され、高グリシン血症が起る(非特許文献8)。実際の患児で欠損している酵素を調べると、最も頻度の高い欠損酵素は、P蛋白質であり全体の約60〜70%を占め、ついでT蛋白質欠損によるものが多い(非特許文献9)。メチルマロン酸血症やプロピオン酸血症などの有機酸代謝異常症でも高グリシン血症が見られ、尿中ケトン体の排出を伴なう事から、ケトーシス型高グリシン血症と呼ばれている(非特許文献2)。 ケトーシス型高グリシン血症ではGCS遺伝子に変異はないが、肝GCS活性は著明に低下している(非特許文献10)。非ケトーシス型とケトーシス型高グリシン血症とは尿中有機酸の分析により鑑別診断される。残存酵素活性と症状の重篤さとの間にはある程度の関係があり、一般に残存酵素活性の全く無い症例では、生後間もなく重篤な症状が出るのに対し、残存酵素活性が高い症例では、症状は軽くその発症が遅くなる(非特許文献11)。従って、残存酵素活性を知る事は各患児の予後を予測する上で重要である。 GCS酵素活性は、生検肝組織のホモジェネートを試料とし、放射性同位元素14Cで標識された[1−14C]グリシンを基質として脱炭酸反応で生じた14CO2を定量する事により測定される(非特許文献12)。この測定法は、侵襲的な肝生検を必要とする点、放射性同位元素を利用する点、習熟した手技が必要な点、などの理由からあまり普及しておらず、世界的に見ても数箇所でしか行われていない。生検肝の代わりにリンパ芽球を用いる方法もあるが、細胞株の樹立に数ヶ月必要なため研究目的に限られている(非特許文献13)。従って、多くの施設で実施可能であり、特殊な設備や機器が不要であり、技術習熟が必要なく、グリシン解裂酵素の残存酵素活性が評価可能であり、非侵襲的である、などの条件を満たした新しい診断法の開発が望まれる。Tada K, Narisawa K, Yoshida T et al. Hyperglycinemia: a defect inglycine cleavage reaction. Tohoku J. Exp. Med. 1969;98:289-296Hamosh A, Johnston MV. Nonketotic hyperglycinemia. In: Scriver CR,Beaud et AL, Sly WS, Valle D, eds. THE METABOLIC AND MOLECULAR BASES OF INHERITEDDISEASE. Vol. 2. 8 ed. New York: McGraw-Hill, 2001:2065-2078Christodoulou J, Kure S, Hayasaka K, Clarke JT. Atypical nonketotic hyperglycinemiaconfirmed by assay of the glycine cleavage system in lymphoblasts. Journal ofPediatrics. 1993;123:100-102Korman SH, Boneh A, Ichinohe A et al. Persistent NKH with transientor absent symptoms and a homozygous GLDC mutation. Ann Neurol. 2004;56:139-143Applegarth DA, Toone JR, Lowry RB. Incidence of inborn errors ofmetabolism in British Columbia, 1969-1996. Pediatrics. 2000;105:e10von Wendt L, Hirvasniemi A, Simila S. Nonketotic hyperglycinemia. Agenetic study of 13 Finnish families. Clinical Genetics. 1979;15:411-417Kikuchi G. The glycine cleavage system: composition, reactionmechanism, and physiological significance. Molecular & CellularBiochemistry. 1973;1:169-187Hayasaka K, Tada K, Kikuchi G et al. Nonketotic hyperglycinemia: twopatients with primary defects of P-protein and T-protein, respectively, in theglycine cleavage system. Pediatric Research. 1983;17:967-970Tada K. Nonketotic hyperglycinemia: clinical and metabolic aspects.Enzyme. 1987;38:27-35Hayasaka K, Narisawa K, Satoh T et al. Glycine cleavage system inketotic hyperglycinemia: a reduction of H-protein activity. Pediatric Research.1982;16:5-7Tada K, Hayasaka K. Non-ketotic hyperglycinaemia: clinical andbiochemical aspects. European Journal of Pediatrics. 1987;146:221-227Hayasaka K, Tada K, Fueki N et al. Nonketotic hyperglycinemia:analyses of glycine cleavage system in typical and atypical cases. Journal ofPediatrics. 1987;110:873-877Kure S, Narisawa K, Tada K. Enzymatic diagnosis of nonketotic hyperglycinemiawith lymphoblasts. 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Inhibition of the glycinecleavage system: hyperglycinemia and hyperglycinuria caused by valproic acid.Epilepsia. 1980;21:563-569Kochi H, Hayasaka K, Hiraga K, Kikuchi G. Reduction of the level ofthe glycine cleavage system in the rat liver resulting from administration of dipropylaceticacid: an experimental approach to hyperglycinemia. Arch Biochem Biophys.1979;198:589-597Maes BD, Ghoos YF, Geypens BJ et al. Combined carbon-13-glycine /carbon-14-octanoicacid breath test to monitor gastric emptying rates of liquids and solids. JNucl Med. 1994;35:824-831Kato S, Ozawa K, Konno M et al. Diagnostic accuracy of the 13C-ureabreath test for childhood Helicobacter pylori infection: a multicenter Japanesestudy. Am J Gastroenterol. 2002;97:1668-1673Dobyns WB. Agenesis of the corpus callosum and gyral malformationsare frequent manifestations of nonketotic hyperglycinemia. Neurology. 1989;39:817-820 したがって本発明の目的は、非侵襲的に、迅速に、特殊な技術を必要とせず、かつ正確に生体内におけるグリシン開裂酵素活性を評価することのできるグリシン開裂酵素活性評価方法を提供することである。 本発明は、13Cで標識したグリシンを投与した検体から呼気を採取し、前記呼気に含まれる13CO2濃度の赤外分光分析による測定値から生体内におけるグリシン開裂酵素活性を評価することを特徴とするグリシン開裂酵素活性の評価方法を提供するものである。 本発明は、検体から呼気を採取し、呼気に含まれる13C濃度を赤外分光分析装置を用いて測定するだけでよいので、非侵襲的に、迅速に、特殊な技術を必要とせずに、かつ正確に生体内におけるグリシン開裂酵素活性を評価することができる。本評価方法は、高グリシン血症の診断に有効である。 本発明の方法は、基質であるグリシンを放射性同位元素14Cではなく、安定同位元素13Cで標識したグリシンを用いる。安定同位体炭素原子13Cは、14Cと異なり、安定で放射線の放出が無いため放射線の被曝や廃棄の問題が全くない(下記の非特許文献14)。この13Cグリシンを直接服用した後、呼気中に排出される13Cを含む二酸化炭素(13CO2)濃度を測定する、13C呼気試験の可能性を検討した。投与された大部分の[1−13C]グリシンはGCSにより分解され、呼気中に13CO2が排出される(図1)。一部分は、セリン・ハイドロオキシ・メチルトランスフェラーゼ(SHMT)により[1−13C]セリンへ転換され最終的にはピルビン酸脱炭酸酵素(PDHC)により、13CO2が生じると考えられる。なお図1において、TFは、テトラハイドロフォレート、STDはセリン・デハイドロターゼである。しかしながら、脊椎動物においてGCSはグリシン分解の主経路であり、GCSによる直接分解系の方がはるかに大きな割合を占めることが示されている(非特許文献15)。本実施形態では、GCS阻害剤を投与したマウス、正常対照者、及び高グリシン血症患児において呼気試験を行い、[1−13C]グリシン呼気試験の有用性を検討した。(方法) マウスと試薬 C57BL/6マウス(8週齢雌)は、日本SLC株式会社(浜松)より購入した。[1ー13C]グリシン(純度99%)は、Cambridge IsotopeLaboratories, Inc. (Andover,MA,USA)より購入した。10mg/mlとなるように[1−13C]グリシンを生理食塩液に溶解後、0.22μmのMillex-GXfilter(Millipore, Bedford, MA, USA)にてろ過滅菌し、1ml毎に滅菌チューブに入れ、使用時まで−20℃で凍結保存した。Cysteaminehydrochroride とsodium valproate(試薬一級)は、それぞれ、Aldrich Chemical Comapny Inc.(Milwaukee, WI, USA)、及び、和光純薬工業株式会社(東京)より購入し、それそれ、6mg/mlの濃度で生理食塩液に溶解し注射液として使用した。(高グリシン血症患者) 非ケトーシス性高グリシン血症患者1〜3の臨床経過と遺伝子検査の結果を表1にまとめた。3名の患者はすべて新生児期発症の症例である。患者1と患者2の発達予後は不良で定頸は不完全で、おすわりや独歩は現在でも出来ない。これに対し、患者3は緩徐ではあるものの精神発達が認められ、患者1,2に比べ発達予後は良いと考えられる(非特許文献16)。患者の遺伝子診断とCOS細胞中での発現実験は既報の如く行った(非特許文献17)。患者4は、ケトーシス性高グリシン血症を引き起こす疾患の一つであるメチルマロン酸血症の患児で診断は、尿の質量分析による有機酸分析により確定した。本研究は、平成15年2月21日付けで東北大学医学部倫理委員会にて承認された(承認番号、2003−041)。研究内容を各患者の保護者に説明後、書面によるインフォームド・コンセントを得て、研究を行った。(マウスにおける[1−13C]グリシン呼気試験) マウスに10mg/kgの[1−13C]グリシンを腹腔内投与後、内容量350mlの密封可能なプラスチック容器に入れた。規定時間経過後、容器内に排出された呼気をガラス注射器に取り付けた注射針を容器内へ挿入し、120mlの呼気検体を採取した。注射器の内の呼気は呼気採取バッグ(0.3L,大塚電子株式会社、大阪)に移し、赤外分光分析装置、UbiT-IR 300 (大塚電子株式会社)にて13CO2濃度(‰)を測定した。60mg/kg及び300mg/kgのGCS阻害剤(cysteamine及びvalproate)は[1−13C]グリシン投与30分前、腹腔内注射した。(ヒトにおける[1−13C]グリシン呼気試験) 検査は午前9時から行い、前日は23時以降絶食とし水分は摂取可とした。正常ボランティアの呼気検体の採取は、呼気採取バックへ直接呼気を吹き込む方法で行った。患児の呼気は、呼気採取マスクと付属の呼気バック(Vital Signs Inc.Totowa, NJ, USA)を用い、バックが膨らむまでマスクを患児の口に当て呼気を採取した。検査10分前に呼気バック(1.3L、大塚電子株式会社)に対照検体として呼気を採取した。その後、午前9時に[1−13C]グリシンを10mg/kg(体重が00kgを超える場合は一律100mg)を20mlの蒸留水に溶かし、服用させた。高グリシン血症患児の場合には胃管を用いて投与した。この直後に、胃蠕動を活発化する目的で、100〜200mlの牛乳又はりんごジュースを経口、または、胃管を通じて投与した。検査用グリシン飲用15分後、小さい呼気バック(0.3L)に呼気を収集した(15分後検体)。以下同様に、30、45、60、90、120、180、240、300分後に呼気採取を行った。採取した呼気検体は呼気採取バックへ移し、UbiT-IR300 にて13CO2濃度を測定した。(結果) マウスにおける[1−13C]グリシン呼気試験 [1−13C]グリシンをマウスに投与した場合、13CO2排出が認められるかどうかを知る目的で、マウスを用いた検討を行った。体重1kgあたり10mgの[1−13C]グリシンをマウスの腹腔内投与し、その後密封したプラスチックの箱に10分間入れることによりその呼気を収集した。呼気中の13CO2濃度を経時的に測定した結果を図2に示す。13CO2濃度は10〜20分後には呼気中に多く排出されその後急速に低下し、180分後にはピーク時の20%以下になった。次に、呼気中13CO2の由来を確認する目的で、グリシン解裂酵素を既知のGCS阻害剤である2種類の阻害剤(システアミンとバルプロン酸)をマウスの腹腔内へ前投与し、その後同様の呼気試験(阻害剤は試験開始前30分前に投与)を行った(非特許文献18−20)。その結果、体重1kgあたり60及び300mgのシステアミンを投与すると、グリシン投与後10〜20分の10分間における呼気中13CO2濃度は非投与時のそれぞれ、58.4%及び47.5%にまで低下した(図3)。なお図3において、。「*」はP<0.05、「**」はP<0.01を意味する。同様に、体重1kgあたりのバルプロン酸60及び300mgを前投与すると非投与時のそれぞれ、111%及び58.4%に変化した。グリシン解裂酵素を阻害する2種類の薬物の前投与により13CO2の発生が有意に低下した事から、発生した13CO2の大部分はグリシン解裂酵素由来すると考えられた。 正常対照者における[1−13C]グリシン呼気試験 [1−13C]グリシン100または、200mgを正常対照者に経口投与し、その後、15、30、45、60、90、120、180、240、300分後に呼気を採取し、その13CO2濃度を測定した結果を図4Aに示す。図4において、実線は100mg投与、点線は200mg投与時を示す。いずれの投与量でも300分後まで13CO2濃度の測定が可能であったため、以後の呼気試験は100mgで行った。図4Bに示す結果は、同一人で、絶食と200mlの牛乳投与を行なわなかった場合(実線)と、前日23時以降に絶食し、牛乳投与を行った場合(点線)の呼気試験で、同一人であっても13CO2濃度の経時変化が大きく変わる事を示している。グリシンは、胃で吸収を受けず、十二指腸で初めて吸収されるため、胃通過時間に大きく影響されるためと考えられる(非特許文献21)。図4Bの結果を基に13C累積回収率を算定し、経時的に示したのが図4Cである。13C累積回収率は、1〜2時間の検査時間では、回収率に大きな差が生まれるが、3時間を越えると差は小さくなった。従って、観察時間を長くする事により胃通過時間の影響を小さくする事が可能である事が判明した。今回の研究では[1−13C]グリシン投与後、5時間まで呼気採取を行う事とした。実際に10名のボランティアで同様の呼気試験を行い、各経過時間における13C累積回収率を求めたのが図4Dである。300分後の13C累積回収率は、24.1±4.0%(平均値±標準偏差値、SD)であった。 高グリシン血症患者における[1−13C]グリシン呼気試験 非ケトーシス型高グリシン血症患者3名における[1−13C]グリシン呼気試験の結果を図5に示す。患児1〜3の300分後における13C累積回収率は、それぞれ、4.8%、7.5%、9.3%と、すべて平均値のー2SD値以下であり、正常人とは明瞭に区別する事が出来た。保因者である父あるいは母の13C累積回収率は正常範囲にあり、正常人との区別は出来なかった。2次的に肝GCS活性が低下し、ケトーシス型高グリシン血症を呈する疾患の一つであるメチルマロン血症の患児4で呼気試験を行うと、13C累積回収率は非ケトーシス型同様、6.1%と著名に低下していた。なお図4において、破線と点線は、それぞれ、図4Dで求めた正常人における平均値、1標準偏差値、2標準偏差値を示す。(考察) 今回、[1−13C]グリシンを用いた呼気試験にて、in vivoのGCS活性を測定できる事を、GCS阻害剤を投与したマウスや高グリシン患児における呼気試験を通じて明らかにし、高グリシン血症の酵素診断を簡便に行える事を示した。本法で必要な胃管の挿入や呼気マスクによる呼気採取は、医師にとって一般的な手技である。また、13CO2濃度に関しても、専門的な知識や精度管理を必要とする質量分析計でなく、13CO2専用赤外分光装置で簡単に測定可能である。ヘリコバクター・ピロリ感染症の診断に13Cウレア呼気試験が一般的になったため(下記の非特許文献22)、13CO2専用赤外分光装置は、多くの医療施設に普及し始めている。更に、呼気検体は室温にて安定で、保存や輸送も容易である。これらの簡便さから、従来の生検肝を用いた酵素診断に代わる新しい酵素診断法として期待できる。 グリシンは胃で吸収を受けず、十二指腸で初めて吸収されるため、[1−13C]グリシンからの13CO2の排出速度は、胃通過時間が影響する。この性質を利用し、[1−13C]グリシン呼気試験を胃通過時間の評価に用いる試みが報告されている(非特許文献21)。今回の研究でも、同一人でありながら13CO2排出ピークの時間がグリシンを服用する状態により大きく異なる事を経験した。胃蠕動を亢進させ胃の通過時間を短縮するために、今回の呼気試験プロトコールでは検査前日の夜を絶食とし、[1−13C]グリシンの服用直後に200ml程度の牛乳などを飲用させた。10名の正常対照者においてこのプロトコールに基いて呼気試験を行ったところ、300分時点における13C累積回収率のばらつきは、十分許容できる範囲内であった。胃通過時間のばらつきを避ける目的では、静注用[1−13C]グリシン溶液を作成するのが最も優れていると考えられるが、今回の経口投与プロトコールでも十分に実用になる。 今回呼気試験を実施した3症例のうち、患者2ではGLDC遺伝子変異からみて残存酵素活性がほとんどないことが推測される。患者2でも13CO2排出がある程度認められる事から、図1に示したように投与された[1−13C]グリシンの一部は、GCS以外の経路で13CO2へと分解されている事が示唆される。患者1では母方の遺伝子変異が未同定のため残存酵素活性を推定出来ないが、患者2と同様に臨床症状が重篤で同定された父方アレルの遺伝子変異がナンセンス変異である事から、残存酵素活性は極めて僅かであると考えられる。患者3に見出された2種類のGLDC遺伝子変異のうち、N150T変異は、COS細胞中での発現実験より残存酵素活性は1%程度と予測された。もう一つのR790W変異の残存活性は正常の14%と予測され、両者で7.5%の残存活性が推測された。実際、患者3は発症は生後3日と早いが、その後の発達は患者1,2 に比し、良好である。 本症では、脳形成異常をしばしば合併し、合併例は非合併例に比べ予後が悪いことが示唆されている(非特許文献23)。患者3では、患者1,2とは異なり、脳形成異常を合併していない点でも予後が良いことが想像される。今回の呼気試験の結果では、患者1,2に比べ、患者3は高い13C累積回収率を示している事から、今後多くの症例で呼気試験のデータを蓄積することにより、呼気試験の成績から予後をある程度予測出来る。 ケトーシス性高グリシン血症の患児の[1−13C]グリシン呼気試験においても13C累積回収率は6.1%と低値を示し、メチルマロン酸血症やプロピオン酸血症などの有機酸血症においてもGCS活性が低下している事が示唆された。この結果は、メチルマロン酸血症の患児から得た生検肝を用いたGCS活性が正常の2〜7%と著しく低下していたとする報告と一致していた(非特許文献10)。ケトーシス性高グリシン血症においては、GCSの構成蛋白質の一つであるH蛋白質の活性が有機酸血症で体内に蓄積するCoA化合物により阻害される機序が想定されている。有機酸血症では、髄液中グリシン濃度の上昇が認められない事から、脳GCS活性の大きな低下は無いものと推察される。今回、有機酸血症で呼気試験が低値を示した結果から呼気試験は主に脳でなく肝臓のGCS活性を反映しているものと考えられる。非ケトーシス性及びケトーシス性高グリシン血症の両者は、臨床経過や尿中有機酸の分析により容易に鑑別診断が可能であるため、[1−13C]グリシン呼気試験で両者が共に低値を示しても臨床診断上は問題とならないと考えられる。 新生児期から昏睡やけいれんなどの脳症様の症状が出現する典型例の場合は、高グリシン血症を比較的疑われやすいが、高グリシン血症の症状は極めて多彩で新生児期に症状を欠く症例が存在する事が次第に明らかになってきた(前記の非特許文献4)。そのような場合、血中グリシン濃度はさほど高値を示さず、正常グリシン濃度の1.5〜2倍程度の値を示す。血中グリシン濃度は食事の影響が大きく絶食が十分でない場合、血清グリシン濃度は健康な小児でも正常値の2倍程度に上昇することがある。従って、正常の1.5〜2倍程度のグリシン濃度上昇のみで高グリシン血症と診断する事は困難である。軽度の血中グリシン濃度の上昇を示す症例に対しては、多くの場合髄液アミノ酸分析までは行われないため、高グリシン血症が見過ごされる可能性がある。呼気試験のような侵襲がなく容易に行える検査が確立すれば、このような非典型的な症例も診断が可能となる。 高グリシン血症の確定診断のためには、酵素診断または遺伝子診断が必要である。しかしながら、現状ではどちらの診断法にも問題点が多い。従来の酵素診断法は手技の習熟が必要で、実際に酵素診断を行える研究施設が減っている。高グリシン血症のような稀少遺伝病の場合、検査会社が商業的に検査を受注する事は考え難いため、多くの患児は酵素診断の恩恵を受けていない。遺伝子診断に関しても、問題がある。病因遺伝子は、GLDC,AMT,GCSHの3つ存在し、場合により、全ての遺伝子変異検索が必要になる。最も変異が多いGLDC遺伝子は、全長130kbと遺伝子が大きく解析するエクソンも25個と多いため、GLDC遺伝子解析を行うだけでも、労力と費用が必要となる。今回の[1−13C]グリシン呼気試験は結果を標準化し易いという利点も併せ持つ。酵素活性の測定は特殊な検査で各施設によりその方法は少しずつ異なるため、各施設の酵素活性結果を単純に比較する事は難しい。これに対して、13C呼気試験では検査プロトコールの標準化が容易なため、各施設の結果の比較検討が容易である。今後多くの症例で呼気試験の結果とその臨床経過のデータを蓄積していく事により、各症例の予後診断に役立つものと考えられる。 本発明は、検体から呼気を採取し、呼気に含まれる13CO2濃度を赤外分光分析装置を用いて測定するだけでよいので、非侵襲的に、迅速に、特殊な技術を必要とせずに、かつ正確に生体内におけるグリシン開裂酵素活性を評価することができる。本評価方法は、高グリシン血症の診断に有効である。グリシン解裂酵素によるグリシンの分解を説明するための図である。マウス腹腔内への[1−13C]グリシンを投与した後の、呼気中の13CO2濃度を経時的に測定した結果を示す図である。GCS阻害剤投与の、13Cグリシン呼気試験に及ぼす影響を説明するための図である。(A)は正常人における100及び200mg[1−13C]グリシン投与時の呼気中13CO2濃度の経時変化を示す図である。(B)は正常人における前日絶食の有無による呼気中13CO2濃度の経時変化を示す図である。(C)は、(B)の13CO2濃度変化を基に算定した13C累積回収率を示す図である。(D)は正常人10 名の13C累積回収率の経時変化を示す図である。高グリシン血症患者における[1−13C]グリシン呼気試験の結果を示す図である。 13Cで標識したグリシンを投与した検体から呼気を採取し、前記呼気に含まれる13CO2濃度の赤外分光分析による測定値から生体内におけるグリシン開裂酵素活性を評価する ことを特徴とするグリシン開裂酵素活性の評価方法。 【課題】 非侵襲的に、迅速に、特殊な技術を必要とせず、かつ正確に生体内におけるグリシン開裂酵素活性を評価することのできる方法を提供する。【解決手段】 13Cで標識したグリシンを投与した検体から呼気を採取し、前記呼気に含まれる13CO2濃度の赤外分光分析による測定値から生体内におけるグリシン開裂酵素活性を評価する。【選択図】 図4


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