生命科学関連特許情報

タイトル:公開特許公報(A)_有鉤条虫及び無鉤条虫の成虫感染の検査薬及び方法
出願番号:2004075805
年次:2005
IPC分類:7,G01N33/569,G01N33/53


特許情報キャッシュ

中尾 稔 伊藤 亮 JP 2005265510 公開特許公報(A) 20050929 2004075805 20040317 有鉤条虫及び無鉤条虫の成虫感染の検査薬及び方法 独立行政法人科学技術振興機構 503360115 下田 昭 100110249 赤尾 謙一郎 100113022 中尾 稔 伊藤 亮 7G01N33/569G01N33/53 JPG01N33/569 AG01N33/53 DG01N33/53 M 4 OL 7 この発明は、有鉤条虫及び無鉤条虫の成虫感染の検査のための検査薬及びこれらを検査する方法に関する。 人体寄生性のテニア科条虫のうち公衆衛生上重要なものとして、ヒトが終宿主となる有鉤条虫と無鉤条虫、イヌやキツネが終宿主となる単包条虫と多包条虫を挙げることができる。 有鉤条虫(Taenia solium)はその幼虫(有鉤嚢虫(Cysticercus cellulosae)と呼ばれる)を筋肉内に宿しているブタ肉等を十分火を通さずに摂取したヒトの消化管に寄生する「きしめん様の数メートルの長さに発育するサナダムシ」である。この成虫を宿しているヒトから排泄される虫卵を経口摂取したヒトやブタの全身に有鉤嚢虫(以下、嚢虫と略す。)が発育する。ヒトヘの有鉤条虫の感染は基本的には「嚢虫が感染しているブタ肉」の摂取による。ヒト(嚢虫→有鉤条虫→虫卵)−ブタ(虫卵→嚢虫)−ヒト(嚢虫→有鉤条虫→虫卵)の間で、この寄生虫の生活環が完成するものであり、ヒトが「嚢虫感染ブタ肉の生食」を避けることによって長期的にはこの寄生虫の生活環を絶つことができるものである。しかし、人体嚢虫症(cysticercosis)の問題点は有鉤条虫を宿しているヒト(保虫者)から排泄された虫卵がブタに感染するのみならず、他のヒトにも感染することである。 無鉤条虫(Taenia saginata)は有鉤条虫と同様の構造と生活環をもつが、症状は少なく人体組織に嚢虫を生ずることはない。 有鉤条虫と無鉤条虫の感染を終宿主において証明するために、糞便から片節や虫卵を検出する方法が一般的であった。最近では、終宿主から排泄されたものの形態学的な同定ばかりでなく、糞便内の抗原やDNAの検出によって条虫感染を確認することが試みられている。しかし、血清抗体の検出によって成虫感染を証明する実用的な方法は未開発であった(非特許文献1)。 一方、疎水性リガンド結合性蛋白(HLBP, hydrophobic ligand binding protein) は条虫類に特有な分子量約10 kDaの低分子蛋白で、脂質やビタミンと結合し、生命維持に必須な成分と考えられているが、その詳細な機能は不明であった(非特許文献2)。検査と技術 第26巻 第4号391-393 (1998)FEBS Letters 487 (2000) 181-184 本発明は、無鉤条虫と有鉤条虫の成虫がヒトに寄生した場合に検便以外の方法で成虫感染を検査する方法を提供することを目的とする。 消化管に寄生する条虫類の成虫には宿主の抗体が産生されにくいと一般に考えられている。しかし、本発明者らは、条虫から分離した成虫由来の疎水性リガンド結合性蛋白(HLBP, hydrophobic ligand binding protein)に抗原性があることを見出し、本発明を完成させるに至った。 即ち、本発明は、配列番号1〜4のいずれかの20〜85番目のアミノ酸配列のうち少なくとも22〜65番目を含むアミノ酸配列(即ち、配列番号1〜4のいずれかの20〜22番目から65〜85番目までのアミノ酸配列)又は配列番号5のアミノ酸配列から成るペプチドを主成分とする有鉤条虫及び無鉤条虫の成虫感染の検査薬である。 また本発明は、被検者(ヒト)の血清を上記の検査薬と反応させることから成る有鉤条虫及び無鉤条虫の成虫感染の検査方法である。 また本発明は、配列番号1〜4のいずれかの20〜85番目のアミノ酸配列のうち少なくとも22〜65番目を含むアミノ酸配列又は配列番号5のアミノ酸配列から成るペプチドを支持体に固定し、これに被検者の血清を反応させ、これに標識を付したプローブを反応させ、この標識を検出することから成る、有鉤条虫及び無鉤条虫の成虫感染の検査方法である。 更に、本発明は、被検者の血清から有鉤条虫及び無鉤条虫の成虫感染を検出するための検査キットであって、支持体に固定された配列番号1〜4のいずれかの20〜85番目のアミノ酸配列のうち少なくとも22〜65番目を含むアミノ酸配列又は配列番号5のアミノ酸配列から成るペプチドから成る検査キットである。 本発明の検査薬(又は抗原ペプチド)はヒトの血清診断において極めて有効であると考えられる。本発明の検査薬を抗体測定系に応用すれば、検査対象者から特異抗体を検出することで、成虫感染の有無を判定することが可能となる。 無鉤条虫症・有鉤条虫症は消化管に成虫が寄生するだけなので、疾病としては軽度なものである。しかし、成虫感染者は本人に自覚のないままに虫卵散布者として生活環境を汚染することになる。特に、有鉤条虫の場合、散布された虫卵が他人に経口的に摂取されると、幼虫が中枢神経系を侵すことがある(有鉤嚢虫症)。 無鉤条虫や有鉤条虫は発展途上国では稀な疾患ではなく、特に有鉤条虫は嚢虫症を引き起こすので公衆衛生上特に重要である。これらの寄生虫はヒトが唯一の終宿主であるため、成虫の保有者を効率よく検出し、集団駆虫することができれば、根絶が可能となる。 一方、先進国では無鉤条虫や有鉤条虫の土着は認められないが、発展途上国の流行地から旅行者及び労働者が多数流入しており、二次感染の危険が懸念されている。本発明の検査薬や検査法は先進国での流行地からの移住者の集団検診の効率化に貢献すると考えられる。 HLBP(hydrophobic ligand binding protein)はもともと縮小条虫の成虫において特定された蛋白であり、Hymenolepis diminuta(Hdim、配列番号6)というネズミの条虫やMoniezia expansa (Mexp、配列番号7)というヒツジの条虫から初めて分離された(非特許文献1、2403292A)。両者とも成虫由来の蛋白である。 これらHdim及びMexp成虫由来HLBP(AHLBP)と、今回発明者らが得た無鉤条虫(Taenia saginata, Tsagと略)成虫のAHLBPとは異なる(相同性40〜49%)。 一方、今回発明者らが得た無鉤条虫成虫のTsag_AHLBP_c20(配列番号1,8)、Tsag_AHLBP_c35(配列番号4,11)及び有鉤条虫成虫のエクソン(Tsol_exon)(配列番号5,12)の比較を表1に示す。 これら無鉤条虫(Tsag)と有鉤条虫(Tsol)の成虫HLBP(AHLBP)はきわめて類似している(相同性89〜82%)。これは、無鉤条虫の成虫HLBPが無鉤条虫症及び有鉤条虫症の両者の抗体検出に抗原として利用できることを意味している。 本発明者らは無鉤条虫をモデルとして、幼虫期と成虫期にどの様なHLBP遺伝子が発現しているかをRT-PCR法で比較した。その結果、幼虫期には様々な HLBP 遺伝子が発現しているものの、成虫ではこれらの幼虫 HLBP 遺伝子が全く発現していないことを確認した。そこで、無鉤条虫成虫のcDNAライブラリーを検索したところ、幼虫HLBP遺伝子とはホモロジーの異なる成虫HLBP遺伝子をクローニングすることに成功した(実施例1及び2)。 同一のファミリーに属すHLBP分子が幼虫と成虫に存在し、それらは幼虫期と成虫期で厳密に発現コントロールされていることは予想外であった。これはそれぞれの HLBP 分子を抗原として用いれば、幼虫期と成虫期の抗体応答を区別して検出できることを意味する。後述の実施例で示すが、クローニングした成虫HLBP遺伝子で大腸菌による組換え蛋白を作成して、無鉤条虫や有鉤条虫の成虫感染者の血清と反応させたところ、成虫HLBP分子には抗原性があることが証明され、診断用抗原として利用できることが分かった。 本発明の検査薬(抗原)を用いて、無鉤条虫や有鉤条虫が寄生した被検者(ヒト)に生成する抗体と反応させることにより、無鉤条虫や有鉤条虫の寄生の有無を検査することができる。このような被検物として、被検者の血清、尿等が挙げられるが、好ましくは血清を用いる。被検者に無鉤条虫や有鉤条虫が寄生していれば、血清中にその抗体が生成されて存在するため、この抗体と上記抗原とが反応する。この抗原抗体反応を検知する方法に特に制限はないが、イムノブロット法、ドットブロット法、ELISA法等が挙げられ、ELISA法を用いることが好ましい。 好ましい無鉤条虫や有鉤条虫の検査方法は、本発明の抗原を支持体に固定し、これに被検者の血清を反応させ、これに標識を付したプローブを反応させ、この標識を検出することから成る。各工程間に適宜洗浄工程を入れることが好ましい。 この支持体には、特に制限はないが、ポリスチレン等を用いることができる。 この抗原を、被検者(無鉤条虫や有鉤条虫が寄生した場合)の血清中に存在する抗体と反応させ、更にこの抗体を認識するプローブを反応させる。このプローブとしては、抗ヒトIgG抗体、プロテインG、プロテインA、プロテインLなどが挙げられる。このプローブには通常標識を付す。この標識としては、放射性同位元素(125I)、酵素(ペルオキシダーゼ、アルカリフォスファターゼ)が挙げられる。酵素抗体を用いた場合には、基質を反応させてその変化(着色等)を観察すればよい。 本発明の抗原は、合成可能であり、そのため検査抗原として簡便かつ安定に供給することができ、かつ品質管理が容易である。 以下、実施例にて本発明を例証するが本発明を限定することを意図するものではない。準備例1免疫不全マウスで発育させた無鉤条虫幼虫、または中国人から駆虫して得た無鉤条虫成虫を材料として、常法に従ってそれぞれ mRNA を取り出し、タグ配列付加オリゴ dT プライマー(配列番号13)を用いて逆転写し、幼虫 cDNA と成虫 cDNA を作成した。幼虫cDNAを鋳型として、幼虫HLBPのシグナル配列から作成したフォワードプライマー(配列番号14)とタグ配列リバースプライマー(配列番号15)でPCRを行い、増幅産物をクローニングした。その結果、幼虫HLBPには膨大な多型があることが判明した。しかし、この幼虫由来のフォワードプライマー(配列番号14)を用いて成虫cDNAを鋳型DNAとした場合はまったく増幅産物は得られない。 縮小条虫の成虫HLBP(非特許文献1, 2403292A)でアミノ酸配列が保存されている部位 FYDEDPL(配列番号16)からdegenerate primer (TTYTAYGAYGARGAYCCNYT, 配列番号17)を作成し、これとタグ配列のリバースプライマー(配列番号15)を用いて、上記の無鉤条虫成虫cDNAを鋳型としてPCR増幅した。 増幅産物の塩基配列を読んだところ、HLBPが増幅されたことがわかったので、次にこの配列のストップコドン近傍からリバースプライマー(配列番号18)を作成した。 また発明者の研究室に保存されているファージベクターで無鉤条虫成虫cDNAライブラリーから、このファージ液を鋳型としてPCR増幅を行なった。その際、ベクターのクローニング部位近傍のフォワードプライマー(配列番号19)と新たに作成したHLBPストップコドン近傍リバースプライマー(配列番号18)を用いた。増幅産物はクローニングして全長を含んでいるものを選び出した。次に、シグナル配列からフォワードプライマー(配列番号20)を作成した。このプライマーとタグ配列リバースプライマー(配列番号15)を用いて、無鉤条虫成虫cDNAを鋳型としてHLBP全長をPCR増幅した。 これをクローニングした結果、次の4つの多型のみが観察された。Tsag_AHLBP_c20(配列番号8 (対応アミノ酸配列:配列番号1))、Tsag_AHLBP_c25(配列番号9 (対応アミノ酸配列:配列番号2))、Tsag_AHLBP_c27(配列番号10 (対応アミノ酸配列:配列番号3))、Tsag_AHLBP_c35(配列番号11 (対応アミノ酸配列:配列番号4))を得た。これらのアミノ酸配列の1〜19番目に相当する配列はシグナル配列(putative signal sequence)である。 一方、中国で採集された有鉤条虫のゲノムDNAを鋳型DNAとして、Tsag_AHLBPのシグナル配列から作成したフォワードプライマー(配列番号20)、またストップコドン近傍のリバースプライマー(配列番号18)でPCRを行い、Tsol_AHLBP_exon(配列番号12の121〜253番目(対応アミノ酸配列:配列番号5)を増幅した。この exon 部位は Tsag_AHLBP とホモロジーが高いことから推定した。 準備例1で得たTsag_AHLBP_c20(配列番号8の64〜195番目)、Tsag_AHLBP_c35(配列番号11の64〜195番目)、Tsol_AHLBP_exon(配列番号12の121〜253番目)の塩基配列をpET35bベクター(Novagen, USA、図1)のEcoRI, SalIサイトに組込んだ。これらをそれぞれ大腸菌BL21(DE3)pLysS(Novagen)に導入して、Cellulose binding domain (CBD)との融合蛋白を作成した。 これらの融合蛋白を無鉤条虫成虫保有者の血清(A)と有鉤条虫成虫保有者の血清(B)と反応させて得たイムノブロットの写真を図2に示す。図中の1〜4は、ぞれぞれ(1)CBD+Tsag_AHLBP_c20、(2)CBD+Tsag_AHLBP_c35、(3)CBD+Tsol_AHLBP_exon、(4)fusion partner CBD のみを示す。いずれの血清もAHLBPと反応するのが分かる。陽性と判定された感染者血清は融合パートナーであるCBDと反応しないことも確認した。 また実施例1と同様の方法で、これらの組換え蛋白を無鉤条虫成虫感染者3名、有鉤条虫成虫感染者2名と反応させたところ、融合蛋白の種類に関わらず、無鉤条虫成虫感染者3名中2名(67%)、有鉤条虫成虫感染者2名中2名(100%)がIgG抗体陽性と判定された。対照とした正常人血清1名は陰性だった。 以上の結果から、無鉤条虫及び有鉤条虫の成虫HLBPには抗原性があることが示された。また、有鉤条虫と無鉤条虫の成虫のHLBPはアミノ酸の相同性が高く、無鉤条虫の成虫のHLBPは有鉤条虫・無鉤条虫どちらの成虫感染者の抗体検出にも利用可能であることが明らかとなった。pET35bベクター(Novagen, USA、図1)の酵素地図を示す図である。実施例1のイムノブロットを示す図である。1:CBD+Tsag_AHLBP_c20、2:CBD+Tsag_AHLBP_c35、3:CBD+Tsol_AHLBP_exon、4:fusion partner CBD のみを示す。Aは、無鉤条虫成虫保有者の血清、Bは、有鉤条虫成虫保有者の血清を用いたものを示す。配列番号1〜4のいずれかの20〜85番目のアミノ酸配列のうち少なくとも22〜65番目を含むアミノ酸配列又は配列番号5のアミノ酸配列から成るペプチドを主成分とする有鉤条虫及び無鉤条虫の成虫感染の検査薬。被検者の血清を請求項1に記載の検査薬と反応させることから成る有鉤条虫及び無鉤条虫の成虫感染の検査方法。配列番号1〜4のいずれかの20〜85番目のアミノ酸配列のうち少なくとも22〜65番目を含むアミノ酸配列又は配列番号5のアミノ酸配列から成るペプチドを支持体に固定し、これに被検者の血清を反応させ、これに標識を付したプローブを反応させ、この標識を検出することから成る、有鉤条虫及び無鉤条虫の成虫感染の検査方法。被検者の血清から有鉤条虫及び無鉤条虫の成虫感染を検出するための検査キットであって、支持体に固定された配列番号1〜4のいずれかの20〜85番目のアミノ酸配列のうち少なくとも22〜65番目を含むアミノ酸配列又は配列番号5のアミノ酸配列から成るペプチドから成る検査キット。 【課題】 無鉤条虫と有鉤条虫の成虫がヒトに寄生した場合の成虫感染を検査する方法を提供する。 【解決手段】 条虫から分離した成虫由来の疎水性リガンド結合性蛋白(HLBP, hydrophobic ligand binding protein)に抗原性があることを見出した。配列番号1〜4のいずれかの20〜85番目のアミノ酸配列のうち少なくとも22〜65番目を含むアミノ酸配列又は配列番号5のアミノ酸配列から成るペプチドを主成分とする有鉤条虫及び無鉤条虫の成虫感染の検査薬である。被検者(ヒト)の血清をこの検査薬と反応させて有鉤条虫及び無鉤条虫の成虫感染を検査できる。 【選択図】 なし配列表


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