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タイトル:特許公報(B2)_脱髄疾患の予防及び治療薬
出願番号:2002506756
年次:2012
IPC分類:A61K 38/27,A61P 25/00,A61P 25/28,A61P 29/00,A61P 43/00


特許情報キャッシュ

阿相 皓晃 須川 誠 JP 5053499 特許公報(B2) 20120803 2002506756 20010629 脱髄疾患の予防及び治療薬 地方独立行政法人東京都健康長寿医療センター 509111744 中外製薬株式会社 000003311 小林 泰 100075270 千葉 昭男 100080137 富田 博行 100096013 栗田 忠彦 100075236 阿相 皓晃 須川 誠 JP 2000199421 20000630 20121017 A61K 38/27 20060101AFI20120927BHJP A61P 25/00 20060101ALI20120927BHJP A61P 25/28 20060101ALI20120927BHJP A61P 29/00 20060101ALI20120927BHJP A61P 43/00 20060101ALI20120927BHJP JPA61K37/36A61P25/00A61P25/28A61P29/00A61P43/00 107 A61K 38/00-38/58 CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN) JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamII) 特開平05−246885(JP,A) 特表2003−520194(JP,A) SASAKI RYUZO,日本農芸化学会誌,日本,1998年,V72N12,P1427-1437 BERNAUDIN M.,JOURNAL OF CEREBRAL BLOOD FLOW AMD METABOLISM,1999年,V19N6,P643-651 MASUDA SEIJI,CYTOTECHNOLOGY,1999年,V29N3,P207-213 8 JP2001005641 20010629 WO2002002135 20020110 15 20080620 田村 聖子 [技術分野]本発明は、エリスロポエチン(EPO)を有効成分とした脱髄性神経機能障害疾患、特に脱髄性脳機能障害疾患に対する予防・治療薬に関する。[背景技術]近年、MRI等の画像診断技術の進歩に伴う知見により、脳梗塞の多発と痴呆との間で、必ずしも明らかな対応があるわけでなく、ビンスワンガー(Binswanger)型の脳梗塞、及び白質粗化(leuko−ariosis)が痴呆症候とよく対応することが指摘されている。さらに、卒中発作を伴わない小血管性病変が進行し、痴呆に至るケースが多いことが我が国の臨床調査により報告されている(秋口ら、1995)。ビンスワンガー型の脳梗塞のみならず、高齢者の脳においても、灰白質に比べ白質の脱落は顕著で、とりわけミエリン(myelin)の損失が激しいことが指摘されている。これらの報告から、従来、脳血管性痴呆と一括りにしていた疾患の多くが、脱髄による痴呆である可能性が考えられる。ミエリンはオリゴデンドロサイト(oligodendrocyte:稀突起神経膠細胞)の形質膜が神経軸束を取り囲み形成する髄鞘であり、この髄鞘が一次性に障害される脱髄によって、軸束を伝わるインパルス(impulse)の精度や伝導速度が低下し、このことが記憶消失などの高次機能障害や運動障害を引き起こすと考えられる。脱髄が進行すると、ついには神経細胞そのものも変成脱落する。従って髄鞘を形成し、神経細胞をサポートするオリゴデンドロサイトを活性化することが神経細胞の機能を維持する上でも重要であり、従来の神経細胞だけを活性化する治療法では、脱髄性疾患の機能修復は望めない。この様な痴呆を示す脱髄性の疾患は、高齢化が急速に進行する現在では、重要な問題となりつつある。これら疾患を予防・治療するための、オリゴデンドロサイトに対する、従来とは異なる機序の治療薬の開発が急がれている。従って、本発明の目的は、脱髄に伴う各種疾患の予防と治療に有効である予防・治療薬を提供することにある。[発明の開示]本発明者らは、分化段階が均一な未成熟オリゴデンドロサイトの培養法を開発し(Sakurai et al.,1998)、オリゴデンドロサイトの成熟に伴って特異的に発現してくるミエリン塩基性蛋白(myelin basic protein:MBP)の発現や、突起の形態・数を指標として、オリゴデンドロサイトの成熟を促進する因子について鋭意研究を重ねた。その結果、造血因子であるエリスロポエチンが、直接あるいはアストロサイト(astrocyte:星状神経膠細胞)を介してMBPの発現を促進し、オリゴデンドロサイトの成熟作用があることを見出し、本発明に到達した。本発明の目的は、脱髄に伴う各種疾患の予防と治療に有効である予防・治療薬を提供することにある。脱髄が起こると再髄鞘化(remyelination)により修復されることが、キュプリゾーン・モデル(cuprizone model)(Ludwin 1980;Johnson & Ludwin,1981)、慢性EAEモデルを用いた実験により(Raine et al.,1988)、及びMS患者脳での研究により(Harrisosn,1983;Prineas,1975,1978)報告されている。ミエリンは一度作られるとそのまま存在するのでなく、崩壊と再髄鞘化が起きていると考えられるようになってきている。事実、成人においても、未成熟のオリゴデンドロサイトの未分化(projenitor)細胞が脳室下帯(subventricular zone)のみならず・大脳皮質(cortex)の白質領域でも確認されており(Gensert & Goldman,1996)、ミエリン形成が崩壊と形成の動的平衡の下で、これら未分化なオリゴデンドロサイトの新生−移動−成熟によって担われている可能性が高い(Gensert & Goldman,1997;Roy et al.,1999)。[発明を実施するための形態]本発明は、従来の神経細胞のみを標的とした薬物による治療法と異なり、オリゴデンドロサイトに直接に、及び/又はアストロサイトを介して間接的にエリスロポエチンを作用させることにより、脱髄を防ぎ、それによって、未分化なオリゴデンドロサイトを成熟化させることで再髄鞘化を促進する作用が期待できる画期的な脱髄疾患の予防・治療薬及び予防・治療法を提供するものである。本発明における脱髄疾患とは、広義には髄鞘が一次性に障害される疾患群を意味するものであるが、実際には白質ジストロフィーなどの髄鞘形成不全疾患や原因の明らかな疾患を除いて、原因不明の炎症性の髄鞘病変を主体とする疾患群であると定義される。多発性硬化症(MS)は脱髄疾患の代表的疾患であり、病理学的には炎症性の脱髄を主体とする変化とグリオーシスが特徴である。病因は不明であるため、診断はその臨床的特徴である中枢神経病変の空間的多発性と時間的多発性によってなされる。さらに、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)、炎症性広汎性硬化症、急性、亜急性壊死性出血性脳脊髄炎等が脱髄疾患に含まれる。末梢神経組織において髄鞘はシュワン(Schwann)細胞によりそれらが障害されると末梢性の脱髄疾患が引き起こされる。しかしながら、本発明では中枢性の脱髄疾患について主に説明する。本発明で使用する活性成分であるエリスロポエチン(EPO)は、例えば、ヒト再生不良性貧血患者の尿から抽出して得られた天然のヒトEPO(特公平1−38,800号公報)や、ヒトEPOのアミノ酸配列に対応するメッセンジャーRNA(mRNA)を採取し、そのmRNAを利用して組換DNA体を作成し、次いで適当な宿主(例えば、大腸菌の如き菌類や、酵母類や、植物の細胞株や、COS細胞、チャイニーズハムスター卵巣細胞(CHO)、マウスC−127細胞等の動物の細胞株等)で生産させる遺伝子組換技術により製造されたもの〔例えば、特公平1−44,317号公報、Kenneth Jacobs等,Nature,313,806〜810(1985)〕等を挙げることができる。また、本発明で使用できるEPOは、上記由来のものの外に、それらの改変体であってもよい。EPO改変体としては、例えば、特開平3−151399号公報に記載された改変体が挙げられる。上記EPO改変体としては、もとの糖蛋白質のペプチド鎖のAsnがGlnに変異し、結合するN結合型糖鎖の結合数が変異したものがある。また他に、アミノ酸変異としては、特開平2−59599号公報、特開平3−72855号公報記載のものが挙げられる。即ち、EPOの有するEPOレセプターへの作用特性を失わない限り、アミノ酸の変異、欠失、付加は何個でもよい。本発明のEPOを有効成分とする製剤については、その投与方法や剤型に応じて必要により、懸濁化剤、溶解補助剤、安定化剤、等張化剤、保存剤、吸着防止剤等を添加することができる。ここで、懸濁化剤の例としては例えばメチルセルロース、ポリソルベート80、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、トラガント末、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート等を挙げることができ、溶解補助剤としては例えばポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリソルベート80、ニコチン酸アミド、ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、マグロゴール、ヒマシ油脂肪酸エチルエステル等を挙げることができ、安定化剤としては例えばヒト血清アルブミン、デキストラン40、メチルセルロース、ゼラチン、亜硫酸ナトリウム、メタ亜硫酸ナトリウム等を挙げることができ、等張化剤としては例えばD−マンニトール、ソルビトール等を挙げることができ、また、保存剤としては例えばパラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、ソルビン酸、フェノール、クレゾール、クロロクレゾール等を挙げることができ、更に、吸着防止剤としては例えばヒト血清アルブミン、レシチン、デキストラン、エチレンオキサイド・プロピレンオキサイド共重合体、ヒドロキシプロピルセルロース、メチルセルロース、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリエチレングリコール等を挙げることができる。本発明のEPOを有効成分とし、安定化剤としてある種のアミノ酸を添加することにより、ヒト血清アルブミンや精製ゼラチンを含まない安定なEPO溶液製剤を使用することもできる。この安定なEPO溶液製剤は特開平10−182481号公報に記載されている。この公報の説明は本明細書の一部に含まれるものとする。このEPO溶液製剤で安定化剤として添加するアミノ酸には、遊離のアミノ酸ならびにそのナトリウム塩、カリウム塩、塩酸塩などの塩を含む。本発明の溶液製剤には、これらのアミノ酸の1種または2種以上を組み合わせて添加することができる。好ましいアミノ酸は、D−、L−およびDL−体のロイシン、トリプトファン、セリン、グルタミン酸、アルギニン、ヒスチジンおよびリジンならびにその塩であり、より好ましいのはL−ロイシン、L−トリプトファン、L−グルタミン酸、L−アルギニン、L−ヒスチジンおよびL−リジンならびにその塩である。特に好ましいのは、L−アルギニン、L−ヒスチジンおよびL−リジンならびにその塩である。最も好ましいのはL−ヒスチジンならびにその塩である。この安定なEPO溶液製剤の製法等の詳細については上記公報に記載された通りである。本発明の目的の予防、治療薬における、これらEPOの投与量については、対象となる疾患やその病状等を配慮して適宜決定できるものであるが、投与量については、通常成人1人当たり0.1〜500μg、好ましくは5〜100μgである。以下に、本発明の効果を確認するための実験例を示す。[1]初代培養細胞の調整1−1: オリゴデンドロサイトの培養未熟な段階のオリゴデンドロサイト細胞の培養は胎生18日ラットを用いて行った。大脳をdispase II(0.3ng/ml,Boehringer Manheim)+0.05%DNAse(Boehringer Manheim)溶液[ダルベッコ改変イーグル培地(DMEM)]で酵素的に分散し、得られた分散細胞をDMEMで洗った後、ポアーサイズ70μm ナイロンメッシュ(Becton Dickinson,#2350)に通して、ポリ−L−リジン(ICN)コートした培養皿(1.4x107cells/60cm)上に蒔き5%CO2インキュベーター中で7日間培養した(phase I)。その後、細胞を0.25% trypsin/phosphate buffered saline(PBS)でパッセージ(passage)し、4℃、1,000回転で10分間遠心し、上清を捨て去った後、DMEM/10%胎児牛血清(FBS)で2×106cells/dishになるよう懸濁し蒔いた。2日後に無血清培地[DMEM+グルコース(5mg/ml)、インスリン(5μg/ml)、セレン酸ナトリウム(sodium selenate)(40ng/ml),トランスフェリン(transferrin)(100μg/ml)、プロゲストロン(progestron)(0.06ng/ml)、プトレスシン(putrescine)(16μg/ml)、チロキシン(thyroxine)(40ng/ml)、トリヨードサイロニン(triiodothyronine)(30ng/ml)、bFGF(2ng/ml)]に交換し、さらに5日間培養した(phase II)。このトリプシン(trypsin)処理でパッセージをし7日間培養するphase IIのプロセスを3回繰り返した細胞を未熟なオリゴデンドロサイトとして実験に用いた。1−2: アストロサイトの培養新生ラットの大脳を0.25%トリプシン溶液で37℃、10分間処理し、DMEM/5%子牛(CS)+0.2%グルコース培地を加えて、ポアーサイズ320μmの40番ステンレススチールメッシュに通し、培養皿に回収した。この細胞懸濁液を800rpmで5分間遠心し、上清を取り去り沈査を上記培地でピペッティングにより再懸濁し、再び遠心した。遠心−再懸濁を3回繰り返し、最後に細胞を106cells/mlとなるようDMEM/5%CS+0.4%グルコース、0.05%NaHCO3、292μg/mlグルタミン、100μg/mlカナマイシン培地で組織培養皿に蒔いた。5%CO2インキュベーターで2〜4週間培養後コンフルエントとなった細胞をセルバンカーで凍結保存した。この凍結細胞を起こし2週間程度培養したものを実験に用いた。1−3:オリゴデンドロサイトとアストロサイトとの共培養上記1−2の方法で培養し、ほぼコンフルエントとなったアストロサイトのフィーダーレーヤー(feeder layer)上で、上記1−1の方法で調製したオリゴデンドロサイトを蒔き培養した。1−4: ニューロンの培養妊娠18日目のラットから胎児脳を取り出し、顕微鏡下で、海馬を含む大脳新皮質組織を氷冷ハンクス・バランスド・塩溶液(HBSS)溶液中で単離した。単離組織をポアーサイズ320μm40番のメッシュ上でつぶし、DMEM/10%FBS:0.05%DNase/HBSS(1:1)混合溶液で洗い、メッシュに通した。次に、先端を丸く焼いたパスツールピペットを用いて、10−15回ピペッテイング後、100番のステンレススチールメッシュに通した後15mlの遠心管に回収し、遠心を行った(800rpm、4℃、10分)。上清を捨て去り、再び上記混合溶液に再懸濁し、ピペッテイング遠心を繰り返した細胞を、Neurobasal medium(Gibco)/B27supplement(Gibco):D−MEM/10%FBS(1:1)培地に懸濁し、レンズペーパーに通した後、細胞数を計測し、あらかじめポリリジンコートした皿に蒔き5%CO2インキュベーター中で培養した。24時間後、Neurobasal medium/B27supplement培地に交換し、その後、5−6日間培養したものを実験に供した。[2]RT−PCR法によるEPO受容体の発現検討上記方法で培養した各種細胞(オリゴデンドロサイト、アストロサイト、ニューロン)及び若い成熟ラットから単離した肝臓、腎臓をトライゾール溶液処理し(Gibco)、マニュアルの指示に従ってトータルRNAを抽出した。抽出したトータルRNA(約500ng)の逆転写反応はRNA/PCRキット(Takara社)を用いて42℃、30分、99℃で5分、5℃で5分で反応させ、cDNAを合成した(10μl)。この合成DNAに特異的な以下の各プライマー対を加え、上記PCRキットを用いて増幅した。対照としてベータアクチン(β−actin)を使用した。[3]免疫細胞化学(Immunocytochemistry)による検討免疫細胞化学の解析には細胞をマイクロカバーガラス(microcover grass)上で培養したものを用いた。3−1: 抗−EPO受容体(R)抗体を用いたEPO−Rの発現検討細胞をperiodate−lysine−paraformaldehyde(PLP)溶液で15分間固定し、blocking buffer(BB、PBS/10% Horse serum)で30分ブロッキング(blocking)の後、オリゴデンドロサイトの場合は抗−O4モノクローナル抗体(1/40希釈)、アストロサイトの場合には抗−GFAPポリクローナル抗体(1/2000希釈、Dako)で一晩或いは1時間処理した後、抗−マウスIgM(FITC標識、1/200希釈)[アストロサイトの場合は抗−ウサギIgG抗体(FITC標識、1/200希釈)]で1時間処理を行った。続いて、2%パラホルムアルデヒド(PFA)溶液で15分固定し、抗−EPO−R抗体(1/100希釈、Upstate biotechnology,No 06−406)1時間処理し、抗−ウサギIgG(ローダミン標識)1/200希釈溶液で一時間処理し封入した。細胞の写真は蛍光顕微鏡で撮影した。3−2: MBP発現細胞の割合MBP発現細胞は抗−MBP抗体を用いて免疫組織化学の手法により評価した。すなわち薬物添加3日後の上記細胞(オリゴデンドロサイト単独培養及びオリゴデンドロサイトとアストロサイトの共培養)を2%PFA溶液で30分固定し、0.1%Triton X−100/PBS溶液で10分間処理し、BBで30分ブロッキングを行った後、抗−MBPポリクローナル抗体(1/10希釈、Nichirei)で一時間処理、続いて抗−rabbit IgG(FITC標識)1/200希釈溶液で一時間処理し封入した。細胞の写真を蛍光顕微鏡で撮影し、MBP陽性細胞の比率と突起数を算定した。[4]BrdUの取り込み実験上記1−1、1−2の方法で培養したそれぞれの細胞を、オリゴデンドロサイトの場合は48時間、アストロサイトの場合は24時間、BrdU(最終濃度20μM)を取り込ませ、70%エタノールで−20℃、10分間固定し、2N−HClで10分0.1M−Na2B4O7で5分処理後、BBで30分ブロッキングを行い、1/500希釈した抗−BrdUモノクローナル抗体(Sigma B2531、1/1000希釈)を1時間添加し、抗−マウスIgG抗体(FITC標識)1時間処理後、蛍光顕微鏡でBrdU陽性細胞を計測した。[5]EPOの調製ヒト組換えエリスロポエチン(商品名:エポジン)は培地に添加する際に100倍希釈となるようPBS/10%FBS溶液で各濃度を調製し、対照はPBS/10%FBS溶液を用いた。(実験結果)EPO−R及びEPOの発現をPCR法で調べたところ,腎臓>オリゴデンドロサイト>肝臓>アストロサイトの強さの順で、EPOの発現が認められ、ニューロンでは極めて薄いバンドが確認された(図1)。EPO−Rは腎臓、オリゴデンドロサイトでやや強い発現がみられたものの、組織間でほぼ同じレベルであった(図1)。EPO−Rの発現を蛋白レベルで確認する目的で、免疫蛍光染色を行ったところ、O4陽性オリゴデンドロサイトで細胞体及び突起全体にわたってEPO−Rの発現が認められた(図2)。また、GFAP陽性アストロサイトでも、核を除く細胞表面上ほぼ全域にわたって粒状にEPO−Rの存在が確認された(図3)。これらの結果から、オリゴデンドロサイト及びアストロサイトはmRNAおよび蛋白レベルでEPO−Rを発現し、EPOに応答する細胞であることが推察される。そこで、組換えヒトEPO蛋白を培養した細胞の培地中に添加し、3日後の形態変化およびMBPの発現を調べることでオリゴデンドロサイトの成熟化に対する作用を検討した。その結果、図4から明らかなように対照に比べ処理(0.0001−0.1U/ml)した群で全てMBP陽性細胞数の割合の増加傾向がみられ、0.001U/ml濃度以上の処理群では有意な増加が認められた(*:p<0.05、**:p<0.01、Dunnetの多重比較)。また、細胞体当たりの突起数も同様にEPO処理で増加し、EPO 0.1U/ml添加では対照と比較し有意であった(p<0.05、Dunnetの多重比較)。一方アストロサイトでは、高濃度のEPO添加(1,10U/ml)で顕著なBrdUの取り込みが認められ(*:p<0.05、**:p<0.01)、この作用はEPO中和活性を有する抗EPO抗体、あるいは可溶性EPO受容体添加で、有意ではないものの減弱した(図5)。この結果と一致して、オリゴデンドロサイトの培養系に1−10U/mlの高濃度のEPOを添加すると、用量依存的に共存しているGFAP陽性アストロサイト数の有意な増加が認められ、併せてオリゴデンドロサイトの生存性、成熟(O1発現、突起数)が亢進した(図6)。次に、アストロサイト/オリゴデンドロサイト共培養系における抗−EPO抗体および可溶性EPO−R(sEPO−R)の効果について調べた。本発明者らはオリゴデンドロサイトをアストロサイトのフィーダーレーヤー上で培養すると、太い突起を形成し、MBP陽性が増加し成熟化が促進されることをこれまでに明らかにしている(Sakurai et al.,1998)。この共培養系に中和活性をもつ抗−EPO抗体あるいはsEPO−Rを添加し、オリゴデンドロサイトの成熟化を抗−MBP抗体による染色性および突起形成(細胞体当たり3本以上突起を有する細胞数)によりオリゴデンドロサイトの成熟度を評価した。図7に示す結果から明かのようにオリゴデンドロサイト単独培養に比べ、アストロサイト上で共培養すると、MBP陽性細胞数は顕著に増大し、突起形成の促進も認められた。一方、sEPO−R添加したものはcontrol群と比較し、MBP陽性細胞数の減少傾向および突起形成の有意な抑制が認められ(p<0.01,Dunnet多重比較)、抗−EPO抗体添加ではMBP陽性細胞数、突起形成共に有意な減少が認められた(p<0.01,Dunnet多重比較)。これらの結果は、アストロサイトとのinteractionによるオリゴデンドロサイトの成熟化に少なくとも部分的にEPOが関与することを示唆している。以上の結果は、in vitroではあるが脳内でEPOがオリゴデンドロサイトの成熟化を低濃度(0.001−0.1U/ml)では直接促進し、高濃度(>1U/ml)になるとアストロサイトの活性化を介してオリゴデンドロサイトの成熟化に作用する可能性を示唆するものである。このため、本発明は従来報告されているEPOのコリン作動性神経細胞に対する活性化作用(Konishi et al.,1993;Tabira et al.,1995;特開平5−92928号公報;特開平5−246885号公報)や、グルタミン酸神経毒性に対する神経保護効果(Morishita et al.,1997)、脳虚血による神経細胞死抑制効果(Sakanaka et al.,1998;Sadamoto et al.,1998;Bernaudin et al.,1999)等の神経細胞に対する効果と異なり、オリゴデンドロサイトに対する作用を示した初めてのものである。近年、多発性硬化症のみなずら脳血管性の痴呆症やアルツハイマー病でも脱髄が指摘され、これまでの神経細胞に作用する薬剤だけでは痴呆を呈するこれらの疾患をケアーすることは困難と考えられる。脱髄が既に起こってしまった神経細胞は、オリゴデンドロサイトの存在がなければやがて死に至る。しかしミエリン形成は成体(成熟後)でも継続し、未分化なオリゴデンドロサイトのプロジェニター(projenitor)細胞が脳室下帯から生まれ、大脳皮質の白質領域へと移動しそこで成熟し新たなミエリン形成を行うことが明らかになりつつあり、ミエリンの崩壊と形成のサイクルの存在が示唆されている(Gensert & Goldman,1996、1997;Roy et al.,1999)。本発明は、このサイクルを活性化することにより、従来の神経細胞に対する保護剤だけでは治癒できなかった脱髄性の疾患を、オリゴデンドロサイトの成熟化によるミエリンの修復によって治療しようとするものであり、脱髄を伴う広範な脳疾患に対する治療薬としてEPOが有効であると考えられる。以下、製剤に関する実施例を示す。実施例1エリスロポエチン 8μg注射用蒸留水にて全量 2ml上記組成比で無菌的に溶液を調製し、バイアル瓶に分注し、密封した。【0025】実施例2エリスロポエチン 8μg注射用蒸留水にて全量 2ml上記組成比で無菌的に溶液を調製し、バイアル瓶に分注し、凍結乾燥して密封した。実施例3エリスロポエチン 16μg注射用蒸留水にて全量 2ml上記組成比で無菌的に溶液を調製し、バイアル瓶に分注し、密封した。実施例4エリスロポエチン 16μg注射用蒸留水にて全量 2ml上記組成比で無菌的に溶液を調製し、バイアル瓶に分注し、凍結乾燥して密封した。実施例5エリスロポエチン 8μgヒト血清アルブミン 5mg注射用蒸留水にて全量 2ml上記組成比で無菌的に溶液を調製し、バイアル瓶に分注し、密封した。実施例6エリスロポエチン 8μgヒト血清アルブミン 5mg注射用蒸留水にて全量 2ml上記組成比で無菌的に溶液を調製し、バイアル瓶に分注し、凍結乾燥して密封した。実施例7エリスロポエチン 16μgヒト血清アルブミン 5mg注射用蒸留水にて全量 2ml上記組成比で無菌的に溶液を調製し、バイアル瓶に分注し、密封した。実施例8エリスロポエチン 16μgゼラチン 5mg注射用蒸留水にて全量 2ml上記組成比で無菌的に溶液を調製し、バイアル瓶に分注し、凍結乾燥して密封した。実施例9〜12実施例5〜8におけるヒト血清アルブミンに代えて5mgのデキストラン40を用い、これら実施例5〜8と同様にして注射剤を調製した。実施例13注射用蒸留水100ml中にD−マンニトール5g、エリスロポエチン1mg、ヒト血清アルブミン100mgを無菌的に溶解して水溶液を調製し、1mlずつバイアル瓶に分注し、凍結乾燥して密封した。実施例14調剤溶液1ml中に以下の成分:EPO 1500国際単位非イオン性界面活性剤 0.05mg(ポリソルベート80:日光ケミカル社製)塩化ナトリウム 8.5mgL−アルギニン塩酸塩(Sigma社製) 10 mgを含み、10mMリン酸緩衝溶液(和光純薬社製)にてpH6.0に調整した溶液を、5mlのガラスバイアルに1ml充填し、打栓、密封し、溶液製剤に供した。実施例15調剤溶液1ml中に以下の成分:EPO 1500国際単位非イオン性界面活性剤 0.05mg(ポリソルベート80:日光ケミカル社製)塩化ナトリウム 8.5mgL−ヒスチジン塩酸塩(Sigma社製) 10mg上記実施例14と同様に溶液製剤を調製した。実施例16調剤溶液1ml中に以下の成分:EPO 1500国際単位非イオン性界面活性剤 0.05mg(ポリソルベート80:日光ケミカル社製)塩化ナトリウム 8.5mgL−リジン塩酸塩(Sigma社製) 10mg上記実施例14と同様に溶液製剤を調製した。[産業上の利用の可能性]本発明のEPOを有効成分とする製剤は、従来の神経細胞のみを標的とした薬物による治療法と異なり、オリゴデンドロサイトに直接及びアストロサイトを介して間接的にエリスロポエチンを作用させることにより、脱髄を防ぎ、それによって、未分化なオリゴデンドロサイトを成熟化させることで再髄鞘化を促進する作用が期待できる画期的な脱髄疾患の予防・治療薬である。(引用文献)【図面の簡単な説明】図1は、培養神経系細胞及び単離した腎臓、肝臓組織におけるEPO及びEPO−RのmRNAレベルでの発現を示す写真である。ラット胎児脳から初代培養した神経系細胞(オリゴデンドロサイト、アストロサイト、ニューロン)及びadultラットから単離した腎臓、肝臓組織を用いて、RT−PCR法でmRNAレベルでのEPO及びEPO−Rの発現を調べたところ、用いた全ての細胞・組織でEPO−Rの発現と、腎臓に匹敵する程度の強いEPOの発現がオリゴデンドロサイトに認められた。β−actinはコントロールとして用いた。図2は、オリゴデンドロサイト細胞におけるEPO−Rの発現を示す写真である。O4陽性オリゴデンドロサイト(b)は、EPO−Rの発現が細胞体全域および突起に認められた(c)。 写真aは位相差写真である。図3は、アストロサイト細胞におけるEPO−Rの発現を示す写真である。GFAP陽性アストロサイト(B)は、EPO−Rの発現が核を除く細胞表面上に広く粒状に観察された(A)。写真Cは位相差写真である。図4は、MBP陽性オリゴデンドロサイト細胞の割合に対するEPOの影響(A)とEPOによる細胞当たりの平均突起数の変化(B)を示すグラフである。各濃度のEPO(0.0001−0.1U/ml)を3日間処理した後、抗−MBP抗体陽性細胞の割合と細胞当たりの突起数を蛍光顕微鏡で写真撮影後計測すると、EPO添加によりMBP陽性の上昇と突起数の増大がみられる。数値は平均値±標準誤差で表し、6つの独立した観察から値を求めた。統計的有意差はDunnetの多重比較で検定した(*:p<0.05、**:p<0.01)。図5は、アストロサイトのBrdU取り込みに対するEPOの作用を示すグラフである。細胞にBrdU(20μM)と薬物を添加し、24時間後に細胞固定後、抗−BrdU抗体及び抗−GFAP抗体で免疫染色し、BrdU陽性細胞数の割合を計測した。LPS(20μg/ml)、EPO添加により用量依存的なBrdUの取り込み促進が認められた。数値は3−4つの独立した観察の平均値±標準誤差で表す。統計的有意差はDunnetの多重比較で検定した(*:p<0.05、**:p<0.01)。図6は、オリゴデンドロサイトの培養系において、共存アストロサイト数の増加に及ぼす高濃度EPOの影響を示すグラフである。高濃度のEPO(1,3,10U/ml)を培養系に添加したところ、1U/ml以上のEPO添加で、用量依存的に共存するGFAP陽性アストロサイト数の増加が観察され(A)、併せてオリゴデンドロサイト(O1陽性)の生存数の増大(B)や、成熟促進(突起の発達)(C)も観察された。数値は4−6の独立した観察の平均値±標準誤差で表し、統計的有意差はDunnetの多重比較で検定した(*:p<0.05、**:p<0.01)。図7は、アストロサイト/オリゴデンドロサイト共培養系における、オリゴデンドロサイトの成熟促進に及ぼす可溶性EPO−R、抗−EPO抗体添加の影響を示すグラフである。アストロサイトのfeeder layer上にオリゴデンドロサイトを培養し、細胞接着後可溶性EPO−R、抗−EPO抗体を添加し、3日後に抗−MBP抗体による免疫染色を行うことで、MBP陽性細胞の割合と、細胞体当たり3本以上の突起を形成しているMBP陽性細胞の割合を算定した。数値は平均値±標準誤差で表し、4−7つの独立した観察から値を求めた。統計的有意差はDunnetの多重比較で検定した(*:p<0.05、**:p<0.01)。 エリスロポエチンを有効成分として含む、オリゴデンドロサイト細胞の生存賦活化剤。 エリスロポエチンを有効成分として含む、オリゴデンドロサイト細胞の成熟化促進剤。 エリスロポエチンを有効成分として含む、オリゴデンドロサイト細胞の生存賦活化に基づく脱髄抑制剤。 エリスロポエチンを有効成分として含む、オリゴデンドロサイト細胞の成熟化促進を介する再髄鞘形成活性化剤。 オリゴデンドロサイト細胞の生存賦活化剤を調製するための、エリスロポエチンの使用。 オリゴデンドロサイト細胞の成熟化促進剤を調製するための、エリスロポエチンの使用。 オリゴデンドロサイト細胞の生存賦活化に基づく脱髄抑制剤を調製するための、エリスロポエチンの使用。 オリゴデンドロサイト細胞の成熟化促進を介した再髄鞘形成活性化剤を調製するための、エリスロポエチンの使用。


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