生命科学関連特許情報

タイトル:再公表特許(A1)_エレクトロスプレーによる遺伝子の細胞内導入方法およびそのための装置
出願番号:2009055783
年次:2011
IPC分類:C12N 15/09,C12M 1/00


特許情報キャッシュ

池本 一人 JP WO2009119559 20091001 JP2009055783 20090324 エレクトロスプレーによる遺伝子の細胞内導入方法およびそのための装置 三菱瓦斯化学株式会社 000004466 永井 隆 100117891 池本 一人 JP 2008077014 20080325 C12N 15/09 20060101AFI20110624BHJP C12M 1/00 20060101ALI20110624BHJP JPC12N15/00 AC12M1/00 A AP(BW,GH,GM,KE,LS,MW,MZ,NA,SD,SL,SZ,TZ,UG,ZM,ZW),EA(AM,AZ,BY,KG,KZ,MD,RU,TJ,TM),EP(AT,BE,BG,CH,CY,CZ,DE,DK,EE,ES,FI,FR,GB,GR,HR,HU,IE,IS,IT,LT,LU,LV,MC,MK,MT,NL,NO,PL,PT,RO,SE,SI,SK,TR),OA(BF,BJ,CF,CG,CI,CM,GA,GN,GQ,GW,ML,MR,NE,SN,TD,TG),AE,AG,AL,AM,AO,AT,AU,AZ,BA,BB,BG,BH,BR,BW,BY,BZ,CA,CH,CN,CO,CR,CU,CZ,DE,DK,DM,DO,DZ,EC,EE,EG,ES,FI,GB,GD,GE,GH,GM,GT,HN,HR,HU,ID,IL,IN,IS,JP,KE,KG,KM,KN,KP,KR,KZ,LA,LC,LK,LR,LS,LT,LU,LY,MA,MD,ME,MG,MK,MN,MW,MX,MY,MZ,NA,NG,NI,NO,NZ,OM,PG,PH,PL,PT,RO,RS,RU,SC,SD,SE,SG,SK,SL,SM,ST,SV,SY,TJ,TM,TN,TR,TT,TZ,UA,UG,US,UZ,VC,VN,ZA,ZM,ZW 再公表特許(A1) 20110721 2010505660 16 4B024 4B029 4B024AA19 4B024AA20 4B024BA80 4B024CA01 4B024DA01 4B024DA02 4B024DA05 4B024GA11 4B024HA17 4B024HA20 4B029AA24 4B029BB01 4B029BB20 4B029CC01 4B029DG10 本発明は、細胞と細胞内導入遺伝子を容器内で接触させた後、細胞内導入遺伝子を含まないスプレー液を細胞と細胞内導入遺伝子にエレクトロスプレーすることによって、細胞内に細胞内導入遺伝子を導入する方法において、該遺伝子をできる限り分解させることなく、効率的に細胞内に導入するためのエレクトロスプレーによる細胞内導入遺伝子の細胞内導入方法およびそのための装置に関する。DNAやRNA等の核酸塩基類からなる遺伝子を無傷な形で効率よく細胞に導入できるエレクトロスプレー方法およびそのための装置は、医療、農業等に関連した研究、応用分野で大変有用な技術的手段となる。 エレクトロスプレー現象はスプレー用のノズルに高電圧を印加することでノズル先端に電荷を集め、その電荷が集まったノズル先端部分に液体を通すことにより、スプレー液を高圧に帯電した微細な液滴となし、対向電極に向かって高速でスプレーする方法である。 このエレクトロスプレーを利用した遺伝子導入法の一つとしてパーティクル法がある。この方法は、キャピラリーの先端を通過させる際にパーティクルを含む懸濁液に高電圧を印加し、細胞にスプレーする方法である(例えば、特許文献1参照)。また、細胞と細胞内導入遺伝子を接触させた後、細胞内導入遺伝子を含まない液体を細胞と細胞内導入遺伝子にエレクトロスプレーすることによって、多種類の細胞内導入遺伝子を連続的かつ簡便に細胞内に導入する方法および装置も開発されている(例えば、特許文献2、3参照)。 このように、エレクトロスプレーを利用した遺伝子の細胞内導入方法は、スプレー液に高電圧を印加しスプレーするという物理的手段で遺伝子を細胞内に導入できるという簡便性において大変優れた特徴を有するが、反面、遺伝子の細胞内への導入率の面で必ずしも充分ではなく、改善の余地を残すという問題があった。 そこで、本発明者は、高い導入率で細胞内導入遺伝子を細胞内に導入できるエレクトロスプレーについて検討したところ、DNA、RNAのような核酸塩基類からなる遺伝子がエレクトロスプレー処理する段階で高率に分解していること、またこの分解現象が細胞内導入遺伝子を含むスプレー液を細胞にエレクトロスプレーした場合だけではなく、容器内で細胞と細胞内導入遺伝子を接触させた後に、遺伝子を含まないスプレー液をエレクトロスプレーした際にも起こることを見出した。このような遺伝子の分解は、単に物質としての細胞内導入効率を下げるだけではなく、遺伝子としての発現率の低下や間違った遺伝情報の発現につながる可能性があり、極めて不都合である。 エレクトロスプレーと遺伝子の分解について触れた例としては、DNAを含む液体をエレクトロスプレーした際に、DNAのフラグメンテーションが起こったことを示す報告(例えば、非特許文献3参照)、また、フラグメンテーションのような低分子量化だけでなく、高分子量化も起こったことを示す報告(例えば、非特許文献4参照)がある。しかしながら、これらの報告は何れも質量分析時に遺伝子の分解現象が起こったことを示すに止まっており、その原因の究明と対策は全くなされていない。 ところで、常識的発想として、フラグメンテーションの発生を抑制するためには、印加する電圧を下げることが有効と考えられるが、細胞内に遺伝子を導入する場合、印加する電圧を下げることは、同時に遺伝子の導入率も下げてしまうことになることから得策とは言えない。また、細胞に遺伝子を導入しようとエレクトロスプレーする場合の方が、質量分析時に印加する電圧よりも高電圧を必要とする場合が多いので相応しい対応法とは言えない。このように、エレクトロスプレーによって細胞内に遺伝子を導入しようとした場合に起こる遺伝子の分解現象を回避し、高率かつ簡便に多検体の遺伝子サンプルを細胞内に導入できる方法およびそれを行うための装置を提供することが強く望まれている。米国特許第6746869号明細書特願第2006-136851号明細書特願第2006-136856号明細書J. B. Fenn, M. Mann, C. K. Meng, S. F. Wong, C. M. Whitehouse, Science, 1989, vol.246, p64-71.Z. Takats, J. M. Wiseman, B. Gologan, R. G. Cooks, Science, 2004, vol.306, p471-473.E.Nordhoff, F. Kirperkar, P. Roepstorff, Mass Spectrometry Reviews, 1996, 15, P67-138.Xueheng Cheng,, David G. Camp , Qinyuan Wu,, Ray Bakhtiar, David L. Springer, Brendt J. Morris,, James E. Bruce, Gordon A. Anderson, Charles G. Edmonds,Richard D. Smith,Nucleic Acids Research, 1996, Vol. 24, No. 112183-2189 本発明の課題は、DNAやRNAのような核酸塩基類からなる遺伝子をできる限り分解させることなく、高い導入率でしかも迅速かつ簡便に細胞内に導入できるエレクトロスプレーを用いた細胞内導入遺伝子の細胞内導入方法およびその方法で用いる装置を提供することにある。 本発明者は、エレクトロスプレー時に起こる遺伝子の分解原因とその防止法について鋭意検討した。その結果、遺伝子の分解が放電電流によって起こっていること、エレクトロスプレー時、細胞内導入遺伝子と細胞に流れる電流量を50μA以下になるように制御することによって細胞内導入遺伝子の分解を抑制できること、また、その達成方法として、エレクトロスプレー用ノズルの構造を導電体からなる高電圧印加用のチューブ部分と、絶縁体からなるスプレー液噴射用のチューブ部分に分け、スプレー液に高電圧を印加する工程と、スプレー液を噴射して霧状の微細な液滴となす工程を別々に行えるようにすることで、エレクトロスプレーの原理が適用でき、かつチューブの先端部分等より起こる放電現象を回避できるようになるため、細胞内導入遺伝子の細胞内導入効率が飛躍的に向上することを見出し、本発明を完成させるに至った。 すなわち、本発明は以下の(1)〜(12)に示す、エレクトロスプレー時に起こる遺伝子の分解を抑制し、高い導入率で迅速かつ簡便に細胞内に導入できる方法およびこの方法に用いる装置に関する。(1)細胞と細胞内導入遺伝子を容器内で接触させた後、細胞内導入遺伝子を含まないスプレー液を容器内の細胞と細胞内導入遺伝子にエレクトロスプレーすることによって、細胞内に細胞内導入遺伝子を導入する方法において、エレクトロスプレー用のノズルとして、スプレー液注入口側に位置する導電体からなる高電圧印加用のチューブ部分と、スプレー液噴射口側に位置する絶縁体からなるスプレー用のチューブ部分とを有するノズルを用いることを特徴とする、エレクトロスプレーによる細胞内導入遺伝子の細胞内導入方法。(2)エレクトロスプレー用のノズルとして、スプレー液注入口側に位置する導電体からなる高電圧印加用のチューブ部分と、スプレー液噴射口側に位置する絶縁体からなるスプレー用のチューブ部分の噴射口先端部分との最短距離が5mm〜500mmの範囲にあるノズルを用いる、(1)に記載のエレクトロスプレーによる細胞内導入遺伝子の細胞内導入方法。(3)容器内の細胞と細胞内導入遺伝子に流れる電流量が50μAを超えないように制御してエレクトロスプレーする、(1)に記載のエレクトロスプレーによる細胞内導入遺伝子の細胞内導入方法。(4)スプレー液噴射口側に位置する絶縁体からなるスプレー用のチューブ部分の噴射口先端部分と、容器に入った細胞と細胞内導入遺伝子との間に電流をバイパスさせる電極を設置し、細胞と細胞内導入遺伝子に流れる電流量が50μAを超えないように制御してエレクトロスプレーする、(3)に記載のエレクトロスプレーによる細胞内導入遺伝子の細胞内導入方法。(5)エレクトロスプレー用のノズルのスプレー液注入口側とその上流にあるスプレー液送液ラインとの間に、スプレー液を滴下させることによってスプレー液の電気的連絡を絶つ構造物を設け、漏電が起こらないようにしてエレクトロスプレーする、(1)に記載のエレクトロスプレーによる細胞内導入遺伝子の細胞内導入方法。(6)(1)〜(5)の何れか1項に記載したエレクトロスプレーによる細胞内導入遺伝子の細胞内導入方法に用いる装置。(7)スプレー液注入口側に位置する導電体からなる高電圧印加用のチューブ部分と、スプレー液噴射口側に位置する絶縁体からなるスプレー用のチューブ部分とを有することを特徴とする、エレクトロスプレー用のノズル。(8)前記高電圧印加用のチューブ部分と、前記スプレー用のチューブ部分の噴射口先端部分との最短距離が5mm〜500mmの範囲にある、(7)に記載のエレクトロスプレー用のノズル。(9)細胞と細胞内導入遺伝子を入れるための容器と、細胞内導入遺伝子を含まないスプレー液を容器内の細胞と細胞内導入遺伝子にエレクトロスプレーするためのノズルと、該ノズルに高電圧を印加するための高圧電源とを少なくとも備え、該ノズルが(7)又は(8)に記載のエレクトロスプレー用のノズルであることを特徴とする、細胞内導入遺伝子の細胞内導入装置。(10)さらに、容器内の細胞と細胞内導入遺伝子に流れる電流量が50μAを超えないように制御する手段を備えてなる、(9)に記載の装置。(11)前記電流量が50μAを超えないように制御する手段は、前記スプレー用のチューブ部分の噴射口先端部分と、前記容器との間に設置された電流をバイパスさせる電極からなる、(10)に記載の装置。(12)さらに、前記ノズルのスプレー液注入口側とその上流にあるスプレー液送液ラインとの間に、漏電防止手段として、スプレー液を滴下させることによってスプレー液の電気的連絡を絶つ構造物を備えてなる、(9)〜(11)の何れか1項に記載の装置。 このエレクトロスプレー方法および装置を用いることによって、多数の細胞内導入遺伝子検体を、簡便かつ短時間に、高い導入率で細胞内に導入することが可能となる。 以下本発明の実施形態について詳細に説明する。 本発明は、エレクトロスプレーを行う際、細胞内導入物質である遺伝子の分解をできる限り起こさないようにするための方法および装置である。本発明における細胞内導入遺伝子としては、DNAやRNA、またはそれらの類似化合物や誘導体等の核酸塩基類が挙げられる。これらはプラスミド、ファージ、ウイルス、ウイロイド、オリゴDNA、オリゴRNA、またはマイクロRNA等の形態で提供される。塩基配列の大きさは特に断りがない。塩基は二本鎖、一本鎖どちらでもかまわない。また、主鎖の異なる核酸類似物や人工塩基をつけた核酸でもかまわない。なお、本発明の方法および装置は、遺伝子以外の蛋白、ペプチド、糖、脂質、農薬、抗菌剤、金属イオン、蛍光標識試薬、または同位体標識試薬等を細胞内に導入する際にも当然ながら使用できる。 本発明の方法および装置は、細胞と細胞内導入遺伝子を接触させた後、細胞内導入遺伝子を含まないスプレー液をエレクトロスプレーすることによって、細胞内導入遺伝子を細胞内に導入するときに非常に有効である。なお、細胞内導入遺伝子を含むスプレー液を細胞に対してエレクトロスプレーする場合にも当然ながら有効である。 ところで、これまでのエレクトロスプレー用のノズルは、ノズル先端部分の噴射口領域でも高電圧が印加できるように、全体が導電体からなるノズル、全体が絶縁体からなりスプレー液が通る内側を導電材料で被覆したノズル、または全体が絶縁体からなりスプレー液が通る内側に導電体からなる細管を挿入したノズルを用いてきた。そのため、導電性の部分が針電極として働き、コロナ放電を生じたが、本発明者はこの放電による電流が原因で遺伝子に低分子量化と高分子量化が生じていることを突き止めた。 また、高電圧を印加する部分と噴射を行う部分とは必ずしも電気的に繋がっている必要はなく、両部分が一定範囲の距離にあるように工夫すれば、ノズルからの放電を回避しながら、スプレー液に高電圧を印加し噴射させることができることを見出した。すなわち、本発明の方法および装置は、細胞と細胞内導入遺伝子を容器内で接触させた後、細胞内導入遺伝子を含まないスプレー液を容器内の細胞と細胞内導入遺伝子にエレクトロスプレーすることによって、細胞内に細胞内導入遺伝子を導入する方法および装置において、スプレー液注入口側に位置する導電体からなる高電圧印加用のチューブ部分と、スプレー液噴射口側に位置する絶縁体からなるスプレー用のチューブ部分とを有するノズルを用いることを特徴とする。 具体的な構造を図1に示す。スプレー液1が、高圧電源2により高電圧に印加された高電圧印加部3で高電圧になり、しかる後に絶縁性チューブ4の先端からエレクトロスプレーされる構造である。チューブ4が絶縁材料であるため高電圧が印加され、内部に液体がない場合は放電しない。また、スプレー液1がチューブ4内部を満たし高電圧になっても絶縁体となっているためチューブ4が導電性材料である場合より放電量は減少する。また、同様に高電圧を印加した状態で絶縁チューブ4に接触しても感電しない。 スプレー液噴射口側に位置する絶縁体からなるチューブ部分の材料は、絶縁物であれば特に制限されない。好ましいのはプラスチックで、具体的にはフェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂、スチレン系樹脂、塩化ビニル樹脂、ナイロン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアセタール樹脂、フッ素系樹脂、ポリエーテルケトン樹脂、またはシリコーン樹脂等が挙げられる。特に、ポリエチレン、ポリプロピレン、テフロン(登録商標)、ポリエーテルケトン、またはシリコーンがチューブ材料として入手し易く使用しやすい。 このように、スプレー液噴射口側が絶縁体からなるチューブより構成されているスプレー用ノズルを用いることによって、ノズル先端部分からの放電電流を抑えることが可能となる。本発明の有効な使用条件を図2に示す。スプレー液1が高圧電源2により高電圧が印加された高電圧印加部3で高電圧になり、絶縁性チューブ4の先端から細胞と細胞内導入物質である遺伝子が入った容器5に対してエレクトロスプレーされる構造である。容器5は電荷が貯まらないようにグランド電位になるように接続されている。 絶縁体からなるチューブの先端部分の穴の内径は1μm〜10mmが好ましく、0.1mm〜5mmがより好ましい。穴の内径が1μmを下回る場合は送液時の圧力損失が大きくなり、10mmを超える場合はスプレー液のスプレー化が難しくなり過大な液速を必要とすることになるので不経済である。またチューブの長さは、スプレー液注入口側に位置する導電体からなる高電圧印加用のチューブ部分と、スプレー液噴射口側に位置する絶縁体からなるスプレー用のチューブ部分の噴射口先端部分との最短距離が5mm〜500mm、好ましくは10mm〜200mmあるノズルを用いることが望ましい。5mmより短いと放電の危険性が増し、500mmよりも長い場合はスプレー液に加えるポンプ圧の上昇と操作上の不便さを伴う。 印加する電圧は細胞との距離、チューブの大きさ、エレクトロスプレーする液体の流量や性状等から最適値を求めて決めれば良く、チューブ先端の液体と細胞との電位差で0.1kV〜100kVが好ましく、1kV〜20kVの範囲がより好ましい。チューブに印加する電圧の極性は正負どちらでも良い。 ノズル先端と、細胞内導入遺伝子と細胞の入った容器までの距離は1〜200mmが好ましく、5〜100mmがより好ましい。これに対して、導電体のみで構成された、例えば金属製のノズルを使用した場合、両者間の距離を200mm以下の距離に調整すると、高電圧を印加した時点よりコロナ放電が始まり、以降終了時まで継続する。そのために核酸塩基類の分解が顕著となる。 さらに細胞内導入遺伝子の分解を制御すなわち抑制する方法又は手段として、スプレー用ノズルと細胞との間に電流をバイパスする電極を設置することが有効である。図3にその例を示す。スプレー液1が高圧電源2により高電圧に印加された高電圧印加部3で高電圧になり、チューブの先端4から、電流バイパスする電極6を経て、細胞の入った容器5にエレクトロスプレーされる構造である。なお、バイパス用電極6はグランド電位にしてある。その形状はエレクトロスプレーされる液体は通過させ、電流をバイパスできる構造であればよく、例えば、導電材料でできた穴あき電極が容易にその役目を果たす。また、網電極、リング上電極等でもその役目を果たすことができる。 穴あき電極を使用する場合、穴の直径は3mm〜300mmが好ましく、より好ましくは5mm〜150mmである。穴の直径が3mmを下回る場合には、放電電流はバイパスできるが、スプレーしにくくなり細胞にあたるスプレー液量が減少してしまう。これに対し、穴の直径が300mmを超える場合には、スプレーする上で支障はないが、放電電流をキャッチしバイパスすることができなくなってしまう。 このように、放電電流を抑制する構造として、ノズル4を絶縁体とした上、さらにバイパス電極を組み合わせることで、容器に流れる電流を抑制し核酸塩基類の分解をさらに低減することが可能となる。なお、バイパス電極の位置は、細胞と細胞内導入遺伝子が入った容器とスプレーノズルの先端部分との間にあればよく、その形状によって最適な位置を選択すればよい。 本発明で使用するスプレー液としては、種々の程度に電解質を含む水溶液を用いる場合が多く、導電性を有するため、高電圧で印加した際、液体全体が高電圧となり感電や電気回路の破損を招く危険性を伴う。その対策として、スプレー液の送液ラインと導電体からなる高電圧印加用のチューブ部分と間に、例えば、点滴構造からなる絶縁部を設けスプレー液の連絡を絶つことによって漏電が起こらないようにすることができる。これによって、感電の危険性を下げられるとともに、単位時間当たりに印加すべきスプレー液量を減らすことができる。図4に具体的に示す。点滴構造7は高電圧印加部3より上流に設け、印加されたスプレー液体から高電圧が伝わらないようにする。点滴構造の内部には空気等のガスがあることで電気的に絶縁することができる。 核酸塩基類の分解を抑制するためには、細胞内導入遺伝子と細胞に流れる電流を50μA以下にすることが重要であり、好ましくは20μA以下にすることが望ましい。この通過電流の制御すなわち抑制を行う方法又は手段としては、上記バイパス電極を設けること以外には、高圧電源に電流出力制限を設けることが有効である。また、積算電流量も重要である。細胞および細胞内導入物質に対してエレクトロスプレーする時間が長時間になると分解は進み易くなる。その意味で、エレクトロスプレーする際の電流は50μA以下かつ照射時間は2分以下にすることが好ましく、20μA以下かつ1分以下にすることがより好ましい。 本発明者は、エレクトロスプレーする際に起こる核酸塩基類の分解、つまり低分子量化と高分子量化が次のような機序で起こっているものと予想している。すなわち、高電圧を印加されたチューブは不均一電界によりコロナ放電を発生している。このコロナ放電によってプラズマ重合のようにラジカルが発生する。発生したラジカルによりDNAの加水分解、酸化分解等が起こり、低分子量化する。また、発生したラジカルにより核酸部が分子間のカップリング反応することで高分子量化する。このように、全体として、プラズマ分解とプラズマ重合が同時に進行していると予想している。放電下に作成したDNA分解物を分子量測定用のアガロースゲルで、ゲル濃度を0.3%〜1%に変え電気泳動してみたが何れの場合も移動しなかった。また、このDNA分解物を制限酵素で処理した上、アガロースゲルに掛けてみたが、同様にいずれのゲル濃度でも泳動が認められなかった。この結果より、放電下での分解により、少なくとも60kbp以上の、制限酵素による切断を受けない物質に変性しているものと思われた。 本発明で使用する細胞は特に制限がなく、動物、植物、または微生物の細胞の何れでもよい。また、細胞だけでなく組織、臓器、生体であってもかまわない。また、卵、精子、花粉、胞子、種子のような生殖細胞類を対象にすることも当然可能である。 次に、遺伝子の細胞内導入方法について操作手順に従って説明する。細胞は培地を除き、細胞を露出する。そこに細胞内導入遺伝子を含んだ水溶液を入れ細胞と接触させる。次いで、エレクトロスプレー装置を使用して、エレクトロスプレーされた液体が細胞全体に当たるようにチューブを動かす。これで細胞内導入遺伝子の細胞内への導入作業が終了する。終了後、培地を加え遺伝子が導入された細胞の培養を行う。このように、本発明のエレクトロスプレー方法および装置を用いることにより、細胞内導入遺伝子を、分解を抑えながら安全かつ迅速に、高い導入率で細胞内に導入することが可能となる。 以下、実施例および比較例を以て本発明の内容をさらに詳しく示すが、これらの例のみに本発明は限定されない。実施例1DNA分解抑制実験1)実験装置 実験に使用したエレクトロスプレー装置の構造を図5に示す。 スプレー液(水)1はチューブポンプ10によって点滴構造7に導入される。滴下された水はスプレー用のノズル上部にあるニッケルメッキされた金属製チューブ3の内部を通過する。この金属製チューブは高圧電源2につながっていて水に高電圧を印加する。さらに、この金属製チューブは絶縁体からなるスプレー用のチューブ4につながり、ここから、穴あき電極6を通過してグランド電位になったジャッキ9の上のシャーレ5にスプレーされる。シャーレ内部はステンレスリボン8によってグランド電位になっている。装置全体はクリーンブース11内部に設置してある。なお、実験によって穴あき電極のない装置を用いて実験を行った。2)実験条件 穴あき電極を使用せずに実験を行った。 直径3.5cmのポリスチレン製シャーレに水200μLと4.7kbpのプラスミドDNA(100μg/mL)100μLを加えた。使用したプラスミドDNA10μgのうち、スーパーコイル型の構造は90%の9μg含有している。長さ4cmのポリプロピレン製のチューブ(外径0.74mm、内径0.33mm)で高さ2cmから−15kV印加し100μLの水を流量100μL/minでスプレーした。スプレー後、サンプル10μLとローディングバッファーを1μL混合し、10μL電気泳動した。このとき高圧電源の出力としてシャーレに流れた電流は28μAであった。この時のスーパーコイル型は7.2μg存在していた。スーパーコイル型DNAの分解率は20%であった。比較例1 実施例1と同様に実験を行った。ただし、スプレーに使用するチューブは長さ1.5cmのステンレス製(外径0.35mm、内径0.17mm)を使用した。このときに高圧電源の出力としてシャーレに流れた電流は57μAであった。この時のスーパーコイル型の存在量は0.5μgであった。スーパーコイル型DNAの分解率は94%であった。比較例2 実施例1と同様に実験をおこなった。ただし、水をスプレーせず、電圧を印加して5分間放置した。スプレーに使用するチューブは長さ1.5cmのステンレス製(外径0.35mm、内径0.17mm)を使用した。このときに流れた電流は61μAであった。この時のスーパーコイル型の存在量は0.09μgであった。スーパーコイル型DNAの分解率は99%であった。 1%濃度のアガロースゲルを使用した電気泳動を行った結果、およそ500から5kbpに相当する範囲のブロードなバンドと電気泳動されないバンドが観察された。ブロードのバンドはプラスミドより低分子量の領域で、分解による低分子量化が起きていた。 電気泳動されなかったバンドに注目して、どのくらい高分子量のものができているか知る為に、アガロースゲルのゲルの濃度を1%から0.3%に下げて5〜60kbpの大きさを分析可能にして電気泳動した。しかし、泳動されず、電気の放電でDNAは少なくとも60kbpを上回る程度まで高分子化していることが推定された。このように、プラスミドの分解は低分子量のDNAを生成するだけではなく、電気泳動で動かない高分子量の分解物も生じていることが電気泳動結果より示された。実施例2 穴あき電極を採用して実験した。 穴あき電極の大きさは100mm×100mmの銅張りの紙フェノール板に直径4cmの穴を開けた。チューブの先端とシャーレまでの高さは4cmとしてこの中間にこの電極を設置し、グランド電位とした。4.7kbpプラスミドDNA(100μg/mL)の30%TE溶液100μLと水300μLを直径3.5cmポリスチレンシャーレに入れ、ステンレスリボンに接続してアースを取った。使用したプラスミドDNAの10μgのうちスーパーコイル型は9.6μgであった。 長さ4cmのポリプロピレン製のチューブ(外径0.74mm、内径0.33mm)で−15kV印加し、100μLの水を流量100μL/minでスプレーした。この時にシャーレに流れた電流は4μAであった。これにスプレー後、溶液を回収して電気泳動した。スーパーコイル型の残存量は9.6μgで分解されていなかった。分解率は0%であった。実施例3 実施例2と同様に実験を行った。穴あき電極は使用しなかった。このときにシャーレに流れた電流は19μAであった。その結果、スーパーコイル型の残存量は8.2μgであった。分解率は15%であった。比較例3 実施例3と同様の実験をおこなった。ただし、スプレーに使用するチューブは長さ1.5cmのステンレス製(外径0.35mm、内径0.17mm)を使用した。このときにシャーレに流れた電流は25μAであった。その結果、スーパーコイル型の残存量は4.4μgであった。分解率は54%であった。実施例4遺伝子導入実験実施例1と同じ装置を使用した。 細胞内導入物質は緑色蛍光蛋白遺伝子組み込みプラスミド(4.7kbp)を使用した。細胞はチャイニーズハムスターの卵巣から生検樹立された繊維芽細胞(CHO細胞)を使用した。直径3.5cmのポリスチレン製シャーレにCHO細胞をまき、α−MEM培地+10%FBSの培地で、CO2インキュベーター中37℃で培養したものを使用した。細胞濃度100×104濃度で細胞の培地を抜き、そこにプラスミド濃度100μg/mLを100μL加えた。 チューブ先とシャーレの距離2cmから、100μLの水を流量100μL/minでスプレーした。この時、チューブに−15kV印加した。チューブから水はエレクトロスプレー状態になってシャーレにスプレーされた。スプレー後、シャーレに同じ培地を入れさらに1日間培養した。蛍光顕微鏡観察した結果、図6に示すような蛍光蛋白による蛍光を発生する細胞が見られ、遺伝子が導入されていた。エレクトロスプレー装置の模式図。シャーレをグランド電位にしたエレクトロスプレー装置。バイパス電極を有するエレクトロスプレー装置点滴構造を有するエレクトロスプレー装置実験に使用したエレクトロスプレー装置蛍光顕微鏡写真(NIKON製顕微鏡 TE−2000Sを使用し、光源を高圧水銀ランプに蛍光フィルターNIKON製GFPブロックを使用して対物レンズ10倍で撮影した蛍光蛋白を発現している細胞の写真)符号の説明 1はスプレー液、2は高圧電源、3は高電圧印加部、4は絶縁材料製チューブ、5はシャーレ、6はバイパス電極、7は点滴構造、8はステンレスリボン、9はジャッキ、10はポンプ、11はクリーンブースを示す。 細胞と細胞内導入遺伝子を容器内で接触させた後、細胞内導入遺伝子を含まないスプレー液を容器内の細胞と細胞内導入遺伝子にエレクトロスプレーすることによって、細胞内に細胞内導入遺伝子を導入する方法において、エレクトロスプレー用のノズルとして、スプレー液注入口側に位置する導電体からなる高電圧印加用のチューブ部分と、スプレー液噴射口側に位置する絶縁体からなるスプレー用のチューブ部分とを有するノズルを用いることを特徴とする、エレクトロスプレーによる細胞内導入遺伝子の細胞内導入方法。 エレクトロスプレー用のノズルとして、スプレー液注入口側に位置する導電体からなる高電圧印加用のチューブ部分と、スプレー液噴射口側に位置する絶縁体からなるスプレー用のチューブ部分の噴射口先端部分との最短距離が5mm〜500mmの範囲にあるノズルを用いる、請求項1に記載のエレクトロスプレーによる細胞内導入遺伝子の細胞内導入方法。 容器内の細胞と細胞内導入遺伝子に流れる電流量が50μAを超えないように制御してエレクトロスプレーする、請求項1に記載のエレクトロスプレーによる細胞内導入遺伝子の細胞内導入方法。 スプレー液噴射口側に位置する絶縁体からなるスプレー用のチューブ部分の噴射口先端部分と、容器に入った細胞と細胞内導入遺伝子との間に電流をバイパスさせる電極を設置し、細胞と細胞内導入遺伝子に流れる電流量が50μAを超えないように制御してエレクトロスプレーする、請求項3に記載のエレクトロスプレーによる細胞内導入遺伝子の細胞内導入方法。 エレクトロスプレー用のノズルのスプレー液注入口側とその上流にあるスプレー液送液ラインとの間に、スプレー液を滴下させることによってスプレー液の電気的連絡を絶つ構造物を設け、漏電が起こらないようにしてエレクトロスプレーする、請求項1に記載のエレクトロスプレーによる細胞内導入遺伝子の細胞内導入方法。 請求項1〜5の何れか1項に記載したエレクトロスプレーによる細胞内導入遺伝子の細胞内導入方法に用いる装置。 スプレー液注入口側に位置する導電体からなる高電圧印加用のチューブ部分と、スプレー液噴射口側に位置する絶縁体からなるスプレー用のチューブ部分とを有することを特徴とする、エレクトロスプレー用のノズル。 前記高電圧印加用のチューブ部分と、前記スプレー用のチューブ部分の噴射口先端部分との最短距離が5mm〜500mmの範囲にある、請求項7に記載のエレクトロスプレー用のノズル。 細胞と細胞内導入遺伝子を入れるための容器と、細胞内導入遺伝子を含まないスプレー液を容器内の細胞と細胞内導入遺伝子にエレクトロスプレーするためのノズルと、該ノズルに高電圧を印加するための高圧電源とを少なくとも備え、該ノズルが請求項7又は8に記載のエレクトロスプレー用のノズルであることを特徴とする、細胞内導入遺伝子の細胞内導入装置。 さらに、容器内の細胞と細胞内導入遺伝子に流れる電流量が50μAを超えないように制御する手段を備えてなる、請求項9に記載の装置。 前記電流量が50μAを超えないように制御する手段は、前記スプレー用のチューブ部分の噴射口先端部分と、前記容器との間に設置された電流をバイパスさせる電極からなる、請求項10に記載の装置。 さらに、前記ノズルのスプレー液注入口側とその上流にあるスプレー液送液ラインとの間に、漏電防止手段として、スプレー液を滴下させることによってスプレー液の電気的連絡を絶つ構造物を備えてなる、請求項9〜11の何れか1項に記載の装置。 【課題】細胞と細胞内導入遺伝子を容器内で接触させた後、細胞内導入遺伝子を含まないスプレー液を容器内の細胞と細胞内導入遺伝子にエレクトロスプレーすることによって細胞内に細胞内導入遺伝子を導入する際に、細胞内導入遺伝子をできる限り分解させることなく、高い導入率で、迅速かつ簡便に細胞内に導入できる方法および装置を確立し提供する。【解決手段】エレクトロスプレー用のノズルに、スプレー液注入口側に位置する導電体からなる高電圧印加用のチューブ部分と、スプレー液噴射口側に位置する絶縁体からなるスプレー用のチューブ部分を有するノズルを用いる。これによって、細胞内導入遺伝子の分解原因となる放電現象の発生を防ぎながら、エレクトロスプレーすることができるようになるため、細胞内導入遺伝子の細胞内導入率を飛躍的に向上させ、迅速かつ簡便に細胞内に導入することが可能となる。【選択図】なし


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