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センター長挨拶

ttakagi

 データベースは、ライフサイエンスやバイオ産業の推進に欠かせない研究基盤であると同時に、これまでの研究開発成果の集積体、すなわち、研究の最前線を体現したものでもあると言えます。このように考えてみますと、データベースの構築はライフサイエンス研究の目的そのものであるとも考えることができます。現在、我が国でも数多くの大規模プロジェクトが実施されていますが、これらの目的の一つはデータベース作りにあると言っても過言ではありません。それゆえ、データベースは単なる道具や脇役的な存在に留まりません。データベースは今後の研究の方向性を示したり、研究スタイルに変更をもたらしたり、といった先導的な役割を果たす可能性を秘めたものです。

 ライフサイエンスにおけるデータベースの存在を研究の後を追いかけて行くものであるという受け身的な存在ではなく、それを先導牽引する存在であると捉えますと、どのようなデータベースを持っているかが、その国のライフサイエンスの実力を表しています。しかしながら、残念なことに我が国では、これまでどちらかといえば、データベースは研究の副産物であり、それを作ることは研究者がメインにすることではない、と思われてきました。また、自分で作らなくても外国のものを使えば良い、と思われてきました。

  このような考えの背景には、データベース作りは作業である、それゆえデータベース作りをしても評価されない、等の研究者心理がありました。しかし、データベース作りは決して作業ではありません。どういうデータをどういう方法で収集するか、これらのデータにどのような意味付けをするか、データの品質管理をどうするか、意味付けされたデータをどのような形で計算機上に表現し格納するか、それをどううまく検索・活用し新たな知識や仮説の発見につなげるか、といった高度に知的な研究開発が伴わなければ、決して良いデータベースは作れません。データベース作りがライフサイエンスの研究の目的の一つであるとすると、データベースの研究開発はライフサイエンスの中心的な課題そのものです。

 しかしながら、上に書きましたように、我が国では長い間データベース作りが軽視されてきました。その結果、ここにきて、そのつけを払わないといけないような状況になってきました。大げさに言えば、ライフサイエンスが大量情報時代、最近の流行語で言えばビッグデータ時代に突入したいま、貧弱なデータベースやデータベースを活用できる人材の不足が、我が国におけるライフサイエンスやバイオ産業の発展を滞らせるまでになってきました。一部の例外を除いて、我が国には世界に誇れるデータベースがありません。このことは繰り返しになりますが、これはデータベースだけの問題ではなく、我が国のライフサイエンスの実力の問題であり、研究そのものの競争力に直結します。

 そこで、このような問題を何とか解消すべく、平成18年度より文部科学省の「ライフサイエンス分野の統合データベース事業」が始まりました。このプロジェクトの約4年半にわたる活動により、まだまだ道半ばではありますが、我が国におけるデータベース環境が大幅に改善されました。また、データベースやそれに従事する人々に対する理解も深まりました。この「ライフサイエンス分野の統合データベース事業」は平成23年3月末に終了しましたが、(当然のことながら、いわゆる研究プロジェクトとは異なり、データベース整備は継続的に進めることが何よりも肝要ですので)、これまでの成果を継続発展させることを目的として、平成23年4月に科学技術振興機構(JST)に新たに「バイオサイエンスデータベースセンター」(NBDC: National Bioscience Database Center)が設置されることになりました。

 データベースの整備、統合化には、データの共有や公開のためのルールやガイドラインの設定、パーソナルゲノム等の機微情報を扱うためのガイドラインの設定や管理システムの開発、高度な検索や知識発見を支援するための情報技術やオントロジーの開発、個別研究分野をまたぎ、かつ、標準化され、統一的なインタフェースで誰でも簡便に利用できる統合データベースの構築、データベース構築や統合化を行う人材の育成、それらの人材やデータベース作りを評価する研究文化の醸成、等さまざまな活動が必要不可欠ですが、NBDCでは、設立以来3年間、このような活動を積極的に進めて、あるいは、支援して参りました。

 平成26年4月より、NBDCは助走の段階、基礎固めの段階を終え、第2段階に入ります。第2段階では、これまでの戦略立案、ポータルサイトの運営、統合化のための基盤技術開発、幅広い分野の統合化の推進、等の活動をさらに押し進めるのはもちろんのこと、次世代シーケンサー等から産出されるデータの急激な膨張への対応、ゲノムコホート研究のような大規模プロジェクトから出てくるパーソナルゲノム、代謝物等の生化学情報、MRI やX 線CT 等による画像データ、生活習慣情報、環境情報等の多様なデータへの対応、JSTでこれまで行われてきた文献事業等との有機的連携、等にも積極的に取り組んで参ります。また、これらのデータベースを構築したり活用したりする人材の育成支援にも取り組む所存です。

 このようなさまざまな活動を通して、これまでより、さらに高いレベルの統合化の実現とデータベースへのアクセスや利便性の格段の向上を目指したいと考えております。領域や分野を超え、より汎用性が高く、誰もが恩恵を受けるような、そして利用に制約のない、真に公共財と言えるデータベースの実現に向け努力したいと考えております。これらが実現した暁には、我が国を代表するとともに、世界に誇れる統合データベースが生まれるものと思いますし、NBDCは名実共に我が国のナショナルセンターとして認められるようになるものと思います。

 冒頭に申し上げたように、データベースはライフサイエンスのインフラであり、かつ、フロンティアです。また、それの整備や統合化は高度に知的な活動であり、ライフサイエンス研究そのものです。できるだけ多くの方に使ってもらえるような、すばらしいデータベースを開発することには、多くの方に読まれ、参照される研究論文を書くのと同じ喜びがあると思います。NBDCは、このような精神を共有する方々をできるだけ増やす努力をするとともに、それらの方々と一緒になって、我が国のライフサイエンスを先導牽引して行く存在になれるように精進して参ります。どうかご理解ご支援ご指導のほどよろしくお願いします。

バイオサイエンスデータベースセンター長
高木 利久